2019年10月27日

船旅が実に楽しそう

損保ジャパン美術館のドービニー展に行っていた。バルビゾン派の代表的な画家で,ミレーやコローの次くらいに挙げる人が多いのではないだろうか(テオドール・ルソーは知名度が低いので)。よく印象派で言われる「野外での制作」「都市化する社会の需要に応えた郊外の風景」は実際にはバルビゾン派を継承したものであるし,アカデミー的なかっちりした瞬間を切り取る絵画ではなくやや筆致を残す感じで樹木に茂る葉を描くやり方を見ても,美術史的に言えばアカデミーと印象派のはしごのような役割を果たした一団と言える。しかし,バルビゾン派が現在も人気が高いのは,そのような美術史的評価ではなくて,単純に描かれた自然が安心する美しさであるからだろう。

ドービニー個人の画業としては,美術館ホームページにもあるが,展覧会用に作られたショートムービーが端的にまとまっていて非常に良いので,これを見たほうが早い。



1853年にサロン買い上げ,1859年にレジオン・ドヌール勲章というとまだ40歳前後のことで,革新的なことをやっていた割には生前のかなり早い時期から巨匠となっていたと言ってよい。水面が好きすぎてアトリエ船を作ってしまったエピソードが何より面白く,その船旅を描いた連作版画が大変に良かった。こういう展覧会だと油彩画に目が行きがちであるので,版画が面白かったという体験が得られたのは貴重であった。もちろん油彩画もよく,こちらでも「これはどう考えても水面に立ってないと得られない視点だよな」という作品が見られる。水面へのこだわりは尋常ではなく,表現が難しいが,空や樹木を映す水の質感がよい。なお,ムービーにある通りアトリエ船は後にモネも真似ており,その絵画が少し後の都美術館のコートールド美術館展に来ていて,奇縁を感じた。

本展覧会も例によって東京では終わっているが,巡回して現在は三重県立美術館で開催中である(11/4まで)。