2019年03月25日

「平成最後の」良い相撲

「平成最後の」という聞き飽きつつあるフレーズではあるが,さすがに感慨深い場所であった。終盤まで栃ノ心を除く上位陣が好調で,だからこそ貴景勝の大関取りも緊張感のあるものとなったし,優勝争いも千秋楽結びの一番まで引っ張られた。最後まで見応えのある場所であった。文句を言うとすると立ち合い不成立がかなり多かったことくらいであろう。

優勝した白鵬はかなり気負っていたところが見られ,平成最後の場所だから優勝したかったのだろうと散々周囲から言われている通りだろう。内容も良く,前に優勝した昨年の九月場所の時に「2016年以降の直近17場所では最も強かったと思う」と書いているが,今場所もやや落ちるくらいの出来で,かなり完成度の高い白鵬の相撲が見られた。何番か張り差しの相撲はあったが汚いというほどのものではなく,また何番か危ない相撲があったが,先場所のように崩れなかったのは見事な修正と言える。それだけに千秋楽で右腕をかなり傷めたらしいのが気がかりである。彼のことなので,「新元号最初の場所」もかなり気負うと思われるので……

貴景勝の大関取りは誰からも文句の出ようもない形で決着したが,それにしても千秋楽の一番がカド番・7−7で来ていた栃ノ心との入れ替わり戦になろうとは。相撲の神様も残酷であるが,当の栃ノ心が負けた後「自分が弱かっただけ」と言っていたのが救われるところか。どこかで当たるのは確実であったし,それが千秋楽であっただけである。変に貴景勝がすでに10勝していて栃ノ心は7−7という状況で当たるよりも,今回のような入れ替わり戦になっただけ栃ノ心としては踏ん切りがつけやすかったかもしれない。なお,現行の大関陥落の制度になった1969年以降,このような入れ替え戦は史上二度目で,しかも前回の2006年の魁皇・白鵬戦は,それ自体は魁皇が勝ったものの,場所が終わってみると白鵬も13勝で昇進したので,入れ替えとはならなかった。今回のような純粋な,不可避の入れ替え戦は史上初ということになる。平成の最後に,歴史的な一番が生まれた。


個別評。白鵬は前述の通り。鶴竜は千秋楽こそ意地の相撲を見せてもらったが,基本的に先場所や昨年の九月場所と変わらず。出れば10勝はするが,終盤までスタミナが続かない。ちょうど白鵬も同じような感じではあるが,白鵬は全勝するので,どうしたって見劣りする。来場所優勝すればちょうど1年ぶりの優勝になるが,どうなるか。豪栄道は珍しくも大阪の声援がちゃんとパワーになっていた様子で,動きが軽快で技の切れがある,いい時の豪栄道だった。白鵬があの好調ぶりでなければ,千秋楽に逸ノ城と決戦という展開になっていたかもしれない。負けたのがその逸ノ城と白鵬であるから,六日目に大栄翔戦を落としたのが痛い。高安も好調ではあったのだが,終盤に逸ノ城・白鵬・豪栄道と3連敗しているようでは,地力が足りないと言うしかない。

栃ノ心は先場所よりはましな状態で,ケガを押して出ている分,むしろ気力はみなぎっていたが,力が及ばなかった。本人の弁の通りである。九日目までは6−3,十日目以降で1−5であるように,上位陣には通用しなかったのが明白であった。むしろ中日によく逸ノ城戦に勝っており,結果的にこの黒星が逸ノ城の初優勝を阻んだのであるから,一定の活躍は認めるべきであろう。右膝に負担がかかるような形にならなければ,引く展開にならなければ序盤で取りこぼすことはないのだから,来場所10勝の復帰を期待したい。

関脇。貴景勝は今場所も押しに力があり,相手が四つ相撲の力士でも容易に捕まることはなく,押し引きの判断も概ね妥当で,10勝は地力通りの成績を示したと言える。であるからこそ,動きが機敏で押し引き以外の引き出しが豊富な相手,白鵬や豪栄道には今後も苦戦しそうで,取ったはいいが大関としての道は険しい。とはいえ大関昇進22歳7ヶ月は史上9位の年少記録,所要28場所も史上6位と非常に早い。苦手克服(あるいはそれを補うパワーの強化)に期待したい。玉鷲は旭天鵬の優勝の翌場所を思い起こすに,まあ。御嶽海は惜しい負け越しで,さすがにケガをかばいながら短期決戦は可能でも15日間は戦えなかった。北勝富士も惜しい負け越しだが,こちらは上位が概ね全員好調だと気鋭の若者もこうなるという様子。

前頭上位。魁聖は下りエレベーター。遠藤はいつもの遠藤で,前頭上位で勝ち越すにはもう一つ何かが足りない。何かは何でもいいのだが,すでに極まっているテクニック以外のパワーなり出足なり。大栄翔は序盤突き押しが強く,覚醒の場所かと思われたが,終盤失速してスタミナ不足が露呈。上位戦が終わってこれからという時にパワーが出なかった。錦木もすっかりしぼんでしまって残念である。千秋楽の御嶽海戦の極め出しにだけ,覚醒時の残滓が見えた。阿武咲はここに来て貴景勝・北勝富士と比べた時にパワー不足が目立ってきていて,差をつけられる前に押す力を追加したいところ。最後に14勝した逸ノ城。今場所の逸ノ城はやけにしぶとく,普段ならケガを危惧してすぐに諦めるところ,最後まで粘りに粘っていた。上位戦が3番しか組まれず,特に横綱戦がなかったことから気楽にパワーが発揮しやすかったか。そういうわけで,私は今場所の成績をもって逸ノ城覚醒と見なすには尚早と考えており,ちゃんと横綱・三役総当たりの地位で10勝以上できるのかどうか見たほうがよいと思う。

前頭中盤。阿炎は動きが派手で見ていて面白いのだが,逆に言えば動きに無駄が多いように見え,もっとスマートに動けたらよいのにとは思う。碧山は上りエレベーターなのだが,12勝は上出来。琴奨菊はちょっとした復活。最近はこの地位でも成績が不安定であったので。勢は絶対に休場すべきであった。13敗という成績もさることながら,負けた後になかなか立ち上がれないのを繰り返すのは良くない。ケガを押して戦う姿が美しいといっても限度がある。矢後は組んでも負ける展開が目立ち,根本的に鍛え直しであろう。

前頭下位。竜電は三賞が無いのが驚きの良い出来で,私は正代や隠岐の海を見て「巨体がもろ差しにこだわると窮屈になるからやめたほうが良い」と評してきたが,竜電のような形なら巨体でもろ差しも有効になるだろうと思う。左四つかもろ差しで相手を捕えて頭をつけた状態で崩し,万全になってから胸をあわせて一気に寄り切る相撲は非常に完成度が高い。まわしが取れないとどうにもならず,鈍重ではあるので動きの良い相手には分が悪いものの,これはこれで力士として完成していると言っていい。事実,これだけ良い相撲であるのにこの地位で5敗しているのはそういう勝てそうにない相手が含まれているからだが,勝てないなりに上位戦で見たい力士である。2018年九月の上位初挑戦では前頭3枚目で6−9で終わっているが,次はどうなるか。

明生も立ち合いが低く非常に強いが,当たれなかったり捕まったら負けるという非常に明快な相撲で,9勝で終わった割には記憶に残った。謎に組みに行くことがあったり,離れて取る展開でも長引くと負けたりしているのが課題か。嘉風は上りエレベーター。37歳だがまだまだ動けそう。新入幕の友風はいつの間にか9勝していた。印象が無くて書くことがないので,来場所注視したい。逆に照強は塩まきが見たいので残ってほしかったが6勝に終わった。低く潜って押していくが,同じタイプなら経験の差で石浦の方が型が完成している。まあその石浦も6勝であったが。


十両で大勝した力士が少ない一方,幕尻で負け越した力士が多かったため,幕尻付近が大渋滞になった。結果的に幕尻で負け越したものの十両には落ちなかった力士が発生していて,かなり番付運が良い。それでも十両に下がるのは豊ノ島・勢・豊山,全休した千代の国。十両・幕下の交代は,下がるのが大成道・貴ノ富士・若元春として,上がってくるのは彩・青狼・美ノ海でほぼ確実だろう。いよいよ豊昇龍が十両射程圏内に入ってきた。

2019年春場所

この記事へのコメント
休場する力士の少ない場所で怪我から復帰した白鵬が全勝優勝。危ない取り組みもいくつかありましたが、対戦相手が仕留めきれませんでした。勢は1勝できた序盤で休んだほうが良かったのでしょうが、地元の大阪に義理立てしたのか、15日出てしましました。

御嶽海が足踏みしている間に、貴景勝が二桁白星で大関昇進。阿武咲や北勝富士もいずれは続くのかもしれませんが、まだ上位陣には五分になれない様子。はたき込みや突き落としで勝ちまくった逸ノ城、白鵬戦が見たかったのですが、割りは崩されずに残念でした。

嘉風は、引退した豪風に続いてしまうかと思われましたが、今場所は好調。大栄翔も負け越しはしたものの、上位陣を相手に健闘して好印象。豊山は、いつかの朝乃山との熱戦が記憶に新しいのですが、今場所は冴えませんでした。

十両では志摩の海が危なげなく連続優勝で幕内昇進。炎鵬は勝ち越したものの、幕内昇進は見送られたようです。幕下では豊昇龍や納谷が勝ち越して、怪我をしている宇良は手術で半年くらい休むとか。高安は巡業を休むそうで、白鵬の右腕も心配ですし、千代の国も怪我を引きずらないと良いのですが。照ノ富士は万全ではないものの、序二段優勝決定戦にまでは進出して、今後に期待。照ノ富士にだけ敗れて6勝だった天風も早く上がってきてほしいものです。
Posted by EN at 2019年03月27日 14:56
勢は地元とか考えている場合ではなかったと思うんですよね……状態が悪すぎました。

御嶽海はケガもありますが,成績が不安定なんですよね。突き押しにありがちな話ではあるんですが,安定させた貴景勝は偉いですね。北勝富士は上位でがんばってますが,阿武咲はまだまだな感じがします。
逸ノ城の割が崩されなかったのは仕方がないですね。不調の横綱・大関がいなかっったので,かえって崩す踏ん切りがつかなかったのではないかと思います。

本文にも書いたんですが,大栄翔は勝ち越すかと思ったんですけどね。終盤失速しましたね。

炎鵬は幕内昇進を見送られたんですね。そうすると徳勝龍も危ないはずなんですが……誰を残すんですかね。豊ノ島ですかね。

照ノ富士と天風は気にして成績を追ってました。この二人を序二段で対戦させちゃうのは,おもしろかったんですけど,天風の復帰が遅れるだけという気もして,ちょっと思うところがありましたね。
Posted by DG-Law at 2019年03月29日 12:22