2019年12月23日

抜歯のシーンでさえ劇的になる

カラヴァッジョ《歯を抜く人》名古屋市立美術館のカラヴァッジョ展に行ってきた。このために名古屋まで行ったのだが,覚えがないくらい久しぶりで立地まで完全に忘れていた。伏見駅からあんなに歩いたんでしたっけ。本展は約40点と数が非常に少ないが,1点1点に詳細なキャプションがついていて分量の少なさを感じさせない展示になっている。また,カラヴァッジョの真筆は約8点と1/4に満たない点数だが,カラヴァッジョ周辺の人物やカラヴァッジェスキの良いところを集めていて,全般として豪華であると言えよう。

カラヴァッジョの作品としては《メドゥーサの盾》,《法悦のマグダラのマリア》辺りが目玉だろうか。ただし,私的にはどちらも以前の西美のカラヴァッジョ展で見ているので新鮮味はなかった。あれももう3年以上前のことで,当時は日本でカラヴァッジョの単独の回顧展なんてほとんど史上初だし,今後も10年に一度あるかないかだろうくらいに思っていたのだが,作品数が少ないとはいえ,あっさり3年で2回目が実現してしまった。私が行ったのが土曜日で,しかも名古屋市立美術館が小さいのもあってかなり混んでいたし,鑑賞客はけっこうまめにキャプションを読んでいた。いまだもってなぜか高校世界史の教科書には載らないままだが,カラヴァッジョの世間的な知名度も上がってきているのだろうか。

その他のカラヴァッジョの有名な作品としては《ゴリアテの首を持つダヴィデ》で,これは私も初見かな。ゴリアテの顔がカラヴァッジョの自画像という説があるが,死の直前の作品であり,結果的に死亡フラグを立てた形になる。こういうところも彼の伝説化に一役買っているのだろう。ちょっと面白かったのは《歯を抜く人》で(今回の画像),宗教画や歴史画が多いカラヴァッジョだけに,こういうどうでもいいシーンの絵はちょっと珍しい。観衆の表情と中央に集まる視線が見どころ。あとは《洗礼者聖ヨハネ》。あまりにも艶めかしすぎるのでアトリビュートを無視すると洗礼者ヨハネに見えない。杖が十字架でないのでそもそもアトリビュート不足であるというのも拍車をかけている。そうそう,カラヴァッジョと言えばクズ奇行エピソードに事欠かない人であるが,今回の展覧会でも主要な事件がキャプションで詳細に説明されていた。一つ残念だったのは,一番好きなアーティチョーク事件の扱いが軽かったことだ。あれが一番おもしろいと思うのだが。

カラヴァッジョ以外の絵が面白かったのは本展の良かったところで,主要な画家の名前を挙げておくと,ジェンティレスキの父娘,アンニーバレ・カラッチ,グイド・レーニ,リベーラ,カラヴァッジョの敵対者バリオーネ等。ジェンティレスキの父娘は見比べてみるとやっぱり娘の方が上手い。バリオーネの作品は1点しかなく,カラヴァッジョの人間関係を詳細に解説したキャプションがあっただけにやや残念であった。リベーラまで行くともうカラヴァッジョのフォロワーという感じではなくバロックのど真ん中であるが,実際ちょっと年代的に浮いていた気がする。

本展は巡回展としては珍しく南関東で全く開催されず,札幌・名古屋・大阪での開催となる。名古屋はすでに終わっているが,本記事公開の現在は大阪で開催されている。関西在住なら十分に見に行く価値があろう。