2018年11月30日

平成で4人目の小結優勝

仕事で忙しかったが,やっと九州場所の感想に手を付けることができる。優勝争いは読めないというよりか読む気も起きないほど既存の優勝経験者が次々と脱落していく展開であったが,混戦とならず,早々に二人に絞られた。こうなったら大関の意地を見たいところであったが,記録づくめの小結の優勝という結果もそれはそれで面白かった。

貴景勝の優勝について。22歳3ヶ月での優勝は年6場所制以降で史上6位……とNHKで言われていたが,軽く調べてみた感じで上に貴花田・大鵬・北の湖・白鵬・柏戸・朝青龍・若花田がいるので,これで行くと8位になる。何か私の勘違いがあれば指摘してほしい。初土俵から所要26場所は4位タイ(上に貴花田・朝青龍・照ノ富士がいて,曙が同じ26場所)。平成での小結での優勝は貴花田・若花田・魁皇とあわせて4人だけ。同期間の平幕優勝は9人(うち一人は今年の初場所の栃ノ心)で,これは比較が難しいとしても,同期間の関脇優勝は6人(曙・千代大海・武双山・出島・照ノ富士・御嶽海)とおり,序盤に横綱・大関と総当たりする小結での優勝の難しさを感じさせる。小結・関脇での優勝者10人は,御嶽海以外全員,その場所の優勝を含む形で大関に昇進している。御嶽海で法則が破れてしまった形であるが,貴景勝には御嶽海の轍を踏まずにさくっと進んでほしいものだ。

貴景勝はいろいろあって貴乃花部屋から千賀ノ浦部屋に移って最初の場所で,胸中複雑であったことは容易に想像できるが,見事に取りきった。これを発奮材料にできるのはメンタルが強い(案外,単純に心機一転できたのかもしれないが)。相撲ぶりは先場所と変わっていない,というよりは先場所の相撲が目覚ましく良く,今場所躍進する予兆はあったと言える。先場所の自分の評を引用する。「貴景勝は好調上位陣に混ざってこっそり9勝をあげており,実は高評価材料しかない。押し切るか引くかの判断が良く,引いて呼び込んだ負けが少ない。組まされて負けることも少なく,負けるときは概ね相手の引きに落ちるパターンである。前半上位総当たりは当然負けが込んだが,多くの力士がそうであるようにそこで不調にならず,後半で取り戻したメンタルも良い。これで関脇に上がれないのは不運である。」

さて,来場所は当然大関取りになる……はずなのだが,阿武松審判長は「初場所が明確な大関とりではない」という謎コメントであった。横綱が不在であったからというのは一理あるものの,優勝自体にそれを相殺するだけの価値があろう。確かに今年の初場所は小結で負け越し,その後ケガがあって休場という不安定さはあるが,来場所大関取りにならないほどの理由とは思えない。御嶽海が失敗したことについては理由にするだけおかしかろう。来場所11勝で33勝で昇進させなければ,32勝で上がった稀勢の里・豪栄道や,33勝ではあれども1場所目が平幕だった照ノ富士との差を指摘され,余計な勘ぐりを絶対に引き起こすことになる。一方,高安の綱取りは「来場所の成績次第」と言われているが,むしろこちらは可能性が無いだろう。確かに年間成績で言えば12勝が3回,残りも9勝・11勝・全休と安定感は高いが,13勝をしたことが一度もない。この点で13勝ならばコンスタントにあった稀勢の里と異なる。今場所が13勝で優勝同点だったなら起点になったかもしれないが,12勝優勝次点では大きな差がある。仮に初場所全勝優勝であっても昇進は見送るべきだろう。


個別評。稀勢の里は初日でボタンを掛け違えて,そのまま治らず相撲が崩壊していった様子。取れそうで取れないというように見えるので,不本意な休場だろう。不運だとは思うが,こうなった以上は来場所10勝以上できなかったら引退で仕方がないと思う。というよりも来場所以降は毎場所引退がかかった場所が永続すると思う。豪栄道は変化のような立ち合いしやがってと思っていたが,七日目の相撲で右肩負傷でままならなかったそうで,むしろそこから勝ち越しの決まる十一日目までよくごまかして取っていた。であれば褒めもしないが批判もしないかな。高安は変なところで稀勢の里のメンタルを継がなくていいから。それしかない。栃ノ心は膝のケガが慢性化していて,大関取り前の強さしかない。最初から短命大関になるだろうとは思っていたが,あの右四つが見られなくなるのは寂しいので何とか延命してほしいところ。

関脇・小結。御嶽海は失速甚だしく,本格的にツラ相撲で気分屋なのが致命的な弱点になってきた感じがする。貴景勝は前述の通り。逸ノ城と魁聖はノーコメントで。

前頭上位。妙義龍は久々に彼の前傾姿勢でぐいぐい押していく・寄っていく取り口が上位に通用している姿を見た。8勝ではあれ勝ち越しお見事。錦木も8勝ではあるが,取り口は見違えるように良くなった。ここまで印象が薄く(ブログ上で検索したところ最後に言及したのは2016年9月であった),上位総当たり初挑戦で,その上位陣がスカスカとはいえもっと負けが込んでもおかしくなかったところ,突然目覚ましい極め技・小手投げをうちだし,上位に通用してしまった。もろ差しで入ろうとした豪栄道・栃煌山・妙義龍を全て小手投げで投げ捨てている。今場所見ていて一番面白かったのは錦木かもしれない。来場所,これが続けばさらに面白く,今後錦木にもろ差しは危険という評価になるかもしれない。

前頭中盤・下位。松鳳山は10勝で,本人の相撲内容もさることながら,熱戦が多く面白かった。それはそれとして立ち合い不成立も多すぎるので何とかしてほしい。琴奨菊は先場所負け越しで心配だったが,今場所は復調10勝で安心した。大関から陥落後では一番がぶれていた場所だったのでは。碧山は突きの威力が強く11勝。内容も良く,敢闘賞でもよかったと思うのだが,漏れてしまった。一方,阿武咲は敢闘賞。確かに強い突き押し相撲であったが,碧山との差異がわからない。



最後に。里山が引退した。立ち合いの超低空飛行から何が何でも左下手をとり,これを命綱に相手を引きずり倒すかのような下手投げを主力武器として,非常に独特の相撲を取った。出世は非常に早く2007年に新入幕となっているが,2場所だけ務めて十両に下がり,その後は十両・幕下上位での相撲が長かった。2014年に再入幕したが,結局幕内で取ったのは合計6場所のみである。にもかかわらず基本的に幕内しか見ていない私にとっても印象深い理由は2つ。1つは前述の独特な取り口があまりにも目に焼き付いたことと,もう1つは身近に応援している人がいたからである(その方,やはり引退会見当日は気が動転していたそうで)。取り口だけで言えば不世出の力士と言ってよいだろう。お疲れ様でした。


今場所はあまり迷わず。矢後は新入幕確実。照強も際どいがおそらく新入幕になるだろう。十両・幕下の入れ替えは2人というのが非常に厳しく,幕下上位で番付運に泣く人が多くなりそう。

2018年九州場所

この記事へのコメント
上位の休場力士たちで混戦が約束されたような場所でした。稀勢の里は、先場所の初日が勢で取りやすかったのでしょうが、今場所は4日間どれも相手が悪かった。とは言え、横綱なのでそうも言ってられないでしょう。

貴景勝は、高安戦に敗れて後を引きずるかと思いましたが、千秋楽で頑張りました。御嶽海は、優勝後に冴えなくなりましたが、今場所はなぜか貴景勝と高安に土をつけていて、優勝争いをかき回す役を見事に演じてくれました。

錦木は、確かに急に強くなりました。琴奨菊対松鳳山の取り組みは、貴景勝対高安を除けば、今場所一番の盛り上がりだったかもしれません。北勝富士は、横綱大関を倒したのに、勝ち越せなくて残念でした。

遠藤は、休んだほうがいいように見えた先場所後半と見違えるように、相撲が取れていました。勝ち越せてよかった。隆の勝は幕内2場所目で大敗、十両に陥落で跳ね返されてしまいました。

里山の最後の一番は記憶に残る取り組みでした。琴鎌谷は負け越しで残念。宇良は体型を変えて優勝。豊昇龍や納屋、舛乃山は勝ち越し。照ノ富士が来場所から復帰だそうで、怪我や病気を乗り越えられると良いのですが・・・
Posted by EN at 2018年11月30日 13:39
今場所もお疲れ様でした。
稀勢の里は言われてみると,四日間の相手が悪かったとは言えそうです。おっしゃる通り,それで左右されていては横綱は務まらないのですが。

御嶽海はツラ相撲なのに,例外的に他人の決定的な一番に対してはメンタル強いんですよね。その意味では稀勢の里に近いのかも……w

錦木は何だったんでしょうね。北の富士にもAbemaの解説にもよくわかってなさそうでした。まあ強くなるに越したことはない。

里山の最後の一番は鮮烈でしたね。あれで勝ち越して引退だなんてかっこよすぎですよ。そういえば宇良は順当に優勝してましたね。照ノ富士は本当に大関まで戻ってきてほしいです。
Posted by DG-Law at 2018年12月01日 01:52