2019年10月26日

曜変天目茶碗コンプリート

曜変天目茶碗(大徳寺龍光院)ゴールデンウィークの翌週に,関西まで足を伸ばして曜変天目茶碗を2つ見てきた(ついでにフェルメール展にもこの時に行った)。1つは奈良国立博物館で,藤田美術館展。藤田美術館の2022年のリニューアルに備えての大展覧会である。ただし,私自身はすでに藤田美術館の曜変天目茶碗を見たことがあったので,今回はどちらかというと見たことがなかったという同行頬付の付添に近い。藤田美術館の所蔵品自体も,今回ほど豪華ではなかったが以前にサントリー美術館の企画展で東京に来ていた折に見ているので,そう新鮮味は無かった。曜変天目茶碗の感想はこの時と変わらず,すごいにはすごいのだが稲葉天目ほどの神秘性は感じない。他の展示物では,彩色が残っている快慶作の地蔵菩薩立像や,13〜14世紀の中国の作品と見られるマニ像の掛け軸あたり。確かに地蔵菩薩には見えないが,その時期の中国にこれを制作できるほどのマニ教の集団がいたのかという辺りで,研究を待ちたいところ。


なお,本展はゴールデンウィーク翌週とはいえとんでもない混み具合だった。旅程に伊吹山登山を組み込んでいたため大きめのザックを抱えていた我々はロッカーに入れようとするも入らず,奈良博の受付にクロークという存在が無かったために,結局ザックは警備員室に預かってもらったという稀有な体験をしたということもここに記録しておきたい。奈良博の警備室でもなかなか無いことだろう。常設展は後ろの予定が詰まっていたのと,何度も見ているのでカット。ここを出た後は急いで宇治に移動して,天ヶ瀬ダムに行き,天皇陛下在位30周年ダムカードを受け取り,宇治上神社に参拝した後,「特別になりたい山」こと大吉山にスピード登山した。登下山と山頂滞在あわせて30分くらいだったか。登りやすい山ではあるが,パンプス履いて楽器を担いで登れるほどヤワでもないことがわかった。麗奈さんは超人。


それからさらに滋賀県まで移動してMIHO MUSEUMへ。本当になんでこんなところに。確かに森林の中に突如として現れる巨大建築,宗教施設感が強くて面白くはあったが。すでに閉館まで2時間くらいというタイミングではあったがここもかなり混雑していて,曜変天目茶碗のコンテンツ力に脱帽する。そしてやっと見ることができた,大徳寺龍光院の曜変天目茶碗は,藤田美術館とは逆の感想を抱いた。藤田美術館のものは写真で見ると稲葉天目に近いように見えたが,実物はそこまで光っているように見えなかった。それに対し大徳寺のものは写真では3点で一番鈍く感じたが(今回の画像),実物の大徳寺物はなかなかどうして神々しい。稲葉天目の不気味とも言える美しさは無いが,静謐な光をたたえていた。斑紋の一つ一つが小さいのが良いのかもしれない。また他の2つが青と黒の印象が強いのに対し,こちらは白いという印象が残った。これも写真ではわかりづらい。やはり,実物を見てみるものである。これにて私と頬付は曜変天目茶碗3点の実物を全て鑑賞することに成功した。人生でやり遂げないといけないことリストが,やっと一つ片付いた。

この後は結果的に閉館までそこそこ時間ができて,駆け足ながら他の企画展展示とMIHO MUSEUMの常設展まで見ることができた。他の大徳寺の展示物は,藤田美術館展を見てしまっているのでもったいなくも見飽きてしまったが,大徳寺の歴史を感じさせるものはさすがに感動した。春屋宗園墨蹟,津田宗及の日記,松花堂昭乗の扁額,狩野探幽筆の頂相(描かれるは龍光院の事実上の開山の江月宗玩)と戦国〜寛永期の錚々たる面々の作品に,紫衣事件の関係者,後水尾天皇の宸翰と沢庵宗彭の書状が最後を飾る(厳密に言えば沢庵は龍光院ではないのだが)。その意味で,日本史ガチ勢が行くべき展覧会だったと言えるだろう。