2019年03月27日
エロゲレビューまとめて(『終わる世界とバースデイ』他)
2年半ぶりに。
扱っている作品は『EXTRAVAGANZA 蟲狂編』,『終わる世界とバースデイ』,『月に寄りそう乙女の作法2.1&2.2』,『美少女万華鏡3』。致命的なネタバレはしていないはずだが,念のため注意。
扱っている作品は『EXTRAVAGANZA 蟲狂編』,『終わる世界とバースデイ』,『月に寄りそう乙女の作法2.1&2.2』,『美少女万華鏡3』。致命的なネタバレはしていないはずだが,念のため注意。
・『終わる世界とバースデイ』
世界が必ず2012年9月29日に終わってしまうという終末物……ではあるのだが,実際のところ終末を迎えるSF的なギミックはストーリーの根幹にとってさして重要ではなく,むしろ個別ルートの世界の終わり方がそれぞれ異なるというのがトゥルーエンドへの重要なヒントになっている。個別ルートの出来は可もなく不可もなく。トゥルーエンドの出来もそこまで良いというものでもないが,エンディング手前の約3分間に本作のすべてが詰まっていて,そこまでの約15時間は完全にそのためにある。エンディング曲がエロゲソング史に残る名曲で,これを完璧に活かし切るエンディングであった。プレイする気が全くない人はこれだけでも聞いていけ。
曲が先にあってゲームを作ったわけでもないだろうから,かなりの博打だったと思うのだが,本作はその賭けに勝ったと言える。そう聞くと扱いが難しい作品と思われるかもしれないが,私はそれで満足できたし,世評を見ると概ね好評であるようだ。今からプレイする人はほとんどいないと思うが,念のためにアドバイスをしておくと,ゲーム開始直後に設定する主人公の誕生日は,自分のリアルな誕生日に設定するのを強く勧める。ところで,2012年発売の作品にしてはSNSの使い方がかなり巧みで,先駆的な作品として評価されてよいと思うのだが,この方面では話題になった様子が無い。あれ,フラグ管理がめちゃくちゃ大変だったと思うのだが,特に破綻が見られない。
・『EXTRAVAGANZA 蟲狂編』
ランスシリーズ完結のかたわらで蟲使いシリーズも終わっていたのであった。母性に種族の垣根は無いことを主張した蟲愛本編,それでも越えられない壁があるとして親子愛の断絶を描いた『無限煉姦』という流れで見ると,本作は遅れてきた家族愛という帰着点だったように思う。愛情を置いておかざるをえなかった親子(レンと綾佳)に,それをつなぐ獣魔蟲と神武美弥香という構図で,蟲という陵辱の主体を用いて親子愛を語るという無茶をやった本シリーズは最後に家族愛へと帰着した。そこに深い愛があれば,本人たちが望めば,出自も種族もなく家族としてまとまることができるのだ。なんとも見事な決着ではないか。温かみのあるテーマ設定に奢れることなく,手抜かりなくありとあらゆる陵辱劇と悲惨極まるバッドエンドを盛り込みつつも,レンと美弥香と獣魔蟲が和解して新たな家族を築く本作は,見事に傑作のまま,蟲愛シリーズの有終の美を飾った。あんなにもひどいシーンだらけだったのに,終わってみると晴れがましいのは,きっとそのせい。
・『美少女万華鏡3』
基本的にロープライスの抜きゲーなのに妙にシナリオが凝ってる美少女万華鏡シリーズの3作目。今回もめちゃくちゃエロかったという当たり前すぎる話は横に置いておくとして,短編傑作SFであった。主人公だけ22世紀的近未来的な環境で,アンドロイドの美少女にかしずかれて暮らすマッドサイエンティスト。彼の暮らす塔を一歩出ると見渡す限りの荒野,最寄りの村の科学技術水準はいいとこ18世紀後半か19世紀の初頭の西欧といったところで,科学技術自体は忌避されていないにせよアンドロイドは忌避されている……という設定からしていかにも何か起きるストーリーだが,決して安直には終わらず,トゥルーエンドのルートではそれなりに練った設定が開陳される。これが長編作品でシナリオが主体ならもう少し捻った設定やオチでも良かったのではと思ってしまうところだが,本作はそうではないので許されるだろう。むしろエロ→シナリオ本編→エロ→シナリオ本編がテンポよく交代し,シナリオに飽きないうちにネタばらしとエンディングが来るので,プレイ時間の密度が極めて濃く,金銭だけでなく時間の面でもパフォーマンスが高い。例によって,3000円のプレイ時間6〜7時間によくもこれだけのものを“詰め込んだ”なと。「商品」としての完成度が高いとも。本シリーズの4作目までで1作選べと言われたら,これを推す。
・『月に寄りそう乙女の作法2.1 E.S.PAL』
エスト編とパル子編のアフターと,衣遠の過去編の3編。エストとパル子に思い入れがなければ別に……という。批評空間のレビューで散々「ゼロは面白かったよね。けど……」と言われている通りで,パル子はともかくエストさんメインヒロインやぞ。『つり乙2』本編のエストシナリオ自体はおもしろかっただけに,どうして扱いがこんなに軽くなったのか。結局のところ,ルナと遊星(朝日)が徹底的に主従・分業を突き詰めて完璧なカップルとなったのに対し,エストと才華(朝陽)はライバル・協業の関係を突き詰めさせようという対比だったと思うのだが,それは「月に寄りそう乙女」なのかという壁に直面して,それを乗り越えられなかった。結果として才華くんの物語に振り切った『つり乙2』本編は上手く行ったが,アフターまで息が続かなかったのではないか。ルナ様と衣遠の圧倒的なカリスマが本シリーズの核だったというのが再確認されたのが,本作の凡作さをよく示しているのかもしれない。
・『月に寄りそう乙女の作法2.2 A.L.SA』
朔莉編とルミネ編のアフターと,追加シナリオとしてのアトレ編の3編。朔莉編ははっきり言ってつまらない。ルミネ編は,アートと才能の関係をテーマとした本作では珍しくルミネさんに「趣味としてのピアノ」を選ばせた点で,けっこう面白かった。アフター4つの中から1つ選べと言われたら迷いなくこれを推す。アフターであることに意味があった唯一のシナリオであった。
さて,問題のアトレ編。近親相姦を真面目に扱うとこうなるという,とんでもなく重いシナリオを長編シリーズの最後の最後にぶっこんでくるという冒険。面白かったかどうかだけで言うとまずまず面白かったのだけれども,こと大蔵家ではこんなに重い事態になるか……? という疑問が拭えず。総裁殿が総裁殿で,正史ではないところでは彼女が血が半分だけつながった兄と結ばれるわけで,そこでの衣遠さんも「後ろめたいことがある方がよりつながりが濃くなる」と言って認めてしまっていたわけで。遊星くんは落ち込みそうだけど,ルナ様は「まあそういうこともある」と動揺しながら飲み込みそう(だからおまけ編でタイムスリップしたアトレがルナ様にああいうことを言われるのも違和感があった)。さらに言えば,重みの方向性が違うとはいえアンソニーJrや山県大瑛,メリルさんがいる大蔵家では正直今更では。それらの意味で,面白かったけど手放しでは褒められない,冒険としては不用意だったかなというのが私の出した結論になる。
『つり乙』シリーズもこれで終わるかと思うと感慨深い。本作が有終の美を飾ったかと言われると首肯しかねるが,シリーズ全体の評価を落とすほどのものでもなく,「何ならやらなくてもいい」くらいの位置か。
以下はメモとして。
・クリア済,レビュー未完成:『美少女万華鏡4』,『千の刃濤、桃花染の皇姫』,『すみれ』,『ねこぱら』vol.3。
・現在プレイ中または一旦停止中:『うたわれるもの 偽りの仮面』,『サクラノ詩』,『消えた世界と月と少女』
・やる予定はある:『凍京ネクロ』,『うたわれるもの 二人の白皇』,『アメイジング・グレイス』(西洋美術ものと聞いて),『Summer pocket』(評判良いので),『ルリのかさね』,『ラムネ2』
・発売したらすぐに手を付ける予定:『MUSICA!』
世界が必ず2012年9月29日に終わってしまうという終末物……ではあるのだが,実際のところ終末を迎えるSF的なギミックはストーリーの根幹にとってさして重要ではなく,むしろ個別ルートの世界の終わり方がそれぞれ異なるというのがトゥルーエンドへの重要なヒントになっている。個別ルートの出来は可もなく不可もなく。トゥルーエンドの出来もそこまで良いというものでもないが,エンディング手前の約3分間に本作のすべてが詰まっていて,そこまでの約15時間は完全にそのためにある。エンディング曲がエロゲソング史に残る名曲で,これを完璧に活かし切るエンディングであった。プレイする気が全くない人はこれだけでも聞いていけ。
曲が先にあってゲームを作ったわけでもないだろうから,かなりの博打だったと思うのだが,本作はその賭けに勝ったと言える。そう聞くと扱いが難しい作品と思われるかもしれないが,私はそれで満足できたし,世評を見ると概ね好評であるようだ。今からプレイする人はほとんどいないと思うが,念のためにアドバイスをしておくと,ゲーム開始直後に設定する主人公の誕生日は,自分のリアルな誕生日に設定するのを強く勧める。ところで,2012年発売の作品にしてはSNSの使い方がかなり巧みで,先駆的な作品として評価されてよいと思うのだが,この方面では話題になった様子が無い。あれ,フラグ管理がめちゃくちゃ大変だったと思うのだが,特に破綻が見られない。
・『EXTRAVAGANZA 蟲狂編』
ランスシリーズ完結のかたわらで蟲使いシリーズも終わっていたのであった。母性に種族の垣根は無いことを主張した蟲愛本編,それでも越えられない壁があるとして親子愛の断絶を描いた『無限煉姦』という流れで見ると,本作は遅れてきた家族愛という帰着点だったように思う。愛情を置いておかざるをえなかった親子(レンと綾佳)に,それをつなぐ獣魔蟲と神武美弥香という構図で,蟲という陵辱の主体を用いて親子愛を語るという無茶をやった本シリーズは最後に家族愛へと帰着した。そこに深い愛があれば,本人たちが望めば,出自も種族もなく家族としてまとまることができるのだ。なんとも見事な決着ではないか。温かみのあるテーマ設定に奢れることなく,手抜かりなくありとあらゆる陵辱劇と悲惨極まるバッドエンドを盛り込みつつも,レンと美弥香と獣魔蟲が和解して新たな家族を築く本作は,見事に傑作のまま,蟲愛シリーズの有終の美を飾った。あんなにもひどいシーンだらけだったのに,終わってみると晴れがましいのは,きっとそのせい。
・『美少女万華鏡3』
基本的にロープライスの抜きゲーなのに妙にシナリオが凝ってる美少女万華鏡シリーズの3作目。今回もめちゃくちゃエロかったという当たり前すぎる話は横に置いておくとして,短編傑作SFであった。主人公だけ22世紀的近未来的な環境で,アンドロイドの美少女にかしずかれて暮らすマッドサイエンティスト。彼の暮らす塔を一歩出ると見渡す限りの荒野,最寄りの村の科学技術水準はいいとこ18世紀後半か19世紀の初頭の西欧といったところで,科学技術自体は忌避されていないにせよアンドロイドは忌避されている……という設定からしていかにも何か起きるストーリーだが,決して安直には終わらず,トゥルーエンドのルートではそれなりに練った設定が開陳される。これが長編作品でシナリオが主体ならもう少し捻った設定やオチでも良かったのではと思ってしまうところだが,本作はそうではないので許されるだろう。むしろエロ→シナリオ本編→エロ→シナリオ本編がテンポよく交代し,シナリオに飽きないうちにネタばらしとエンディングが来るので,プレイ時間の密度が極めて濃く,金銭だけでなく時間の面でもパフォーマンスが高い。例によって,3000円のプレイ時間6〜7時間によくもこれだけのものを“詰め込んだ”なと。「商品」としての完成度が高いとも。本シリーズの4作目までで1作選べと言われたら,これを推す。
・『月に寄りそう乙女の作法2.1 E.S.PAL』
エスト編とパル子編のアフターと,衣遠の過去編の3編。エストとパル子に思い入れがなければ別に……という。批評空間のレビューで散々「ゼロは面白かったよね。けど……」と言われている通りで,パル子はともかくエストさんメインヒロインやぞ。『つり乙2』本編のエストシナリオ自体はおもしろかっただけに,どうして扱いがこんなに軽くなったのか。結局のところ,ルナと遊星(朝日)が徹底的に主従・分業を突き詰めて完璧なカップルとなったのに対し,エストと才華(朝陽)はライバル・協業の関係を突き詰めさせようという対比だったと思うのだが,それは「月に寄りそう乙女」なのかという壁に直面して,それを乗り越えられなかった。結果として才華くんの物語に振り切った『つり乙2』本編は上手く行ったが,アフターまで息が続かなかったのではないか。ルナ様と衣遠の圧倒的なカリスマが本シリーズの核だったというのが再確認されたのが,本作の凡作さをよく示しているのかもしれない。
・『月に寄りそう乙女の作法2.2 A.L.SA』
朔莉編とルミネ編のアフターと,追加シナリオとしてのアトレ編の3編。朔莉編ははっきり言ってつまらない。ルミネ編は,アートと才能の関係をテーマとした本作では珍しくルミネさんに「趣味としてのピアノ」を選ばせた点で,けっこう面白かった。アフター4つの中から1つ選べと言われたら迷いなくこれを推す。アフターであることに意味があった唯一のシナリオであった。
さて,問題のアトレ編。近親相姦を真面目に扱うとこうなるという,とんでもなく重いシナリオを長編シリーズの最後の最後にぶっこんでくるという冒険。面白かったかどうかだけで言うとまずまず面白かったのだけれども,こと大蔵家ではこんなに重い事態になるか……? という疑問が拭えず。総裁殿が総裁殿で,正史ではないところでは彼女が血が半分だけつながった兄と結ばれるわけで,そこでの衣遠さんも「後ろめたいことがある方がよりつながりが濃くなる」と言って認めてしまっていたわけで。遊星くんは落ち込みそうだけど,ルナ様は「まあそういうこともある」と動揺しながら飲み込みそう(だからおまけ編でタイムスリップしたアトレがルナ様にああいうことを言われるのも違和感があった)。さらに言えば,重みの方向性が違うとはいえアンソニーJrや山県大瑛,メリルさんがいる大蔵家では正直今更では。それらの意味で,面白かったけど手放しでは褒められない,冒険としては不用意だったかなというのが私の出した結論になる。
『つり乙』シリーズもこれで終わるかと思うと感慨深い。本作が有終の美を飾ったかと言われると首肯しかねるが,シリーズ全体の評価を落とすほどのものでもなく,「何ならやらなくてもいい」くらいの位置か。
以下はメモとして。
・クリア済,レビュー未完成:『美少女万華鏡4』,『千の刃濤、桃花染の皇姫』,『すみれ』,『ねこぱら』vol.3。
・現在プレイ中または一旦停止中:『うたわれるもの 偽りの仮面』,『サクラノ詩』,『消えた世界と月と少女』
・やる予定はある:『凍京ネクロ』,『うたわれるもの 二人の白皇』,『アメイジング・グレイス』(西洋美術ものと聞いて),『Summer pocket』(評判良いので),『ルリのかさね』,『ラムネ2』
・発売したらすぐに手を付ける予定:『MUSICA!』
Posted by dg_law at 07:00│Comments(2)
この記事へのコメント
こんにちは、こちらのページを拝見させていただきました
これから終わる世界とバースディをプレイしようと思います
ひまわりを書いたごぉ氏の「ISLAND」をもしやっていないのであれば是非やってみてください
手塚治虫の火の鳥の系譜なんでしょうかね、エロゲーのSFを絡めた作品は面白いゲームが多いです
これから終わる世界とバースディをプレイしようと思います
ひまわりを書いたごぉ氏の「ISLAND」をもしやっていないのであれば是非やってみてください
手塚治虫の火の鳥の系譜なんでしょうかね、エロゲーのSFを絡めた作品は面白いゲームが多いです
Posted by とおりすがり at 2019年05月31日 18:23
『終わるバ』は記事内に書いた通り,SF的なギミックは重要視されていない作品なので,SF作品として見るとどういう評価になるのかはなんとも言えません。
むしろSFが好きなら『美少女万華鏡3』をお勧めします。
エロゲは最近またやっている余裕がなくて,停滞してますね……『サクラノ詩』をさすがにそろそろ片付けたいですね。
むしろSFが好きなら『美少女万華鏡3』をお勧めします。
エロゲは最近またやっている余裕がなくて,停滞してますね……『サクラノ詩』をさすがにそろそろ片付けたいですね。
Posted by DG-Law at 2019年06月04日 00:13