2021年03月19日
2021受験世界史悪問・難問・奇問集 その１（慶應大・早稲田大）
今年も無事に公開に至ることができた。協力してくれる方々に感謝を申し上げたい。
＜収録の基準と分類＞
基準は例年とほぼ同じである。
出題ミス：どこをどうあがいても言い訳できない問題。解答不能，もしくは複数正解が認められるもの。
悪問：厳格に言えば出題ミスとみなしうる，国語的にしか解答が出せない問題。
→ 歴史的知識及び一般常識から「明確に」判断を下せず，作題者の心情を読み取らせるものは，世界史の問題ではない上に現代文の試験としても悪問である。
奇問：出題の意図が見えない，ないし意図は見えるが空回りしている問題。主に，歴史的知識及び一般常識から解答が導き出せないもの。
難問：一応歴史の問題ではあるが，受験世界史の範囲を大きく逸脱し，一般の受験生には根拠ある解答がまったく不可能な問題。本記事で言及する「受験世界史の範囲」は，「山川の『用語集』に頻度�，任發いい�らとりあえず記載があるもの」とした。
＜総評＞
例年だと上智＋早慶で40〜45個くらいになるところ，今年はなんと17個に収まった。半分以下である。上智は０個だったので，本年は項目自体を立てていない。その影響もあって例年は３記事構成であるが，本年は２記事で済んでいる。減少した理由はいくつかあるが，明確な順に以下の３つが挙げられる。
１．例年だと上智６＋慶應４＋早稲田９の19日程あったのに対し，上智は２日程を残して撤退し，小論文や総合問題を主体とする入試に変わった。残った２日程も国立型の論述主体であり，極度の悪問が出づらい形式になった。早稲田は国際教養と政経学部が撤退した。結果として2021年は上智２＋慶應４＋早稲田７＝13日程となった。要するに早慶上智の日程数が約2/3になったので，それらの悪問・難問の数が約2/3まで減るのは自然な流れである。
２．実は事前に文科省から「今年の受験生は高校が休校で学習が進んでいないから，入試問題は手加減しろよ」というお達しが出ていた。意外にも慶應がこれに従ってかなり易しくなったので，法学部以外は収録対象問題０問だった（なお法）。これにより慶應は例年４日程あわせて12〜13個の収録があったが，今年は５個だけであり，慶應だけで比較するなら完全に半分以下になった。ただし，早稲田はこのお達しをほぼ無視した様子。上智は前述の通り，入試制度そのものの変化の影響の方が大きいので，お達しは影響していない。
３．単純に早慶ともに作問側が巧妙になっていて，グレーゾーンからの出題は目立った印象。
しかしながら国立大は上述の文科省のお達しを完全に無視しているところが多く，本企画への収録が無い（つまりちゃんと高校世界史範囲を考えて作っている）東大や北海道大等も含めて，私の感触では難易度は全然下がっていなかった。正直に従った慶應大がバカを見た感じが。国公立大とは一体。
以下，本編。
＜収録の基準と分類＞
基準は例年とほぼ同じである。
出題ミス：どこをどうあがいても言い訳できない問題。解答不能，もしくは複数正解が認められるもの。
悪問：厳格に言えば出題ミスとみなしうる，国語的にしか解答が出せない問題。
→ 歴史的知識及び一般常識から「明確に」判断を下せず，作題者の心情を読み取らせるものは，世界史の問題ではない上に現代文の試験としても悪問である。
奇問：出題の意図が見えない，ないし意図は見えるが空回りしている問題。主に，歴史的知識及び一般常識から解答が導き出せないもの。
難問：一応歴史の問題ではあるが，受験世界史の範囲を大きく逸脱し，一般の受験生には根拠ある解答がまったく不可能な問題。本記事で言及する「受験世界史の範囲」は，「山川の『用語集』に頻度�，任發いい�らとりあえず記載があるもの」とした。
＜総評＞
例年だと上智＋早慶で40〜45個くらいになるところ，今年はなんと17個に収まった。半分以下である。上智は０個だったので，本年は項目自体を立てていない。その影響もあって例年は３記事構成であるが，本年は２記事で済んでいる。減少した理由はいくつかあるが，明確な順に以下の３つが挙げられる。
１．例年だと上智６＋慶應４＋早稲田９の19日程あったのに対し，上智は２日程を残して撤退し，小論文や総合問題を主体とする入試に変わった。残った２日程も国立型の論述主体であり，極度の悪問が出づらい形式になった。早稲田は国際教養と政経学部が撤退した。結果として2021年は上智２＋慶應４＋早稲田７＝13日程となった。要するに早慶上智の日程数が約2/3になったので，それらの悪問・難問の数が約2/3まで減るのは自然な流れである。
２．実は事前に文科省から「今年の受験生は高校が休校で学習が進んでいないから，入試問題は手加減しろよ」というお達しが出ていた。意外にも慶應がこれに従ってかなり易しくなったので，法学部以外は収録対象問題０問だった（なお法）。これにより慶應は例年４日程あわせて12〜13個の収録があったが，今年は５個だけであり，慶應だけで比較するなら完全に半分以下になった。ただし，早稲田はこのお達しをほぼ無視した様子。上智は前述の通り，入試制度そのものの変化の影響の方が大きいので，お達しは影響していない。
３．単純に早慶ともに作問側が巧妙になっていて，グレーゾーンからの出題は目立った印象。
しかしながら国立大は上述の文科省のお達しを完全に無視しているところが多く，本企画への収録が無い（つまりちゃんと高校世界史範囲を考えて作っている）東大や北海道大等も含めて，私の感触では難易度は全然下がっていなかった。正直に従った慶應大がバカを見た感じが。国公立大とは一体。
以下，本編。
前述の通り，慶應大は経済学部・商学部・文学部のいずれも収録対象無し。特に経済学部は例年通りの良問であった。商学部はアラブ首長国連邦の旧宗主国がイギリスというのがグレーゾーンだったのと，フランス革命の複合革命論の４階層（貴族・ブルジョワジー・サンキュロット・農民）を問う問題がやや無理な問い方だったかなと思ったくらい。さてでは，文科省のお達しをさして気にしなかった様子の慶應大の中の裏切り者の様子を見ていこう。それでも昨年よりはかなりマシになったのであるが……
１．慶應義塾大 法学部
＜種別＞悪問・難問・誤植
＜問題＞１ さらにペストは，災禍の犯人を仕立て上げて迫害する心理をも生み出した。その代表例がユダヤ人に対するものである。ユダヤ人の一部は東欧に逃れ， (7)(8) とよばれる離散ユダヤ人の礎となった。
03 アシュケナジム 04 イシューブ 16 クリムチャク 20 セファルディム
34 ミズヒラム
（編註：関係のある選択肢のみ抜粋，選択肢の文言は原文ママ）
＜解答解説＞
慶應大・法学部名物，山川『新世界史』には載っているシリーズ。正解は03のアシュケナジムである。かなり手の内が割れてきているので，対策がはまった受験生もいたのでは。16のクリムチャクは私も知らなかったのだが，クリミア半島に居住するトルコ系ユダヤ人のことだそうだ。34のミズヒラムはミズラヒムの誤植。例によって範囲外から出題して盛大に誤植するというクソダサ行為が見られるが，もはやわざとなんだろうか。ミズラヒムはアラブ諸国やイラン・中央アジアに住むユダヤ人のことで，セファルディムに含めるかどうかは議論があるとのこと。セファルディムもアシュケナジム同様に山川『新世界史』にしか記述がない。イシューブはイスラエル建国以前から存在するパレスチナのユダヤ人社会のこと。
ところで，私はクリムチャクについて今回知ったくらいなので全く詳しくないが，問題の要件が「東欧に逃れた離散ユダヤ人」だけであってそれ以外に縛りがないので，クリミア半島も東欧だからクリムチャクも正解になりかねないのでは。クリムチャクは起源そのものは古代のようだが，中世に逃れてきた人も合流しているだろうから，危ない気がする。
２．慶應義塾大 法学部（２つめ）
＜種別＞出題ミス
＜問題＞１ ［設問３］ 下線部（エ）に関連して（編註：シチリア島），シチリア島の歴史についての以下の記述のうち誤っているものすべてを選んだ場合、もっとも適切な組み合わせを[01]から[18]より選び、その番号を (15)(16) にマークしなさい。
(a) 第３次ポエニ戦争で将軍ハンニバルが率いるカルタゴに勝利したローマは，その後シチリア島をはじめての属州とした。
(b) ６世紀には，イタリア半島を席巻したランゴバルド王国が，東ゴート王国をしりぞけてシチリア島に進出し，支配を始めた。
(c) 12世紀には，ルッジェーロ２世が，シチリア島と南イタリアとを占拠していたイスラーム勢力を圧倒してノルマン朝のシチリア王国を成立させた。
(d) 13世紀には，シチリア王国からナポリ王国が分離し，以後，シチリア王国はイベリア半島にあるアラゴン王国の王家が支配をするようになった。
(e) ナポレオン戦争後のウィーン体制のもと，スペイン＝ブルボン家によってシチリア王国とナポリ王国が統合され，両シチリア王国を称した。
(f) サルディーニャ王国の首相カヴールの命を受けたガリバルディは，シチリア島を占領した後，両シチリア王国の首都ナポリを奪取し，これら占領地をサルディーニャ王に献上した。
[01] (a)(b) [02] (a)(b)(c) [03] (a)(b)(f)
[04] (a)(c) [05] (a)(c)(d) [06] (a)(e)(f)
[07] (a)(f) [08] (b)(c) [09] (b)(c)(d)
[10] (b)(d)(e) [11] (b)(e)(f) [12] (b)(f)
[13] (c)(d)(e) [14] (c)(e) [15] (d)(c)
[16] (d)(e)(f) [17] (d)(f) [18] (e)(f)
＜解答解説＞
(d)(e)は問題なく正文。(a)はハンニバル戦争が第２次ポエニ戦争であり，シチリア島がローマの属州になったのは第１次ポエニ戦争によるので二重に誤文。(b)はランゴバルド王国の勢力がシチリア島に及んでいないので誤文。(c)は，ノルマン朝（両）シチリア王国は，南イタリアからランゴバルド系の諸侯とビザンツ帝国を駆逐し，シチリア島からはイスラーム勢力を駆逐して建国された。したがって「シチリア島と南イタリアとを占拠していたイスラーム勢力」の部分が誤り。またこの文は主語がルッジェーロ２世になっているが，南イタリアへのノルマン人の進出は彼の年の離れた伯父ロベール＝ギスカールに始まる一族総出の征服事業であって，シチリア島のイスラーム勢力はルッジェーロ２世の登場前に駆逐されている。よって(c)の文も二重の誤文である。最後に(f)はガリバルディの征服行がカヴールの命を受けたものではないので誤文。よって(a)(b)(c)(f)と４つ誤文があるが，これに該当する選択肢がない。出題ミスとしか言いようがない。おそらくノルマン朝の成立経緯に詳しくない人が作問し，(c)は正文のつもりなのだろう。代ゼミと駿台から同様の指摘があり，おそらくその指摘を受けて大学当局から謝罪と全員正解とした旨の発表があった。
３．慶應義塾大 法学部（３つめ）
＜種別＞悪問
＜問題＞１ ［設問４］ 下線部（オ）に関連して（編註：ペストはまたたく間にヨーロッパ全土に広がった），ペストの流行を背景として生じた中世末のヨーロッパ社会の変容をあらわした記述として誤っているものを下から選び，その番号を (17)(18) にマークしなさい。
[01] 領主は，荘園での労働力を確保するため，賃金を上げたり、農奴的束縛からの解放をするなど，農民の待遇向上を図った。
[02] イギリスでは，労働者の不足に起因する賃金上昇を抑えるため，国王が賃金をペスト流行以前の水準に固定することなどを勅令で定めたが，奏功しなかった。
[03] フランスでは，領主が封建的束縛を再び強化する動きを示したのに対し，これに反発した農民がジャックリーの乱をおこして勝利し，身分的自由を獲得した。
[04] プロイセンでは，領主が自由農民を農奴化し，賦役労働により輸出用穀物を生産する農場領主制がみられるようになった。
[05] 窮乏した中小領主のなかには国王や大諸侯に領地を接収されるものも多く，やがて諸侯の力をおさえた国王は権力を強化させ，中央集権的な体制を整えていった。
＜解答解説＞
[01][02][05]は問題なく正文。[03]は，ジャックリーの乱が最終的に鎮圧されているので誤文。[04]は正誤の判断が難しい文になっていて，プロイセンでグーツヘルシャフトが広がったのは15〜16世紀頃で一般に近世の初期と理解されている。よく言われるように西欧が大航海時代によって商工業を発展させたことを受けて，東欧地域は西欧輸出向け穀物に特化するようになるためだ。つまり，15世紀が中世か近世かという議論は無関係で，因果関係を踏まえた歴史理解からするとグーツヘルシャフトの拡大は近世初期ということになるのである。また，プロイセンでのグーツヘルシャフトの拡大とペストの流行は直接の因果関係が薄い。少なくとも他の４つの選択肢と比較したときに「ペストの流行を背景として生じた中世末のヨーロッパ社会の変容」とは言いがたい。[03]の文の誤りが明らかなのに比べると[04]は少し弱いが，瑕疵の無い選択肢とは言えないだろう。代ゼミから同様の指摘あり。
４．慶應義塾大・法学部（４つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞３ ［設問６］ 下線部（カ）に関連して（編註：ギリシア），ギリシア世界が先進的なエジプト文化を吸収する上で大きな役割を果たしたことで知られる，ナイル川デルタ地帯のギリシア人植民市を語群から選び，その番号を (37)(38) にマークしなさい。
02 ウガリト 04 キュレネ 18 ナウクラティス 19 ニカイア
20 ネアポリス 30 マッサリア
（編註：関係のある選択肢のみ抜粋）
＜解答解説＞
ニカイアはニースまたは小アジアのニケーア，ネアポリスはナポリ，マッサリアはマルセイユのことであるので削れるが，残り３択からは非常に難しい。キュレネは近代のアフリカ分割のところで出てくる「キレナイカ」と関係がありそうと推測がつけば（かなり危ない推測だが）外せるかもしれない。実際に現在のリビア東部を意味するキレナイカは，古代ギリシアのポリスのキュレネを語源としている。残った２つのうち，ウガリトは現在のシリアにある古代オリエントの都市遺跡で，「海の民」によって破壊されたとされる。ギリシア人の植民市ではない。というわけで正解はナウクラティスである。一応，教科書中や資料集の地図では名前が記載されているが，覚えていた受験生は極めて少なかろうし，消去法も厳しい。せめてウガリトはやめてほしかった。
５．慶應義塾大・法学部（５つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞３ ［設問４］ 下線部（エ）に関連して（編註：奴隷貿易），イギリスの奴隷貿易反対勢力は，18世紀後半に，黒人奴隷のうち自由の身となった者をアフリカに入植させた。その土地の現在の国名を語群から選び，その番号を (65)(66) にマークしなさい。
06 エリトリア 08 カーボベルデ 09 ガボン 13 コンゴ 15 シエラレオネ
17 セネガル 26 ベナン 27 マダガスカル 28 マリ
30 モーリタニア 31 モンロビア 34 リビア
（編註：関係のある選択肢のみ抜粋）
＜解答解説＞
ぱっと見だと「そんなん知らんわボケ」と吐き捨てて次の問題に行ってしまいそうだが，よく読むと「イギリスの奴隷貿易反対勢力が入植させているのだから，イギリス植民地となった可能性が高い」「黒人の元奴隷を入植させているのだから，リベリアの事例も踏まえると，西アフリカの可能性が高い」として消していくと，かなり良いところまで絞れるのではないかと思う（リベリアの事例からイギリス人もアメリカ人と同じことを考えるだろうという連想は危ういものがあるが）。壁になるのはカーボベルデ・ガボン・モーリタニアあたりだろうか。カーボベルデはポルトガルの，ガボンとモーリタニアはフランスの旧植民地なので誤答であり，これらを消すともうシエラレオネしか残らないはずで，このシエラレオネが正解。シエラレオネは近い経緯でアメリカからの解放奴隷が建国したリベリアの隣に位置するが，リベリアがアメリカから独立していたのに対し，シエラレオネはイギリスの植民地としての入植が図られた点で異なる。なお，モンロビアはリベリアの首都名であって選択肢で唯一国名ではない。シエラレオネの首都名はフリータウンである。
慶應大の法学部は５つ。この他に実際には受験生には酷だが範囲内と見なして収録から落としたものが７つあって計12問であった。昨年は９＋５で14問であるからトータルはさして変わらないものの，範囲外が９問から５問という変化から言って少し易しくなったか。
代わってお達しを無視した早稲田。収録なしは文化構想学部のみ。その文構も２問ほどグレーゾーンがあるので言及しておく。まずギリシア・ローマ神話の問題。オリンポス12神の内容で用語集に一応記載があり，そこまで深いことは聞いていないのでギリギリセーフとした。しかし，これは奇問に近い。もう１問が「四月テーゼ」発表時点での臨時政府の首相はリヴォフ（大公）かケレンスキーか。ケレンスキーの首相就任が７月なのでまだリヴォフであるが，普通は７月とは覚えないし（教科書・用語集に７月の記載はある），リヴォフはそもそも範囲外である。あとは本企画とはほぼ無関係だが，文構定番の西洋美術史問題でフリードリヒの《雲海の上の旅人》が出題されていた。『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』パッケージ版のパッケージイラストのリスペクト先と言えば伝わる人もいるだろう。
・参考：美術史の1ページに『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』を加えよう。「ウツシエ」に似た遊びが18世紀に存在した！？ ゲーム画面からあふれでるロマン主義の“崇高”（電ファミニコゲーマー）
６．早稲田大 法学部
＜種別＞出題ミス
＜問題＞１ 設問１ 下線部aに関連し（編註：こうした宗教・思想は，ときに皇帝の権力やその支配体制と密接に結びつき），中国における皇帝権力や支配体制と宗教・思想の関わりについて述べた以下の文のうち，明白な誤りを含むものはどれか。
� ／舛�ら前漢まで，国家を統治する理念として法家思想が重要であったが，後漢の光武帝の時代に董仲舒が提案して五経博士がおかれると，以後，儒教が国家の正統的教学と位置づけられていった。
�◆仝涕媾熟珊颪里劼箸弔任△詼役欧任蓮げ數未鯏�一した太武帝が，道教教団を組織した寇謙之を尊信し， 道教に帰依した。
�� 元のフビライは，チベット仏教サキャ派の高僧で，国師（帝師）として厚遇したパスパを用いて，チベット文字を基にした新しい文字を創案させた。
�ぁ）�州という呼称は，女真が信仰していた文殊菩薩（マンジュシリ）に由来するとされ，また清の歴代皇帝は，支配下においたモンゴルやチベットとの共通の信仰として，チベット仏教を保護した。
＜解答解説＞
��は問題なく正文。�，脇｜與阿粒萍�年代が前漢の武帝の頃であるので，後漢の光武帝の部分が誤り。作題者の想定する正解はこれだろう。審議の対象は�△如こ気誉気靴い海箸鮓世辰討い詈犬任呂△襪�，北魏は五胡十六国に数えないので冒頭の「五胡十六国のひとつである北魏」が誤りと判断されうる。また�い蓮せ笋論喫犬任いい隼廚Δ里世�，光緒新政の頃の清朝政府はチベットに対して近代化（政教分離）や中国化（漢化）を要求するようになっていて，必ずしも最後まで全員チベット仏教を保護していたわけではないから「歴代」が誤りと増田塾が指摘していた。ここでいう歴代皇帝は末期も末期である光緒新政の時期まで含めるような厳密な言い方ではなかろうから，この指摘は過剰に厳しいと思う。ともあれ，大学当局から謝罪と全員を正解とした旨の発表があった。
〔番外編〕早稲田大 法学部
＜種別＞悪問？
＜問題＞３ 設問４ 下線部�い亡慙△靴董癖埣陝Р疾�部が極端に長い上に問題とさして関係がないので省略），ヘンリ８世時代からピューリタン革命期について述べた次の１〜４の説明の中から適切なものを一つ選びなさい。
１ ヘンリ８世は，1534年に統一法を初めて制定し，これによりイギリス国王を首長とするイギリス国教会が成立した。
２ メアリ１世は，熱心な国教徒として，カトリックを弾圧した。
３ 1603年に，アイルランド出身のスチュアート家が王位を継ぎ，国王ジェームズ１世は王権神授説を主張した。
４ クロムウェルは議会から長老派を追放し，1649年に共和政をうちたて，重商主義的な通商政策を推進するために，1651年に航海法を制定した。
＜解答解説＞
１は統一法が国王至上法（首長法）の誤り，２はメアリ１世がカトリックなので誤り，３はアイルランドがスコットランドの誤り。消去法で考えても４が正文になるが，航海法はクロムウェル時代に制定されたものの，クロムウェル自身は航海法に反対だったために，クロムウェルが遠征で不在の間に議会が勝手に航海法を議決・制定してしまった。したがって，クロムウェルを主語にして「航海法を制定した」とするのは問題がある表現になる。
……というのは実は2016年の本企画，しかも当時も早大・法学部の問題で指摘している。以下に当時の解説文を引用する。
「ただし，これはかなり瑣末な指摘である。まず，一般的な高校世界史では「クロムウェルが発令」と習うから，そもそもこの文に違和感を覚えた受験生は皆無に近かったと思われる。次に，少なくともクロムウェルが政権を握っていた時代に発布されたのは事実であり，また彼の存命中に航海法が廃止になったということもない。よって，高校世界史のレベルでは「クロムウェルが発令」と「クロムウェル時代に発令」の差異に重要性が無い。」
しかしながら駿台が解答速報で指摘していたため，当時は番外編で収録したという経緯がある。今回も駿台が同じように指摘していたため，本企画も番外編として収録することにした。
７．早稲田大 文学部
＜種別＞悪問
＜問題＞３ 設問１ 下線部aに関して（編註：北イタリア都市の商人が中心になりユーラシア大陸の東との商業交易が活性化した），このような商業活動をとくに担った都市を一つ選びなさい。
イ フィレンツェ ロ ヴェネツィア ハ ピサ ニ ミラノ
＜解答解説＞
別に目くじら立てるほど悪い問題でもないが，どうしても気になったので収録とした。レヴァント貿易で活躍した北イタリアの港市国家といえばピサ・ジェノヴァ・ヴェネツィアの３つであるから，普通に考えれば本問は正解が２つあることになる。しかしながら，以下の２つの理屈によって正解はヴェネツィアに絞ることができ，かつ異論もほぼ出ないだろう。まず，ピサはイタリアを南北に二分するなら間違いなく北イタリアに入るが，中部を入れた三分割なら中部に入る位置なので厳密には北イタリアではないから。ピサの立地（トスカナ地方）は範囲内の知識と言っていいだろう。次に，「とくに担った」と問題文にあるので，どうせ答えるなら最大の都市を挙げるべきであって三番手のピサを挙げる積極的な理由がないから。
しかしながら，２つとも解答者が勝手に忖度して見出した理由にすぎず，逆に言えば「南北中部の三分割で考えろとは問題文に書かれていない」「『とくに担った』を『最大の』と読み替えるのは恣意的な解釈ではないか」という反論はありうると思うし，実際に私は解いていてこれらの反論が思い浮かんでしまって，ヴェネツィアを選ぶのはやや気持ち悪かった。ピサを選択肢から外してナポリやトリノにでもしておけばよかったことであり，あるいはピサとヴェネツィアを判別させたかったのならもっと明示的なヒントがあるべきだった。駿台から同様の指摘あり。
文学部の他の問題でグレーゾーンだったのは，現在ルーヴル美術館に展示されているハンムラビ法典の石碑が発掘された場所からスサを選ばせる問題と，三藩の乱鎮圧で活躍したイエズス会士としてフェルビーストを選ばせる問題。両方とも用語集に記載があるが，覚えていた生徒は少ないだろう。
８．早稲田大 人間科学部
＜種別＞出題ミス（複数正解）
＜問題＞２ 設問Y �� その遷都の地（編註：前８世紀前半，周が東方に遷都した）の説明として誤りを含むものはどれか。
（ア）その地は，北魏の孝文帝が都と定め，竜門の奉先寺洞に大仏を建立した。
（イ）その地は，五代十国時代に突厥出身の武将が建国した後唐の都が置かれた。
（ウ）その地は，大運河に近いことから唐代に国際貿易の中心地となった。
（エ）その地は，禅譲によって皇帝に即位した曹丕によって魏の都とされた。
（オ）その地は，新末の混乱を収拾した後漢の光武帝が都とした。
＜解答解説＞
「遷都の地」は東周の都であるから洛邑，つまり洛陽である。（イ）・（エ）・（オ）は洛陽の説明として正しい。（ウ）は開封の説明であるので誤文で，これが作問者の想定する正解だろう。しかし（ア）は竜門石窟の開削が北魏の孝文帝であるのは正しいのだが，竜門は北魏から唐にかけて長期間に渡って建設された石窟寺院であり，その中でも奉先寺洞は唐代の高宗と則天武后が建てたものである。よって（ア）は誤文になってしまう。奉先寺洞は範囲外の知識ではあるが，帝国書院の教科書の欄外には記載があり，これをよく読まないままに参照したものと思われる。文言がコピペではなかっただけに，もうちょっとちゃんと読んでいればという惜しさはある。大学当局から謝罪と全員正解とした旨の発表があった。全員正解とする処置はよくわからない，普通に（ア）と（ウ）の複数正解で処理すればよかったと思うのだが。
９．早稲田大 人間科学部（２つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞４ 設問Y �� ディエンビエンフーの位置は次の地図のa〜dのなかのどこか。
＜解答解説＞
ディエンビエンフーの位置を問うのはやりすぎだろう。せめて消去法で解けるような作りになっているべきだが，本問の場合は受験生的な判断をするとdがサイゴン，cがフエっぽい（実はフエではなくダナンだが）というところまで消せてもbがハノイではないので消せず，２択で止まってしまう。しかもbはおそらくハイフォンを意識して打たれた点だと思われるが，ハイフォンならもっと北東である。というわけで正解はa。ディエンビエンフーは内陸に位置した。攻略には役立たない豆知識だが，漢字で書くと「奠邊府」となるので，正確な意味はとれなくても辺境の府というのが伝わる字面である。実際にaの場所を見ればわかる通りラオスとの国境で，1841年に阮朝政府が建設したらしい。ところで，予備校の解答解説を見ると高い確率で「cはフエ，bはハノイだから消去法でaが選べる」と書いてあるのだが，bがハノイに見えるのは地図読み能力が欠落しているか，作問者への忖度力が高すぎると思う。ハノイはbよりもかなり北西に位置している。
１０．早稲田大 教育学部
＜種別＞難問
＜問題＞４ （８） 日本について，誤っている説明をすべて選べ。
a 日本に支持された開化派の大院君は1884年，反乱を起こした。
b 下関条約により，台湾，澎湖諸島は日本へ割譲された。
c 長崎清国水兵事件は日本の海軍力が清を圧倒していることを印象づけた。
d 宮古島島民が台湾先住民に殺害された事件を口実に台湾出兵は行われた。
＜解答解説＞
これは世界史ではなく日本史の問題だと思う。すぐにわかるのはaが誤文で，大院君ではなく金玉均ら。大院君は甲申政変に無関係である。bは正文。難しいのはここからで，cとdは要求される知識水準が高すぎる。先にdから。台湾出兵自体は基礎知識だが，通常は「琉球漁民が台湾先住民に殺害された」と習うので，この琉球漁民がどこの島の出身者かまではやらない。これはなぜか東京書籍の世界史教科書が細かく書いていて，宮古島と八重山諸島の住民であるからdは正文。
最後に残ったcだが，長崎清国水兵事件は高校日本史ですらほとんど扱わない。これもなぜか東京書籍の世界史教科書に記述があるのだが，これをもって範囲内とするのは無理がある。1886年，清朝の北洋艦隊の軍艦４隻が長崎に寄港していた際に起きた出来事。北洋艦隊は艦船の修理・補給を名目としていたが，実態としては甲申政変・天津条約後の威圧であったとされる。この時に入港した定遠等の４隻は北洋艦隊がドイツから輸入した最新鋭の軍艦であり，当時の日本海軍には無いものであった。さらに下船した水兵が集団で遊郭に入ろうとして断られ，これを理由に暴行を起こして，数日間続いて死者も出る大規模な騒乱に発展した。はっきり言ってしまうと北洋艦隊が一方的に悪いのだが，当時の日清の海軍力の差もあって清側が強硬な態度に出て，なぜか日清双方が賠償金を支払って決着となった。しかしながらこの北洋艦隊，このような事件を起こしているところからもわかる通り練度や士気が低く，約８年後の日清戦争では一方的な大敗を喫することになる。仏教説話かよというくらいの因果応報感がある。
閑話休題，cは「日本の海軍力が清を圧倒していることを印象づけた」とある部分が誤り。よって正解はa・cとなる。「すべて選べ」ではなくcも正文にしてaを選ばせる１択問題なら普通の問題だったのだが。なお，教育学部は本問以外も手強い問題が多く難化傾向であり，グレーゾーンとしては北魏の拓跋珪を道武帝の名前で出す，同じく北魏の三長制施行と洛陽遷都の時系列を問う等。共通テストっぽさのある問題の出題もあり，出題形式も大きく変わっているので明らかに作題者や作成方針が変わっている。この傾向が続くなら，早稲田大の世界史受験可能な７学部の難易度序列が変わりそう。
１１．早稲田大 商学部
＜種別＞難問
＜問題＞１ 問H 下線部Hに関連して（編註：ディオクレティアヌス帝），ディオクレティアヌス帝について最も適当なものを選べ。
１．皇帝自身をマルス神の体現者として神格化した。
２．テトラルキアのもと自らはローマを都とする帝国西方の正帝となった。
３．小麦などの最高価格を定めた勅令を発布した。
４．カピタティオ＝ユガティオ制を廃止した。
＜解答解説＞
常識的な受験世界史知識で判断がつくのは２だけ，彼は東方の正帝。１はひょっとしたら推測がつくかもしれない。マルスは軍神であるが，皇帝が自らをなぞらえて化身と見なすのは主神ユピテルだろう。この推測が正しく１は誤文なのだが，そもそもギリシア・ローマ神話の内容自体がグレーゾーンである。一応，ディオクレティアヌスがユピテルの化身を名乗ったということは唯一実教出版の教科書の欄外，ディオクレティアヌスが発行した硬貨の説明にちらっと書かれていたが，これをもって範囲内と見なすのは無理がある。４も一応「新たな税制度を実施した」という記述は一部の教科書に記述があるが，新制度の名前がカピタティオ＝ユガティオ制であると書いてあるものは１冊も無いし，当然用語集にも記述がない。カピタティオが人頭税の意味で，カピタはper capita等で見かけるように「頭」の意味ではあるが，言われなければ気づかないし，そもそも受験生はper capitaなんて言い回しを知らないだろう。ユガティオは地税の意味で，ユガは生産力に応じて割り当てられた税の単位だそうなので「石高」と言ってあまり間違ってなさそう。
というわけで４は「廃止」が「制定」の誤りである。最後に残った３が正文＝正解で，ディオクレティアヌスは1400品目に渡る物・サービスで最高価格令を発布したが，効果が疑問視されている。さすがに品目数が多すぎるように思われる。最高価格令は山川『新世界史』にのみ記載があるのでグレーゾーンだが，他の選択肢の難易度とよりによって『新世界史』であるということを考慮して収録対象とした。グレーゾーンも重ねすぎると黒くなると思う。この他，この大問１は古代ローマ史の細かいところを聞いた問題が多く，西ローマ帝国最初の皇帝ホノリウスや，ウァレリアヌス帝がシャープール１世に破れたエデッサの戦いを聞いたものもあった。商学部は去年も大問１が古代ローマ史で難問が多く，作問者が同じっぽい。以前は大問１が中国史でやたらと難しかったが，去年に突然分野が変わった。大問１は扱う時代・地域にかかわらず度を超えた難問にするという，引き継がないでほしかった伝統が商学部にあるのだろうか。
１２．早稲田大 商学部（２つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞４ 1776年に採択された独立宣言の起草に際しては，当初の案には奴隷制度やイギリスによる奴隷貿易を否定する内容が含まれたが，ニューイングランド植民地群の１つであるマサチューセッツ湾植民地（Massachusetts Bay Colony）の代表である〔 ５ 〕が主導した起草委員会および第二次大陸会議での議論を経たのち，最終的にそうした内容は削除された。
＜解答解説＞
独立宣言の起草委員会は５人いて，そのうち受験世界史範囲内で学習するのはジェファソンとフランクリンの２人だけである。ジェファソンはヴァージニア出身でその代表であるから違うとして外すとフランクリンしか残らないし，フランクリンはマサチューセッツ出身だから空欄５の正解はこれだろう……と推測してフランクリンと答えた受験生，もう正解扱いでいいのではないかと思う。実際には誤りで，フランクリンは出身と異なりペンシルヴェニア代表であった。マサチューセッツ代表は後の第２代大統領ジョン＝アダムズであるからこちらが正解。これは範囲内の解答が用意できるのにそうしなかった点，知識が豊富な受験生ほどフランクリンと誤答するようひっかけている点，やろうと思えば「後の第２代大統領」というヒントを出せたのにそれすらやらなかった点，の３点においてあまりにも性格が悪すぎる。ジョン＝アダムズは用語集に記載が無いが，早慶対策で覚えてきた受験生もそれなりに多かったであろうから，前述の３点に工夫があれば難問であるにせよ選抜性のある出題にはなりえた。選抜性という入試の本分をドブに捨てて何がやりたかったのか。作った人に聞いてみたい。
１３．早稲田大 商学部（３つめ）
＜種別＞誤植
＜問題＞1957年には，アーカンソー州で，それまで白人しか入学が許されていなかった州立高校に，９人の黒人学生が入学することに対し，州知事がそれを妨害したことから，当時，共和党選出の大統領であり，1950年に〔 11 〕軍の最高指令官にもなった軍人出身のアイゼンハワーが陸軍の空挺師団を派遣し，入学する黒人学生を護衛させるといった事件なども起こった。
（原文ママ）
＜解答解説＞
空欄11の正解はNATOで，これ自体が1950年という年号しかヒントがないそれなりの難問なのだが（それも1949年の翌年という意味合いしか持たない），そんなことよりも最高“指”令官は最高司令官の誤字である。最高指令官という地位はNATOに存在しないと考えれば出題ミスになる。気づきにくい誤字であるためか，予備校では代ゼミのみが指摘していた。
本問の最大の急所はこの誤字なので残りは別に指摘しなくてもよいのだが，一応気になったことがあるので書いておく。実は誤字でなくても厳密に言えばNATO軍最高司令官という地位は無い。なぜならNATO軍はかなり複雑な構成をとっている組織で，その全軍のトップに立つ地位は規定されていないからである。ただし，実態としてはNATO軍の中心的な軍隊である欧州連合軍の最高司令官を俗称として「NATO軍最高司令官」と呼ぶことはあるようで，AFPやロイター等の和訳記事は普通にNATO軍最高司令官という語を用いていた。しかし，英語圏で「NATO’s Supreme Commander」の用例を探すと数が激減するので（無いわけではない），この俗称は国際的に使われていると見なしがたく，誤訳に近いのではないかと思う。入試問題なのだから気を使ってほしかったとは思う。もう一つ余分な指摘をすると，アイゼンハワーは1950年12月にNATO欧州連合軍の創設を依頼されて初代の最高司令官に指名されたのであって，欧州連合軍の成立は翌1951年4月，したがってアイゼンハワーの最高司令官の就任も1951年4月である。ただし，NATOの公式HP（たとえばこのページ）を見ると1950年の時点で就任した扱いになっていたので，指名と就任の年号のズレはさして気にされていなさそうである。それにしても衆目一致の指名であって，しかもそれを短期間でやり遂げて大統領選立候補のためにアメリカに戻っていったアイゼンハワーの人望と組織力は恐ろしい。大学当局から謝罪と，しかし特別な措置はとらない旨の発表があった。これはまあ確かに全員正解にするほどのことはないかと思う。
１４．早稲田大 商学部（４つめ）
＜種別＞誤植
＜問題＞2000年代に入ってからは，2008年に〔 12 〕がアフリカ系アメリカ人初の大統領に就任し，黒人差別の歴史において大きな転換点を迎えたともいわれた。
（原文ママ）
＜解答解説＞
素直に解答を出すならオバマが正解になるが，オバマの大統領就任は2009年であって，2008年は大統領選挙に勝利した年である。誤植であろう。厳しく取るなら2008年にアメリカ大統領に就任した人物はいないので，出題ミスである。誤りが自明すぎてかえって見落とすためか，河合塾のみが指摘していた。１３番同様に大学当局から謝罪と，しかし特別な措置はとらない旨の発表があった。これもまあ，別の箇所の情報からオバマと絞れるので，そういう対応でも仕方ないか。
〔番外編〕早稲田大 商学部
＜問題＞2012年2月には10代のアフリカ系アメリカ人が自警団員に殺害され，同自警団員が翌年に無罪判決を受けたことに端を発する形で，ソーシャルメディアを通じて広がった，〔 13 〕とよばれる黒人差別反対運動が起こった。2020年には，ミネアポリスにおいて警察官による黒人殺害事件が起こったことを受けて，その運動はアメリカ各地で再燃し，同国のみならず世界的にも注目を集めた。
＜コメント＞
正解はBLM（Black Lives Matter，ブラックライヴズマター）。どこかで出題されそう，出題するならここは確率高そうと思われていたが，その予想通りに恥ずかしげもなく時事ネタを入れてきた早稲田大の商学部は悪びれないというかなんというか。当然範囲外なのだが時事ネタは常識的な範囲であれば収録対象から外しているので番外編とした。実際の正答率もかなり高いだろうと思う。というよりも正答率が高すぎて意味がなかったのではないか。せめて来年の入試まで待つ辛抱とかできなかったんですかね。
１５．早稲田大 社会科学部
＜種別＞難問・悪問
＜問題＞２ 問５ 下線部（E）について（編註：新旧両大陸の交流），以下の事件を年代順に正しく並べたものを１つ選べ。
� ．丱襯椒△離僖淵淬篭�横断
�◆．▲瓮螢粥瓮凜Д好廛奪舛梁茖渦鸞臉祥硫Ｃ�
�� コルテスのアステカ王国侵入
�ぁ．�ブラルのブラジル漂着
a． �◆臭ぁ臭�―��
b． �◆臭ぁ臭 臭�
c． �ぁ臭◆臭 臭�
d． �ぁ臭◆臭�―��
＜解答解説＞
近年の難関私大では「年代は用語集に必ず載っているからどれだけ細かくてもグレーゾーン」ということを利用した悪質な年代並べ替え問題をよく見るようになったが，これはさすがにあまりにも悪質なので摘発しておく。この中で早慶対策として覚えていてもよいかなと思えるのは�，離丱襯椒△砲茲訛席人里糧�見の1513年と，�い離�ブラルのブラジル漂着の1500年くらいである。��は「アステカ征服」の1521年なら基礎知識だが，侵入の1519年はマイナー年号。まあ覚えてなくても1521年の数年前だろうという推測で並べ替えに支障はないが。一番厳しいのは�△離▲瓮螢粥瓮凜Д好廛奪舛僚蕾鵑離▲瓮螢�大陸探検の年号で，用語集に「数度にわたり南アメリカを探検し，1501〜02年の調査でここをアジアではなく新大陸と確信」とあるが，用語集に年号のある1501〜02年は３回目（または２回目）の探検であって初回ではない。つまり，ここで用語集を一言一句覚えてきた受験生を振り落としている。そこで教科書を参照するとアメリゴ＝ヴェスプッチの航海経路を示した地図を掲載しているものが何冊かあるが，そこの年号を見ると「1499〜1500年」となっていて，これが２回目（または初回）の年号である。これが２回目ということは初回はそれよりさらに早いのだろうから1499年以前になるはずと推測すれば，並び替えは�◆臭ぁ臭 臭�，つまりbが正解になる。これが作問者の想定する正解だろう。
この時点で収録対象たりうる十分な難問だが，しかし本問はこれで終わらない。アメリゴ＝ヴェスプッチは自称４回航海したと主張していて，それぞれ1497〜98年，1499〜1500年，1501〜02年，1503〜14年である。このうち１回目と４回目は実在が疑われている。それゆえに用語集は「数度にわたり」と数をごまかしていて，教科書も２回目の航海経路を地図で示しているのだ。これを踏まえて本問を再考すると，２回目が実は初回だったとして，アメリゴ＝ヴェスプッチの２回目の航海期間を細かく示すと1499年５月〜1500年９月である。これに対し，カブラルのブラジル漂着は1500年４月であるので，期間が完全に重なってしまう。つまり，極めて厳密に考えるなら本問で求められているのはアメリゴ＝ヴェスプッチが確実な記録の上で初めて大西洋の横断に成功した月が，1500年４月より早いか遅いかという月単位の比較ということになり，受験世界史の範囲を完全に超えている。私もさすがに全く知らない。まあ多分，1499年５月に出発して11ヶ月もかかってまだ大西洋を横断できておらず，しかし５ヶ月で帰国できたとは考えづらいので，それでもアメリゴ＝ヴェスプッチの大西洋横断の方が先だったと思われる。
おそらく本問を作った人は，１回目と４回目の実在が疑われているのを知らずに安直に作問したか，出発年の1499年で解答を出してほしいと考えたかのいずれかであろう。前者だとすると受験世界史の範囲に２回目と３回目の年号しか示されていない理由を考えてほしかったし，後者だとすると�△諒犬髻崑茖渦鸞臉祥硫Ｃ任暴佝�」という文言にしなければ厳密さが足りない。難易度はともかく，どう言い繕っても雑な出題には違いないので反省してほしい。駿台・代ゼミからも同様の指摘あり。
１６．早稲田大 社会科学部（２つめ）
＜種別＞悪問
＜問題＞２ 問７ 下線部(G)について（編註：ハプスブルク家），ハプスブルク家の輩出した次の皇帝と，その血縁関係，関連する事項の組み合わせのうち，最も適切なものを１つ選べ。
a．カール５世――イサベル女王の孫――トルデシリャス条約締結
b．フェリペ２世――フェリペ３世の父――メキシコ征服
c．フランツ１世――マリア＝テレジアの夫――七年戦争
d．ヨーゼフ２世――ヨーゼフ１世の息子――第１回ポーランド分割
＜解答解説＞
aはトルデシリャス条約がカール５世の事績ではないので誤り，bはメキシコ征服がアステカ帝国の滅亡と同義語と考えると，カール５世の時代の出来事なので誤り。dはヨーゼフ２世がフランツ１世の息子なので誤り（ちなみにヨーゼフ１世はスペイン継承戦争中の神聖ローマ皇帝で，カール６世の兄，したがってマリア＝テレジアの伯父）。消去法でcのフランツ１世が残り，血縁関係も関連する事項も誤りがないからこれが正解……と言いたいところだが，フランツ１世はハプスブルク家の血を引いていないからそもそも「ハプスブルク家の輩出した皇帝」ではないという大問題がある。彼が皇帝に即位したのは妻がハプスブルク家の当主マリア＝テレジアであり，かつ彼女の父のカール６世に指名されたからであって，帝位を世襲したわけではない。したがって厳密に考えた場合はカール６世をもってハプスブルク家宗家の男系は断絶し，同時にハプスブルク家による帝位の世襲は途切れていることになり，以後の皇統をハプスブルク＝ロートリンゲン家と呼び表す。受験世界史では煩雑であるからハプスブルク家とハプスブルク＝ロートリンゲン家を呼び分けることをしていないが，フランツ１世が世襲ではないがゆえにオーストリア継承戦争が勃発することは必ず学習する事項であるので，気づいてしまって首をひねりつつ，とはいえcしか答えがないのでしぶしぶマークした受験生は多そう。
私自身も出題ミスとまでは踏み込んで糾弾するつもりがないが，できればフランツ１世を正解にしない出題にしてほしかった。本問は１５番を作ったのと同じ人だと思われるが，なるほど納得がいく雑さである。大航海時代，近世ヨーロッパ史・東欧史のいずれの専門でもなさそう。代ゼミからも同様の指摘あり。また，駿台からは「問題の条件から言えばオーストリア皇帝フランツ１世（神聖ローマ皇帝フランツ２世）も該当するので，そちらのフランツ１世と考えればcは完全に誤りとなる」というより厳しい指摘が入っていた。本企画はなるべく正解が出るように性善説（誤用）的に読んであげるという規則を運用しているが，この規則に則らないなら駿台の指摘も正しく，本来ならその区別もつくように選択肢を記述すべきだろう。
１７．早稲田大 社会科学部（３つめ）
＜種別＞悪問
＜問題＞３ 問２ 下線部（B）について（編註：イスタンブル），イスタンブルに関する次の記述のうち，最も適切なものを１つ選べ。
a．ギリシア人植民市として栄えたビザンティウムが旧名である。
b．15世紀半ば，オスマン帝国のセリム１世がこの地を攻略し，「征服王」と呼ばれた。
c．16世紀半ば，コーヒー飲用の習慣がウィーンからもたらされ，この地にコーヒーハウスが開かれた。
d．20世紀に誕生したトルコ共和国の首都である。
＜解答解説＞
bはセリム１世がメフメト２世の誤り，cはコーヒーの伝播経路が逆，dはトルコ共和国の首都がアンカラ。消去法でやってもaが正文＝正解と絞れるが，一応指摘しておくとギリシア人植民市としての旧名はビザンティオン（ビュザンティオン）である。ビザンティウムはローマの支配下に入ってからのラテン語名。仮にaが一般書籍で出てきた文言ならこんなに細かいことは言わない，この著者は煩雑だから読者のために古代ギリシア語名とラテン語名を使い分けなかったのだなと判断する。しかし，これは正誤判定問題であるから「ビザンティオンをビザンティウムに差し替えた誤文かもしれない」と判定の留保をつけることになるわけで，受験生から正文として扱ってほしいなら「ギリシア人植民市として栄えた」という枕詞からのビザンティウムは不適切である。実際に私は初見時にaを誤文と判断して，下に進んでb・c・dと切っていって答えが無くなって困惑した。ビザンティオンを覚えてきていない受験生への配慮だとしてもビザンティオン（ビザンティウム）と併記すれば済むことであるから，それは言い訳にならない。
こう書くと「受験世界史でビザンティオンはマイナーでほとんど触れなくないか。範囲外の情報で難癖つけるのは反則では」という反論が返ってきそうなので，先回りして書いておこう。用語集のビザンティウムの項目には「ギリシア人植民市ビザンティオンのラテン語表記」とあり，また教科書や資料集のギリシア人植民市の分布を示した地図でもほとんどの場合ビザンティオンが優先して書かれている。ここまで散々「用語集か教科書の欄外のどこかに載っていればグレーゾーンでセーフ」のルールを恣意的に適用してきた早稲田大が「そんな重箱の隅にしか書かれてない情報を根拠とした出題ミスなんて認めるわけいきません」という反論はできないと思うのだが，どうか。
しいて擁護するなら，あまりに通りが良いので英語読みのまま定着してしまったコンスタンティノープルがある時点で当該都市の名前の細かな変化に拘泥する意味はなかろうとか，ビザンティオンとビザンティウムは支配者の言語の違いによる差異であって厳密には改名ではないとかか。その辺があるので，私も出題ミスとまでは踏み込まなかった。
国公立編に続く。
１．慶應義塾大 法学部
＜種別＞悪問・難問・誤植
＜問題＞１ さらにペストは，災禍の犯人を仕立て上げて迫害する心理をも生み出した。その代表例がユダヤ人に対するものである。ユダヤ人の一部は東欧に逃れ， (7)(8) とよばれる離散ユダヤ人の礎となった。
03 アシュケナジム 04 イシューブ 16 クリムチャク 20 セファルディム
34 ミズヒラム
（編註：関係のある選択肢のみ抜粋，選択肢の文言は原文ママ）
＜解答解説＞
慶應大・法学部名物，山川『新世界史』には載っているシリーズ。正解は03のアシュケナジムである。かなり手の内が割れてきているので，対策がはまった受験生もいたのでは。16のクリムチャクは私も知らなかったのだが，クリミア半島に居住するトルコ系ユダヤ人のことだそうだ。34のミズヒラムはミズラヒムの誤植。例によって範囲外から出題して盛大に誤植するというクソダサ行為が見られるが，もはやわざとなんだろうか。ミズラヒムはアラブ諸国やイラン・中央アジアに住むユダヤ人のことで，セファルディムに含めるかどうかは議論があるとのこと。セファルディムもアシュケナジム同様に山川『新世界史』にしか記述がない。イシューブはイスラエル建国以前から存在するパレスチナのユダヤ人社会のこと。
ところで，私はクリムチャクについて今回知ったくらいなので全く詳しくないが，問題の要件が「東欧に逃れた離散ユダヤ人」だけであってそれ以外に縛りがないので，クリミア半島も東欧だからクリムチャクも正解になりかねないのでは。クリムチャクは起源そのものは古代のようだが，中世に逃れてきた人も合流しているだろうから，危ない気がする。
２．慶應義塾大 法学部（２つめ）
＜種別＞出題ミス
＜問題＞１ ［設問３］ 下線部（エ）に関連して（編註：シチリア島），シチリア島の歴史についての以下の記述のうち誤っているものすべてを選んだ場合、もっとも適切な組み合わせを[01]から[18]より選び、その番号を (15)(16) にマークしなさい。
(a) 第３次ポエニ戦争で将軍ハンニバルが率いるカルタゴに勝利したローマは，その後シチリア島をはじめての属州とした。
(b) ６世紀には，イタリア半島を席巻したランゴバルド王国が，東ゴート王国をしりぞけてシチリア島に進出し，支配を始めた。
(c) 12世紀には，ルッジェーロ２世が，シチリア島と南イタリアとを占拠していたイスラーム勢力を圧倒してノルマン朝のシチリア王国を成立させた。
(d) 13世紀には，シチリア王国からナポリ王国が分離し，以後，シチリア王国はイベリア半島にあるアラゴン王国の王家が支配をするようになった。
(e) ナポレオン戦争後のウィーン体制のもと，スペイン＝ブルボン家によってシチリア王国とナポリ王国が統合され，両シチリア王国を称した。
(f) サルディーニャ王国の首相カヴールの命を受けたガリバルディは，シチリア島を占領した後，両シチリア王国の首都ナポリを奪取し，これら占領地をサルディーニャ王に献上した。
[01] (a)(b) [02] (a)(b)(c) [03] (a)(b)(f)
[04] (a)(c) [05] (a)(c)(d) [06] (a)(e)(f)
[07] (a)(f) [08] (b)(c) [09] (b)(c)(d)
[10] (b)(d)(e) [11] (b)(e)(f) [12] (b)(f)
[13] (c)(d)(e) [14] (c)(e) [15] (d)(c)
[16] (d)(e)(f) [17] (d)(f) [18] (e)(f)
＜解答解説＞
(d)(e)は問題なく正文。(a)はハンニバル戦争が第２次ポエニ戦争であり，シチリア島がローマの属州になったのは第１次ポエニ戦争によるので二重に誤文。(b)はランゴバルド王国の勢力がシチリア島に及んでいないので誤文。(c)は，ノルマン朝（両）シチリア王国は，南イタリアからランゴバルド系の諸侯とビザンツ帝国を駆逐し，シチリア島からはイスラーム勢力を駆逐して建国された。したがって「シチリア島と南イタリアとを占拠していたイスラーム勢力」の部分が誤り。またこの文は主語がルッジェーロ２世になっているが，南イタリアへのノルマン人の進出は彼の年の離れた伯父ロベール＝ギスカールに始まる一族総出の征服事業であって，シチリア島のイスラーム勢力はルッジェーロ２世の登場前に駆逐されている。よって(c)の文も二重の誤文である。最後に(f)はガリバルディの征服行がカヴールの命を受けたものではないので誤文。よって(a)(b)(c)(f)と４つ誤文があるが，これに該当する選択肢がない。出題ミスとしか言いようがない。おそらくノルマン朝の成立経緯に詳しくない人が作問し，(c)は正文のつもりなのだろう。代ゼミと駿台から同様の指摘があり，おそらくその指摘を受けて大学当局から謝罪と全員正解とした旨の発表があった。
３．慶應義塾大 法学部（３つめ）
＜種別＞悪問
＜問題＞１ ［設問４］ 下線部（オ）に関連して（編註：ペストはまたたく間にヨーロッパ全土に広がった），ペストの流行を背景として生じた中世末のヨーロッパ社会の変容をあらわした記述として誤っているものを下から選び，その番号を (17)(18) にマークしなさい。
[01] 領主は，荘園での労働力を確保するため，賃金を上げたり、農奴的束縛からの解放をするなど，農民の待遇向上を図った。
[02] イギリスでは，労働者の不足に起因する賃金上昇を抑えるため，国王が賃金をペスト流行以前の水準に固定することなどを勅令で定めたが，奏功しなかった。
[03] フランスでは，領主が封建的束縛を再び強化する動きを示したのに対し，これに反発した農民がジャックリーの乱をおこして勝利し，身分的自由を獲得した。
[04] プロイセンでは，領主が自由農民を農奴化し，賦役労働により輸出用穀物を生産する農場領主制がみられるようになった。
[05] 窮乏した中小領主のなかには国王や大諸侯に領地を接収されるものも多く，やがて諸侯の力をおさえた国王は権力を強化させ，中央集権的な体制を整えていった。
＜解答解説＞
[01][02][05]は問題なく正文。[03]は，ジャックリーの乱が最終的に鎮圧されているので誤文。[04]は正誤の判断が難しい文になっていて，プロイセンでグーツヘルシャフトが広がったのは15〜16世紀頃で一般に近世の初期と理解されている。よく言われるように西欧が大航海時代によって商工業を発展させたことを受けて，東欧地域は西欧輸出向け穀物に特化するようになるためだ。つまり，15世紀が中世か近世かという議論は無関係で，因果関係を踏まえた歴史理解からするとグーツヘルシャフトの拡大は近世初期ということになるのである。また，プロイセンでのグーツヘルシャフトの拡大とペストの流行は直接の因果関係が薄い。少なくとも他の４つの選択肢と比較したときに「ペストの流行を背景として生じた中世末のヨーロッパ社会の変容」とは言いがたい。[03]の文の誤りが明らかなのに比べると[04]は少し弱いが，瑕疵の無い選択肢とは言えないだろう。代ゼミから同様の指摘あり。
４．慶應義塾大・法学部（４つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞３ ［設問６］ 下線部（カ）に関連して（編註：ギリシア），ギリシア世界が先進的なエジプト文化を吸収する上で大きな役割を果たしたことで知られる，ナイル川デルタ地帯のギリシア人植民市を語群から選び，その番号を (37)(38) にマークしなさい。
02 ウガリト 04 キュレネ 18 ナウクラティス 19 ニカイア
20 ネアポリス 30 マッサリア
（編註：関係のある選択肢のみ抜粋）
＜解答解説＞
ニカイアはニースまたは小アジアのニケーア，ネアポリスはナポリ，マッサリアはマルセイユのことであるので削れるが，残り３択からは非常に難しい。キュレネは近代のアフリカ分割のところで出てくる「キレナイカ」と関係がありそうと推測がつけば（かなり危ない推測だが）外せるかもしれない。実際に現在のリビア東部を意味するキレナイカは，古代ギリシアのポリスのキュレネを語源としている。残った２つのうち，ウガリトは現在のシリアにある古代オリエントの都市遺跡で，「海の民」によって破壊されたとされる。ギリシア人の植民市ではない。というわけで正解はナウクラティスである。一応，教科書中や資料集の地図では名前が記載されているが，覚えていた受験生は極めて少なかろうし，消去法も厳しい。せめてウガリトはやめてほしかった。
５．慶應義塾大・法学部（５つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞３ ［設問４］ 下線部（エ）に関連して（編註：奴隷貿易），イギリスの奴隷貿易反対勢力は，18世紀後半に，黒人奴隷のうち自由の身となった者をアフリカに入植させた。その土地の現在の国名を語群から選び，その番号を (65)(66) にマークしなさい。
06 エリトリア 08 カーボベルデ 09 ガボン 13 コンゴ 15 シエラレオネ
17 セネガル 26 ベナン 27 マダガスカル 28 マリ
30 モーリタニア 31 モンロビア 34 リビア
（編註：関係のある選択肢のみ抜粋）
＜解答解説＞
ぱっと見だと「そんなん知らんわボケ」と吐き捨てて次の問題に行ってしまいそうだが，よく読むと「イギリスの奴隷貿易反対勢力が入植させているのだから，イギリス植民地となった可能性が高い」「黒人の元奴隷を入植させているのだから，リベリアの事例も踏まえると，西アフリカの可能性が高い」として消していくと，かなり良いところまで絞れるのではないかと思う（リベリアの事例からイギリス人もアメリカ人と同じことを考えるだろうという連想は危ういものがあるが）。壁になるのはカーボベルデ・ガボン・モーリタニアあたりだろうか。カーボベルデはポルトガルの，ガボンとモーリタニアはフランスの旧植民地なので誤答であり，これらを消すともうシエラレオネしか残らないはずで，このシエラレオネが正解。シエラレオネは近い経緯でアメリカからの解放奴隷が建国したリベリアの隣に位置するが，リベリアがアメリカから独立していたのに対し，シエラレオネはイギリスの植民地としての入植が図られた点で異なる。なお，モンロビアはリベリアの首都名であって選択肢で唯一国名ではない。シエラレオネの首都名はフリータウンである。
慶應大の法学部は５つ。この他に実際には受験生には酷だが範囲内と見なして収録から落としたものが７つあって計12問であった。昨年は９＋５で14問であるからトータルはさして変わらないものの，範囲外が９問から５問という変化から言って少し易しくなったか。
代わってお達しを無視した早稲田。収録なしは文化構想学部のみ。その文構も２問ほどグレーゾーンがあるので言及しておく。まずギリシア・ローマ神話の問題。オリンポス12神の内容で用語集に一応記載があり，そこまで深いことは聞いていないのでギリギリセーフとした。しかし，これは奇問に近い。もう１問が「四月テーゼ」発表時点での臨時政府の首相はリヴォフ（大公）かケレンスキーか。ケレンスキーの首相就任が７月なのでまだリヴォフであるが，普通は７月とは覚えないし（教科書・用語集に７月の記載はある），リヴォフはそもそも範囲外である。あとは本企画とはほぼ無関係だが，文構定番の西洋美術史問題でフリードリヒの《雲海の上の旅人》が出題されていた。『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』パッケージ版のパッケージイラストのリスペクト先と言えば伝わる人もいるだろう。
・参考：美術史の1ページに『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』を加えよう。「ウツシエ」に似た遊びが18世紀に存在した！？ ゲーム画面からあふれでるロマン主義の“崇高”（電ファミニコゲーマー）
６．早稲田大 法学部
＜種別＞出題ミス
＜問題＞１ 設問１ 下線部aに関連し（編註：こうした宗教・思想は，ときに皇帝の権力やその支配体制と密接に結びつき），中国における皇帝権力や支配体制と宗教・思想の関わりについて述べた以下の文のうち，明白な誤りを含むものはどれか。
� ／舛�ら前漢まで，国家を統治する理念として法家思想が重要であったが，後漢の光武帝の時代に董仲舒が提案して五経博士がおかれると，以後，儒教が国家の正統的教学と位置づけられていった。
�◆仝涕媾熟珊颪里劼箸弔任△詼役欧任蓮げ數未鯏�一した太武帝が，道教教団を組織した寇謙之を尊信し， 道教に帰依した。
�� 元のフビライは，チベット仏教サキャ派の高僧で，国師（帝師）として厚遇したパスパを用いて，チベット文字を基にした新しい文字を創案させた。
�ぁ）�州という呼称は，女真が信仰していた文殊菩薩（マンジュシリ）に由来するとされ，また清の歴代皇帝は，支配下においたモンゴルやチベットとの共通の信仰として，チベット仏教を保護した。
＜解答解説＞
��は問題なく正文。�，脇｜與阿粒萍�年代が前漢の武帝の頃であるので，後漢の光武帝の部分が誤り。作題者の想定する正解はこれだろう。審議の対象は�△如こ気誉気靴い海箸鮓世辰討い詈犬任呂△襪�，北魏は五胡十六国に数えないので冒頭の「五胡十六国のひとつである北魏」が誤りと判断されうる。また�い蓮せ笋論喫犬任いい隼廚Δ里世�，光緒新政の頃の清朝政府はチベットに対して近代化（政教分離）や中国化（漢化）を要求するようになっていて，必ずしも最後まで全員チベット仏教を保護していたわけではないから「歴代」が誤りと増田塾が指摘していた。ここでいう歴代皇帝は末期も末期である光緒新政の時期まで含めるような厳密な言い方ではなかろうから，この指摘は過剰に厳しいと思う。ともあれ，大学当局から謝罪と全員を正解とした旨の発表があった。
〔番外編〕早稲田大 法学部
＜種別＞悪問？
＜問題＞３ 設問４ 下線部�い亡慙△靴董癖埣陝Р疾�部が極端に長い上に問題とさして関係がないので省略），ヘンリ８世時代からピューリタン革命期について述べた次の１〜４の説明の中から適切なものを一つ選びなさい。
１ ヘンリ８世は，1534年に統一法を初めて制定し，これによりイギリス国王を首長とするイギリス国教会が成立した。
２ メアリ１世は，熱心な国教徒として，カトリックを弾圧した。
３ 1603年に，アイルランド出身のスチュアート家が王位を継ぎ，国王ジェームズ１世は王権神授説を主張した。
４ クロムウェルは議会から長老派を追放し，1649年に共和政をうちたて，重商主義的な通商政策を推進するために，1651年に航海法を制定した。
＜解答解説＞
１は統一法が国王至上法（首長法）の誤り，２はメアリ１世がカトリックなので誤り，３はアイルランドがスコットランドの誤り。消去法で考えても４が正文になるが，航海法はクロムウェル時代に制定されたものの，クロムウェル自身は航海法に反対だったために，クロムウェルが遠征で不在の間に議会が勝手に航海法を議決・制定してしまった。したがって，クロムウェルを主語にして「航海法を制定した」とするのは問題がある表現になる。
……というのは実は2016年の本企画，しかも当時も早大・法学部の問題で指摘している。以下に当時の解説文を引用する。
「ただし，これはかなり瑣末な指摘である。まず，一般的な高校世界史では「クロムウェルが発令」と習うから，そもそもこの文に違和感を覚えた受験生は皆無に近かったと思われる。次に，少なくともクロムウェルが政権を握っていた時代に発布されたのは事実であり，また彼の存命中に航海法が廃止になったということもない。よって，高校世界史のレベルでは「クロムウェルが発令」と「クロムウェル時代に発令」の差異に重要性が無い。」
しかしながら駿台が解答速報で指摘していたため，当時は番外編で収録したという経緯がある。今回も駿台が同じように指摘していたため，本企画も番外編として収録することにした。
７．早稲田大 文学部
＜種別＞悪問
＜問題＞３ 設問１ 下線部aに関して（編註：北イタリア都市の商人が中心になりユーラシア大陸の東との商業交易が活性化した），このような商業活動をとくに担った都市を一つ選びなさい。
イ フィレンツェ ロ ヴェネツィア ハ ピサ ニ ミラノ
＜解答解説＞
別に目くじら立てるほど悪い問題でもないが，どうしても気になったので収録とした。レヴァント貿易で活躍した北イタリアの港市国家といえばピサ・ジェノヴァ・ヴェネツィアの３つであるから，普通に考えれば本問は正解が２つあることになる。しかしながら，以下の２つの理屈によって正解はヴェネツィアに絞ることができ，かつ異論もほぼ出ないだろう。まず，ピサはイタリアを南北に二分するなら間違いなく北イタリアに入るが，中部を入れた三分割なら中部に入る位置なので厳密には北イタリアではないから。ピサの立地（トスカナ地方）は範囲内の知識と言っていいだろう。次に，「とくに担った」と問題文にあるので，どうせ答えるなら最大の都市を挙げるべきであって三番手のピサを挙げる積極的な理由がないから。
しかしながら，２つとも解答者が勝手に忖度して見出した理由にすぎず，逆に言えば「南北中部の三分割で考えろとは問題文に書かれていない」「『とくに担った』を『最大の』と読み替えるのは恣意的な解釈ではないか」という反論はありうると思うし，実際に私は解いていてこれらの反論が思い浮かんでしまって，ヴェネツィアを選ぶのはやや気持ち悪かった。ピサを選択肢から外してナポリやトリノにでもしておけばよかったことであり，あるいはピサとヴェネツィアを判別させたかったのならもっと明示的なヒントがあるべきだった。駿台から同様の指摘あり。
文学部の他の問題でグレーゾーンだったのは，現在ルーヴル美術館に展示されているハンムラビ法典の石碑が発掘された場所からスサを選ばせる問題と，三藩の乱鎮圧で活躍したイエズス会士としてフェルビーストを選ばせる問題。両方とも用語集に記載があるが，覚えていた生徒は少ないだろう。
８．早稲田大 人間科学部
＜種別＞出題ミス（複数正解）
＜問題＞２ 設問Y �� その遷都の地（編註：前８世紀前半，周が東方に遷都した）の説明として誤りを含むものはどれか。
（ア）その地は，北魏の孝文帝が都と定め，竜門の奉先寺洞に大仏を建立した。
（イ）その地は，五代十国時代に突厥出身の武将が建国した後唐の都が置かれた。
（ウ）その地は，大運河に近いことから唐代に国際貿易の中心地となった。
（エ）その地は，禅譲によって皇帝に即位した曹丕によって魏の都とされた。
（オ）その地は，新末の混乱を収拾した後漢の光武帝が都とした。
＜解答解説＞
「遷都の地」は東周の都であるから洛邑，つまり洛陽である。（イ）・（エ）・（オ）は洛陽の説明として正しい。（ウ）は開封の説明であるので誤文で，これが作問者の想定する正解だろう。しかし（ア）は竜門石窟の開削が北魏の孝文帝であるのは正しいのだが，竜門は北魏から唐にかけて長期間に渡って建設された石窟寺院であり，その中でも奉先寺洞は唐代の高宗と則天武后が建てたものである。よって（ア）は誤文になってしまう。奉先寺洞は範囲外の知識ではあるが，帝国書院の教科書の欄外には記載があり，これをよく読まないままに参照したものと思われる。文言がコピペではなかっただけに，もうちょっとちゃんと読んでいればという惜しさはある。大学当局から謝罪と全員正解とした旨の発表があった。全員正解とする処置はよくわからない，普通に（ア）と（ウ）の複数正解で処理すればよかったと思うのだが。
９．早稲田大 人間科学部（２つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞４ 設問Y �� ディエンビエンフーの位置は次の地図のa〜dのなかのどこか。
＜解答解説＞
ディエンビエンフーの位置を問うのはやりすぎだろう。せめて消去法で解けるような作りになっているべきだが，本問の場合は受験生的な判断をするとdがサイゴン，cがフエっぽい（実はフエではなくダナンだが）というところまで消せてもbがハノイではないので消せず，２択で止まってしまう。しかもbはおそらくハイフォンを意識して打たれた点だと思われるが，ハイフォンならもっと北東である。というわけで正解はa。ディエンビエンフーは内陸に位置した。攻略には役立たない豆知識だが，漢字で書くと「奠邊府」となるので，正確な意味はとれなくても辺境の府というのが伝わる字面である。実際にaの場所を見ればわかる通りラオスとの国境で，1841年に阮朝政府が建設したらしい。ところで，予備校の解答解説を見ると高い確率で「cはフエ，bはハノイだから消去法でaが選べる」と書いてあるのだが，bがハノイに見えるのは地図読み能力が欠落しているか，作問者への忖度力が高すぎると思う。ハノイはbよりもかなり北西に位置している。
１０．早稲田大 教育学部
＜種別＞難問
＜問題＞４ （８） 日本について，誤っている説明をすべて選べ。
a 日本に支持された開化派の大院君は1884年，反乱を起こした。
b 下関条約により，台湾，澎湖諸島は日本へ割譲された。
c 長崎清国水兵事件は日本の海軍力が清を圧倒していることを印象づけた。
d 宮古島島民が台湾先住民に殺害された事件を口実に台湾出兵は行われた。
＜解答解説＞
これは世界史ではなく日本史の問題だと思う。すぐにわかるのはaが誤文で，大院君ではなく金玉均ら。大院君は甲申政変に無関係である。bは正文。難しいのはここからで，cとdは要求される知識水準が高すぎる。先にdから。台湾出兵自体は基礎知識だが，通常は「琉球漁民が台湾先住民に殺害された」と習うので，この琉球漁民がどこの島の出身者かまではやらない。これはなぜか東京書籍の世界史教科書が細かく書いていて，宮古島と八重山諸島の住民であるからdは正文。
最後に残ったcだが，長崎清国水兵事件は高校日本史ですらほとんど扱わない。これもなぜか東京書籍の世界史教科書に記述があるのだが，これをもって範囲内とするのは無理がある。1886年，清朝の北洋艦隊の軍艦４隻が長崎に寄港していた際に起きた出来事。北洋艦隊は艦船の修理・補給を名目としていたが，実態としては甲申政変・天津条約後の威圧であったとされる。この時に入港した定遠等の４隻は北洋艦隊がドイツから輸入した最新鋭の軍艦であり，当時の日本海軍には無いものであった。さらに下船した水兵が集団で遊郭に入ろうとして断られ，これを理由に暴行を起こして，数日間続いて死者も出る大規模な騒乱に発展した。はっきり言ってしまうと北洋艦隊が一方的に悪いのだが，当時の日清の海軍力の差もあって清側が強硬な態度に出て，なぜか日清双方が賠償金を支払って決着となった。しかしながらこの北洋艦隊，このような事件を起こしているところからもわかる通り練度や士気が低く，約８年後の日清戦争では一方的な大敗を喫することになる。仏教説話かよというくらいの因果応報感がある。
閑話休題，cは「日本の海軍力が清を圧倒していることを印象づけた」とある部分が誤り。よって正解はa・cとなる。「すべて選べ」ではなくcも正文にしてaを選ばせる１択問題なら普通の問題だったのだが。なお，教育学部は本問以外も手強い問題が多く難化傾向であり，グレーゾーンとしては北魏の拓跋珪を道武帝の名前で出す，同じく北魏の三長制施行と洛陽遷都の時系列を問う等。共通テストっぽさのある問題の出題もあり，出題形式も大きく変わっているので明らかに作題者や作成方針が変わっている。この傾向が続くなら，早稲田大の世界史受験可能な７学部の難易度序列が変わりそう。
１１．早稲田大 商学部
＜種別＞難問
＜問題＞１ 問H 下線部Hに関連して（編註：ディオクレティアヌス帝），ディオクレティアヌス帝について最も適当なものを選べ。
１．皇帝自身をマルス神の体現者として神格化した。
２．テトラルキアのもと自らはローマを都とする帝国西方の正帝となった。
３．小麦などの最高価格を定めた勅令を発布した。
４．カピタティオ＝ユガティオ制を廃止した。
＜解答解説＞
常識的な受験世界史知識で判断がつくのは２だけ，彼は東方の正帝。１はひょっとしたら推測がつくかもしれない。マルスは軍神であるが，皇帝が自らをなぞらえて化身と見なすのは主神ユピテルだろう。この推測が正しく１は誤文なのだが，そもそもギリシア・ローマ神話の内容自体がグレーゾーンである。一応，ディオクレティアヌスがユピテルの化身を名乗ったということは唯一実教出版の教科書の欄外，ディオクレティアヌスが発行した硬貨の説明にちらっと書かれていたが，これをもって範囲内と見なすのは無理がある。４も一応「新たな税制度を実施した」という記述は一部の教科書に記述があるが，新制度の名前がカピタティオ＝ユガティオ制であると書いてあるものは１冊も無いし，当然用語集にも記述がない。カピタティオが人頭税の意味で，カピタはper capita等で見かけるように「頭」の意味ではあるが，言われなければ気づかないし，そもそも受験生はper capitaなんて言い回しを知らないだろう。ユガティオは地税の意味で，ユガは生産力に応じて割り当てられた税の単位だそうなので「石高」と言ってあまり間違ってなさそう。
というわけで４は「廃止」が「制定」の誤りである。最後に残った３が正文＝正解で，ディオクレティアヌスは1400品目に渡る物・サービスで最高価格令を発布したが，効果が疑問視されている。さすがに品目数が多すぎるように思われる。最高価格令は山川『新世界史』にのみ記載があるのでグレーゾーンだが，他の選択肢の難易度とよりによって『新世界史』であるということを考慮して収録対象とした。グレーゾーンも重ねすぎると黒くなると思う。この他，この大問１は古代ローマ史の細かいところを聞いた問題が多く，西ローマ帝国最初の皇帝ホノリウスや，ウァレリアヌス帝がシャープール１世に破れたエデッサの戦いを聞いたものもあった。商学部は去年も大問１が古代ローマ史で難問が多く，作問者が同じっぽい。以前は大問１が中国史でやたらと難しかったが，去年に突然分野が変わった。大問１は扱う時代・地域にかかわらず度を超えた難問にするという，引き継がないでほしかった伝統が商学部にあるのだろうか。
１２．早稲田大 商学部（２つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞４ 1776年に採択された独立宣言の起草に際しては，当初の案には奴隷制度やイギリスによる奴隷貿易を否定する内容が含まれたが，ニューイングランド植民地群の１つであるマサチューセッツ湾植民地（Massachusetts Bay Colony）の代表である〔 ５ 〕が主導した起草委員会および第二次大陸会議での議論を経たのち，最終的にそうした内容は削除された。
＜解答解説＞
独立宣言の起草委員会は５人いて，そのうち受験世界史範囲内で学習するのはジェファソンとフランクリンの２人だけである。ジェファソンはヴァージニア出身でその代表であるから違うとして外すとフランクリンしか残らないし，フランクリンはマサチューセッツ出身だから空欄５の正解はこれだろう……と推測してフランクリンと答えた受験生，もう正解扱いでいいのではないかと思う。実際には誤りで，フランクリンは出身と異なりペンシルヴェニア代表であった。マサチューセッツ代表は後の第２代大統領ジョン＝アダムズであるからこちらが正解。これは範囲内の解答が用意できるのにそうしなかった点，知識が豊富な受験生ほどフランクリンと誤答するようひっかけている点，やろうと思えば「後の第２代大統領」というヒントを出せたのにそれすらやらなかった点，の３点においてあまりにも性格が悪すぎる。ジョン＝アダムズは用語集に記載が無いが，早慶対策で覚えてきた受験生もそれなりに多かったであろうから，前述の３点に工夫があれば難問であるにせよ選抜性のある出題にはなりえた。選抜性という入試の本分をドブに捨てて何がやりたかったのか。作った人に聞いてみたい。
１３．早稲田大 商学部（３つめ）
＜種別＞誤植
＜問題＞1957年には，アーカンソー州で，それまで白人しか入学が許されていなかった州立高校に，９人の黒人学生が入学することに対し，州知事がそれを妨害したことから，当時，共和党選出の大統領であり，1950年に〔 11 〕軍の最高指令官にもなった軍人出身のアイゼンハワーが陸軍の空挺師団を派遣し，入学する黒人学生を護衛させるといった事件なども起こった。
（原文ママ）
＜解答解説＞
空欄11の正解はNATOで，これ自体が1950年という年号しかヒントがないそれなりの難問なのだが（それも1949年の翌年という意味合いしか持たない），そんなことよりも最高“指”令官は最高司令官の誤字である。最高指令官という地位はNATOに存在しないと考えれば出題ミスになる。気づきにくい誤字であるためか，予備校では代ゼミのみが指摘していた。
本問の最大の急所はこの誤字なので残りは別に指摘しなくてもよいのだが，一応気になったことがあるので書いておく。実は誤字でなくても厳密に言えばNATO軍最高司令官という地位は無い。なぜならNATO軍はかなり複雑な構成をとっている組織で，その全軍のトップに立つ地位は規定されていないからである。ただし，実態としてはNATO軍の中心的な軍隊である欧州連合軍の最高司令官を俗称として「NATO軍最高司令官」と呼ぶことはあるようで，AFPやロイター等の和訳記事は普通にNATO軍最高司令官という語を用いていた。しかし，英語圏で「NATO’s Supreme Commander」の用例を探すと数が激減するので（無いわけではない），この俗称は国際的に使われていると見なしがたく，誤訳に近いのではないかと思う。入試問題なのだから気を使ってほしかったとは思う。もう一つ余分な指摘をすると，アイゼンハワーは1950年12月にNATO欧州連合軍の創設を依頼されて初代の最高司令官に指名されたのであって，欧州連合軍の成立は翌1951年4月，したがってアイゼンハワーの最高司令官の就任も1951年4月である。ただし，NATOの公式HP（たとえばこのページ）を見ると1950年の時点で就任した扱いになっていたので，指名と就任の年号のズレはさして気にされていなさそうである。それにしても衆目一致の指名であって，しかもそれを短期間でやり遂げて大統領選立候補のためにアメリカに戻っていったアイゼンハワーの人望と組織力は恐ろしい。大学当局から謝罪と，しかし特別な措置はとらない旨の発表があった。これはまあ確かに全員正解にするほどのことはないかと思う。
１４．早稲田大 商学部（４つめ）
＜種別＞誤植
＜問題＞2000年代に入ってからは，2008年に〔 12 〕がアフリカ系アメリカ人初の大統領に就任し，黒人差別の歴史において大きな転換点を迎えたともいわれた。
（原文ママ）
＜解答解説＞
素直に解答を出すならオバマが正解になるが，オバマの大統領就任は2009年であって，2008年は大統領選挙に勝利した年である。誤植であろう。厳しく取るなら2008年にアメリカ大統領に就任した人物はいないので，出題ミスである。誤りが自明すぎてかえって見落とすためか，河合塾のみが指摘していた。１３番同様に大学当局から謝罪と，しかし特別な措置はとらない旨の発表があった。これもまあ，別の箇所の情報からオバマと絞れるので，そういう対応でも仕方ないか。
〔番外編〕早稲田大 商学部
＜問題＞2012年2月には10代のアフリカ系アメリカ人が自警団員に殺害され，同自警団員が翌年に無罪判決を受けたことに端を発する形で，ソーシャルメディアを通じて広がった，〔 13 〕とよばれる黒人差別反対運動が起こった。2020年には，ミネアポリスにおいて警察官による黒人殺害事件が起こったことを受けて，その運動はアメリカ各地で再燃し，同国のみならず世界的にも注目を集めた。
＜コメント＞
正解はBLM（Black Lives Matter，ブラックライヴズマター）。どこかで出題されそう，出題するならここは確率高そうと思われていたが，その予想通りに恥ずかしげもなく時事ネタを入れてきた早稲田大の商学部は悪びれないというかなんというか。当然範囲外なのだが時事ネタは常識的な範囲であれば収録対象から外しているので番外編とした。実際の正答率もかなり高いだろうと思う。というよりも正答率が高すぎて意味がなかったのではないか。せめて来年の入試まで待つ辛抱とかできなかったんですかね。
１５．早稲田大 社会科学部
＜種別＞難問・悪問
＜問題＞２ 問５ 下線部（E）について（編註：新旧両大陸の交流），以下の事件を年代順に正しく並べたものを１つ選べ。
� ．丱襯椒△離僖淵淬篭�横断
�◆．▲瓮螢粥瓮凜Д好廛奪舛梁茖渦鸞臉祥硫Ｃ�
�� コルテスのアステカ王国侵入
�ぁ．�ブラルのブラジル漂着
a． �◆臭ぁ臭�―��
b． �◆臭ぁ臭 臭�
c． �ぁ臭◆臭 臭�
d． �ぁ臭◆臭�―��
＜解答解説＞
近年の難関私大では「年代は用語集に必ず載っているからどれだけ細かくてもグレーゾーン」ということを利用した悪質な年代並べ替え問題をよく見るようになったが，これはさすがにあまりにも悪質なので摘発しておく。この中で早慶対策として覚えていてもよいかなと思えるのは�，離丱襯椒△砲茲訛席人里糧�見の1513年と，�い離�ブラルのブラジル漂着の1500年くらいである。��は「アステカ征服」の1521年なら基礎知識だが，侵入の1519年はマイナー年号。まあ覚えてなくても1521年の数年前だろうという推測で並べ替えに支障はないが。一番厳しいのは�△離▲瓮螢粥瓮凜Д好廛奪舛僚蕾鵑離▲瓮螢�大陸探検の年号で，用語集に「数度にわたり南アメリカを探検し，1501〜02年の調査でここをアジアではなく新大陸と確信」とあるが，用語集に年号のある1501〜02年は３回目（または２回目）の探検であって初回ではない。つまり，ここで用語集を一言一句覚えてきた受験生を振り落としている。そこで教科書を参照するとアメリゴ＝ヴェスプッチの航海経路を示した地図を掲載しているものが何冊かあるが，そこの年号を見ると「1499〜1500年」となっていて，これが２回目（または初回）の年号である。これが２回目ということは初回はそれよりさらに早いのだろうから1499年以前になるはずと推測すれば，並び替えは�◆臭ぁ臭 臭�，つまりbが正解になる。これが作問者の想定する正解だろう。
この時点で収録対象たりうる十分な難問だが，しかし本問はこれで終わらない。アメリゴ＝ヴェスプッチは自称４回航海したと主張していて，それぞれ1497〜98年，1499〜1500年，1501〜02年，1503〜14年である。このうち１回目と４回目は実在が疑われている。それゆえに用語集は「数度にわたり」と数をごまかしていて，教科書も２回目の航海経路を地図で示しているのだ。これを踏まえて本問を再考すると，２回目が実は初回だったとして，アメリゴ＝ヴェスプッチの２回目の航海期間を細かく示すと1499年５月〜1500年９月である。これに対し，カブラルのブラジル漂着は1500年４月であるので，期間が完全に重なってしまう。つまり，極めて厳密に考えるなら本問で求められているのはアメリゴ＝ヴェスプッチが確実な記録の上で初めて大西洋の横断に成功した月が，1500年４月より早いか遅いかという月単位の比較ということになり，受験世界史の範囲を完全に超えている。私もさすがに全く知らない。まあ多分，1499年５月に出発して11ヶ月もかかってまだ大西洋を横断できておらず，しかし５ヶ月で帰国できたとは考えづらいので，それでもアメリゴ＝ヴェスプッチの大西洋横断の方が先だったと思われる。
おそらく本問を作った人は，１回目と４回目の実在が疑われているのを知らずに安直に作問したか，出発年の1499年で解答を出してほしいと考えたかのいずれかであろう。前者だとすると受験世界史の範囲に２回目と３回目の年号しか示されていない理由を考えてほしかったし，後者だとすると�△諒犬髻崑茖渦鸞臉祥硫Ｃ任暴佝�」という文言にしなければ厳密さが足りない。難易度はともかく，どう言い繕っても雑な出題には違いないので反省してほしい。駿台・代ゼミからも同様の指摘あり。
１６．早稲田大 社会科学部（２つめ）
＜種別＞悪問
＜問題＞２ 問７ 下線部(G)について（編註：ハプスブルク家），ハプスブルク家の輩出した次の皇帝と，その血縁関係，関連する事項の組み合わせのうち，最も適切なものを１つ選べ。
a．カール５世――イサベル女王の孫――トルデシリャス条約締結
b．フェリペ２世――フェリペ３世の父――メキシコ征服
c．フランツ１世――マリア＝テレジアの夫――七年戦争
d．ヨーゼフ２世――ヨーゼフ１世の息子――第１回ポーランド分割
＜解答解説＞
aはトルデシリャス条約がカール５世の事績ではないので誤り，bはメキシコ征服がアステカ帝国の滅亡と同義語と考えると，カール５世の時代の出来事なので誤り。dはヨーゼフ２世がフランツ１世の息子なので誤り（ちなみにヨーゼフ１世はスペイン継承戦争中の神聖ローマ皇帝で，カール６世の兄，したがってマリア＝テレジアの伯父）。消去法でcのフランツ１世が残り，血縁関係も関連する事項も誤りがないからこれが正解……と言いたいところだが，フランツ１世はハプスブルク家の血を引いていないからそもそも「ハプスブルク家の輩出した皇帝」ではないという大問題がある。彼が皇帝に即位したのは妻がハプスブルク家の当主マリア＝テレジアであり，かつ彼女の父のカール６世に指名されたからであって，帝位を世襲したわけではない。したがって厳密に考えた場合はカール６世をもってハプスブルク家宗家の男系は断絶し，同時にハプスブルク家による帝位の世襲は途切れていることになり，以後の皇統をハプスブルク＝ロートリンゲン家と呼び表す。受験世界史では煩雑であるからハプスブルク家とハプスブルク＝ロートリンゲン家を呼び分けることをしていないが，フランツ１世が世襲ではないがゆえにオーストリア継承戦争が勃発することは必ず学習する事項であるので，気づいてしまって首をひねりつつ，とはいえcしか答えがないのでしぶしぶマークした受験生は多そう。
私自身も出題ミスとまでは踏み込んで糾弾するつもりがないが，できればフランツ１世を正解にしない出題にしてほしかった。本問は１５番を作ったのと同じ人だと思われるが，なるほど納得がいく雑さである。大航海時代，近世ヨーロッパ史・東欧史のいずれの専門でもなさそう。代ゼミからも同様の指摘あり。また，駿台からは「問題の条件から言えばオーストリア皇帝フランツ１世（神聖ローマ皇帝フランツ２世）も該当するので，そちらのフランツ１世と考えればcは完全に誤りとなる」というより厳しい指摘が入っていた。本企画はなるべく正解が出るように性善説（誤用）的に読んであげるという規則を運用しているが，この規則に則らないなら駿台の指摘も正しく，本来ならその区別もつくように選択肢を記述すべきだろう。
１７．早稲田大 社会科学部（３つめ）
＜種別＞悪問
＜問題＞３ 問２ 下線部（B）について（編註：イスタンブル），イスタンブルに関する次の記述のうち，最も適切なものを１つ選べ。
a．ギリシア人植民市として栄えたビザンティウムが旧名である。
b．15世紀半ば，オスマン帝国のセリム１世がこの地を攻略し，「征服王」と呼ばれた。
c．16世紀半ば，コーヒー飲用の習慣がウィーンからもたらされ，この地にコーヒーハウスが開かれた。
d．20世紀に誕生したトルコ共和国の首都である。
＜解答解説＞
bはセリム１世がメフメト２世の誤り，cはコーヒーの伝播経路が逆，dはトルコ共和国の首都がアンカラ。消去法でやってもaが正文＝正解と絞れるが，一応指摘しておくとギリシア人植民市としての旧名はビザンティオン（ビュザンティオン）である。ビザンティウムはローマの支配下に入ってからのラテン語名。仮にaが一般書籍で出てきた文言ならこんなに細かいことは言わない，この著者は煩雑だから読者のために古代ギリシア語名とラテン語名を使い分けなかったのだなと判断する。しかし，これは正誤判定問題であるから「ビザンティオンをビザンティウムに差し替えた誤文かもしれない」と判定の留保をつけることになるわけで，受験生から正文として扱ってほしいなら「ギリシア人植民市として栄えた」という枕詞からのビザンティウムは不適切である。実際に私は初見時にaを誤文と判断して，下に進んでb・c・dと切っていって答えが無くなって困惑した。ビザンティオンを覚えてきていない受験生への配慮だとしてもビザンティオン（ビザンティウム）と併記すれば済むことであるから，それは言い訳にならない。
こう書くと「受験世界史でビザンティオンはマイナーでほとんど触れなくないか。範囲外の情報で難癖つけるのは反則では」という反論が返ってきそうなので，先回りして書いておこう。用語集のビザンティウムの項目には「ギリシア人植民市ビザンティオンのラテン語表記」とあり，また教科書や資料集のギリシア人植民市の分布を示した地図でもほとんどの場合ビザンティオンが優先して書かれている。ここまで散々「用語集か教科書の欄外のどこかに載っていればグレーゾーンでセーフ」のルールを恣意的に適用してきた早稲田大が「そんな重箱の隅にしか書かれてない情報を根拠とした出題ミスなんて認めるわけいきません」という反論はできないと思うのだが，どうか。
しいて擁護するなら，あまりに通りが良いので英語読みのまま定着してしまったコンスタンティノープルがある時点で当該都市の名前の細かな変化に拘泥する意味はなかろうとか，ビザンティオンとビザンティウムは支配者の言語の違いによる差異であって厳密には改名ではないとかか。その辺があるので，私も出題ミスとまでは踏み込まなかった。
国公立編に続く。
Posted by dg_law at 19:23│Comments(27)
この記事へのコメント
慶応法はセウタの位置（モロッコ）を問う問題が収録対象かと思ってました。
Posted by 通りすがり at 2021年03月19日 21:53
更新お疲れ様です。
毎年更新楽しみにしております。
世界史とは外れた些末な指摘とはなりますが、per capitaはシス単などの主要な単語帳に掲載されており(全ての単語帳を見た訳ではないですが)、英語の論説文でも割と見かける表記なので早慶を受けるような層は知っているかと思います。
毎年更新楽しみにしております。
世界史とは外れた些末な指摘とはなりますが、per capitaはシス単などの主要な単語帳に掲載されており(全ての単語帳を見た訳ではないですが)、英語の論説文でも割と見かける表記なので早慶を受けるような層は知っているかと思います。
Posted by 名無し at 2021年03月19日 22:23
＞c 長崎清国水兵事件は日本の海軍力が清を圧倒していることを印象づけた。
＞d 宮古島島民が台湾先住民に殺害された事件を口実に台湾出兵は行われた。
日本史の立場よりより記します。
まず、Dについては手持ちの山川教科書、日本史研究、ハイレベル参考書に記載ありません。おしなべて琉球漁民が台湾先住民に殺害されたとの記載しかありません。ただし大学への日本史（研文書院）だけ他の記述と少し違う（内地民が殺害された記載も、あるように読み取れる。当該箇所の修飾が変な感じ。）。菅野氏と塚原氏の著作は未所持なので記載あるとすればここなのかなあ。
次にCについては、清国水兵暴行事件として用語集（２０００年版）に記載あり。当時の頻度は１（B教科書のみ）、もしかして三省堂か？しかし大学入試共通テストの範疇を軽く超越するので一般的なレベルの入試でこんなの出題されたら阿鼻叫喚ですね。出題されるとしても難関私大（京大系含む）か。
ちなみに変わったところで手持ちの明成社にもなぜか記載あるのでおそらく現代刊行されている日本史用語集にも記載はあると思います。しかしながら例によって日本史研究やハイレベル参考書にないので、どこまでの受験生がカバーできているか・・・末恐ろしいですな。
＞d 宮古島島民が台湾先住民に殺害された事件を口実に台湾出兵は行われた。
日本史の立場よりより記します。
まず、Dについては手持ちの山川教科書、日本史研究、ハイレベル参考書に記載ありません。おしなべて琉球漁民が台湾先住民に殺害されたとの記載しかありません。ただし大学への日本史（研文書院）だけ他の記述と少し違う（内地民が殺害された記載も、あるように読み取れる。当該箇所の修飾が変な感じ。）。菅野氏と塚原氏の著作は未所持なので記載あるとすればここなのかなあ。
次にCについては、清国水兵暴行事件として用語集（２０００年版）に記載あり。当時の頻度は１（B教科書のみ）、もしかして三省堂か？しかし大学入試共通テストの範疇を軽く超越するので一般的なレベルの入試でこんなの出題されたら阿鼻叫喚ですね。出題されるとしても難関私大（京大系含む）か。
ちなみに変わったところで手持ちの明成社にもなぜか記載あるのでおそらく現代刊行されている日本史用語集にも記載はあると思います。しかしながら例によって日本史研究やハイレベル参考書にないので、どこまでの受験生がカバーできているか・・・末恐ろしいですな。
Posted by おおおんづけ at 2021年03月20日 13:41
＞通りすがりさん
セウタは用語集頻度が３もあって，意外と高いんですよね。
その割にはマイナーで受験勉強上さして覚えさせられないところではあり，現実的な正答率は低かったと思われます。
本企画の根幹にかかわる部分なので説明すると，私は
「受験生に覚えさせても，歴史理解にあまり役立ちそうにないかどうか」と
「現実的に受験生が覚えてきている用語や理解であるかどうか」と
「入試問題として公正な難易度であるかどうか」
は全て似て非なるものと考えています。その上で，物理的・経済的・教科の学習バランス等の理由から受験生に全ての教科書を読み込ませるのは非現実的かつ公正ではないという理由から，概ね全受験生が所持しているであろう山川の用語集を基準にしています。したがって，セウタは頻度が３ある時点で本企画の趣旨としてはセーフになります。
＞名無しさん
そういう情報はありがたいです。以前にも過去問の英語の長文でちょうど出てきたトピックなので，過去問をちゃんとやっていれば解けるという範囲外の用語がありましたね。確か慶應の商学部だったかな。
まあ，今回の場合は結局カピタティオ＝ユガティオ制が何なのかわからないので意味がないですが。
＞おおおんづけさん
いつもコメントありがとうございます。
受験日本史に詳しい知人も「どちらも範囲外の知識で，早慶で満点取ろうと思わなければ覚えない」と言っていましたね。
やはり日本史の古い参考書まで検討の範囲を広げてもマイナー知識扱いには変わりないのですね。
セウタは用語集頻度が３もあって，意外と高いんですよね。
その割にはマイナーで受験勉強上さして覚えさせられないところではあり，現実的な正答率は低かったと思われます。
本企画の根幹にかかわる部分なので説明すると，私は
「受験生に覚えさせても，歴史理解にあまり役立ちそうにないかどうか」と
「現実的に受験生が覚えてきている用語や理解であるかどうか」と
「入試問題として公正な難易度であるかどうか」
は全て似て非なるものと考えています。その上で，物理的・経済的・教科の学習バランス等の理由から受験生に全ての教科書を読み込ませるのは非現実的かつ公正ではないという理由から，概ね全受験生が所持しているであろう山川の用語集を基準にしています。したがって，セウタは頻度が３ある時点で本企画の趣旨としてはセーフになります。
＞名無しさん
そういう情報はありがたいです。以前にも過去問の英語の長文でちょうど出てきたトピックなので，過去問をちゃんとやっていれば解けるという範囲外の用語がありましたね。確か慶應の商学部だったかな。
まあ，今回の場合は結局カピタティオ＝ユガティオ制が何なのかわからないので意味がないですが。
＞おおおんづけさん
いつもコメントありがとうございます。
受験日本史に詳しい知人も「どちらも範囲外の知識で，早慶で満点取ろうと思わなければ覚えない」と言っていましたね。
やはり日本史の古い参考書まで検討の範囲を広げてもマイナー知識扱いには変わりないのですね。
Posted by DG-Law at 2021年03月20日 18:17
そういえば、数学という観点から言及すると
「今年の受験生は高校が休校で学習が進んでいないから，入試問題は手加減しろよ」というお達し
は割とどの大学も守っていたような印象があります。
昨年と比べて著しく難化した大学もそうそうないですし、一般的な高校なら高3で習うであろう数学�靴粒箙腓眥祺爾靴討い燭茲Δ忙廚錣譴泙后�
「今年の受験生は高校が休校で学習が進んでいないから，入試問題は手加減しろよ」というお達し
は割とどの大学も守っていたような印象があります。
昨年と比べて著しく難化した大学もそうそうないですし、一般的な高校なら高3で習うであろう数学�靴粒箙腓眥祺爾靴討い燭茲Δ忙廚錣譴泙后�
Posted by 数学好き at 2021年03月20日 22:33
難易度の問題は手加減してともとれますが、そもそも社会科目の場合はコラム的に書かれてない教科書本文からならセーフという理屈で作ったのかなとあとは現代史を軽くして、そこまでの内容は復習してるでしょと深掘りして批判を回避した面もあるかなと思いますね。
Posted by かっつん at 2021年03月20日 23:16
＞数学好きさん
そうなんですね。けっこう地歴公民と数学から１つという選択科目を設定している入試が私立・国公立問わずありますし，私立は平均点調整をこまめにするところが多いですが国公立はしないのが一般的ですので，国立を地歴公民で受験すると不利になった可能性はありますね。
この辺は学内で調整しておいてほしかったところ。
＞かっつんさん
いつもありがとうございます。
現代史・文化史の配分が減るのではないかという予測はあったのですが，実際には現代史がほとんど減ってなかったという感触です。本企画を見ても現代史からの収録は平常通りですね。特に早稲田。難度を下げていた名古屋大でさえも平然と現代史の大論述が出ていて，配慮のあり方もまちまちだなぁと思いました。
そうなんですね。けっこう地歴公民と数学から１つという選択科目を設定している入試が私立・国公立問わずありますし，私立は平均点調整をこまめにするところが多いですが国公立はしないのが一般的ですので，国立を地歴公民で受験すると不利になった可能性はありますね。
この辺は学内で調整しておいてほしかったところ。
＞かっつんさん
いつもありがとうございます。
現代史・文化史の配分が減るのではないかという予測はあったのですが，実際には現代史がほとんど減ってなかったという感触です。本企画を見ても現代史からの収録は平常通りですね。特に早稲田。難度を下げていた名古屋大でさえも平然と現代史の大論述が出ていて，配慮のあり方もまちまちだなぁと思いました。
Posted by DG-Law at 2021年03月21日 14:06
6の�，蓮峺�武帝」が明白な誤りなのは当然として、「董仲舒が提案して五経博士がおかれると」も何十年か前から疑義を呈されている部分ですね。この辺りの話は福井重雅『漢代儒教の史的研究 : 儒教の官学化をめぐる定説の再検討』が詳しいです。それを受けて教科書の記述もこの数十年で変わっていたはずです。
あと重箱の隅も隅ですが、8の（ウ）の「大連河」は「大運河」ですよね。
あと重箱の隅も隅ですが、8の（ウ）の「大連河」は「大運河」ですよね。
Posted by りたー at 2021年03月22日 20:59
更新お疲れ様です
現役時代センター世界史5割しか取れなかった当方でも
分かりやすい解説を毎年楽しみにしています
対象の問題数が減るのはいい事ではあるのですが
一抹の寂しさはありますね
慶應法は相変わらずですね
去年は難問オンリーだったのに今年はミスまで出して
国公立は一橋の暴走と阪大の南蛮屏風並のが酷いですな
これで選抜がうまく出来るんだろうか
# 先日のアンケート記事に「名古屋大は収録なし」とあったのは
失笑を禁じ得ませんでした←
現役時代センター世界史5割しか取れなかった当方でも
分かりやすい解説を毎年楽しみにしています
対象の問題数が減るのはいい事ではあるのですが
一抹の寂しさはありますね
慶應法は相変わらずですね
去年は難問オンリーだったのに今年はミスまで出して
国公立は一橋の暴走と阪大の南蛮屏風並のが酷いですな
これで選抜がうまく出来るんだろうか
# 先日のアンケート記事に「名古屋大は収録なし」とあったのは
失笑を禁じ得ませんでした←
Posted by 11pm at 2021年03月22日 23:34
＞りたーさん
董仲舒献策の五経博士設置による官学化が疑わしいというのは知ってはいるのですが，私の方の勉強が追いついておらず，今のところあまり入試問題では追いかけていません。そういえば教科書表現がどうなっているのかは気にしたことがなかったですが，言われてみると調べてみる価値がありそうなので，「高校世界史深掘りシリーズ」にするかどうか検討してみます。
誤字の指摘ありがとうございます。OCRをかけて気づかなかったやつですね。直しました。
＞11pmさん
慶應法はしばしば出題ミスがありますね。範囲外の難問を出題することが身の丈に合っていないと思われますので，やめればいいのにと毎年思います。
一橋大は世界史・日本史・地理・倫政・ビジネス基礎からの選択なので（倫政とビジ基礎は2021年で最後ですが），地理もけっこうヤバいらしいですが，日本史・倫政が有利になりすぎるんじゃないかなという危惧はありますね。
名古屋大はこのまま収録されない大学になっていってほしい……千葉大はそうなったので。
董仲舒献策の五経博士設置による官学化が疑わしいというのは知ってはいるのですが，私の方の勉強が追いついておらず，今のところあまり入試問題では追いかけていません。そういえば教科書表現がどうなっているのかは気にしたことがなかったですが，言われてみると調べてみる価値がありそうなので，「高校世界史深掘りシリーズ」にするかどうか検討してみます。
誤字の指摘ありがとうございます。OCRをかけて気づかなかったやつですね。直しました。
＞11pmさん
慶應法はしばしば出題ミスがありますね。範囲外の難問を出題することが身の丈に合っていないと思われますので，やめればいいのにと毎年思います。
一橋大は世界史・日本史・地理・倫政・ビジネス基礎からの選択なので（倫政とビジ基礎は2021年で最後ですが），地理もけっこうヤバいらしいですが，日本史・倫政が有利になりすぎるんじゃないかなという危惧はありますね。
名古屋大はこのまま収録されない大学になっていってほしい……千葉大はそうなったので。
Posted by DG-Law at 2021年03月23日 11:09
今年慶應法に合格した者です。このブログには大変お世話になりました。ありがとうございました！
今年は正誤問題が増えたので、世界史は語句選択で稼いで、英語で逃げ切るタイプの私には大幅難化でした。慶應名物の大量語群の選択問題ですが、無くなる日もそう遠くはなさそうです。
今年は正誤問題が増えたので、世界史は語句選択で稼いで、英語で逃げ切るタイプの私には大幅難化でした。慶應名物の大量語群の選択問題ですが、無くなる日もそう遠くはなさそうです。
Posted by 異邦人 at 2021年03月23日 18:02
おめでとうございます。
法学部の問題形式はゆらぎがありますね。正誤問題・空欄補充問題のバランスが毎年変わります。確かに近年は正誤問題が多い年の方が頻度が高い印象です。
大量語群が減ると慶應法の独自性が薄くなりますね。
法学部の問題形式はゆらぎがありますね。正誤問題・空欄補充問題のバランスが毎年変わります。確かに近年は正誤問題が多い年の方が頻度が高い印象です。
大量語群が減ると慶應法の独自性が薄くなりますね。
Posted by DG-Law at 2021年03月24日 00:37
ディエンビエンフー、聞き覚えがあります。
西島大介さんのマンガです！。まさかそれで出題できるとおもったのでしょうか？
西島大介さんのマンガです！。まさかそれで出題できるとおもったのでしょうか？
Posted by ko1 at 2021年03月25日 00:51
ディエンビエンフーという地名自体は，受験世界史では特に難しい用語ではないです。早稲田大を受ける人なら知っているでしょう。
あの問題がまずいのは，場所までは覚えないのに場所を聞いているというところですね。
漫画は無関係でしょう。
あの問題がまずいのは，場所までは覚えないのに場所を聞いているというところですね。
漫画は無関係でしょう。
Posted by DG-Law at 2021年03月25日 16:17
シエラレオネは興亡の世界史に記載あるから即答できましたけど流石にこれは…
大学は受験生に興亡の世界史くらい全部読んどけと言いたいんですかね
大学は受験生に興亡の世界史くらい全部読んどけと言いたいんですかね
Posted by iyo at 2021年03月26日 00:06
『興亡の世界史』必読説は稀に出現しますね。メルヴィルの『白鯨』等も含めて教科書以外の一般書・古典も目を通しておいてほしいというメッセージは実際にありそうです。
もちろん受験生にとっては『興亡の世界史』どころか複数の教科書を通読することすら現実的ではないわけですが。
もちろん受験生にとっては『興亡の世界史』どころか複数の教科書を通読することすら現実的ではないわけですが。
Posted by DG-Law at 2021年03月26日 17:53
＞複数の教科書を通読
そもそも（自校採択外の）教科書の買い方が一般に（あまり）知られていないので・・・。
受験生が、教科書は山川だけしかないと「思い込みがち」なのもこれに起因していると私は思います。
※かくいう私も受験生の立場をだいぶんあとにしてから教科書の買い方を知ったものです。
そもそも（自校採択外の）教科書の買い方が一般に（あまり）知られていないので・・・。
受験生が、教科書は山川だけしかないと「思い込みがち」なのもこれに起因していると私は思います。
※かくいう私も受験生の立場をだいぶんあとにしてから教科書の買い方を知ったものです。
Posted by おおおんづけ at 2021年03月26日 21:47
そうなんですよね。山川の教科書は割と普通の本屋に置いてたりしますが，それ以外はまず置いてないし，発注も効かないんですよね。
私が高校生だった時は高校の先生に代理通販してもらって複数冊そろえましたが，あの経験を振り返っても普通の受験生は購入難度が高いと思います。
山川の用語集頻度の説明を読んで存在には気づくのですが，幻の存在のまま受験が終わっちゃうんですよね……
私が高校生だった時は高校の先生に代理通販してもらって複数冊そろえましたが，あの経験を振り返っても普通の受験生は購入難度が高いと思います。
山川の用語集頻度の説明を読んで存在には気づくのですが，幻の存在のまま受験が終わっちゃうんですよね……
Posted by DG-Law at 2021年03月26日 22:08
早稲田商学部の「李贅と邂逅したことのあるイエズス会士は次のうちどれか」という問題もなかなかの鬼畜問題だったと思うのですがどうでしょうか？
Posted by あ at 2021年07月12日 01:18
あれもけっこうな難問だったと思いますが，実はまじめに年号を思い出さなくても，ヴァリニャーノは日本に来た宣教師で問題外（中学の日本史で出てくるはず），残り３人のうちマテオ＝リッチだけ年代が明らかに古くてずれている（彼だけ清朝に仕えたことがない）ということに気づけば，解答は出せますね。
Posted by DG-Law at 2021年07月14日 20:47
随分昔の記事へのコメントで恐縮です。
最近3を読んでハマった三国志好きですが、ディエンビエンフーは「劣勢な軍が最後に立て篭るなら山か森の中だよな」という実に三国志的(w)な想像からaでいけました。
これで適当な山の中にもう一つ点が打ってあったら鬼畜でしたね・・・
最近3を読んでハマった三国志好きですが、ディエンビエンフーは「劣勢な軍が最後に立て篭るなら山か森の中だよな」という実に三国志的(w)な想像からaでいけました。
これで適当な山の中にもう一つ点が打ってあったら鬼畜でしたね・・・
Posted by 趙希秋 at 2021年10月07日 00:20
ありがとうございます。良い推測ですね。前近代でも近現代でも立て籠もるなら遮蔽物の多い場所ですね。ベトナムの内陸は狭いので，他に点を打てそうになかったので，ああいう点の配置になったのかもしれません。
三国志と違うところは，２０世紀半ばなだけに映像が残っているところで，この間に再放映されていた「映像の世紀」で戦闘の様子を見ることができます。ここに立て籠もっても，状況が不利すぎてまあ勝てないよなという感想を抱くことができるので，ご興味があれば。
三国志と違うところは，２０世紀半ばなだけに映像が残っているところで，この間に再放映されていた「映像の世紀」で戦闘の様子を見ることができます。ここに立て籠もっても，状況が不利すぎてまあ勝てないよなという感想を抱くことができるので，ご興味があれば。
Posted by DG-Law at 2021年10月09日 23:48
3月の記事にたいしての質問で申し訳ないのですが
慶応法学部名物 新世界史 というのは
新世界史 改訂版 世Ｂ313 の検索ででてくる
茶色っぽい表紙のものでしょうか？
慶応法学部名物 新世界史 というのは
新世界史 改訂版 世Ｂ313 の検索ででてくる
茶色っぽい表紙のものでしょうか？
Posted by 名無し at 2021年12月27日 19:19
過去記事へのコメントは問題ないですよ。
そして質問の回答としては，それで正しいです。
一応，URLを貼っておきます。
https://www.yamakawa.co.jp/product/70038
そして質問の回答としては，それで正しいです。
一応，URLを貼っておきます。
https://www.yamakawa.co.jp/product/70038
Posted by DG-Law at 2021年12月28日 23:30
ありがとうございます！
Posted by 名無し at 2021年12月30日 16:51
今年の共通テスト世界史Bの問3で珍しく出題ミス(？)がありました
ブログ主さんの観点からみて、どのように解釈するのか気になります
ブログ主さんの観点からみて、どのように解釈するのか気になります
Posted by at 2022年01月29日 02:11
第４問の問３が話題になっているやつですね。
あれは出題ミスではないというのが私の見解です。
したがって扱う気はありません。
あれは出題ミスではないというのが私の見解です。
したがって扱う気はありません。
Posted by DG-Law at 2022年01月29日 04:28
