2020年03月14日
2020受験世界史悪問・難問・奇問集 その２（早稲田大）
本日は早稲田大。見どころは２２番の教育学部の問題と，３０番の政経学部の問題。どちらも受験世界史に残る問題となったと思う，それぞれ違う意味で。
１４．早稲田大 文化構想学部
＜種別＞難問
＜問題＞設問２ 下線部B に関連し（編註：原人が現れ，アフリカ大陸の外へと拡散した），19世紀にジャワ島トリニールで化石人骨を発見した人物は誰か。次のア〜エの中から一つ選び，マーク解答用紙の所定欄にマークしなさい。
ア デュボワ イ シーボルト ウ ヘッケル エ シュレーゲル
＜解答解説＞
早稲田の文学部と文化構想学部は伝統的に古代オリエントと先史の出題が多く，ここ十年ほどは古代オリエントが続いていたが，2020年は先史が舞い戻った。シーボルトを削って３択からは絞れまい。正解はアのデュボワ。ヘッケルはドイツの生物学者で，海産の無脊椎動物の研究で有名らしい。シュレーゲルは有名人が多いのだが，シーボルト・ヘッケルの並びからするとドイツの生物学者のことだろう。シーボルトが日本で収集した標本を研究し，シュレーゲルアオガエルにその名を残しているという。してみると，正解のデュボワ→同じ医学者のシーボルト→日本産の動物の研究つながりでシュレーゲル→ドイツの生物学者つながりでヘッケル，という連想で本問の選択肢を作ったように思われる。結果的にデュボワからヘッケルまでがすごく遠い。一応デュボワは用語集のジャワ原人の項目に記載があるので厳密には範囲外ではないのだが，ここを覚えているやつは極少数であるという点とヘッケル・シュレーゲルが範囲外であるという点を加味し，本企画の趣旨を踏まえて収録とした。
ぎりぎり範囲内で解けると見なして収録しなかったが，同大問の「チャドで発見された最古の化石人骨」からサヘラントロプスを答えさせる問題も難しい。また，グリマルディ人とハイデルベルク人のいずれかが新人ではないかを選ばせる問題も難問（グリマルディ人が新人，しがってハイデルベルク人が正解）。この大問は小問が４問しかないので，４分の３が難問である。ただでさえ受験生は先史が苦手であるので，普通に全滅した受験生も多そう。
１５．早稲田大 国際教養学部
＜種別＞出題ミス（複数正解）
＜問題＞２ ナポレオンに敗北したプロイセンではフランスを強く意識した改革が行われ，またハイチでは革命の影響を受けた〔 i 〕がフランス軍を打ち破って，独立を実現した。
問９ 空欄〔 i 〕に当てはまる人物の名前を記述解答用紙の所定欄に記入しなさい。
＜解答解説＞
まず間違いなくトゥサン＝ルヴェルチュールを正解と想定して作られた問題だと思われるが，トゥサン＝ルヴェルチュールは独立達成前にフランス軍に捕らえられて獄死している。実際に独立を実現したのはデサリーヌである。このために教科書類はいずれも，ハイチの独立の指導者についてはもってまわった言い回しになっている。よって厳密に言えばここの正解はデサリーヌしか当てはまらないが，そこまで厳密に考えなければトゥサン＝ルヴェルチュールも当てはまらなくはない。ハイチ独立の第一人者と言えばトゥサンに違いなく，デサリーヌが範囲外であるから，高校世界史に則って解答しようとすれば史実に反しようがトゥサンとしか答えようがないからである。ほとんどの受験生はデサリーヌの存在を知らない。一方で，範囲外まで含めて過去の早大で出た人物を全て暗記してきているような受験生は「デサリーヌ」と解答したと思われる。以上のことを踏まえれば，片方のみ正解という処置は論外で，複数正解として処理されるべきであろう。河合塾・代ゼミ・増田塾から同様の指摘あり。早大の公式解答は「トゥサン＝ルヴェルチュール」のみであったが，世界史の公式解答全体について「※以下は解答例であり、別解がある場合があります。」という注意書きがあった。結局デサリーヌが正解扱いになったのかどうかは闇の中である。
１６．早稲田大 国際教養学部（２つめ）
＜種別＞出題ミス（複数正解）
＜問題＞４ 問１ 下線部a（編註：Great Depression）に関連する以下の記述のうち，誤りを含むものを一つ選びなさい。
ア 1929年のニューヨーク株式市場における株価暴落が，米国経済の恐慌を引き起こした。
イ 1932年の選挙で民主党のフランクリン・ローズベルトが大統領に当選し，ニューディールとよばれる経済復興政策を実施した。
ウ 英国の経済学者ケインズは，「雇用・利子および貨幣の一般理論」で，財政収支均衡を目的とした財政支出削減を主張した。
エ フランスはベルギー，オランダなどとフラン・ブロックを形成し，金本位制を維持した。
＜解答解説＞
アとイは正文。ウは全体的に誤りで，これが想定された正解だろう。ちょっと困ったのがエで，「維持した」とはいつまでを指すのかという点の解釈次第で解答が変わってしまう。イギリスと日本とドイツが1931年に金本位制を離脱し，1933年にアメリカがこの流れに追従する中で，フランス・イタリア・ベルギー・オランダ・スイス・ポーランドは金本位制を維持する協定を結んだ。しかし，この金ブロックは1935年にベルギーが脱落し，1936年に残りの国々も金本位制を離脱して解散となった。つまり，維持された期間はわずか３年である。これを，世界恐慌という環境の中で３年とはいえ維持していた，と読めばエは正文になるし，逆に第二次世界大戦開戦まですら維持できなかったというような読み方をすれば誤文になる。個人的には，こういう文は性善説（誤用）的に読んであげるべきだろうと思うので，悪問とは言えても出題ミスではないだろうと思っていたのだが，大学当局から謝罪と複数正解を認める旨の発表があった。河合塾から同様の指摘あり。
１７．早稲田大 国際教養学部（３つめ）
＜種別＞解答用紙のミス
＜問題＞５ 問８ イギリスでは18世紀に新しい農法が採用され，大幅な食糧増産が実現したといわれる。その農法とは何か。その用語を記述解答用紙の所定欄にカタカナで書きなさい。
＜解答解説＞
正解は「ノーフォーク農法」が想定されていると思われるのだが，解答がカタカナ指定である。こういう場合は，解答用紙にあらかじめ「農法」のみ印字されていることが多いのだが，実際の解答用紙には何の補足も印字されていなかった。したがって，本問の解答は３つのパターンが想定されるも，いずれも解答として不備が生じてしまう。
� ．痢璽侫�ーク：カタカナのみで自然な解答を出そうとするとこうなる。しかし，「ノーフォーク」は単なる地名であって，農法の名前ではない。
�◆．痢璽侫�ーク農法：問題の要求に対する解答としては過不足無いが，「カタカナで書け」の指定に従えていない。
�� ノーフォークノウホウ：解答として過不足無く，カタカナ指定にも従えているが，日本語の記述としてはあまりにも不自然である。
�ぁ．痢璽侫�ーク（農法）：妥協案。解答にカッコを使っていいものかという葛藤はあるが。
私が受験生だったら，�△伐鯏�すると思う。�い�ベストな対処だと思うが，現場で思いつく自信が無い。本問のような解答用紙のミスはたまに見かけるのだが，大体当日の試験中のうちに現場の受験生からの指摘があって訂正が入り，ぎりぎりのタイミングで事なきを得る。そのため，本企画の収録対象となることがめったにない。しかし，本問はこの国際教養学部の世界史の最後の問題であったためか，それとも引っ込み思案の受験生が多かったのか，当日中に訂正が入らなかったようである。その意味で大変に珍しい。代ゼミから同様の指摘あり。大学当局の公式解答は�，泙燭廊△世辰燭�，�い賄�然正解扱いになるとして，��がどうなったのかはちょっと気になる。
国際教養学部は2020年で入試科目から世界史が消える。その最後の年の最後の問題でこんなうっかりミスを出すとは，立つ鳥跡を濁すとはこのことであろう。
法学部は収録対象問題なし。300字論述が米墨関係史で多少難しかったが，収録するほどではないと判断した。
１８．早稲田大 文学部
＜種別＞問題文のミス
＜問題＞１ ヘブライ人の唯一神〔 A 〕が誕生した背景には，エジプト新王国末期のB太陽神だけを信仰する宗教改革が，強い影響を与えたとされるが，定かではない。
（編註：空欄Aの正解はヤハウェ。）
＜解答解説＞
下線部Bからアメンホテプ４世時代のエジプトについての問いが作られているが，アメンホテプ４世時代は新王国末期ではなく中期だろう。古代エジプト新王国は前1567年から前1085年に存続した約480年の王朝である（年代は諸説あるが高校世界史の年号を採用）。アメンホテプ４世の在位は前1351頃から前1334頃であるので，本当にちょうど真ん中である。歴史学上，年代的には中頃でも衰退期に入っていたら後期と見なしてしまうような事例はあるが（たとえば安史の乱後の唐），エジプト新王国の場合はアメンホテプ４世の後にラメス２世が登場するのでそういうわけにもいかない。幸いにして下線にかかっていないので出題には影響が無いが，仮に下線部Bがここまでかかっていたら，その問いは出題ミス扱いだったであろう。駿台から同様の指摘あり。
１９．早稲田大 文学部（２つめ）
＜種別＞悪問
＜問題＞６ 設問１ 下線部Aに関して，第一次世界大戦中のイギリスについて正しい説明はどれか。
イ 大戦中に，成人女性の国政への参政権が認められた。
ロ 総力戦といわれたが，男子への徴兵は見送られた。
ハ 戦争指導の失敗のため，戦時下にロイド＝ジョージは首相を罷免された。
ニ フランス，ロシアとともにサイクス・ピコ協定を結んだ。
＜解答解説＞
ニがどう見ても正文なので，残りの選択肢を吟味するまでもなく正解が出る。ロは厳密に言うと範囲外だが，総力戦なのに徴兵制ではないというのも考えづらいというところで推測がつくだろうし，ハは基礎知識で誤りとわかる。困ったのはイで，ここでいう「成人女性」の範囲が不明瞭である。イギリスは大戦末に第４回選挙法改正を行って30歳以上の女性（戸主または戸主の妻）に参政権を認めているが，男性は同改正で21歳以上の普通選挙を認めているので差別があり，条件がついたのも女性だけであった。よって，この「成人女性」を成人女性全員と読めば誤文になるし，一部ではあれ認められたと読めば正文になる。ここは成人女性全員と読まないと複数正解の出題ミスになってしまうので，そう汲んであげるのが適当だろう。実は私は割と自然に「全員の」と読んだので，初見では違和感が無かった。河合塾と駿台から同様の指摘あり。駿台は分析で「限りなく出題ミスに近い」と指摘し，河合塾は完全に出題ミスと断定。私的には悪問止まりかなと。
２０．早稲田大 人間科学部
＜種別＞難問
＜問題＞２ 康熙帝は，明の残存勢力を平定して中国全土に支配を広げ，つづく（ ５ ）および乾隆帝にいたる３代の皇帝が統治した130年余が清の黄金時代として知られている。
設問X
(5) a 太祖 b 太宗 c 世宗 d 毅宗 e 成祖
＜解答解説＞
正解は雍正帝だなと思って選択肢を見て愕然とする問題。唐や宋以外の中国の王朝で廟号を問うのは非常識だろう。大体において太祖は開祖，太宗は２代目であるということからaとbは外せるだろうが（実際にヌルハチとホンタイジである），残りはかなり厳しい。正解はcの世宗で，朝鮮王朝のセジョン（世宗）と同じである。eの成祖は明の永楽帝が有名で，清朝にはいない。dの毅宗は全く知らなかったので調べてみたら，明の崇禎帝がいた。なお，康熙帝は聖祖，乾隆帝は高宗。世宗・高宗は最盛期の君主や中興の祖の廟号でそれなりに見かけるが，聖祖は珍しく，私自身康熙帝以外に知らない。似たような廟号の聖宗は遼の２代目，澶淵の盟を結んだ時の皇帝が有名。世宗は朝鮮王朝と清朝以外だと前漢の武帝が該当。高宗は唐の３代目と南宋の初代が最も有名。
２１．早稲田大 人間科学部（２つめ）
＜種別＞難問・奇問
＜問題＞４ 設問Y �Α．�バマに関して述べた以下の文のうち，誤りを含むものを選びなさい。
a オバマはケニア人の父とアメリカ人の白人の母の子供としてハワイで生まれ，インドネシアでも子供時代を過ごした。
b オバマはアメリカ合衆国内に存在する人々の間の経済格差や，それに伴う医療格差の是正を目指し， 医療保険制度の改革に取り組んだ。
c オバマは大統領となってほどなく，プラハで核兵器廃絶を目指す姿勢を明らかにする演説を行い， そのことも評価されてノーベル平和賞を受賞した。
d オバマはイスラームとの対話を重視する立場と，財政負担軽減のため，前政権から続いていたアフガニスタンへの派兵を取りやめ，撤兵した。
＜解答解説＞
世界の左派知識人にはたまに異様にオバマが好きな人がいるが，これもそういう作題者なのだろうか。これは世界史の問題ではなくてオバマの個人史では。高校世界史と言いうるのはcだけである。これは容易に正文と判断できるだろうが，残りは受験生には厳しい。aとbは正文，dはようやくトランプ政権が撤退するかしないかという話をしているくらいなので誤文である。一応，dの内容は東京書籍の教科書にのみ記載あり（p.430）。aの内容は実教出版の教科書にのみ記載あり（p.415）。何度も繰り返し書いているが，こういうことをされても受験生はオバマに関心を持つどころか嫌いになるだけなのでやめてほしい。
２２．早稲田大 教育学部
＜種別＞出題ミス
＜問題＞２ （３） 現EU加盟国について誤っている説明はどれか。
a イギリスは，1973年にEC（ヨーロッパ共同体）に加盟した。
b クロアティアは，2004年にEU（ヨーロッパ連合）に加盟した。
c スペインは，1978年憲法で民主的な君主制に移行した。
d ルーマニアでは，反政府運動の中で，大統領夫妻が処刑された。
＜解答解説＞
2020年の出題ミス大賞は間違いなくこれ。よりによって皆そこだけは気をつけるだろうと思っていた箇所でやらかすのはかえってすごい。cとdは普通の正文。bはクロアティアのEU加盟年が2013年なので誤文。aはこの入試が行われた2020年2月19日時点でイギリスがEU加盟国ではないので（イギリスは2020年1月31日にEUから離脱），「現EU加盟国」についての説明として誤っていると判断できる。作問者は「離脱交渉が長引いているので２月の段階ではまだ無理だろう」と考えていたのだろうか。ジョンソンは賛否があるにせよ豪腕であった。この2020年というタイミングでしかできない出題ミスであり，図ったかのようなミスに初見時思わず感動してしまった。駿台・代ゼミから同様の指摘あり。大学当局から謝罪と全員正解としたという発表があった。選択肢に現EU加盟国ではない国を含んでしまっている時点で，残りの３つがどうだろうと問題全体が不成立と判断したようだ。
２３．早稲田大 教育学部（２つめ）
＜種別＞出題ミス（複数正解）
＜問題＞２ （７） フランスとドイツをめぐる20世紀の出来事について正しい説明はどれか。
a イギリス，ドイツ，フランス，ベネルクス３国で集団的自衛権を目的とした西ヨーロッパ連合条約が締結された。
b ヴィシー政権がドイツ占領に抵抗を示すと，レジスタンスがこれに協力した。
c フランスとベルギーによるルール占領後，フランスでポワンカレ内閣が成立した。
d フランスのミッテラン大統領がドイツのコール首相とともに，ヨーロッパ統合を推進した。
＜解答解説＞
ありがちなミス。aはドイツが余分なので誤文。bは何を言っているのかがよくわからないが，ヴィシー政権とレジスタンスが協力したという事実はないので誤文と見なしていいだろう。dは正文で，これが作問者の想定する正解と思われる。審議の対象はc。これはポワンカレ内閣はルール占領を実施した時の政権で，ルール占領が国際的な批判を浴びて退陣したから誤文という作りなのだと思われる。しかし，ポワンカレは1924年に退陣した後，1926年に再組閣しているので，ルール占領後に成立したポワンカレ内閣は存在していると見なすことができてしまう。この場合cは正文になるので，複数正解の出題ミスとも解釈できる。大学当局から謝罪と複数正解を認める旨の発表があった。
２４．早稲田大 教育学部（３つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞４ （７） イギリスがインドで行った戦争について，次の� 銑い�，年代の古いものから順に正しく配列されているのはどれか。
� ．哀襯�戦争
�◆．轡�戦争
�� ブクサールの戦い
�ぁ．泪ぅ宗璽訐鐐�
a ��→�、��あ��◆ �b ��→�あ��、���
c �あ��□���→� �d �あ���→�□���
＜解答解説＞
定番と言えば定番の問題。範囲内の知識だけだと�ぅ泪ぅ宗璽訐鐐茴��▲轡�戦争しか判断できず，どの選択肢とも�あ��△亙僂錣蕕覆い里乃佑澆任△襦０豈�，シク戦争が最後の征服戦争であることは基本事項として習うのでaとbに絞れるか。この段階でブクサールの戦いを知らなくても最初ということは判明するが，結局グルカ戦争とマイソール戦争のどちらが先かがわからないとどうしようもない。
もっとも，ブクサールの戦いもグルカ戦争も範囲外としては比較的見るもので，近年だとブクサールの戦いは2017年の慶應大・法学部で見た。早慶対策では触れられることがあるから，解答できた受験生もいただろう。ブクサールの戦いは1764年，プラッシーの戦いの後。マイソール戦争は第一次の開戦が1767年なのでこちらの方が後である。グルカ戦争は1814〜16年なので，1845年開戦のシク戦争よりも前。よって正解はbである。しかしまあ，他の私大が出したからうちも出そうという発想，本当にやめないか。際限なく出題してもいいものが広がってしまうという負の波及効果に想像を働かせてほしい。
２５．早稲田大 政経学部
＜種別＞難問
＜問題＞２ A ２ 下線部b（編註：近世以降のローマ教皇庁は，幅広い分野の芸術を積極的に後援した）に関する説明として，正しいものはどれか。
イ 教皇シクストゥス４世が，ミケランジェロに「天地創造」を描かせた。
ロ 教皇ユリウス２世が，ラファエロに「アテナイの学堂」を描かせた。
ハ 教皇アレクサンデル６世が，サン＝ピエトロ大聖堂の新築工事を始めた。
ニ 教皇レオ10世が，ヴァチカン宮殿内にシスティナ礼拝堂を造らせた。
＜解答解説＞
早慶上智名物，ローマ教皇マニアシリーズ。長年この企画をやっている私でも，シクストゥス４世の出題は初めて見た気がする。この中で範囲内と断言できるのはレオ10世だけ。ユリウス２世とアレクサンデル６世はグレーゾーンだが，ユリウス２世をサン＝ピエトロ大聖堂の再建着工とブラマンテの起用以外で，アレクサンデル６世を教皇子午線以外で問うのは反則だろう。本問の凶悪さは，そのグレーゾーンの知識を用いても，ハはアレクサンデル６世がユリウス２世の誤りで誤文ということ以外は確証をもって解答できず，３択からは絞れないところにある。
さて，シクストゥス４世はシスティナ礼拝堂の建設開始を命じた教皇で，高校世界史では無名だが，西洋美術史上は有名。ローヴェレ家の出身で，ユリウス２世の叔父でもある。よってニは誤文。そのシスティナ礼拝堂の天井画をミケランジェロに依頼したのがユリウス２世で，これを受けたミケランジェロが「天地創造」を描いた。したがってイも誤文である。結果としてロが残るが，これが正解。本問をすぱっと正解できた人は西洋美術史マニアかルネサンス期イタリアマニアかローマ教皇マニアのいずれかだと思う。
２６．早稲田大 政経学部（２つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞２ B ７ 下線部j（編註：ザクセン選帝侯）に関わる説明として，正しいものはどれか。
イ 神聖ローマ皇帝カール４世が発布した金印勅書によって，当時のザクセン辺境伯が選帝侯になった。
ロ 宗教改革の際，当時の選帝侯が建設した城で，ルターが『新約聖書』のドイツ語訳を完成させた。
ハ 北方戦争の際，ポーランド王を兼ねていた当時の選帝侯は，スウェーデン国王の軍と戦った。
ニ ティルジット条約によって，当時の選帝侯は王に昇格し，ワルシャワ大公を兼ねることになった。
＜解答解説＞
イはザクセン「辺境伯」がザクセン「公」の誤り。ニは神聖ローマ帝国が解体した時点で王に昇格しているので誤り（この誤文の作りは機転がきいていて上手い）。よってロとハの２択までは絞れるが，そこからは判断に窮する。ヴァルトブルク城を建てたのがフリードリヒ賢明公だとすると，新築の城に要人を匿うだろうかという疑念がわけば，その直感を信じてよい。11世紀に建てられたものとのこと。残ったハが正解。ポーランドがロシア側についていたのは普通に学習する事項なので，ザクセン選帝侯がポーランド王を兼ねていたかは知らなくても，なんとなく正文っぽく見える文ではあり，正答率はそれなりに高かったかもしれない。とはいえ，ヴァルトブルク城の建築年代を問う意味が全くわからず，出題意図に対する疑問だけが残る。
２７．早稲田大 政経学部（３つめ）
＜種別＞難問・悪文
＜問題＞２ B ４ 下線部mに関連して（編註：君主の神秘的な力），カペー朝以来のフランス王は，ある病の治癒力を持つと信じられていた。この治癒の儀式を行なったブルボン朝最後の国王の名を記せ。
＜解答解説＞
これは問題の読み方によって難易度が変わってくる。この問題文を「ブルボン朝の歴代国王の中で，この治癒の儀式を行った最後の人物」と読むと，治癒の儀式自体が範囲外であるので受験生には歯が立たない問題であるが，どうも作問者は「この治癒の儀式を行なった，ブルボン朝最後の国王」と読んでほしいらしく，そうすると途端に易しい問題になる。正解はシャルル10世。事実，シャルル10世は治癒の儀式を行っている。もう近代に入っていて，そんな非科学的現象あるわけがないだろうという風潮の中，シャルル10世はいやいやながらに挙行したようだ。もうちょっと自然な日本語の問題文を作ってほしい。
２８．早稲田大 政経学部（４つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞２ B ５ 下線部n（編註：王権神授説）を唱えたボシュエは，フランス教会の教皇権からの独立を唱えていた。このような考えは何と呼ばれるか，カタカナで記せ。
＜解答解説＞
ストレートな難問。正解はガリカニスム。『詳説世界史研究』には記載があるのでグレーゾーンではある。過去の早慶で出てたかなと思って検索してみたが，意外にも，少なくとも現行の課程になった2014年以降では出題例が無かった。
２９．早稲田大 政経学部（５つめ）
＜種別＞難問・誤記
＜問題＞２ B ６ 下線部o（編註：こじんまりした快適な隠れ家）のひとつサンスーシ宮殿がある都市の名と，その地で1685年にユグノーの受け入れを命じる王令を発した君主の名をそれぞれ記せ。
＜解答解説＞
前者の正解はポツダム。後者はそのままフリードリヒ２世を聞く問題かと思いきや，範囲外に飛んでいった。正解はフリードリヒ＝ヴィルヘルム大選帝侯。ところで，フリードリヒ＝ヴィルヘルムは選帝侯であるので“王令”ではないのではないだろうか。これ，プロイセンが王国だったと誤誘導して，フリードリヒ１世またはフリードリヒ＝ヴィルヘルム１世と誤答させるおそれがあるから，普通にまずい誤記では。駿台・河合塾から同様の指摘あり。
念のため「ポツダム王令」という使用例があるか調べてみたが，ネット上では全く見つからなかった。一応「ここで言う『王家』は君主家の意味であって，kingを示したものではない。天皇家でも王家と言い表すことはある」という言い訳はぱっと思いつくところだが，それを言うなら君主の命令を表す一般的な語は“勅令”ではないかという反論で死んでしまう。英語では区別がなくどちらもedictである。高校世界史でも10年ほど「ナントの勅令」と書かれていたが，近年は「ナントの王令」の表記が一般的になった。こういう事例に接してしまうと無理に王令という語を使う必要もないような気がしてくる。
３０．早稲田大 政経学部（６つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞３ ［都市δ］ ポルトガル支配ののち，19世紀に入ってスルタンの支配領域の中枢都市として台頭し，沿岸部に対する覇権の拠点となった。奴隷貿易，象牙貿易の発展とアラブ人がこの島で所有する丁子のプランテーションの成長により，沿岸域，インド洋交易の主要な中継港となった。1820年代から奴隷貿易の禁圧を口実に〔 b 〕が支配に乗り出し（編註：空欄bの正解はイギリス），1890年に保護領化を宣言した頃には，土着住民に加えて少数のヨーロッパ人，奴隷や商人などからなる多民族都市となっていた。1890年代以降は対岸沿岸部の都市の成長と鉄道建設によって中継港としての役割を終えた。
B １ 都市α〜δを，地図が描かれた当時の名称で記せ。
（編註：α〜γは省略。）
＜解答解説＞
本問は説明文と地図から都市名を当てる問題で，α・β・γは問題として大変に面白いので，紙幅の関係で省略したが，興味ある方は見てみるとよい（リンク先pdf注意）。
以下の解説では，読者の楽しみを奪わぬためにα〜γの解答は省略し，ネタバレになりそうな部分は伏せ字とした（書籍版を出す場合はα〜γの解説も〔番外編〕として書き足すかも）。δも問題としての完成度は高く，正直に言えば面白いとも思うのだが，難易度が高すぎて範囲内の知識では判断できないと見なして収録とした。
地図の方はあまりヒントが得られないので（ダラジャニ橋でわかったらこの都市の出身者かよほど海外旅行経験がある人だけだろう），説明文の方を読解する。まず，「奴隷貿易，象牙貿易」からアフリカの都市と断定。次に「アラブ人がこの島で所有する丁子のプランテーションの成長」から大陸東岸，スワヒリ文化圏の港市と推測する。西岸では大航海時代以降のヨーロッパ人が強く，ムスリム商人は喜望峰を回っていない。香辛料貿易があったことを踏まえても東岸と言える。なお，アフリカ西岸にはリベリア・シエラレオネの古名として「胡椒海岸」という地名があるが，これはヨーロッパ人がギニアショウガという現地の香辛料を胡椒と見間違えて命名してしまったもので，胡椒海岸に胡椒は自生していない。
解法に戻ろう。ここまで来るとやっと冒頭の「ポルトガル支配ののち」という情報が生きてきて，アフリカ東岸のスワヒリ文化圏という推測を固めることができる。そして「19世紀に入ってスルタンの支配領域」とあるからポルトガルが保持し続けた現モザンビークのモザンビークやソファラは消える。最後に「この島で」とあることから，この都市は大陸にはなく，インド洋に浮かぶ島であることがわかる。とするとマリンディは大陸にある都市なので外れて，キルワ・モンバサ・ザンジバルの３つが残る。さらに，これら３つは最終的に全て英領になるものの，キルワのあったタンガニーカが英領になったのは第一次世界大戦後のことで，それ以前はドイツ領であった。よって「1890年」にキルワが英領になったというのはありえないので選択肢から消せる。よって正解はモンバサとザンジバルの２択になる。しかし，ほとんどの受験生はここで詰みであろう。とはいえ，この２つまで絞れたなら相当大したもので，実際にこの２つの中に正解があるのだが，どちらを解答していても正解扱いにしてあげたい気はする。なお，地図の左側に大きな海があることから，モンバサはほぼ大陸と接している島であるので，西側に大海という配置はありえないという根拠をもってザンジバルに絞れるのではないかという発想はありうる。ところが，これが通用するのは地図の上が北ということが示されている場合のみで，この地図はそれが保証されていないから危うい解法である。実際に，この地図δ自体は上が北になっているものの，地図αは地図の左が北になっている。
したがって，ここからは反則技による解法になる。範囲外の知識で攻略する正攻法なら，「19世紀に入ってスルタンの支配領域の中枢都市として台頭」からオマーン海上帝国を想起でき，オマーン海上帝国のアフリカ領における首都はザンジバルであるから，正解はザンジバルとわかる。地図上に「スルタンの公邸」とあるのも，これを補強する。それはそれとして，キルワやモンバサが島であるということがあまり知られていないので，この段階をスキップして正解にたどり着いた受験生もいたかもしれない。
しかし，それよりも少しはスマートな解法がある。隣接科目，高校地理の情報を引いてくるのである（ただし高校地理としても範囲内と言えるかは怪しいことは先に書き添えておく）。最後の行の「1890年代以降は対岸沿岸部の都市の成長と鉄道建設によって中継港としての役割を終えた」はダルエスサラームの発展とタンザン鉄道のことだろうと推測すれば，ダルエスサラームの対岸ならザンジバルである。初見時の私の解法はこちらだった。ただし，そうすると「1890年代以降」はちょっと言い過ぎで，タンザン鉄道の敷設開始年代から「1960年代以降」 がより正確なところだと思う。
なお，さらに全く別の解法もある。別の設問で（A-3），「β〜δに共通する現象として都市αの周辺出身地域の女性が19世紀末に居住していた」とあり，「この女性たちが渡航していた共通で最大の理由は何か」ということが問われる。ここから都市αの正解が長崎とわかっていれば，これは「からゆきさん」のことを指しているとわかり（実際にA-3の正解選択肢は出稼ぎや人身売買の対象として渡航である），さらにアフリカに「からゆきさん」がいたのはザンジバルが有名な事例であるから，逆算してδがザンジバルとわかる。完全に範囲外の知識になってしまうが，「からゆきさん」くらいは常識的に知っておいてほしいという作問者のメッセージが含まれた設問だったのかもしれないし，このA-3から逆算するのが作問者の想定する解法だった可能性すらある。科目融合の流れや女性史の流行から，この用語が将来的には範囲内に入っている可能性はゼロではないと思う。５年後くらいの教科書に取り上げられていたら先見の明があった問題ということになるかもしれない。なお，このA-3自体は消去法で解けるために収録から外したが，「からゆきさん」のことを知らない受験生は正解を選びつつも何のことか全くわからなかったと思われる。
とはいえ，紹介した解法は３ついずれも現時点での受験生には過剰な要求であるに違いない。せめて説明文に「対岸はドイツ領となったが」と一言入れておいてくれれば，それでも難問ではあるが範囲内に落ち着いたと思う。説明文にアフリカと明記せず，特徴からスワヒリ諸都市と絞らせて，さらに旧宗主国から都市を特定させる仕掛けや，「からゆきさん」を迂回路として用意する仕掛けは凝っていて面白かっただけに，純粋な範囲内の問題に落とし込めていないのは本当に惜しい。
早大・政経学部は収録６つで，出題ミスではなく難問・悪問止まりのものであったのは国際教養学部よりもマシか。２５番のような新奇性のある問題も，２８番のような何の捻りのない問題も，３０番のやけに凝った問題を含めて，「来年度からやらないし，ストックの難問全部入れとくか」という雰囲気を感じた。最後の打ち上げ花火としては十分な輝きだったのではないだろうか。観客席の受験生に大やけどを負わせつつ……。
３１．早稲田大 商学部
＜種別＞難問
＜問題＞１ 同盟市戦争や奴隷の反乱が起こりローマ社会は混迷したが，とりわけ前73年から前71年に勃発したCスパルタクスの反乱はローマの支配者層を大きく動揺させた。この騒乱は〔 D 〕の剣闘士養成所から奴隷が脱走したことで始まり，一時は大軍となる大反乱となったが，〔 E 〕らにより鎮圧された。
問C 下線部Cについて，この反乱の統率者スパルタクスの出身地域はどこと伝えられているか。
１．ガリア ２．トラキア ３．サムニウム ４．ブリタニア
問D 〔 D 〕にはいる都市の名前はどれか。
１．アッピア ２．ローマ ３．カプア ４．ナポリ
問E 〔 E 〕について，この人物はつぎのうちどれか。
１．ポンペイウス ２．スラ ３．マリウス ４．クラッスス
＜解答解説＞
問Eのみ範囲内の真っ当な問題。正解はクラッスス。残りの２つは過剰に難しい。問Cの方はまだいい。用語集のスパルタクスの項目の説明文に記載がある。もっとも，こんなところを覚える人は少ないが。私はなんだか知らないが覚えていた。『ローマ人の物語』辺りの記憶だろうか。普通の受験生はブリタニアは遠すぎるから違いそう，サムニウムとトラキアはそもそもそんな名前知らないとして，ガリアを選ぶと思う。しかし正解はトラキア（おおむね現在のブルガリア）である。なお，過去の出題例を調べてみたところ，トラキアが出題されていたのは2010年の上智大までさかのぼらないと無かった（2010上智５番，拙著１巻p.374）。受験生が覚えるにはあまりにも費用対効果が悪い。
問Dはもっとひどい。完全な範囲外である。アッピアは街道の名前だから違う，ローマで反乱を起こしたということもなさそうということで２択までは絞れるだろうが，受験生にとってカプアは聞いたこともない地名であるのでナポリを選ぶと思う。しかも，スパルタクスはヴェスヴィオ山に立てこもっているので中途半端に知識があると余計にナポリを選んでしまう鬼畜仕様。正解はカプアである。
３２．早稲田大 商学部（２つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞１ 問F 下線部Fについて（編註：『対比列伝』（『英雄伝』）を記したローマ帝政期の哲学者・著述家），この人物が晩年に神官を務めた場所はどこか。
１．アテネ ２．アレクサンドリア ３．デルフォイ ４．オリンピア
＜解答解説＞
知るかこんなもんと言いたいところだが，用語集のプルタルコスの説明文に記載がある。これは載っている方がおかしい。知らないなりに選択肢を削るということすらできず，受験生は鉛筆を転がすしか手段がない。正解はデルフォイ。まあ神託をやってたしな，という直感が働いていた受験生がいたならなかなか勘が鋭い。しかし，実際にはプルタルコスが生きていた頃にはデルフォイの神託はすっかり廃れていて，それを復活させる目的でプルタルコスが最高神官に自薦で就任したという経緯がある。実はその直感は的外れなのである。用語集はそこまで解説してくれていない。果たして作問者がそこまで知っていて本問を出したのかは疑問で，用語集の説明だけ読んで実情を知らずに作ってしまったようにも思える。
３３．早稲田大 商学部（３つめ）
＜種別＞難問・奇問
＜問題＞１ 問H 下線部H（編註：ガリア）に関連する内容として，正しい記述はどれか。
１．ルグドゥヌムは，現在のフランスの首都になっている都市である。
２．マッシリアは，前600年頃にローマ人によって植民された都市である。
３．ブルディガラは，現在はワインの生産地として世界的に知られている都市である。
４．トロサは，現在は自動車産業の町として世界的に知られている都市である。
＜解答解説＞
実に早大商学部らしい意味不明問題。さすがはマイクロソフトの本社の位置を聞いた日程である。フランスの古代の都市名くらいは常識と言いたいのだろう。とりあえず範囲内の知識で取り掛かると，１はパリの古名がルテティアなので誤り。ルグドゥヌムはリヨンの古名である。２はマッシリア（現在のマルセイユ）がギリシア人の植民市なので誤り。ところで，マッシリアはラテン語表記で受験生には見慣れない。古代ギリシア語表記のマッサリアと書いてほしかったところ。で，３と４は絞れない。この２択に絞るところまでで十分な難易度なので，できればこの水準で正解が出せる作りにしておいてほしかった。
正解は３のブルディガラで，これは現在のボルドーのこと。４のトロサはトゥールーズのラテン語（およびオック語）での名称で，トゥールーズの主要産業は航空機産業であり，エアバス社の本社がある。自動車産業の町ではない。一応トゥールーズが航空機産業の都市というのは高校地理で習うので，トロサの音からトゥールーズを連想し，かつ高校地理の知識があれば消去法で正解が判明する（実際に私の解法はこれだった）。しかし，ブルディガラからのボルドーにせよトロサからのトゥールーズにせよ，これらの音からの連想は高校生に求めていい発想を超えていると思われるし，高校地理は完全に範囲外であるから，全く擁護できない問題の作りをしている。
３４．早稲田大 商学部（４つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞３ 問D 下線部Dに関連して（編註：スコットランド），正しいものはどれか。
１．スコットランド王ジェームズ６世は，イングランド王ジェームズ１世を兼ね，自由主義的な立憲王制を理想とした。
２．1707年，ジョージ１世の手によってイングランドとスコットランドは合同し，大ブリテン王国となった。
３．スコットランド生まれのアダム＝スミスは，『諸国民の富』などの著作で，古典派経済学を拓いた。
４．16世紀，スコットランド女王のメアリ＝スチュアートは，スコットランドのプロテスタント化を進めた。
＜解答解説＞
何十年か前の，ヨーロッパ史と中国史だけが詳しかった時代の高校世界史を彷彿とさせる問題。１は「自由主義的な立憲王制」が完全な誤り，２はジョージ１世がアン女王の誤り。ここまでは範囲内の知識で絞れるが残りが難しい。メアリ＝スチュアートは範囲外なのであるが，作問者にその意識がなく，消去法で解いてくれるだろうと思っていた節が見受けられる。メアリ＝スチュアートはフランスに嫁いでいることからもわかるようにばりばりのカトリックであるので４は誤り。アダム＝スミスは確かにスコットランド生まれであるので３が正文＝正解である。なお，驚くべきことにこの大問３のリード文に「15世紀の『地理上の発見』以降」という文が出てくるので，割と本当に何十年か前の高校世界史の記憶でこの大問３を作ってしまった可能性があり，そうすると逆にこの問D以外の収録対象を生み出さなかったのはとんでもない不幸中の幸いであろう。実際，残りの事項は世界史というよりも時事ネタとして言及したと思しき21世紀のもの以外は全て何十年か前の高校世界史と変わらない内容からの出題である。
３５．早稲田大 社会科学部
＜種別＞難問
＜問題＞３ 下線部(G)について（編註：オリンピア），下の地図の中からオリンピアの正しい場所を示した記号を１つ選べ。
＜解答解説＞
ほぼ全く同じ問題が同年の上智大で出ている（上智８番）。概ねそちらで解説した通り，aがアテネ，bがスパルタ，cがオリンピア（正解），dがデルフォイである。商学部でもデルフォイの名前が問われていた（３２番）。2020年はオリンピックイヤーだから古代ギリシアを積極的に出題しようということでこうなったのだろうか。2020年に限っていえばオリンピアとデルフォイの名前と場所は頻出だったと言わざるを得ない。
３６．早稲田大・社会科学部（２つめ）
＜種別＞出題ミス
＜問題＞４ 問１ 下線部（A）について（編註：アヘン戦争とアロー戦争），アヘン戦争とアロー戦争に関する記述のうち，最も適切なものを１つ選べ。
a．アヘン戦争の背景には，清からの大量の綿輸入に伴うイギリス側の対清貿易赤字の深刻化があった。
b．インド産アヘンの密貿易を取り締まるために，乾隆帝は林則徐を欽差大臣に任命した。
c．アロー戦争の要因のひとつには，広西で起こったイギリス人宣教師殺害事件があった。
d．清の公羊学者魏源が両戦争にまたがる時代の世界情勢を記した地理書『海国図志』は，日本でも大きな影響を与えた。
＜解答解説＞
aは「綿」輸入が「茶」輸入の誤り，bは乾隆帝が道光帝の誤り。cは「イギリス人」宣教師が「フランス人」の誤り。よって消去法でもdが正解と絞れ，これが作問者の想定する正解と思われる。しかし，『海国図誌』が示したのは明代からアヘン戦争以前の世界情勢であり，「両戦争にまたがる時代」の世界情勢を記したとは言いがたい。ただし，著者の魏源の問題意識はアヘン戦争の敗戦を受けた近代化改革にあり，西洋諸国の侵略の意図を明らかにすることであったから，広い意味では19世紀前半から半ばにかけての世界情勢を写し取ったと言えなくもない……書いていて自分でも苦しいと思った。大学当局から謝罪と正解の不在，全員に得点を与えた旨の発表があった。駿台から同様の指摘あり。なお，『海国図誌』は中国ではあまり読まれなかったが，むしろ日本で佐久間象山や吉田松陰が広めたために強い影響力を持った。その意味で世界史用語というよりも日本史用語である。用語集頻度も�，板磴ぁ�
＜種別＞難問
＜問題＞設問２ 下線部B に関連し（編註：原人が現れ，アフリカ大陸の外へと拡散した），19世紀にジャワ島トリニールで化石人骨を発見した人物は誰か。次のア〜エの中から一つ選び，マーク解答用紙の所定欄にマークしなさい。
ア デュボワ イ シーボルト ウ ヘッケル エ シュレーゲル
＜解答解説＞
早稲田の文学部と文化構想学部は伝統的に古代オリエントと先史の出題が多く，ここ十年ほどは古代オリエントが続いていたが，2020年は先史が舞い戻った。シーボルトを削って３択からは絞れまい。正解はアのデュボワ。ヘッケルはドイツの生物学者で，海産の無脊椎動物の研究で有名らしい。シュレーゲルは有名人が多いのだが，シーボルト・ヘッケルの並びからするとドイツの生物学者のことだろう。シーボルトが日本で収集した標本を研究し，シュレーゲルアオガエルにその名を残しているという。してみると，正解のデュボワ→同じ医学者のシーボルト→日本産の動物の研究つながりでシュレーゲル→ドイツの生物学者つながりでヘッケル，という連想で本問の選択肢を作ったように思われる。結果的にデュボワからヘッケルまでがすごく遠い。一応デュボワは用語集のジャワ原人の項目に記載があるので厳密には範囲外ではないのだが，ここを覚えているやつは極少数であるという点とヘッケル・シュレーゲルが範囲外であるという点を加味し，本企画の趣旨を踏まえて収録とした。
ぎりぎり範囲内で解けると見なして収録しなかったが，同大問の「チャドで発見された最古の化石人骨」からサヘラントロプスを答えさせる問題も難しい。また，グリマルディ人とハイデルベルク人のいずれかが新人ではないかを選ばせる問題も難問（グリマルディ人が新人，しがってハイデルベルク人が正解）。この大問は小問が４問しかないので，４分の３が難問である。ただでさえ受験生は先史が苦手であるので，普通に全滅した受験生も多そう。
１５．早稲田大 国際教養学部
＜種別＞出題ミス（複数正解）
＜問題＞２ ナポレオンに敗北したプロイセンではフランスを強く意識した改革が行われ，またハイチでは革命の影響を受けた〔 i 〕がフランス軍を打ち破って，独立を実現した。
問９ 空欄〔 i 〕に当てはまる人物の名前を記述解答用紙の所定欄に記入しなさい。
＜解答解説＞
まず間違いなくトゥサン＝ルヴェルチュールを正解と想定して作られた問題だと思われるが，トゥサン＝ルヴェルチュールは独立達成前にフランス軍に捕らえられて獄死している。実際に独立を実現したのはデサリーヌである。このために教科書類はいずれも，ハイチの独立の指導者についてはもってまわった言い回しになっている。よって厳密に言えばここの正解はデサリーヌしか当てはまらないが，そこまで厳密に考えなければトゥサン＝ルヴェルチュールも当てはまらなくはない。ハイチ独立の第一人者と言えばトゥサンに違いなく，デサリーヌが範囲外であるから，高校世界史に則って解答しようとすれば史実に反しようがトゥサンとしか答えようがないからである。ほとんどの受験生はデサリーヌの存在を知らない。一方で，範囲外まで含めて過去の早大で出た人物を全て暗記してきているような受験生は「デサリーヌ」と解答したと思われる。以上のことを踏まえれば，片方のみ正解という処置は論外で，複数正解として処理されるべきであろう。河合塾・代ゼミ・増田塾から同様の指摘あり。早大の公式解答は「トゥサン＝ルヴェルチュール」のみであったが，世界史の公式解答全体について「※以下は解答例であり、別解がある場合があります。」という注意書きがあった。結局デサリーヌが正解扱いになったのかどうかは闇の中である。
１６．早稲田大 国際教養学部（２つめ）
＜種別＞出題ミス（複数正解）
＜問題＞４ 問１ 下線部a（編註：Great Depression）に関連する以下の記述のうち，誤りを含むものを一つ選びなさい。
ア 1929年のニューヨーク株式市場における株価暴落が，米国経済の恐慌を引き起こした。
イ 1932年の選挙で民主党のフランクリン・ローズベルトが大統領に当選し，ニューディールとよばれる経済復興政策を実施した。
ウ 英国の経済学者ケインズは，「雇用・利子および貨幣の一般理論」で，財政収支均衡を目的とした財政支出削減を主張した。
エ フランスはベルギー，オランダなどとフラン・ブロックを形成し，金本位制を維持した。
＜解答解説＞
アとイは正文。ウは全体的に誤りで，これが想定された正解だろう。ちょっと困ったのがエで，「維持した」とはいつまでを指すのかという点の解釈次第で解答が変わってしまう。イギリスと日本とドイツが1931年に金本位制を離脱し，1933年にアメリカがこの流れに追従する中で，フランス・イタリア・ベルギー・オランダ・スイス・ポーランドは金本位制を維持する協定を結んだ。しかし，この金ブロックは1935年にベルギーが脱落し，1936年に残りの国々も金本位制を離脱して解散となった。つまり，維持された期間はわずか３年である。これを，世界恐慌という環境の中で３年とはいえ維持していた，と読めばエは正文になるし，逆に第二次世界大戦開戦まですら維持できなかったというような読み方をすれば誤文になる。個人的には，こういう文は性善説（誤用）的に読んであげるべきだろうと思うので，悪問とは言えても出題ミスではないだろうと思っていたのだが，大学当局から謝罪と複数正解を認める旨の発表があった。河合塾から同様の指摘あり。
１７．早稲田大 国際教養学部（３つめ）
＜種別＞解答用紙のミス
＜問題＞５ 問８ イギリスでは18世紀に新しい農法が採用され，大幅な食糧増産が実現したといわれる。その農法とは何か。その用語を記述解答用紙の所定欄にカタカナで書きなさい。
＜解答解説＞
正解は「ノーフォーク農法」が想定されていると思われるのだが，解答がカタカナ指定である。こういう場合は，解答用紙にあらかじめ「農法」のみ印字されていることが多いのだが，実際の解答用紙には何の補足も印字されていなかった。したがって，本問の解答は３つのパターンが想定されるも，いずれも解答として不備が生じてしまう。
� ．痢璽侫�ーク：カタカナのみで自然な解答を出そうとするとこうなる。しかし，「ノーフォーク」は単なる地名であって，農法の名前ではない。
�◆．痢璽侫�ーク農法：問題の要求に対する解答としては過不足無いが，「カタカナで書け」の指定に従えていない。
�� ノーフォークノウホウ：解答として過不足無く，カタカナ指定にも従えているが，日本語の記述としてはあまりにも不自然である。
�ぁ．痢璽侫�ーク（農法）：妥協案。解答にカッコを使っていいものかという葛藤はあるが。
私が受験生だったら，�△伐鯏�すると思う。�い�ベストな対処だと思うが，現場で思いつく自信が無い。本問のような解答用紙のミスはたまに見かけるのだが，大体当日の試験中のうちに現場の受験生からの指摘があって訂正が入り，ぎりぎりのタイミングで事なきを得る。そのため，本企画の収録対象となることがめったにない。しかし，本問はこの国際教養学部の世界史の最後の問題であったためか，それとも引っ込み思案の受験生が多かったのか，当日中に訂正が入らなかったようである。その意味で大変に珍しい。代ゼミから同様の指摘あり。大学当局の公式解答は�，泙燭廊△世辰燭�，�い賄�然正解扱いになるとして，��がどうなったのかはちょっと気になる。
国際教養学部は2020年で入試科目から世界史が消える。その最後の年の最後の問題でこんなうっかりミスを出すとは，立つ鳥跡を濁すとはこのことであろう。
法学部は収録対象問題なし。300字論述が米墨関係史で多少難しかったが，収録するほどではないと判断した。
１８．早稲田大 文学部
＜種別＞問題文のミス
＜問題＞１ ヘブライ人の唯一神〔 A 〕が誕生した背景には，エジプト新王国末期のB太陽神だけを信仰する宗教改革が，強い影響を与えたとされるが，定かではない。
（編註：空欄Aの正解はヤハウェ。）
＜解答解説＞
下線部Bからアメンホテプ４世時代のエジプトについての問いが作られているが，アメンホテプ４世時代は新王国末期ではなく中期だろう。古代エジプト新王国は前1567年から前1085年に存続した約480年の王朝である（年代は諸説あるが高校世界史の年号を採用）。アメンホテプ４世の在位は前1351頃から前1334頃であるので，本当にちょうど真ん中である。歴史学上，年代的には中頃でも衰退期に入っていたら後期と見なしてしまうような事例はあるが（たとえば安史の乱後の唐），エジプト新王国の場合はアメンホテプ４世の後にラメス２世が登場するのでそういうわけにもいかない。幸いにして下線にかかっていないので出題には影響が無いが，仮に下線部Bがここまでかかっていたら，その問いは出題ミス扱いだったであろう。駿台から同様の指摘あり。
１９．早稲田大 文学部（２つめ）
＜種別＞悪問
＜問題＞６ 設問１ 下線部Aに関して，第一次世界大戦中のイギリスについて正しい説明はどれか。
イ 大戦中に，成人女性の国政への参政権が認められた。
ロ 総力戦といわれたが，男子への徴兵は見送られた。
ハ 戦争指導の失敗のため，戦時下にロイド＝ジョージは首相を罷免された。
ニ フランス，ロシアとともにサイクス・ピコ協定を結んだ。
＜解答解説＞
ニがどう見ても正文なので，残りの選択肢を吟味するまでもなく正解が出る。ロは厳密に言うと範囲外だが，総力戦なのに徴兵制ではないというのも考えづらいというところで推測がつくだろうし，ハは基礎知識で誤りとわかる。困ったのはイで，ここでいう「成人女性」の範囲が不明瞭である。イギリスは大戦末に第４回選挙法改正を行って30歳以上の女性（戸主または戸主の妻）に参政権を認めているが，男性は同改正で21歳以上の普通選挙を認めているので差別があり，条件がついたのも女性だけであった。よって，この「成人女性」を成人女性全員と読めば誤文になるし，一部ではあれ認められたと読めば正文になる。ここは成人女性全員と読まないと複数正解の出題ミスになってしまうので，そう汲んであげるのが適当だろう。実は私は割と自然に「全員の」と読んだので，初見では違和感が無かった。河合塾と駿台から同様の指摘あり。駿台は分析で「限りなく出題ミスに近い」と指摘し，河合塾は完全に出題ミスと断定。私的には悪問止まりかなと。
２０．早稲田大 人間科学部
＜種別＞難問
＜問題＞２ 康熙帝は，明の残存勢力を平定して中国全土に支配を広げ，つづく（ ５ ）および乾隆帝にいたる３代の皇帝が統治した130年余が清の黄金時代として知られている。
設問X
(5) a 太祖 b 太宗 c 世宗 d 毅宗 e 成祖
＜解答解説＞
正解は雍正帝だなと思って選択肢を見て愕然とする問題。唐や宋以外の中国の王朝で廟号を問うのは非常識だろう。大体において太祖は開祖，太宗は２代目であるということからaとbは外せるだろうが（実際にヌルハチとホンタイジである），残りはかなり厳しい。正解はcの世宗で，朝鮮王朝のセジョン（世宗）と同じである。eの成祖は明の永楽帝が有名で，清朝にはいない。dの毅宗は全く知らなかったので調べてみたら，明の崇禎帝がいた。なお，康熙帝は聖祖，乾隆帝は高宗。世宗・高宗は最盛期の君主や中興の祖の廟号でそれなりに見かけるが，聖祖は珍しく，私自身康熙帝以外に知らない。似たような廟号の聖宗は遼の２代目，澶淵の盟を結んだ時の皇帝が有名。世宗は朝鮮王朝と清朝以外だと前漢の武帝が該当。高宗は唐の３代目と南宋の初代が最も有名。
２１．早稲田大 人間科学部（２つめ）
＜種別＞難問・奇問
＜問題＞４ 設問Y �Α．�バマに関して述べた以下の文のうち，誤りを含むものを選びなさい。
a オバマはケニア人の父とアメリカ人の白人の母の子供としてハワイで生まれ，インドネシアでも子供時代を過ごした。
b オバマはアメリカ合衆国内に存在する人々の間の経済格差や，それに伴う医療格差の是正を目指し， 医療保険制度の改革に取り組んだ。
c オバマは大統領となってほどなく，プラハで核兵器廃絶を目指す姿勢を明らかにする演説を行い， そのことも評価されてノーベル平和賞を受賞した。
d オバマはイスラームとの対話を重視する立場と，財政負担軽減のため，前政権から続いていたアフガニスタンへの派兵を取りやめ，撤兵した。
＜解答解説＞
世界の左派知識人にはたまに異様にオバマが好きな人がいるが，これもそういう作題者なのだろうか。これは世界史の問題ではなくてオバマの個人史では。高校世界史と言いうるのはcだけである。これは容易に正文と判断できるだろうが，残りは受験生には厳しい。aとbは正文，dはようやくトランプ政権が撤退するかしないかという話をしているくらいなので誤文である。一応，dの内容は東京書籍の教科書にのみ記載あり（p.430）。aの内容は実教出版の教科書にのみ記載あり（p.415）。何度も繰り返し書いているが，こういうことをされても受験生はオバマに関心を持つどころか嫌いになるだけなのでやめてほしい。
２２．早稲田大 教育学部
＜種別＞出題ミス
＜問題＞２ （３） 現EU加盟国について誤っている説明はどれか。
a イギリスは，1973年にEC（ヨーロッパ共同体）に加盟した。
b クロアティアは，2004年にEU（ヨーロッパ連合）に加盟した。
c スペインは，1978年憲法で民主的な君主制に移行した。
d ルーマニアでは，反政府運動の中で，大統領夫妻が処刑された。
＜解答解説＞
2020年の出題ミス大賞は間違いなくこれ。よりによって皆そこだけは気をつけるだろうと思っていた箇所でやらかすのはかえってすごい。cとdは普通の正文。bはクロアティアのEU加盟年が2013年なので誤文。aはこの入試が行われた2020年2月19日時点でイギリスがEU加盟国ではないので（イギリスは2020年1月31日にEUから離脱），「現EU加盟国」についての説明として誤っていると判断できる。作問者は「離脱交渉が長引いているので２月の段階ではまだ無理だろう」と考えていたのだろうか。ジョンソンは賛否があるにせよ豪腕であった。この2020年というタイミングでしかできない出題ミスであり，図ったかのようなミスに初見時思わず感動してしまった。駿台・代ゼミから同様の指摘あり。大学当局から謝罪と全員正解としたという発表があった。選択肢に現EU加盟国ではない国を含んでしまっている時点で，残りの３つがどうだろうと問題全体が不成立と判断したようだ。
２３．早稲田大 教育学部（２つめ）
＜種別＞出題ミス（複数正解）
＜問題＞２ （７） フランスとドイツをめぐる20世紀の出来事について正しい説明はどれか。
a イギリス，ドイツ，フランス，ベネルクス３国で集団的自衛権を目的とした西ヨーロッパ連合条約が締結された。
b ヴィシー政権がドイツ占領に抵抗を示すと，レジスタンスがこれに協力した。
c フランスとベルギーによるルール占領後，フランスでポワンカレ内閣が成立した。
d フランスのミッテラン大統領がドイツのコール首相とともに，ヨーロッパ統合を推進した。
＜解答解説＞
ありがちなミス。aはドイツが余分なので誤文。bは何を言っているのかがよくわからないが，ヴィシー政権とレジスタンスが協力したという事実はないので誤文と見なしていいだろう。dは正文で，これが作問者の想定する正解と思われる。審議の対象はc。これはポワンカレ内閣はルール占領を実施した時の政権で，ルール占領が国際的な批判を浴びて退陣したから誤文という作りなのだと思われる。しかし，ポワンカレは1924年に退陣した後，1926年に再組閣しているので，ルール占領後に成立したポワンカレ内閣は存在していると見なすことができてしまう。この場合cは正文になるので，複数正解の出題ミスとも解釈できる。大学当局から謝罪と複数正解を認める旨の発表があった。
２４．早稲田大 教育学部（３つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞４ （７） イギリスがインドで行った戦争について，次の� 銑い�，年代の古いものから順に正しく配列されているのはどれか。
� ．哀襯�戦争
�◆．轡�戦争
�� ブクサールの戦い
�ぁ．泪ぅ宗璽訐鐐�
a ��→�、��あ��◆ �b ��→�あ��、���
c �あ��□���→� �d �あ���→�□���
＜解答解説＞
定番と言えば定番の問題。範囲内の知識だけだと�ぅ泪ぅ宗璽訐鐐茴��▲轡�戦争しか判断できず，どの選択肢とも�あ��△亙僂錣蕕覆い里乃佑澆任△襦０豈�，シク戦争が最後の征服戦争であることは基本事項として習うのでaとbに絞れるか。この段階でブクサールの戦いを知らなくても最初ということは判明するが，結局グルカ戦争とマイソール戦争のどちらが先かがわからないとどうしようもない。
もっとも，ブクサールの戦いもグルカ戦争も範囲外としては比較的見るもので，近年だとブクサールの戦いは2017年の慶應大・法学部で見た。早慶対策では触れられることがあるから，解答できた受験生もいただろう。ブクサールの戦いは1764年，プラッシーの戦いの後。マイソール戦争は第一次の開戦が1767年なのでこちらの方が後である。グルカ戦争は1814〜16年なので，1845年開戦のシク戦争よりも前。よって正解はbである。しかしまあ，他の私大が出したからうちも出そうという発想，本当にやめないか。際限なく出題してもいいものが広がってしまうという負の波及効果に想像を働かせてほしい。
２５．早稲田大 政経学部
＜種別＞難問
＜問題＞２ A ２ 下線部b（編註：近世以降のローマ教皇庁は，幅広い分野の芸術を積極的に後援した）に関する説明として，正しいものはどれか。
イ 教皇シクストゥス４世が，ミケランジェロに「天地創造」を描かせた。
ロ 教皇ユリウス２世が，ラファエロに「アテナイの学堂」を描かせた。
ハ 教皇アレクサンデル６世が，サン＝ピエトロ大聖堂の新築工事を始めた。
ニ 教皇レオ10世が，ヴァチカン宮殿内にシスティナ礼拝堂を造らせた。
＜解答解説＞
早慶上智名物，ローマ教皇マニアシリーズ。長年この企画をやっている私でも，シクストゥス４世の出題は初めて見た気がする。この中で範囲内と断言できるのはレオ10世だけ。ユリウス２世とアレクサンデル６世はグレーゾーンだが，ユリウス２世をサン＝ピエトロ大聖堂の再建着工とブラマンテの起用以外で，アレクサンデル６世を教皇子午線以外で問うのは反則だろう。本問の凶悪さは，そのグレーゾーンの知識を用いても，ハはアレクサンデル６世がユリウス２世の誤りで誤文ということ以外は確証をもって解答できず，３択からは絞れないところにある。
さて，シクストゥス４世はシスティナ礼拝堂の建設開始を命じた教皇で，高校世界史では無名だが，西洋美術史上は有名。ローヴェレ家の出身で，ユリウス２世の叔父でもある。よってニは誤文。そのシスティナ礼拝堂の天井画をミケランジェロに依頼したのがユリウス２世で，これを受けたミケランジェロが「天地創造」を描いた。したがってイも誤文である。結果としてロが残るが，これが正解。本問をすぱっと正解できた人は西洋美術史マニアかルネサンス期イタリアマニアかローマ教皇マニアのいずれかだと思う。
２６．早稲田大 政経学部（２つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞２ B ７ 下線部j（編註：ザクセン選帝侯）に関わる説明として，正しいものはどれか。
イ 神聖ローマ皇帝カール４世が発布した金印勅書によって，当時のザクセン辺境伯が選帝侯になった。
ロ 宗教改革の際，当時の選帝侯が建設した城で，ルターが『新約聖書』のドイツ語訳を完成させた。
ハ 北方戦争の際，ポーランド王を兼ねていた当時の選帝侯は，スウェーデン国王の軍と戦った。
ニ ティルジット条約によって，当時の選帝侯は王に昇格し，ワルシャワ大公を兼ねることになった。
＜解答解説＞
イはザクセン「辺境伯」がザクセン「公」の誤り。ニは神聖ローマ帝国が解体した時点で王に昇格しているので誤り（この誤文の作りは機転がきいていて上手い）。よってロとハの２択までは絞れるが，そこからは判断に窮する。ヴァルトブルク城を建てたのがフリードリヒ賢明公だとすると，新築の城に要人を匿うだろうかという疑念がわけば，その直感を信じてよい。11世紀に建てられたものとのこと。残ったハが正解。ポーランドがロシア側についていたのは普通に学習する事項なので，ザクセン選帝侯がポーランド王を兼ねていたかは知らなくても，なんとなく正文っぽく見える文ではあり，正答率はそれなりに高かったかもしれない。とはいえ，ヴァルトブルク城の建築年代を問う意味が全くわからず，出題意図に対する疑問だけが残る。
２７．早稲田大 政経学部（３つめ）
＜種別＞難問・悪文
＜問題＞２ B ４ 下線部mに関連して（編註：君主の神秘的な力），カペー朝以来のフランス王は，ある病の治癒力を持つと信じられていた。この治癒の儀式を行なったブルボン朝最後の国王の名を記せ。
＜解答解説＞
これは問題の読み方によって難易度が変わってくる。この問題文を「ブルボン朝の歴代国王の中で，この治癒の儀式を行った最後の人物」と読むと，治癒の儀式自体が範囲外であるので受験生には歯が立たない問題であるが，どうも作問者は「この治癒の儀式を行なった，ブルボン朝最後の国王」と読んでほしいらしく，そうすると途端に易しい問題になる。正解はシャルル10世。事実，シャルル10世は治癒の儀式を行っている。もう近代に入っていて，そんな非科学的現象あるわけがないだろうという風潮の中，シャルル10世はいやいやながらに挙行したようだ。もうちょっと自然な日本語の問題文を作ってほしい。
２８．早稲田大 政経学部（４つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞２ B ５ 下線部n（編註：王権神授説）を唱えたボシュエは，フランス教会の教皇権からの独立を唱えていた。このような考えは何と呼ばれるか，カタカナで記せ。
＜解答解説＞
ストレートな難問。正解はガリカニスム。『詳説世界史研究』には記載があるのでグレーゾーンではある。過去の早慶で出てたかなと思って検索してみたが，意外にも，少なくとも現行の課程になった2014年以降では出題例が無かった。
２９．早稲田大 政経学部（５つめ）
＜種別＞難問・誤記
＜問題＞２ B ６ 下線部o（編註：こじんまりした快適な隠れ家）のひとつサンスーシ宮殿がある都市の名と，その地で1685年にユグノーの受け入れを命じる王令を発した君主の名をそれぞれ記せ。
＜解答解説＞
前者の正解はポツダム。後者はそのままフリードリヒ２世を聞く問題かと思いきや，範囲外に飛んでいった。正解はフリードリヒ＝ヴィルヘルム大選帝侯。ところで，フリードリヒ＝ヴィルヘルムは選帝侯であるので“王令”ではないのではないだろうか。これ，プロイセンが王国だったと誤誘導して，フリードリヒ１世またはフリードリヒ＝ヴィルヘルム１世と誤答させるおそれがあるから，普通にまずい誤記では。駿台・河合塾から同様の指摘あり。
念のため「ポツダム王令」という使用例があるか調べてみたが，ネット上では全く見つからなかった。一応「ここで言う『王家』は君主家の意味であって，kingを示したものではない。天皇家でも王家と言い表すことはある」という言い訳はぱっと思いつくところだが，それを言うなら君主の命令を表す一般的な語は“勅令”ではないかという反論で死んでしまう。英語では区別がなくどちらもedictである。高校世界史でも10年ほど「ナントの勅令」と書かれていたが，近年は「ナントの王令」の表記が一般的になった。こういう事例に接してしまうと無理に王令という語を使う必要もないような気がしてくる。
３０．早稲田大 政経学部（６つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞３ ［都市δ］ ポルトガル支配ののち，19世紀に入ってスルタンの支配領域の中枢都市として台頭し，沿岸部に対する覇権の拠点となった。奴隷貿易，象牙貿易の発展とアラブ人がこの島で所有する丁子のプランテーションの成長により，沿岸域，インド洋交易の主要な中継港となった。1820年代から奴隷貿易の禁圧を口実に〔 b 〕が支配に乗り出し（編註：空欄bの正解はイギリス），1890年に保護領化を宣言した頃には，土着住民に加えて少数のヨーロッパ人，奴隷や商人などからなる多民族都市となっていた。1890年代以降は対岸沿岸部の都市の成長と鉄道建設によって中継港としての役割を終えた。
B １ 都市α〜δを，地図が描かれた当時の名称で記せ。
（編註：α〜γは省略。）
＜解答解説＞
本問は説明文と地図から都市名を当てる問題で，α・β・γは問題として大変に面白いので，紙幅の関係で省略したが，興味ある方は見てみるとよい（リンク先pdf注意）。
以下の解説では，読者の楽しみを奪わぬためにα〜γの解答は省略し，ネタバレになりそうな部分は伏せ字とした（書籍版を出す場合はα〜γの解説も〔番外編〕として書き足すかも）。δも問題としての完成度は高く，正直に言えば面白いとも思うのだが，難易度が高すぎて範囲内の知識では判断できないと見なして収録とした。
地図の方はあまりヒントが得られないので（ダラジャニ橋でわかったらこの都市の出身者かよほど海外旅行経験がある人だけだろう），説明文の方を読解する。まず，「奴隷貿易，象牙貿易」からアフリカの都市と断定。次に「アラブ人がこの島で所有する丁子のプランテーションの成長」から大陸東岸，スワヒリ文化圏の港市と推測する。西岸では大航海時代以降のヨーロッパ人が強く，ムスリム商人は喜望峰を回っていない。香辛料貿易があったことを踏まえても東岸と言える。なお，アフリカ西岸にはリベリア・シエラレオネの古名として「胡椒海岸」という地名があるが，これはヨーロッパ人がギニアショウガという現地の香辛料を胡椒と見間違えて命名してしまったもので，胡椒海岸に胡椒は自生していない。
解法に戻ろう。ここまで来るとやっと冒頭の「ポルトガル支配ののち」という情報が生きてきて，アフリカ東岸のスワヒリ文化圏という推測を固めることができる。そして「19世紀に入ってスルタンの支配領域」とあるからポルトガルが保持し続けた現モザンビークのモザンビークやソファラは消える。最後に「この島で」とあることから，この都市は大陸にはなく，インド洋に浮かぶ島であることがわかる。とするとマリンディは大陸にある都市なので外れて，キルワ・モンバサ・ザンジバルの３つが残る。さらに，これら３つは最終的に全て英領になるものの，キルワのあったタンガニーカが英領になったのは第一次世界大戦後のことで，それ以前はドイツ領であった。よって「1890年」にキルワが英領になったというのはありえないので選択肢から消せる。よって正解はモンバサとザンジバルの２択になる。しかし，ほとんどの受験生はここで詰みであろう。とはいえ，この２つまで絞れたなら相当大したもので，実際にこの２つの中に正解があるのだが，どちらを解答していても正解扱いにしてあげたい気はする。なお，地図の左側に大きな海があることから，モンバサはほぼ大陸と接している島であるので，西側に大海という配置はありえないという根拠をもってザンジバルに絞れるのではないかという発想はありうる。ところが，これが通用するのは地図の上が北ということが示されている場合のみで，この地図はそれが保証されていないから危うい解法である。実際に，この地図δ自体は上が北になっているものの，地図αは地図の左が北になっている。
したがって，ここからは反則技による解法になる。範囲外の知識で攻略する正攻法なら，「19世紀に入ってスルタンの支配領域の中枢都市として台頭」からオマーン海上帝国を想起でき，オマーン海上帝国のアフリカ領における首都はザンジバルであるから，正解はザンジバルとわかる。地図上に「スルタンの公邸」とあるのも，これを補強する。それはそれとして，キルワやモンバサが島であるということがあまり知られていないので，この段階をスキップして正解にたどり着いた受験生もいたかもしれない。
しかし，それよりも少しはスマートな解法がある。隣接科目，高校地理の情報を引いてくるのである（ただし高校地理としても範囲内と言えるかは怪しいことは先に書き添えておく）。最後の行の「1890年代以降は対岸沿岸部の都市の成長と鉄道建設によって中継港としての役割を終えた」はダルエスサラームの発展とタンザン鉄道のことだろうと推測すれば，ダルエスサラームの対岸ならザンジバルである。初見時の私の解法はこちらだった。ただし，そうすると「1890年代以降」はちょっと言い過ぎで，タンザン鉄道の敷設開始年代から「1960年代以降」 がより正確なところだと思う。
なお，さらに全く別の解法もある。別の設問で（A-3），「β〜δに共通する現象として都市αの周辺出身地域の女性が19世紀末に居住していた」とあり，「この女性たちが渡航していた共通で最大の理由は何か」ということが問われる。ここから都市αの正解が長崎とわかっていれば，これは「からゆきさん」のことを指しているとわかり（実際にA-3の正解選択肢は出稼ぎや人身売買の対象として渡航である），さらにアフリカに「からゆきさん」がいたのはザンジバルが有名な事例であるから，逆算してδがザンジバルとわかる。完全に範囲外の知識になってしまうが，「からゆきさん」くらいは常識的に知っておいてほしいという作問者のメッセージが含まれた設問だったのかもしれないし，このA-3から逆算するのが作問者の想定する解法だった可能性すらある。科目融合の流れや女性史の流行から，この用語が将来的には範囲内に入っている可能性はゼロではないと思う。５年後くらいの教科書に取り上げられていたら先見の明があった問題ということになるかもしれない。なお，このA-3自体は消去法で解けるために収録から外したが，「からゆきさん」のことを知らない受験生は正解を選びつつも何のことか全くわからなかったと思われる。
とはいえ，紹介した解法は３ついずれも現時点での受験生には過剰な要求であるに違いない。せめて説明文に「対岸はドイツ領となったが」と一言入れておいてくれれば，それでも難問ではあるが範囲内に落ち着いたと思う。説明文にアフリカと明記せず，特徴からスワヒリ諸都市と絞らせて，さらに旧宗主国から都市を特定させる仕掛けや，「からゆきさん」を迂回路として用意する仕掛けは凝っていて面白かっただけに，純粋な範囲内の問題に落とし込めていないのは本当に惜しい。
早大・政経学部は収録６つで，出題ミスではなく難問・悪問止まりのものであったのは国際教養学部よりもマシか。２５番のような新奇性のある問題も，２８番のような何の捻りのない問題も，３０番のやけに凝った問題を含めて，「来年度からやらないし，ストックの難問全部入れとくか」という雰囲気を感じた。最後の打ち上げ花火としては十分な輝きだったのではないだろうか。観客席の受験生に大やけどを負わせつつ……。
３１．早稲田大 商学部
＜種別＞難問
＜問題＞１ 同盟市戦争や奴隷の反乱が起こりローマ社会は混迷したが，とりわけ前73年から前71年に勃発したCスパルタクスの反乱はローマの支配者層を大きく動揺させた。この騒乱は〔 D 〕の剣闘士養成所から奴隷が脱走したことで始まり，一時は大軍となる大反乱となったが，〔 E 〕らにより鎮圧された。
問C 下線部Cについて，この反乱の統率者スパルタクスの出身地域はどこと伝えられているか。
１．ガリア ２．トラキア ３．サムニウム ４．ブリタニア
問D 〔 D 〕にはいる都市の名前はどれか。
１．アッピア ２．ローマ ３．カプア ４．ナポリ
問E 〔 E 〕について，この人物はつぎのうちどれか。
１．ポンペイウス ２．スラ ３．マリウス ４．クラッスス
＜解答解説＞
問Eのみ範囲内の真っ当な問題。正解はクラッスス。残りの２つは過剰に難しい。問Cの方はまだいい。用語集のスパルタクスの項目の説明文に記載がある。もっとも，こんなところを覚える人は少ないが。私はなんだか知らないが覚えていた。『ローマ人の物語』辺りの記憶だろうか。普通の受験生はブリタニアは遠すぎるから違いそう，サムニウムとトラキアはそもそもそんな名前知らないとして，ガリアを選ぶと思う。しかし正解はトラキア（おおむね現在のブルガリア）である。なお，過去の出題例を調べてみたところ，トラキアが出題されていたのは2010年の上智大までさかのぼらないと無かった（2010上智５番，拙著１巻p.374）。受験生が覚えるにはあまりにも費用対効果が悪い。
問Dはもっとひどい。完全な範囲外である。アッピアは街道の名前だから違う，ローマで反乱を起こしたということもなさそうということで２択までは絞れるだろうが，受験生にとってカプアは聞いたこともない地名であるのでナポリを選ぶと思う。しかも，スパルタクスはヴェスヴィオ山に立てこもっているので中途半端に知識があると余計にナポリを選んでしまう鬼畜仕様。正解はカプアである。
３２．早稲田大 商学部（２つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞１ 問F 下線部Fについて（編註：『対比列伝』（『英雄伝』）を記したローマ帝政期の哲学者・著述家），この人物が晩年に神官を務めた場所はどこか。
１．アテネ ２．アレクサンドリア ３．デルフォイ ４．オリンピア
＜解答解説＞
知るかこんなもんと言いたいところだが，用語集のプルタルコスの説明文に記載がある。これは載っている方がおかしい。知らないなりに選択肢を削るということすらできず，受験生は鉛筆を転がすしか手段がない。正解はデルフォイ。まあ神託をやってたしな，という直感が働いていた受験生がいたならなかなか勘が鋭い。しかし，実際にはプルタルコスが生きていた頃にはデルフォイの神託はすっかり廃れていて，それを復活させる目的でプルタルコスが最高神官に自薦で就任したという経緯がある。実はその直感は的外れなのである。用語集はそこまで解説してくれていない。果たして作問者がそこまで知っていて本問を出したのかは疑問で，用語集の説明だけ読んで実情を知らずに作ってしまったようにも思える。
３３．早稲田大 商学部（３つめ）
＜種別＞難問・奇問
＜問題＞１ 問H 下線部H（編註：ガリア）に関連する内容として，正しい記述はどれか。
１．ルグドゥヌムは，現在のフランスの首都になっている都市である。
２．マッシリアは，前600年頃にローマ人によって植民された都市である。
３．ブルディガラは，現在はワインの生産地として世界的に知られている都市である。
４．トロサは，現在は自動車産業の町として世界的に知られている都市である。
＜解答解説＞
実に早大商学部らしい意味不明問題。さすがはマイクロソフトの本社の位置を聞いた日程である。フランスの古代の都市名くらいは常識と言いたいのだろう。とりあえず範囲内の知識で取り掛かると，１はパリの古名がルテティアなので誤り。ルグドゥヌムはリヨンの古名である。２はマッシリア（現在のマルセイユ）がギリシア人の植民市なので誤り。ところで，マッシリアはラテン語表記で受験生には見慣れない。古代ギリシア語表記のマッサリアと書いてほしかったところ。で，３と４は絞れない。この２択に絞るところまでで十分な難易度なので，できればこの水準で正解が出せる作りにしておいてほしかった。
正解は３のブルディガラで，これは現在のボルドーのこと。４のトロサはトゥールーズのラテン語（およびオック語）での名称で，トゥールーズの主要産業は航空機産業であり，エアバス社の本社がある。自動車産業の町ではない。一応トゥールーズが航空機産業の都市というのは高校地理で習うので，トロサの音からトゥールーズを連想し，かつ高校地理の知識があれば消去法で正解が判明する（実際に私の解法はこれだった）。しかし，ブルディガラからのボルドーにせよトロサからのトゥールーズにせよ，これらの音からの連想は高校生に求めていい発想を超えていると思われるし，高校地理は完全に範囲外であるから，全く擁護できない問題の作りをしている。
３４．早稲田大 商学部（４つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞３ 問D 下線部Dに関連して（編註：スコットランド），正しいものはどれか。
１．スコットランド王ジェームズ６世は，イングランド王ジェームズ１世を兼ね，自由主義的な立憲王制を理想とした。
２．1707年，ジョージ１世の手によってイングランドとスコットランドは合同し，大ブリテン王国となった。
３．スコットランド生まれのアダム＝スミスは，『諸国民の富』などの著作で，古典派経済学を拓いた。
４．16世紀，スコットランド女王のメアリ＝スチュアートは，スコットランドのプロテスタント化を進めた。
＜解答解説＞
何十年か前の，ヨーロッパ史と中国史だけが詳しかった時代の高校世界史を彷彿とさせる問題。１は「自由主義的な立憲王制」が完全な誤り，２はジョージ１世がアン女王の誤り。ここまでは範囲内の知識で絞れるが残りが難しい。メアリ＝スチュアートは範囲外なのであるが，作問者にその意識がなく，消去法で解いてくれるだろうと思っていた節が見受けられる。メアリ＝スチュアートはフランスに嫁いでいることからもわかるようにばりばりのカトリックであるので４は誤り。アダム＝スミスは確かにスコットランド生まれであるので３が正文＝正解である。なお，驚くべきことにこの大問３のリード文に「15世紀の『地理上の発見』以降」という文が出てくるので，割と本当に何十年か前の高校世界史の記憶でこの大問３を作ってしまった可能性があり，そうすると逆にこの問D以外の収録対象を生み出さなかったのはとんでもない不幸中の幸いであろう。実際，残りの事項は世界史というよりも時事ネタとして言及したと思しき21世紀のもの以外は全て何十年か前の高校世界史と変わらない内容からの出題である。
３５．早稲田大 社会科学部
＜種別＞難問
＜問題＞３ 下線部(G)について（編註：オリンピア），下の地図の中からオリンピアの正しい場所を示した記号を１つ選べ。
＜解答解説＞
ほぼ全く同じ問題が同年の上智大で出ている（上智８番）。概ねそちらで解説した通り，aがアテネ，bがスパルタ，cがオリンピア（正解），dがデルフォイである。商学部でもデルフォイの名前が問われていた（３２番）。2020年はオリンピックイヤーだから古代ギリシアを積極的に出題しようということでこうなったのだろうか。2020年に限っていえばオリンピアとデルフォイの名前と場所は頻出だったと言わざるを得ない。
３６．早稲田大・社会科学部（２つめ）
＜種別＞出題ミス
＜問題＞４ 問１ 下線部（A）について（編註：アヘン戦争とアロー戦争），アヘン戦争とアロー戦争に関する記述のうち，最も適切なものを１つ選べ。
a．アヘン戦争の背景には，清からの大量の綿輸入に伴うイギリス側の対清貿易赤字の深刻化があった。
b．インド産アヘンの密貿易を取り締まるために，乾隆帝は林則徐を欽差大臣に任命した。
c．アロー戦争の要因のひとつには，広西で起こったイギリス人宣教師殺害事件があった。
d．清の公羊学者魏源が両戦争にまたがる時代の世界情勢を記した地理書『海国図志』は，日本でも大きな影響を与えた。
＜解答解説＞
aは「綿」輸入が「茶」輸入の誤り，bは乾隆帝が道光帝の誤り。cは「イギリス人」宣教師が「フランス人」の誤り。よって消去法でもdが正解と絞れ，これが作問者の想定する正解と思われる。しかし，『海国図誌』が示したのは明代からアヘン戦争以前の世界情勢であり，「両戦争にまたがる時代」の世界情勢を記したとは言いがたい。ただし，著者の魏源の問題意識はアヘン戦争の敗戦を受けた近代化改革にあり，西洋諸国の侵略の意図を明らかにすることであったから，広い意味では19世紀前半から半ばにかけての世界情勢を写し取ったと言えなくもない……書いていて自分でも苦しいと思った。大学当局から謝罪と正解の不在，全員に得点を与えた旨の発表があった。駿台から同様の指摘あり。なお，『海国図誌』は中国ではあまり読まれなかったが，むしろ日本で佐久間象山や吉田松陰が広めたために強い影響力を持った。その意味で世界史用語というよりも日本史用語である。用語集頻度も�，板磴ぁ�
Posted by dg_law at 18:00│Comments(21)
この記事へのコメント
更新お疲れ様です。いつも楽しく拝読しております。
17番(ノーフォーク農法)は自分が受験生の立場なら��「ノーフォークノウホウ」と書いてしまいそうですが、これが正解なら当然「ヨンリンサクホウ」「ヨンリンノウホウ」等も正解になるべきという議論が出そうで些か嫌な問題ですね……
3日目も楽しみにしています。今年も弊学一橋は出ないようですが、名大と良問集(どこだろう……)に期待です。
17番(ノーフォーク農法)は自分が受験生の立場なら��「ノーフォークノウホウ」と書いてしまいそうですが、これが正解なら当然「ヨンリンサクホウ」「ヨンリンノウホウ」等も正解になるべきという議論が出そうで些か嫌な問題ですね……
3日目も楽しみにしています。今年も弊学一橋は出ないようですが、名大と良問集(どこだろう……)に期待です。
Posted by ななし at 2020年03月14日 18:26
＞これが正解なら当然「ヨンリンサクホウ」「ヨンリンノウホウ」等も正解になるべきという議論が出そうで些か嫌な問題ですね……
気づかなかったけど言われてみるとｗ
確かに��が通るなら，それ議論になっちゃいますね。尚更これは明確に解答用紙のミスですね。
一橋の問題はちょっとおまけで触れようと思います。
気づかなかったけど言われてみるとｗ
確かに��が通るなら，それ議論になっちゃいますね。尚更これは明確に解答用紙のミスですね。
一橋の問題はちょっとおまけで触れようと思います。
Posted by DG-Law at 2020年03月14日 20:01
ヘッケルは「個体発生は系統発生を繰り返す」を唱えたことと、動物の胎児を並べた図を描いたことで有名です。
自説の正しさを強調するあまり、胎児の図に手を加えて専門家からツッコミを受けたにも関わらず、長らく生物学の教科書に載り続けたとか。
S・J・グールド『ぼくは上陸している［下］』より
自説の正しさを強調するあまり、胎児の図に手を加えて専門家からツッコミを受けたにも関わらず、長らく生物学の教科書に載り続けたとか。
S・J・グールド『ぼくは上陸している［下］』より
Posted by kazutox at 2020年03月14日 22:13
更新お疲れさまです！今回早稲田法学部に合格したものです。私は世界史が苦手でしたが、このサイトからテクニック？を吸収してなんとか乗り越えることができました！ありがとうございました！
今年度法学部はかなりおとなしめでしたね！（記述で前後関係を間違えてしまったことは内緒）
政治経済学部も受けましたが、案の定不合格… 極度の緊張の中受験した私は、大問1個分の地図問題にフリーズさせられ見直し等する時間はまったくなく残り数秒で解き終わるという次第でした。まぁ過去問のない共通テスト受けるよりはマシだったか…？
今年度法学部はかなりおとなしめでしたね！（記述で前後関係を間違えてしまったことは内緒）
政治経済学部も受けましたが、案の定不合格… 極度の緊張の中受験した私は、大問1個分の地図問題にフリーズさせられ見直し等する時間はまったくなく残り数秒で解き終わるという次第でした。まぁ過去問のない共通テスト受けるよりはマシだったか…？
Posted by トップガン at 2020年03月14日 22:31
更新おつかれさまです。
今年早稲田法学部に合格を頂いた者です。
今年の政経はえらく難しかったですね。
まさか早稲田の世界史の試験で地図系の難問が出てくるとは思いもよりませんでした。
逆に近年の法学部の世界史易化は顕著ですね。そのうち差がほとんどつかない試験になるのではないでしょうか？
今年早稲田法学部に合格を頂いた者です。
今年の政経はえらく難しかったですね。
まさか早稲田の世界史の試験で地図系の難問が出てくるとは思いもよりませんでした。
逆に近年の法学部の世界史易化は顕著ですね。そのうち差がほとんどつかない試験になるのではないでしょうか？
Posted by Usedest at 2020年03月14日 23:30
27は「まあそういうことだよな」と思いかけたんですが、もしスペイン・ブルボン朝でも治癒の儀式が行われたことがあったんだったら、「フェリペ6世」が回答になるんじゃないかとか不安になりました。初代のフェリペ5世の時代ならそのぐらいのことは信じられてても不思議じゃないでしょうし。
一応、スペイン語版WikipediaのToque realにはそんな記述はなかったので大丈夫とは思いますが（中世のカスティリャ諸王は十字切って神に祈ったら悪魔払いかっこ一般論としては悪魔ってのは精神その他の難病も含むやろかっことじるできると思われてた、とか微妙に不安な事は書いてましたが）。
※カルロス3世だったら狩猟中に遭遇した地元民に頼まれて何かの平癒祈願ぐらいならやったことありそうな気がしないでもない
一応、スペイン語版WikipediaのToque realにはそんな記述はなかったので大丈夫とは思いますが（中世のカスティリャ諸王は十字切って神に祈ったら悪魔払いかっこ一般論としては悪魔ってのは精神その他の難病も含むやろかっことじるできると思われてた、とか微妙に不安な事は書いてましたが）。
※カルロス3世だったら狩猟中に遭遇した地元民に頼まれて何かの平癒祈願ぐらいならやったことありそうな気がしないでもない
Posted by cider_kondo at 2020年03月15日 04:39
＞kazutox さん
ヘッケルは調べてもよくわからなかったんですよね。あー，あの説。そう言われるとわかる。
＞トップガンさん
おめでとうございます。この問題集からテクニック（？）を盗めたなら良かったです。確かに，悪問・難問をあしらうテクニックは学べるかもしれない。
あの地図問題で動揺しなかった受験生は少なかったと思います。
＞ Usedest さん
こちらもおめでとうございます。
早稲田の政経で地図問題は珍しいですもんね。しかもあの地図は珍しい。
法学部の易化傾向は気になっています。おっしゃる通りあまりに差がつかないと，他科目との点数調整を行うとはいえ，世界史が得意な受験生には不利になっていきますね。そういう意図なのかもしれない。
＞cider_kondoさん
「カペー朝以来のフランス王は，ある病の治癒力を持つと信じられていた。」とわざわざ書いているので，フランス王に限定して答えてほしいということなのでしょう。縛りの文言としてはちょっと曖昧ですが……
ヘッケルは調べてもよくわからなかったんですよね。あー，あの説。そう言われるとわかる。
＞トップガンさん
おめでとうございます。この問題集からテクニック（？）を盗めたなら良かったです。確かに，悪問・難問をあしらうテクニックは学べるかもしれない。
あの地図問題で動揺しなかった受験生は少なかったと思います。
＞ Usedest さん
こちらもおめでとうございます。
早稲田の政経で地図問題は珍しいですもんね。しかもあの地図は珍しい。
法学部の易化傾向は気になっています。おっしゃる通りあまりに差がつかないと，他科目との点数調整を行うとはいえ，世界史が得意な受験生には不利になっていきますね。そういう意図なのかもしれない。
＞cider_kondoさん
「カペー朝以来のフランス王は，ある病の治癒力を持つと信じられていた。」とわざわざ書いているので，フランス王に限定して答えてほしいということなのでしょう。縛りの文言としてはちょっと曖昧ですが……
Posted by DG-Law at 2020年03月15日 22:54
32番は
「晩年ある神聖な儀式の復興を求めてその地の執政官となったが」ってすればむしろ良問の可能性もありましたか？
「晩年ある神聖な儀式の復興を求めてその地の執政官となったが」ってすればむしろ良問の可能性もありましたか？
Posted by ほし at 2020年03月16日 23:07
高校2年時にこのブログを見つけ以降暇な際は面白がりながら読んでおりました。
いよいよ受験当事者となり恐怖心は勿論ありましたが、ここに過去掲載されているモンスター達を知っていたので奇問難問にも足元をすくわれずに済みました。(ワセショーのマイクロソフト問題は戦慄しました。個人的トップです)
結果は文学、社会科学、政治経済に合格を頂きました。
私の大好きなブログです！
ありがとうございました
いよいよ受験当事者となり恐怖心は勿論ありましたが、ここに過去掲載されているモンスター達を知っていたので奇問難問にも足元をすくわれずに済みました。(ワセショーのマイクロソフト問題は戦慄しました。個人的トップです)
結果は文学、社会科学、政治経済に合格を頂きました。
私の大好きなブログです！
ありがとうございました
Posted by Suleyman at 2020年03月19日 20:17
これまたおめでとうございます。政治経済学部に進む感じですかね。
受験生が読むなら，奇問難問の見分け方・回避方法・なんとか推測をつける方法として読むのが正しい企画だとは思いますので，正しい使い方だったと思います。
あのマイクロソフトの問題は記憶に残りますね。単純に難しいだけなら他にももっとあるけど，まさかそこを聞く！？ という点では強いですね。
受験生が読むなら，奇問難問の見分け方・回避方法・なんとか推測をつける方法として読むのが正しい企画だとは思いますので，正しい使い方だったと思います。
あのマイクロソフトの問題は記憶に残りますね。単純に難しいだけなら他にももっとあるけど，まさかそこを聞く！？ という点では強いですね。
Posted by DG-Law at 2020年03月19日 23:12
いつも興味深く拝読しております。もとタンザニア在住のふんすいです。
ダラジャはスワヒリ語で「橋」なので（ニは〜のところ）、ダラジャニ橋はチゲ鍋的畳語ですね…。
閑話休題、「鉄道建設」はドイツ領東アフリカの鉄道建設ではないでしょうか。
https://en.wikipedia.org/wiki/History_of_rail_transport_in_Tanzania
内陸から北部海岸の都市タンガなどに運搬して、そこから積み出しすれば、ザンジバル島を経由しなくてもよいので。
そちらの知識は高校世界史でも地理でも範囲外とは思いますが。
＃なおTAZARA（タンザン鉄道）と違って現在はいまいち活用されておらず
ところで、名称は「ザンジバル」でよいのか気になります。
少なくとも現在の現地の感覚では、「ストーンタウン」なので。
「ザンジバル諸島」の「ウングジャ島」にある「ストーンタウン」で、ザンジバルは地域全体の呼称（もしくはザンジバル政府）なので、周囲の村でザンジバルに行きたいと言ったらここがザンジバルだと言われるかと。
ザンジバルシティ？ ザンジバルタウン？ うーん。
https://www.researchgate.net/figure/Map-of-Zanzibar-Town-in-1892_fig5_320757590
今後とも楽しみにしております。
ダラジャはスワヒリ語で「橋」なので（ニは〜のところ）、ダラジャニ橋はチゲ鍋的畳語ですね…。
閑話休題、「鉄道建設」はドイツ領東アフリカの鉄道建設ではないでしょうか。
https://en.wikipedia.org/wiki/History_of_rail_transport_in_Tanzania
内陸から北部海岸の都市タンガなどに運搬して、そこから積み出しすれば、ザンジバル島を経由しなくてもよいので。
そちらの知識は高校世界史でも地理でも範囲外とは思いますが。
＃なおTAZARA（タンザン鉄道）と違って現在はいまいち活用されておらず
ところで、名称は「ザンジバル」でよいのか気になります。
少なくとも現在の現地の感覚では、「ストーンタウン」なので。
「ザンジバル諸島」の「ウングジャ島」にある「ストーンタウン」で、ザンジバルは地域全体の呼称（もしくはザンジバル政府）なので、周囲の村でザンジバルに行きたいと言ったらここがザンジバルだと言われるかと。
ザンジバルシティ？ ザンジバルタウン？ うーん。
https://www.researchgate.net/figure/Map-of-Zanzibar-Town-in-1892_fig5_320757590
今後とも楽しみにしております。
Posted by ふんすい at 2020年03月20日 23:07
もとタンザニア在住の人からコメントをもらえるとは思っていませんでした。ありがとうございます。
サハラ砂漠とかも同じですね＞ダラジャニ橋
鉄道建設はなるほど。そっちですね。ご指摘の通り，高校世界史でも地理でも完全に範囲外です。
正解は地名でなく「都市名」で聞かれているので，ザンジバルでよいと思います。早稲田大の公式発表も「ザンジバル」でした。
とはいえ，たとえば新宿の都庁周辺の地図を見せられて「ここの地名は？」と言われたら，東京ではなく「新宿」と答えたくなるだろうと思われ，気持ちはわかります。
サハラ砂漠とかも同じですね＞ダラジャニ橋
鉄道建設はなるほど。そっちですね。ご指摘の通り，高校世界史でも地理でも完全に範囲外です。
正解は地名でなく「都市名」で聞かれているので，ザンジバルでよいと思います。早稲田大の公式発表も「ザンジバル」でした。
とはいえ，たとえば新宿の都庁周辺の地図を見せられて「ここの地名は？」と言われたら，東京ではなく「新宿」と答えたくなるだろうと思われ，気持ちはわかります。
Posted by DG-Law at 2020年03月22日 18:04
スパルタクスの反乱は、山川の世界史小辞典では「クラッスス、ポンペイウスらの軍事力の前に敗北」とあります。なぜ用語集のみに典拠してポンペイウスが除外出来ると大学は思ったのでしょうか。個人的に気になるところなんですがどうなんでしょう。
Posted by 知ある無知 at 2020年06月06日 21:02
スパルタクスの反乱は細かい経緯を追うとクラッススがほぼ単独で鎮圧しているので，用語集の記述の方が正しいですが，言われてみると確かに，ポンペイウスは誤答の選択肢から外すべきでした。問Eも危ういですね。史実と用語集の記述から出題ミスとまでは言えないですが。
こういうのもあるから，あまりに自分の専門からかけ離れた分野から入試問題を作るのは危ないんですよね。
こういうのもあるから，あまりに自分の専門からかけ離れた分野から入試問題を作るのは危ないんですよね。
Posted by DG-Law at 2020年06月09日 10:25
＞３０．早稲田大 政経学部（６つめ）
http://www.kodairen.u-ryukyu.ac.jp/new/new_106gm.html
報告２：津野田興一（東京都立日比谷高校）
「世界史入試問題のこれまでとこれから」
ここでも指摘されてましたね。
http://www.kodairen.u-ryukyu.ac.jp/new/new_106gm.html
報告２：津野田興一（東京都立日比谷高校）
「世界史入試問題のこれまでとこれから」
ここでも指摘されてましたね。
Posted by おおおおんづけ at 2020年07月25日 14:59
模範解答を作らないで、ポイントやチャチャだけでも良いので、論述問題についてもできればやっていただけると幸いです。
早稲田大学商学部の世界史 100字論述、昨年、政治経済や地理でも詳しくは出せない、イギリスのEU離脱をテーマにしていた。
駿台が、今年も教科書にない問題と評していますが、
共和党が1960年代後半から、公民権法の後、南部で、支持を固めた背景について書けというもの。正直、ネットを見てもピンとこないですわ。
ゆげ塾も苦戦。ゆげ塾は、でも底力で、南部の宇宙などの産業発展を挙げたのは大手予備校とは異なる。しかし、公民権が主なので、大手予備校が大体正解か。
英語で検索すれば、すぐ出てくるという仕掛けと思いきや、
はっきりしない。まさか、以下の論文を元に答えろということでもあるまい。持ち込みなしで高校生が。。。
https://economics.yale.edu/sites/default/files/files/Faculty/washington/south-dems.pdf
https://www.factcheck.org/2008/04/blacks-and-the-democratic-party/
https://www.jstage.jst.go.jp/article/americanreview1967/1994/28/1994_28_131/_pdf/-char/ja
明治大学政治経済学部の論述は、産業革命期、1830年から40年のイギリスの政治改革について、5つのキーワードを使って、
200字以上、240字以内で書け。
人民憲章、選挙法改正、航海法、工場法(注 1883年のもの)、穀物法
明治大学商学部の論述は、国土回復運動 レコンキスタについて
3行以内で書け。 いつもながら、設問が漠然としています。
早稲田大学商学部の世界史 100字論述、昨年、政治経済や地理でも詳しくは出せない、イギリスのEU離脱をテーマにしていた。
駿台が、今年も教科書にない問題と評していますが、
共和党が1960年代後半から、公民権法の後、南部で、支持を固めた背景について書けというもの。正直、ネットを見てもピンとこないですわ。
ゆげ塾も苦戦。ゆげ塾は、でも底力で、南部の宇宙などの産業発展を挙げたのは大手予備校とは異なる。しかし、公民権が主なので、大手予備校が大体正解か。
英語で検索すれば、すぐ出てくるという仕掛けと思いきや、
はっきりしない。まさか、以下の論文を元に答えろということでもあるまい。持ち込みなしで高校生が。。。
https://economics.yale.edu/sites/default/files/files/Faculty/washington/south-dems.pdf
https://www.factcheck.org/2008/04/blacks-and-the-democratic-party/
https://www.jstage.jst.go.jp/article/americanreview1967/1994/28/1994_28_131/_pdf/-char/ja
明治大学政治経済学部の論述は、産業革命期、1830年から40年のイギリスの政治改革について、5つのキーワードを使って、
200字以上、240字以内で書け。
人民憲章、選挙法改正、航海法、工場法(注 1883年のもの)、穀物法
明治大学商学部の論述は、国土回復運動 レコンキスタについて
3行以内で書け。 いつもながら、設問が漠然としています。
Posted by kawasaki at 2021年03月10日 02:31
本企画は論述問題も扱っています。リンクし忘れていますが，（３）が国立編ですね。
http://blog.livedoor.jp/dg_law/archives/52447065.html
また，明治大については当該年の２・３月中の問題収集が間に合わないという事情でブログ版では公開していません。書籍版での収録になっています。
その上で2021年度のその辺について回答しますと，まず早稲田大の商学部は当然すでに問題を見て検討していますが，過去の傾向から大したことは要求されていないと想定されること，字数がわずか100字しかないことから，「民主党が公民権運動で黒人の票を取りに行ったので，共和党は逆に保守的な白人の票を取りに行った」以上のことは問われていないと思われます。
事実として，早稲田大は一般入試の公式解答例を公開しており，それを見てもやはりそうでした。採点基準はわからないですが，公民権運動の語が入っていれば悪い扱いにはならないでしょう。
https://www.waseda.jp/fcom/soc/assets/uploads/2021/03/dd3e5931d932455597540bd565f3b4d6.pdf
ゆげ塾の解答の後半は難しく考えすぎです。
したがって，収録対象ではありません。
明治大の政経学部は普通の問題ですね。商学部は確かに要求が漠然としていますが３行しかないですし，用語集の説明文のようなもので適当に埋めておけば（要するにキリスト教勢力によるイスラーム勢力に対するイベリア半島の云々）満点になるというような問題だと思います。
http://blog.livedoor.jp/dg_law/archives/52447065.html
また，明治大については当該年の２・３月中の問題収集が間に合わないという事情でブログ版では公開していません。書籍版での収録になっています。
その上で2021年度のその辺について回答しますと，まず早稲田大の商学部は当然すでに問題を見て検討していますが，過去の傾向から大したことは要求されていないと想定されること，字数がわずか100字しかないことから，「民主党が公民権運動で黒人の票を取りに行ったので，共和党は逆に保守的な白人の票を取りに行った」以上のことは問われていないと思われます。
事実として，早稲田大は一般入試の公式解答例を公開しており，それを見てもやはりそうでした。採点基準はわからないですが，公民権運動の語が入っていれば悪い扱いにはならないでしょう。
https://www.waseda.jp/fcom/soc/assets/uploads/2021/03/dd3e5931d932455597540bd565f3b4d6.pdf
ゆげ塾の解答の後半は難しく考えすぎです。
したがって，収録対象ではありません。
明治大の政経学部は普通の問題ですね。商学部は確かに要求が漠然としていますが３行しかないですし，用語集の説明文のようなもので適当に埋めておけば（要するにキリスト教勢力によるイスラーム勢力に対するイベリア半島の云々）満点になるというような問題だと思います。
Posted by DG-Law at 2021年03月11日 09:44
2023年の講評を機に過去の講評も拝見させております。33番の早稲商世界史ですが高校の教材ではパリの古名であるルテティアについてはどこに載っているのでしょうか？ 私も複数（山川詳説世界史・新世界史・東京書籍・帝国書院）の教科書をもっていますが記載がなく、当時の学校の授業でも話題にならなかったので気になりました。ちなみに世界史を習ったのは2019年、20年です。
同問題には「マッシリア」と記載がありますが、最近読んだケルト史の本でも「マッサリア」と書いておりましたのでこの表記が如何に非常識かが伺えますねｗ
同問題には「マッシリア」と記載がありますが、最近読んだケルト史の本でも「マッサリア」と書いておりましたのでこの表記が如何に非常識かが伺えますねｗ
Posted by 歴史科目の入試問題が好きな学生 at 2023年04月27日 14:15
今ちょっと手元に教科書類が無く，次に参照できる環境になるのが月曜日なのですが，地図中に記載が無ければ無いと思います。資料集の地図にはほぼ必ず載ってますね。
教科書や資料集記載の地図を範囲内と見なすかどうかは難しいところで，本企画では標準的な塾・予備校の早慶対策で触れるかどうかをサブ的な判断材料として加味しています。それでいくとルテティアは触れられる部類かなと思います。逆がシャーバンダルみたいなやつですね……特定の教材の地図にしか記載が無い上に，あれは世の中に存在するほとんどの早慶対策でも触れられてこなかったと思われるので（昨今だとあの問題のせいで有名になっちゃったので触れられるようになってきているかもしれませんが）。
本問の場合は他の都市の古名がマイナーすぎるので，いずれにせよ超難問ですね。
マッサリアについての補足もありがとうございます。私もマッシリアの表記は一般書籍で見たことがないような気がします。
教科書や資料集記載の地図を範囲内と見なすかどうかは難しいところで，本企画では標準的な塾・予備校の早慶対策で触れるかどうかをサブ的な判断材料として加味しています。それでいくとルテティアは触れられる部類かなと思います。逆がシャーバンダルみたいなやつですね……特定の教材の地図にしか記載が無い上に，あれは世の中に存在するほとんどの早慶対策でも触れられてこなかったと思われるので（昨今だとあの問題のせいで有名になっちゃったので触れられるようになってきているかもしれませんが）。
本問の場合は他の都市の古名がマイナーすぎるので，いずれにせよ超難問ですね。
マッサリアについての補足もありがとうございます。私もマッシリアの表記は一般書籍で見たことがないような気がします。
Posted by DG-Law at 2023年04月27日 22:58
連日失礼いたします。持ち前の教科書で調べ直すと山川新世界史のみに43ページの地図内にルテティアの記載を見つけました。（古代ギリシアでの記載）ずっと中世ヨーロッパのところのみで探していたので見逃していました。失礼しました。
持ち前の教科書ではルテティアの記載は新世界史のみでしたのでこれは範囲外ともみなせると思います。
またこれを機にほかの教科書でも探していると東京書籍の教科書には古代ギリシア期の記載である39ページの地図ではなんと、マッサリアを「マッシリア」と記載していました。ギリシアでの記載なのにラテン語を採用したのは謎ですね。
それにしても東京書籍の教科書は慶應法でよく出題されている新世界史の影に隠れているような印象ですが南インド王朝のラーシュトラクータ朝（しかも太字）や東南アジアのプランバナン寺院群内のロロジョングランを写真つきで掲載、教科書336ページ内の長崎清国水兵事件など日本史でもやらないやけに細かく、用語集に載ってないか片隅にしか載っていないものなどありますのでこの教科書も相当イカれてると最近感じましたｗ
持ち前の教科書ではルテティアの記載は新世界史のみでしたのでこれは範囲外ともみなせると思います。
またこれを機にほかの教科書でも探していると東京書籍の教科書には古代ギリシア期の記載である39ページの地図ではなんと、マッサリアを「マッシリア」と記載していました。ギリシアでの記載なのにラテン語を採用したのは謎ですね。
それにしても東京書籍の教科書は慶應法でよく出題されている新世界史の影に隠れているような印象ですが南インド王朝のラーシュトラクータ朝（しかも太字）や東南アジアのプランバナン寺院群内のロロジョングランを写真つきで掲載、教科書336ページ内の長崎清国水兵事件など日本史でもやらないやけに細かく、用語集に載ってないか片隅にしか載っていないものなどありますのでこの教科書も相当イカれてると最近感じましたｗ
Posted by 歴史科目の入試問題が好きな学生 at 2023年04月28日 10:53
おお，そこに。いずれにせよ『新世界史』では……というところですね。早慶だと割りとよく見るだけあってもう少しメジャー感がある印象なのですが，古い教科書だと地図に載っていないかな。覚えてたら今度調べてみます。ルテティア，以前ならともかく2014年以降の現行課程では範囲外にして良さそうですね。
実は実教出版もそういうところがあって，2022年の慶應大・法学部の評に書いたのですが，2021年までの慶應大・法学部は典拠を『新世界史』に置いていたところ，2022年以降は東京書籍・実教出版・『新世界史』と３冊にまたがるようになったのですよね。そうして見ると，おっしゃる通り東京書籍も意外なものを載せていますが，実教出版もけっこうよくわからない用語を載せているなと思います。恐ろしいことに，まだまだ慶應大・法学部にとっては“鉱脈”とでも言えるでしょうか。
ただ，１冊の教科書にしか記述がない用語というのは実証的に胡乱なことがあり，それで2023年の１４番のようなことも起きるわけで，心の底からやめてほしいなと思っています。
実は実教出版もそういうところがあって，2022年の慶應大・法学部の評に書いたのですが，2021年までの慶應大・法学部は典拠を『新世界史』に置いていたところ，2022年以降は東京書籍・実教出版・『新世界史』と３冊にまたがるようになったのですよね。そうして見ると，おっしゃる通り東京書籍も意外なものを載せていますが，実教出版もけっこうよくわからない用語を載せているなと思います。恐ろしいことに，まだまだ慶應大・法学部にとっては“鉱脈”とでも言えるでしょうか。
ただ，１冊の教科書にしか記述がない用語というのは実証的に胡乱なことがあり，それで2023年の１４番のようなことも起きるわけで，心の底からやめてほしいなと思っています。
Posted by DG-Law at 2023年04月29日 13:23
