2020年03月13日
2020受験世界史悪問・難問・奇問集 その１（上智大・慶應大）
今年も無事に公開に至ることができた。協力してくれる方々に感謝を申し上げたい。今年は通常の校正者以外の手も借りないといけなくなるような問題もなく，比較的スムーズに進行した。
＜収録の基準と分類＞
基準は例年とほぼ同じである。
出題ミス：どこをどうあがいても言い訳できない問題。解答不能，もしくは複数正解が認められるもの。
悪問：厳格に言えば出題ミスとみなしうる，国語的にしか解答が出せない問題。
→ 歴史的知識及び一般常識から「明確に」判断を下せず，作題者の心情を読み取らせるものは，世界史の問題ではない上に現代文の試験としても悪問である。
奇問：出題の意図が見えない，ないし意図は見えるが空回りしている問題。主に，歴史的知識及び一般常識から解答が導き出せないもの。
難問：一応歴史の問題ではあるが，受験世界史の範囲を大きく逸脱し，一般の受験生には根拠ある解答がまったく不可能な問題。本記事で言及する「受験世界史の範囲」は，「山川の『用語集』に頻度�，任發いい�らとりあえず記載があるもの」とした。
＜総評＞
早慶上智の総数は2019年の37個から激増して50個となった。実は2017〜19年は40個を割っていて，特定のいくつかの学部を除くと慎重に作っている体制が見受けられ，本企画も社会に微力ながら貢献したかなと思っていたのだが，今年は見事に反発した。後述するが，これには予想される要因がある。
2020年の最大のトピックは，上智大のほぼ全日程と，早稲田大の政経学部・国際教養学部の世界史入試が今年で最後であること以外に挙げようがない。そう，最後だった上智大と早稲田の政経がすごかった（国教はおとなしかった）。数が跳ね上がった要因はこれで，思いついた問題をとにかく詰め込んだという印象を受けた。「最後かもしれないだろ，全部（受験生に）伝えておきたかったんだ」という熱いメッセージを感じる。FF10かな？
とはいえ，ワーストの日程を挙げると慶應の法学部になり，慶應は13個のうち９つが法学部であった。早稲田の政経学部も６つと多かったが，良問もあって全体的な印象は悪くない。しかし，慶應の法学部は端から端まで問題が工夫がない＆つまらない＆難しいの地獄で，収録しなかった問題も含めて印象は極めて悪い。しかも慶應大の法学部は2017・2019・2020年と直近４年で３度ワーストの日程になっていて，私大最悪の地位を早稲田の社学から完全に奪い取った。おめでとう。
なお，それはそれとして今年のスターは早稲田大・教育学部である（２日目に公開）。今年にしかできない見事な出題ミスをやってくれたので，ご確認願いたい。また，昨年に引き続き，早慶上智のいずれも公式解答例を公開していたのだが，上智ではそれによる新たな問題も発生した。これもご確認願えればと思う。国立は一橋大がおとなしく，収録はセンター試験と名古屋大だけとなった。センターの出題ミスはかなり真面目に論じている。
以下，上智大と慶應大。上智の最後の汚い花火っぷりと（特に７番），慶應・法学部の地獄のロードをお楽しみあれ。
＜収録の基準と分類＞
基準は例年とほぼ同じである。
出題ミス：どこをどうあがいても言い訳できない問題。解答不能，もしくは複数正解が認められるもの。
悪問：厳格に言えば出題ミスとみなしうる，国語的にしか解答が出せない問題。
→ 歴史的知識及び一般常識から「明確に」判断を下せず，作題者の心情を読み取らせるものは，世界史の問題ではない上に現代文の試験としても悪問である。
奇問：出題の意図が見えない，ないし意図は見えるが空回りしている問題。主に，歴史的知識及び一般常識から解答が導き出せないもの。
難問：一応歴史の問題ではあるが，受験世界史の範囲を大きく逸脱し，一般の受験生には根拠ある解答がまったく不可能な問題。本記事で言及する「受験世界史の範囲」は，「山川の『用語集』に頻度�，任發いい�らとりあえず記載があるもの」とした。
＜総評＞
早慶上智の総数は2019年の37個から激増して50個となった。実は2017〜19年は40個を割っていて，特定のいくつかの学部を除くと慎重に作っている体制が見受けられ，本企画も社会に微力ながら貢献したかなと思っていたのだが，今年は見事に反発した。後述するが，これには予想される要因がある。
2020年の最大のトピックは，上智大のほぼ全日程と，早稲田大の政経学部・国際教養学部の世界史入試が今年で最後であること以外に挙げようがない。そう，最後だった上智大と早稲田の政経がすごかった（国教はおとなしかった）。数が跳ね上がった要因はこれで，思いついた問題をとにかく詰め込んだという印象を受けた。「最後かもしれないだろ，全部（受験生に）伝えておきたかったんだ」という熱いメッセージを感じる。
とはいえ，ワーストの日程を挙げると慶應の法学部になり，慶應は13個のうち９つが法学部であった。早稲田の政経学部も６つと多かったが，良問もあって全体的な印象は悪くない。しかし，慶應の法学部は端から端まで問題が工夫がない＆つまらない＆難しいの地獄で，収録しなかった問題も含めて印象は極めて悪い。しかも慶應大の法学部は2017・2019・2020年と直近４年で３度ワーストの日程になっていて，私大最悪の地位を早稲田の社学から完全に奪い取った。おめでとう。
なお，それはそれとして今年のスターは早稲田大・教育学部である（２日目に公開）。今年にしかできない見事な出題ミスをやってくれたので，ご確認願いたい。また，昨年に引き続き，早慶上智のいずれも公式解答例を公開していたのだが，上智ではそれによる新たな問題も発生した。これもご確認願えればと思う。国立は一橋大がおとなしく，収録はセンター試験と名古屋大だけとなった。センターの出題ミスはかなり真面目に論じている。
以下，上智大と慶應大。上智の最後の汚い花火っぷりと（特に７番），慶應・法学部の地獄のロードをお楽しみあれ。
１．上智大 2/3実施
＜種別＞奇問・悪問の可能性
＜問題＞３ 問４ 下線部（エ）（編註：ローマ帝国）の時代のキリスト教に関連して述べた次の文（ア， イ）の正誤の正しい組み合わせを選びなさい。
ア 313年にコンスタンティヌス帝がニケーア公会議を開催した。
イ 唐に伝わった景教は，キリストを神と同一視する。
a ア−正 イ−正
b ア−正 イ−誤
c ア−誤 イ−正
d ア−誤 イ−誤
＜解答解説＞
アは特に問題なく誤文。ニケーア公会議は325年。困ったのはイ。そこは別にアタナシウス派とネストリウス派の違いではないのでは，と考え出してドツボにはまってしまった。（以下は長々と神学の話題が続くので，興味がない方は本問のスルーを推奨。）
アタナシウス派とネストリウス派の差異は，キリストの中の属性の状態であって，アタナシウス派は神性と人性が同質不可分（融合はしていないが分離もしていない）とみなしているのに対し，ネストリウス派は神性と人性がキリストの中で分離して存在しているとみなしている。……と言われてもそれの何が重要なの？ という話になると思うが，これが聖母マリアの扱いにかかわってくるから問題になった。アタナシウス派の解釈では聖母マリアのお腹にキリストが宿った時点でキリストはすでに神性と人性を持つことになる。キリストの神性と人性は分離して存在しえないのだから，懐胎の段階からキリストは「神にして人」なのだ。したがって聖母マリアは神の子を生んだ「神の母」ということになる。一方，ネストリウス派では聖母マリアはあくまで人間としてのキリストの母であって，キリストの神性にはかかわりがない。キリストの神性は処女懐胎とは全く別にキリストに宿ったものであるとする。誤解を恐れずに言えば，キリストは後付で神性を得たのだ。したがって聖母マリアは神の母ではないということになる。結果的に，聖母マリア崇敬を推し進めたい主流派にとってネストリウス派は邪魔になり，431年のエフェソス公会議で異端と認定された。
さて問題に戻ると，仮にイの文がネストリウス派ではなくアリウス派であったならば，アリウス派におけるキリストは父なる神に劣った神性しか持たず，すなわち父なる神とは同質とはされない。よって誤文と判断できる。しかし，ネストリウス派では上述の通りで，この点ではアタナシウス派との差異が無い。いずれの教派であってもキリストは間違いなく神であり，父なる神と同質である。「人性と神性が分離しているから，神と同一視されない」という理屈が成り立ちうるだろうか。私には成り立たないように思える。
一方，実は山川の教科書『詳説世界史』p.48に「キリストを神と同一視するアタナシウス派」という記述があり，おそらくこれをそのままコピペで持ってきて，主語を景教に変えておけば誤文になるだろうという安直な発想で作問したのではないか。もしこの仮定が正しいならば神学部がある大学の入試問題にしてはあまりに杜撰で，「上智大のキリスト教からの出題に限って雑」という伝統は最後まで受け継がれた。しかもこの2/3実施は神学部を含んだ日程である。大学からの公式解答では，dを正解としていたので，やはりこの仮説は正しいと思われる。しかし，ということは前述のような神学的な理屈との不整合が生じるのではないか。
加えて，実は面白い現象が起きている。以下の灰色の文章は同2020年度の上智大の，別の日程にあたる2/8実施の世界史の問題。
２ (A) この聖にして偉大な全世界教会会議は，このような真理に反対する説をとなえることをやめさせる（中略）。われわれはみな，教父たちに従って，心を一つにして次のように教え，宣言する。われわれの主イエス・キリストは唯一の同じ子である。〔 〕。
問１ この史料は，451年に開催された公会議における決議文である。この公会議が開かれた場所は地図中のうちどれか。（編註：これはカルケドン公会議であるのでカルケドンの場所を示せばよく，小アジアの西部でミレトスではないことだけわかれば正解できる。本題ではないので地図は省略。）
問２ 〔 〕に入る文章として正しいものはどれか。
a 彼（キリスト）において神性と人性の二つの本性は分離している
b 彼（キリスト）は神性を完全に所有し，同時に人性を完全に所有する
c 彼（キリスト）は父と同質であり，神性のみを有する
d 彼（キリスト）は父と異質であり，人性のみを有する
aはネストリウス派，bはアタナシウス派，cは単性論（合性論），dはアリウス派の教義であるので，問２の正解はbでこれはちゃんと成り立っている問題であるが，ポイントは誤答の作り方である。アリウス派と単性論は同質（異質）という言葉を使ってアタナシウス派との差異を示せているのに，ネストリウス派は同質という言葉を用いていない。そこが差異ではないから，同質という言葉を用いて作れなかったのであろうと推測できる。これは重要な傍証になろう。
２．上智大 2/3実施（２つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞３ 問６ 下線部（カ）（編註：シトー修道会）について述べた次の文（ア， イ）の正誤の正しい組み合わせを選びなさい。
ア クレルモン宗教会議の３年後に創立された。
イ この会のクレルヴォーのベルナルドゥスは，修道院を舞台に神学を発展させた。
a ア−正 イ−正
b ア−正 イ−誤
c ア−誤 イ−正
d ア−誤 イ−誤
＜解答解説＞
純粋な難問。アもイも用語集に記載はあるものの，そんなところを覚えているやつは極々稀である。シトー修道会はさすがに用語集頻度�Δ世�，クレルヴォーのベルナルドゥス（聖ベルナール）はそもそもが用語集頻度� Ｎ省�とも正文で，シトー修道会設立は1098年。聖ベルナールは聖母マリア信仰を深めて神学上の業績がある。第２回十字軍を提唱したことでも知られるが，第２回十字軍自体が受験世界史ではマイナー。
なお，本問のリード文はワインの歴史で，ワインの歴史を滔々と語るオタク大学教授の授業を聴講する学生という会話文の形式となっていたが，授業冒頭が「わたしは未成年ですのでお酒の話には興味が持てません」という学生の一言で始まっていたのにちょっと笑った。上智大学は未成年の飲酒を勧めない健全な大学です。
３．上智大 2/4実施
＜種別＞悪問・出題ミス（複数正解）に限りなく近い
＜問題＞２ その際，カシミール地方では（ ８ ）が住民の多数を占めたが，藩王がインドヘの帰属を表明したため，そのことが原因となって２回にわたる（ ９ ）が生じた。
(8) a ムスリム b シク教徒 c ヒンドゥー教徒 d 仏教徒
(9) a カシミール戦争 b インド＝パキスタン戦争 c ビアフラ戦争 d インド大反乱
＜解答解説＞
（ ８ ）の方はaのムスリムが正解でいいとして，よくわからないのは（ ９ ）。aのカシミール戦争はまずそんな言葉が高校世界史に存在していない。「カシミール紛争」の誤植なのではないかと疑うのが普通の反応だと思う。英語でもKashmir conflict はメジャーな言葉だが，Kashmir warはあまり使われない。断続的に大小の衝突が続いているので紛争とした方がニュアンスは出る。とはいえカシミール戦争が本問の造語かというとそうではなく，第一次印パ戦争，第二次印パ戦争の同義語として第一次カシミール戦争，第二次カシミール戦争という言葉は存在する。第三次印パ戦争があって第三次カシミール戦争が無いのは，あちらは戦争勃発の直接の原因がバングラデシュの独立問題だからだ。もっとも，第三次印パ戦争でもカシミールの領有は争われているので，戦闘が無かったというわけではない。また，1999年の軍事衝突を第三次カシミール戦争（Third Kashmir war）と呼ぶ用法も英語圏では少数ながら存在しているので，必ずしも第三次カシミール戦争が存在していないとは言い切れない。カシミール戦争という言葉自体が明確な定義を持っているわけではないのだ。
その上で問題に戻ると，「２回にわたる」を「３回目は無かった」というニュアンスを出していると捉えると，aのカシミール戦争を正解と想定しているように思われる。しかし，前述の通りカシミール戦争は定義が曖昧で第３回が無かったとは断言できない。加えて最近の上智は用語集の片隅に載っている系の難問は多いが，完全な範囲外の用語を出すことは少なくなっている（誤答にしか用いない）傾向にあることも考えると，カシミール戦争を正解にするかは疑わしく思える。他方でbの印パ戦争を入れて，文が成り立たないほど事実関係がおかしくなるわけでもない。「そのこと（＝カシミール領有問題）が（直接の）原因となって，２回にわたる印パ戦争が生じた」という読み方をすれば，言外に３回目はカシミール領有問題が直接の原因ではないことを示唆しながら，意味の通る文として成り立つはずである。しかし，こんな解釈を要する文はまあ回りくどい。
という思考を経てから，上智大の公式解答を見たところ（９）の正解はbの印パ戦争であった。ではなぜ範囲外かつ定義の曖昧なカシミール戦争などという語を選択肢に入れたのか。実際には，複数正解の出題ミスと言いうるのではないかと思う。作題者はaのカシミール戦争が不正解と断定できる学術的に明確な根拠を提示してほしい。
４．上智大 2/4実施（２つめ）
＜種別＞出題ミスに近い
＜問題＞３
問９ オの説明として正しいものはどれか。
a 1346年，長弓隊の活躍によりイギリス軍がフランス軍を破った戦場。
b 1347年以降イギリス大陸領土として残った地。
c 1356年，エドワード黒太子率いる軍隊が勝利を得た地。
d 1429年に解放され，シャルル７世の戴冠が実現した都市。
問10 オでの戦闘を含む長期的英仏抗争と無関係なものはどれか。
a フランドル地方 b ヴァロワ朝 c ギエンヌ（ギュイエンヌ） d 模範議会
＜解答解説＞
皆さんお待ちかね，上智大名物「地図上に打たれた点がガバガバ」シリーズ。名物と言いつつも，かなり久々の登場である。本問に関係のない点，すなわちアはコンスタンティノープル，イはヘースティングズ，ウはワールシュタット（レグニツァ），エはカタラウヌム，カはグラナダであり，いずれも名だたる古戦場や包囲戦が行われた都市である。残ったオだけは難度が高い。こういう場合は問９の内容から逆算するという手がある。しかし，cの指すポワティエはポワトゥー地方，dの指すオルレアンはパリより南だから明確に異なるが，aの指すクレシー，bの指すカレーは場所が近接していて判別が困難である。しいて言えばカレーは海に面しているので，同様に海に面しているイのヘースティングズと比較するにオはやや海岸から離れている。これを根拠にaのクレシーと絞るのは一応可能だろう。実際に公式解答もaが正解であった。
しかし，どうにも違和感がぬぐえなかったので地図帳を参照すると，クレシーの場所は実際にはオよりもかなり北東で，オの位置にあるのはどちらかというとルーアンということが判明した。厳密に言うと本問は正解なしでは。問10はdが正解だが，問９が正解なしなら問10も連動して正解なしとなるかもしれない。あるいはルーアンであっても百年戦争中の戦闘があった場所ではあるので，独立して問題は正解していると強弁するかもしれないが。
５．上智大 2/4実施（３つめ）
＜種別＞難問・奇問
＜問題＞４ 問14 下線部（ス）について（編註：メキシコでゲリラ戦の訓練），カストロはこのときゲバラと出会ったが，ゲバラが生まれた国と死亡した国の組み合わせとして適切なものはどれか。
a アルゼンチン・ボリビア
b アルゼンチン・キューバ
c キューバ・キューバ
d キューバ・ボリビア
e キューバ・ソ連
＜解答解説＞
ゲバラクイズかな？ チェ＝ゲバラの生地はアルゼンチン。ゲリラ戦で捕虜になって殺されたのはボリビアなので正解はa。一応どちらも用語集に記載があるが，容赦なく範囲外判定でいいだろう。別の大学でもゲバラの評伝をリード文に使ったのを見かけたのでプチゲバラブームの様相なのだが，2020年って何かあったっけ。
６．上智大 2/4実施（４つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞４ 問15 下線部（セ）（編註：アメリカ合衆国はキューバと断交）を通告したアメリカ合衆国大統領は誰か。
a アイゼンハワー b ジョンソン c ケネディ d トルーマン e ニクソン
＜解答解説＞
最近の流行，キューバ断交シリーズ。キューバと断交した時のアメリカ大統領はaのアイゼンハワーであって，cのケネディではないというやつは過去に何度も解説しているのでもはや解説する気力もない。あまりに頻出すぎて予備校の難関私大クラスでは当たり前のように教えられるようになってしまい，満点防止問題としての機能を果たさなくなっているのではないか。
７．上智大 2/5実施
＜種別＞難問・奇問・悪問・出題ミス（複数正解）に近い
＜問題＞２ マレー半島では，1957年に( 10 )が独立し，その後，北ボルネオとシンガポールを加えて ( 11 )が形成されたが，1965年にシンガポールが離脱している。
(10) a マラヤ連邦 b マレー連合州 c マレーシア d マラヤ共和国
(11) a マレー連合州 b マレーシア c マレーシア連邦 d マラヤ＝シンガポール連邦
＜解答解説＞
(10)の正解はaのマラヤ連邦とすぐに出るのだが，(11)はbのマレーシアとcのマレーシア連邦をどう判別すればいいのかが全くの不可解。そう思って調べてみると，マレーシアの正式な国名は「マレーシア」で，「マレーシア連邦」はあくまでも俗称らしく，それを踏まえるとbが正解と想定された設問なのだろう。実際に上智大の公式解答もbが正解となっていた。しかし，問題文のどこにも正式名称で答えよとは書かれていない。また俗称と言っても意味的な誤りがある，失礼にあたる等の明確に欠点があるような類の俗称とは見なされておらず，人口に膾炙している。さらに教科書・資料集でも「マレーシア連邦」としているものがあり，用語集は気にした人がいるのか「マレーシア」であったので，教材間でも表記は割れている。以上の理由から，マレーシアと比較した際にマレーシア連邦を不正解にすべき根拠が無い。よしんば正式名称を優先してマレーシアのみを正解とするとして，それは完全に世界史の範疇ではなくカルトクイズである。この選択肢を作ったやつは確実に頭がおかしい。校正者の一人が「（後世の入試問題への悪影響を考えれば）出題者は打ち首獄門がふさわしい」と言っていたが，全くの同感である。本問の理屈を逆手にとればどれだけでも出題ミスの指摘ができるようになってしまう（実際にはしません）。そんな地獄を残して自分だけいなくなるなんて，さすがは上智大学，他の大学にはできないことを平然とやってのける，そこにしびれ（以下略
本問は結果的に，過剰な難易度の範囲外を問うているという点で「難問」，世界史ではない分野からの出題なので「奇問」，正式な名称を知っていても解答を出すには迷いが生じるという点で「悪問」，実際に理屈の上で多くの人が正解を２つと判断すると思われるという点で「出題ミスに近い」となり，本企画の種別グランドスラムを１問で達成した。長くやっている本企画でも極めてレアケースである。記念すべき１問と言えよう（全く褒めていない）。
８．上智大 2/5実施（２つめ）
＜種別＞難問・奇問
＜問題＞３
問４ 以下の説明は，地図２のどの場所についてのものか。
(1) アテネを盟主とするデロス同盟の本部が最初に置かれた。
(2) エヴァンズが発掘した宮殿跡からは線文字が刻まれた粘土板が発見された。
(3) オリュンピア（オリンピア）の祭典が，前776年から４年ごとに開催された。
(4) アポロン神殿があり，その神殿で出された神託を参考に各ポリスが重要事項を決定した。
(5) 「リュクルゴスの制」という軍国主義的な国制により先住民を支配し，強国になった。
＜解答解説＞
上智大名物，気の狂ったように細かい地図シリーズ。世界史入試最終年の今回にリバイバルしてきた。 (5)はスパルタなのでc，(2)がクノッソスなのでdまでは楽勝だろう。(1)はデロス同盟の本部なのでデロス島，名前の通り島なので，クノッソス＝dさえ消していれば，消去法でeに絞れる。デロス島は小島なのだ。残った(3)のオリュンピア，(4)のデルフォイが無理めの難問。正解は，オリュンピアがペロポネソス半島の北西に位置するのでa，デルフォイはアテネやテーベの北西に位置するのでb。ギリシアに観光旅行に行ったことがあればけっこう場所を覚えているものではあるが，上智大としてはそれくらい家族旅行で行ったことがあるというセレブを学生としてご所望ということだろうか。
９．上智大 2/5実施（３つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞３ 問５ ギリシア本土出身の人物は誰か。
a アルキメデス b ゼノン c トゥキディデス d ヒッポクラテス
e ヘロドトス
＜解答解説＞
続けての難問。しかも，それを知っててどうすんだよというところを突いてきて，かつ一応全部用語集の片隅に載っていることから出しているからすごい（褒めてない）。aのアルキメデスがシチリアのシラクサ出身，eのヘロドトスが小アジアのハリカルナソス出身なのは有名だが，残り３択から絞るのは普通の受験生には不可能に近い。dのヒッポクラテスはコス島出身，bのゼノンはキプロス島出身，よって正解はcのトゥキディデス。この人はアテネ出身でペロポネソス戦争にも従軍し，作戦失敗の責任により将軍を罷免されて追放されている。追放後にトラキアの所領に移って著述に専念したようだ。
１０．上智大 2/5実施（４つめ）
＜種別＞出題ミス
＜問題＞４ 問１ 下線部(ア)（編註：バルト海）に関連して述べた文として正しいものを選びなさい。
a 11世紀にノルウェー王がイングランドを征服し，ノルマン朝を創始した。
b ドイツ北西部の港町ハンブルクは，14世紀半ばにハンザ同盟に加わった。
c ハンザ同盟はモスクワに在外商館を設置した。
d イングランド王クヌートがデーン人の侵入を撃退した。
＜解答解説＞
aはノルウェー王がノルマンディー公の誤り。また，根本的にノルウェーもイングランドもノルマンディー地方もバルト海に面していない。cはモスクワがノヴゴロドの誤り。dはクヌート自身が侵入してきたデーン人なので誤り（『ヴィンランド・サガ』のアニメを見ていた受験生には余裕だったはず）。またこれもaに同じでバルト海に面していない。
残ったbが正文＝正解として作られた選択肢だったと思うのだが，�．魯鵐屮襯�はハンザ同盟の結成メンバーであるので「加わった」という表現は疑義がある。�▲魯鵐屮襯�はドイツ「北部」中央の都市であって，北西部ではない。上智大が依拠する山川の用語集ですら「北部」としているので言い逃れはできないはずである。北西部のイメージがあるとすれば，バルト海ではなく北海に注ぐエルベ川の下流域に位置しているからではないだろうか。あるいは旧西ドイツの北部の中心地，というイメージが強かったのかもしれない。��これもまたハンブルクがバルト海に面していない。以上の３つの理由からbを正文と見なすのは無理があり，本問は正文＝正解が存在しない。出題ミスと断定する。
本問，一番意味がわからなかったのは下線部が「バルト海」だったことで，この時点で世界史の知識が一切なくてもヨーロッパの地理が頭に入っていればa・b・dが誤文とわかってしまう。この後の文章が「（バルト海）から大西洋沿岸部におよぶ広い範囲」と続いているのだから，ここまで下線を引っ張っておけばこういうことにはならなかったはずである。
１１．上智大 2/6実施
＜種別＞悪問
＜問題＞１ 問４ 殷（商）に関する次の文A，Bの正誤を判断し，その正しい組み合わせを選びなさい。
A 殷で発達した青銅器は，祭祀や武器，さらに農具としても使われた。
B 現在のところ， 実在が確認されている中国最古の王朝である。
a A−正 B−正 b A−正 B−誤
c A−誤 B−正 d A−誤 B−誤
＜解答解説＞
Bは正文。夏王朝は実在が確認されているとは見なされていない。問題はAで，一般に春秋時代末期に鉄製農具が普及し始めるまで，古代中国では木製農具が主流だったとは習う。しかし，青銅製の農具の存在については高校世界史では触れられない。触れられていないものは，判断のしようがない。仮に本問の作問者が「木製農具が主流だったということは，青銅製農具は全く存在していなかったのだろうから，こうすればAは誤文になるだろう」と考えてこう作問してしまったなら，それは安直すぎよう。実際には，古代中国で青銅製農具がどの程度普及していたかは議論がある。CiNiiで簡単に検索をかけただけでも，やや古い論文になるが，次のようなものが見つかる。
小澤正人「中国における鉄器普及以前の農工具」『成城大学社会イノベーション研究』第１巻第１号，2005年
おそらく教科書を書く側はそのような論争の存在を踏まえて「木製農具が主流だった」としか書かず，青銅製農具の存在に言及していないはずである。なお，日本史の場合は青銅器と鉄器が弥生時代のほぼ同時期に流入した影響から，青銅器は祭器，鉄器が実用品とかなり綺麗に使い分けられ，鉄が貴重品であったために普及が追いつかないところでは木製の道具や石器を使い続けていたというのが判明している。このような現象は青銅器と鉄器がほぼ同時に入ってきたという極めて特殊な環境下だからこそ発生したのだが，この知識があるとかえって「青銅器の農工具なんてありえないだろう」という先入観が湧いてしまうかもしれない。そのような先入観こそ，研究者が持っていてはいけないものだと思うのだが，どうだろうか。案の定であるが，上智大の公式解答はc，すなわちAは誤文という扱いであった。
１２．上智大 2/6実施（２つめ）
＜種別＞難問・奇問
＜問題＞２ 問７ イスラーム世界を広く旅したイブン＝バットゥータが訪問した都市の組み合わせで誤っているものはどれか。
a サライ・バグダード・トンブクトゥ
b グラナダ・カイロ・モンバサ
c デリー・コンスタンティノープル・キルワ
d マリ・カーブル・カノ
＜解答解説＞
清々しいくらいクソみたいな難問＆奇問。dのカノがナイジェリアの地名というのを知っていれば一発でdが正解とわかるが，それができるのは地理マニアか，ナイジェリアに縁がある人だけだろう。私はちょっと前に『物語 ナイジェリアの歴史』（島田周平，中公新書，2019年）を読んでいたので，偶然わかったが。
カノはナイジェリア北部の都市で，ハウサ人が建設した中ではかなり古い部類に入り，おそらく12世紀頃に建設されたと見られている。ハウサ人が建設したナイジェリア北部の都市国家郡をハウサ諸王国と呼ぶ。イブン＝バットゥータが活動した14世紀前半にはまだサハラ縦断貿易の交易網に組み込まれておらず，トンブクトゥなどの西サハラとつながるのはしばらく後，特にソンガイ王国が滅んでからと考えられている。そういうわけでイブン＝バットゥータはトンブクトゥまでは移動しているが，ハウサ諸王国には赴いていない。なお，カーブルは普通に立ち寄っている。マリは何を指しているのかがよくわからなかったのだが，調べてみると，そもそもマリ王国のマリはイブン＝バットゥータがマリ王国の首都の都市名として『三大陸周遊記』に書き記したものに由来しているとのこと。なお，実際にはマリ王国の首都がどこにあったのかよくわかっておらず，この「マリ」が現在のどこを指しているのかは，一応ニアニという場所ではないかと言われているものの判然としていない。一応イブン＝バットゥータは行っているようである。つまり，dは正誤のポイントが本当にカノしかない。多分，作問者の意図としては，イブン＝バットゥータがナイジェリアを訪れていないことは自明として，カノの場所を知っているかどうかを問いたかったのだと思われる。地理でやれ。
１３．上智大 2/6実施（３つめ）
＜種別＞難問・奇問
＜問題＞２ 問13 下線部(G)（編註：マリ王国）の交易都市として栄えたトンブクトゥは地図のどこに位置するか。
a ア b イ c ウ d サ e シ f ス g セ
＜解答解説＞
地理でやれパート２。作問している頃に何か嫌なことでもあったのかな，と作問者のことが心配になる。サ・シ・スまでは絞れようが，そこから先は勘になろう。なんとなくニジェール川の湾曲部の最北端くらいだったような……というのを思い出せた受験生は，資料集を穴が空くほど眺めていた僕と同じタイプなので素質（？）がある。そういうわけで正解はシ＝e。誤答のサとスも歴史的な地名なのかと思いきやそんなことはなく，サは現在のマリ共和国の首都のバマコ，スは現在のニジェール共和国の首都のニアメーを指していると思われる。確かに，ソンガイ王国の首都だったガオはシとスの中間地点からやや北くらいの位置，トンブクトゥに次ぐ交易都市だったジェンネはサとシの中間地点からやや南くらいの位置である。これらはあまりにもトンブクトゥに近すぎて，さすがに鬼畜の所業だろうという良心的判断が働いたのだろう。しかし，そのガオとトンブクトゥを判別させる本問以上の鬼畜的行為を上智大は過去に働いているので（2015年９番，拙著２巻p.235），その配慮は４年前にしてほしかったなと思う。
１４．上智大 2/6実施（４つめ）
＜種別＞限りなく出題ミスに近い
＜問題＞４ 問２ 下線部(1)（編註：サライェヴォでのオーストリア皇族暗殺事件）に関する次の文A, B の正誤を判断し，その正しい組み合わせを選びなさい。
A パン＝スラヴ主義の中心勢力であるセルビアの青年による犯行であった。
B 犯人はオーストリアのボスニア・ヘルツェゴヴィナ併合を不服としていた。
a A−正 B−正 b A−正 B−誤
c A−誤 B−正 d A−誤 B−誤
＜解答解説＞
Bは正文としてAの何がまずいのか，すぐに気づいた人も多かろう。プリンツィプは民族的にはセルビア人だが出身はボスニアなので，Aの文中の「セルビア」が指すのは国籍なのか民族なのかで解答が変わってしまう。加えて，
・通常の受験世界史において，プリンツィプがセルビア人であることは問われても，ボスニア出身であることはあまり問われないこと
・近年の用語集ではプリンツィプの項目が消滅し（教科書では頻度ゼロ），用語集の「サライェヴォ事件」の説明文内にのみ登場するが，それが「セルビア人青年プリンツィプ」としか書かれていないこと
ということから，範囲内の情報のみで作られている問題という前提で普通に読めば，正誤のポイントはプリンツィプが民族的なセルビア人であるか否かしか考えられない。しかし，前段の「パン＝スラヴ主義の中心勢力である」という余分な修飾があるせいで話がややこしくなる。パン＝スラヴ主義運動においてロシアと強く提携していたのは国家としてのセルビアである（と少なくとも高校世界史では扱われる）。しかも，本問を出題しているのは範囲外からの出題の常習犯，上智大である。結果的に，問いのポイントが国籍なのか民族なのかが不明瞭な問題になってしまった。
ここで用語集の説明文と本問の問題文を見比べてみると，問題文は「セルビア人」ではなく「セルビア」になっていることに気づく。これを深読みすれば，「パン＝スラヴ主義の中心勢力である」という修飾とのあわせ技で，国籍という説が濃厚と言える。とするとAは誤文になるので正解はcである……というのが，上智大の公式解答が発表される前までの私の結論だったのだが，なんと上智大の公式解答はaであった。つまり公式解答に従えばAは正文であり，問われているポイントは国籍ではなく民族だったことになる。これは「細部まで検証した考察によって出される解答」と「公式解答」が決定的にずれているという点で限りなく出題ミスに近い。
そうしてみると，なぜ「パン＝スラヴ主義の中心勢力である」という余分な文言を入れたのかという点と，なぜ用語集の説明から「人」の一文字を外したのか，という非常に不可解な謎が２点残る。いずれもハンロンの剃刀で考えると，
・前者については，「セルビア人青年」と「セルビアの青年」は同じ意味だと考えていて，かつ正誤のポイントを増やすべく「パン＝スラヴ主義」の文言を問題文に入れたかった。
・後者はボスニアの複雑な民族状況を知らず，かつ用語集の丸パクリは避けたいと考えて削ってしまった。
という推測が成り立つ。これが正しいかどうかはわからないが，いずれにせよ本問の作りは愚かの極みと言わざるを得ない。作問者がボスニアの複雑な民族状況を知っているのかを疑いたくなる。公式解答が発表されるようになったら，新たにこういう形での出題ミスが発生するという点で，本問は受験世界史の歴史に名を刻んだと言えよう。
上智大５日程のうち最後の2/8実施分は収録対象問題が無かった。一応最後の最後だけは綺麗に作った，ということだろうか。収録に迷うものはいくつかあったので，偶然かもしれない。
ここから慶應。
１．慶應義塾大 経済学部
＜種別＞出題ミス
＜問題＞１ 問２ （１） 下線部aに関連して（編註：1582年に，九州のキリシタン大名３名の名代として，伊東マンショら４名の少年が長崎港から出発した。日本からの使節は，ポルトガルの植民地の港を経てリスボンに入り），使節が日本とローマの往復の途上寄港した場所の位置として適切なものを， 地図中の１〜９から４つ選び，番号が小さい順に左から記入しなさい。
＜解答解説＞
本問は世界史・日本史共通問題であるが，日本史ではやや厳しい問題だったのではないだろうか。世界史選択としては当時のポルトガルの植民地（または勢力圏）かつアフリカ周りのインド航路を選んでいけばよいので，３（モザンビーク）・６（ゴア）・７（マラッカ）・８（マカオ）の４つが正解とすぐにわかる。ちょっとひねっていて思考力を要する良問である……と解説を終われたらどんなに良かったか。地図をざっと眺めた段階で，７の点の位置に違和感を覚えた方は少なからずいたのではないかと思う（気になる方のためにブログ上では大きめの画像を用意した）。７の場所はマラッカではなくシンガポールである。この地図の過失はもう１つある。８の点の位置は明らかにマカオではない。よく見るとこの地図は珠江河口（穿鼻湾）が書かれている。珠江河口は，その最奥に広州が位置し，入り口の東側に深圳と九竜半島（と香港島）が，入り口の西側に珠海とマカオが位置する。この位置関係は受験生も社会人も覚えておいて損は無いだろう。要するに，珠江河口の東側に点がある時点でここは絶対にマカオではないと言えてしまうのだ。さらに言えば，８の点は北回帰線が通っているが，マカオは北回帰線よりも南に位置するということからも，マカオであることを否定できてしまう。多分，８の点が指しているのは汕頭（スワトウ）だろう。
よって，本問は４つの解答を求められているが，正解が２つしかない。解答不能なので出題ミスである。慶大の経済学部は例年良問が多く，2020年もちょっと感動するくらい，作問者を尊敬すべき出来の良い問題が何問か出題されていた（可能であればおまけで紹介したい）。それだけに，この地図の点の打ち方は残念である。こんなところで瑕疵を作らないでほしかった。代ゼミから同様の指摘あり。というよりも代ゼミ以外が指摘していないのが意外。
〔番外編〕慶應大 商学部
＜問題＞２ 2月14 日はバレンタインデー，甘いチョコで甘い恋を――。チョコレートの原材料であるカカオはメキシコ南部を原産地とし，かつてはアステカ王国などの王や特権階級のみに限られた苦い飲み物であった。（中略，以下40行ほど普通の問題が続く）昨今の世界問題は，G8，新興経済国11か国および (73)(74) で構成されるG20の首脳会議で対応するようになった。昨年は大阪で開かれ，各国首脳へのお土産にゆずや日本酒味のチョコレートが選ばれた――さてさて，今宵は甘いチョコを召し上がれ。
（強調は編者による）
＜コメント＞
慶應大商学部の入試日は２月14日であるということを念頭に入れて読むと，大変に味わい深い。こういうお遊びは個人的には面白くて好きだが，末尾の絶妙なウザさはいかにもリア充系のイメージが強い慶應大という感じがする。同様のことは受験生にもつっこまれていた。そういえば，保険会社の方のロイズを聞いておいて，誤答選択肢に「チョコレート会社」を用意したのも2016年の慶應大の商学部であった（2016早慶２番，拙著２巻p.94）。
なお， (73)(74) の正解はEUで，割と難しい問題ではあるが，用語集に記載がある点と，選択肢から消していくとEUしか残らない点を考慮してぎりぎりセーフとした。
２．慶應大 商学部
＜種別＞難問
＜問題＞２ やがてカカオの味はスペイン本土にも広まり，そしてルイ14世と結婚したスペインの王女， (41)(42) は，フランス宮廷にカカオを脱脂して苦みを抑えたココアを嗜む習慣を浸透させた。
60 マリ＝テレーズ 61 マリ＝ルイーズ
（編註：関係のある選択肢のみ抜粋）
＜解答解説＞
他にも多くの人名が選択肢に並んでいるものの，事実上この２択である。正解はマリ＝テレーズ。チョコレートの歴史上，このエピソードは有名で，以降ココアは薬から甘味に変化してフランス菓子の仲間入りを果たすことになる。マリ＝ルイーズと呼ばれる人物は歴史上何人かいるが，ここで指しているのはハプスブルク家からナポレオン１世に嫁いだ人物であろう。こちらの方が有名であるので，消去法で解答にたどり着いた受験生もいたかもしれない。
なお，この辺りのチョコレートに関する歴史は『チョコレートの世界史―近代ヨーロッパが磨き上げた褐色の宝石』（武田尚子，中公新書，2010年）に詳しい。というよりも，このリード文では後にキットカットの話が出てくることを考えると，元ネタがこの本であろう。『チョコレートの世界史』は大西洋三角貿易から始まって社会帝国主義に話が移り，帝国主義の時代でもクウェーカー教徒のコミュニティにオーウェン的な労使協調路線が生き残っていて，そこで生まれたのがキットカットのブランドを作ったロウントリーという会社，という社会史がチョコレートそのものの歴史にからめて華麗に語られる名著なので，お勧めしておく。
３．慶應大 商学部（２つめ）
＜種別＞出題ミス
＜問題＞３ イラクは1991年に (103)(104) に侵攻し，湾岸戦争が勃発した。
（編註：正解がクウェートで自明すぎるので選択肢省略）
＜解答解説＞
イラクがクウェートに侵攻したのは1990年８月である。同年11月に「翌年１月までにイラクがクウェートから撤退しない場合，武力制裁に移行する」という国連安保理決議がなされ，1991年１月に湾岸戦争が勃発した。したがって，厳密に言えば (103)(104) にクウェートが入らない。大学当局から謝罪と受験生全員に得点を与えた旨の発表があった。
４．慶應大 商学部（３つめ）
＜種別＞出題ミス
＜問題＞３ 最近では地球環境に対するダメージを心配する国際世論の高まりとともに，温室効果ガスの排出量が多い石油への規制を強める動きが広がっている。たとえば，1994年に (109)(110) が採択され，この条約に基づいて1995年から毎年，国際会議が開催されるようになった。1997年に開催された第３回会議では，先進国に温室効果ガスの排出量削減を求める (111)(112) が採択された。
27 気候変動枠組条約 31 国連環境計画 62 モントリオール議定書
（編集：関係のある選択肢のみ抜粋。また， (111)(112) の正解は京都議定書。）
＜解答解説＞
正解は27の気候変動枠組条約……と言いたいところなのだが，気候変動枠組条約の採択は1992年で，発効が1994年である。本条約が1992年の地球サミット（国連環境開発会議）で採択されたのは有名であり，解いていて違和感があった受験生もいたのではないか。大学当局から謝罪と受験生全員に得点を与えた旨の発表があった。2020年の商学部は〔番外編〕で取り上げたように問題文が凝っていたし，収録した出題ミス２問と難問１問，G20の１問を除くとちょうどいい難易度の良質な問題であった。経済学部にも言えることだが，それだけに不注意な出題ミス２問がもったいない。
慶應大・文学部は収録対象無し。クルップ財閥，イラク南部のミスルの「バスラ」あたりが用語集頻度低めでやや難しかったかとは思うが，収録対象４つ，グレーゾーン６つだった昨年とは段違いの易しさ。慶應大の文学部と商学部は年度による難易度の振れ幅が大きすぎる。隔年現象というわけでもなくランダム性が高いので本当に読めない。難易度が高止まりしている法学部よりはマシと考えるか，対策が無に帰す可能性を悲しむべきか，受験生としては思考の持っていき方が難しい。
５．慶應大 法学部
＜種別＞難問
＜問題＞２ 1960年代以降，ラテンアメリカ地域では困難に直面しつつも民主化と経済発展に向けた努力が続き，文化面では『百年の孤独』等の作品で知られる (33)(34) が1982年にノーベル文学賞を獲得した。
09 ガルシア＝マルケス 20 パステルナーク 26 ペサーニャ
31 マルセル＝デュシャン 33 モラエス 38 ロマン＝ロラン
（編註：関係のある選択肢のみ抜粋）
＜解答解説＞
後に詳述するが2020年の慶應大・法学部は今年度で最難の日程であった。ここから怒涛の難問ラッシュが続く。閑話休題，本問は大人だとかえって常識的にガルシア＝マルケスと答えられるが，受験生にとってはよほど文学に興味がないと厳しかろう。用語集未収録で帝国書院の教科書にのみ記載あり。誤答の５人はロマン＝ロランのみ範囲内で頻度�◆せ弔蠅裡歓佑倭完�範囲外。26のペサーニャとモラエスはどちらもポルトガルから極東に移住した詩人で，ペサーニャはマカオ，モラエスは神戸と徳島に在住した。互いに交流があったそうだが，なぜそんなところから誤答用選択肢を持ってきたのかはよくわからない。
６．慶應大 法学部（２つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞２ しかし，21世紀に入っても (35)(36) 大統領による独裁的支配が継続したベネズエラのように，政治や経済が不安定な地域も少なからず残っている。
01 アサーニャ 02 アジェンデ 03 アフマディネジャド
05 ヴァルガス 10 カルデナス 16 チャベス
18 デュボイス 23 ピノチェト 25 フジモリ
27 ペロン 28 ボルソナロ 30 マルコス
（編註：関係のある選択肢のみ抜粋）
＜解答解説＞
半ば時事問題。正解はチャベスで，これも大人の方が正答率が高かろう。もっとも，ガルシア＝マルケスともども将来的には教科書に掲載されても全くおかしくない。ボルソナロは2020年現在のブラジル大統領。「ブラジルのトランプ」と呼ばれているが，あの舌禍はトランプやドゥテルテよりひどいと思う。一応，チャベス・フジモリ・ボルソナロ以外は範囲内なので，３択まで絞ってニュース等で聞き覚えがあるかどうかまでは受験生でも可能であるから，そこまで正答率は低くなかったかもしれない。
７．慶應大 法学部（３つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞２ ［設問１］ 下線部（ア）に関連して（編註：ラテンアメリカ地域では，紀元前から高度な文明が発達した），誤っているものを下から選び，その番号を (37)(38) にマークしなさい。
［01］ アステカ王国，インカ帝国，マヤ文明の版図を東西に並べると，インカ帝国が最も東側でアステカ王国が最も西側となる。
［02］ アンデス地方では，リャマやアルパカが家畜化され，牽引や食肉のために活用された。
［03］ 今日世界で広く食用とされているカカオ，カボチャ，キャッサバ，ピーマンは，いずれもアメリカ大陸原産の作物である。
［04］ ラテンアメリカ地域の諸文明では天文学や数学が発達し，天体観測器のアストロラーベが発明された。
＜解答解説＞
［02］は常識的に正文とわかろう。それ以外が難しい。［03］は個々の食べ物の判断がやや細かく，キャッサバ・ピーマンで悩む受験生はいたかもしれないが，正文である。キャッサバは帝国書院の教科書にのみ記述があるが，範囲外と見なしていいだろう。［01］はマヤ文明は「版図」なのかという根本的な問題があるが，メルカトル図法の地図が頭に入っていれば解答できる。メキシコシティが西経99〜100度付近，ユカタン半島は西経90度線が通っていて，インカ帝国は西経70度付近に展開したからこれも正文。
残った［04］が誤文で，アストロラーベはイスラーム世界で発明された器械。太陽や北極星の位置から現在時刻や緯度を計測できた。直径が15cmほどであったので持ち運びが容易であったため，アストロラーベと羅針盤があればとりあえず長距離移動が可能になったという点で偉大な発明である。中世から近世にかけてのユーラシア西側では広く普及していたが，東側ではなぜか使われなかった。当然，大航海時代以前のラテンアメリカ地域では使われていない。当時に数が出回っていてデザインも凝っているため，学術的にも骨董品としても価値が高く，ヨーロッパでは多くの博物館で収蔵されており，私も実物を見たことがある。アストロラーベは教科書類にはほとんど記載がないが，資料集では頻繁に見かけるので，資料集をよく眺めていた受験生はこれが誤文と一発で見抜けただろう。あるいは語学的なセンスがある人であれば「アストロ」がastro-であり，英語等で「天体の」を意味する接頭辞であることから，新大陸の命名ではなさそうと推測を立てられるかもしれない。正答率はそれほど低くなさそうだが，キャッサバとアストロラーベを機械的に範囲外と見なした点と，多くの予備校の解答速報で難問判定が下されている点を考慮して収録対象とした。
８．慶應大 法学部（４つめ）
＜種別＞難問・悪問
＜問題＞３ ５世紀から７世紀のインド南端部では (51)(52) 朝（前３世紀頃〜後14世紀）や， (53)(54) 朝（３〜９世紀）が繁栄した。
04 ヴァイシュラヴァナ 17 サラスヴァティー 30 チェーラ
31 チャールキヤ 32 チョーラ 38 ナンダ
41 パッラヴァ 43 パーンディヤ 47 プラティシュターナ
51 ラーシュトラクータ
（編註：関係のある選択肢のみ抜粋）
＜解答解説＞
この慶大・法学部の大問３は，大問レベルでは受験世界史の歴史の中でもワーストクラスの超難問ぞろいで，これよりやばいのは2011年の早大・社学の大問１くらいしか挙げられない。これを受けさせられた受験生はかわいそうである。作りが全体として用語集の片隅に載っているものか，用語集に無く特定の教科書１冊にのみ記載があるものを引いてきており，よくもまあこんなことに無為な労力をかけているなと思う。
閑話休題。厳密に言えば範囲内だが，そこは常識的に問わないやつ。南インドの王朝は以前に取り上げた際に論じたことがあるが，南インドは研究している人が少ないのかそもそも教科書・用語集に載っている王朝の存続年代がかなり雑なので，自身が研究者でよくわかっているわけでもない限り出題しない方がよいし，少なくとも用語集のコピペで作問するのはやめてほしい。本問はそのコピペ問題なのだが，それこそ用語集を一字一句暗唱できるくらいじゃないとこれは無理。判別しうるポイントが王朝の存続年代しかない。正解は (51)(52) はパーンディヤ朝， (53)(54) はパッラヴァ朝である。ただし，パーンディヤ朝は用語集では前３世紀頃〜後14世紀となっているが，実際には二度中断しており，前３〜後３世紀，６〜９世紀，12世紀末〜14世紀初頭とするのが正確。1500年以上続いたとする用語集の表記を誤りと見なすのであれば，本問は不成立である。なお，チョーラ朝も中断を無視して存続年代を書いていいなら前３〜13世紀となるので（実際には前３〜後４世紀，９〜13世紀），パーンディヤ朝との区別がつかなくなる。また，パッラヴァ朝も，本問では「インド南端」と示されているが，パッラヴァ朝の実際の位置はインド南東岸であって，南端ではない。たとえて言うなら，宮崎県南部を「九州南端」といって許されるかどうか。場所が誤っていると考えれば本問も不成立になる。この雑さを見るに特に南インドにこだわりがある作題者だったわけでもなさそうであり，何の意図があってこんなクソみたいな問題を作ったのかが全くわからない。なお，年代表記の雑さを含めて用語集における南インド諸王朝の問題点は拙著２巻のp.313-314にまとめているので，興味がある方はご参照ください（宣伝）。
誤答のうち，ヴァイシュラヴァナは毘沙門天のサンスクリット語表記でそもそも王朝や都市の名前ではない。サラスヴァティーも弁財天のサンスクリット語表記。プラティシュターナはサータヴァーハナ朝の首都。ラーシュトラクータ朝は北インドに８〜10世紀に存在した王朝。ナンダ朝は古代インドのマガダ国の王朝。マウリヤ朝によって滅ぼされた。これらは範囲外である。
９．慶大 法学部（５つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞３ ７世紀以降，マレー半島横断ルートに代わりマラッカ海峡ルートが主流になると， (59)(60) 文化と呼ばれる漁撈文化をもとに形成されていた林邑が，南シナ海交易を主導した。
14 サーフィン 37 ドンソン
（編註：関係のある選択肢のみ抜粋）
＜解答解説＞
そのまま素直にチャンパーを聞いておけよと思う難問。チャンパーの漢字表記は忌避される世の流れを無視して「林邑」と書いてしまうあたりにも，門外漢が作った雰囲気が見られる。正解はサーフィン（サフィン）文化だが，多くの受験生はドンソン文化しか選べないだろう。早慶の超難問対策としてはたまに見る用語ではあるので，対応できた受験生もいたかもしれない。東京書籍の教科書にのみ記載あり（p.107）。
１０．慶大 法学部（６つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞３ 続く第２次大交易時代に勢力を拡大した港市国家マラッカは， (63)(64) とよばれる港務長官を置き，東西海洋交易の中継港としての地位を確立したが，ポルトガルの侵攻により姿を消す。
02 アーヤーン 08 カーディー 20 シャーバンダル
39 ニザーム 45 ファキーフ
（編註：関係のある選択肢のみ抜粋）
＜解答解説＞
本年の最難問。ペルシア語の素養があれば，訳せば正解にたどり着けるかもしれない。正解はシャーバンダルで，「バンダル」が港，シャーが「王」の意味。シャーの方は普通に高校世界史で出てくるとして，バンダルはアッバース１世が建設した港の名前が「バンダレ＝アッバース」であることから推測できるかもしれないが，語末が変化していて完全に一致していないことや，バンダレ＝アッバースの用語集頻度�，任靴�ないことを踏まえると，無理な要求であろう。そもそもそのペルシア語の素養は受験世界史として要求していいものかも疑問である。実教出版の教科書にのみ記載あり（p.175）。イスラーム教国の港市国家はシャーバンダルを設置して港の管理にあたらせていて，マラッカ王国とサファヴィー朝のバンダレ＝アッバースのものが有名。マラッカ王国では来航する船舶の量が多かったためシャーバンダルが４名設置され，民族別の管理を敷いていたというのは海域史の本を読んでいるとたまに出てくる。
誤答の選択肢のうち，アーヤーンはイスラーム世界の名士のことで，特に後期のオスマン帝国の地方有力者を指す。カーディーはイスラーム世界の法官・行政官の意味。これらは用語集頻度�，念豈�範囲内。ニザームはアラビア語で「統治者」の意味で，ハイデラバード等で王号としても用いられた。ファキーフはウラマーのうち特に法学に特化した学者を指す。私はファキーフだけ初見で意味がわからなかった。イスラーム教用語は覚えても覚えても未見の用語が出てくるから恐ろしい。
１１．慶應大 法学部（７つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞３ ［設問２］ 下線部（イ）に関連して（編註：古マタラム朝），古マタラム朝が，ジャワ島中部に建造したヒンドゥー教寺院は (67)(68) である。 (67)(68) に入る最も適切な語句を語群より選び，その番号を解答用紙の所定の欄にマークしなさい。
01 アヌラダプラ 03 イシャナプラ 13 クトゥブ＝ミナール
18 サーンチー 28 タフティバヒー 42 ハルマンディル
48 ボロブドゥール 54 ロロジョングラン 55 ワット＝アルン
（編註：関係のある選択肢のみ抜粋）
＜解答解説＞
これは普通に考えれば正解はプランバナン寺院群になるはずであるが，語群にプランバナン寺院群がない。地獄である。正解はロロジョングランで，プランバナン寺院“群”の中の主要寺院をロロジョングランと呼ぶ。一応用語集のプランバナン寺院群の項目内にその説明があるが，これを覚えていた受験生は皆無に近かろう。というよりもプランバナン寺院群自体が用語集頻度��でそれなりに難易度が高い用語であるのだから，こちらを問うのでも十分であったはずである。そこからもう一ひねり加えるのはあまりにも性格が悪い。
誤答のうち，アヌラダプラはスリランカの古都。イシャナプラはアンコール朝以前のカンボジア（真臘）の首都。この２つは世界遺産である。旅行にでも行きたかったのだろうか。タフティバヒーはガンダーラにある遺跡。ハルマンディルはハリマンディル＝サーヒブのことで，アムリットサルにあるシク教の黄金寺院のこと。ワット＝アルンはバンコクにある代表的な仏教寺院。ハルマンディルは黄金寺院の名前であればいくつかの教科書に記載があるが，ハルマンディルの名で掲載しているのは実教出版の教科書のみ。ワット＝アルンは実教出版と帝国書院の教科書に記載あるが，ハルマンディルの様子を見るに実教出版の教科書から持ってきたものと思われる。私もさすがにハリマンディル＝サーヒブとワット＝アルン以外は知らない地名ばかりだった。これだけ知らない用語ばかり並んだ選択肢群は最近ではさすがに新鮮だった。
１２．慶應大 法学部（８つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞３ ［設問４］ 下線部（エ）に関連して，『東方見聞録』や『三大陸周遊記』にも記述のある，スマトラ島北端の港市国家は (71)(72) である。 (71)(72) に入る最も適切な語句を語群より選び，その番号を解答用紙の所定の欄にマークしなさい。
11 クダ 15 サムドゥラ＝パサイ 21 ジャンビ
23 新マタラム 24 水真臘 26 スラバヤ
40 パタニ 46 フーナ 49 マジャパヒト
50 羅越 52 ランサン 53 陸真臘
（編註：関係のある選択肢のみ抜粋）
＜解答解説＞
これも「アチェのことか？ でもアチェは15世紀末成立だからマルコ＝ポーロやイブン＝バットゥータとは時代が合わないな」と思って選択肢を見ると，そもそもアチェが無い。地獄の再来である。正解はサムドゥラ＝パサイ（サムドラの表記が一般的）で，13世紀末にイスラーム化した東南アジア最初のイスラーム教国とされている。ただし，イスラーム化の程度がわからず，他地域へ広がった点を考えるとやはり15世紀半ばのマラッカ王国改宗の方が重要であるので，あえてサムドラ＝パサイを強調することはないという指摘がなされ，それゆえに以前は範囲外の典型例でたまに見かける用語だったが，近年は見なくなっていた。専門家の指摘なんぞ知るかということか。「サムドゥラ」という表記が特徴的だったので出典があるだろうと探してみたら，実教出版の教科書に掲載されている地図中に小さな文字で記載があった（p.174）。しかし，教科書本文で特に補足されているわけではなく，これを範囲内と言うのは完全な無理筋である。
誤答のうち，クダはマレー半島のインド洋側の付け根にあった港市国家で，シュリーヴィジャヤや三仏斉（ジャーヴァカ）の有力都市の一つ。これも実教出版の教科書に記載あり。ジャンビも同じく，シュリーヴィジャヤや三仏斉の有力都市でスマトラ島中部に位置。スラバヤはジャワ島東部の港市で，近現代史での方が重要だろう。パタニはマレー半島中部のタイランド湾側の港市国家。マラッカと並んで早くにイスラーム化した。現在のいわゆるタイ深南部にあたる。フーナはエフタルの異称。なぜここに並んでいるのかがわからない。他の設問の誤答にもなりえないし。羅越は８〜９世紀頃にマレー半島南端にあったと『新唐書』に記述があるが，どこの港市を指しているのか定説がない。日本史では平城天皇の子の高岳親王が没した地という記録に見える。当然範囲外というか，羅越は私も初めて見た。どこから引っ張ってきたのだろう……
１３．慶應大 法学部（９つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞４ 華北の農村では，反キリスト教の動きが広まり，清朝によって (77)(78) として公認された宗教的武術集団が北京や天津に入り外国人を攻撃した。
23 常勝軍 28 団練 34 八旗 40 緑営
（編註：関係のある選択肢のみ抜粋）
＜解答解説＞
緑営と団練のどちらかまでは絞れても，そこからの判断は難しかろう。正解は団練。団練は地方の自警団のことで，地方官や郷紳が結成を主導したものや，政府の公認を得たものもあった。こうした団練の中から大規模化して郷勇と呼ばれる軍団が現れることになる。義和団の「団」も団練に由来する。実教出版の教科書に記載があるので（p.323）収録対象とするか迷ったが，実教出版以外で義和団が団練の一種であることに触れている教科書がなく，団練自体の用語集頻度が�△靴�なく難関私大対策以外ではまず触れない用語であることを加味して収録とした。
収録９つ，全て難問という驚愕すべき事態である。とある予備校講師が「鬼畜の所業」と罵っていたし，私とこの企画を長年並走している校正者の方も「人の心がない」と評していた。納得の評価と言わざるをえない。出題ミスが無かったのは不幸中の幸いであろう。なお，実際には受験生には難問だが範囲内と見なして収録から落としたものも列挙すると，チャド湖周辺に栄えた前近代の王国カネム＝ボルヌー（用語集頻度� 法ぅぅ鵐彪�法の制定年（1950年），ガンダーラとは別の仏像発祥の地マトゥラー（頻度�◆法ぅ▲薀咼�語で宰相の意味のワズィール（頻度� 法�13〜14世紀の変わり目に北インドに存在した王朝（ハルジー朝，事実上のヒントがこれしかないのは厳しい）。この５個も足せば計14問，全50問であるから，配点の約30％は激烈な難問だったと言える。もっとも，昨年も正式収録８問＋グレーゾーン７問で計15問，一昨年も収録４問にグレーゾーン10問の計14問だったので，３年連続で難易度変化はなく，難易度調整としては絶妙である。また，日本史も同様程度に激烈であるので，科目間のバランスはとれている。それにしてもお前いい加減にしろよとは思う。一昨年・昨年の分析では各予備校とも切れ気味なコメントを載せていたが，今年は諦め気味のコメントが多かったのはちょっと面白かった。多分，来年もこんなんだと思うので，慶應大・法学部を受ける人は覚悟しといてください。
慶應大・法学部の作問者一同は，良問かつ難問を作るのは単なる超難問を作るよりも労力も能力も必要ということを肝に銘じ，３年連続で怠惰と無能を晒している自覚をもっていただきたい。
＜種別＞奇問・悪問の可能性
＜問題＞３ 問４ 下線部（エ）（編註：ローマ帝国）の時代のキリスト教に関連して述べた次の文（ア， イ）の正誤の正しい組み合わせを選びなさい。
ア 313年にコンスタンティヌス帝がニケーア公会議を開催した。
イ 唐に伝わった景教は，キリストを神と同一視する。
a ア−正 イ−正
b ア−正 イ−誤
c ア−誤 イ−正
d ア−誤 イ−誤
＜解答解説＞
アは特に問題なく誤文。ニケーア公会議は325年。困ったのはイ。そこは別にアタナシウス派とネストリウス派の違いではないのでは，と考え出してドツボにはまってしまった。（以下は長々と神学の話題が続くので，興味がない方は本問のスルーを推奨。）
アタナシウス派とネストリウス派の差異は，キリストの中の属性の状態であって，アタナシウス派は神性と人性が同質不可分（融合はしていないが分離もしていない）とみなしているのに対し，ネストリウス派は神性と人性がキリストの中で分離して存在しているとみなしている。……と言われてもそれの何が重要なの？ という話になると思うが，これが聖母マリアの扱いにかかわってくるから問題になった。アタナシウス派の解釈では聖母マリアのお腹にキリストが宿った時点でキリストはすでに神性と人性を持つことになる。キリストの神性と人性は分離して存在しえないのだから，懐胎の段階からキリストは「神にして人」なのだ。したがって聖母マリアは神の子を生んだ「神の母」ということになる。一方，ネストリウス派では聖母マリアはあくまで人間としてのキリストの母であって，キリストの神性にはかかわりがない。キリストの神性は処女懐胎とは全く別にキリストに宿ったものであるとする。誤解を恐れずに言えば，キリストは後付で神性を得たのだ。したがって聖母マリアは神の母ではないということになる。結果的に，聖母マリア崇敬を推し進めたい主流派にとってネストリウス派は邪魔になり，431年のエフェソス公会議で異端と認定された。
さて問題に戻ると，仮にイの文がネストリウス派ではなくアリウス派であったならば，アリウス派におけるキリストは父なる神に劣った神性しか持たず，すなわち父なる神とは同質とはされない。よって誤文と判断できる。しかし，ネストリウス派では上述の通りで，この点ではアタナシウス派との差異が無い。いずれの教派であってもキリストは間違いなく神であり，父なる神と同質である。「人性と神性が分離しているから，神と同一視されない」という理屈が成り立ちうるだろうか。私には成り立たないように思える。
一方，実は山川の教科書『詳説世界史』p.48に「キリストを神と同一視するアタナシウス派」という記述があり，おそらくこれをそのままコピペで持ってきて，主語を景教に変えておけば誤文になるだろうという安直な発想で作問したのではないか。もしこの仮定が正しいならば神学部がある大学の入試問題にしてはあまりに杜撰で，「上智大のキリスト教からの出題に限って雑」という伝統は最後まで受け継がれた。しかもこの2/3実施は神学部を含んだ日程である。大学からの公式解答では，dを正解としていたので，やはりこの仮説は正しいと思われる。しかし，ということは前述のような神学的な理屈との不整合が生じるのではないか。
加えて，実は面白い現象が起きている。以下の灰色の文章は同2020年度の上智大の，別の日程にあたる2/8実施の世界史の問題。
２ (A) この聖にして偉大な全世界教会会議は，このような真理に反対する説をとなえることをやめさせる（中略）。われわれはみな，教父たちに従って，心を一つにして次のように教え，宣言する。われわれの主イエス・キリストは唯一の同じ子である。〔 〕。
問１ この史料は，451年に開催された公会議における決議文である。この公会議が開かれた場所は地図中のうちどれか。（編註：これはカルケドン公会議であるのでカルケドンの場所を示せばよく，小アジアの西部でミレトスではないことだけわかれば正解できる。本題ではないので地図は省略。）
問２ 〔 〕に入る文章として正しいものはどれか。
a 彼（キリスト）において神性と人性の二つの本性は分離している
b 彼（キリスト）は神性を完全に所有し，同時に人性を完全に所有する
c 彼（キリスト）は父と同質であり，神性のみを有する
d 彼（キリスト）は父と異質であり，人性のみを有する
aはネストリウス派，bはアタナシウス派，cは単性論（合性論），dはアリウス派の教義であるので，問２の正解はbでこれはちゃんと成り立っている問題であるが，ポイントは誤答の作り方である。アリウス派と単性論は同質（異質）という言葉を使ってアタナシウス派との差異を示せているのに，ネストリウス派は同質という言葉を用いていない。そこが差異ではないから，同質という言葉を用いて作れなかったのであろうと推測できる。これは重要な傍証になろう。
２．上智大 2/3実施（２つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞３ 問６ 下線部（カ）（編註：シトー修道会）について述べた次の文（ア， イ）の正誤の正しい組み合わせを選びなさい。
ア クレルモン宗教会議の３年後に創立された。
イ この会のクレルヴォーのベルナルドゥスは，修道院を舞台に神学を発展させた。
a ア−正 イ−正
b ア−正 イ−誤
c ア−誤 イ−正
d ア−誤 イ−誤
＜解答解説＞
純粋な難問。アもイも用語集に記載はあるものの，そんなところを覚えているやつは極々稀である。シトー修道会はさすがに用語集頻度�Δ世�，クレルヴォーのベルナルドゥス（聖ベルナール）はそもそもが用語集頻度� Ｎ省�とも正文で，シトー修道会設立は1098年。聖ベルナールは聖母マリア信仰を深めて神学上の業績がある。第２回十字軍を提唱したことでも知られるが，第２回十字軍自体が受験世界史ではマイナー。
なお，本問のリード文はワインの歴史で，ワインの歴史を滔々と語るオタク大学教授の授業を聴講する学生という会話文の形式となっていたが，授業冒頭が「わたしは未成年ですのでお酒の話には興味が持てません」という学生の一言で始まっていたのにちょっと笑った。上智大学は未成年の飲酒を勧めない健全な大学です。
３．上智大 2/4実施
＜種別＞悪問・出題ミス（複数正解）に限りなく近い
＜問題＞２ その際，カシミール地方では（ ８ ）が住民の多数を占めたが，藩王がインドヘの帰属を表明したため，そのことが原因となって２回にわたる（ ９ ）が生じた。
(8) a ムスリム b シク教徒 c ヒンドゥー教徒 d 仏教徒
(9) a カシミール戦争 b インド＝パキスタン戦争 c ビアフラ戦争 d インド大反乱
＜解答解説＞
（ ８ ）の方はaのムスリムが正解でいいとして，よくわからないのは（ ９ ）。aのカシミール戦争はまずそんな言葉が高校世界史に存在していない。「カシミール紛争」の誤植なのではないかと疑うのが普通の反応だと思う。英語でもKashmir conflict はメジャーな言葉だが，Kashmir warはあまり使われない。断続的に大小の衝突が続いているので紛争とした方がニュアンスは出る。とはいえカシミール戦争が本問の造語かというとそうではなく，第一次印パ戦争，第二次印パ戦争の同義語として第一次カシミール戦争，第二次カシミール戦争という言葉は存在する。第三次印パ戦争があって第三次カシミール戦争が無いのは，あちらは戦争勃発の直接の原因がバングラデシュの独立問題だからだ。もっとも，第三次印パ戦争でもカシミールの領有は争われているので，戦闘が無かったというわけではない。また，1999年の軍事衝突を第三次カシミール戦争（Third Kashmir war）と呼ぶ用法も英語圏では少数ながら存在しているので，必ずしも第三次カシミール戦争が存在していないとは言い切れない。カシミール戦争という言葉自体が明確な定義を持っているわけではないのだ。
その上で問題に戻ると，「２回にわたる」を「３回目は無かった」というニュアンスを出していると捉えると，aのカシミール戦争を正解と想定しているように思われる。しかし，前述の通りカシミール戦争は定義が曖昧で第３回が無かったとは断言できない。加えて最近の上智は用語集の片隅に載っている系の難問は多いが，完全な範囲外の用語を出すことは少なくなっている（誤答にしか用いない）傾向にあることも考えると，カシミール戦争を正解にするかは疑わしく思える。他方でbの印パ戦争を入れて，文が成り立たないほど事実関係がおかしくなるわけでもない。「そのこと（＝カシミール領有問題）が（直接の）原因となって，２回にわたる印パ戦争が生じた」という読み方をすれば，言外に３回目はカシミール領有問題が直接の原因ではないことを示唆しながら，意味の通る文として成り立つはずである。しかし，こんな解釈を要する文はまあ回りくどい。
という思考を経てから，上智大の公式解答を見たところ（９）の正解はbの印パ戦争であった。ではなぜ範囲外かつ定義の曖昧なカシミール戦争などという語を選択肢に入れたのか。実際には，複数正解の出題ミスと言いうるのではないかと思う。作題者はaのカシミール戦争が不正解と断定できる学術的に明確な根拠を提示してほしい。
４．上智大 2/4実施（２つめ）
＜種別＞出題ミスに近い
＜問題＞３
問９ オの説明として正しいものはどれか。
a 1346年，長弓隊の活躍によりイギリス軍がフランス軍を破った戦場。
b 1347年以降イギリス大陸領土として残った地。
c 1356年，エドワード黒太子率いる軍隊が勝利を得た地。
d 1429年に解放され，シャルル７世の戴冠が実現した都市。
問10 オでの戦闘を含む長期的英仏抗争と無関係なものはどれか。
a フランドル地方 b ヴァロワ朝 c ギエンヌ（ギュイエンヌ） d 模範議会
＜解答解説＞
皆さんお待ちかね，上智大名物「地図上に打たれた点がガバガバ」シリーズ。名物と言いつつも，かなり久々の登場である。本問に関係のない点，すなわちアはコンスタンティノープル，イはヘースティングズ，ウはワールシュタット（レグニツァ），エはカタラウヌム，カはグラナダであり，いずれも名だたる古戦場や包囲戦が行われた都市である。残ったオだけは難度が高い。こういう場合は問９の内容から逆算するという手がある。しかし，cの指すポワティエはポワトゥー地方，dの指すオルレアンはパリより南だから明確に異なるが，aの指すクレシー，bの指すカレーは場所が近接していて判別が困難である。しいて言えばカレーは海に面しているので，同様に海に面しているイのヘースティングズと比較するにオはやや海岸から離れている。これを根拠にaのクレシーと絞るのは一応可能だろう。実際に公式解答もaが正解であった。
しかし，どうにも違和感がぬぐえなかったので地図帳を参照すると，クレシーの場所は実際にはオよりもかなり北東で，オの位置にあるのはどちらかというとルーアンということが判明した。厳密に言うと本問は正解なしでは。問10はdが正解だが，問９が正解なしなら問10も連動して正解なしとなるかもしれない。あるいはルーアンであっても百年戦争中の戦闘があった場所ではあるので，独立して問題は正解していると強弁するかもしれないが。
５．上智大 2/4実施（３つめ）
＜種別＞難問・奇問
＜問題＞４ 問14 下線部（ス）について（編註：メキシコでゲリラ戦の訓練），カストロはこのときゲバラと出会ったが，ゲバラが生まれた国と死亡した国の組み合わせとして適切なものはどれか。
a アルゼンチン・ボリビア
b アルゼンチン・キューバ
c キューバ・キューバ
d キューバ・ボリビア
e キューバ・ソ連
＜解答解説＞
ゲバラクイズかな？ チェ＝ゲバラの生地はアルゼンチン。ゲリラ戦で捕虜になって殺されたのはボリビアなので正解はa。一応どちらも用語集に記載があるが，容赦なく範囲外判定でいいだろう。別の大学でもゲバラの評伝をリード文に使ったのを見かけたのでプチゲバラブームの様相なのだが，2020年って何かあったっけ。
６．上智大 2/4実施（４つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞４ 問15 下線部（セ）（編註：アメリカ合衆国はキューバと断交）を通告したアメリカ合衆国大統領は誰か。
a アイゼンハワー b ジョンソン c ケネディ d トルーマン e ニクソン
＜解答解説＞
最近の流行，キューバ断交シリーズ。キューバと断交した時のアメリカ大統領はaのアイゼンハワーであって，cのケネディではないというやつは過去に何度も解説しているのでもはや解説する気力もない。あまりに頻出すぎて予備校の難関私大クラスでは当たり前のように教えられるようになってしまい，満点防止問題としての機能を果たさなくなっているのではないか。
７．上智大 2/5実施
＜種別＞難問・奇問・悪問・出題ミス（複数正解）に近い
＜問題＞２ マレー半島では，1957年に( 10 )が独立し，その後，北ボルネオとシンガポールを加えて ( 11 )が形成されたが，1965年にシンガポールが離脱している。
(10) a マラヤ連邦 b マレー連合州 c マレーシア d マラヤ共和国
(11) a マレー連合州 b マレーシア c マレーシア連邦 d マラヤ＝シンガポール連邦
＜解答解説＞
(10)の正解はaのマラヤ連邦とすぐに出るのだが，(11)はbのマレーシアとcのマレーシア連邦をどう判別すればいいのかが全くの不可解。そう思って調べてみると，マレーシアの正式な国名は「マレーシア」で，「マレーシア連邦」はあくまでも俗称らしく，それを踏まえるとbが正解と想定された設問なのだろう。実際に上智大の公式解答もbが正解となっていた。しかし，問題文のどこにも正式名称で答えよとは書かれていない。また俗称と言っても意味的な誤りがある，失礼にあたる等の明確に欠点があるような類の俗称とは見なされておらず，人口に膾炙している。さらに教科書・資料集でも「マレーシア連邦」としているものがあり，用語集は気にした人がいるのか「マレーシア」であったので，教材間でも表記は割れている。以上の理由から，マレーシアと比較した際にマレーシア連邦を不正解にすべき根拠が無い。よしんば正式名称を優先してマレーシアのみを正解とするとして，それは完全に世界史の範疇ではなくカルトクイズである。この選択肢を作ったやつは確実に頭がおかしい。校正者の一人が「（後世の入試問題への悪影響を考えれば）出題者は打ち首獄門がふさわしい」と言っていたが，全くの同感である。本問の理屈を逆手にとればどれだけでも出題ミスの指摘ができるようになってしまう（実際にはしません）。そんな地獄を残して自分だけいなくなるなんて，さすがは上智大学，他の大学にはできないことを平然とやってのける，そこにしびれ（以下略
本問は結果的に，過剰な難易度の範囲外を問うているという点で「難問」，世界史ではない分野からの出題なので「奇問」，正式な名称を知っていても解答を出すには迷いが生じるという点で「悪問」，実際に理屈の上で多くの人が正解を２つと判断すると思われるという点で「出題ミスに近い」となり，本企画の種別グランドスラムを１問で達成した。長くやっている本企画でも極めてレアケースである。記念すべき１問と言えよう（全く褒めていない）。
８．上智大 2/5実施（２つめ）
＜種別＞難問・奇問
＜問題＞３
問４ 以下の説明は，地図２のどの場所についてのものか。
(1) アテネを盟主とするデロス同盟の本部が最初に置かれた。
(2) エヴァンズが発掘した宮殿跡からは線文字が刻まれた粘土板が発見された。
(3) オリュンピア（オリンピア）の祭典が，前776年から４年ごとに開催された。
(4) アポロン神殿があり，その神殿で出された神託を参考に各ポリスが重要事項を決定した。
(5) 「リュクルゴスの制」という軍国主義的な国制により先住民を支配し，強国になった。
＜解答解説＞
上智大名物，気の狂ったように細かい地図シリーズ。世界史入試最終年の今回にリバイバルしてきた。 (5)はスパルタなのでc，(2)がクノッソスなのでdまでは楽勝だろう。(1)はデロス同盟の本部なのでデロス島，名前の通り島なので，クノッソス＝dさえ消していれば，消去法でeに絞れる。デロス島は小島なのだ。残った(3)のオリュンピア，(4)のデルフォイが無理めの難問。正解は，オリュンピアがペロポネソス半島の北西に位置するのでa，デルフォイはアテネやテーベの北西に位置するのでb。ギリシアに観光旅行に行ったことがあればけっこう場所を覚えているものではあるが，上智大としてはそれくらい家族旅行で行ったことがあるというセレブを学生としてご所望ということだろうか。
９．上智大 2/5実施（３つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞３ 問５ ギリシア本土出身の人物は誰か。
a アルキメデス b ゼノン c トゥキディデス d ヒッポクラテス
e ヘロドトス
＜解答解説＞
続けての難問。しかも，それを知っててどうすんだよというところを突いてきて，かつ一応全部用語集の片隅に載っていることから出しているからすごい（褒めてない）。aのアルキメデスがシチリアのシラクサ出身，eのヘロドトスが小アジアのハリカルナソス出身なのは有名だが，残り３択から絞るのは普通の受験生には不可能に近い。dのヒッポクラテスはコス島出身，bのゼノンはキプロス島出身，よって正解はcのトゥキディデス。この人はアテネ出身でペロポネソス戦争にも従軍し，作戦失敗の責任により将軍を罷免されて追放されている。追放後にトラキアの所領に移って著述に専念したようだ。
１０．上智大 2/5実施（４つめ）
＜種別＞出題ミス
＜問題＞４ 問１ 下線部(ア)（編註：バルト海）に関連して述べた文として正しいものを選びなさい。
a 11世紀にノルウェー王がイングランドを征服し，ノルマン朝を創始した。
b ドイツ北西部の港町ハンブルクは，14世紀半ばにハンザ同盟に加わった。
c ハンザ同盟はモスクワに在外商館を設置した。
d イングランド王クヌートがデーン人の侵入を撃退した。
＜解答解説＞
aはノルウェー王がノルマンディー公の誤り。また，根本的にノルウェーもイングランドもノルマンディー地方もバルト海に面していない。cはモスクワがノヴゴロドの誤り。dはクヌート自身が侵入してきたデーン人なので誤り（『ヴィンランド・サガ』のアニメを見ていた受験生には余裕だったはず）。またこれもaに同じでバルト海に面していない。
残ったbが正文＝正解として作られた選択肢だったと思うのだが，�．魯鵐屮襯�はハンザ同盟の結成メンバーであるので「加わった」という表現は疑義がある。�▲魯鵐屮襯�はドイツ「北部」中央の都市であって，北西部ではない。上智大が依拠する山川の用語集ですら「北部」としているので言い逃れはできないはずである。北西部のイメージがあるとすれば，バルト海ではなく北海に注ぐエルベ川の下流域に位置しているからではないだろうか。あるいは旧西ドイツの北部の中心地，というイメージが強かったのかもしれない。��これもまたハンブルクがバルト海に面していない。以上の３つの理由からbを正文と見なすのは無理があり，本問は正文＝正解が存在しない。出題ミスと断定する。
本問，一番意味がわからなかったのは下線部が「バルト海」だったことで，この時点で世界史の知識が一切なくてもヨーロッパの地理が頭に入っていればa・b・dが誤文とわかってしまう。この後の文章が「（バルト海）から大西洋沿岸部におよぶ広い範囲」と続いているのだから，ここまで下線を引っ張っておけばこういうことにはならなかったはずである。
１１．上智大 2/6実施
＜種別＞悪問
＜問題＞１ 問４ 殷（商）に関する次の文A，Bの正誤を判断し，その正しい組み合わせを選びなさい。
A 殷で発達した青銅器は，祭祀や武器，さらに農具としても使われた。
B 現在のところ， 実在が確認されている中国最古の王朝である。
a A−正 B−正 b A−正 B−誤
c A−誤 B−正 d A−誤 B−誤
＜解答解説＞
Bは正文。夏王朝は実在が確認されているとは見なされていない。問題はAで，一般に春秋時代末期に鉄製農具が普及し始めるまで，古代中国では木製農具が主流だったとは習う。しかし，青銅製の農具の存在については高校世界史では触れられない。触れられていないものは，判断のしようがない。仮に本問の作問者が「木製農具が主流だったということは，青銅製農具は全く存在していなかったのだろうから，こうすればAは誤文になるだろう」と考えてこう作問してしまったなら，それは安直すぎよう。実際には，古代中国で青銅製農具がどの程度普及していたかは議論がある。CiNiiで簡単に検索をかけただけでも，やや古い論文になるが，次のようなものが見つかる。
小澤正人「中国における鉄器普及以前の農工具」『成城大学社会イノベーション研究』第１巻第１号，2005年
おそらく教科書を書く側はそのような論争の存在を踏まえて「木製農具が主流だった」としか書かず，青銅製農具の存在に言及していないはずである。なお，日本史の場合は青銅器と鉄器が弥生時代のほぼ同時期に流入した影響から，青銅器は祭器，鉄器が実用品とかなり綺麗に使い分けられ，鉄が貴重品であったために普及が追いつかないところでは木製の道具や石器を使い続けていたというのが判明している。このような現象は青銅器と鉄器がほぼ同時に入ってきたという極めて特殊な環境下だからこそ発生したのだが，この知識があるとかえって「青銅器の農工具なんてありえないだろう」という先入観が湧いてしまうかもしれない。そのような先入観こそ，研究者が持っていてはいけないものだと思うのだが，どうだろうか。案の定であるが，上智大の公式解答はc，すなわちAは誤文という扱いであった。
１２．上智大 2/6実施（２つめ）
＜種別＞難問・奇問
＜問題＞２ 問７ イスラーム世界を広く旅したイブン＝バットゥータが訪問した都市の組み合わせで誤っているものはどれか。
a サライ・バグダード・トンブクトゥ
b グラナダ・カイロ・モンバサ
c デリー・コンスタンティノープル・キルワ
d マリ・カーブル・カノ
＜解答解説＞
清々しいくらいクソみたいな難問＆奇問。dのカノがナイジェリアの地名というのを知っていれば一発でdが正解とわかるが，それができるのは地理マニアか，ナイジェリアに縁がある人だけだろう。私はちょっと前に『物語 ナイジェリアの歴史』（島田周平，中公新書，2019年）を読んでいたので，偶然わかったが。
カノはナイジェリア北部の都市で，ハウサ人が建設した中ではかなり古い部類に入り，おそらく12世紀頃に建設されたと見られている。ハウサ人が建設したナイジェリア北部の都市国家郡をハウサ諸王国と呼ぶ。イブン＝バットゥータが活動した14世紀前半にはまだサハラ縦断貿易の交易網に組み込まれておらず，トンブクトゥなどの西サハラとつながるのはしばらく後，特にソンガイ王国が滅んでからと考えられている。そういうわけでイブン＝バットゥータはトンブクトゥまでは移動しているが，ハウサ諸王国には赴いていない。なお，カーブルは普通に立ち寄っている。マリは何を指しているのかがよくわからなかったのだが，調べてみると，そもそもマリ王国のマリはイブン＝バットゥータがマリ王国の首都の都市名として『三大陸周遊記』に書き記したものに由来しているとのこと。なお，実際にはマリ王国の首都がどこにあったのかよくわかっておらず，この「マリ」が現在のどこを指しているのかは，一応ニアニという場所ではないかと言われているものの判然としていない。一応イブン＝バットゥータは行っているようである。つまり，dは正誤のポイントが本当にカノしかない。多分，作問者の意図としては，イブン＝バットゥータがナイジェリアを訪れていないことは自明として，カノの場所を知っているかどうかを問いたかったのだと思われる。地理でやれ。
１３．上智大 2/6実施（３つめ）
＜種別＞難問・奇問
＜問題＞２ 問13 下線部(G)（編註：マリ王国）の交易都市として栄えたトンブクトゥは地図のどこに位置するか。
a ア b イ c ウ d サ e シ f ス g セ
＜解答解説＞
地理でやれパート２。作問している頃に何か嫌なことでもあったのかな，と作問者のことが心配になる。サ・シ・スまでは絞れようが，そこから先は勘になろう。なんとなくニジェール川の湾曲部の最北端くらいだったような……というのを思い出せた受験生は，資料集を穴が空くほど眺めていた僕と同じタイプなので素質（？）がある。そういうわけで正解はシ＝e。誤答のサとスも歴史的な地名なのかと思いきやそんなことはなく，サは現在のマリ共和国の首都のバマコ，スは現在のニジェール共和国の首都のニアメーを指していると思われる。確かに，ソンガイ王国の首都だったガオはシとスの中間地点からやや北くらいの位置，トンブクトゥに次ぐ交易都市だったジェンネはサとシの中間地点からやや南くらいの位置である。これらはあまりにもトンブクトゥに近すぎて，さすがに鬼畜の所業だろうという良心的判断が働いたのだろう。しかし，そのガオとトンブクトゥを判別させる本問以上の鬼畜的行為を上智大は過去に働いているので（2015年９番，拙著２巻p.235），その配慮は４年前にしてほしかったなと思う。
１４．上智大 2/6実施（４つめ）
＜種別＞限りなく出題ミスに近い
＜問題＞４ 問２ 下線部(1)（編註：サライェヴォでのオーストリア皇族暗殺事件）に関する次の文A, B の正誤を判断し，その正しい組み合わせを選びなさい。
A パン＝スラヴ主義の中心勢力であるセルビアの青年による犯行であった。
B 犯人はオーストリアのボスニア・ヘルツェゴヴィナ併合を不服としていた。
a A−正 B−正 b A−正 B−誤
c A−誤 B−正 d A−誤 B−誤
＜解答解説＞
Bは正文としてAの何がまずいのか，すぐに気づいた人も多かろう。プリンツィプは民族的にはセルビア人だが出身はボスニアなので，Aの文中の「セルビア」が指すのは国籍なのか民族なのかで解答が変わってしまう。加えて，
・通常の受験世界史において，プリンツィプがセルビア人であることは問われても，ボスニア出身であることはあまり問われないこと
・近年の用語集ではプリンツィプの項目が消滅し（教科書では頻度ゼロ），用語集の「サライェヴォ事件」の説明文内にのみ登場するが，それが「セルビア人青年プリンツィプ」としか書かれていないこと
ということから，範囲内の情報のみで作られている問題という前提で普通に読めば，正誤のポイントはプリンツィプが民族的なセルビア人であるか否かしか考えられない。しかし，前段の「パン＝スラヴ主義の中心勢力である」という余分な修飾があるせいで話がややこしくなる。パン＝スラヴ主義運動においてロシアと強く提携していたのは国家としてのセルビアである（と少なくとも高校世界史では扱われる）。しかも，本問を出題しているのは範囲外からの出題の常習犯，上智大である。結果的に，問いのポイントが国籍なのか民族なのかが不明瞭な問題になってしまった。
ここで用語集の説明文と本問の問題文を見比べてみると，問題文は「セルビア人」ではなく「セルビア」になっていることに気づく。これを深読みすれば，「パン＝スラヴ主義の中心勢力である」という修飾とのあわせ技で，国籍という説が濃厚と言える。とするとAは誤文になるので正解はcである……というのが，上智大の公式解答が発表される前までの私の結論だったのだが，なんと上智大の公式解答はaであった。つまり公式解答に従えばAは正文であり，問われているポイントは国籍ではなく民族だったことになる。これは「細部まで検証した考察によって出される解答」と「公式解答」が決定的にずれているという点で限りなく出題ミスに近い。
そうしてみると，なぜ「パン＝スラヴ主義の中心勢力である」という余分な文言を入れたのかという点と，なぜ用語集の説明から「人」の一文字を外したのか，という非常に不可解な謎が２点残る。いずれもハンロンの剃刀で考えると，
・前者については，「セルビア人青年」と「セルビアの青年」は同じ意味だと考えていて，かつ正誤のポイントを増やすべく「パン＝スラヴ主義」の文言を問題文に入れたかった。
・後者はボスニアの複雑な民族状況を知らず，かつ用語集の丸パクリは避けたいと考えて削ってしまった。
という推測が成り立つ。これが正しいかどうかはわからないが，いずれにせよ本問の作りは愚かの極みと言わざるを得ない。作問者がボスニアの複雑な民族状況を知っているのかを疑いたくなる。公式解答が発表されるようになったら，新たにこういう形での出題ミスが発生するという点で，本問は受験世界史の歴史に名を刻んだと言えよう。
上智大５日程のうち最後の2/8実施分は収録対象問題が無かった。一応最後の最後だけは綺麗に作った，ということだろうか。収録に迷うものはいくつかあったので，偶然かもしれない。
ここから慶應。
１．慶應義塾大 経済学部
＜種別＞出題ミス
＜問題＞１ 問２ （１） 下線部aに関連して（編註：1582年に，九州のキリシタン大名３名の名代として，伊東マンショら４名の少年が長崎港から出発した。日本からの使節は，ポルトガルの植民地の港を経てリスボンに入り），使節が日本とローマの往復の途上寄港した場所の位置として適切なものを， 地図中の１〜９から４つ選び，番号が小さい順に左から記入しなさい。
＜解答解説＞
本問は世界史・日本史共通問題であるが，日本史ではやや厳しい問題だったのではないだろうか。世界史選択としては当時のポルトガルの植民地（または勢力圏）かつアフリカ周りのインド航路を選んでいけばよいので，３（モザンビーク）・６（ゴア）・７（マラッカ）・８（マカオ）の４つが正解とすぐにわかる。ちょっとひねっていて思考力を要する良問である……と解説を終われたらどんなに良かったか。地図をざっと眺めた段階で，７の点の位置に違和感を覚えた方は少なからずいたのではないかと思う（気になる方のためにブログ上では大きめの画像を用意した）。７の場所はマラッカではなくシンガポールである。この地図の過失はもう１つある。８の点の位置は明らかにマカオではない。よく見るとこの地図は珠江河口（穿鼻湾）が書かれている。珠江河口は，その最奥に広州が位置し，入り口の東側に深圳と九竜半島（と香港島）が，入り口の西側に珠海とマカオが位置する。この位置関係は受験生も社会人も覚えておいて損は無いだろう。要するに，珠江河口の東側に点がある時点でここは絶対にマカオではないと言えてしまうのだ。さらに言えば，８の点は北回帰線が通っているが，マカオは北回帰線よりも南に位置するということからも，マカオであることを否定できてしまう。多分，８の点が指しているのは汕頭（スワトウ）だろう。
よって，本問は４つの解答を求められているが，正解が２つしかない。解答不能なので出題ミスである。慶大の経済学部は例年良問が多く，2020年もちょっと感動するくらい，作問者を尊敬すべき出来の良い問題が何問か出題されていた（可能であればおまけで紹介したい）。それだけに，この地図の点の打ち方は残念である。こんなところで瑕疵を作らないでほしかった。代ゼミから同様の指摘あり。というよりも代ゼミ以外が指摘していないのが意外。
〔番外編〕慶應大 商学部
＜問題＞２ 2月14 日はバレンタインデー，甘いチョコで甘い恋を――。チョコレートの原材料であるカカオはメキシコ南部を原産地とし，かつてはアステカ王国などの王や特権階級のみに限られた苦い飲み物であった。（中略，以下40行ほど普通の問題が続く）昨今の世界問題は，G8，新興経済国11か国および (73)(74) で構成されるG20の首脳会議で対応するようになった。昨年は大阪で開かれ，各国首脳へのお土産にゆずや日本酒味のチョコレートが選ばれた――さてさて，今宵は甘いチョコを召し上がれ。
（強調は編者による）
＜コメント＞
慶應大商学部の入試日は２月14日であるということを念頭に入れて読むと，大変に味わい深い。こういうお遊びは個人的には面白くて好きだが，末尾の絶妙なウザさはいかにもリア充系のイメージが強い慶應大という感じがする。同様のことは受験生にもつっこまれていた。そういえば，保険会社の方のロイズを聞いておいて，誤答選択肢に「チョコレート会社」を用意したのも2016年の慶應大の商学部であった（2016早慶２番，拙著２巻p.94）。
なお， (73)(74) の正解はEUで，割と難しい問題ではあるが，用語集に記載がある点と，選択肢から消していくとEUしか残らない点を考慮してぎりぎりセーフとした。
２．慶應大 商学部
＜種別＞難問
＜問題＞２ やがてカカオの味はスペイン本土にも広まり，そしてルイ14世と結婚したスペインの王女， (41)(42) は，フランス宮廷にカカオを脱脂して苦みを抑えたココアを嗜む習慣を浸透させた。
60 マリ＝テレーズ 61 マリ＝ルイーズ
（編註：関係のある選択肢のみ抜粋）
＜解答解説＞
他にも多くの人名が選択肢に並んでいるものの，事実上この２択である。正解はマリ＝テレーズ。チョコレートの歴史上，このエピソードは有名で，以降ココアは薬から甘味に変化してフランス菓子の仲間入りを果たすことになる。マリ＝ルイーズと呼ばれる人物は歴史上何人かいるが，ここで指しているのはハプスブルク家からナポレオン１世に嫁いだ人物であろう。こちらの方が有名であるので，消去法で解答にたどり着いた受験生もいたかもしれない。
なお，この辺りのチョコレートに関する歴史は『チョコレートの世界史―近代ヨーロッパが磨き上げた褐色の宝石』（武田尚子，中公新書，2010年）に詳しい。というよりも，このリード文では後にキットカットの話が出てくることを考えると，元ネタがこの本であろう。『チョコレートの世界史』は大西洋三角貿易から始まって社会帝国主義に話が移り，帝国主義の時代でもクウェーカー教徒のコミュニティにオーウェン的な労使協調路線が生き残っていて，そこで生まれたのがキットカットのブランドを作ったロウントリーという会社，という社会史がチョコレートそのものの歴史にからめて華麗に語られる名著なので，お勧めしておく。
３．慶應大 商学部（２つめ）
＜種別＞出題ミス
＜問題＞３ イラクは1991年に (103)(104) に侵攻し，湾岸戦争が勃発した。
（編註：正解がクウェートで自明すぎるので選択肢省略）
＜解答解説＞
イラクがクウェートに侵攻したのは1990年８月である。同年11月に「翌年１月までにイラクがクウェートから撤退しない場合，武力制裁に移行する」という国連安保理決議がなされ，1991年１月に湾岸戦争が勃発した。したがって，厳密に言えば (103)(104) にクウェートが入らない。大学当局から謝罪と受験生全員に得点を与えた旨の発表があった。
４．慶應大 商学部（３つめ）
＜種別＞出題ミス
＜問題＞３ 最近では地球環境に対するダメージを心配する国際世論の高まりとともに，温室効果ガスの排出量が多い石油への規制を強める動きが広がっている。たとえば，1994年に (109)(110) が採択され，この条約に基づいて1995年から毎年，国際会議が開催されるようになった。1997年に開催された第３回会議では，先進国に温室効果ガスの排出量削減を求める (111)(112) が採択された。
27 気候変動枠組条約 31 国連環境計画 62 モントリオール議定書
（編集：関係のある選択肢のみ抜粋。また， (111)(112) の正解は京都議定書。）
＜解答解説＞
正解は27の気候変動枠組条約……と言いたいところなのだが，気候変動枠組条約の採択は1992年で，発効が1994年である。本条約が1992年の地球サミット（国連環境開発会議）で採択されたのは有名であり，解いていて違和感があった受験生もいたのではないか。大学当局から謝罪と受験生全員に得点を与えた旨の発表があった。2020年の商学部は〔番外編〕で取り上げたように問題文が凝っていたし，収録した出題ミス２問と難問１問，G20の１問を除くとちょうどいい難易度の良質な問題であった。経済学部にも言えることだが，それだけに不注意な出題ミス２問がもったいない。
慶應大・文学部は収録対象無し。クルップ財閥，イラク南部のミスルの「バスラ」あたりが用語集頻度低めでやや難しかったかとは思うが，収録対象４つ，グレーゾーン６つだった昨年とは段違いの易しさ。慶應大の文学部と商学部は年度による難易度の振れ幅が大きすぎる。隔年現象というわけでもなくランダム性が高いので本当に読めない。難易度が高止まりしている法学部よりはマシと考えるか，対策が無に帰す可能性を悲しむべきか，受験生としては思考の持っていき方が難しい。
５．慶應大 法学部
＜種別＞難問
＜問題＞２ 1960年代以降，ラテンアメリカ地域では困難に直面しつつも民主化と経済発展に向けた努力が続き，文化面では『百年の孤独』等の作品で知られる (33)(34) が1982年にノーベル文学賞を獲得した。
09 ガルシア＝マルケス 20 パステルナーク 26 ペサーニャ
31 マルセル＝デュシャン 33 モラエス 38 ロマン＝ロラン
（編註：関係のある選択肢のみ抜粋）
＜解答解説＞
後に詳述するが2020年の慶應大・法学部は今年度で最難の日程であった。ここから怒涛の難問ラッシュが続く。閑話休題，本問は大人だとかえって常識的にガルシア＝マルケスと答えられるが，受験生にとってはよほど文学に興味がないと厳しかろう。用語集未収録で帝国書院の教科書にのみ記載あり。誤答の５人はロマン＝ロランのみ範囲内で頻度�◆せ弔蠅裡歓佑倭完�範囲外。26のペサーニャとモラエスはどちらもポルトガルから極東に移住した詩人で，ペサーニャはマカオ，モラエスは神戸と徳島に在住した。互いに交流があったそうだが，なぜそんなところから誤答用選択肢を持ってきたのかはよくわからない。
６．慶應大 法学部（２つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞２ しかし，21世紀に入っても (35)(36) 大統領による独裁的支配が継続したベネズエラのように，政治や経済が不安定な地域も少なからず残っている。
01 アサーニャ 02 アジェンデ 03 アフマディネジャド
05 ヴァルガス 10 カルデナス 16 チャベス
18 デュボイス 23 ピノチェト 25 フジモリ
27 ペロン 28 ボルソナロ 30 マルコス
（編註：関係のある選択肢のみ抜粋）
＜解答解説＞
半ば時事問題。正解はチャベスで，これも大人の方が正答率が高かろう。もっとも，ガルシア＝マルケスともども将来的には教科書に掲載されても全くおかしくない。ボルソナロは2020年現在のブラジル大統領。「ブラジルのトランプ」と呼ばれているが，あの舌禍はトランプやドゥテルテよりひどいと思う。一応，チャベス・フジモリ・ボルソナロ以外は範囲内なので，３択まで絞ってニュース等で聞き覚えがあるかどうかまでは受験生でも可能であるから，そこまで正答率は低くなかったかもしれない。
７．慶應大 法学部（３つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞２ ［設問１］ 下線部（ア）に関連して（編註：ラテンアメリカ地域では，紀元前から高度な文明が発達した），誤っているものを下から選び，その番号を (37)(38) にマークしなさい。
［01］ アステカ王国，インカ帝国，マヤ文明の版図を東西に並べると，インカ帝国が最も東側でアステカ王国が最も西側となる。
［02］ アンデス地方では，リャマやアルパカが家畜化され，牽引や食肉のために活用された。
［03］ 今日世界で広く食用とされているカカオ，カボチャ，キャッサバ，ピーマンは，いずれもアメリカ大陸原産の作物である。
［04］ ラテンアメリカ地域の諸文明では天文学や数学が発達し，天体観測器のアストロラーベが発明された。
＜解答解説＞
［02］は常識的に正文とわかろう。それ以外が難しい。［03］は個々の食べ物の判断がやや細かく，キャッサバ・ピーマンで悩む受験生はいたかもしれないが，正文である。キャッサバは帝国書院の教科書にのみ記述があるが，範囲外と見なしていいだろう。［01］はマヤ文明は「版図」なのかという根本的な問題があるが，メルカトル図法の地図が頭に入っていれば解答できる。メキシコシティが西経99〜100度付近，ユカタン半島は西経90度線が通っていて，インカ帝国は西経70度付近に展開したからこれも正文。
残った［04］が誤文で，アストロラーベはイスラーム世界で発明された器械。太陽や北極星の位置から現在時刻や緯度を計測できた。直径が15cmほどであったので持ち運びが容易であったため，アストロラーベと羅針盤があればとりあえず長距離移動が可能になったという点で偉大な発明である。中世から近世にかけてのユーラシア西側では広く普及していたが，東側ではなぜか使われなかった。当然，大航海時代以前のラテンアメリカ地域では使われていない。当時に数が出回っていてデザインも凝っているため，学術的にも骨董品としても価値が高く，ヨーロッパでは多くの博物館で収蔵されており，私も実物を見たことがある。アストロラーベは教科書類にはほとんど記載がないが，資料集では頻繁に見かけるので，資料集をよく眺めていた受験生はこれが誤文と一発で見抜けただろう。あるいは語学的なセンスがある人であれば「アストロ」がastro-であり，英語等で「天体の」を意味する接頭辞であることから，新大陸の命名ではなさそうと推測を立てられるかもしれない。正答率はそれほど低くなさそうだが，キャッサバとアストロラーベを機械的に範囲外と見なした点と，多くの予備校の解答速報で難問判定が下されている点を考慮して収録対象とした。
８．慶應大 法学部（４つめ）
＜種別＞難問・悪問
＜問題＞３ ５世紀から７世紀のインド南端部では (51)(52) 朝（前３世紀頃〜後14世紀）や， (53)(54) 朝（３〜９世紀）が繁栄した。
04 ヴァイシュラヴァナ 17 サラスヴァティー 30 チェーラ
31 チャールキヤ 32 チョーラ 38 ナンダ
41 パッラヴァ 43 パーンディヤ 47 プラティシュターナ
51 ラーシュトラクータ
（編註：関係のある選択肢のみ抜粋）
＜解答解説＞
この慶大・法学部の大問３は，大問レベルでは受験世界史の歴史の中でもワーストクラスの超難問ぞろいで，これよりやばいのは2011年の早大・社学の大問１くらいしか挙げられない。これを受けさせられた受験生はかわいそうである。作りが全体として用語集の片隅に載っているものか，用語集に無く特定の教科書１冊にのみ記載があるものを引いてきており，よくもまあこんなことに無為な労力をかけているなと思う。
閑話休題。厳密に言えば範囲内だが，そこは常識的に問わないやつ。南インドの王朝は以前に取り上げた際に論じたことがあるが，南インドは研究している人が少ないのかそもそも教科書・用語集に載っている王朝の存続年代がかなり雑なので，自身が研究者でよくわかっているわけでもない限り出題しない方がよいし，少なくとも用語集のコピペで作問するのはやめてほしい。本問はそのコピペ問題なのだが，それこそ用語集を一字一句暗唱できるくらいじゃないとこれは無理。判別しうるポイントが王朝の存続年代しかない。正解は (51)(52) はパーンディヤ朝， (53)(54) はパッラヴァ朝である。ただし，パーンディヤ朝は用語集では前３世紀頃〜後14世紀となっているが，実際には二度中断しており，前３〜後３世紀，６〜９世紀，12世紀末〜14世紀初頭とするのが正確。1500年以上続いたとする用語集の表記を誤りと見なすのであれば，本問は不成立である。なお，チョーラ朝も中断を無視して存続年代を書いていいなら前３〜13世紀となるので（実際には前３〜後４世紀，９〜13世紀），パーンディヤ朝との区別がつかなくなる。また，パッラヴァ朝も，本問では「インド南端」と示されているが，パッラヴァ朝の実際の位置はインド南東岸であって，南端ではない。たとえて言うなら，宮崎県南部を「九州南端」といって許されるかどうか。場所が誤っていると考えれば本問も不成立になる。この雑さを見るに特に南インドにこだわりがある作題者だったわけでもなさそうであり，何の意図があってこんなクソみたいな問題を作ったのかが全くわからない。なお，年代表記の雑さを含めて用語集における南インド諸王朝の問題点は拙著２巻のp.313-314にまとめているので，興味がある方はご参照ください（宣伝）。
誤答のうち，ヴァイシュラヴァナは毘沙門天のサンスクリット語表記でそもそも王朝や都市の名前ではない。サラスヴァティーも弁財天のサンスクリット語表記。プラティシュターナはサータヴァーハナ朝の首都。ラーシュトラクータ朝は北インドに８〜10世紀に存在した王朝。ナンダ朝は古代インドのマガダ国の王朝。マウリヤ朝によって滅ぼされた。これらは範囲外である。
９．慶大 法学部（５つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞３ ７世紀以降，マレー半島横断ルートに代わりマラッカ海峡ルートが主流になると， (59)(60) 文化と呼ばれる漁撈文化をもとに形成されていた林邑が，南シナ海交易を主導した。
14 サーフィン 37 ドンソン
（編註：関係のある選択肢のみ抜粋）
＜解答解説＞
そのまま素直にチャンパーを聞いておけよと思う難問。チャンパーの漢字表記は忌避される世の流れを無視して「林邑」と書いてしまうあたりにも，門外漢が作った雰囲気が見られる。正解はサーフィン（サフィン）文化だが，多くの受験生はドンソン文化しか選べないだろう。早慶の超難問対策としてはたまに見る用語ではあるので，対応できた受験生もいたかもしれない。東京書籍の教科書にのみ記載あり（p.107）。
１０．慶大 法学部（６つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞３ 続く第２次大交易時代に勢力を拡大した港市国家マラッカは， (63)(64) とよばれる港務長官を置き，東西海洋交易の中継港としての地位を確立したが，ポルトガルの侵攻により姿を消す。
02 アーヤーン 08 カーディー 20 シャーバンダル
39 ニザーム 45 ファキーフ
（編註：関係のある選択肢のみ抜粋）
＜解答解説＞
本年の最難問。ペルシア語の素養があれば，訳せば正解にたどり着けるかもしれない。正解はシャーバンダルで，「バンダル」が港，シャーが「王」の意味。シャーの方は普通に高校世界史で出てくるとして，バンダルはアッバース１世が建設した港の名前が「バンダレ＝アッバース」であることから推測できるかもしれないが，語末が変化していて完全に一致していないことや，バンダレ＝アッバースの用語集頻度�，任靴�ないことを踏まえると，無理な要求であろう。そもそもそのペルシア語の素養は受験世界史として要求していいものかも疑問である。実教出版の教科書にのみ記載あり（p.175）。イスラーム教国の港市国家はシャーバンダルを設置して港の管理にあたらせていて，マラッカ王国とサファヴィー朝のバンダレ＝アッバースのものが有名。マラッカ王国では来航する船舶の量が多かったためシャーバンダルが４名設置され，民族別の管理を敷いていたというのは海域史の本を読んでいるとたまに出てくる。
誤答の選択肢のうち，アーヤーンはイスラーム世界の名士のことで，特に後期のオスマン帝国の地方有力者を指す。カーディーはイスラーム世界の法官・行政官の意味。これらは用語集頻度�，念豈�範囲内。ニザームはアラビア語で「統治者」の意味で，ハイデラバード等で王号としても用いられた。ファキーフはウラマーのうち特に法学に特化した学者を指す。私はファキーフだけ初見で意味がわからなかった。イスラーム教用語は覚えても覚えても未見の用語が出てくるから恐ろしい。
１１．慶應大 法学部（７つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞３ ［設問２］ 下線部（イ）に関連して（編註：古マタラム朝），古マタラム朝が，ジャワ島中部に建造したヒンドゥー教寺院は (67)(68) である。 (67)(68) に入る最も適切な語句を語群より選び，その番号を解答用紙の所定の欄にマークしなさい。
01 アヌラダプラ 03 イシャナプラ 13 クトゥブ＝ミナール
18 サーンチー 28 タフティバヒー 42 ハルマンディル
48 ボロブドゥール 54 ロロジョングラン 55 ワット＝アルン
（編註：関係のある選択肢のみ抜粋）
＜解答解説＞
これは普通に考えれば正解はプランバナン寺院群になるはずであるが，語群にプランバナン寺院群がない。地獄である。正解はロロジョングランで，プランバナン寺院“群”の中の主要寺院をロロジョングランと呼ぶ。一応用語集のプランバナン寺院群の項目内にその説明があるが，これを覚えていた受験生は皆無に近かろう。というよりもプランバナン寺院群自体が用語集頻度��でそれなりに難易度が高い用語であるのだから，こちらを問うのでも十分であったはずである。そこからもう一ひねり加えるのはあまりにも性格が悪い。
誤答のうち，アヌラダプラはスリランカの古都。イシャナプラはアンコール朝以前のカンボジア（真臘）の首都。この２つは世界遺産である。旅行にでも行きたかったのだろうか。タフティバヒーはガンダーラにある遺跡。ハルマンディルはハリマンディル＝サーヒブのことで，アムリットサルにあるシク教の黄金寺院のこと。ワット＝アルンはバンコクにある代表的な仏教寺院。ハルマンディルは黄金寺院の名前であればいくつかの教科書に記載があるが，ハルマンディルの名で掲載しているのは実教出版の教科書のみ。ワット＝アルンは実教出版と帝国書院の教科書に記載あるが，ハルマンディルの様子を見るに実教出版の教科書から持ってきたものと思われる。私もさすがにハリマンディル＝サーヒブとワット＝アルン以外は知らない地名ばかりだった。これだけ知らない用語ばかり並んだ選択肢群は最近ではさすがに新鮮だった。
１２．慶應大 法学部（８つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞３ ［設問４］ 下線部（エ）に関連して，『東方見聞録』や『三大陸周遊記』にも記述のある，スマトラ島北端の港市国家は (71)(72) である。 (71)(72) に入る最も適切な語句を語群より選び，その番号を解答用紙の所定の欄にマークしなさい。
11 クダ 15 サムドゥラ＝パサイ 21 ジャンビ
23 新マタラム 24 水真臘 26 スラバヤ
40 パタニ 46 フーナ 49 マジャパヒト
50 羅越 52 ランサン 53 陸真臘
（編註：関係のある選択肢のみ抜粋）
＜解答解説＞
これも「アチェのことか？ でもアチェは15世紀末成立だからマルコ＝ポーロやイブン＝バットゥータとは時代が合わないな」と思って選択肢を見ると，そもそもアチェが無い。地獄の再来である。正解はサムドゥラ＝パサイ（サムドラの表記が一般的）で，13世紀末にイスラーム化した東南アジア最初のイスラーム教国とされている。ただし，イスラーム化の程度がわからず，他地域へ広がった点を考えるとやはり15世紀半ばのマラッカ王国改宗の方が重要であるので，あえてサムドラ＝パサイを強調することはないという指摘がなされ，それゆえに以前は範囲外の典型例でたまに見かける用語だったが，近年は見なくなっていた。専門家の指摘なんぞ知るかということか。「サムドゥラ」という表記が特徴的だったので出典があるだろうと探してみたら，実教出版の教科書に掲載されている地図中に小さな文字で記載があった（p.174）。しかし，教科書本文で特に補足されているわけではなく，これを範囲内と言うのは完全な無理筋である。
誤答のうち，クダはマレー半島のインド洋側の付け根にあった港市国家で，シュリーヴィジャヤや三仏斉（ジャーヴァカ）の有力都市の一つ。これも実教出版の教科書に記載あり。ジャンビも同じく，シュリーヴィジャヤや三仏斉の有力都市でスマトラ島中部に位置。スラバヤはジャワ島東部の港市で，近現代史での方が重要だろう。パタニはマレー半島中部のタイランド湾側の港市国家。マラッカと並んで早くにイスラーム化した。現在のいわゆるタイ深南部にあたる。フーナはエフタルの異称。なぜここに並んでいるのかがわからない。他の設問の誤答にもなりえないし。羅越は８〜９世紀頃にマレー半島南端にあったと『新唐書』に記述があるが，どこの港市を指しているのか定説がない。日本史では平城天皇の子の高岳親王が没した地という記録に見える。当然範囲外というか，羅越は私も初めて見た。どこから引っ張ってきたのだろう……
１３．慶應大 法学部（９つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞４ 華北の農村では，反キリスト教の動きが広まり，清朝によって (77)(78) として公認された宗教的武術集団が北京や天津に入り外国人を攻撃した。
23 常勝軍 28 団練 34 八旗 40 緑営
（編註：関係のある選択肢のみ抜粋）
＜解答解説＞
緑営と団練のどちらかまでは絞れても，そこからの判断は難しかろう。正解は団練。団練は地方の自警団のことで，地方官や郷紳が結成を主導したものや，政府の公認を得たものもあった。こうした団練の中から大規模化して郷勇と呼ばれる軍団が現れることになる。義和団の「団」も団練に由来する。実教出版の教科書に記載があるので（p.323）収録対象とするか迷ったが，実教出版以外で義和団が団練の一種であることに触れている教科書がなく，団練自体の用語集頻度が�△靴�なく難関私大対策以外ではまず触れない用語であることを加味して収録とした。
収録９つ，全て難問という驚愕すべき事態である。とある予備校講師が「鬼畜の所業」と罵っていたし，私とこの企画を長年並走している校正者の方も「人の心がない」と評していた。納得の評価と言わざるをえない。出題ミスが無かったのは不幸中の幸いであろう。なお，実際には受験生には難問だが範囲内と見なして収録から落としたものも列挙すると，チャド湖周辺に栄えた前近代の王国カネム＝ボルヌー（用語集頻度� 法ぅぅ鵐彪�法の制定年（1950年），ガンダーラとは別の仏像発祥の地マトゥラー（頻度�◆法ぅ▲薀咼�語で宰相の意味のワズィール（頻度� 法�13〜14世紀の変わり目に北インドに存在した王朝（ハルジー朝，事実上のヒントがこれしかないのは厳しい）。この５個も足せば計14問，全50問であるから，配点の約30％は激烈な難問だったと言える。もっとも，昨年も正式収録８問＋グレーゾーン７問で計15問，一昨年も収録４問にグレーゾーン10問の計14問だったので，３年連続で難易度変化はなく，難易度調整としては絶妙である。また，日本史も同様程度に激烈であるので，科目間のバランスはとれている。それにしてもお前いい加減にしろよとは思う。一昨年・昨年の分析では各予備校とも切れ気味なコメントを載せていたが，今年は諦め気味のコメントが多かったのはちょっと面白かった。多分，来年もこんなんだと思うので，慶應大・法学部を受ける人は覚悟しといてください。
慶應大・法学部の作問者一同は，良問かつ難問を作るのは単なる超難問を作るよりも労力も能力も必要ということを肝に銘じ，３年連続で怠惰と無能を晒している自覚をもっていただきたい。
Posted by dg_law at 18:00│Comments(27)
この記事へのコメント
こんばんは。今年慶應法を受けて合格した者です。世界史はかなり好きで用語集や東京書籍の教科書、その他私大用の参考書をいくつか詰めましたが、結果76点でした。
大問3は本当に厳しかったです。解いていて冷や汗が出てきました。東南アジアについてはここ何年か出題がなかったので大問で出てくるだろうとヤマを張っていたのですが、まさかインド南部の王朝を年代で判断させるとは……。自分はそれぞれの王朝の首都で判別しようとしていたので見事にやられました。語群も仰る通り見たことのない言葉だらけで憶測もクソもなく、作問者に対して非常に怒りを覚えています。
話が飛びますが、慶應法では英語において6年間出題の途絶えていた「インタビュー問題」という熾烈な難易度の問題が復活し、また毎年お馴染みの長文問題も例年よりも難しく、その動揺のままこの世界史を解かされるのはかなり精神的に厳しかったです。英語でコケた受験生は世界史での逆転が不可能と悟り絶望したのではないかと…(自分もそうでした)
大問3は本当に厳しかったです。解いていて冷や汗が出てきました。東南アジアについてはここ何年か出題がなかったので大問で出てくるだろうとヤマを張っていたのですが、まさかインド南部の王朝を年代で判断させるとは……。自分はそれぞれの王朝の首都で判別しようとしていたので見事にやられました。語群も仰る通り見たことのない言葉だらけで憶測もクソもなく、作問者に対して非常に怒りを覚えています。
話が飛びますが、慶應法では英語において6年間出題の途絶えていた「インタビュー問題」という熾烈な難易度の問題が復活し、また毎年お馴染みの長文問題も例年よりも難しく、その動揺のままこの世界史を解かされるのはかなり精神的に厳しかったです。英語でコケた受験生は世界史での逆転が不可能と悟り絶望したのではないかと…(自分もそうでした)
Posted by mid at 2020年03月13日 19:13
更新お疲れさまです。
いつもこの企画を楽しみにしております。
わたしは性格悪いので
「"マレーシア連邦" site:sophia.ac.jp」で検索しちゃったりして。
あっ……
いつもこの企画を楽しみにしております。
わたしは性格悪いので
「"マレーシア連邦" site:sophia.ac.jp」で検索しちゃったりして。
あっ……
Posted by ゆきゆきてシングンマイケル at 2020年03月14日 13:18
＞midさん
おめでとうございます。76点ということは配点の約30％の激烈な難問ゾーンもいくつか取れてますね？ すごいことです。
＞自分はそれぞれの王朝の首都で判別しようとしていたので見事にやられました。
時代しかヒントが無いなんて普通は思わないですからね……首都名があったところで難問ではありますが。
英語は予備校の評価を見ると全体の難易度が上がったわけではないようですが，長年無かった問題が復活すると動揺しますもんね。
＞ゆきゆきてシングンマイケルさん
当然ですが，割とカジュアルに使ってますねｗ
おめでとうございます。76点ということは配点の約30％の激烈な難問ゾーンもいくつか取れてますね？ すごいことです。
＞自分はそれぞれの王朝の首都で判別しようとしていたので見事にやられました。
時代しかヒントが無いなんて普通は思わないですからね……首都名があったところで難問ではありますが。
英語は予備校の評価を見ると全体の難易度が上がったわけではないようですが，長年無かった問題が復活すると動揺しますもんね。
＞ゆきゆきてシングンマイケルさん
当然ですが，割とカジュアルに使ってますねｗ
Posted by DG-Law at 2020年03月14日 14:16
待ってました！！今年一橋に合格した者です！この企画から色々な知識を吸収出来た事も私の合格の一因だと思ってますありがとうございました。
河合も駿台も東進も一橋の大問�気旅嵒召鬚笋籠顱粗颪箸靴討泙靴燭�私見でも大人しいなと思った問題でした。私の感性は間違っていなくて安心しました、笑
河合も駿台も東進も一橋の大問�気旅嵒召鬚笋籠顱粗颪箸靴討泙靴燭�私見でも大人しいなと思った問題でした。私の感性は間違っていなくて安心しました、笑
Posted by あきら at 2020年03月14日 16:06
合格おめでとうございます。
そう，その自分の感性を信じましょう。冷静に考えればさして難しくないですね。三日目のおまけでちょっと触れようと思います。
そう，その自分の感性を信じましょう。冷静に考えればさして難しくないですね。三日目のおまけでちょっと触れようと思います。
Posted by DG-Law at 2020年03月14日 20:00
プランバナンが選択肢にないと気づいた時はさすがに帰ろうかと思った。
Posted by さつまいも at 2020年03月15日 19:02
そうでしょうねｗ
Posted by DG-Law at 2020年03月15日 22:57
今年度慶応法世界史82点で無事合格できました。
以前こちらのブログを拝見させていただいた時に、出題用語はなんだかんだいずれかの教科書には載っているということを知り、帝国・実教・東書・山川『新世界史』で知識を補いながら用語集で暗記しておりました。
大問3でジャーヴァカ・サムドラパサイ・シャーバンダルあたりの1冊にしか載ってないシリーズが出てきた時は心の中でガッツポーズでした。
ここを訪ねる以前は市販の参考書ばかりやっておりましたので、合格に向けて大きく勉強法を変えられたのは本当にこちらのブログのおかげです。
ありがとうございました。
以前こちらのブログを拝見させていただいた時に、出題用語はなんだかんだいずれかの教科書には載っているということを知り、帝国・実教・東書・山川『新世界史』で知識を補いながら用語集で暗記しておりました。
大問3でジャーヴァカ・サムドラパサイ・シャーバンダルあたりの1冊にしか載ってないシリーズが出てきた時は心の中でガッツポーズでした。
ここを訪ねる以前は市販の参考書ばかりやっておりましたので、合格に向けて大きく勉強法を変えられたのは本当にこちらのブログのおかげです。
ありがとうございました。
Posted by おかげさまで at 2020年03月18日 18:42
おめでとうございます。
そして，つよい……としかコメントしようがない。特にシャーバンダルを正解できたのはすごい。
本企画が参考にならないような世の中になるのが理想ですが，とはいえ役に立ったなら何よりです。実際に私自身も慶應法の問題の作りはこの企画をやっていてはっきり見えるようになりましたね。
そして，つよい……としかコメントしようがない。特にシャーバンダルを正解できたのはすごい。
本企画が参考にならないような世の中になるのが理想ですが，とはいえ役に立ったなら何よりです。実際に私自身も慶應法の問題の作りはこの企画をやっていてはっきり見えるようになりましたね。
Posted by DG-Law at 2020年03月18日 22:55
今年もお疲れ様です
この企画を毎年楽しみにしています
上智地図シリーズが同一年度に3つもってのは
新記録じゃないですか
これが今後見られなくなると思うと
一抹の寂しさもあったり
余談
書籍購入しました
2011年早稲田社会科学部は地獄でしたね
今年の慶応法もそれに迫る勢いのようですが
この企画を毎年楽しみにしています
上智地図シリーズが同一年度に3つもってのは
新記録じゃないですか
これが今後見られなくなると思うと
一抹の寂しさもあったり
余談
書籍購入しました
2011年早稲田社会科学部は地獄でしたね
今年の慶応法もそれに迫る勢いのようですが
Posted by 11pm at 2020年03月25日 00:44
あまり数を気にしてなかったのですが，上智は地図問題が多かったですね。というよりも，昔の地図のひどかった年はとてつもなくひどい地図が１・２枚あって，地図１枚に小問がいくつも連なっているというところだったのですが，今年は地図が多い代わりに地図１枚に小問１・２問というパターンでした。結果的に掲載する地図が増えたのかなと思います。
書籍版，１巻だと私大のハイライトは間違いなく2011年の早稲田大社会科学部ですね。国公立だと2014年の千葉大ですが。
２巻だと，ブログで扱っていない明治大が年を追うごとにだんだんひどくなっていくのが見ものなので，ご興味あれば是非。
書籍版，１巻だと私大のハイライトは間違いなく2011年の早稲田大社会科学部ですね。国公立だと2014年の千葉大ですが。
２巻だと，ブログで扱っていない明治大が年を追うごとにだんだんひどくなっていくのが見ものなので，ご興味あれば是非。
Posted by DG-Law at 2020年03月26日 00:08
2014年千葉大はどうしてこうなったって感想ですね
実は第2巻も購入済みだったりします
見直してみると明治大なかなかに酷いですね
ところで第1巻と第2巻の間が3年なので第3巻もそろそろでしょうか←
実は第2巻も購入済みだったりします
見直してみると明治大なかなかに酷いですね
ところで第1巻と第2巻の間が3年なので第3巻もそろそろでしょうか←
Posted by 11pm at 2020年03月30日 00:22
３巻は，準備は進めていますが，2020年中に出るかどうかは未定です。
固まったら告知すると思います。
固まったら告知すると思います。
Posted by DG-Law at 2020年03月31日 06:59
投稿お疲れ様です。
上智大2/4の入試でゲバラについてやたら詳しく問われましたが、おそらくローマ法王の来日と関係があったのだと考えられます。現在のローマ法王は中南米出身なんです。自分はこれを試験前日に聞いて「きっと中南米がでるに違いない」と思ってやっておいたら案の定当たりましたw
確証はありませんが、ローマ法王に合わせて、2020年の入試は作られたのだと思います。
上智大2/4の入試でゲバラについてやたら詳しく問われましたが、おそらくローマ法王の来日と関係があったのだと考えられます。現在のローマ法王は中南米出身なんです。自分はこれを試験前日に聞いて「きっと中南米がでるに違いない」と思ってやっておいたら案の定当たりましたw
確証はありませんが、ローマ法王に合わせて、2020年の入試は作られたのだと思います。
Posted by am1 at 2020年05月04日 05:20
ローマ教皇来日からのラテンアメリカ史全般なら理解ができるんですが，そこでゲバラに絞り込まれる要因が無いのですよね。で，なんでだろうなと疑問を抱いています。
Posted by DG-Law at 2020年05月05日 03:56
すみません、情報不足で申し訳ないのですが、次回の入試では、上智や早稲田では入試科目として「世界史」は無いのでしょうか？
インターネットで検索などしても、情報が見当たらないので、質問させていただきました。
インターネットで検索などしても、情報が見当たらないので、質問させていただきました。
Posted by Kotaro at 2020年05月20日 02:40
普通に大学のホームページに載っていますが……
早稲田大でやめるのは国際教養学部と政経学部だけですよ。
上智大は正確にはTEAP利用型入試だけ，社会科の入試が残ります。だから「ほぼ全日程」という表現になっています。
早稲田大でやめるのは国際教養学部と政経学部だけですよ。
上智大は正確にはTEAP利用型入試だけ，社会科の入試が残ります。だから「ほぼ全日程」という表現になっています。
Posted by DG-Law at 2020年05月20日 22:25
毎年楽しみにしています
すでにコメントにありますが明治が年々ひどいのを私も確認してますので、他力本願ではありますが、
上智の代わりに明治を本企画へ昇格するのはいかがでしょうか。よろしくお願い致します…！
すでにコメントにありますが明治が年々ひどいのを私も確認してますので、他力本願ではありますが、
上智の代わりに明治を本企画へ昇格するのはいかがでしょうか。よろしくお願い致します…！
Posted by 宇宙大将軍 at 2021年03月11日 09:34
明治大については別の方へのコメントにも書いたのですが，この２・３月のうちに全日程の入手が困難という事情でやっていません。
私も早めにやりたいのは山々で，実際に今年は入手できれば上智の代わりにやろうかなと思っていました。
明治大でひどいのは主に情コミュのせいなので，情コミュが入手できたらそれだけでも間に合わせたらよいかもしれません。実は今年分の原稿はもうほぼ固まっていて手を入れたくないので，来年度にちょっと考えます。
私も早めにやりたいのは山々で，実際に今年は入手できれば上智の代わりにやろうかなと思っていました。
明治大でひどいのは主に情コミュのせいなので，情コミュが入手できたらそれだけでも間に合わせたらよいかもしれません。実は今年分の原稿はもうほぼ固まっていて手を入れたくないので，来年度にちょっと考えます。
Posted by DG-Law at 2021年03月11日 14:09
トンブクトゥですがなぜか世界史A山川現代〜に場所つきで掲載されていました。
別件で発見したのでコメントいたします。
別件で発見したのでコメントいたします。
Posted by おおおおんづけ at 2021年08月29日 14:00
トンブクトゥは，Bならほぼすべての教科書で場所が載っていると思います。
問題は，ニジェール川上流域というところまでしか覚えないのが普通で，そんな細かい位置を出題されてもなってところですね。
問題は，ニジェール川上流域というところまでしか覚えないのが普通で，そんな細かい位置を出題されてもなってところですね。
Posted by DG-Law at 2021年08月30日 23:55
日本史で寧波の位置を問うような事と解釈致しました!
Posted by おおおんづけ at 2021年09月01日 23:07
寧波と杭州と上海でどれが寧波かな？ ってやる感じですかね。
Posted by DG-Law at 2021年09月03日 02:00
慶法志望の現役生です！
今日ちょうどこの年の赤本を解いて絶望していた所、こちらのブログに行きつきました。
全然解けなくて落ち込んでいたのですが、ブログを拝見してなんだか元気が出ました笑
今日ちょうどこの年の赤本を解いて絶望していた所、こちらのブログに行きつきました。
全然解けなくて落ち込んでいたのですが、ブログを拝見してなんだか元気が出ました笑
Posted by 慶法志望 at 2021年12月02日 23:41
お役に立てたのなら何よりです。
志望学部がわからないですが法学部とすると，2021年もひどい問題ですがこの2020年よりは若干マシですので，挑戦してみてください。
言うまでもないと思いますが，ここに載っているような問題はどうせ誰も解けないので，ここに載っていない問題を落とさないような勉強をするとよいでしょう。
志望学部がわからないですが法学部とすると，2021年もひどい問題ですがこの2020年よりは若干マシですので，挑戦してみてください。
言うまでもないと思いますが，ここに載っているような問題はどうせ誰も解けないので，ここに載っていない問題を落とさないような勉強をするとよいでしょう。
Posted by DG-Law at 2021年12月03日 22:24
度々失礼します。
この慶應法ラストの問題（解答：サムドゥラ＝パサイ）の誤答にある羅越なのですが山川出版社『詳説世界史』ｐ６４の東南アジアの地図内に載っているのを発見しました。
私が気づいたのは同社の詳説世界史探究の教科書の地図であったのを見つけ、頭おかしくなって新しく記載したのかと思い、旧教科書で調べてみたらあったという経緯です。おそらくここから慶應法は出題したのかと思います。
実教出版のサムドゥラもそうですが何の説明もないのに場所を記載するのはどういう了見なのでしょうね。
そういえば少し前に『海の東南アジア史』（ちくま新書 広末雅士）という本を読みましたがこのサムドゥラはシャーバンダルを通してマラッカの主要取引先だったようですね。この慶應法の問題への皮肉をこめて買って読んだ本のおかげでここの分野は少し詳しくなりましたね（笑）
この慶應法ラストの問題（解答：サムドゥラ＝パサイ）の誤答にある羅越なのですが山川出版社『詳説世界史』ｐ６４の東南アジアの地図内に載っているのを発見しました。
私が気づいたのは同社の詳説世界史探究の教科書の地図であったのを見つけ、頭おかしくなって新しく記載したのかと思い、旧教科書で調べてみたらあったという経緯です。おそらくここから慶應法は出題したのかと思います。
実教出版のサムドゥラもそうですが何の説明もないのに場所を記載するのはどういう了見なのでしょうね。
そういえば少し前に『海の東南アジア史』（ちくま新書 広末雅士）という本を読みましたがこのサムドゥラはシャーバンダルを通してマラッカの主要取引先だったようですね。この慶應法の問題への皮肉をこめて買って読んだ本のおかげでここの分野は少し詳しくなりましたね（笑）
Posted by 歴史科目の入試問題が好きな学生 at 2023年08月10日 01:26
いえいえ，毎度ありがとうございます。
＞羅越
ほんとだ。灯台下暗しですね。山川出版社『詳説世界史』とは。
まず間違いなく慶應法はここからとってきていますね。
しかしまあ，山川さんはどうしてこれを載せたのだろう。世界史探究の方にも載っているのは怖い。
＞実教出版のサムドゥラもそうですが何の説明もないのに場所を記載するのはどういう了見なのでしょうね。
おっしゃる通りで，説明できないものは載せないでほしいですね。羅越にどういう説明を施すのか気になってしまう。
＞この慶應法の問題への皮肉をこめて買って読んだ本のおかげでここの分野は少し詳しくなりましたね（笑）
この企画であるあるの現象ですねｗ
＞羅越
ほんとだ。灯台下暗しですね。山川出版社『詳説世界史』とは。
まず間違いなく慶應法はここからとってきていますね。
しかしまあ，山川さんはどうしてこれを載せたのだろう。世界史探究の方にも載っているのは怖い。
＞実教出版のサムドゥラもそうですが何の説明もないのに場所を記載するのはどういう了見なのでしょうね。
おっしゃる通りで，説明できないものは載せないでほしいですね。羅越にどういう説明を施すのか気になってしまう。
＞この慶應法の問題への皮肉をこめて買って読んだ本のおかげでここの分野は少し詳しくなりましたね（笑）
この企画であるあるの現象ですねｗ
Posted by DG-Law at 2023年08月13日 12:35
