2019年10月28日
舌を噛みそう>フォリー=ベルジェール
東京都美術館のコートールド美術館展に行っていた。最近はこういう「特にテーマは無いけど,海外の大きい美術館から雑多に借りてきました」系の企画展に行くのはよほど大きな目玉でも無い限りなんとなく避けていたのだが(現地で見てやるという気概もあり),これはよほど大きな目玉があったパターンで,来るなら日本で見ておくに越したことはないというものだ。かつ,たまには完全に気を抜いて鑑賞してもいいじゃないかとふと思えたので行ったパターンである。激混みが予想されたので,まだ空いている始まった直後に行っておいた。その大きな目玉が随分前から広く宣伝されていたマネの《フォリー=ベルジェールのバー》で,マネの作品が5点くらい載っている美術史の一般書なら,まず間違いなくその5点の中に入っている晩年の代表作である。フォリー=ベルジェールは大きなミュージック・ホールで,安全基準など無い当時はサーカスのような曲芸や見世物小屋的な動物等のショー,薄着の女性たちのよるダンス等が行われていた……と聞くとムーランルージュやクレイジーホースのようなキャバレーの過激版ということかと想像するが,私にはわからない(と書いておくとそのうち詳しい人がコメント欄に現れる展開)。今だったらいろいろな意味でアウトっぽい演目が多い。
本作が描いたのはそのホール中央ではなく,大きな鏡になっている壁の壁際のバーである。よく言われるように,バーメイドの虚ろな目が非常に印象に残る。バーメイドはしばしば娼婦に成り代わったし,ここはそういう交流にも使われたというキャプションの説明を読むと尚更その冷めた表情が気になってしまう。鏡に映った背景ではショーが進行中でにぎやかで楽しそうであるから,余計に自分=鑑賞者とバーメイドしかいない現実の側が虚しく映る。屋内の描写ではあるが,これは都会の喧騒と孤独を描いた最初期の作品であり,その意味では後のエドワード・ホッパーに続いていく系譜の作品の走りと言えよう。
なお,私も全く知らなかったのだが,フォリー・ベルジェールは現役で営業中だそうで,パリに旅行した時に行く(というか目の前を通り掛かる)べきであった。観光名所になっていそうなものだが,4年前にパリに行こうと観光地を調べた時には全く出てこなかった。クレイジーホースには行ったことがあるが,遠い昔のことである。めちゃくちゃ高いステーキを食べたはずだが,味を全く覚えていない。20歳やそこらになったばかりの舌ではそんなもんだろうと思うし,「何事も若いうちに経験しておくべき」というのは必ずしも真ではないのだなと今振り返ると思う。という自分語りは置いといて。
本展は《フォリー=ベルジェールのバー》を含めてわずかに約60点の展示だが,あまり広くない都美術館の企画展にはちょうど良かったし,《フォリー=ベルジェールのバー》以外もかなり豪華な印象派・ポスト印象派作品群であったので満足した。モネがドービニーを真似て作ったアトリエ船から描いた作品や(奇しくもドービニー展が直前にやっていた),ルノワールの《桟敷席》,セザンヌの《カード遊びをする人々》や《サント・ヴィクトワール山》の一つ等々。キャプションが充実していて,読みながら鑑賞していけば,作品数の割にかなりの鑑賞時間がとられることだろう。
また,コートールド美術館はロンドン大学付属のコートールド美術研究所の所蔵の作品群であり,本展覧会ではコートールド美術研究所についての物品も展示されていた。その中でコートールド美術研究所の開学初年度(1932-33年)の講義リストと,学部生への期末試験問題が展示されていたのだが,その問題が21世紀現在の世界中の美術史の講義の期末試験でも十分通用しそうで,学問の基礎は時空を超えても変わらないというのが実感される。たとえば「14世紀のフランス美術がヨーロッパ美術に与えた影響は何か」というような。英語の問題文をじっくり読んで解答を考えながら鑑賞していたので,大きな満足感があった。その意味で,現役の美術史学の学部生なら絶対に見に行くべき展示だろう。
期間が長く,12/15まで開催。
Posted by dg_law at 19:30│Comments(0)