2020年02月18日
レビュー:『千の刃濤、桃花染の皇姫』
略称『千桃』,発売は2016年。やっとレビューを消化できた。さて,本作を例えるなら,三つ星シェフによる超豪華フルコースを注文したら,前菜で白玉あんみつが出てきた。ワインには合わないなと思いながらも適当にあしらって食べ進めたら,メインディッシュの肉と魚はちゃんと一級品だった,という感じ。前半の学園・アイドルパートと政治・バトル・伝奇パートの食い合わせが悪すぎる。特に政治・バトル・伝奇の設定がこれだけ凝りに凝っているだけに,なぜ学園物をくっつけた。
以下,あまりネタバレなし。
以下,あまりネタバレなし。
未プレイの人向けの解説ついでに,本作の設定を整理しよう。本作は現実世界の日本っぽい国(皇国)とアメリカっぽい国(共和国)が存在し,舞台は概ね太平洋戦争敗戦直後の日本だと思ってくれればいい。ただし,日本神話っぽい神話に由来する「呪術」というファンタジー要素がある。
・皇国は呪術で発展してきた呪術国家であり,呪術による巨大な「障壁」を国境に張り巡らせることで事実上の鎖国を達成し,長年に渡る平和を維持してきた。
・皇国には万世一系の君主「皇帝」と特権階級が存在。呪術の使い手である「巫女」集団,呪術で鍛えられた日本刀”呪装刀”を履く「武人」集団である。
・共和国は皇国の民主化を大義名分として宣戦布告,皇国側の内通者の手を借りて「障壁」を破壊し,近代兵器を活用して武人を駆逐,皇国は皇帝が戦死して降伏。
というのが前提となる設定。その厳しい占領政策の中で,武人と巫女の残党はレジスタンス活動を開始し,有力な家系出身の武人の主人公が身分を隠して逃亡中だった前皇帝の娘(メインヒロイン)と出会うところから物語が始まる。作中では「侵略の大義名分であったとはいえ皇国の民主化は必要ではないか」という政治議論があったり,演出盛り盛りの派手で楽しい武人たちの殺陣があったりしてストーリーが盛り上がる。何よりも,呪術の成立過程や共和国への内通者を生んだ事情を織り込むために,日本神話を極めて巧妙にアレンジしているのが本作の白眉で,なるほど確かに日本神話をこう読み替えるのは可能であるなと納得させられた。記紀神話をそのまま使ったりトンデモ解釈をしたりするのではなく,使いやすいようにアレンジする・読み替えてしまうというこの手段はもっと使われていいと思う。かくのごとく,本作後半は内戦に突入する政治劇と燃えるバトル,そこから怒涛の伏線回収で自然に伝奇要素が入り込み,神話世代からの千年以上の時を超えた因縁が綺麗に決着する。この後半部分は傑作というほかない。
……そう,後半が傑作というほかないからこそ,未プレイヤーの人には「本作の前半には学園パートがあり,なんならヒロインの一人がアイドルになりきります」と言っても意味不明でしかないだろう。え,こんなに重厚な設定があるのに? どうやって混ぜ込んだの? と思われるのは当然のことで,むしろ無理矢理にでも混ぜ込んで一応崩壊せずに成立させてしまったオーガスト制作陣の力技は,それはそれとしてすごいと言うべきなのかもしれない。いやしかし,どうにも食い合わせが悪かった。共和国占領軍総督補佐(ヒロインの一人)と,身分を隠して反乱画策中の前皇帝の娘と,有力な武人の主人公が同じ学園に通っていてクラスメイトというのはあまりにも無理がありすぎる。現場が現場なら殺し合ってる関係なわけで(実際に何度か殺し合っている),机を並べて勉強している場合じゃないだろう君ら。特に主人公と総督補佐の二人は設定上もう学生って年齢でも無いので尚更違和感の塊であった。彼らが教員側として登場するならまだ違和感は薄かったかもしれない。
不幸中の幸いなのは,学園・アイドルパートの比重が重くなく,あえて言えば全体の2割程度に過ぎないので,ぎりぎり見なかったことにできるレベルであることと,政治・バトル・伝奇パートは紛れもなく傑作であるということだ。言うまでもなく絵は美麗も美麗で,BGMも歌曲も和風で統一されていてすばらしく,特にOPの「嗚呼 絢爛の泡沫が如く」は名曲。
私は個人的な嗜好で『ユースティア』の方が好きだが,人によって『千桃』の方が好きでも全くおかしくない。もっと言えば『ユースティア』は娯楽作品としては暗すぎ(無論だから良いのだが),その点で『千桃』は燃えも華もあってハリウッド的な大作エンタメ然としている。その意味で完全にシリアスに寄った『ユースティア』とはまた少し路線が違い,オーガストの新機軸と捉えた方が適切かもしれない。
なお,すでに本作のファンディスク『花あかり』が2019年に発売されているので,ちょっとだけ触れておく。各ルートエンディング後の様子を描写した普通のファンディスクなのだが,メインどころは微妙。特にメインルートから早い段階で分岐してしまった滸・エルザ・奏海あたりはどうしたって補完が難しい。一方で,本編ではどうしても掘り下げの難しかった皇祖様と雪花さんを上手いこと補完してくれてよかった。特に雪花さんは報われてくれないと本作の趣旨にあわないので,それだけでも『花あかり』が出てくれた価値があったかなと思う。
オーガストの次のパッケージゲームは何が出てくるか。学園ものに回帰するか,『千桃』のような大作エンタメになるか。どちらでもいいので『あいミス』が忙しくて何も出てこないというのだけは避けてほしい。
・皇国は呪術で発展してきた呪術国家であり,呪術による巨大な「障壁」を国境に張り巡らせることで事実上の鎖国を達成し,長年に渡る平和を維持してきた。
・皇国には万世一系の君主「皇帝」と特権階級が存在。呪術の使い手である「巫女」集団,呪術で鍛えられた日本刀”呪装刀”を履く「武人」集団である。
・共和国は皇国の民主化を大義名分として宣戦布告,皇国側の内通者の手を借りて「障壁」を破壊し,近代兵器を活用して武人を駆逐,皇国は皇帝が戦死して降伏。
というのが前提となる設定。その厳しい占領政策の中で,武人と巫女の残党はレジスタンス活動を開始し,有力な家系出身の武人の主人公が身分を隠して逃亡中だった前皇帝の娘(メインヒロイン)と出会うところから物語が始まる。作中では「侵略の大義名分であったとはいえ皇国の民主化は必要ではないか」という政治議論があったり,演出盛り盛りの派手で楽しい武人たちの殺陣があったりしてストーリーが盛り上がる。何よりも,呪術の成立過程や共和国への内通者を生んだ事情を織り込むために,日本神話を極めて巧妙にアレンジしているのが本作の白眉で,なるほど確かに日本神話をこう読み替えるのは可能であるなと納得させられた。記紀神話をそのまま使ったりトンデモ解釈をしたりするのではなく,使いやすいようにアレンジする・読み替えてしまうというこの手段はもっと使われていいと思う。かくのごとく,本作後半は内戦に突入する政治劇と燃えるバトル,そこから怒涛の伏線回収で自然に伝奇要素が入り込み,神話世代からの千年以上の時を超えた因縁が綺麗に決着する。この後半部分は傑作というほかない。
……そう,後半が傑作というほかないからこそ,未プレイヤーの人には「本作の前半には学園パートがあり,なんならヒロインの一人がアイドルになりきります」と言っても意味不明でしかないだろう。え,こんなに重厚な設定があるのに? どうやって混ぜ込んだの? と思われるのは当然のことで,むしろ無理矢理にでも混ぜ込んで一応崩壊せずに成立させてしまったオーガスト制作陣の力技は,それはそれとしてすごいと言うべきなのかもしれない。いやしかし,どうにも食い合わせが悪かった。共和国占領軍総督補佐(ヒロインの一人)と,身分を隠して反乱画策中の前皇帝の娘と,有力な武人の主人公が同じ学園に通っていてクラスメイトというのはあまりにも無理がありすぎる。現場が現場なら殺し合ってる関係なわけで(実際に何度か殺し合っている),机を並べて勉強している場合じゃないだろう君ら。特に主人公と総督補佐の二人は設定上もう学生って年齢でも無いので尚更違和感の塊であった。彼らが教員側として登場するならまだ違和感は薄かったかもしれない。
不幸中の幸いなのは,学園・アイドルパートの比重が重くなく,あえて言えば全体の2割程度に過ぎないので,ぎりぎり見なかったことにできるレベルであることと,政治・バトル・伝奇パートは紛れもなく傑作であるということだ。言うまでもなく絵は美麗も美麗で,BGMも歌曲も和風で統一されていてすばらしく,特にOPの「嗚呼 絢爛の泡沫が如く」は名曲。
私は個人的な嗜好で『ユースティア』の方が好きだが,人によって『千桃』の方が好きでも全くおかしくない。もっと言えば『ユースティア』は娯楽作品としては暗すぎ(無論だから良いのだが),その点で『千桃』は燃えも華もあってハリウッド的な大作エンタメ然としている。その意味で完全にシリアスに寄った『ユースティア』とはまた少し路線が違い,オーガストの新機軸と捉えた方が適切かもしれない。
なお,すでに本作のファンディスク『花あかり』が2019年に発売されているので,ちょっとだけ触れておく。各ルートエンディング後の様子を描写した普通のファンディスクなのだが,メインどころは微妙。特にメインルートから早い段階で分岐してしまった滸・エルザ・奏海あたりはどうしたって補完が難しい。一方で,本編ではどうしても掘り下げの難しかった皇祖様と雪花さんを上手いこと補完してくれてよかった。特に雪花さんは報われてくれないと本作の趣旨にあわないので,それだけでも『花あかり』が出てくれた価値があったかなと思う。
オーガストの次のパッケージゲームは何が出てくるか。学園ものに回帰するか,『千桃』のような大作エンタメになるか。どちらでもいいので『あいミス』が忙しくて何も出てこないというのだけは避けてほしい。
Posted by dg_law at 01:00│Comments(0)