2021年01月25日

本当に6年連続の出来事になるとは

初場所は過去5年にわたって初優勝力士の優勝が続いていたが,6年目も続くことになった(琴奨菊・稀勢の里・栃ノ心・玉鷲・徳勝龍)。4年目まではまだそんなに話題になっていなかったが,5年目の徳勝龍で一気に注目を浴び,6年目も続いていよいよちょっと怖くなってきた。7年目も続いてしまうのだろうか。

なお,2020年はこの次の3月が無観客,5月は中止,7月は「場所中に感染者が出たら即中止」の制限の下で開催,9・11月は感染状況が一旦落ち着いていたことから入場者数を減らしていたもののほぼ通常開催となっていた。この初場所はいくつかの部屋で感染者が出た状況であったが,強行開催となった。Twitter上の好角家の間でも「中止にすべき」「中止でも仕方がない」という声は多く,私自身もそう思っていたが,結果的に場所中に新規の感染者が出なかったので安心している(厳密には後2週間様子見しないとわからないけど)。しかし,「感染者を出した部屋の力士は全員出場停止,代わりに番付は据え置き」という措置は防疫上の措置としては正解だったものの,本割が完全に崩壊していて場所の運営としてはまずい方法だった。また,来場所の番付編成を考えても大いなる悪手で,予想番付を作ってみたが非常に苦しくなった。3月でも感染状況が劇的に改善されているとは思えないので,同じようなことになるならやはり中止にしてもらった方が見ている側は安心する。

優勝した大栄翔の相撲は文句の全く無い突き押し相撲で,怒涛の圧力で,特に立ち合いの一気の出足で持っていく相撲が多かった。この覚醒は突然のものではなく,大栄翔は2019〜20年にかけて徐々に突き押しの実力を付けていて,2019年の3月に前頭2枚目になってからこれより低い地位に下がったことがなく,成績が安定していて,貴景勝相手でも押し負けない相撲が見られていた。意外な優勝ではあったが,玉鷲や徳勝龍ほどの驚きは無い。

今場所の大栄翔は,前述の法則もあって初日から3日連続で大関を破った段階ですでに「今場所は大栄翔の初優勝だろう」という予想もネット上では多く見かけた。優勝争いに初めて参加する力士の場合,終盤に向けて次第に精神的に苦しくなって動きが固くなっていくもので,大栄翔も九〜十二日目の四日間はかなり動きが硬かったが,その後に振り切れて動きが良くなったのは素晴らしかった。その意味で十三日目で立て直した時はかなり驚いた。この精神力があれば大関取りは可能かもしれない。27歳という年齢がややひっかかるが,正代も28歳での大関取りだったし,最近はそんなもんなのかもしれない。惜しいことに大栄翔は今場所前頭筆頭だったから13勝が計算に入らないのだが,実は先場所の大栄翔は前頭2枚目で10勝していて,小結になれなかったのは番付運が悪かっただけである。1場所目が前頭2枚目だった照ノ富士の例もあるし,次と次の次の場所の成績次第では効いてくるかもしれない。ただし,その照ノ富士が来場所に大関取りを成功させると大関の枠が4つ埋まってしまい,協会は5大関を避ける傾向があるから,誰かが陥落しない限りはハードルが高くなりそうである。


個別評。大関陣。一応は千秋楽まで優勝争いを引っ張ったのは正代だったが,今場所の正代は初優勝した時よりも動きが固く,地力があるからなんとか取れていたという様相だった。幸運な勝ち星も多かったので勝利の女神に微笑まれているかとも思えたが,十四日目の照ノ富士が勝利の女神ごと吹っ飛ばしていってほぼ終戦した。さすがにもう少し大関らしく優勝争いに強くあってほしい。対して朝乃山は前半不調だったが,後半は歯車が噛み合って良い相撲が多かった。3敗して早々に優勝争いから脱落して気が楽になった面はあるかもしれない。変に押す力が強いためか四つに組みながら前進することがあり,別に悪癖というほど悪いことではないものの,四つになっていないがための隙があってやや危なっかしく,また右四つがっぷりなら無敵かというと照ノ富士に全く歯が立たない。おそらく白鵬にも勝てないだろう。改善点は多い。貴景勝は綱取りのプレッシャーに潰されたか。途中休場の直接の原因は三日目に右足首を捻ったこととなっているが,そもそも三日目までが3連敗であるから言い訳になるまい。

三役。照ノ富士は負けたのが阿武咲・高安・隆の勝・大栄翔と全員押し相撲で,膝の調子がかなり良さそうだったものの,耐えられないものは耐えられないとして諦めている節もあった。逆に言ってそこまで押してこない相手には全勝したということで(玉鷲と北勝富士にも勝っている),それで11勝できると判断した自信もすごいが達成したのはもっとすごい。来場所の大関復帰を願っている。隆の勝は大栄翔に話題を持っていかれた形だが,彼も関脇9勝で見事な押し相撲だった。1月17日(中日):おむすびの日に白星を上げていたので笑った。高安もかなり前に出る圧力が戻ってきた感じ。御嶽海は本当に日毎の調子が違いすぎて安定しない。強い日は見事な電車道で勝つのだが……

前頭上位。宝富士は朝乃山・大栄翔に勝って正代に負けるという立ち回りで今場所の優勝争いを引き立てていたと思う。左四つにならないとどうしようもない相撲が多い中,なぜか六日目に朝乃山に対して右四つで勝っていたのが意味不明で面白かった。あれで今場所の朝乃山は不調かと思われたのだが,七日目から朝乃山の調子が好転したので,朝乃山を目覚めさせる取組になったのかもしれない。やはりキーパーソンだったのだろう。琴勝峰は大敗で良いところがなく,家賃が高かった。まだ若いのでいくらでも再挑戦の機会はある。懐が広いのが彼の良いところであるが,それが活きることなく普通に圧力負け・スピード負けしていた。地力が足りない。阿武咲も隆の勝と同じく,良い押し相撲が多かった。

前頭中盤。明生は本来であれば上位戦が組まれない番付であるが,貴景勝途中休場のあおりで最終盤で上位戦が組まれて調子を落とした様子であり,ぎりぎり8勝の勝ち越しはちょっとかわいそうだった。前からこの人は不運だと思っていたが,今場所も同じ印象。身長は180cmあるが体重は120kgと比較的細く,低い立ち合いから押し込むか,前まわしか左下手を取って寄っていくかという取り口で,がっぷりの四つ相撲が強い印象は無い。同じような印象なのが志摩の海で,志摩の海も立ち合いから押していく体勢が低く,9勝の割に印象が良い。翔猿は押し引きのセンスが良く,見ている分には面白い。徳勝龍は1年前の優勝の貯金で前頭中盤で粘っていたが,とうとう底を尽きた。今場所も不調には見えなかったが,相手に引くタイミングを見切られていてどうしようもなかった感じ。霧馬山は左膝のケガが痛そうで前に出る力が全く無かったが,上半身の力だけで,引き技と投げ技だけで8勝,勝ち越しをもぎ取った。これはこれでお見事である。投げ技のセンスが荒鷲や千代翔馬を彷彿とさせて個人的には嫌いではない。

前頭下位。まずは豊昇龍を挙げたい。今場所は5連敗のあとに9連勝で千秋楽に負けるという,オセロだったら全敗になってしまう星取表であったが,9連勝中は見事な技巧相撲であった。豊昇龍は腕と足の連動が見事で,内掛け・外掛けと投げ技の連動がすばらしい。あれで技能賞でないというのは私的に不満である。次に挙げるのはその技能賞受賞者で,翠富士は前評判通りの肩透かしっぷりが良かった。切れ味鋭く,相手が押す圧力をかけてきた瞬間に正面から消えるのでよく決まる。翠富士が相手なら四つで捕えなければ安心して勝てまい。10勝の琴ノ若はサラブレッドらしい恵まれた体格で勝ち星を積み上げたが,個人的にはまだよくわからない。最後に,能町みね子氏により「パンの山」のあだ名を与えられた明瀬山は,確かに見事なお腹でよくそれを活かした相撲が見られた。前さばきもけっこう上手く,左四つを作るのは上手い。35歳で二度目の入幕でこのフィーバーは狂い咲きと言っていいかもしれない。

前述の通り,「新型コロナウイルス感染による休場は番付据え置き」という措置により,出場者の番付移動がかなり混乱している。番付運が良い人と悪い人がはっきりと分かれてしまって良くない。幕尻は大奄美の再入幕を優先したが,徳勝龍が残るかもしれない。確実に十両に下がるのは天空海と佐田の海。十両と幕下の入れ替えは,幕下に下がるのは勢・琴勇輝・王鵬・竜虎,十両に上がるのは貴健斗・錦富士・武将山までは確実として,残り1人は将豊竜だと思うが,一山本になる可能性もある。

2021年初場所

この記事へのコメント
大栄翔の初優勝となった初場所。
驚きというより、いずれ優勝しそうと思っていた力士が優勝したなぁという印象でした。

幕内中位・下位あたりが長らく定位置で、三賞とも無縁だった大栄翔ですが、おっしゃる通り、2019年春場所で豪栄道や高安を打ち破ったあたりから、上位が定位置となっていきました。
勢いあまって、土俵際逆転される負けが結構多い印象で、そこを直せば、2桁常時上げられるぐらいになるのではないかと思っていましたが、今場所そうした負けは阿武咲戦ぐらいでした。上位陣総なめの勢いを保ちながら優勝したのは立派でしたね。

照ノ富士は11勝。負けない相手には負けない一方、負ける相手は固定化されていっています。阿武咲、大栄翔、高安、隆の勝は今後も上位に居続けそうなので、そこが鬼門かと。来場所は貴景勝も再起をかけて戻ってくるでしょうし。

両大関は仲良く11勝。贔屓の朝乃山は印象が薄い感じになってしまいました(エンディング完全無視でした・・・)照ノ富士相手に右四つで挑むのは、プライドの問題もあるのですが、ちょっと違う攻め方をするのも考えていく必要性があるのかなとも思います。
Posted by gallery at 2021年01月25日 08:22
こんにちは、初めてのコメント失礼します。
COVID-19が流行してから、合同稽古や同じ一門での稽古がなかなか行えないので、部屋ごとに所属してる力士のレベル差がかなり大事になってると思うのですが、いかがでしょうか?
実際、朝乃山は部屋に幕下以下しかいなくて、先場所までかなり苦戦していて、今場所は合同稽古に出てから臨んだので、改善が見えた気がします。
Posted by Seungkwan-kkr at 2021年01月26日 12:41
横綱不在なら何でも起こるし、平幕優勝も10年に1度どころではない、波乱が当たり前になった場所でした。序盤の大栄翔は無敵の強さで、照ノ富士を真っ向から負かすほど。逆に照ノ富士は、まわしキツキツの高安と、土俵際でうっかりした隆の勝での取りこぼしが惜しかった。来場所はきっと大関昇進で、怪我や病気だけが敵でしょう。

翠富士の肩透かしは恐ろしいほどに決まり、来々場所あたりには対策が講じられるのでしょうか。それとも三役くらいまで駆け上がってしまうのか。大負けした琴勝峰、素質は十分なので、気を取り直して強さを身に付けてもらいたい。

玉鷲同様、休み知らずだった勢が千秋楽に休場して、十両からも陥落でしょうから、進退伺いが気になります。再十両で全敗、そこからも負け続けた富士東が、こちらは千秋楽でようやく連敗を止めました。力は落ちているのでしょうが、また復帰して欲しいものです。

宇良は、千秋楽の反り技は欲張り過ぎと思いましたが、勝ち越していたので意欲的だったと受け取っておきましょう。怪我をしなくて良かった。
Posted by EN at 2021年01月26日 16:03
>galleryさん
大栄翔についてはやっぱりそうで,2019年春場所が転機ですよね。
実力から言えば「平幕で優勝するなら」と言われたら照ノ富士・御嶽海の次くらいには名前が上がりそうで,そこまで大きな驚きはないのですが,どちらかというと私は6年連続で初優勝力士が優勝というのが実現してしまったことに驚きが隠せなかったです。

照ノ富士は来場所は計算上で9勝でいいですが,おそらく万全を期して10勝をねらってくるでしょう。挙げられた面々+貴景勝で5人になるので,それ以外は全部勝つ覚悟で出てくるでしょうね。あるいは押し相撲対策でつかまえるために何か考えてくるか。

朝乃山は,エンディング完全無視でしたかw。正代よりも内容は悪くなかったと思うんですけどね。おっしゃる通り,照ノ富士戦はプライドの問題がかなりあると思います。朝乃山,伸びてほしいですね。


>Seungkwan-kkrさん
NHKでもAbemaでもそういうことはよく言われていますね。明確に複数人の関取がいる部屋が有利な状況だと思います。
なるほど朝乃山は今場所から合同稽古に出てましたか。
部屋の若い衆との取組だけだと調整に失敗するというのを半年間で学んだのなら,良いことです。あるいはまだ調整不足だったから前半は不調だったのかも。


>ENさん
毎場所どうもです。十日目の照ノ富士・隆の勝戦は隆の勝を褒めるべきかなと。とはいえ,物言い・軍配差し違えの一番で照ノ富士も惜しかったですね。
翠富士の肩透かしは対策が難しそうで,だからこそ周囲の力士の創意工夫に期待ですね。向こう何場所かはあれで暴れてくれそうです。

勢はここで辞めたら悔いが残ることになりそうなので,1場所での復帰を目指して来場所は続けそうな気がします。勢も一芸が面白い力士なので,もうちょっと相撲が見たいですね。
Posted by DG-Law at 2021年01月27日 00:08