2018年12月22日
バジパイ元首相の訃報記事に関連していろいろ
バジパイ元首相が死去、93歳 インドの核保有を主導(CNN)
→ 現在のインドの政権与党であるインド人民党の創設者にして,1998年核実験の実行者。今のインドに多大な影響を残したのだが,不思議と知名度が低く,高校世界史でも未登場である。私自身,それほど大きな印象が無い。これは「インド人民党」の側に大きな意味があって,誰が党首であってもそれほど変わりはないという歴史的評価なのかもしれない。
インド人民党自体については,国民会議派の腐敗を掣肘したという点で歴史的意義があるものの,それがなぜああしたヒンドゥー至上主義という形で現れてしまったのかは興味深い。独立運動においてある程度大同団結を訴えざるを得なかった国民会議派に比して,堂々と多数派の支持を訴えやすかったという構図はあろうか。
ところで,考えてみると,独立運動の指導者層がいた政治組織が,独立後に(独裁期間を経つつも)現在の議会制民主主義の有力政党に軟着陸した事例というのが世界史上意外と少なく,自分でちょっと驚いた。台湾の国民党やメキシコの制度的革命党,本邦の自民党は近いところがあるが「独立」ではないし,ベトナム共産党やシンガポールの人民行動党のように一党独裁になった事例は論外。インドネシア国民党のようにスハルト独裁時代に埋もれてしまったところが多く,ビルマのタキン党やパキスタンのムスリム連盟,エジプトのワフド党もこのパターン……と消していくとインド以外でぱっと思いついたのはマレーシア,トルコ,イスラエル,ボツワナ,南ア(アフリカ民族会議)くらいであった。アフリカは正直に言って全く詳しくないので,探せばまだあるかもしれない。野党への転落経験は健全な民主主義として当然としても,泡沫政党化や消滅というのはあまりにも寂しい。
ところで(2つめ),記事中の「インドの核保有に道を開いた指導者」には違和感がある。確かにインドが正式に核保有を認めたのはこのタイミングだが,実際には1974年に事実上の核保有を達成している。これを1998年が正式と見なしてしまうのは著しくインド政府に寄った見解となり,よろしくない。気になって他の日本語メディアの訃報記事を読んでみたが,朝日新聞と産経新聞は「24年ぶりの核実験」,日経新聞とAFPは「核保有宣言」とちゃんと持って回った言い回しになっており,こんならしからぬチョンボをしているのは概ねCNNだけであった。最近英語力に全く自信がないので英語記事を比較するのは他人に任せたいところだが,とりあえずBBCはきっちりと24年ぶりと触れていた。CNNの英語版の記事もリンクしておく。どうもこちらでもストレートな物言いになっているような気が。自明だから削ったようにも……うーん。
ちなみに,世界史の入試でもこのインドの核保有年による悪問があり,『絶対に解けない受験世界史2』のp.185(2016年の明治大)に収録されているので気になる人は是非(宣伝)。
→ 現在のインドの政権与党であるインド人民党の創設者にして,1998年核実験の実行者。今のインドに多大な影響を残したのだが,不思議と知名度が低く,高校世界史でも未登場である。私自身,それほど大きな印象が無い。これは「インド人民党」の側に大きな意味があって,誰が党首であってもそれほど変わりはないという歴史的評価なのかもしれない。
インド人民党自体については,国民会議派の腐敗を掣肘したという点で歴史的意義があるものの,それがなぜああしたヒンドゥー至上主義という形で現れてしまったのかは興味深い。独立運動においてある程度大同団結を訴えざるを得なかった国民会議派に比して,堂々と多数派の支持を訴えやすかったという構図はあろうか。
ところで,考えてみると,独立運動の指導者層がいた政治組織が,独立後に(独裁期間を経つつも)現在の議会制民主主義の有力政党に軟着陸した事例というのが世界史上意外と少なく,自分でちょっと驚いた。台湾の国民党やメキシコの制度的革命党,本邦の自民党は近いところがあるが「独立」ではないし,ベトナム共産党やシンガポールの人民行動党のように一党独裁になった事例は論外。インドネシア国民党のようにスハルト独裁時代に埋もれてしまったところが多く,ビルマのタキン党やパキスタンのムスリム連盟,エジプトのワフド党もこのパターン……と消していくとインド以外でぱっと思いついたのはマレーシア,トルコ,イスラエル,ボツワナ,南ア(アフリカ民族会議)くらいであった。アフリカは正直に言って全く詳しくないので,探せばまだあるかもしれない。野党への転落経験は健全な民主主義として当然としても,泡沫政党化や消滅というのはあまりにも寂しい。
ところで(2つめ),記事中の「インドの核保有に道を開いた指導者」には違和感がある。確かにインドが正式に核保有を認めたのはこのタイミングだが,実際には1974年に事実上の核保有を達成している。これを1998年が正式と見なしてしまうのは著しくインド政府に寄った見解となり,よろしくない。気になって他の日本語メディアの訃報記事を読んでみたが,朝日新聞と産経新聞は「24年ぶりの核実験」,日経新聞とAFPは「核保有宣言」とちゃんと持って回った言い回しになっており,こんならしからぬチョンボをしているのは概ねCNNだけであった。最近英語力に全く自信がないので英語記事を比較するのは他人に任せたいところだが,とりあえずBBCはきっちりと24年ぶりと触れていた。CNNの英語版の記事もリンクしておく。どうもこちらでもストレートな物言いになっているような気が。自明だから削ったようにも……うーん。
ちなみに,世界史の入試でもこのインドの核保有年による悪問があり,『絶対に解けない受験世界史2』のp.185(2016年の明治大)に収録されているので気になる人は是非(宣伝)。
Posted by dg_law at 02:41│Comments(0)