2021年02月25日

きらきらでん(螺鈿)展の感想

樹下人物螺鈿硯屏根津美術館のきらきらでん(螺鈿)展に行ってきた。漆器や蒔絵・沈金の企画展はたまにあるが,螺鈿だけの企画展は珍しい。螺鈿は漆器に貝殻から剥いだ欠片を埋め込む技法のことで,貝殻が使われる工芸品という時点で世界的に珍しく,概ね東アジア・中国の文化圏でのみ発達した。FFTの刀の最強武器で覚えた人も(このブログの読者には)多いと思われる。貝殻は夜光貝を使うのが有名だが,夜光貝は南洋にしか生息せず,日本だと鹿児島が北限ということで入手経路が極めて限られるため,実際にはアワビやアコヤ貝など他の貝も使われた。本展では冒頭に制作過程や技法が示され,その後に中国・朝鮮・琉球・日本各国の螺鈿漆器が展示された。

陶磁器が中国・朝鮮のイメージが強いのに対して漆器は日本・琉球のイメージが強いが,実際に古代や中世初期の日本で螺鈿漆器は中国人からしても異常なほど発達を見せたようで,宋代には中国人が「螺鈿は本来日本の産品」という勘違いが生じていたほどであったそうだ。しかし,中国の漆器の生産が止まったわけではなく,むしろ中世後期に日本漆器は姿を見せなくなったらしい。これは知らなかったのでちょっと驚いた。中国では新たにより薄い剥片を使う薄貝の技法が編み出されてこれが進化していく(日本で発展した既存の技法は厚貝と呼ぶ)。薄貝の方が繊細で,沈金の金銀のように螺鈿で線を描き,ひいては絵を描くことが可能になった。本企画展でもそうした中国の作品が展示されていたが,明・清期の超絶技巧螺鈿は確かに螺鈿とは思えぬ細かさであった(今回の画像はその一例)。しかし,日本等の周辺諸国が厚貝にこだわった(薄貝の技法が入ってきても厚貝を捨てなかった)理由もわかる気はして,螺鈿の良さである光の当たる角度による色のゆらめきが薄貝ではどうしても小さく,はっきり言ってしまうと白から色が変わらないので象牙象嵌と見分けがつかない。もっとも,日本の場合は薄貝の技法が発達した時期がちょうどその日本漆器が国際市場から姿を消していた時期に当たるので,より単純に技術の伝播・継承自体にそんな余裕が無かっただけなのかもしれないが。

琉球の螺鈿は豊富に夜光貝が使えるだけあって贅沢な仕様。朝鮮は日本以上に適した貝殻の入手が難しかった環境であると思われるが,中国から技法を導入して高麗螺鈿・李朝螺鈿と呼ばれるそうな。ただし,やはり数が少なく,本展に出品されたものも(特に高麗螺鈿は)かなり貴重なものであったようだ。ちょっとおもしろいのは高麗螺鈿の方が表現が繊細で李朝の方が文様が大ぶりということ。イメージだけで言えば時代が逆である。

最後に日本の螺鈿。ここはさすがの質・量で,特に江戸時代の螺鈿はすごい。見る角度によって緑・紫・銀と色彩が移ろう螺鈿の特質を見事に活かした作品が多く,見応えがあった。一品,金継ならぬ”螺鈿継”で陶磁器を修復したものが展示されていてちょっと笑った。そりゃできなくはないだろうけども。なお,本展の展示品は根津美術館の所蔵品と個人蔵や東博等からの借り物で構成されていたが,琉球漆器は全品個人蔵,朝鮮漆器はやや借り物が多かったのに対し,中国と日本の漆器はほぼすべて根津美術館の所蔵品であった。これだけ持っていて今まであまり表に出ていなかったのは少々もったいない。全て見終わって思ったのは,自分は螺鈿が好きな割に螺鈿を全然知らなかったなという感想が第一に来た。奥が深すぎる。

展示を見終わった後は庭をぐるっと一周してきたが,さすがに冬であるので人が少なく,ほぼ独占状態で良かった。梅が早くも綺麗に咲いていた他,椿も見頃でこの時期は意外とありかもしれない。