2020年03月30日
感想:『火ノ丸相撲』28巻
・『火ノ丸相撲』28巻(完結)。千秋楽の本割:鬼丸・太郎太刀戦,刃皇・草薙戦。四つ巴の優勝決定戦:刃皇・大包平戦,鬼丸・冴ノ山戦,鬼丸・刃皇戦。エピローグとしての番外編。
→ この巻は終幕までの展開が完成されきっていて,鬼丸優勝の決着から逆算してこうなるだろうと展開が読めてしまうのだけれど,そんな読者の予想なんてどうでもよくなるくらいに展開が美しい。鬼丸の相撲を最も熟知している二人を当てて「火ノ丸相撲」を読者に想起させつつ,最後に刃皇をぶつける。逆に刃皇には全盛期の大和国のコピーをぶつけてそれを凌駕させつつ,新世代の意地により黒星をつけられる。明らかに現実の白鵬を意識したキャラが,白鵬がやった力士による物言いによって行司軍配差し違えの黒星となるという,現実とのクロスオーバーも楽しく,まさにここでしか使えない小技である。大包平戦では横綱の特徴の百面相が想起させられ,最終決戦へ。勝敗の要因は高校生編のラストと同じ,小ささゆえにくぐった死線の量であった。結局のところ,不利な体格がゆえに隙を見逃さない最強の勝負勘を得たというのが火ノ丸相撲の中核であったと言えよう。
→ 改めて書くが,冴ノ山は本当に良いキャラに育ったと思う。鬼丸くらい強くて嫌味のない後輩がいたら先輩としての心情は複雑で,しかしその後輩が挫折したら強い背中を見せて引っ張っていく。同部屋同士で唯一取組がある優勝決定戦では,手の内を知り尽くしているがゆえに鬼丸の勝負感を際立たせる重要な役どころを全うする。最終巻に至って,登場当初の凡庸な関取もまた取り口同様に円熟味のある主要な登場人物に成長した。
→ 最後の鬼丸・刃皇戦を見て思ったのは,鬼丸が真っ向勝負に加えて身につけた小兵力士らしい小技とは要するに足技とたぐりであって,これだけたぐって横に付かれたら実際に非常に面倒だと思う。現実だと炎鵬と照強を足して二で割らない感じで,まあそりゃ上位定着するよねと。それにしても,この火ノ丸相撲が始まった6年前にはどちらも幕内にいなかったことを思うと,ここ2年ほどの小兵旋風の強さにも思いが至る。
→ 最後に細かい話を。まず,冴ノ山は直近3場所計32勝で3場所目に優勝決定戦進出となると,実質33勝扱いだろうが,大関がすでに3人いて席が空いていないのが厳しい(正確には4人いて1人はこの場所に陥落)。実際に作中で1場所見送りになったようだが,細かいところでリアルだ。この4大関体制,大相撲編が始まった当初の3年ほど前なら現実にちゃんと沿っていたのだが,この単行本が出た昨年12月の段階では2大関,この間の春場所に至っては1大関であった。現実の大関の数が不安定すぎる。作中では1年も経っていないので差異が生じてしまった。次に,番付表を見ると童子切は8−5−2での勝ち越しだが,最後の白星が不戦勝。その上,千秋楽では7−7だった金鎧山に負けているので,これは現実だった間違いなく互助会を疑われているw。これは当然ツッコミ待ちのし掛けだろう(実際には童子切がガチ力士だろうから互助会ではないのだろうが)。番付表の話だと,鬼丸は前頭4枚目で13勝優勝なのに,上が詰まっていて来場所小結にすらなれなさそうなのも,それっぽくて良い。最後に番外編の鬼丸表彰式,ちゃんとしいたけ詰め合わせとマカロン詰め合わせを出しているのも好角家には伝わる楽しい演出。最後の最後まで,実に大相撲ファンが喜ぶ,大相撲に対する愛が伝わる漫画であった。川田先生にはまた別の角度から大相撲を描いた作品を期待したい。
→ この巻は終幕までの展開が完成されきっていて,鬼丸優勝の決着から逆算してこうなるだろうと展開が読めてしまうのだけれど,そんな読者の予想なんてどうでもよくなるくらいに展開が美しい。鬼丸の相撲を最も熟知している二人を当てて「火ノ丸相撲」を読者に想起させつつ,最後に刃皇をぶつける。逆に刃皇には全盛期の大和国のコピーをぶつけてそれを凌駕させつつ,新世代の意地により黒星をつけられる。明らかに現実の白鵬を意識したキャラが,白鵬がやった力士による物言いによって行司軍配差し違えの黒星となるという,現実とのクロスオーバーも楽しく,まさにここでしか使えない小技である。大包平戦では横綱の特徴の百面相が想起させられ,最終決戦へ。勝敗の要因は高校生編のラストと同じ,小ささゆえにくぐった死線の量であった。結局のところ,不利な体格がゆえに隙を見逃さない最強の勝負勘を得たというのが火ノ丸相撲の中核であったと言えよう。
→ 改めて書くが,冴ノ山は本当に良いキャラに育ったと思う。鬼丸くらい強くて嫌味のない後輩がいたら先輩としての心情は複雑で,しかしその後輩が挫折したら強い背中を見せて引っ張っていく。同部屋同士で唯一取組がある優勝決定戦では,手の内を知り尽くしているがゆえに鬼丸の勝負感を際立たせる重要な役どころを全うする。最終巻に至って,登場当初の凡庸な関取もまた取り口同様に円熟味のある主要な登場人物に成長した。
→ 最後の鬼丸・刃皇戦を見て思ったのは,鬼丸が真っ向勝負に加えて身につけた小兵力士らしい小技とは要するに足技とたぐりであって,これだけたぐって横に付かれたら実際に非常に面倒だと思う。現実だと炎鵬と照強を足して二で割らない感じで,まあそりゃ上位定着するよねと。それにしても,この火ノ丸相撲が始まった6年前にはどちらも幕内にいなかったことを思うと,ここ2年ほどの小兵旋風の強さにも思いが至る。
→ 最後に細かい話を。まず,冴ノ山は直近3場所計32勝で3場所目に優勝決定戦進出となると,実質33勝扱いだろうが,大関がすでに3人いて席が空いていないのが厳しい(正確には4人いて1人はこの場所に陥落)。実際に作中で1場所見送りになったようだが,細かいところでリアルだ。この4大関体制,大相撲編が始まった当初の3年ほど前なら現実にちゃんと沿っていたのだが,この単行本が出た昨年12月の段階では2大関,この間の春場所に至っては1大関であった。現実の大関の数が不安定すぎる。作中では1年も経っていないので差異が生じてしまった。次に,番付表を見ると童子切は8−5−2での勝ち越しだが,最後の白星が不戦勝。その上,千秋楽では7−7だった金鎧山に負けているので,これは現実だった間違いなく互助会を疑われているw。これは当然ツッコミ待ちのし掛けだろう(実際には童子切がガチ力士だろうから互助会ではないのだろうが)。番付表の話だと,鬼丸は前頭4枚目で13勝優勝なのに,上が詰まっていて来場所小結にすらなれなさそうなのも,それっぽくて良い。最後に番外編の鬼丸表彰式,ちゃんとしいたけ詰め合わせとマカロン詰め合わせを出しているのも好角家には伝わる楽しい演出。最後の最後まで,実に大相撲ファンが喜ぶ,大相撲に対する愛が伝わる漫画であった。川田先生にはまた別の角度から大相撲を描いた作品を期待したい。
Posted by dg_law at 00:06│Comments(2)
この記事へのコメント
『火ノ丸相撲』素晴らしい作品でした。相撲への興味の有る無しに関わらず、誰もが楽しめる作品に仕上げた作者の手腕はお見事です。
ご存知かもしれませんが、同じ相撲ジャンルの漫画であれば『バチバチ』三部作も素晴らしいです(作者が急逝されたことで永遠の未完となってしまいましたが…)。手に取ったことが無ければ是非。
ご存知かもしれませんが、同じ相撲ジャンルの漫画であれば『バチバチ』三部作も素晴らしいです(作者が急逝されたことで永遠の未完となってしまいましたが…)。手に取ったことが無ければ是非。
Posted by 三十郎 at 2020年04月01日 19:29
『バチバチ』はいろいろな人から勧められるのですが,存在を知ったのが遅くて詠みあぐねているうちに作者が亡くなってしまい,さらに手が遠のいているんですよね……
Posted by DG-Law at 2020年04月02日 23:15