2020年03月15日
2020受験世界史悪問・難問・奇問集 その３（国立大）
本日はセンター試験と国立大（全部名古屋大）。おまけは間に合わなかったので、別日に更新します。みどころはやはりセンター試験で，かなり真面目に論じているので是非とも読んで意見が欲しい。
１．センター試験・本試験 世界史Ｂ
＜種別＞出題ミスということになってしまった
＜問題＞１ 問５ 下線部�イ亡慙△靴董癖埣陝�支配体制），制度や政策について述べた文として正しいものを，次の� 銑い里Δ舛�ら一つ選べ。〔 ５ 〕
� £欧如て崚沈�が実施された。
�◆．爛�ル帝国が，貴族に軍役と引き替えに土地を与えるプロノイア制が導入された。
�� ベルンシュタインが，プロイセンで農奴解放を行った。
�ぁ．櫂襯肇�ルで，アトリー政権が社会福祉制度を充実させた。
＜解答解説＞
�◆銑い呂錣�りやすく誤文。なお��はベルンシュタインがシュタインの誤りなのでダジャレである。�，�正文＝正解という普通の問題であったのだが，魏が三国時代の魏（三国魏，曹魏）か戦国時代の魏か区別がつかず，正誤判定ができないという指摘があって，全員正解という扱いとなった。この対応については受験業界のみならず，受験に関心が深い大学人，歴史好きの人々などから概ね非難轟々であった。
私もこの出題ミスは認めるべきではなかったという立場をとる。本問は過失が無いわけではなく，試験実施前に見つかっていたら「三国時代の」と書き足すべきだと考えるのは，対応を批判している人の間でも満場一致で賛成するところだろう。しかし，これは１文ごとの正誤判定ではなく４文の正誤判定，それも１つしか正解がないことが明らかにされているものであるから，残りの３つが誤文であることが明確となった段階で�，論飢鬚箸靴篤匹爐戮�と考える。本企画の出題ミス判定もこの基準で運用していて，４択のうち明確な不正解が３つ，不明瞭が１つという状況であれば，悪問には認定しても出題ミスには認定していない。「善意の解釈をすれば正解が出る」ものは，悪問ではあれ出題ミスではないのだ。あとはその不明瞭の度合いによって収録せず・悪問・出題ミスに近いの３つに割り振っている。収録していないのだから当然なのだが，本企画上でも読者の皆さんの預かり知らないところで，初見で私が首を捻ってチェックをつけたものの，検討の段階で瑕疵が小さいと考えて収録せずとした問題は山のようにある。本問について言えば，�，論喫犬任△襪海箸鯀按鵑貌匹牋幣紊六姐饂�代の魏として読むのが善意の解釈であり，悪問と認定するような不明瞭さがあるとは考えられない。入試問題で三国魏と戦国時代の魏を混同させるような問題はほとんどなく，この点でパリ条約やロンドン会議とは話が違う。
センター試験だけが悪意のある解釈の余地がゼロでなければならないというのは，センター試験の社会的影響を考えればわからないでもないが，過剰コンプライアンスと言えよう。むしろ入試問題の本意から言えば知識・理解による選抜性を失わせる分，全員正解という対応はかえって悪影響と言える。出題ミスとは知識・理解・思考力を試すに値しない問題に貼られる負のレッテルなのだ。仮に本問の水準で出題ミスを出していくなら，つまり過剰コンプライアンスになろうがなんだろうがちょっとでも疑義の出たものは出題ミスとみなしていくのなら，もっと危ない問題は他にもある。たとえば第４問の問５にある次の選択肢。
� ．▲謄佑任蓮ぅ撻襯轡∪鐐荼紂し柿イ料罎�手として活躍した下層市民（無産市民）の発言力が高まった。
この文を正文として読まなければこの問題は正解が消滅してしまうのだが，アテネの下層市民の発言力が高まったのはサラミスの海戦（前480）後であるから，ペルシア戦争がカリアスの和約の前449年に終戦したと見なす立場を取れば誤文になってしまう。しかし，ペルシア戦争は前479年のプラタイアの戦いで実質的に終戦しているという立場もあるから，こちらの立場をとればこの文はセーフになる。いずれの立場も高校世界史上で存在していて無理のない解釈であるから，ここは善意の解釈をして本問は問題なく成立していると見なすべきである。しかし，前述の水準で言えば本問も「ペルシア戦争後とは，具体的に何年頃を指しているのかが不明瞭であるので，正誤の判定ができない」という疑義を発することが可能であり，出題ミスと見なされうる。しかしながら，入手できる限りの世界史の大学入試問題を毎年解いて狂気的に出題ミスや悪問を探している私でさえ，この水準では出題ミスとも悪問とも見なさない。こんな水準でのチェックを日本社会は望んでいるのだろうか。私にはそうは思えないのだ。
さて，本問についてはもう一つの論点がある。本問の選択肢４つの時代・地域がばらばらなことにお気づきだろうか。下線部も「支配体制」と非常に抽象的な言葉になっている。そもそもこの下線が「三国時代」等であればそれが縛りになって，本問は出題ミスとはならなかったのではないか，という指摘はこの騒動で散見された。このようなセンター試験の問題の作りについては，昔から一定の批判がある。これについて知らない読者も多かろうと思うので，補足的に説明を加えておく。
このような「正誤判定の選択肢文４つに，時代も地域もかけ離れたものを持ってくる」仕様はセンター試験に特有である。私大の正誤判定だとめったに見ないものだ。それこそ三国時代というような下線部を用意して，選択肢を４つとも三国時代の関連で作る。センター試験がその特殊な作りをしているのには理由が２つある。
１．文科省から「単年で教科書の全範囲を押さえるような作りにせよ」と指示を受けているため。特定の時代・地域に偏った出題をしてはいけないというよりも，特定の時代・地域が出題“されない”のを極力避けている。しかし，36問で固定という縛りもあり，基本４択（一部仕方のない事例のみ６択）という縛りもあるため，最大でも36×４＝144の事項しか問えない。この制限を両立させるためには，４択の中身をばらばらにせざるをえない。
２．センター試験は用語の意味・内容よりも，用語の出現する時代・地域を問うことに特化している節があるため。そのために用語の意味・内容や，概念的な理解はかなりの程度投げ捨てている。
そうして見ると本問も，わずかこの４つの文で「三国時代の中国」「後期のビザンツ帝国」「ムガル帝国」「近代のプロイセン／ドイツ帝国」「現代のポルトガル／イギリス」とかなり広範囲の時代・地域をカバーできていることがわかる。代わりに屯田制やプロノイア制の中身を全く理解していなくても解けてしまう。
こうしたセンター試験の特徴に対しては，一部の歴史家から以下のような意見や批判がある。
１については，「複数年で教科書の全範囲」が守られれば十分であり，単年で達成する必要はない。
２については，そういう能力が日本国民にとって必要だとは思えないので，世界史の入試問題で問う必要はない。また，用語の出現する時代・地域よりも，用語の概念的理解の方が重要である。
これをまとめた日本学術会議の声明もあるので，ご興味のある方は一読を勧める。
これらに対しての私見を述べておく。
１については，日本学術会議の提言に賛成。無理に単年で全範囲をカバーする必要はないだろう。
２については，私は与しない。用語と時代・地域の一致は，それはそれで必要な理解と思われる。実際に，世界史が苦手な子は「用語は覚えたが，それがどこの時代でどこの地域だったかは覚えてない」となっているケースが多い。また，世界史が得意でも私大専願だとこういう子はたまに見かける。用語と時代・地域の一致を測るのであれば，時代と地域を散りばめた設問を作るのが手っ取り早い手段であろう（最適かどうかは別として）。また，この種の問題は根本的に受験世界史の用語数が多すぎるために，用語自体を覚えるのに必死になっていて時代・地域にまで手が回っていないことに起因していると思われる。ゆえに，用語の削減政策が進めばある程度自然に解消されると考えている（それこそプロノイア制が必要な用語かと言われると……）。
皆さんはいかにお考えだろうか。これは趣味的に歴史にかかわる人も含めて，国民的議論が期待されるところだと思う。
２．名古屋大
＜種別＞難問
＜問題＞１ 問２ 下線部�△砲弔い董癖埣陝Л△い錣罎襦屮悒薀�レスの柱」を越えた大西洋岸にも植民市を建設），「ヘラクレスの柱」に挟まれた海峡の現代名(a)，及びこの人々がイベリア半島沿岸部に多くの植民市を建設した理由(b)について述べなさい。（編註：50〜70字程度）
＜解答解説＞
(a)の正解はジブラルタル海峡。(b)は2016年の問題をそのまま持ってきている。本企画にも収録したアレですよアレ（拙著２巻p.145，2016その他２番）。正解は当時の解答とほぼ同じでよく，「イベリア半島は銀等の鉱物資源が豊富であり，それらを獲得するための現地民との交易拠点が必要であったから。」とか書いておけばよいだろう。ちょっと厄介なのは，当時は解答欄が２行（30〜50字程度）であったのに対し，今回は３行に増えていることである。これ以上何を書き足せばよいのかという気はするが，各予備校の解答速報を見ても50字を超えていないので，現実的に無理なのだろう。
過去問で一度出ている問題の再出題は，現在の入試は過去問演習を前提としている以上当然許される。大学側が受験生にどうしても知っておいてほしい知識・理解であればむしろ有効であろう。しかし，再出題も範囲外のものとなると話は別である。過去問演習が前提とされるのは，現代の大学受験が予備校・参考書文化によって支えられていて，安価に過去問が入手可能であり，高度な解答解説が付されているからに過ぎない。出題の形式や難易度，傾向は大きく変わらないと見なされているので，受験生はやっておいた方が有利と考えて“自主的に”過去問を解いてくるのである。受験生は大学に課されたから解いてきているのではない。範囲外の問題をそっくりそのまま再出題するのであればそのような予告は必要であり，受験生の善意の努力と予備校・参考書文化に支えられた出題は甘えであろう。大学人としてそれでいいのかは再考してほしい。
３．名古屋大（２つめ）
＜種別＞悪問
＜問題＞２ 草原地帯ではひとたび遊牧国家が興ると，��かなりの大国に成長することがあった。そのような大国が生まれると，〔 �◆ �
世界史の舞台に遊牧国家として最初に名前を記した〔 ク 〕，そしてそれに続いてユーラシア草原の東部にあらわれた〔 ケ 〕は，当時の先進的な定住農耕地帯であったギリシアや西アジア，中国にたいして，それに匹敵するかあるいはそれを凌ぐ強大な軍事力によって，その名をとどろかせた。また，それらの地帯の国家とはまったく異なる社会制度をもっていたことも，定住社会の住民にとっては驚異であった。そのため定住社会からは偏見をもって蔑視され，悪魔の申し子とか人間よりも鳥や獣に近い野蛮な存在とみなされてきた。
しかしそのような時代状況の中でも， 草原では遊牧がもっとも適した生活様式であり，遊牧民には彼らなりの価値観が存在することを認めることのできる，柔軟な思想の持ち主もいた。〔 コ 〕と〔 サ 〕である。興味深いことに，両者の語る〔 ク 〕と〔 ケ 〕の風俗習慣は驚くほどよく似ている。それを比較してみよう。
〔 シ 〕巻四
「町も城壁も築いておらず」
「その一人残らずが家を運んでは移動してゆく」
「騎馬の弓使いで」
「種も蒔かねば耕す術も知らない」
「生活は……家畜に頼り」
「ペルシア王が……向ってきた場合には……逃れつつ……撤収し，ペルシア王が退けば追跡して攻める」
（松平千秋訳，岩波文庫）
〔 ス 〕巻一一〇
「城壁とか定まった住居はなく」
「水と草を追って移動し」
「士卒は弓を引く力があればすべて甲冑をつけた騎兵となった」
「耕作に従事することもなかった」
「家畜を放牧しつつ点々と移動した」
「形成有利とあれば進撃し，不利と見れば退却し，平気で逃走した」
（小川・今鷹・福島訳，岩波文庫）
（林俊雄『遊牧国家の誕生』山川出版社， 2009 年， 一部改。）
問２ 下線部� 屬�なりの大国に成長することがあった」とあるが， そのうち世界史上最大の国の名を答えなさい。
また，〔 �◆ 佑呂修里茲Δ並膵颪寮�立が，地域にどのような影響を与えたかを述べた部分である。その内容として考えられることを書きなさい。（編註：30〜50字程度）
問６ 本文中では定住社会の騎馬遊牧民に対する偏見が述べられているが，実際のところ騎馬遊牧民が世界史にあたえた影響は決して小さくない。そのような影響として考えられることを解答欄の枠内に書きなさい。（編註：50〜70字程度）
＜解答解説＞
問２の�，魯皀鵐乾訥觜顱丙廼瓩蓮崑腑皀鵐乾觜顱廚良週�の方が強いかも）。�△蓮峺鯆未琉汰瓦鯤歉擇靴董づ貔召侶从僉κ顕集鯲�を活性化させた」あたりが正解だろう。原文を見てもほぼ同様のことが書いてあった。困ったのは問６で，これは素直に捉えれば問２の�△汎韻顕鯏�になる。騎馬遊牧民が世界史に与えた最大の影響を挙げようとすれば，真っ先に東西交渉への影響になるのは誰だって同じだろう。しかし，当然同じ解答を求めているわけではないと思われるから，これを外して解答を作ることになる。なるのだが，であれば問題文に「問２の��以外の観点で」とつけておくのが筋であり，そうでないなら同じ解答をされても文句は言えないし，実際に加点されなければ理不尽ということになる。予備校でもそう考えた人はいるようで，駿台は半ばやけくそ気味に問２の�△箸曚榮韻顕鯏�を載せた上で，分析で「問２と問６は解答が難しかったと思われる。」としていた。問２は受験生にとって難しいはずがないので，言外に問６は問題の設定に無理があると示しているのだろう。
さて，一応は名大の作問者の意図を汲み取って，東西交渉の活性化以外の解答を作ってみよう。問題文のまだ使っていない部分というと「本文中では定住社会の騎馬遊牧民に対する偏見が述べられているが」になる。これは本文中の「それらの地帯の国家とはまったく異なる社会制度をもっていたことも，定住社会の住民にとっては驚異であった」とあるのに対応していると考えられる。これらから，遊牧民の社会が持っていた特有の制度，あるいはやや拡張して遊牧民特有の風俗・文化が，実際には定住社会を含めた世界史全体に影響を与えている，という論を展開してほしい，ということが推測できる。あとは具体例を想起して，書き添えておけば解答は完成する。
真っ先に挙げやすいのは「騎馬」そのもので，騎射までは難しくても，騎乗は定住社会が遊牧民から学んだ文化と言っていいだろう。日本の鎌倉武士のように，騎射まで習得してしまった集団もいるが，あれは例外である。「騎馬」は河合塾も代ゼミも東進も挙げていた解答であった。逆に，騎馬遊牧民への対抗から定住社会の軍事が発展した事例を挙げてもいい。中国は明代の万里の長城を築くまでに土木建築技術を高めたし，オスマン帝国はチャルディラーンの戦いで銃火器を活用し遊牧民を打ち破った。風俗・文化なら，現在の我々が履いているようなぴっちりしたズボンを生み出したのは遊牧民であり，中国では「胡服」と呼ばれていた。東アジアに限れば椅子も遊牧民が持ち込んだ文化で，中国では魏晋南北朝時代に定着する以前はあまり椅子が用いられていなかったというのは比較的知られているところである。この辺は範囲外の知識になるが，範囲外の出題をする名古屋大に文句を言われる筋合いは全く無いので，知っていれば解答に使っていいだろうし，さすがに加点してくれると思う。
そう考えると，問題文は「実際のところ騎馬遊牧民が世界史にあたえた影響は決して小さくない」という表現も良くない。「世界史」を「定住社会」としておけば意図がわかりやすかった。「世界史」ではスケールが大きすぎ，どうしたって東西交渉に発想が向いてしまう。なんなら，この設問の文言で遊牧民が農耕民に与えた影響を書かせるのは，農耕民だけが世界史の主体であるという誤った認識を追認する形になろう。それは作問者の意図には反するのではないか。
４．名古屋大（３つめ）
＜種別＞悪問
＜問題＞２（編註：リード文は前問と同じ） 問４ 〔 コ 〕・〔 サ 〕に当てはまる人名および，彼らの著作である〔 シ 〕・〔 ス 〕の書名を答えなさい。また，それぞれの書物の主要な内容について，簡潔に説明しなさい。（編註：各20〜30字程度）
＜解答解説＞
本問は素直に解答すれば空欄コがヘロドトス，空欄サが司馬遷，空欄シが『歴史』，空欄スが『史記』になる。しかし，冷静に考えるとこの文章の情報だけでは『史記』と『漢書』の区別が不可能である。『漢書』にも匈奴についての描写はあるし，しかも『漢書』はそれを『史記』から引いているので内容がほぼ全く同じである。しいて言えば匈奴について記した巻の番号が違う。『史記』は問題文中にある通り110巻であるが，『漢書』では94巻である。本問は「こういう時に挙げられるのは常識的に考えれば『史記』であって『漢書』ではない」という“常識”によって支えられているだけで，機械的に判断するなら巻の番号以外で判断がつかない超難問である。
しかし，本問の最大の問題点はここではない。悪質なのは，原文を読むとわかる。なんと，本問は『史記』と『漢書』を区別する手がかりになる部分の文章をカットしているのだ。本来は，「興味深いことに，両者の語る〔 ク 〕と〔 ケ 〕の風俗習慣は驚くほどよく似ている。」の前に，以下のような文章が入る（p.20-21）。
人間にたいする深い洞察力をもち、また物事を客観的にしかし同時に読者の興味を引きつける書き方をすることができたこの二人は、歴史家としての最高の資質をかね備えていたということができる。その著作が東西の史書の最高峰に位置づけられ，今なお読み継がれているのも当然であろう。
「その著作が東西の史書の最高峰に位置づけられ」と言われれば，司馬遷の『史記』しかない。『漢書』も名著とは言われるが，最高峰に挙げられるかと言われれば『史記』に軍配が上がるし，その判断は受験生にも付く。なぜこの部分を削ったのか。悪意以外に理由を見出すなら紙幅の問題しか考えられないが，実は紙幅にはかなり余裕があるので，それも考えづらい。不可解である。
５．名古屋大（４つめ）
＜種別＞悪問というか何というか
＜問題＞４ 以下の史料は， スペインの植民地官僚であったアントニオ・デ・モルガが著した『フィリピン諸島誌』の一部である。モルガは1595年に代理総督としてフィリピンに渡り，1603年にヌエバ・エスパニャ（現在のメキシコを中心とする副王領）に転出している。
この史料を参考にしながら，16 世紀後半に始まった，マニラ，アカプルコ，中国間の国際交易について350字以内で説明しなさい。
〔史料〕
フィリピナス諸島の〔エスパニャ人〕居住者の大部分は商人及び貿易商である。……そこで商品を買付け，毎年ヌエバ・エスパニャヘ（そして今日では日本へも）行く帆船に積んで送り出している。ヌエバ・エスパニャでは生絹が非常な利益をあげ，帆船がマニラヘ帰る時にその売上げ金を商人のもとに持ち帰るが，今までのところ大きなそしてすばらしい利益をあげている。（中略）この通商取引は極めて大規模で利益があり，しかも（〔外国の〕帆船が商品を持って来てからヌエバ・エスパニャヘ行く帆船がそれら商品を持って行くまで，僅か一年のうち三ヵ月しかかからないために）非常にきりまわしやすいので，エスパニャ人は，これ以外のことに精も出さなければ従事してもいない。従って，これといえる農耕も畑作もしていないし，鉱山も，（たくさんある）砂金採取場も開発しておらず，その他（もしチナ貿易がとだえるようなことになれば）非常な利益を生むようなたくさんの仕事にも従事していない。チナ貿易はこの点からいっても，また，原住民がかつて行なっていた仕事や農業を今では放棄してしまい，忘れていっているという点からいっても，非常に有害であり，大きな損失となっている。その上，この貿易の窓口を通して，年々莫大な銀が異教徒の手に渡り，もはやいかなる経路からもエスパニャ人の手に戻ることはないという大きな損害があるのである。
（神吉敬三訳，箭内健次訳・注『フィリピン諸島誌』岩波書店，1966年，385-386, 395ページ，一部改。）
＜解答解説＞
本問の問題点は「国際交易について説明しなさい」となっているという点に尽きる。なぜなら，この国際貿易とはアカプルコ貿易を指しているが，アカプルコ貿易の内容について説明するだけなら史料を考慮する必要が一切ないからである。アカプルコ貿易の説明なんて名大の受験生なら誰だってできるだろう。史料を活用しようにも，史料で語られる内容はアカプルコ貿易の説明ではないので，全く足しにならない。よって，「この史料を参考にしながら」「国際交易について」説明するのは不可能であるのだ。問題が成立していない。
本問を成立させるには，２つの要件のいずれかを無視するしかない。手っ取り早いのは「この史料を参考にする」のをやめることで，これは前述の通り350字使って悠々とアカプルコ貿易の内容の説明をすればよい。アカプルコ貿易の内容の説明なんて200字程度でできてしまうので大きく字数が余るが，余分な情報をたくさん入れたり，流入した銀が一条便法の成立に影響を与えたこと等を苦し紛れに入れたりしておけば埋まらないことはないだろう。河合塾と駿台と東進の解答はこちらで，史料の内容には一切触れていない。
では逆に，「この史料を参考にする」のを優先したらどうなるか。史料文の著者は明らかにアカプルコ貿易を糾弾していて，その問題点は
・原住民もスペイン人も，貿易に精を出していて，農耕も鉱業も放棄してしまっている
・莫大な銀は中国に流出する一方であり，スペイン人には戻ってくることがない
という２点に集約できる。つまり，アカプルコ貿易はその後のフィリピンの長い低開発の起点を作ってしまったことと，スペイン本国は重金主義政策をとっているにもかかわらず，高級な絹織物と陶磁器の入手という奢侈のために，植民地ではむしろ正反対の政策がとられている，ということになる。とすると受験生がすべき解答は，最初の200字ほどでアカプルコ貿易の端的な説明をした後，これら２点の問題点を残りの150字で論じればよい。代ゼミの解答はこちらである。
どう考えても出題者がほしかった解答は後者であろうと思うし，そうであれば史料の読解と思考力を試す良問になっていただけに惜しい。しかし，この解答が欲しいなら問題文は「史料を参考にしながら，国際貿易とそれがスペインやフィリピンに与えた負の影響について説明しなさい」とすべきで，問題文の瑕疵が台無しにしている。今の問題文のままで受験生がフィリピンに与えた影響について論じてくれると思ったら大間違いであり，事実として河合塾と駿台と東進は論じてくれていない。
以上４問，毎年のことではあるが，名古屋大学は受験生とのコミュニケーションを取る気が全く無いと評するほかない。別に私が名古屋大学が嫌いとか，名古屋大学を目の敵にしているとかそういうことはなく，公平な目で旧帝大＋一橋大の問題を解いた上で，こんなに日本語が下手で独善的な問題文を書くのは国立大の中で名古屋大だけというのは改めて明言させてもらいたい。しかも中国史だけおかしいとかならまだしも，どこの時代・地域からでも悪文が飛び出してくるオールレンジ攻撃なので，もはや名大の文学部自体に組織的な問題点があるのではないかという疑いを持たざるを得ない。
＜種別＞出題ミスということになってしまった
＜問題＞１ 問５ 下線部�イ亡慙△靴董癖埣陝�支配体制），制度や政策について述べた文として正しいものを，次の� 銑い里Δ舛�ら一つ選べ。〔 ５ 〕
� £欧如て崚沈�が実施された。
�◆．爛�ル帝国が，貴族に軍役と引き替えに土地を与えるプロノイア制が導入された。
�� ベルンシュタインが，プロイセンで農奴解放を行った。
�ぁ．櫂襯肇�ルで，アトリー政権が社会福祉制度を充実させた。
＜解答解説＞
�◆銑い呂錣�りやすく誤文。なお��はベルンシュタインがシュタインの誤りなのでダジャレである。�，�正文＝正解という普通の問題であったのだが，魏が三国時代の魏（三国魏，曹魏）か戦国時代の魏か区別がつかず，正誤判定ができないという指摘があって，全員正解という扱いとなった。この対応については受験業界のみならず，受験に関心が深い大学人，歴史好きの人々などから概ね非難轟々であった。
私もこの出題ミスは認めるべきではなかったという立場をとる。本問は過失が無いわけではなく，試験実施前に見つかっていたら「三国時代の」と書き足すべきだと考えるのは，対応を批判している人の間でも満場一致で賛成するところだろう。しかし，これは１文ごとの正誤判定ではなく４文の正誤判定，それも１つしか正解がないことが明らかにされているものであるから，残りの３つが誤文であることが明確となった段階で�，論飢鬚箸靴篤匹爐戮�と考える。本企画の出題ミス判定もこの基準で運用していて，４択のうち明確な不正解が３つ，不明瞭が１つという状況であれば，悪問には認定しても出題ミスには認定していない。「善意の解釈をすれば正解が出る」ものは，悪問ではあれ出題ミスではないのだ。あとはその不明瞭の度合いによって収録せず・悪問・出題ミスに近いの３つに割り振っている。収録していないのだから当然なのだが，本企画上でも読者の皆さんの預かり知らないところで，初見で私が首を捻ってチェックをつけたものの，検討の段階で瑕疵が小さいと考えて収録せずとした問題は山のようにある。本問について言えば，�，論喫犬任△襪海箸鯀按鵑貌匹牋幣紊六姐饂�代の魏として読むのが善意の解釈であり，悪問と認定するような不明瞭さがあるとは考えられない。入試問題で三国魏と戦国時代の魏を混同させるような問題はほとんどなく，この点でパリ条約やロンドン会議とは話が違う。
センター試験だけが悪意のある解釈の余地がゼロでなければならないというのは，センター試験の社会的影響を考えればわからないでもないが，過剰コンプライアンスと言えよう。むしろ入試問題の本意から言えば知識・理解による選抜性を失わせる分，全員正解という対応はかえって悪影響と言える。出題ミスとは知識・理解・思考力を試すに値しない問題に貼られる負のレッテルなのだ。仮に本問の水準で出題ミスを出していくなら，つまり過剰コンプライアンスになろうがなんだろうがちょっとでも疑義の出たものは出題ミスとみなしていくのなら，もっと危ない問題は他にもある。たとえば第４問の問５にある次の選択肢。
� ．▲謄佑任蓮ぅ撻襯轡∪鐐荼紂し柿イ料罎�手として活躍した下層市民（無産市民）の発言力が高まった。
この文を正文として読まなければこの問題は正解が消滅してしまうのだが，アテネの下層市民の発言力が高まったのはサラミスの海戦（前480）後であるから，ペルシア戦争がカリアスの和約の前449年に終戦したと見なす立場を取れば誤文になってしまう。しかし，ペルシア戦争は前479年のプラタイアの戦いで実質的に終戦しているという立場もあるから，こちらの立場をとればこの文はセーフになる。いずれの立場も高校世界史上で存在していて無理のない解釈であるから，ここは善意の解釈をして本問は問題なく成立していると見なすべきである。しかし，前述の水準で言えば本問も「ペルシア戦争後とは，具体的に何年頃を指しているのかが不明瞭であるので，正誤の判定ができない」という疑義を発することが可能であり，出題ミスと見なされうる。しかしながら，入手できる限りの世界史の大学入試問題を毎年解いて狂気的に出題ミスや悪問を探している私でさえ，この水準では出題ミスとも悪問とも見なさない。こんな水準でのチェックを日本社会は望んでいるのだろうか。私にはそうは思えないのだ。
さて，本問についてはもう一つの論点がある。本問の選択肢４つの時代・地域がばらばらなことにお気づきだろうか。下線部も「支配体制」と非常に抽象的な言葉になっている。そもそもこの下線が「三国時代」等であればそれが縛りになって，本問は出題ミスとはならなかったのではないか，という指摘はこの騒動で散見された。このようなセンター試験の問題の作りについては，昔から一定の批判がある。これについて知らない読者も多かろうと思うので，補足的に説明を加えておく。
このような「正誤判定の選択肢文４つに，時代も地域もかけ離れたものを持ってくる」仕様はセンター試験に特有である。私大の正誤判定だとめったに見ないものだ。それこそ三国時代というような下線部を用意して，選択肢を４つとも三国時代の関連で作る。センター試験がその特殊な作りをしているのには理由が２つある。
１．文科省から「単年で教科書の全範囲を押さえるような作りにせよ」と指示を受けているため。特定の時代・地域に偏った出題をしてはいけないというよりも，特定の時代・地域が出題“されない”のを極力避けている。しかし，36問で固定という縛りもあり，基本４択（一部仕方のない事例のみ６択）という縛りもあるため，最大でも36×４＝144の事項しか問えない。この制限を両立させるためには，４択の中身をばらばらにせざるをえない。
２．センター試験は用語の意味・内容よりも，用語の出現する時代・地域を問うことに特化している節があるため。そのために用語の意味・内容や，概念的な理解はかなりの程度投げ捨てている。
そうして見ると本問も，わずかこの４つの文で「三国時代の中国」「後期のビザンツ帝国」「ムガル帝国」「近代のプロイセン／ドイツ帝国」「現代のポルトガル／イギリス」とかなり広範囲の時代・地域をカバーできていることがわかる。代わりに屯田制やプロノイア制の中身を全く理解していなくても解けてしまう。
こうしたセンター試験の特徴に対しては，一部の歴史家から以下のような意見や批判がある。
１については，「複数年で教科書の全範囲」が守られれば十分であり，単年で達成する必要はない。
２については，そういう能力が日本国民にとって必要だとは思えないので，世界史の入試問題で問う必要はない。また，用語の出現する時代・地域よりも，用語の概念的理解の方が重要である。
これをまとめた日本学術会議の声明もあるので，ご興味のある方は一読を勧める。
これらに対しての私見を述べておく。
１については，日本学術会議の提言に賛成。無理に単年で全範囲をカバーする必要はないだろう。
２については，私は与しない。用語と時代・地域の一致は，それはそれで必要な理解と思われる。実際に，世界史が苦手な子は「用語は覚えたが，それがどこの時代でどこの地域だったかは覚えてない」となっているケースが多い。また，世界史が得意でも私大専願だとこういう子はたまに見かける。用語と時代・地域の一致を測るのであれば，時代と地域を散りばめた設問を作るのが手っ取り早い手段であろう（最適かどうかは別として）。また，この種の問題は根本的に受験世界史の用語数が多すぎるために，用語自体を覚えるのに必死になっていて時代・地域にまで手が回っていないことに起因していると思われる。ゆえに，用語の削減政策が進めばある程度自然に解消されると考えている（それこそプロノイア制が必要な用語かと言われると……）。
皆さんはいかにお考えだろうか。これは趣味的に歴史にかかわる人も含めて，国民的議論が期待されるところだと思う。
２．名古屋大
＜種別＞難問
＜問題＞１ 問２ 下線部�△砲弔い董癖埣陝Л△い錣罎襦屮悒薀�レスの柱」を越えた大西洋岸にも植民市を建設），「ヘラクレスの柱」に挟まれた海峡の現代名(a)，及びこの人々がイベリア半島沿岸部に多くの植民市を建設した理由(b)について述べなさい。（編註：50〜70字程度）
＜解答解説＞
(a)の正解はジブラルタル海峡。(b)は2016年の問題をそのまま持ってきている。本企画にも収録したアレですよアレ（拙著２巻p.145，2016その他２番）。正解は当時の解答とほぼ同じでよく，「イベリア半島は銀等の鉱物資源が豊富であり，それらを獲得するための現地民との交易拠点が必要であったから。」とか書いておけばよいだろう。ちょっと厄介なのは，当時は解答欄が２行（30〜50字程度）であったのに対し，今回は３行に増えていることである。これ以上何を書き足せばよいのかという気はするが，各予備校の解答速報を見ても50字を超えていないので，現実的に無理なのだろう。
過去問で一度出ている問題の再出題は，現在の入試は過去問演習を前提としている以上当然許される。大学側が受験生にどうしても知っておいてほしい知識・理解であればむしろ有効であろう。しかし，再出題も範囲外のものとなると話は別である。過去問演習が前提とされるのは，現代の大学受験が予備校・参考書文化によって支えられていて，安価に過去問が入手可能であり，高度な解答解説が付されているからに過ぎない。出題の形式や難易度，傾向は大きく変わらないと見なされているので，受験生はやっておいた方が有利と考えて“自主的に”過去問を解いてくるのである。受験生は大学に課されたから解いてきているのではない。範囲外の問題をそっくりそのまま再出題するのであればそのような予告は必要であり，受験生の善意の努力と予備校・参考書文化に支えられた出題は甘えであろう。大学人としてそれでいいのかは再考してほしい。
３．名古屋大（２つめ）
＜種別＞悪問
＜問題＞２ 草原地帯ではひとたび遊牧国家が興ると，��かなりの大国に成長することがあった。そのような大国が生まれると，〔 �◆ �
世界史の舞台に遊牧国家として最初に名前を記した〔 ク 〕，そしてそれに続いてユーラシア草原の東部にあらわれた〔 ケ 〕は，当時の先進的な定住農耕地帯であったギリシアや西アジア，中国にたいして，それに匹敵するかあるいはそれを凌ぐ強大な軍事力によって，その名をとどろかせた。また，それらの地帯の国家とはまったく異なる社会制度をもっていたことも，定住社会の住民にとっては驚異であった。そのため定住社会からは偏見をもって蔑視され，悪魔の申し子とか人間よりも鳥や獣に近い野蛮な存在とみなされてきた。
しかしそのような時代状況の中でも， 草原では遊牧がもっとも適した生活様式であり，遊牧民には彼らなりの価値観が存在することを認めることのできる，柔軟な思想の持ち主もいた。〔 コ 〕と〔 サ 〕である。興味深いことに，両者の語る〔 ク 〕と〔 ケ 〕の風俗習慣は驚くほどよく似ている。それを比較してみよう。
〔 シ 〕巻四
「町も城壁も築いておらず」
「その一人残らずが家を運んでは移動してゆく」
「騎馬の弓使いで」
「種も蒔かねば耕す術も知らない」
「生活は……家畜に頼り」
「ペルシア王が……向ってきた場合には……逃れつつ……撤収し，ペルシア王が退けば追跡して攻める」
（松平千秋訳，岩波文庫）
〔 ス 〕巻一一〇
「城壁とか定まった住居はなく」
「水と草を追って移動し」
「士卒は弓を引く力があればすべて甲冑をつけた騎兵となった」
「耕作に従事することもなかった」
「家畜を放牧しつつ点々と移動した」
「形成有利とあれば進撃し，不利と見れば退却し，平気で逃走した」
（小川・今鷹・福島訳，岩波文庫）
（林俊雄『遊牧国家の誕生』山川出版社， 2009 年， 一部改。）
問２ 下線部� 屬�なりの大国に成長することがあった」とあるが， そのうち世界史上最大の国の名を答えなさい。
また，〔 �◆ 佑呂修里茲Δ並膵颪寮�立が，地域にどのような影響を与えたかを述べた部分である。その内容として考えられることを書きなさい。（編註：30〜50字程度）
問６ 本文中では定住社会の騎馬遊牧民に対する偏見が述べられているが，実際のところ騎馬遊牧民が世界史にあたえた影響は決して小さくない。そのような影響として考えられることを解答欄の枠内に書きなさい。（編註：50〜70字程度）
＜解答解説＞
問２の�，魯皀鵐乾訥觜顱丙廼瓩蓮崑腑皀鵐乾觜顱廚良週�の方が強いかも）。�△蓮峺鯆未琉汰瓦鯤歉擇靴董づ貔召侶从僉κ顕集鯲�を活性化させた」あたりが正解だろう。原文を見てもほぼ同様のことが書いてあった。困ったのは問６で，これは素直に捉えれば問２の�△汎韻顕鯏�になる。騎馬遊牧民が世界史に与えた最大の影響を挙げようとすれば，真っ先に東西交渉への影響になるのは誰だって同じだろう。しかし，当然同じ解答を求めているわけではないと思われるから，これを外して解答を作ることになる。なるのだが，であれば問題文に「問２の��以外の観点で」とつけておくのが筋であり，そうでないなら同じ解答をされても文句は言えないし，実際に加点されなければ理不尽ということになる。予備校でもそう考えた人はいるようで，駿台は半ばやけくそ気味に問２の�△箸曚榮韻顕鯏�を載せた上で，分析で「問２と問６は解答が難しかったと思われる。」としていた。問２は受験生にとって難しいはずがないので，言外に問６は問題の設定に無理があると示しているのだろう。
さて，一応は名大の作問者の意図を汲み取って，東西交渉の活性化以外の解答を作ってみよう。問題文のまだ使っていない部分というと「本文中では定住社会の騎馬遊牧民に対する偏見が述べられているが」になる。これは本文中の「それらの地帯の国家とはまったく異なる社会制度をもっていたことも，定住社会の住民にとっては驚異であった」とあるのに対応していると考えられる。これらから，遊牧民の社会が持っていた特有の制度，あるいはやや拡張して遊牧民特有の風俗・文化が，実際には定住社会を含めた世界史全体に影響を与えている，という論を展開してほしい，ということが推測できる。あとは具体例を想起して，書き添えておけば解答は完成する。
真っ先に挙げやすいのは「騎馬」そのもので，騎射までは難しくても，騎乗は定住社会が遊牧民から学んだ文化と言っていいだろう。日本の鎌倉武士のように，騎射まで習得してしまった集団もいるが，あれは例外である。「騎馬」は河合塾も代ゼミも東進も挙げていた解答であった。逆に，騎馬遊牧民への対抗から定住社会の軍事が発展した事例を挙げてもいい。中国は明代の万里の長城を築くまでに土木建築技術を高めたし，オスマン帝国はチャルディラーンの戦いで銃火器を活用し遊牧民を打ち破った。風俗・文化なら，現在の我々が履いているようなぴっちりしたズボンを生み出したのは遊牧民であり，中国では「胡服」と呼ばれていた。東アジアに限れば椅子も遊牧民が持ち込んだ文化で，中国では魏晋南北朝時代に定着する以前はあまり椅子が用いられていなかったというのは比較的知られているところである。この辺は範囲外の知識になるが，範囲外の出題をする名古屋大に文句を言われる筋合いは全く無いので，知っていれば解答に使っていいだろうし，さすがに加点してくれると思う。
そう考えると，問題文は「実際のところ騎馬遊牧民が世界史にあたえた影響は決して小さくない」という表現も良くない。「世界史」を「定住社会」としておけば意図がわかりやすかった。「世界史」ではスケールが大きすぎ，どうしたって東西交渉に発想が向いてしまう。なんなら，この設問の文言で遊牧民が農耕民に与えた影響を書かせるのは，農耕民だけが世界史の主体であるという誤った認識を追認する形になろう。それは作問者の意図には反するのではないか。
４．名古屋大（３つめ）
＜種別＞悪問
＜問題＞２（編註：リード文は前問と同じ） 問４ 〔 コ 〕・〔 サ 〕に当てはまる人名および，彼らの著作である〔 シ 〕・〔 ス 〕の書名を答えなさい。また，それぞれの書物の主要な内容について，簡潔に説明しなさい。（編註：各20〜30字程度）
＜解答解説＞
本問は素直に解答すれば空欄コがヘロドトス，空欄サが司馬遷，空欄シが『歴史』，空欄スが『史記』になる。しかし，冷静に考えるとこの文章の情報だけでは『史記』と『漢書』の区別が不可能である。『漢書』にも匈奴についての描写はあるし，しかも『漢書』はそれを『史記』から引いているので内容がほぼ全く同じである。しいて言えば匈奴について記した巻の番号が違う。『史記』は問題文中にある通り110巻であるが，『漢書』では94巻である。本問は「こういう時に挙げられるのは常識的に考えれば『史記』であって『漢書』ではない」という“常識”によって支えられているだけで，機械的に判断するなら巻の番号以外で判断がつかない超難問である。
しかし，本問の最大の問題点はここではない。悪質なのは，原文を読むとわかる。なんと，本問は『史記』と『漢書』を区別する手がかりになる部分の文章をカットしているのだ。本来は，「興味深いことに，両者の語る〔 ク 〕と〔 ケ 〕の風俗習慣は驚くほどよく似ている。」の前に，以下のような文章が入る（p.20-21）。
人間にたいする深い洞察力をもち、また物事を客観的にしかし同時に読者の興味を引きつける書き方をすることができたこの二人は、歴史家としての最高の資質をかね備えていたということができる。その著作が東西の史書の最高峰に位置づけられ，今なお読み継がれているのも当然であろう。
「その著作が東西の史書の最高峰に位置づけられ」と言われれば，司馬遷の『史記』しかない。『漢書』も名著とは言われるが，最高峰に挙げられるかと言われれば『史記』に軍配が上がるし，その判断は受験生にも付く。なぜこの部分を削ったのか。悪意以外に理由を見出すなら紙幅の問題しか考えられないが，実は紙幅にはかなり余裕があるので，それも考えづらい。不可解である。
５．名古屋大（４つめ）
＜種別＞悪問というか何というか
＜問題＞４ 以下の史料は， スペインの植民地官僚であったアントニオ・デ・モルガが著した『フィリピン諸島誌』の一部である。モルガは1595年に代理総督としてフィリピンに渡り，1603年にヌエバ・エスパニャ（現在のメキシコを中心とする副王領）に転出している。
この史料を参考にしながら，16 世紀後半に始まった，マニラ，アカプルコ，中国間の国際交易について350字以内で説明しなさい。
〔史料〕
フィリピナス諸島の〔エスパニャ人〕居住者の大部分は商人及び貿易商である。……そこで商品を買付け，毎年ヌエバ・エスパニャヘ（そして今日では日本へも）行く帆船に積んで送り出している。ヌエバ・エスパニャでは生絹が非常な利益をあげ，帆船がマニラヘ帰る時にその売上げ金を商人のもとに持ち帰るが，今までのところ大きなそしてすばらしい利益をあげている。（中略）この通商取引は極めて大規模で利益があり，しかも（〔外国の〕帆船が商品を持って来てからヌエバ・エスパニャヘ行く帆船がそれら商品を持って行くまで，僅か一年のうち三ヵ月しかかからないために）非常にきりまわしやすいので，エスパニャ人は，これ以外のことに精も出さなければ従事してもいない。従って，これといえる農耕も畑作もしていないし，鉱山も，（たくさんある）砂金採取場も開発しておらず，その他（もしチナ貿易がとだえるようなことになれば）非常な利益を生むようなたくさんの仕事にも従事していない。チナ貿易はこの点からいっても，また，原住民がかつて行なっていた仕事や農業を今では放棄してしまい，忘れていっているという点からいっても，非常に有害であり，大きな損失となっている。その上，この貿易の窓口を通して，年々莫大な銀が異教徒の手に渡り，もはやいかなる経路からもエスパニャ人の手に戻ることはないという大きな損害があるのである。
（神吉敬三訳，箭内健次訳・注『フィリピン諸島誌』岩波書店，1966年，385-386, 395ページ，一部改。）
＜解答解説＞
本問の問題点は「国際交易について説明しなさい」となっているという点に尽きる。なぜなら，この国際貿易とはアカプルコ貿易を指しているが，アカプルコ貿易の内容について説明するだけなら史料を考慮する必要が一切ないからである。アカプルコ貿易の説明なんて名大の受験生なら誰だってできるだろう。史料を活用しようにも，史料で語られる内容はアカプルコ貿易の説明ではないので，全く足しにならない。よって，「この史料を参考にしながら」「国際交易について」説明するのは不可能であるのだ。問題が成立していない。
本問を成立させるには，２つの要件のいずれかを無視するしかない。手っ取り早いのは「この史料を参考にする」のをやめることで，これは前述の通り350字使って悠々とアカプルコ貿易の内容の説明をすればよい。アカプルコ貿易の内容の説明なんて200字程度でできてしまうので大きく字数が余るが，余分な情報をたくさん入れたり，流入した銀が一条便法の成立に影響を与えたこと等を苦し紛れに入れたりしておけば埋まらないことはないだろう。河合塾と駿台と東進の解答はこちらで，史料の内容には一切触れていない。
では逆に，「この史料を参考にする」のを優先したらどうなるか。史料文の著者は明らかにアカプルコ貿易を糾弾していて，その問題点は
・原住民もスペイン人も，貿易に精を出していて，農耕も鉱業も放棄してしまっている
・莫大な銀は中国に流出する一方であり，スペイン人には戻ってくることがない
という２点に集約できる。つまり，アカプルコ貿易はその後のフィリピンの長い低開発の起点を作ってしまったことと，スペイン本国は重金主義政策をとっているにもかかわらず，高級な絹織物と陶磁器の入手という奢侈のために，植民地ではむしろ正反対の政策がとられている，ということになる。とすると受験生がすべき解答は，最初の200字ほどでアカプルコ貿易の端的な説明をした後，これら２点の問題点を残りの150字で論じればよい。代ゼミの解答はこちらである。
どう考えても出題者がほしかった解答は後者であろうと思うし，そうであれば史料の読解と思考力を試す良問になっていただけに惜しい。しかし，この解答が欲しいなら問題文は「史料を参考にしながら，国際貿易とそれがスペインやフィリピンに与えた負の影響について説明しなさい」とすべきで，問題文の瑕疵が台無しにしている。今の問題文のままで受験生がフィリピンに与えた影響について論じてくれると思ったら大間違いであり，事実として河合塾と駿台と東進は論じてくれていない。
以上４問，毎年のことではあるが，名古屋大学は受験生とのコミュニケーションを取る気が全く無いと評するほかない。別に私が名古屋大学が嫌いとか，名古屋大学を目の敵にしているとかそういうことはなく，公平な目で旧帝大＋一橋大の問題を解いた上で，こんなに日本語が下手で独善的な問題文を書くのは国立大の中で名古屋大だけというのは改めて明言させてもらいたい。しかも中国史だけおかしいとかならまだしも，どこの時代・地域からでも悪文が飛び出してくるオールレンジ攻撃なので，もはや名大の文学部自体に組織的な問題点があるのではないかという疑いを持たざるを得ない。
Posted by dg_law at 17:00│Comments(13)
この記事へのコメント
私もセンターの件にはほぼ同意見です。
本来消去法で選ぶものでは無いという観点から見れば正解の選択肢に疑義が生じてしまえば出題ミスと言うことは理解できなくはないですが、144問で全ての時代を網羅しなければならないという点から見ればセンターにおいて消去法の選択肢が許されるべきであり、これを出題ミスと捉えるならTwitterで仰ってたように全く同じ理由で今年の問題でさえ何問か出題ミスとしてもおかしくなかったはずです。
本来消去法で選ぶものでは無いという観点から見れば正解の選択肢に疑義が生じてしまえば出題ミスと言うことは理解できなくはないですが、144問で全ての時代を網羅しなければならないという点から見ればセンターにおいて消去法の選択肢が許されるべきであり、これを出題ミスと捉えるならTwitterで仰ってたように全く同じ理由で今年の問題でさえ何問か出題ミスとしてもおかしくなかったはずです。
Posted by あきら at 2020年03月15日 23:58
魏どころか呉も蜀も秦も唐も五胡十六国や五代十国時代の王朝と判別不可能(前秦や後唐も正式な国号は秦や唐)だから「センター基準」だと過去の多くの問題が出題ミスになるな
Posted by ゆきゆきてシングンマイケル at 2020年03月16日 19:46
センター試験については、指摘が受験生からだったということらしいですが、これはセンター試験なら出題ミスではないのかなと思います。
名古屋大の問題については、負の影響ということを問題文にかいてしまうと、資料に負の影響があるということが明確に読めてしまうので、資料の内容から負の内容を読み取ってほしいという願いから、このような問題文なのかなと思います。その点で、ディスコミュニケーションではないと考えます。むしろ、良問かと思いますね。過去問の焼き直しかつ範囲外の出題は見た瞬間にまさかと思い、これは糾弾やむ無しかなと
名古屋大の問題については、負の影響ということを問題文にかいてしまうと、資料に負の影響があるということが明確に読めてしまうので、資料の内容から負の内容を読み取ってほしいという願いから、このような問題文なのかなと思います。その点で、ディスコミュニケーションではないと考えます。むしろ、良問かと思いますね。過去問の焼き直しかつ範囲外の出題は見た瞬間にまさかと思い、これは糾弾やむ無しかなと
Posted by かっつん at 2020年03月17日 20:39
＞あきらさん
おっしゃる通りで，センター試験の形式自体が消去法を許容しているので，単独の選択肢だけで出題ミスであるか否かを判断してしまうのは本質的ではないと思います。で，やはりなぜこの問題だけ，という話になる。
＞ゆきゆきてシングンマイケルさん
そういうことですね。
もちろん，一々「李世民が二代目の」とかつければ判別可能になるわけですが，煩雑であるし，何より難易度調整がさらに困難になってしまうので，まずいんですよね。
＞かっつんさん
「負の」とつけるべきかどうかはあまり重要なポイントではなく，「影響について」が入っているか入っていないかが重要なポイントですね。
問題文が「影響について」と入っていない以上はどう考えてもディスコミュニケーションであると思います。
その上で言えば，確かに「負の」とつけない方が，解答として書いてほしい影響の正負自体も受験生に判断させることになってより思考力を問うことになるのですが，本問でそこは焦点ではなく，ノイズ無く史料の読解に集中してもらうには，「一条便法等には言及しなくてよい」と明示する意味で「負の」とつけてもよいかなと思います。
どちらにも意図はあるので，どちらでもいいところなのですが，個人的には「負の」とつけて誘導する方が好きですね。
おっしゃる通りで，センター試験の形式自体が消去法を許容しているので，単独の選択肢だけで出題ミスであるか否かを判断してしまうのは本質的ではないと思います。で，やはりなぜこの問題だけ，という話になる。
＞ゆきゆきてシングンマイケルさん
そういうことですね。
もちろん，一々「李世民が二代目の」とかつければ判別可能になるわけですが，煩雑であるし，何より難易度調整がさらに困難になってしまうので，まずいんですよね。
＞かっつんさん
「負の」とつけるべきかどうかはあまり重要なポイントではなく，「影響について」が入っているか入っていないかが重要なポイントですね。
問題文が「影響について」と入っていない以上はどう考えてもディスコミュニケーションであると思います。
その上で言えば，確かに「負の」とつけない方が，解答として書いてほしい影響の正負自体も受験生に判断させることになってより思考力を問うことになるのですが，本問でそこは焦点ではなく，ノイズ無く史料の読解に集中してもらうには，「一条便法等には言及しなくてよい」と明示する意味で「負の」とつけてもよいかなと思います。
どちらにも意図はあるので，どちらでもいいところなのですが，個人的には「負の」とつけて誘導する方が好きですね。
Posted by DG-Law at 2020年03月17日 21:35
名古屋大の毎年の悪問(？)は面白いですね。今年の一橋の問題はしっかりと対策してきた受験生にとって良問だと思ったのですが、どのように感じられましたか？
Posted by あ at 2020年03月18日 13:30
今回センター試験の世界史を受けた身からしてみたら、この問題に対する入試センター側の対応には納得がいかない。
魏晋南北朝時代（三国）の"魏"という国で屯田制が行われたのは事実であり、日本語の文法的観点からみて間違っていないと思う。友人とも話したが、やはりみんな同意見。
そもそもこれを申告した人は誰なんだ？現役生だったら相当肝が据わっている、こっちは緊張して吐きそうっだったのに…
魏晋南北朝時代（三国）の"魏"という国で屯田制が行われたのは事実であり、日本語の文法的観点からみて間違っていないと思う。友人とも話したが、やはりみんな同意見。
そもそもこれを申告した人は誰なんだ？現役生だったら相当肝が据わっている、こっちは緊張して吐きそうっだったのに…
Posted by ヴェッセル00 at 2020年03月18日 17:18
＞あ さん
だらだらと書きそびれていますが，一橋大はおまけで触れる予定です。
他の人へのコメント返しで書いていますが，第１問であっても少なくとも悪問ではないですね。第２問・第３問は普通に良問だと思います。
＞ヴェッセル00さん
本文で解説していますが，要するにそういう話ですわな。
魏のうちのどれかで屯田制が実施されていたなら正文と見なしていいですよ。残りの３つが明白に誤文なのだから。
世の中，肝が据わっている人はいるので，気にしないようにしましょう。
だらだらと書きそびれていますが，一橋大はおまけで触れる予定です。
他の人へのコメント返しで書いていますが，第１問であっても少なくとも悪問ではないですね。第２問・第３問は普通に良問だと思います。
＞ヴェッセル00さん
本文で解説していますが，要するにそういう話ですわな。
魏のうちのどれかで屯田制が実施されていたなら正文と見なしていいですよ。残りの３つが明白に誤文なのだから。
世の中，肝が据わっている人はいるので，気にしないようにしましょう。
Posted by DG-Law at 2020年03月18日 22:54
15年近くセンター試験日本史を分析していますが、センター試験ではごくごく普通と思います。
それこそ日本史においても、
＞「正誤判定の選択肢文４つに，時代も（地域も）かけ離れたものを持ってくる」
（地域は日本史ではあまり）
はざらにあります。（しかもそんなのに限ってさも巧妙に日本語を改変して意味が通るようにしていたり）
ちなみに近年のセンター日本史で縄文以前のテーマでの大問出題はあまりなされていません。
（ただし、北海道、沖縄地域史と絡めた単独出題は割とあります。これはセンター試験、私大ともに大好きなので、近年とみに。）
＞「単年で教科書の全範囲を押さえるような作りにせよ」
とても日本史では上記のようには感じないですね。。。
ので、一部の受験者に、飛鳥時代以降、さらにヤマを張って奈良時代以降おさえればよいなんて発想を持たせている感もあります。
閑話休題
センター世界史といえば従軍慰安婦が出題され騒動にも繋がった事例がありますがそっちのほうがよっぽど考えなければならない問題のような気がしますね。もう十数年前の話ですが。
それこそ日本史においても、
＞「正誤判定の選択肢文４つに，時代も（地域も）かけ離れたものを持ってくる」
（地域は日本史ではあまり）
はざらにあります。（しかもそんなのに限ってさも巧妙に日本語を改変して意味が通るようにしていたり）
ちなみに近年のセンター日本史で縄文以前のテーマでの大問出題はあまりなされていません。
（ただし、北海道、沖縄地域史と絡めた単独出題は割とあります。これはセンター試験、私大ともに大好きなので、近年とみに。）
＞「単年で教科書の全範囲を押さえるような作りにせよ」
とても日本史では上記のようには感じないですね。。。
ので、一部の受験者に、飛鳥時代以降、さらにヤマを張って奈良時代以降おさえればよいなんて発想を持たせている感もあります。
閑話休題
センター世界史といえば従軍慰安婦が出題され騒動にも繋がった事例がありますがそっちのほうがよっぽど考えなければならない問題のような気がしますね。もう十数年前の話ですが。
Posted by おおおおんづけ at 2020年05月16日 10:55
同じセンター試験ですからね。
ただ，日本史の場合，そういう時代をばらばらにした問題は割と第１問のテーマ史に固めていて，第２問以降は「古代」「中世」「近世」「近代」「現代」という括り自体は生きている印象です。
逆に言えば，センター世界史は全大問が日本史でいう第１問みたいなノリです。その意味で，この「時代・地域をばらばらにして問うことに意味はあるか」という論題は世界史の方が重いですね。
なお，共通テスト世界史では図らずも，あまり地域や時代がかけ離れた選択肢が並ぶということは少なくなりそうです。
図版や史料を使うと，どうしてもそういう問題は作りづらいですから。
＞ちなみに近年のセンター日本史で縄文以前のテーマでの大問出題はあまりなされていません。
あー，世界史でも先史時代だけはこの「なるべく全範囲」の例外ですね。
全然真面目に調べてはいないですが，直近10年以上でまともに出題されたことがないはずです。
それ以外の分野はあんなにマメに取りこぼしがないように作っているのに，これだけ先史だけは絶対に出題しないというのは，暗にセンターの作問者チームが「先史は世界史ではない」と思っているということなのかも。
＞センター世界史といえば従軍慰安婦が出題され騒動にも繋がった（以下略
あー，ありましたね。当時にまだ高校生だったので記憶があります（年齢がばれる発言）。
当然ながら抗議は突っぱねられていました。
ただ，日本史の場合，そういう時代をばらばらにした問題は割と第１問のテーマ史に固めていて，第２問以降は「古代」「中世」「近世」「近代」「現代」という括り自体は生きている印象です。
逆に言えば，センター世界史は全大問が日本史でいう第１問みたいなノリです。その意味で，この「時代・地域をばらばらにして問うことに意味はあるか」という論題は世界史の方が重いですね。
なお，共通テスト世界史では図らずも，あまり地域や時代がかけ離れた選択肢が並ぶということは少なくなりそうです。
図版や史料を使うと，どうしてもそういう問題は作りづらいですから。
＞ちなみに近年のセンター日本史で縄文以前のテーマでの大問出題はあまりなされていません。
あー，世界史でも先史時代だけはこの「なるべく全範囲」の例外ですね。
全然真面目に調べてはいないですが，直近10年以上でまともに出題されたことがないはずです。
それ以外の分野はあんなにマメに取りこぼしがないように作っているのに，これだけ先史だけは絶対に出題しないというのは，暗にセンターの作問者チームが「先史は世界史ではない」と思っているということなのかも。
＞センター世界史といえば従軍慰安婦が出題され騒動にも繋がった（以下略
あー，ありましたね。当時にまだ高校生だったので記憶があります（年齢がばれる発言）。
当然ながら抗議は突っぱねられていました。
Posted by DG-Law at 2020年05月16日 18:37
大学入試共通テスト本試世界史については、私の専門外のため、各予備校の分析を精査できるほどの力はありません。
日本史の観点から気になった事項を列挙します。
世界史A
・日本史Aと異なり近現代でない問題が散見されますがそれはいつものことなのでしょうか。
・日本史Aと異なりB科目との共通問題が見受けられませんがそれはいつものことなのでしょうか。
・問題番号２０、３３は日本史（中学校レベルの）問題、これは科目間の融合のあおりなのでしょうね。
・問題番号２１、３１、３２は半分は倫理っぽい問題、これは科目間の融合のあおりなのでしょうね。
世界史B
・問題番号１の半分は倫理っぽい問題、これは科目間の融合のあおりなのでしょうね。
・問題番号２３は、２０００年前半くらいに受験生だった感覚からすると政治経済の範疇の問題であるも、日本史でとみに見られるように、同様に考えて１９９０年代までは世界史の範疇と考えると世界史の問題として処理して問題なさそう。
取り急ぎこんな漢字でしょうか。
日本史の観点から気になった事項を列挙します。
世界史A
・日本史Aと異なり近現代でない問題が散見されますがそれはいつものことなのでしょうか。
・日本史Aと異なりB科目との共通問題が見受けられませんがそれはいつものことなのでしょうか。
・問題番号２０、３３は日本史（中学校レベルの）問題、これは科目間の融合のあおりなのでしょうね。
・問題番号２１、３１、３２は半分は倫理っぽい問題、これは科目間の融合のあおりなのでしょうね。
世界史B
・問題番号１の半分は倫理っぽい問題、これは科目間の融合のあおりなのでしょうね。
・問題番号２３は、２０００年前半くらいに受験生だった感覚からすると政治経済の範疇の問題であるも、日本史でとみに見られるように、同様に考えて１９９０年代までは世界史の範疇と考えると世界史の問題として処理して問題なさそう。
取り急ぎこんな漢字でしょうか。
Posted by おおおんづけ at 2021年02月06日 20:33
＞世界史A
＞・日本史Aと異なり近現代でない問題が散見されますがそれはいつものことなのでしょうか。
＞・日本史Aと異なりB科目との共通問題が見受けられませんがそれはいつものことなのでしょうか。
これらはセンター試験時代からそうで，いつものことですね。
＞・問題番号２０、３３は日本史（中学校レベルの）問題、これは科目間の融合のあおりなのでしょうね。
＞・問題番号２１、３１、３２は半分は倫理っぽい問題、これは科目間の融合のあおりなのでしょうね。
日本史とは最近割と接近しているので，ありうると思います。
倫理っぽいのは偶然でしょうね。世界史Bについても以下同文。
＞世界史B
＞・問題番号２３は、２０００年前半くらいに受験生だった感覚からすると〜〜
イラク戦争くらいまではもう普通に入試に出ますね。
私大だと５年くらい前までは出ることがあります。
世界史Bは第１日程・第２日程ともに歴史学の手法や歴史修正主義についての設問があったのが面白かったですね。
＞・日本史Aと異なり近現代でない問題が散見されますがそれはいつものことなのでしょうか。
＞・日本史Aと異なりB科目との共通問題が見受けられませんがそれはいつものことなのでしょうか。
これらはセンター試験時代からそうで，いつものことですね。
＞・問題番号２０、３３は日本史（中学校レベルの）問題、これは科目間の融合のあおりなのでしょうね。
＞・問題番号２１、３１、３２は半分は倫理っぽい問題、これは科目間の融合のあおりなのでしょうね。
日本史とは最近割と接近しているので，ありうると思います。
倫理っぽいのは偶然でしょうね。世界史Bについても以下同文。
＞世界史B
＞・問題番号２３は、２０００年前半くらいに受験生だった感覚からすると〜〜
イラク戦争くらいまではもう普通に入試に出ますね。
私大だと５年くらい前までは出ることがあります。
世界史Bは第１日程・第２日程ともに歴史学の手法や歴史修正主義についての設問があったのが面白かったですね。
Posted by DG-Law at 2021年02月08日 00:03
別依頼で一橋の地理２０２０を見ていたのですが、このときの世界史に良い問題がありますね。
資本主義世界の覇権がイギリスからアメリカ合衆国に移行した過程を４００字以内で書かせる問題です。
もちろん、一橋受験生には朝飯前なのでしょうけれども、私を含めた多くのビジネスマンはまともに説明できないかと思います。
私の（十数年前に学習したきりの世界史Aレベルの）仮説は以下ですが、多くはそれ以前で「自然に移った」というくらいの認識かもしれません。。。
・日本による真珠湾攻撃といった反例もあるが、第二次世界大戦においてアメリカはトータルすると、アメリカへの被害が、ヒトラー率いるドイツと衝突しているイギリスよりもすくなかった。
・第一次世界大戦においてアメリカは（ドイツの無制限潜水艦作戦でアメリカ国の乗客に被害を被ったので）あとから参戦したため被害がすくなかった。
・以上、両大戦ともにイギリスよりアメリカの被害が少ないと推論されること、また、戦後のサンフランシスコ講和会議はアメリカで開催されたことを総合して、アメリカ合衆国にイギリスから資本主義世界の覇権が移った。
全然４００字足らないし、多分に誤りだらけだと思いますので、ご笑覧ください。
※なお、サンフランシスコ講和会議は日本とアメリカ（だけ）の調印と誤認させるような記述がまれにみられるのが日本史的に痛いところと思っていたりします。。。
資本主義世界の覇権がイギリスからアメリカ合衆国に移行した過程を４００字以内で書かせる問題です。
もちろん、一橋受験生には朝飯前なのでしょうけれども、私を含めた多くのビジネスマンはまともに説明できないかと思います。
私の（十数年前に学習したきりの世界史Aレベルの）仮説は以下ですが、多くはそれ以前で「自然に移った」というくらいの認識かもしれません。。。
・日本による真珠湾攻撃といった反例もあるが、第二次世界大戦においてアメリカはトータルすると、アメリカへの被害が、ヒトラー率いるドイツと衝突しているイギリスよりもすくなかった。
・第一次世界大戦においてアメリカは（ドイツの無制限潜水艦作戦でアメリカ国の乗客に被害を被ったので）あとから参戦したため被害がすくなかった。
・以上、両大戦ともにイギリスよりアメリカの被害が少ないと推論されること、また、戦後のサンフランシスコ講和会議はアメリカで開催されたことを総合して、アメリカ合衆国にイギリスから資本主義世界の覇権が移った。
全然４００字足らないし、多分に誤りだらけだと思いますので、ご笑覧ください。
※なお、サンフランシスコ講和会議は日本とアメリカ（だけ）の調印と誤認させるような記述がまれにみられるのが日本史的に痛いところと思っていたりします。。。
Posted by おおおんづけ at 2021年02月11日 21:37
その問題は1996年の東大の第１問のリメイクで，それが頭にあると設問のねらいがすぐに見抜けたやつですね。
スタートは工業力の逆転，アメリカが1880年代には世界最大の工業国になったことから書き始め，二度の大戦でアメリカが国際社会での指導力をつけていったこと，逆にイギリスは二度の大戦で被害が大きかったこと（したがってコメントの内容は正しいです），国際金融の中心地のロンドンからニューヨークへの移動，イギリス植民地帝国の解体と続けていく感じです。
最後がポイントとしては大きくて，パクス＝ブリタニカとは帝国主義諸国による世界分割が基調にあったが，さてパクス＝アメリカーナはどうだったか？ という視点が持てると書きやすいですね。
スタートは工業力の逆転，アメリカが1880年代には世界最大の工業国になったことから書き始め，二度の大戦でアメリカが国際社会での指導力をつけていったこと，逆にイギリスは二度の大戦で被害が大きかったこと（したがってコメントの内容は正しいです），国際金融の中心地のロンドンからニューヨークへの移動，イギリス植民地帝国の解体と続けていく感じです。
最後がポイントとしては大きくて，パクス＝ブリタニカとは帝国主義諸国による世界分割が基調にあったが，さてパクス＝アメリカーナはどうだったか？ という視点が持てると書きやすいですね。
Posted by DG-Law at 2021年02月12日 00:55
