2020年11月16日

大学入学共通テストの第二日程騒動について

・大学入学共通テスト 来年1月16日から予定どおり実施へ 文科省(NHK)
・共通テ、校長判断で第2日程選択(共同通信)
情報を整理すると,
◯通常の共通テストは1/16-17で実施。浪人生は原則として全員こちらで受験。
◯第二日程として1/30-31でも実施。基本的には通常日程で受験できなかった人のための追試だが,現役生に限り,通常日程を回避してこちらを本試に選択可能。ただし,「新型コロナウイルスによる休校等で学習が遅れたため」という理由に限られ,第二日程を本試験に選択するためには所属高校の校長の許可が必要。
◯さらに特例追試験として2/13-14でも実施。第二日程を本試験として出願したが,「新型コロナウイルスに感染した」等の理由で受験できなかった人のみが受験可能。ただし,特例追試験の問題は共通テスト型ではなく,旧来のセンター試験型になる。
ということになる。つまり,現役生は第一日程を本試(第二を追試)とするか,第二日程を本試(特例追試験を追試)とするか,選べるようになった。ところが。


・大学共通テスト、コロナ考慮の第2日程は志願789人(朝日新聞)
受験生の願書受付が終わった11月中旬現在,蓋を開けてみると第二日程を本試に選んだのは1000人未満,残りの約50万人は通常日程を選んだということがわかっている。第二日程や特例追試験は置くだけ無駄だったということである。事前の予測ではもっと第二日程に人が流れるのではないかと言われていたが,予測が外れた形になる。理由はいくつか考えられるが,調べた範囲では以下のような理由が大きい。

1−1.既存のセンター試験の追試は本試験の翌週であったが,共通テストの第二日程は新型コロナウイルスの隔離期間を考慮して2週間の間がとられた。しかし,1/31まで共通テスト対策のための受験勉強がずれこむと,多くの私大は2/1から入試日程が始まってしまうので,私大対策の時間が著しく減少して不利になる。たとえば関西大・関西学院大・立命館大はいずれも主要学部で2/1にもう入試日程がある。仮に国公立大専願だとしてもこの時期の2週間はあまりにも大きい。

1−2.さらに,万が一に第二日程を受験できず,特例追試験に回った場合は悲惨である。共通テストとセンター試験は出題方針が違うので,2週間で修正は難しい。当然,私大・国公立大対策の時間が追加で2週間削られることにもなる。しかも2/13-14は多くの私大の入試日程ともろかぶりであり(慶應大・早稲田大・青山学院大・明治大・立教大等),最悪の場合,どちらかしか受験できなくなることが想定された。多くの私大は共通テスト出願締切日の10/8よりも前に「特例追試験を受験することになった受験生はそちらを優先してもらい,その得点で合否を判定する」と発表していたものの,様子の見えない特例追試験で戦うのはあまりにもリスクの大きいギャンブルである。
しかも,最近まで対応を発表してこなかった慶應大学からは下記のような発表があった。
【慶應義塾大学 2021年度一般選抜】新型コロナウイルス感染症に関わる追試験について
慶應大学は「共通テストの特例追試験と本学入試の重複は考慮しない」,すなわち特例追試験を受験になった段階で経済学部と商学部は自動的に失格と見なすとのことである。この共通テストないがしろっぷりよ。ところで,この大学入試改革の音頭を取った中教審の元会長さんってどなたでしたっけ?

2.そもそも第二日程が設置された理由は「新型コロナウイルスによる休校等で学習が遅れた受験生がいるため」であるが,本当に数ヶ月に及んだ休校で学習が遅れていたとすると,わずかに2週間猶予が与えられたところで焼け石に水であり,1に挙げたデメリットを越えるメリットは生じえない。逆に夏休みが大幅に短縮されたために追いついたという高校も多いらしい。

3.第二日程選択に校長の許可が必要になったことで受験生の選択に学校が一定の責任を持つ形になり,受験生が特例追試験に回ってしまった際に1・2に挙げたようなデメリットから保護者とのトラブルに発展するのを避けるため,教員・校長が受験生を第一日程に誘導した高校が多いと考えられる。

やはり影響が大きいのは第二日程を本試とするには高校の校長の許可が必要としたことで,おそらく文科省や大学入試センターとしては第二日程・特例追試験を受ける受験生を可能な限り減らしたいと考えて,ねらってこの条件をつけたと推測される。目論見通りの結果が出て安心しているのではないか。だったら最初から第二日程・特例追試験なんて作らなければよかったのではないかと思われるかもしれないが,この発表があった6月当時の日本の新型コロナ狂騒ぶりを考えると,何かしら「入試日程にも対策を入れました」というアピールは必要だった。あるいは,そうしろと官邸に言われたのだろう。上掲の朝日新聞にもあるように全国高校長協会が「全体の日程を1カ月ほどずらすよう要請」もしている。この要請は拙速に過ぎた。受験生は文科省に振り回されたというよりも,狂騒に陥った世間と官邸と高校に振り回されたという方が正しいように思われる。

文科省や大学入試センターが第二日程・特例追試験を受ける受験生を可能な限り減らしたいと思っている理由は,特例追試験がセンター型という点によく現れている。センター試験においても追試は問題の出来が本試に比べると荒めだったり実験作だったりで,ちょっと解きづらいことがある。世界史でもたまに本試だったらボツになってそうな問題に遭遇する。大学入試センターの体力から言って,本試のクオリティのものを2本作るのは不可能なのであろう。しかも,共通テストはセンター試験よりもいずれの教科でも作成難度が明らかに上がっているから,さらに大学入試センターの体力が心配される。なお,週刊文春なので信憑性に欠けるものの,すでにこんな報道もあった。科目によっては共通テスト通常日程の質さえ疑われている。
・大学共通テスト 作成委員が告発 「倫理を選ばないで」(週刊文春)
ましてや,降って湧いた特例追試験である。「共通テスト型ではなく,センター試験型にさせてくれ」という泣きが入っているのは,大学入試センターに3本目の共通テストを作る体力が全く残っておらず,特例追試験は過去のセンター試験作成過程で一旦はボツにした問題を改良してなんとかするという算段なのではないか。とすると問題の質は自信を持って世の中に出すものではなくなる。この辺りの心理は私も例の企画を毎年やっているので非常によくわかる。第二日程や特例追試験で出題ミスでも出ようものなら,マスコミは鬼の首を取ったかのように大騒ぎするだろうし,私が担当者だったら辞めると思う。


以上のように大山鳴動して鼠一匹感もある騒動となったが,岡目八目的に言えば,第二日程や特例追試験に受験生が流れないようにする文科省・大学入試センター側の仕掛けや,それにより事前の予測が外れた辺りの「答え合わせ」,さらに慶應大の無慈悲勧告などは面白い現象だった。あとは,これからやってくる第三波でさらなる混乱が訪れないように祈るばかりである。入試日程中止なんてことになったら目も当てられない。

この記事へのコメント
いつも楽しくサイトを拝見しております。
慶応の追試験に関する対応についてですが、共通テストの特例追試験を受験した時点で経済・商学部志願者は慶応の追試を受けられないというのは、さすがに無慈悲すぎる気がしますね…
早稲田(MARCHなども同様)の場合、13日の国教を追試で欠席したら共通テストで代替できるのと比べて余計そう感じます。
慶応がこのような措置とした思惑について、稲田氏はどう思われますか?
Posted by 苦浪人 at 2020年11月17日 07:54
他の大学は元から一般入試以外に共通テスト利用入試をやっているので,そこに特例追試験受験者を混ぜ込むのは自然な流れだと思います。
これに対して,慶應大は共通テスト利用入試を一切やっていないので,今回だけ特別にそれをやるというのはできなかったのでしょう。

その意味で仕方ないのかなとは思う部分もありますがが,それにしても「2021年2月13日,14日の大学入学共通テストの「特例追試験」を受験したことにより,同日の本学の一般選抜を受験しなかった者」に一般入試の追試験受験資格を認めなかったのは不合理で,おっしゃる通りあまりにも慈悲のない対応だなぁと思いますね。
Posted by DG-Law at 2020年11月18日 21:06
特例追試験に情報関係基礎や簿記、第二外国語が出題されないことのほうが研究者立場では気になりますね。。。
Posted by おおおんづけ at 2020年11月26日 23:09
それこそ作成能力の限界で,あるいはマイナー科目はストックしている問題も尽きたということなのでしょうが,仮にも大学入試センターが公的に実施する試験なら全科目揃えておこうよと思いますね。
Posted by DG-Law at 2020年11月27日 19:37