2021年01月28日
高校世界史上で「大ジンバブエ」と「モノモタパ王国」をどう扱うか
高校世界史深掘りシリーズ。現在のジンバブエ共和国には,その国名の由来となった大ジンバブエ(グレート・ジンバブエ)遺跡がある(見たことがない人のためにGooglemapにリンクを張っておく。ストリートビューで中を見ることができてけっこう面白い)。大規模な石壁に囲まれた都市遺跡であるが,この都市を建設したのは誰かというのは長年論争があった。19世紀後半から20世紀前半にかけては「サハラ以南の黒人にこのような都市を建設できるはずがない」という偏見からフェニキア人などの非黒人建設説が唱えられていたが,20世紀半ばにはさすがに否定され,現地のショナ人のモノモタパ王国(ムタパ王国)が建設したという説が有力になった。
しかし,現在ではこの説も否定された。というのもモノモタパ王国の存続年代が以前は11〜19世紀とされていたが,これは支配階級の部族や栄えた地域の変化を無視して,ザンベジ川とリンポポ川に挟まれた領域に存在した全ての王国をひっくるめて「モノモタパ王国」と見なしていたためである。研究の進展により実際には,最初に成立した大国家がマプングブエ国(11世紀後半〜13世紀),次に発展したのが大ジンバブエ(13〜15世紀末),そしてトルワ王国(15世紀半ば〜17世紀)と続き,最後に登場するのがモノモタパ王国(15世紀半ば〜18世紀初頭)と分かれていた。このうちポルトガルと密な接触を持ったのはモノモタパ王国だけである。つまり,モノモタパ王国の存続年代を11〜19世紀としていたのは,北宋以降の中国をまとめて「清」と呼ぶくらいの乱暴さであったということだ。この時代区分からもわかる通り,大ジンバブエの建設と繁栄の年代は13〜14世紀,トートロジー気味ながら(都市の)大ジンバブエの建設者は(国としての)大ジンバブエというところまで絞られている。このあたりは講談社現代新書『新書アフリカ史 改訂新版』で詳細に説明されているので,ご興味のある方はそちらを参照されたい。
さて,いつもの教科書調査に行く前に,もう一つ触れておかなければならないことがある。高校世界史上のサハラ以南のアフリカ史はどうしたって周辺史の扱いを免れない。大概の場合,モノモタパ王国も大ジンバブエも「イスラーム史」の章で扱われる――ショナ人の多くはムスリムではなかったにもかかわらず。それでも周辺史という概念を打破しようという動きは見られ,近年ではイスラーム史から切り離した章立てをして,その章でモノモタパ王国と大ジンバブエを扱うという構成をとる教科書も現れてきた。
しかしながら,イスラーム史から切り離す章立てが唯一の正解かは疑問が残る。イスラーム史から独立したアフリカ史は教える項目が少なすぎて,他の章に比べると圧倒的に薄い章になってしまい,かえって扱いづらいのである。しかもアフリカ史というくくりにした場合,西アフリカのガーナ王国,北東アフリカのスーダン・エチオピア,南東アフリカの大ジンバブエ・モノモタパ王国をまとめて教えることになるので,地域も時代も遠く隔たっているものを無理矢理まとめる形になり,高校生の理解を妨げることになる。しかも他地域と文脈がちぎれた状態になるので,王朝の興亡が「点」になりやすい。
一方,イスラーム史にくっつけてしまう既存のやり方はこうした欠点が無い。また,エチオピアやモノモタパ王国はイスラーム化しなかった例外事例であるので,かえって高校生の頭に残りやすいという逆説的な効果が現れる。イスラーム史の付属物として扱うのは,倫理的な問題点を許容してでもアフリカ史の理解を深めさせるという実益があるのだ。(同様の現象は南北アメリカ文明を独自の章でやるか大航海時代に入れ込んでしまうかという問題で発生する……長くなるのでこれはまた別の機会に。)
以上の内容を前提として,高校世界史Bの教科書5冊と山川用語集,山川『詳説世界史研究』の7冊を比較した。なお,いつも無視している残りの非受験用の世界史B教科書2冊であるが,今回に至ってはそもそもモノモタパ王国・大ジンバブエ遺跡ともに掲載がなく,比較しようがないことを付記しておく。モノモタパ王国はともかく,世界史の教科書として大ジンバブエが登場しないのはどうなんですかね……非受験用とかそういう問題ではない気が。
《アフリカ史はイスラーム史の章で扱う/大ジンバブエの建設者は曖昧》
・山川『詳説世界史』:本文では「ザンベジ川の南では11世紀頃から,金や象牙の輸出と綿布の輸入によるインド洋交易によってモノモタパ王国などの国々が栄えた。この地域の繁栄ぶりはジンバブエの遺跡によく示されている。」また大ジンバブエの写真を示し,そのキャプションで「『石の家』を意味する巨大な石造建築遺跡群。写真は18世紀に建設された神殿で,煉瓦上の石材を積み重ね,整然とした外観を呈している。」
→ かろうじて大ジンバブエの建設者をモノモタパ王国と断定していないが,そうとも読める微妙な表現。モノモタパ王国の存続年代が11世紀以降になっているのは怪しい。建設者をぼかすレトリックとしては面白い文章で,思わず笑ってしまった。こういうの嫌いじゃない。また,大ジンバブエの建設年代はほぼ13〜14世紀であるはずで,わざわざ例外的な18世紀の神殿の写真を持ってくる意図もわからない。
・山川『用語集』:モノモタパ王国の項目「11〜19世紀 ショナ人が建設した王国」・大ジンバブエ遺跡の項目「13〜15世紀に最盛期を迎えた。」
→ 『詳説世界史』と同じで,大ジンバブエの建設者はぼかしている。モノモタパ王国の存続年代は旧説によっている。
《アフリカ史はイスラーム史の章で扱う/大ジンバブエの建設者はモノモタパ王国》
・山川『詳説世界史研究』:「ザンベジ川の南では,11世紀頃から,金や象牙の輸出と綿布の輸入によるインド洋交易によってモノモタパ王国(11〜19世紀)などの国々が栄えた。王国は15世紀頃に最盛期を迎えたが,その繁栄ぶりは,インドのガラス玉や中国の陶磁器が出土するジンバブエの石造遺跡によく示されている。」
→ これは完全にアウト。せめて教科書や用語集のようにごまかしてほしかったところ。
《アフリカ史は独自の章を設ける/大ジンバブエの建設者はモノモタパ王国ではない》
・山川『新世界史』:「ザンベジ川とその南のリンポポ川の流域には,12〜13世紀にマプングブエ,15〜17世紀にはモノモタパ王国が成立した。近くで産出される金の交易で豊かになった有力者は,丘の上に石造の壁にかこまれた大きな館を建設した。13〜14世紀に同じ地域に成立するジンバブエは,人口1万8000の大都市で,石で大きな首長の家や城壁が建てられた。その遺跡からは,中国製の陶器・綿布・貨幣や各種銅製品などが発見され,ジンバブエが遠隊地交易の拠点となっていたことがわかる。」
→ 章立てについて補足しておくと,「アフリカと南北アメリカ」という章題で,前近代のこれらの地域の歴史を扱っている。説明は全教科書で最も詳細で,成立年代からモノモタパ王国とは別の勢力が建設したことがわかるようになっている。ところで,マプングブエを載せているのは山川『新世界史』が唯一で……これはあれじゃな,慶應大の法学部がそのうち出題するやつじゃな。できれば掲載する用語は減らすように配慮してほしいところ。
・東京書籍:本文では「ザンベジ川とリンポポ川に挟まれた地域では, 11世紀ごろからバントゥー系のショナ人が都市文化を形成し, 13世紀にはグレート=ジンバブエ(大ジンバブエ)が栄えた。15世紀になるとモノモタパ王国が成立し,金の輸出をはじめとするインド洋交易によって繁栄した。」また本文の外のコラムで,大ジンバブエが19世紀の歴史学において非黒人が建設したと議論されていたこと,それが人種差別的な思想によるものであったことが指摘されている。
→ 今回最も良いのは東京書籍だと思う。章立ては「アフリカ,オセアニア,古アメリカ」というくくり。簡潔に必要事項をまとめている説明で,人種差別が学問をねじまげていた事例を扱うコラムは共通テストの方向性を考えても重要だろう。
・帝国書院:「アフリカ南東部では,バントゥー系言語を話す人々がジンバブエの石造建築群を築き,農業や牧牛を基盤として金交易で栄えたが,15世紀末に衰退した。その後に成立したモノモタパ王国は19世紀まで金と象牙の交易を行った。」
→ こちらも概ね問題ない説明。しいて言えば,ザンベジ川の名前を本文中に出してほしかったかも。章立ては「サハラ砂漠以南のアフリカ」だけの完全単独の章で,いかにも倫理的な問題を気にする帝国書院っぽい。
《アフリカ史は独自の章を設けるが,大ジンバブエはイスラーム史の章で扱う/大ジンバブエの建設者はモノモタパ王国》
・実教出版:「ザンベジ川流域には,ジンバブエと呼ばれる巨大な石造建築群がつくられ,遺跡からイランや中国製の陶器が発見されたことは,ムスリム商人との交易を物語る。ジンバブエを中心としたモノモタパ王国は,15世紀以降に金を産出し,インド洋交易で栄えた。」
→ 一番よくわからない教科書。「アフリカ史」は南北アメリカとくっつけて章立てしている一方で,その章ではガーナ王国とクシュ王国・アクスム王国までしか扱わない(これにより,ただでさえ薄いアフリカ史がさらに薄くなってわずか1ページ弱で終わっている)。そして,ザンベジ川・リンポポ川流域は結局イスラーム史の付属物という扱いになっている。しかも旧説によった説明で,ジンバブエがモノモタパ王国の中心都市という扱いになっている。
【まとめと感想】
一番良いと思ったのは東京書籍で,次点が帝国書院である。山川『新世界史』はちょっと説明が過剰で,高校生が読むことを考えるならもう少し短くまとめてほしい。あとマプングブエは出題される前に削ってくれ。決定的にまずいのは実教出版と山川『詳説世界史研究』で,特に後者は『新世界史』の記述と見比べた時の見劣りが甚だしく,早急な改善を求めたい。それ以外の山川『詳説世界史』と『用語集』は態度を決めかねているのが見苦しいので,決定的なまずさは無いがリライトしてほしい。
以上を眺めてわかる通り,実教出版の裏切りを除くと,やはりアフリカ史をイスラーム史から切り離している教科書の方が新説に敏感で,意欲はこういうところに如実に出てしまう。しかし,本来であれば章立てに関する意欲と,積極的に新説に切り替える意欲は全くの別物であるはずで,あくまで個人的な意見として,アフリカ史をイスラーム史の付属物としつつも説明は正確という教科書が1冊くらいはあってよいのではないかと思った。
しかし,現在ではこの説も否定された。というのもモノモタパ王国の存続年代が以前は11〜19世紀とされていたが,これは支配階級の部族や栄えた地域の変化を無視して,ザンベジ川とリンポポ川に挟まれた領域に存在した全ての王国をひっくるめて「モノモタパ王国」と見なしていたためである。研究の進展により実際には,最初に成立した大国家がマプングブエ国(11世紀後半〜13世紀),次に発展したのが大ジンバブエ(13〜15世紀末),そしてトルワ王国(15世紀半ば〜17世紀)と続き,最後に登場するのがモノモタパ王国(15世紀半ば〜18世紀初頭)と分かれていた。このうちポルトガルと密な接触を持ったのはモノモタパ王国だけである。つまり,モノモタパ王国の存続年代を11〜19世紀としていたのは,北宋以降の中国をまとめて「清」と呼ぶくらいの乱暴さであったということだ。この時代区分からもわかる通り,大ジンバブエの建設と繁栄の年代は13〜14世紀,トートロジー気味ながら(都市の)大ジンバブエの建設者は(国としての)大ジンバブエというところまで絞られている。このあたりは講談社現代新書『新書アフリカ史 改訂新版』で詳細に説明されているので,ご興味のある方はそちらを参照されたい。
さて,いつもの教科書調査に行く前に,もう一つ触れておかなければならないことがある。高校世界史上のサハラ以南のアフリカ史はどうしたって周辺史の扱いを免れない。大概の場合,モノモタパ王国も大ジンバブエも「イスラーム史」の章で扱われる――ショナ人の多くはムスリムではなかったにもかかわらず。それでも周辺史という概念を打破しようという動きは見られ,近年ではイスラーム史から切り離した章立てをして,その章でモノモタパ王国と大ジンバブエを扱うという構成をとる教科書も現れてきた。
しかしながら,イスラーム史から切り離す章立てが唯一の正解かは疑問が残る。イスラーム史から独立したアフリカ史は教える項目が少なすぎて,他の章に比べると圧倒的に薄い章になってしまい,かえって扱いづらいのである。しかもアフリカ史というくくりにした場合,西アフリカのガーナ王国,北東アフリカのスーダン・エチオピア,南東アフリカの大ジンバブエ・モノモタパ王国をまとめて教えることになるので,地域も時代も遠く隔たっているものを無理矢理まとめる形になり,高校生の理解を妨げることになる。しかも他地域と文脈がちぎれた状態になるので,王朝の興亡が「点」になりやすい。
一方,イスラーム史にくっつけてしまう既存のやり方はこうした欠点が無い。また,エチオピアやモノモタパ王国はイスラーム化しなかった例外事例であるので,かえって高校生の頭に残りやすいという逆説的な効果が現れる。イスラーム史の付属物として扱うのは,倫理的な問題点を許容してでもアフリカ史の理解を深めさせるという実益があるのだ。(同様の現象は南北アメリカ文明を独自の章でやるか大航海時代に入れ込んでしまうかという問題で発生する……長くなるのでこれはまた別の機会に。)
以上の内容を前提として,高校世界史Bの教科書5冊と山川用語集,山川『詳説世界史研究』の7冊を比較した。なお,いつも無視している残りの非受験用の世界史B教科書2冊であるが,今回に至ってはそもそもモノモタパ王国・大ジンバブエ遺跡ともに掲載がなく,比較しようがないことを付記しておく。モノモタパ王国はともかく,世界史の教科書として大ジンバブエが登場しないのはどうなんですかね……非受験用とかそういう問題ではない気が。
《アフリカ史はイスラーム史の章で扱う/大ジンバブエの建設者は曖昧》
・山川『詳説世界史』:本文では「ザンベジ川の南では11世紀頃から,金や象牙の輸出と綿布の輸入によるインド洋交易によってモノモタパ王国などの国々が栄えた。この地域の繁栄ぶりはジンバブエの遺跡によく示されている。」また大ジンバブエの写真を示し,そのキャプションで「『石の家』を意味する巨大な石造建築遺跡群。写真は18世紀に建設された神殿で,煉瓦上の石材を積み重ね,整然とした外観を呈している。」
→ かろうじて大ジンバブエの建設者をモノモタパ王国と断定していないが,そうとも読める微妙な表現。モノモタパ王国の存続年代が11世紀以降になっているのは怪しい。建設者をぼかすレトリックとしては面白い文章で,思わず笑ってしまった。こういうの嫌いじゃない。また,大ジンバブエの建設年代はほぼ13〜14世紀であるはずで,わざわざ例外的な18世紀の神殿の写真を持ってくる意図もわからない。
・山川『用語集』:モノモタパ王国の項目「11〜19世紀 ショナ人が建設した王国」・大ジンバブエ遺跡の項目「13〜15世紀に最盛期を迎えた。」
→ 『詳説世界史』と同じで,大ジンバブエの建設者はぼかしている。モノモタパ王国の存続年代は旧説によっている。
《アフリカ史はイスラーム史の章で扱う/大ジンバブエの建設者はモノモタパ王国》
・山川『詳説世界史研究』:「ザンベジ川の南では,11世紀頃から,金や象牙の輸出と綿布の輸入によるインド洋交易によってモノモタパ王国(11〜19世紀)などの国々が栄えた。王国は15世紀頃に最盛期を迎えたが,その繁栄ぶりは,インドのガラス玉や中国の陶磁器が出土するジンバブエの石造遺跡によく示されている。」
→ これは完全にアウト。せめて教科書や用語集のようにごまかしてほしかったところ。
《アフリカ史は独自の章を設ける/大ジンバブエの建設者はモノモタパ王国ではない》
・山川『新世界史』:「ザンベジ川とその南のリンポポ川の流域には,12〜13世紀にマプングブエ,15〜17世紀にはモノモタパ王国が成立した。近くで産出される金の交易で豊かになった有力者は,丘の上に石造の壁にかこまれた大きな館を建設した。13〜14世紀に同じ地域に成立するジンバブエは,人口1万8000の大都市で,石で大きな首長の家や城壁が建てられた。その遺跡からは,中国製の陶器・綿布・貨幣や各種銅製品などが発見され,ジンバブエが遠隊地交易の拠点となっていたことがわかる。」
→ 章立てについて補足しておくと,「アフリカと南北アメリカ」という章題で,前近代のこれらの地域の歴史を扱っている。説明は全教科書で最も詳細で,成立年代からモノモタパ王国とは別の勢力が建設したことがわかるようになっている。ところで,マプングブエを載せているのは山川『新世界史』が唯一で……これはあれじゃな,慶應大の法学部がそのうち出題するやつじゃな。できれば掲載する用語は減らすように配慮してほしいところ。
・東京書籍:本文では「ザンベジ川とリンポポ川に挟まれた地域では, 11世紀ごろからバントゥー系のショナ人が都市文化を形成し, 13世紀にはグレート=ジンバブエ(大ジンバブエ)が栄えた。15世紀になるとモノモタパ王国が成立し,金の輸出をはじめとするインド洋交易によって繁栄した。」また本文の外のコラムで,大ジンバブエが19世紀の歴史学において非黒人が建設したと議論されていたこと,それが人種差別的な思想によるものであったことが指摘されている。
→ 今回最も良いのは東京書籍だと思う。章立ては「アフリカ,オセアニア,古アメリカ」というくくり。簡潔に必要事項をまとめている説明で,人種差別が学問をねじまげていた事例を扱うコラムは共通テストの方向性を考えても重要だろう。
・帝国書院:「アフリカ南東部では,バントゥー系言語を話す人々がジンバブエの石造建築群を築き,農業や牧牛を基盤として金交易で栄えたが,15世紀末に衰退した。その後に成立したモノモタパ王国は19世紀まで金と象牙の交易を行った。」
→ こちらも概ね問題ない説明。しいて言えば,ザンベジ川の名前を本文中に出してほしかったかも。章立ては「サハラ砂漠以南のアフリカ」だけの完全単独の章で,いかにも倫理的な問題を気にする帝国書院っぽい。
《アフリカ史は独自の章を設けるが,大ジンバブエはイスラーム史の章で扱う/大ジンバブエの建設者はモノモタパ王国》
・実教出版:「ザンベジ川流域には,ジンバブエと呼ばれる巨大な石造建築群がつくられ,遺跡からイランや中国製の陶器が発見されたことは,ムスリム商人との交易を物語る。ジンバブエを中心としたモノモタパ王国は,15世紀以降に金を産出し,インド洋交易で栄えた。」
→ 一番よくわからない教科書。「アフリカ史」は南北アメリカとくっつけて章立てしている一方で,その章ではガーナ王国とクシュ王国・アクスム王国までしか扱わない(これにより,ただでさえ薄いアフリカ史がさらに薄くなってわずか1ページ弱で終わっている)。そして,ザンベジ川・リンポポ川流域は結局イスラーム史の付属物という扱いになっている。しかも旧説によった説明で,ジンバブエがモノモタパ王国の中心都市という扱いになっている。
【まとめと感想】
一番良いと思ったのは東京書籍で,次点が帝国書院である。山川『新世界史』はちょっと説明が過剰で,高校生が読むことを考えるならもう少し短くまとめてほしい。あとマプングブエは出題される前に削ってくれ。決定的にまずいのは実教出版と山川『詳説世界史研究』で,特に後者は『新世界史』の記述と見比べた時の見劣りが甚だしく,早急な改善を求めたい。それ以外の山川『詳説世界史』と『用語集』は態度を決めかねているのが見苦しいので,決定的なまずさは無いがリライトしてほしい。
以上を眺めてわかる通り,実教出版の裏切りを除くと,やはりアフリカ史をイスラーム史から切り離している教科書の方が新説に敏感で,意欲はこういうところに如実に出てしまう。しかし,本来であれば章立てに関する意欲と,積極的に新説に切り替える意欲は全くの別物であるはずで,あくまで個人的な意見として,アフリカ史をイスラーム史の付属物としつつも説明は正確という教科書が1冊くらいはあってよいのではないかと思った。
Posted by dg_law at 22:45│Comments(5)
この記事へのコメント
平成31年発行の実教出版のモノポタパ王国についての記述ですが、モノポタパ王国の下に、細い字で11世紀〜15世紀、15世紀〜19世紀と一応王国の変遷があったことが示唆されています。
Posted by k at 2021年08月03日 22:36
すみません,今日に該当する教科書を読んでくる予定でしたが,すっかり忘れていました。今度確認しておきます。
Posted by DG-Law at 2021年08月10日 21:20
確認しました。2020年度のものでも同じでした。切れ目は示されていますね。
ただ,切れ目だけ示されても……という感じはしますね。しかもマプングブエと大ジンバブエの切れ目は示されていないのもかえってまずいと思います。
ただ,切れ目だけ示されても……という感じはしますね。しかもマプングブエと大ジンバブエの切れ目は示されていないのもかえってまずいと思います。
Posted by DG-Law at 2021年08月11日 08:40
清水書院の313世界史Aを見ています。おっしゃっているところの実教に近い感じの記載だなあと思いました。
Posted by おおおおんづけ at 2021年10月01日 22:46
Aは前近代が適当なので全く書いてなくても不思議ではないから,書いてあるだけマシと言えるかもしれませんね。
Posted by DG-Law at 2021年10月09日 22:03