2021年03月20日
2021受験世界史悪問・難問・奇問集 その２（共通テスト・国公立大編）
昨日の続き。今年は共通テストと阪大・一橋大の計３問のせいで公開が１週間遅れ，おまけを作る気力が消滅したと言っても過言ではない。何なら一橋大の方はまだ原稿が完成しておらず，後に追記するか別記事を立てる可能性がある。解説が非常に長くなったので，心して読んでほしい。
１．共通テスト第２日程
＜種別＞分類不能（しいて言えば作図の指示ミス）
＜問題＞１ B オーストリアの貴族クーデンホーフ＝カレルギーは，1923年に『パン＝ヨーロッパ論』を著し，ヨーロッパ統合運動を展開した。彼は世界が五つのブロックに分かれて統合されていくと考え，ヨーロッパも「パン＝ヨーロッパ」として統合されるべきだと主張した。その際，欧米諸国の持つ世界中の植民地も，それぞれのブロックに統合されると考えた。次の図１・図２は，『パン＝ヨーロッパ論』所収の地図を加工したものであり，縦線や横線，斜線，点などで地域がブロック別に示されている。このうち黒く塗りつぶした部分が「パン＝ヨーロッパ」としてまとまるべき領域を指している。
問３ 上の図１中のある国が「パン＝ヨーロッパ」に含まれていない理由を述べた文として最も適当なものを，次の� 銑い里Δ舛�ら一つ選べ。 〔 ３ 〕
� ．灰潺鵐謄襯鵑魴訐�し，他のヨーロッパ諸国と対立していたため。
�◆ヽ很燭砲茲辰董ぅぅ好蕁璽爐鮃餡箸慮桐�とする共和国になったため。
�� ソ連との間にラパロ条約を結んでいたため。
�ぁ々餾歸�に永世中立国として承認されていたため。
＜解答解説＞
至極単純に正解を出すなら，図１で「パン＝ヨーロッパ」に含まれていない地域はソ連・イギリス・イラン・トルコのいずれかである。選択肢��・�い呂海里い困譴砲盂催�せず，イランは�△�当てはまるが1923年という時期を考えると不適，よってソ連の�，�正解になる。
しかし，図１をよく見るとサンクト＝ペテルブルク（というかイングリアのほぼ全域）が「パン＝ヨーロッパ」に含まれている。もちろんソ連全体からするとイングリアなんて僅かな面積を占めるにすぎないが，少し前までの首都があった地域であるから重要性は高い。たとえばイスタンブルがトルコ領になっていなければ作図ミスを疑うだろう。それと同様にイングリアが含まれていないのは作図ミスかもしれないと疑うのは自然な流れだ。とすると原本の『パン＝ヨーロッパ論』の挿絵がどうなっているのかが気になってくる。私もそう思って調べてみたのだが，なかなか確実な原本掲載の地図は見当たらない。逆に図１のバリエーションは多数見つかる。たとえば，こんなの。
図３（暫定）
……ソ連領がちゃんとソ連領なんだが？ あと細かな差異でいうとイランとトルコがタイと同じ扱いになって「？」がついている。これはどの統合体に属すのか未確定という意味らしい。イランについてはさらに別のバリエーションで共通テストと同じように格子状に塗られているものが見つかったが，トルコについてはいかなるバリエーションでも「？」がついていた。これは共通テストの作成者による付け忘れと思われる。なお，イランについてはクーデンホーフ＝カレルギーも本当に扱いに悩んでいたらしく，こんなバージョンもある。
図４（暫定）
この地図だとイランは完全にロシア領になっている。あとは外モンゴルが東アジア統合体かロシア領かという差異も見られる。
図５（暫定）
これはイングリアがパン＝ヨーロッパ領に見える地図である。イランも格子状なので，まず間違いなくこれが図１の出典元になる地図だろう。イングリア以外を見てもアフガニスタンは「？」だったりロシア領だったりイランと同じ塗り方だったりで，各地図で異なる。ところで，南樺太がいずれの地図でもロシア領になっているのはなぜなのか。彼が日本嫌いということも無かろうが，日本の版図なんて実は全く興味が無くて間違えてしまったのかもしれない。あれ，ということはイングリアも塗り間違いの可能性ある？
ということで人の協力も得てかなりいろいろ調査したものの，迷宮入りしかけたのであきらめて，さる専門家の方に連絡をとって質問をしてみることにした。以下はそのやりとりをQ&Aにまとめ直したもの。また，元のやりとりは「ですます」調だったが，ここでは「である」調に直している。
Q．イングリアをパン＝ヨーロッパに含める思想はクーデンホーフ＝カレルギーにあったか？
A．イングリアはソ連に入る。この地図はクーデンホーフの構想を正確に示したものになっていない。
Q．ということは，イングリアは大学入試センターの作図ミス（トレースミス）だろうか？
A．トレースミスというよりも，元の図が粗いのでイングリアがパン＝ヨーロッパ領に見えてしまうのは仕方がなく，とりわけ作図した人に罪はなかろうと思う。完全に冗談として言えば，責任をとるべきはクーデンホーフ自身では（笑）
という大変に貴重な回答を得られた。応じていただいた専門家の方には強い感謝を申し上げたい。ということでこの地図はクーデンホーフの構想から照らすと作図ミスである。ただし，DTP業者のトレースミスと言ってしまうと語弊がある，ということだ。しいて言えばDTP業者のトレースがクーデンホーフの構想とはずれていることに気づかなかった作問者が悪いだろうが，それでも責任をかぶらせるのはかわいそうな気がする。
とすると本問のもう１つの論点は，この図から受験生に横線部分がソ連だと推測させるのは是か非かということである。厳しく言えば，イングリアが含まれていない以上は横線部分をソ連と認定することが難しく，この地図でソ連またはロシア国家は存在しないと見なされるか，ソ連の一部は「パン＝ヨーロッパ」に含まれているので，問３のいうところの「含まれていないある国」とは見なせないと考えうる。とすると�，乏催�する国は無いので解答が消滅し，出題ミスである。一方で，これらの図１・２はある思想家が構想した世界地図なのだから，現実の国境線を反映したものとは限らないので，細かい差分は気にするだけ負けと考えることもできる。この前提に立てば，イングリアがなかろうとも面積的には90%以上が横線で塗られているのだから，横線部分をソ連と見なすのは自然な発想であるという主張も割と説得力があると思う。現実的に受験生がこのイングリアのせいで横線部分をソ連と推測しづらくなって正答率に影響が出たということは考えづらい。後者の発想から言えば，問３は出題ミスとはならず，図１の作図ミスは解答に直接かかわらない部分の文章の誤植と同じような立ち位置になる。
私個人の考えとしては前者寄りで，やっぱりこの地図でこの出題は不適切であったと思う。これは程度問題ではあり，たとえば同じような設定の架空の世界を描いた東アジアの地図が出題されたとして，その地図で対馬が日本の領土の凡例で塗られていなかったとする。これなら多くの人は「作図ミスか，そういう思想の人の設計した地図なのかな，残念だけど」と思いつつも，特に騒ぎ立てずに問題が成立していると見なして解くと思う。ところがこれが九州全域だったならどうだろうか。さすがに問題不成立レベルの作図ミスか，現実との齟齬が大きすぎて日本と比定できないと判断して試験官に抗議する受験生が出てくると思う。そして今回のイングリアは私の中では割と「対馬」より「九州」に近いが，「対馬」のレベルでしかないので目くじらを立てるようなことではないと考える人の発想も理解できる。本企画の校正者にもこちらの考えの人がいるし，前出の専門家も「単なる誤植として見なしてよく，問３は成立している」という意見であった。皆さんはどうお考えになるだろうか。
もう一歩踏み込むと，作問者はこれだけ地図にバリエーションがあって解法に影響が出る可能性があることが発覚した段階で，本問の構想をボツにすべきだった。センター試験から共通テストに切り替わることになって大学入試センターが「これまでの無味乾燥な世界史Bを反省して，多くの史資料問題を課す。それもなるべく（受験生にとっての）初見資料で課す」と発表した時，史資料問題を使った大学入試や模試を作成したことがある人の多くは「入試に適した史資料なんてそんなに数があるとは思えないけど，ネタが持つのか」と思ったことだろう。今回はその好例で，代わりもなくボツにはできず押し通したという事情は透けて見える。初年度からこれではこの先が思いやられる。
２．北海道大
＜種別＞出題ミス
＜問題＞１ 問７ 下線部(6)について（編註：地方で党派を組んで中央の政治に積極的に意見を述べるものも現れ），万暦帝の時代に，江蘇省無錫を拠点として，張居正の改革に反対したグループを何と呼ぶか，答えなさい。
＜解答解説＞
正解は東林派と答えたくなるが，東林派は反宦官を標榜して結成された党派であって，張居正とは直接敵対していない。2020年の関西学院大が全く同じ出題ミスをしていたのだが，こういう勘違いがどこかで定着してしまっているのだろうか。張居正の没年が1582年で，東林書院の設立が1604年である。張居正の改革は大きな成果を上げたものの，中央集権的な性格が地方の有力者である郷紳層の反発を買っていた。だから士大夫を母体とする東林派は張居正の改革に対して批判的であったが，その批判はすでに張居正が亡くなって改革が止まった後になされたものであることに留意する必要がある。だから「改革への批判」ではあれ「反対」という政治運動にはなりえない。あくまで東林派の主要な批判対象は宦官やそれに連なる腐敗した官僚（非東林派）であった。代ゼミと河合塾から同様の指摘あり。大学当局から全員正解にした旨の発表があった。公式HPでは簡素な記載だったが，「張居正が東林派の活動時期まで生きているかのように受け取れる問題文で，不適切だった」という釈明が北海道新聞で報道されていた。
３．東京外国語大
＜種別＞問題文のミス
＜問題＞２ （編註：西洋では世紀で時代を区切るのに対して，）1800年から1801年に年が変わったときにも，それは時代を区切るものとはみなされなかった。1796年2月9日に16年の統治を経て偉大な乾隆帝が死去し，その第五子仁宗が帝位について「嘉慶」が始まったときに，新しい時代は始まっていたのである。
＜解答解説＞
普段はこの企画には東京外大は問題入手が間に合わなくて掲載していないのだが，今回は偶然入手できて間に合ったので載せることにした。この問題文は問題を解く際には全く支障が無いので番外編でもよいかと思ったが，間違え方があまりにもひどいので一応正式収録とした。まず，乾隆帝の治世は61年であって16年ではない。1735年から1795年である。そんなに短いわけがないと違和感を覚えてほしかったところ。しかも乾隆帝の在位年は，彼が「偉大なる祖父の康熙帝より長く在位してはいけない」と考えて到達直前のタイミングで退位したことで有名であり，このエピソードを知っていればまず間違えない。そしてこのエピソードからもう１つ誤りがあることに気づいた読者もいるだろう。乾隆帝は1795年に退位し，1799年に亡くなっているのであって死去と退位は同時ではない。最後の３年間は院政を敷いている。
実はこの文章はドイツ語で書かれた文章の翻訳で，東京外大の作問者当人が訳したとおぼしき文章である。出典：Jurgen Osterhammel, Die Verwandlung der Welt. Eine Geschichte des 19. Jahrhunderts, Munchen, C. H. Beck, 2009, pp. 84-102. とのことなので，原書に当たれそうな人にお願いして原文を確認してもらった。
Als epochaler Einschnitt wurde nicht der Jahreswechsel 1800/1801 empfunden, sondern bereits der 9. Februar 1796, als der glorreiche Kaiser Qianlong nach sechzigjahriger Herrschaft den Thron an seinen funften Sohn Yongyan ubergab, der sich den Regierungsnamen ≪Jiaqing≫ beilegte.
該当部分がこれで，ざっと翻訳すれば「1800年から1801年の変わり目は画期的な転換点と見なされず，むしろ1796年2月9日，すなわち偉大な乾隆帝が60年の治世を経て彼の５番目の息子（嘉慶帝）に譲位したときがそう（画期的な転換点）であった。」くらいか。要するに原著者は全く間違っておらず，訳者がとんでもなく誤訳している。外語大さんどうしちゃったの？ 西洋中心史観をいましめる文章で，中国史についてのありえない間違いを翻訳者がするというのはひどい自己矛盾を感じる。翻訳者は作問している場合ではなく，本人が高校世界史をやり直した方がよい。文章のこの部分が解答上無関係で本当に良かった。実はこの直後の文から下線が引かれているので，かなり危なかった。なお，嘉慶帝は第15子なので原文にも誤りはある。ぐだぐだである。
４．一橋大
＜種別＞難問・解答不明
＜問題＞２ ヨーロッパ文化に関する次の文章を読み、問いに答えなさい。
「シェークスピーアのイングランド」，(a)「ゲーテの時代」，このような言葉から，人々はある特色によって内面的に統一された文化現象の全体的印象を受ける。いやそれ以上に，後代の人々が一種の憧憬れの感情を以て見返るようなもの，後代には既に失われた青春の活力，後代が僅かにその余映を仰ぐような新しい指導価値が，突然に国民の中に芽生え，成長し，彼等の月並な伝統的生活，その動脈硬化的生活力を一新する時代，いわば歴史的な最良の時代を想い浮かべる。丁度，それと同じような意味で，(b)「レムブラント［レンブラント］時代」という言葉が，オランダの歴史家達によって使われる。
（村松恒一郎『文化と経済』により引用。ただし一部改変）
問い 下線部(a)(b)について，「ゲーテの時代」と「レムブラント時代」の文化史的特性の差違を，下の史料１及び史料２を参考にし，当該地域の社会的コンテクストを対比しつつ考察しなさい。（400字以内）
史料１
（レンブラント作「織物商組合の幹部たち」）
史料２
たしかにわれわれの帝国の体制はあまりほめられたようなものではなく，法律の濫用ばかりで成り立っていることをわれわれも認めたが，フランスの現在の体制よりはすぐれていると考えた。〔中略〕しかし他の何物よりもわれわれをフランス人から遠ざけたのは，フランス文化追従に熱心な王と同じく，ドイツ人全般に趣味が欠けているという，繰り返し述べられる無礼な主張であった。〔中略〕フランス文学自体に，努力する青年を引きつけるよりは反発させずにはおかないような性質があったのである。すなわち，フランス文学は年老い，高貴であった。そしてこの二つは，生の享受と自由を求める青年を喜ばせるようなものではなかった。
（ゲーテ『詩と真実』より引用。但し，一部改変）
＜解答解説＞
村松恒一郎は東京商科大学から一橋大学に切り替わるタイミングにいた教授であり，すなわちこの問題は駿台命名の「一橋大レジェンドシリーズ」である。過去のそれにふさわしい難易度を誇る。さて問題の要求は，問題文のいう「後代の人々が一種の憧憬れを以て見返るようなもの」「後代に失われた青春の活力」「後代が僅かにその余映を仰ぐような新しい指導価値」を，「レンブラント時代」と「ゲーテの時代」からそれぞれ見出し，史料１・２を参考にして，当該地域の社会的コンテクストも考慮しながら，対比的に描き出せということになる。したがって，まずそれを見出せないことには描き出しようがない。まず無駄にカタカナを使うのをやめろ。コンテクストじゃなくて背景って書け。
片方の「レンブラント時代」はさして難しくない。スペインから独立したばかりのオランダは新興国らしい活力にあふれていた。その活力の源は覇権国家たる経済力，それを支える中継貿易がもたらす国際色豊かな雰囲気，商人集団主体で早々と芽生えた市民社会，独立の経緯と国際貿易の都合から芽生えた宗教と移民に対する寛容の風潮である。史料１がレンブラントの集団肖像画というのも，いかにも市民社会に言及せよと言っている。レンブラントやフェルメールが主導したバロック絵画は名高く，グロティウスは「国際法の父」となり，スピノザは哲学史に燦然と輝く成果を残し（デカルトも一時期オランダに住んでいたからこれを挙げてもいいだろう），それぞれ後世に対して圧倒的な指導的地位に立った。後世にThe Dutch Golden Age，オランダ黄金期と呼ばれたことに鑑みても（まさに「歴史的な最良の時代」である），引用された『文化と経済』に挙げられた「後代の憧れ」「青春の活力」「新たな指導価値」という全ての条件を満たす要素を早期に発見可能である。これと「シェークスピーアのイングランド」の比較だったら文化史の良問で丁度いい程度の難問だったのだが。それはそれとして，レンブラント時代とは最近はあまり言わない気が。オランダ黄金期の通りが良いので，わざわざ個人名を冠する必要もなく，レンブラントがシェイクスピアほど別格の代表的文化人だったというわけでもなく。
逆に極めて厄介なのが「ゲーテの時代」である。まずゲーテの活動年代は恐ろしく長い。1749年に生まれて1770年頃から執筆活動を開始，亡くなった1832年まで活動を続けている。この間に時代も近世から近代に移り変わっている。範囲内の知識を想起して解答を作成しようとすると，多くの受験生はもうここで手が止まるだろう。古典主義文学・シュトゥルム＝ウント＝ドラング（疾風怒濤）の用語は覚えていても，中身までは深入りしない。教科書本文には「シュトゥルム＝ウント＝ドラングがロマン主義の先駆になった」というような記述が一応あるが，逆にこれくらいしか書いていない。他の文化は……せいぜい古典派音楽のモーツァルト・ハイドン・ベートーヴェンくらいだろうか。しかもベートーヴェン以外の二人は活動地域がオーストリア中心であるので厳密には外れる。あとはロココ様式のサンスーシ宮殿くらいか，というところでこれを史料２の「フランス文化追従に熱心な王」という言葉と結びつけられたら，加えてフリードリヒ２世が啓蒙専制君主であってフランス人のヴォルテールと交流していたことも想起できていたら，相当に優秀な受験生だろう。ゲーテはフリードリヒ２世に対して批判的だったのではあるまいか。おまけに史料２には「フランス文学は老成していて，ドイツの青年は反発せずにはいられなかった」とあるから，もうほとんど国語的な解き方になるが，ゲーテはフランスの文化は成熟しきっていて先が無く，逆にドイツの文化には未来があると考えていたのではないかと推測が立てられる（なおこれらの推測は実際に正しい）。この推測は『文化と経済』でいう「青春の活力」に該当するから間違いなさそう。とすると「新しい指導価値」は疾風怒濤の運動やロマン主義のことだろうか。「後代の憧れ」もこれらの後世への影響を考えれば該当しそうである。しかも，オランダ黄金期はバロックの時代と同義語であるように，様々な文化が勃興してから完成に至るまで続き，それを支える社会的背景も含めて変化しなかった。それに対してゲーテ時代は疾風怒濤を先駆として，ロココ様式や古典主義からロマン主義に変化する時代であって，社会史で見ても近世から近代に変化しているから，完成の時代と変化の時代で対比ができる。ちょうどベートーヴェンも古典主義からロマン主義への変化にかかわっているので，これを補強できるだろう。
ということで，難解ながら史料２を手がかりに問題文の述べる要素を見出すところまでは意外となんとかなる。ここまでたどり着いた人は，対策をしっかり立ててきた一橋大受験生ならそれなりにいたかもしれない……いや，いたかな。能力的にはできても試験時間が120分，大問３つあるから40分で，オランダの部分に10分と清書に10分かかるとすると実質シンキングタイム20分なんだよな。他の大問もまともな問題なだけで普通に難しいから，他をさくっとつぶしてここに持ってくるという戦略がとれない。それこそ私でもここまでの思考で20分はかかっている気がするので，若い18〜20歳の柔らかい頭でも厳しそう。この時点で，知識的には範囲内でも無理な難問判定しても良さそう。
ひとまずここまでの内容だけで解答を作ってみようとする。「ゲーテの時代は近世から近代に移り変わる激動の時代であった。これを背景に，ゲーテはフランスと啓蒙思想を老成していると見なして嫌い，批判した。そこでドイツ古典主義を標榜し，疾風怒濤の運動を起こしてドイツ文化の革新を唱えた。これはロマン主義の先駆となった。」……さらっと読むとまとまっているように見えるが，よくよく読むといろいろと不自然なことに気づく。まず，そういえば疾風怒濤って激しそうなイメージなのにロマン主義じゃなくて均整美の古典主義なの？ 古典主義とロマン主義って逆の文化的潮流なのになんでつながるの？ という疑問は誰しもが抱くところだろう。はい，この辺はまさに説明が面倒になるから高校世界史では省略している部分であって，ここで高校世界史の範囲を超える教養がないと詰みである。思考力で推測できるようなものでもない。しかも答案の中核になるべき部分がフランスと啓蒙思想への嫌悪というゲーテの個人的な感情というとんでもないことになっている。彼が批判した理由が答案上示されていないためである。そんな世界史の答案ある？？？ 国語の小説の解答文じゃないので，ここに感情ではない根拠を持ってこないといけない。始まりがゲーテの個人的な感情だったとしても，他の文学者が共鳴した理由を持ってこないといけないのである。さらに言えば，この答案はドイツ＝ロマン主義の勃興が社会的背景と結びついていないのを「これ（近世から近代への変化）を背景に」でごまかしている。これでは何の説明にもなっていないことに，読者諸氏は気づかれただろうか。この答案には，オランダでいうところの「貿易による経済力」「国際色豊かな雰囲気」「市民社会」「宗教的寛容の風潮」にあたる具体的な説明が見当たらない。当然，黄金期オランダとの対比にもなっていない。高校世界史でもドイツを含めた東欧地域は英仏に比べて市民階層の成長が遅れていて，だからこそ啓蒙専制君主によるキャッチアップが図られたくらいのことは学習する。では，早く到来したオランダの市民社会と，市民階層未成長のドイツという比較でよいか？ 比較そのものはこれで成り立っているとしても，市民階層が未成長であることとロマン主義の勃興を結びつけた説明を高校世界史範囲内の知識や思考力ではできないのである。
ここからは大人による反則技の解法になる。一つずつ紐解いていこう。ゲーテの文学者としての態度は二度の変転があり，つまり三期に分かれている。まずここからして知識が細かすぎる。1770年頃，彼が文壇デビューした頃は疾風怒濤の時代にあたる。この時期の代表作が『若きヴェルター（ウェルテル）の悩み』で1774年の作品。しかし，この時期は実はそれほど長くない。1775年11月に政治家に転向してヴァイマル公国に就職し，見事に出世して1779年に宰相に上り詰める。この本業が忙しくなりすぎて文学活動をしている場合ではなくなったのが一つ，またこうした政治活動や年上の女性（シュタイン夫人）との恋愛を通じてゲーテ自身が成熟してしまったのが一つあり，これらによってゲーテは疾風怒濤の運動を若気の至りと考えるようになったようだ。疾風怒濤の運動自体も1780年頃に失速している。
この宰相の仕事や年上の女性との恋愛に息が詰まってしまって，全てを投げ出してイタリアへの旅行にでかけたのが1786年。イタリアで古典古代の文化に触れたことを契機に，一転して均整美や調和を尊ぶ古典主義に転向した。これは盟友シラーとの出会い・意気投合により深まって，シラーの死ぬ1805年まで続く。しかし，ドイツ古典主義文学は基本的にゲーテとシラーの二人だけの運動であって，疾風怒濤やロマン主義のような大きな潮流になっていない。参加した二人があまりにも文学史上の巨人であったから取り上げられるにすぎない。そして1805年以降がゲーテの第三期，晩年の時期になる。文学史上の潮流はもうロマン主義になっていたが，ゲーテ自身は今更それにのれず，むしろ「古典的世界は健康的であり，ロマン的世界は病的である」と言って批判的な態度をとっていた。しかし，世間は人間の感情の発露を描いた疾風怒濤期のゲーテの作品にロマン主義の萌芽を見ていたからゲーテは時代の先駆者としてロマン主義者たちから尊敬を集めることもあったので，ゲーテ本人の気分は複雑だっただろう。美術史的なことを言えば，ゲーテは当初はロマン主義美術を応援していたが，先鋭化するにつれて手のひらを返している。
さて，史料２の『詩と真実』であるが，これは1811年，つまり晩年に書かれた自叙伝である。ただし，振り返っているのは1775年まで，つまり疾風怒涛期の自分というところが思わぬトラップで，引用された部分も疾風怒涛期のゲーテの考えと言える。つまり『詩と真実』は晩年になされた疾風怒濤期の回想であるから，これに従うなら古典主義期のゲーテは一切無視してよいということになる。それならかなり話は単純になる。
また，ゲーテが生きた時代はフランスの文化・思想がグローバルスタンダードと見なされていた時代であった。フランス語が国際共通語であり，フランス古典主義の演劇やロココ様式の美術を見て，最先端の啓蒙思想ルソーやヴォルテールを読む。それが洗練された貴族趣味であった。この状況はフランス革命が起きても，広がる文化が新古典主義の美術と革命思想・ナショナリズムに変わっただけで，フランスの普遍性は変わらなかった。周辺諸国はフランスに憧れ，嫉妬しつつも受容していたのである。いや音楽はバッハがいたからドイツの方が先進的だったのではないかというのは良い気づきで，ドイツが音楽の先進地帯というのは19世紀以後の話であって18世紀まではイタリア人の専売特許であった。先祖探し的にバッハが後世に「音楽の父」になっていったに過ぎない……というのは映画『アマデウス』や『Fate/Grand Order』のサリエリ沼から知ったという人も多そう。一橋大はFGOプレイヤーを求めていた……？
ゲーテが批判的であったのはまさにこのフランス文化の普遍性という名の押し売りである。ゲーテから見ればフランス文化は全人類が受容すべき普遍性を備えているわけではなく，洗練されていて先進的だから，相対的な優位があって他国にも受容されているに過ぎない。そして洗練されているからこそ成長の余地がなく，老成している。ゲーテはこのフランスへの反発心から，ドイツ固有の文化を尊重した。人類は多様であってよいのである。ドイツ人がドイツ文化を愛でて育て，フランスと対等な地位まで引き上げればよいのだ。ストラスブール大聖堂をドイツ的と称揚してゴシック＝リヴァイヴァルの先鞭をつけたのも，疾風怒涛期のゲーテである。中世への憧憬はロマン主義の特徴の一つだから，やはりゲーテがロマン主義の先鞭をつけている。
政治思想としても，ゲーテは前述の通り明らかにドイツ文化への愛着を持っていてナショナリズムにつながる動きを見せていたし，ナポレオンの登場の歴史的な意義を認めていた。だから『若きヴェルターの悩み』に感動したナポレオンに表敬訪問されれば喜んで受けた。ゆえにそれらを生み出したフランス革命を全否定していたわけではないが，その病的な熱狂はやはりロマン主義同様に受け入れられなかった。なお，ゲーテは見栄っ張りで過去の自分の発言を後から都合よく創作して自分に先見の明があったかのように見せたがる人でもあった。よく言われるヴァルミーの戦い（1792年）従軍の際の「ここから，そしてこの日から，世界史の新しい時代が始まる」という言葉は，晩年に書かれた日記にあの時私はこう言った的に書かれているに過ぎず，実は当時に言ったという証拠が無い。したがって，この発言からゲーテがフランス革命に肯定的だったと見なすのは実証的に無理がある。
もっとも，ゲーテをあてこすらなくてもフランス革命とナポレオン戦争に対する葛藤は当時のドイツの知識人・市民階層に共通して見られるものである。封建社会からの解放は喜ばしいが，それがフランスの侵略と占領によってもたらされるのは拒絶したい。政治的・社会的に立ち遅れたドイツ自身を恥に思う気持ちもあるが，フランスの猿真似は屈辱である。こうした葛藤こそが，ゲーテから離陸したロマン主義の原動力の一部となったと言ってもよいだろう。革命と反仏ナショナリズムの高揚感はドイツ＝ロマン主義を燃え上がらせた。ここが「ゲーテの時代」という表現の困ったところであって，ゲーテの晩年は明らかにロマン主義の全盛の時期であるが，ゲーテ自身はロマン主義を嫌っていて属さない。とはいえ「ゲーテの時代」の後半はロマン主義者が中心の時代であると断言してしまうのも，死の直前まで執筆活動をしていたゲーテ自身を無視することになる。結局のところゲーテの時代とはそうした矛盾をはらむネーミングとしか言いようがない。17世紀のオランダ社会が持つ若い活力とは新興国らしい溌剌さであったが，「ゲーテの時代」のドイツは『若きヴェルターの悩み』そのもので，内省と葛藤に満ちたものであった。とはいえ，そうした疾風怒濤・ロマン主義（と古典主義）が後世に憧憬の念で見られ，指導価値を持つのは疑いない。また社会との結びつきも，発展途上の市民社会だったからこその葛藤であるとしてなんとか説明がつく。
これらの内容を改めて解答としてまとめ直すと，「近世末に活動を開始したゲーテは洗練されすぎたフランス文化と啓蒙思想の普遍性を否定し，これに対抗すべく疾風怒濤の運動を起こした。折しも生じたフランス革命とナポレオン戦争はより強い政治的・文化的圧迫をドイツ社会に与え，発展途上の市民社会に強い葛藤を引き起こした。こうした流れが合流し，ゲーテ自身の思いとは裏腹にナショナリズムとロマン主義の風潮が高まり，ドイツ文化は変革とともに大きく発展する時代となった。」くらいになろうか。これでちょうど200字なので，綺麗にオランダと半々の解答が作れるだろう。
というように長々と偉そうに書いたけれども，この解答で合っているかどうかは私も事実確認のレベルで自信が無いし，仮に事実誤認が無かったとしても作問者の想定した正解と合致しているかも自信が無い。さらに，この解答で正解だったとしても，18歳の自分にこの解答が作れたかと問われると，200％無理としか言えない。書いておいてなんだけど，本当にここまで要求してるのかな。私がここに書いた解答の水準まで要求しているとするなら，本問は無茶振り度において2014年度の「歴史なき民」を超えたと思う。
各予備校の解答速報を見ると，駿台の解答はかなり整っていて，最後を「ゲーテはこれに批判的であった」で締めているのはポイント高い。それでもフランスの普遍性に対する反発という要素が解答から欠けていて，それどころかフリードリヒ２世をやや肯定的に紹介してしまっているのは史料２をうまく使えていない。代ゼミの解答は，ちゃんと変革と葛藤に言及できている。しかし，古典主義に言及するトラップに引っかかっているのがちょっと問題である。河合塾の解答は，フランスでは絶対王政の下で宮廷文化が育って市民文化は微妙だった，ドイツは領邦の分権体制だったから市民文化が育ったということを解答の主軸にしていて，独自性がある。確かに史料２の上２行からそういう解釈はできるし，これは事実関係として正しい。近世末のドイツは領邦国家が乱立してそれぞれが絶対王政的な官僚制を整備したために，官僚の母体になる知識人階級の需要が増大して大学の創設が次々に進み，それに伴って識字率はフランスを上回るまでに成長した。これがゲーテたちの文学活動の背景になる（参考文献：『ゲーテとその時代』坂井榮八郎，朝日選書，1996年）。ただし，この解答は次の点で問題がある。17世紀のネーデルラント連邦共和国も分権的で中央政府の権限が弱かったので，当該地域の社会的コンテクストは似通っているということになってしまい，「対比しつつ考察せよ」という問題の要求に反する。通常「比較せよ」と言われたら共通点も挙げるが，「対比せよ」と要求されたら相違点しか挙げない。また，そもそも河合塾の解答はそのオランダの分権的社会には言及がないので片手落ちである。しかも，この解答だと今度は史料２の下４行に触れられておらず，一長一短である。とはいえ下４行に触れるには字数が厳しいのも確かであり，結局のところ要求に対して400字という字数が少なすぎるのが根本的に悪い。残った東進は解答未発表である。３月中旬にもなって出ていないのは，さすがに速報ではない。
最後に，私はこの村松恒一郎『文化と経済』を古本屋で売っていたので買って，ぱらぱらと読んでみた。本書は歴史家（経済史家）の村松恒一郎が書いた論文集であり，序文で著者自らが「散漫たるEssay集といった観もなくもない」「本書の一体的姿勢を読者の推察にゆだねることは，おそらく無理な要求というべき」としたためているように，事実として本書は散漫かつ壮大な構成のエッセイと論文の間のような文章の塊である。マックス＝ヴェーバーの思想研究に始まって中世西欧の都市国家に言及してみたり，日本の20世紀前半までの西洋史研究史をまとめてみたり，かと思えば中国史や日本史に言及し，あれこれ話が飛んで最終章で17世紀オランダ史が登場する。その上で言えば，この最終章を読んでも「ゲーテの時代」は史料２の部分以外で一切出てこない。「レンブラント時代」の解説は重厚になされるが，そこで強調されていたのはオランダの商業活動の自由と政治的分権体制であったことである……え，まさか本当に17世紀オランダも領邦体制のドイツも分権的だったから市民が成長したという点で共通していたというのが落ち？ マジで？ 対比的にとは何だったの？ でも『文化と経済』の中にゲーテの時代の説明があるわけじゃないしな……もう何もわからん。
名古屋大は収録なし。というか良い問題だった。担当者が変わったのか，文科省のお達しの効果か，単純に改心したのかはわからないが，ともかく非常に良いことである。
５．京都大
＜種別＞悪問
＜問題＞４ (4) アテネはペルシア戦争後に結成した，諸ポリスをとりまとめた組織によって他のポリスを支配した。その組織の名を記せ。
＜解答解説＞
過去に何問か類似例がある問題。ペルシア戦争はプラタイアの戦い（前479年）をもって終戦と見なすか，カリアスの和約（前449年）をもって終戦と見なすかで見解が割れている。戦闘はほぼプラタイアの戦いが最後で，ここでギリシア側の勝利が確定しているためであるが，明確な講和条約まで約30年間の小競り合い期間がある。その上で，正解となるデロス同盟の結成は前478年頃であるので，前者であれば終戦直後，後者であれば戦争中の結成ということになる。高校世界史では，多くの教科書が「プラタイアの戦いで勝利は決定的となった」としつつも，終戦のタイミングはぼかして明言せず，その上でペルシア戦争に「前500〜前449」と年号を付すことでなんとなくやり過ごしている。執筆者は誰しもが事情を知っているので，こう処理するしかないと考えるのだろう。その中で帝国書院の教科書のみ，例外的にデロス同盟の結成はペルシア戦争の終結前と明言している。また山川の用語集も「カリアスの和約」の名前を出して終戦のタイミングを明言している。つまり，帝国書院の教科書と山川の用語集だけで学習をしてきた受験生からすると，本問は正解が不在になってしまう。実際の受験勉強でもほとんどの指導者は（早慶対策として）カリアスの和約の名前を出して「前449年終戦」で教えるだろうから，本問の問題文は受験生の認識と大きく食い違うことになり，混乱を招いたと思われる。それでも「諸ポリスをとりまとめた組織によって他のポリスを支配した」という部分からデロス同盟を導いて解答するとは思うが。京都大学たるもの，もっと迷わない問題文を書いてほしい。
６．京都大（２つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞４ (24) これ（編註：捕鯨）を題材にした小説『白鯨（モビーディック）』の作者は誰か。
＜解答解説＞
正解はメルヴィル。2018年の東京外大でも出題されており，東京外大はその年のオープンキャンパスで「世間一般の知名度は高い作品・作家であっても，教科書に記述がないからという理由だけで出題しない，という姿勢は，世界史を現実社会と切り離してしまうものです」という声明を発表して一部界隈を仰天させた。東京外大自らが認めている通り純然たる範囲外の難問であるが，京大の入試担当者は東京外大の思想に共鳴してしまったか。
７．大阪大
＜種別＞難問・奇問・解答不明
＜問題＞下に掲げる図I ・図IIは，いずれも，アフリカ大陸原産の大型草食獣・キリンが，15世紀当時における東西の権力者に献上された様子を描いたものである。左は，��明王朝の皇帝，朱棣（永楽帝，在位1402-24年）への，右は��フィレンツェのロレンツォ＝ デ＝メディチ（1449-92年）に対する献納品として，キリンが描きこまれている。異域に生息する巨大な珍獣というプレゼントは，権力者の威光を演出し広く宣示するために， あるいは古典期の博物学的な知識とのつながりを示すうえで，絶好の題材だっただろう。
グローバル規模での人と人の交流に翻弄される動物をめぐる問題は，現在も形をかえて多くの論議を巻き起こしつつある。
図�機／隸�麒麟図〈沈度題〉
（編註：図�兇肋蔑�）
問１ 図�気蓮げ疾�部�，凌擁�に対してベンガルから贈られたキリンを描いたものとされる。キリンが下線部�，凌擁�に献上された背景について，明王朝内外の政治・軍事的状況を踏まえて論述しなさい。なお，絵のタイトルも参考にしつつ，使節の服装やキリンが示す象徴的意味についても，論及すること（200字程度）。
＜解答解説＞
おそらく良問と見なすか超難問と見なすかで意見が割れる問題。こういう時に私は慎重に検討してなるべく収録対象としないようにしている。だから一橋大の，受験生が超難問だと騒いでいる問題も意外と収録していない。しかし，本問に関しては言い訳の余地なく蛮勇のまずい問題だと考えている。詳細な理由の説明が必要だと思われるので，以下に示す。
本問の要求を分解すると，１．明王朝内部の政治・軍事上の状況を踏まえて，キリンが永楽帝に献上された背景を説明する。２．明王朝外部の政治・軍事上の状況を踏まえて，キリンが永楽帝に献上された背景を説明する。３．キリンの示す象徴的意味を，１または２に沿った形で示す。４．同じく使節の服装の象徴的意味について，１または２に沿って示す。
このうち１・２は問題ない。永楽帝は靖難の役で建文帝から帝位を簒奪したので，正統性が危ぶまれていたというのがまず内部事情。そのため冊封体制の再建を目指し，中国皇帝の威徳が世界中に行き届いた証明として遠方からの朝貢国を求めていた。これに伴って遠方の国々からの朝貢が活性化していたというのが外部事情。これらのために，アフリカという遠方の品が届けられたというのは永楽帝にとって吉報であった。ここまでは標準的な知識で書けるところであるし，「瑞応麒麟図」もいくつかの教科書・資料集には載っていて初見ではないだろうことも含めて，知識・思考力が問われる良い問題であろう。
３はまあ，際どいラインである。要するにキリンは伝説上の瑞獣である「麒麟」に比定されたため，このような瑞獣が現れたのは徳の高い君主による善政の証明と見なされた。前述の通り，正常な継承がなされなかったために正統性を疑問視されていた永楽帝にとってはその状況を覆す材料であった。善政が天帝に認められた結果として麒麟が現れたのだから，易姓革命が正当化されるのと同じように，靖難の役は許されたのだというロジックが成り立つ。さて，このような解答を書くには受験生が「麒麟」が瑞獣であることを知っているか，あるいは問題文からのヒントを拾って気づかないと，思考力以前の問題になってしまって不可能である。とすると出題側の意図としては，
A．日本人として当年の大河ドラマくらい見ているのが常識であり，『麒麟がくる』で麒麟は「仁のある政治をする為政者が現れる」とか「平和な世に現れる」としばしば言及されていたので，受験生にも当然その知識があるはずである。大河ドラマを見ていない非国民は本問でハンデを負ってもらってかまわない。
B．大河ドラマに関係なく，動物のキリンの名前の由来が瑞獣の麒麟にあることくらい一般教養として受験生に求めてよいものである。また，高校教員や予備校講師は鄭和の遠征を扱う授業中にこのことに触れているであろう。
C．仮に麒麟についての知識が無かろうとも，問題文に「絵のタイトルも参考にしつつ」とあるように，「瑞応麒麟図」というタイトルの「瑞」から瑞獣であることは推測可能である。
という３つのパターンくらいであろうか。Aはまあ関西ジョークとして，Bが主となる出題意図だと思うが，Cを用意してくれた分だけ有情である。これがあるからぎりぎり範囲内で通ると思う。
最悪なのが４。皆さん，この服装が何か推測できます？ 高校世界史で服飾の歴史にほぼ全く触れず，この服装が現在の日本人の教養として一般的でもない以上，私は無理だと思う。そして服装の図像読解ができなければ本問は麒麟以上に詰みである。思考力を働かせる段階に行かない。あるいは「使節の服装に注目せよ」という指示から「何かしら特殊な服装をしているのだろう」と出題者の意図を読み，上半身が右前の着方になっているのは和服と同じ，ということはおそらく東アジア圏の着方なのだろう……という推測を立てるのが思考力ということだろうか。私はそれは論理的な思考ではなく跳躍的な発想だと思う。
実のところ私も確証のある正解を出せていないのだけど，これは漢服だと思う。私自身が上述のような当たりをつけて画像検索して，大体同じような服装が出てきたからそう思っているというだけなのだが……。こういうときに知恵を借りたい予備校の解答は，私と同じように漢服という解答を出していたのは代ゼミのみで，河合塾と駿台は解答で全く使節の服装に触れていない。河合塾が講評コメントで「絵に描かれた使節の服装やキリンが示す象徴的意味についてどれだけ言及できるかがポイント」と書いているのは何かのジョークかな？ それとも「異国からの使者」というフレーズで表現しているつもりなのだろうか。問題文に「ベンガル」と明示されているのだから，それは絵を読み取ったことにはならない。東進は解答を出したのが他３社から遅れること１週間で他社の解答を参照にしていると思われるから，自力でたどりついたのは代ゼミのみだと思われる。とはいえ，予備校が自らの看板をかけて，しかも受験生にはないインターネットと専門書というアドバンテージを使って作った解答でさえも，多数派は触れずにごまかすのが精一杯だったということだ。そもそも「瑞応麒麟図」の使者に注目した専門書や論文，私には見つからなかったのだが……おや，例の南蛮屏風の雰囲気が漂ってきましたね？
ともあれ，漢服で正しいなら解答は作れる。冊封体制とは「中国皇帝の威徳を慕って諸国が朝貢に来る」という理念を前提に成り立つ国際関係であり，中華（中国）の文明そのものである「中華」と，中華の文明を受容しているが完全に中華化していない冊封国，皇帝の威徳は届いているが中華の文明を受容していない朝貢国，中華の文明の価値に気づいていない夷狄……とグラデーション的に，放射状に広がる世界観である。その上で，遙か遠方のベンガルから来た使節が中華文明の衣服を着ていたら，永楽帝はベンガルでさえも自らの威徳が通じて中華になろうとしていると感激するだろう。おそらく，そうした意図から中国側の官僚が，やってきたベンガルの使者を謁見前に着替えさせたのだろう。解答上はこの辺を短くまとめて「使者が中国風の衣装であることは，永楽帝の外交政策に正当性を与え，麒麟の意味を強調した」くらいになるだろうか。
このように書くと「解答が出るならいいのではないか」「そもそも阪大は受験生の発想を見ているのであって，史実に合致していなくても加点されるのではないか」という反論が出てくるだろう。しかしまず，私自身が漢服に見えるというだけで，これが正解という確証が全く無い。前述の通りの推測でしかない私のあやふやな説明をもって解答可能な問題とは思わないでほしい。中国史に詳しい知人が多分漢服で正しいと言っていたので大丈夫だとは思うが……。私以外の人々，たとえば解答速報を出している予備校各社も前述の通りであり，その他を見渡してもネット上で確実な解答を書いている人は見当たらなかった。だからこれはまともな「解答を出すことが可能な問題」とは言えない。次に，以前から書いているようにそこまで大学の採点者に信頼が持てるか。こういう無茶な出題をしてくる時点でちょっと怪しい。とはいえここは譲って，これまで良問の山を築いてきた阪大だからこそ内部的に統制がとれていて，「発想がよければ史実として誤っていても加点する」採点をしているだろうと信用することにしよう。
それでも本問は根本的な欠陥がある。多分，日本全国の美術史学研究室に入って真っ先に言われることの一つに「画家は描きたい作品の理想像に従って（あるいは考証の不備から）図像を変えてしまうので，描かれた図像がその時代・地域のものだと信用してはいけない」というものがあると思うのだが，本問はそれに抵触していると思われる。極めて単純な事例を出すなら，たとえばレオナルド＝ダ＝ヴィンチの《受胎告知》。あの背景は本来であればパレスチナの荒涼たる風景であるはずだが，実際に描かれているのはトスカナ地方の田園風景である。なるほどこれは伝説上の出来事だろうし，15世紀末では考証の材料も少なかっただろう。では，たとえば《サン＝ベルナール峠を越えるボナパルト》ではどうか。ダヴィドはナポレオン本人含めて一次史料に触れる機会がいくらでもあったが，実際のナポレオンはロバ（またはラバ）に乗っていたと伝わるし，ナポレオンも随分美化されて描かれていて，服装も防寒着を着ていない点で嘘がある。
「瑞応麒麟図」も真実を描いているとは限らない。実際の使者はベンガルの服装を着ていたところ，画家が永楽帝の歓心を得るために漢服で描いた，あるいは実は現場に画家がおらず，使者の服装は想像で描いたかつその画家が漢服以外の知識を持ってなかったので漢服で描かざるを得なかったという可能性は捨てきれない。本問もせめて「このように描かれた意図は何であったか」ならまだ言い訳がついただろうが，この問題文はどう読んでも「瑞応麒麟図」に描かれたものを事実として扱っている。この違いは美術史学上で重要で，大した違いではないと棄却されたら多分全世界の美術史家が鼻血吹いて憤死すると思う。なお，中国史に詳しい知人からは「美術史に詳しくなくても中国史をやっていればこれらの可能性は当然想起されるべき」とのコメントをもらった。要するに史料批判の無い状態で発想を組み立てることを素人に要求しているのだが，史学科として，文学部としてそれでよいのか。私はこれを市民的教養として持つべき思考力とも，歴史学的な思考力とも全く思わない。
一点だけ本問を擁護するなら，遊びの部分が小さく，冒頭で立てた整理の通り４点の論点のうち２つの部分は良問であり，しかも配点の大半もここにあると思われる。３つめの麒麟もまあセーフとするなら配点の８〜９割はセーフということになり，受験生が答えられないし答えてもいけない部分はほぼ合否に関係が無い。大河ドラマにひっかけた関西ジョークも含めれば多重の小さな「遊び」のある問題ということだ。実際の被害は少なかろう。
なお余談だが，本作（台湾故宮博物院所蔵）は後世に“少なくとも”三作の模作があり（日本語版Wikipediaは「模作は二作」としているが誤り），一つは1414年の本作から約100年後の明朝中期に描かれたもので，麒麟にギザギザ模様が入っていることに加えて，使者は服装こそ変わらないが中国人顔に近くなっている。フィラデルフィア美術館所蔵。
二つ目はオリジナルから約300年後の清朝初期に描かれ，使者はそれなりに再現度が高いが，麒麟は何か黒い。あとヘキサゴンマップみたいな模様になっている。中国国家博物館所蔵。
三つ目は制作年不詳，おそらく清朝初期に描かれ，こちらは使者が二人に増えている上に，風貌や服装が中央アジア風になっている。メトロポリタン美術館所蔵。明朝中期はともかく清朝初期ならその方が海外との交流が増えて考証学も発展して，考証が有利になっていると思われるのに，三つ目は中央アジアの馬丁に引かせることで完全なファンタジーに置き換え，エキゾチックな雰囲気を醸し出すことに成功している。
＜種別＞分類不能（しいて言えば作図の指示ミス）
＜問題＞１ B オーストリアの貴族クーデンホーフ＝カレルギーは，1923年に『パン＝ヨーロッパ論』を著し，ヨーロッパ統合運動を展開した。彼は世界が五つのブロックに分かれて統合されていくと考え，ヨーロッパも「パン＝ヨーロッパ」として統合されるべきだと主張した。その際，欧米諸国の持つ世界中の植民地も，それぞれのブロックに統合されると考えた。次の図１・図２は，『パン＝ヨーロッパ論』所収の地図を加工したものであり，縦線や横線，斜線，点などで地域がブロック別に示されている。このうち黒く塗りつぶした部分が「パン＝ヨーロッパ」としてまとまるべき領域を指している。
問３ 上の図１中のある国が「パン＝ヨーロッパ」に含まれていない理由を述べた文として最も適当なものを，次の� 銑い里Δ舛�ら一つ選べ。 〔 ３ 〕
� ．灰潺鵐謄襯鵑魴訐�し，他のヨーロッパ諸国と対立していたため。
�◆ヽ很燭砲茲辰董ぅぅ好蕁璽爐鮃餡箸慮桐�とする共和国になったため。
�� ソ連との間にラパロ条約を結んでいたため。
�ぁ々餾歸�に永世中立国として承認されていたため。
＜解答解説＞
至極単純に正解を出すなら，図１で「パン＝ヨーロッパ」に含まれていない地域はソ連・イギリス・イラン・トルコのいずれかである。選択肢��・�い呂海里い困譴砲盂催�せず，イランは�△�当てはまるが1923年という時期を考えると不適，よってソ連の�，�正解になる。
しかし，図１をよく見るとサンクト＝ペテルブルク（というかイングリアのほぼ全域）が「パン＝ヨーロッパ」に含まれている。もちろんソ連全体からするとイングリアなんて僅かな面積を占めるにすぎないが，少し前までの首都があった地域であるから重要性は高い。たとえばイスタンブルがトルコ領になっていなければ作図ミスを疑うだろう。それと同様にイングリアが含まれていないのは作図ミスかもしれないと疑うのは自然な流れだ。とすると原本の『パン＝ヨーロッパ論』の挿絵がどうなっているのかが気になってくる。私もそう思って調べてみたのだが，なかなか確実な原本掲載の地図は見当たらない。逆に図１のバリエーションは多数見つかる。たとえば，こんなの。
図３（暫定）
……ソ連領がちゃんとソ連領なんだが？ あと細かな差異でいうとイランとトルコがタイと同じ扱いになって「？」がついている。これはどの統合体に属すのか未確定という意味らしい。イランについてはさらに別のバリエーションで共通テストと同じように格子状に塗られているものが見つかったが，トルコについてはいかなるバリエーションでも「？」がついていた。これは共通テストの作成者による付け忘れと思われる。なお，イランについてはクーデンホーフ＝カレルギーも本当に扱いに悩んでいたらしく，こんなバージョンもある。
図４（暫定）
この地図だとイランは完全にロシア領になっている。あとは外モンゴルが東アジア統合体かロシア領かという差異も見られる。
図５（暫定）
これはイングリアがパン＝ヨーロッパ領に見える地図である。イランも格子状なので，まず間違いなくこれが図１の出典元になる地図だろう。イングリア以外を見てもアフガニスタンは「？」だったりロシア領だったりイランと同じ塗り方だったりで，各地図で異なる。ところで，南樺太がいずれの地図でもロシア領になっているのはなぜなのか。彼が日本嫌いということも無かろうが，日本の版図なんて実は全く興味が無くて間違えてしまったのかもしれない。あれ，ということはイングリアも塗り間違いの可能性ある？
ということで人の協力も得てかなりいろいろ調査したものの，迷宮入りしかけたのであきらめて，さる専門家の方に連絡をとって質問をしてみることにした。以下はそのやりとりをQ&Aにまとめ直したもの。また，元のやりとりは「ですます」調だったが，ここでは「である」調に直している。
Q．イングリアをパン＝ヨーロッパに含める思想はクーデンホーフ＝カレルギーにあったか？
A．イングリアはソ連に入る。この地図はクーデンホーフの構想を正確に示したものになっていない。
Q．ということは，イングリアは大学入試センターの作図ミス（トレースミス）だろうか？
A．トレースミスというよりも，元の図が粗いのでイングリアがパン＝ヨーロッパ領に見えてしまうのは仕方がなく，とりわけ作図した人に罪はなかろうと思う。完全に冗談として言えば，責任をとるべきはクーデンホーフ自身では（笑）
という大変に貴重な回答を得られた。応じていただいた専門家の方には強い感謝を申し上げたい。ということでこの地図はクーデンホーフの構想から照らすと作図ミスである。ただし，DTP業者のトレースミスと言ってしまうと語弊がある，ということだ。しいて言えばDTP業者のトレースがクーデンホーフの構想とはずれていることに気づかなかった作問者が悪いだろうが，それでも責任をかぶらせるのはかわいそうな気がする。
とすると本問のもう１つの論点は，この図から受験生に横線部分がソ連だと推測させるのは是か非かということである。厳しく言えば，イングリアが含まれていない以上は横線部分をソ連と認定することが難しく，この地図でソ連またはロシア国家は存在しないと見なされるか，ソ連の一部は「パン＝ヨーロッパ」に含まれているので，問３のいうところの「含まれていないある国」とは見なせないと考えうる。とすると�，乏催�する国は無いので解答が消滅し，出題ミスである。一方で，これらの図１・２はある思想家が構想した世界地図なのだから，現実の国境線を反映したものとは限らないので，細かい差分は気にするだけ負けと考えることもできる。この前提に立てば，イングリアがなかろうとも面積的には90%以上が横線で塗られているのだから，横線部分をソ連と見なすのは自然な発想であるという主張も割と説得力があると思う。現実的に受験生がこのイングリアのせいで横線部分をソ連と推測しづらくなって正答率に影響が出たということは考えづらい。後者の発想から言えば，問３は出題ミスとはならず，図１の作図ミスは解答に直接かかわらない部分の文章の誤植と同じような立ち位置になる。
私個人の考えとしては前者寄りで，やっぱりこの地図でこの出題は不適切であったと思う。これは程度問題ではあり，たとえば同じような設定の架空の世界を描いた東アジアの地図が出題されたとして，その地図で対馬が日本の領土の凡例で塗られていなかったとする。これなら多くの人は「作図ミスか，そういう思想の人の設計した地図なのかな，残念だけど」と思いつつも，特に騒ぎ立てずに問題が成立していると見なして解くと思う。ところがこれが九州全域だったならどうだろうか。さすがに問題不成立レベルの作図ミスか，現実との齟齬が大きすぎて日本と比定できないと判断して試験官に抗議する受験生が出てくると思う。そして今回のイングリアは私の中では割と「対馬」より「九州」に近いが，「対馬」のレベルでしかないので目くじらを立てるようなことではないと考える人の発想も理解できる。本企画の校正者にもこちらの考えの人がいるし，前出の専門家も「単なる誤植として見なしてよく，問３は成立している」という意見であった。皆さんはどうお考えになるだろうか。
もう一歩踏み込むと，作問者はこれだけ地図にバリエーションがあって解法に影響が出る可能性があることが発覚した段階で，本問の構想をボツにすべきだった。センター試験から共通テストに切り替わることになって大学入試センターが「これまでの無味乾燥な世界史Bを反省して，多くの史資料問題を課す。それもなるべく（受験生にとっての）初見資料で課す」と発表した時，史資料問題を使った大学入試や模試を作成したことがある人の多くは「入試に適した史資料なんてそんなに数があるとは思えないけど，ネタが持つのか」と思ったことだろう。今回はその好例で，代わりもなくボツにはできず押し通したという事情は透けて見える。初年度からこれではこの先が思いやられる。
２．北海道大
＜種別＞出題ミス
＜問題＞１ 問７ 下線部(6)について（編註：地方で党派を組んで中央の政治に積極的に意見を述べるものも現れ），万暦帝の時代に，江蘇省無錫を拠点として，張居正の改革に反対したグループを何と呼ぶか，答えなさい。
＜解答解説＞
正解は東林派と答えたくなるが，東林派は反宦官を標榜して結成された党派であって，張居正とは直接敵対していない。2020年の関西学院大が全く同じ出題ミスをしていたのだが，こういう勘違いがどこかで定着してしまっているのだろうか。張居正の没年が1582年で，東林書院の設立が1604年である。張居正の改革は大きな成果を上げたものの，中央集権的な性格が地方の有力者である郷紳層の反発を買っていた。だから士大夫を母体とする東林派は張居正の改革に対して批判的であったが，その批判はすでに張居正が亡くなって改革が止まった後になされたものであることに留意する必要がある。だから「改革への批判」ではあれ「反対」という政治運動にはなりえない。あくまで東林派の主要な批判対象は宦官やそれに連なる腐敗した官僚（非東林派）であった。代ゼミと河合塾から同様の指摘あり。大学当局から全員正解にした旨の発表があった。公式HPでは簡素な記載だったが，「張居正が東林派の活動時期まで生きているかのように受け取れる問題文で，不適切だった」という釈明が北海道新聞で報道されていた。
３．東京外国語大
＜種別＞問題文のミス
＜問題＞２ （編註：西洋では世紀で時代を区切るのに対して，）1800年から1801年に年が変わったときにも，それは時代を区切るものとはみなされなかった。1796年2月9日に16年の統治を経て偉大な乾隆帝が死去し，その第五子仁宗が帝位について「嘉慶」が始まったときに，新しい時代は始まっていたのである。
＜解答解説＞
普段はこの企画には東京外大は問題入手が間に合わなくて掲載していないのだが，今回は偶然入手できて間に合ったので載せることにした。この問題文は問題を解く際には全く支障が無いので番外編でもよいかと思ったが，間違え方があまりにもひどいので一応正式収録とした。まず，乾隆帝の治世は61年であって16年ではない。1735年から1795年である。そんなに短いわけがないと違和感を覚えてほしかったところ。しかも乾隆帝の在位年は，彼が「偉大なる祖父の康熙帝より長く在位してはいけない」と考えて到達直前のタイミングで退位したことで有名であり，このエピソードを知っていればまず間違えない。そしてこのエピソードからもう１つ誤りがあることに気づいた読者もいるだろう。乾隆帝は1795年に退位し，1799年に亡くなっているのであって死去と退位は同時ではない。最後の３年間は院政を敷いている。
実はこの文章はドイツ語で書かれた文章の翻訳で，東京外大の作問者当人が訳したとおぼしき文章である。出典：Jurgen Osterhammel, Die Verwandlung der Welt. Eine Geschichte des 19. Jahrhunderts, Munchen, C. H. Beck, 2009, pp. 84-102. とのことなので，原書に当たれそうな人にお願いして原文を確認してもらった。
Als epochaler Einschnitt wurde nicht der Jahreswechsel 1800/1801 empfunden, sondern bereits der 9. Februar 1796, als der glorreiche Kaiser Qianlong nach sechzigjahriger Herrschaft den Thron an seinen funften Sohn Yongyan ubergab, der sich den Regierungsnamen ≪Jiaqing≫ beilegte.
該当部分がこれで，ざっと翻訳すれば「1800年から1801年の変わり目は画期的な転換点と見なされず，むしろ1796年2月9日，すなわち偉大な乾隆帝が60年の治世を経て彼の５番目の息子（嘉慶帝）に譲位したときがそう（画期的な転換点）であった。」くらいか。要するに原著者は全く間違っておらず，訳者がとんでもなく誤訳している。外語大さんどうしちゃったの？ 西洋中心史観をいましめる文章で，中国史についてのありえない間違いを翻訳者がするというのはひどい自己矛盾を感じる。翻訳者は作問している場合ではなく，本人が高校世界史をやり直した方がよい。文章のこの部分が解答上無関係で本当に良かった。実はこの直後の文から下線が引かれているので，かなり危なかった。なお，嘉慶帝は第15子なので原文にも誤りはある。ぐだぐだである。
４．一橋大
＜種別＞難問・解答不明
＜問題＞２ ヨーロッパ文化に関する次の文章を読み、問いに答えなさい。
「シェークスピーアのイングランド」，(a)「ゲーテの時代」，このような言葉から，人々はある特色によって内面的に統一された文化現象の全体的印象を受ける。いやそれ以上に，後代の人々が一種の憧憬れの感情を以て見返るようなもの，後代には既に失われた青春の活力，後代が僅かにその余映を仰ぐような新しい指導価値が，突然に国民の中に芽生え，成長し，彼等の月並な伝統的生活，その動脈硬化的生活力を一新する時代，いわば歴史的な最良の時代を想い浮かべる。丁度，それと同じような意味で，(b)「レムブラント［レンブラント］時代」という言葉が，オランダの歴史家達によって使われる。
（村松恒一郎『文化と経済』により引用。ただし一部改変）
問い 下線部(a)(b)について，「ゲーテの時代」と「レムブラント時代」の文化史的特性の差違を，下の史料１及び史料２を参考にし，当該地域の社会的コンテクストを対比しつつ考察しなさい。（400字以内）
史料１
（レンブラント作「織物商組合の幹部たち」）
史料２
たしかにわれわれの帝国の体制はあまりほめられたようなものではなく，法律の濫用ばかりで成り立っていることをわれわれも認めたが，フランスの現在の体制よりはすぐれていると考えた。〔中略〕しかし他の何物よりもわれわれをフランス人から遠ざけたのは，フランス文化追従に熱心な王と同じく，ドイツ人全般に趣味が欠けているという，繰り返し述べられる無礼な主張であった。〔中略〕フランス文学自体に，努力する青年を引きつけるよりは反発させずにはおかないような性質があったのである。すなわち，フランス文学は年老い，高貴であった。そしてこの二つは，生の享受と自由を求める青年を喜ばせるようなものではなかった。
（ゲーテ『詩と真実』より引用。但し，一部改変）
＜解答解説＞
村松恒一郎は東京商科大学から一橋大学に切り替わるタイミングにいた教授であり，すなわちこの問題は駿台命名の「一橋大レジェンドシリーズ」である。過去のそれにふさわしい難易度を誇る。さて問題の要求は，問題文のいう「後代の人々が一種の憧憬れを以て見返るようなもの」「後代に失われた青春の活力」「後代が僅かにその余映を仰ぐような新しい指導価値」を，「レンブラント時代」と「ゲーテの時代」からそれぞれ見出し，史料１・２を参考にして，当該地域の社会的コンテクストも考慮しながら，対比的に描き出せということになる。したがって，まずそれを見出せないことには描き出しようがない。まず無駄にカタカナを使うのをやめろ。コンテクストじゃなくて背景って書け。
片方の「レンブラント時代」はさして難しくない。スペインから独立したばかりのオランダは新興国らしい活力にあふれていた。その活力の源は覇権国家たる経済力，それを支える中継貿易がもたらす国際色豊かな雰囲気，商人集団主体で早々と芽生えた市民社会，独立の経緯と国際貿易の都合から芽生えた宗教と移民に対する寛容の風潮である。史料１がレンブラントの集団肖像画というのも，いかにも市民社会に言及せよと言っている。レンブラントやフェルメールが主導したバロック絵画は名高く，グロティウスは「国際法の父」となり，スピノザは哲学史に燦然と輝く成果を残し（デカルトも一時期オランダに住んでいたからこれを挙げてもいいだろう），それぞれ後世に対して圧倒的な指導的地位に立った。後世にThe Dutch Golden Age，オランダ黄金期と呼ばれたことに鑑みても（まさに「歴史的な最良の時代」である），引用された『文化と経済』に挙げられた「後代の憧れ」「青春の活力」「新たな指導価値」という全ての条件を満たす要素を早期に発見可能である。これと「シェークスピーアのイングランド」の比較だったら文化史の良問で丁度いい程度の難問だったのだが。それはそれとして，レンブラント時代とは最近はあまり言わない気が。オランダ黄金期の通りが良いので，わざわざ個人名を冠する必要もなく，レンブラントがシェイクスピアほど別格の代表的文化人だったというわけでもなく。
逆に極めて厄介なのが「ゲーテの時代」である。まずゲーテの活動年代は恐ろしく長い。1749年に生まれて1770年頃から執筆活動を開始，亡くなった1832年まで活動を続けている。この間に時代も近世から近代に移り変わっている。範囲内の知識を想起して解答を作成しようとすると，多くの受験生はもうここで手が止まるだろう。古典主義文学・シュトゥルム＝ウント＝ドラング（疾風怒濤）の用語は覚えていても，中身までは深入りしない。教科書本文には「シュトゥルム＝ウント＝ドラングがロマン主義の先駆になった」というような記述が一応あるが，逆にこれくらいしか書いていない。他の文化は……せいぜい古典派音楽のモーツァルト・ハイドン・ベートーヴェンくらいだろうか。しかもベートーヴェン以外の二人は活動地域がオーストリア中心であるので厳密には外れる。あとはロココ様式のサンスーシ宮殿くらいか，というところでこれを史料２の「フランス文化追従に熱心な王」という言葉と結びつけられたら，加えてフリードリヒ２世が啓蒙専制君主であってフランス人のヴォルテールと交流していたことも想起できていたら，相当に優秀な受験生だろう。ゲーテはフリードリヒ２世に対して批判的だったのではあるまいか。おまけに史料２には「フランス文学は老成していて，ドイツの青年は反発せずにはいられなかった」とあるから，もうほとんど国語的な解き方になるが，ゲーテはフランスの文化は成熟しきっていて先が無く，逆にドイツの文化には未来があると考えていたのではないかと推測が立てられる（なおこれらの推測は実際に正しい）。この推測は『文化と経済』でいう「青春の活力」に該当するから間違いなさそう。とすると「新しい指導価値」は疾風怒濤の運動やロマン主義のことだろうか。「後代の憧れ」もこれらの後世への影響を考えれば該当しそうである。しかも，オランダ黄金期はバロックの時代と同義語であるように，様々な文化が勃興してから完成に至るまで続き，それを支える社会的背景も含めて変化しなかった。それに対してゲーテ時代は疾風怒濤を先駆として，ロココ様式や古典主義からロマン主義に変化する時代であって，社会史で見ても近世から近代に変化しているから，完成の時代と変化の時代で対比ができる。ちょうどベートーヴェンも古典主義からロマン主義への変化にかかわっているので，これを補強できるだろう。
ということで，難解ながら史料２を手がかりに問題文の述べる要素を見出すところまでは意外となんとかなる。ここまでたどり着いた人は，対策をしっかり立ててきた一橋大受験生ならそれなりにいたかもしれない……いや，いたかな。能力的にはできても試験時間が120分，大問３つあるから40分で，オランダの部分に10分と清書に10分かかるとすると実質シンキングタイム20分なんだよな。他の大問もまともな問題なだけで普通に難しいから，他をさくっとつぶしてここに持ってくるという戦略がとれない。それこそ私でもここまでの思考で20分はかかっている気がするので，若い18〜20歳の柔らかい頭でも厳しそう。この時点で，知識的には範囲内でも無理な難問判定しても良さそう。
ひとまずここまでの内容だけで解答を作ってみようとする。「ゲーテの時代は近世から近代に移り変わる激動の時代であった。これを背景に，ゲーテはフランスと啓蒙思想を老成していると見なして嫌い，批判した。そこでドイツ古典主義を標榜し，疾風怒濤の運動を起こしてドイツ文化の革新を唱えた。これはロマン主義の先駆となった。」……さらっと読むとまとまっているように見えるが，よくよく読むといろいろと不自然なことに気づく。まず，そういえば疾風怒濤って激しそうなイメージなのにロマン主義じゃなくて均整美の古典主義なの？ 古典主義とロマン主義って逆の文化的潮流なのになんでつながるの？ という疑問は誰しもが抱くところだろう。はい，この辺はまさに説明が面倒になるから高校世界史では省略している部分であって，ここで高校世界史の範囲を超える教養がないと詰みである。思考力で推測できるようなものでもない。しかも答案の中核になるべき部分がフランスと啓蒙思想への嫌悪というゲーテの個人的な感情というとんでもないことになっている。彼が批判した理由が答案上示されていないためである。そんな世界史の答案ある？？？ 国語の小説の解答文じゃないので，ここに感情ではない根拠を持ってこないといけない。始まりがゲーテの個人的な感情だったとしても，他の文学者が共鳴した理由を持ってこないといけないのである。さらに言えば，この答案はドイツ＝ロマン主義の勃興が社会的背景と結びついていないのを「これ（近世から近代への変化）を背景に」でごまかしている。これでは何の説明にもなっていないことに，読者諸氏は気づかれただろうか。この答案には，オランダでいうところの「貿易による経済力」「国際色豊かな雰囲気」「市民社会」「宗教的寛容の風潮」にあたる具体的な説明が見当たらない。当然，黄金期オランダとの対比にもなっていない。高校世界史でもドイツを含めた東欧地域は英仏に比べて市民階層の成長が遅れていて，だからこそ啓蒙専制君主によるキャッチアップが図られたくらいのことは学習する。では，早く到来したオランダの市民社会と，市民階層未成長のドイツという比較でよいか？ 比較そのものはこれで成り立っているとしても，市民階層が未成長であることとロマン主義の勃興を結びつけた説明を高校世界史範囲内の知識や思考力ではできないのである。
ここからは大人による反則技の解法になる。一つずつ紐解いていこう。ゲーテの文学者としての態度は二度の変転があり，つまり三期に分かれている。まずここからして知識が細かすぎる。1770年頃，彼が文壇デビューした頃は疾風怒濤の時代にあたる。この時期の代表作が『若きヴェルター（ウェルテル）の悩み』で1774年の作品。しかし，この時期は実はそれほど長くない。1775年11月に政治家に転向してヴァイマル公国に就職し，見事に出世して1779年に宰相に上り詰める。この本業が忙しくなりすぎて文学活動をしている場合ではなくなったのが一つ，またこうした政治活動や年上の女性（シュタイン夫人）との恋愛を通じてゲーテ自身が成熟してしまったのが一つあり，これらによってゲーテは疾風怒濤の運動を若気の至りと考えるようになったようだ。疾風怒濤の運動自体も1780年頃に失速している。
この宰相の仕事や年上の女性との恋愛に息が詰まってしまって，全てを投げ出してイタリアへの旅行にでかけたのが1786年。イタリアで古典古代の文化に触れたことを契機に，一転して均整美や調和を尊ぶ古典主義に転向した。これは盟友シラーとの出会い・意気投合により深まって，シラーの死ぬ1805年まで続く。しかし，ドイツ古典主義文学は基本的にゲーテとシラーの二人だけの運動であって，疾風怒濤やロマン主義のような大きな潮流になっていない。参加した二人があまりにも文学史上の巨人であったから取り上げられるにすぎない。そして1805年以降がゲーテの第三期，晩年の時期になる。文学史上の潮流はもうロマン主義になっていたが，ゲーテ自身は今更それにのれず，むしろ「古典的世界は健康的であり，ロマン的世界は病的である」と言って批判的な態度をとっていた。しかし，世間は人間の感情の発露を描いた疾風怒濤期のゲーテの作品にロマン主義の萌芽を見ていたからゲーテは時代の先駆者としてロマン主義者たちから尊敬を集めることもあったので，ゲーテ本人の気分は複雑だっただろう。美術史的なことを言えば，ゲーテは当初はロマン主義美術を応援していたが，先鋭化するにつれて手のひらを返している。
さて，史料２の『詩と真実』であるが，これは1811年，つまり晩年に書かれた自叙伝である。ただし，振り返っているのは1775年まで，つまり疾風怒涛期の自分というところが思わぬトラップで，引用された部分も疾風怒涛期のゲーテの考えと言える。つまり『詩と真実』は晩年になされた疾風怒濤期の回想であるから，これに従うなら古典主義期のゲーテは一切無視してよいということになる。それならかなり話は単純になる。
また，ゲーテが生きた時代はフランスの文化・思想がグローバルスタンダードと見なされていた時代であった。フランス語が国際共通語であり，フランス古典主義の演劇やロココ様式の美術を見て，最先端の啓蒙思想ルソーやヴォルテールを読む。それが洗練された貴族趣味であった。この状況はフランス革命が起きても，広がる文化が新古典主義の美術と革命思想・ナショナリズムに変わっただけで，フランスの普遍性は変わらなかった。周辺諸国はフランスに憧れ，嫉妬しつつも受容していたのである。いや音楽はバッハがいたからドイツの方が先進的だったのではないかというのは良い気づきで，ドイツが音楽の先進地帯というのは19世紀以後の話であって18世紀まではイタリア人の専売特許であった。先祖探し的にバッハが後世に「音楽の父」になっていったに過ぎない……というのは映画『アマデウス』や『Fate/Grand Order』のサリエリ沼から知ったという人も多そう。
ゲーテが批判的であったのはまさにこのフランス文化の普遍性という名の押し売りである。ゲーテから見ればフランス文化は全人類が受容すべき普遍性を備えているわけではなく，洗練されていて先進的だから，相対的な優位があって他国にも受容されているに過ぎない。そして洗練されているからこそ成長の余地がなく，老成している。ゲーテはこのフランスへの反発心から，ドイツ固有の文化を尊重した。人類は多様であってよいのである。ドイツ人がドイツ文化を愛でて育て，フランスと対等な地位まで引き上げればよいのだ。ストラスブール大聖堂をドイツ的と称揚してゴシック＝リヴァイヴァルの先鞭をつけたのも，疾風怒涛期のゲーテである。中世への憧憬はロマン主義の特徴の一つだから，やはりゲーテがロマン主義の先鞭をつけている。
政治思想としても，ゲーテは前述の通り明らかにドイツ文化への愛着を持っていてナショナリズムにつながる動きを見せていたし，ナポレオンの登場の歴史的な意義を認めていた。だから『若きヴェルターの悩み』に感動したナポレオンに表敬訪問されれば喜んで受けた。ゆえにそれらを生み出したフランス革命を全否定していたわけではないが，その病的な熱狂はやはりロマン主義同様に受け入れられなかった。なお，ゲーテは見栄っ張りで過去の自分の発言を後から都合よく創作して自分に先見の明があったかのように見せたがる人でもあった。よく言われるヴァルミーの戦い（1792年）従軍の際の「ここから，そしてこの日から，世界史の新しい時代が始まる」という言葉は，晩年に書かれた日記にあの時私はこう言った的に書かれているに過ぎず，実は当時に言ったという証拠が無い。したがって，この発言からゲーテがフランス革命に肯定的だったと見なすのは実証的に無理がある。
もっとも，ゲーテをあてこすらなくてもフランス革命とナポレオン戦争に対する葛藤は当時のドイツの知識人・市民階層に共通して見られるものである。封建社会からの解放は喜ばしいが，それがフランスの侵略と占領によってもたらされるのは拒絶したい。政治的・社会的に立ち遅れたドイツ自身を恥に思う気持ちもあるが，フランスの猿真似は屈辱である。こうした葛藤こそが，ゲーテから離陸したロマン主義の原動力の一部となったと言ってもよいだろう。革命と反仏ナショナリズムの高揚感はドイツ＝ロマン主義を燃え上がらせた。ここが「ゲーテの時代」という表現の困ったところであって，ゲーテの晩年は明らかにロマン主義の全盛の時期であるが，ゲーテ自身はロマン主義を嫌っていて属さない。とはいえ「ゲーテの時代」の後半はロマン主義者が中心の時代であると断言してしまうのも，死の直前まで執筆活動をしていたゲーテ自身を無視することになる。結局のところゲーテの時代とはそうした矛盾をはらむネーミングとしか言いようがない。17世紀のオランダ社会が持つ若い活力とは新興国らしい溌剌さであったが，「ゲーテの時代」のドイツは『若きヴェルターの悩み』そのもので，内省と葛藤に満ちたものであった。とはいえ，そうした疾風怒濤・ロマン主義（と古典主義）が後世に憧憬の念で見られ，指導価値を持つのは疑いない。また社会との結びつきも，発展途上の市民社会だったからこその葛藤であるとしてなんとか説明がつく。
これらの内容を改めて解答としてまとめ直すと，「近世末に活動を開始したゲーテは洗練されすぎたフランス文化と啓蒙思想の普遍性を否定し，これに対抗すべく疾風怒濤の運動を起こした。折しも生じたフランス革命とナポレオン戦争はより強い政治的・文化的圧迫をドイツ社会に与え，発展途上の市民社会に強い葛藤を引き起こした。こうした流れが合流し，ゲーテ自身の思いとは裏腹にナショナリズムとロマン主義の風潮が高まり，ドイツ文化は変革とともに大きく発展する時代となった。」くらいになろうか。これでちょうど200字なので，綺麗にオランダと半々の解答が作れるだろう。
というように長々と偉そうに書いたけれども，この解答で合っているかどうかは私も事実確認のレベルで自信が無いし，仮に事実誤認が無かったとしても作問者の想定した正解と合致しているかも自信が無い。さらに，この解答で正解だったとしても，18歳の自分にこの解答が作れたかと問われると，200％無理としか言えない。書いておいてなんだけど，本当にここまで要求してるのかな。私がここに書いた解答の水準まで要求しているとするなら，本問は無茶振り度において2014年度の「歴史なき民」を超えたと思う。
各予備校の解答速報を見ると，駿台の解答はかなり整っていて，最後を「ゲーテはこれに批判的であった」で締めているのはポイント高い。それでもフランスの普遍性に対する反発という要素が解答から欠けていて，それどころかフリードリヒ２世をやや肯定的に紹介してしまっているのは史料２をうまく使えていない。代ゼミの解答は，ちゃんと変革と葛藤に言及できている。しかし，古典主義に言及するトラップに引っかかっているのがちょっと問題である。河合塾の解答は，フランスでは絶対王政の下で宮廷文化が育って市民文化は微妙だった，ドイツは領邦の分権体制だったから市民文化が育ったということを解答の主軸にしていて，独自性がある。確かに史料２の上２行からそういう解釈はできるし，これは事実関係として正しい。近世末のドイツは領邦国家が乱立してそれぞれが絶対王政的な官僚制を整備したために，官僚の母体になる知識人階級の需要が増大して大学の創設が次々に進み，それに伴って識字率はフランスを上回るまでに成長した。これがゲーテたちの文学活動の背景になる（参考文献：『ゲーテとその時代』坂井榮八郎，朝日選書，1996年）。ただし，この解答は次の点で問題がある。17世紀のネーデルラント連邦共和国も分権的で中央政府の権限が弱かったので，当該地域の社会的コンテクストは似通っているということになってしまい，「対比しつつ考察せよ」という問題の要求に反する。通常「比較せよ」と言われたら共通点も挙げるが，「対比せよ」と要求されたら相違点しか挙げない。また，そもそも河合塾の解答はそのオランダの分権的社会には言及がないので片手落ちである。しかも，この解答だと今度は史料２の下４行に触れられておらず，一長一短である。とはいえ下４行に触れるには字数が厳しいのも確かであり，結局のところ要求に対して400字という字数が少なすぎるのが根本的に悪い。残った東進は解答未発表である。３月中旬にもなって出ていないのは，さすがに速報ではない。
最後に，私はこの村松恒一郎『文化と経済』を古本屋で売っていたので買って，ぱらぱらと読んでみた。本書は歴史家（経済史家）の村松恒一郎が書いた論文集であり，序文で著者自らが「散漫たるEssay集といった観もなくもない」「本書の一体的姿勢を読者の推察にゆだねることは，おそらく無理な要求というべき」としたためているように，事実として本書は散漫かつ壮大な構成のエッセイと論文の間のような文章の塊である。マックス＝ヴェーバーの思想研究に始まって中世西欧の都市国家に言及してみたり，日本の20世紀前半までの西洋史研究史をまとめてみたり，かと思えば中国史や日本史に言及し，あれこれ話が飛んで最終章で17世紀オランダ史が登場する。その上で言えば，この最終章を読んでも「ゲーテの時代」は史料２の部分以外で一切出てこない。「レンブラント時代」の解説は重厚になされるが，そこで強調されていたのはオランダの商業活動の自由と政治的分権体制であったことである……え，まさか本当に17世紀オランダも領邦体制のドイツも分権的だったから市民が成長したという点で共通していたというのが落ち？ マジで？ 対比的にとは何だったの？ でも『文化と経済』の中にゲーテの時代の説明があるわけじゃないしな……もう何もわからん。
名古屋大は収録なし。というか良い問題だった。担当者が変わったのか，文科省のお達しの効果か，単純に改心したのかはわからないが，ともかく非常に良いことである。
５．京都大
＜種別＞悪問
＜問題＞４ (4) アテネはペルシア戦争後に結成した，諸ポリスをとりまとめた組織によって他のポリスを支配した。その組織の名を記せ。
＜解答解説＞
過去に何問か類似例がある問題。ペルシア戦争はプラタイアの戦い（前479年）をもって終戦と見なすか，カリアスの和約（前449年）をもって終戦と見なすかで見解が割れている。戦闘はほぼプラタイアの戦いが最後で，ここでギリシア側の勝利が確定しているためであるが，明確な講和条約まで約30年間の小競り合い期間がある。その上で，正解となるデロス同盟の結成は前478年頃であるので，前者であれば終戦直後，後者であれば戦争中の結成ということになる。高校世界史では，多くの教科書が「プラタイアの戦いで勝利は決定的となった」としつつも，終戦のタイミングはぼかして明言せず，その上でペルシア戦争に「前500〜前449」と年号を付すことでなんとなくやり過ごしている。執筆者は誰しもが事情を知っているので，こう処理するしかないと考えるのだろう。その中で帝国書院の教科書のみ，例外的にデロス同盟の結成はペルシア戦争の終結前と明言している。また山川の用語集も「カリアスの和約」の名前を出して終戦のタイミングを明言している。つまり，帝国書院の教科書と山川の用語集だけで学習をしてきた受験生からすると，本問は正解が不在になってしまう。実際の受験勉強でもほとんどの指導者は（早慶対策として）カリアスの和約の名前を出して「前449年終戦」で教えるだろうから，本問の問題文は受験生の認識と大きく食い違うことになり，混乱を招いたと思われる。それでも「諸ポリスをとりまとめた組織によって他のポリスを支配した」という部分からデロス同盟を導いて解答するとは思うが。京都大学たるもの，もっと迷わない問題文を書いてほしい。
６．京都大（２つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞４ (24) これ（編註：捕鯨）を題材にした小説『白鯨（モビーディック）』の作者は誰か。
＜解答解説＞
正解はメルヴィル。2018年の東京外大でも出題されており，東京外大はその年のオープンキャンパスで「世間一般の知名度は高い作品・作家であっても，教科書に記述がないからという理由だけで出題しない，という姿勢は，世界史を現実社会と切り離してしまうものです」という声明を発表して一部界隈を仰天させた。東京外大自らが認めている通り純然たる範囲外の難問であるが，京大の入試担当者は東京外大の思想に共鳴してしまったか。
７．大阪大
＜種別＞難問・奇問・解答不明
＜問題＞下に掲げる図I ・図IIは，いずれも，アフリカ大陸原産の大型草食獣・キリンが，15世紀当時における東西の権力者に献上された様子を描いたものである。左は，��明王朝の皇帝，朱棣（永楽帝，在位1402-24年）への，右は��フィレンツェのロレンツォ＝ デ＝メディチ（1449-92年）に対する献納品として，キリンが描きこまれている。異域に生息する巨大な珍獣というプレゼントは，権力者の威光を演出し広く宣示するために， あるいは古典期の博物学的な知識とのつながりを示すうえで，絶好の題材だっただろう。
グローバル規模での人と人の交流に翻弄される動物をめぐる問題は，現在も形をかえて多くの論議を巻き起こしつつある。
図�機／隸�麒麟図〈沈度題〉
（編註：図�兇肋蔑�）
問１ 図�気蓮げ疾�部�，凌擁�に対してベンガルから贈られたキリンを描いたものとされる。キリンが下線部�，凌擁�に献上された背景について，明王朝内外の政治・軍事的状況を踏まえて論述しなさい。なお，絵のタイトルも参考にしつつ，使節の服装やキリンが示す象徴的意味についても，論及すること（200字程度）。
＜解答解説＞
おそらく良問と見なすか超難問と見なすかで意見が割れる問題。こういう時に私は慎重に検討してなるべく収録対象としないようにしている。だから一橋大の，受験生が超難問だと騒いでいる問題も意外と収録していない。しかし，本問に関しては言い訳の余地なく蛮勇のまずい問題だと考えている。詳細な理由の説明が必要だと思われるので，以下に示す。
本問の要求を分解すると，１．明王朝内部の政治・軍事上の状況を踏まえて，キリンが永楽帝に献上された背景を説明する。２．明王朝外部の政治・軍事上の状況を踏まえて，キリンが永楽帝に献上された背景を説明する。３．キリンの示す象徴的意味を，１または２に沿った形で示す。４．同じく使節の服装の象徴的意味について，１または２に沿って示す。
このうち１・２は問題ない。永楽帝は靖難の役で建文帝から帝位を簒奪したので，正統性が危ぶまれていたというのがまず内部事情。そのため冊封体制の再建を目指し，中国皇帝の威徳が世界中に行き届いた証明として遠方からの朝貢国を求めていた。これに伴って遠方の国々からの朝貢が活性化していたというのが外部事情。これらのために，アフリカという遠方の品が届けられたというのは永楽帝にとって吉報であった。ここまでは標準的な知識で書けるところであるし，「瑞応麒麟図」もいくつかの教科書・資料集には載っていて初見ではないだろうことも含めて，知識・思考力が問われる良い問題であろう。
３はまあ，際どいラインである。要するにキリンは伝説上の瑞獣である「麒麟」に比定されたため，このような瑞獣が現れたのは徳の高い君主による善政の証明と見なされた。前述の通り，正常な継承がなされなかったために正統性を疑問視されていた永楽帝にとってはその状況を覆す材料であった。善政が天帝に認められた結果として麒麟が現れたのだから，易姓革命が正当化されるのと同じように，靖難の役は許されたのだというロジックが成り立つ。さて，このような解答を書くには受験生が「麒麟」が瑞獣であることを知っているか，あるいは問題文からのヒントを拾って気づかないと，思考力以前の問題になってしまって不可能である。とすると出題側の意図としては，
A．日本人として当年の大河ドラマくらい見ているのが常識であり，『麒麟がくる』で麒麟は「仁のある政治をする為政者が現れる」とか「平和な世に現れる」としばしば言及されていたので，受験生にも当然その知識があるはずである。大河ドラマを見ていない非国民は本問でハンデを負ってもらってかまわない。
B．大河ドラマに関係なく，動物のキリンの名前の由来が瑞獣の麒麟にあることくらい一般教養として受験生に求めてよいものである。また，高校教員や予備校講師は鄭和の遠征を扱う授業中にこのことに触れているであろう。
C．仮に麒麟についての知識が無かろうとも，問題文に「絵のタイトルも参考にしつつ」とあるように，「瑞応麒麟図」というタイトルの「瑞」から瑞獣であることは推測可能である。
という３つのパターンくらいであろうか。Aはまあ関西ジョークとして，Bが主となる出題意図だと思うが，Cを用意してくれた分だけ有情である。これがあるからぎりぎり範囲内で通ると思う。
最悪なのが４。皆さん，この服装が何か推測できます？ 高校世界史で服飾の歴史にほぼ全く触れず，この服装が現在の日本人の教養として一般的でもない以上，私は無理だと思う。そして服装の図像読解ができなければ本問は麒麟以上に詰みである。思考力を働かせる段階に行かない。あるいは「使節の服装に注目せよ」という指示から「何かしら特殊な服装をしているのだろう」と出題者の意図を読み，上半身が右前の着方になっているのは和服と同じ，ということはおそらく東アジア圏の着方なのだろう……という推測を立てるのが思考力ということだろうか。私はそれは論理的な思考ではなく跳躍的な発想だと思う。
実のところ私も確証のある正解を出せていないのだけど，これは漢服だと思う。私自身が上述のような当たりをつけて画像検索して，大体同じような服装が出てきたからそう思っているというだけなのだが……。こういうときに知恵を借りたい予備校の解答は，私と同じように漢服という解答を出していたのは代ゼミのみで，河合塾と駿台は解答で全く使節の服装に触れていない。河合塾が講評コメントで「絵に描かれた使節の服装やキリンが示す象徴的意味についてどれだけ言及できるかがポイント」と書いているのは何かのジョークかな？ それとも「異国からの使者」というフレーズで表現しているつもりなのだろうか。問題文に「ベンガル」と明示されているのだから，それは絵を読み取ったことにはならない。東進は解答を出したのが他３社から遅れること１週間で他社の解答を参照にしていると思われるから，自力でたどりついたのは代ゼミのみだと思われる。とはいえ，予備校が自らの看板をかけて，しかも受験生にはないインターネットと専門書というアドバンテージを使って作った解答でさえも，多数派は触れずにごまかすのが精一杯だったということだ。そもそも「瑞応麒麟図」の使者に注目した専門書や論文，私には見つからなかったのだが……おや，例の南蛮屏風の雰囲気が漂ってきましたね？
ともあれ，漢服で正しいなら解答は作れる。冊封体制とは「中国皇帝の威徳を慕って諸国が朝貢に来る」という理念を前提に成り立つ国際関係であり，中華（中国）の文明そのものである「中華」と，中華の文明を受容しているが完全に中華化していない冊封国，皇帝の威徳は届いているが中華の文明を受容していない朝貢国，中華の文明の価値に気づいていない夷狄……とグラデーション的に，放射状に広がる世界観である。その上で，遙か遠方のベンガルから来た使節が中華文明の衣服を着ていたら，永楽帝はベンガルでさえも自らの威徳が通じて中華になろうとしていると感激するだろう。おそらく，そうした意図から中国側の官僚が，やってきたベンガルの使者を謁見前に着替えさせたのだろう。解答上はこの辺を短くまとめて「使者が中国風の衣装であることは，永楽帝の外交政策に正当性を与え，麒麟の意味を強調した」くらいになるだろうか。
このように書くと「解答が出るならいいのではないか」「そもそも阪大は受験生の発想を見ているのであって，史実に合致していなくても加点されるのではないか」という反論が出てくるだろう。しかしまず，私自身が漢服に見えるというだけで，これが正解という確証が全く無い。前述の通りの推測でしかない私のあやふやな説明をもって解答可能な問題とは思わないでほしい。中国史に詳しい知人が多分漢服で正しいと言っていたので大丈夫だとは思うが……。私以外の人々，たとえば解答速報を出している予備校各社も前述の通りであり，その他を見渡してもネット上で確実な解答を書いている人は見当たらなかった。だからこれはまともな「解答を出すことが可能な問題」とは言えない。次に，以前から書いているようにそこまで大学の採点者に信頼が持てるか。こういう無茶な出題をしてくる時点でちょっと怪しい。とはいえここは譲って，これまで良問の山を築いてきた阪大だからこそ内部的に統制がとれていて，「発想がよければ史実として誤っていても加点する」採点をしているだろうと信用することにしよう。
それでも本問は根本的な欠陥がある。多分，日本全国の美術史学研究室に入って真っ先に言われることの一つに「画家は描きたい作品の理想像に従って（あるいは考証の不備から）図像を変えてしまうので，描かれた図像がその時代・地域のものだと信用してはいけない」というものがあると思うのだが，本問はそれに抵触していると思われる。極めて単純な事例を出すなら，たとえばレオナルド＝ダ＝ヴィンチの《受胎告知》。あの背景は本来であればパレスチナの荒涼たる風景であるはずだが，実際に描かれているのはトスカナ地方の田園風景である。なるほどこれは伝説上の出来事だろうし，15世紀末では考証の材料も少なかっただろう。では，たとえば《サン＝ベルナール峠を越えるボナパルト》ではどうか。ダヴィドはナポレオン本人含めて一次史料に触れる機会がいくらでもあったが，実際のナポレオンはロバ（またはラバ）に乗っていたと伝わるし，ナポレオンも随分美化されて描かれていて，服装も防寒着を着ていない点で嘘がある。
「瑞応麒麟図」も真実を描いているとは限らない。実際の使者はベンガルの服装を着ていたところ，画家が永楽帝の歓心を得るために漢服で描いた，あるいは実は現場に画家がおらず，使者の服装は想像で描いたかつその画家が漢服以外の知識を持ってなかったので漢服で描かざるを得なかったという可能性は捨てきれない。本問もせめて「このように描かれた意図は何であったか」ならまだ言い訳がついただろうが，この問題文はどう読んでも「瑞応麒麟図」に描かれたものを事実として扱っている。この違いは美術史学上で重要で，大した違いではないと棄却されたら多分全世界の美術史家が鼻血吹いて憤死すると思う。なお，中国史に詳しい知人からは「美術史に詳しくなくても中国史をやっていればこれらの可能性は当然想起されるべき」とのコメントをもらった。要するに史料批判の無い状態で発想を組み立てることを素人に要求しているのだが，史学科として，文学部としてそれでよいのか。私はこれを市民的教養として持つべき思考力とも，歴史学的な思考力とも全く思わない。
一点だけ本問を擁護するなら，遊びの部分が小さく，冒頭で立てた整理の通り４点の論点のうち２つの部分は良問であり，しかも配点の大半もここにあると思われる。３つめの麒麟もまあセーフとするなら配点の８〜９割はセーフということになり，受験生が答えられないし答えてもいけない部分はほぼ合否に関係が無い。大河ドラマにひっかけた関西ジョークも含めれば多重の小さな「遊び」のある問題ということだ。実際の被害は少なかろう。
なお余談だが，本作（台湾故宮博物院所蔵）は後世に“少なくとも”三作の模作があり（日本語版Wikipediaは「模作は二作」としているが誤り），一つは1414年の本作から約100年後の明朝中期に描かれたもので，麒麟にギザギザ模様が入っていることに加えて，使者は服装こそ変わらないが中国人顔に近くなっている。フィラデルフィア美術館所蔵。
二つ目はオリジナルから約300年後の清朝初期に描かれ，使者はそれなりに再現度が高いが，麒麟は何か黒い。あとヘキサゴンマップみたいな模様になっている。中国国家博物館所蔵。
三つ目は制作年不詳，おそらく清朝初期に描かれ，こちらは使者が二人に増えている上に，風貌や服装が中央アジア風になっている。メトロポリタン美術館所蔵。明朝中期はともかく清朝初期ならその方が海外との交流が増えて考証学も発展して，考証が有利になっていると思われるのに，三つ目は中央アジアの馬丁に引かせることで完全なファンタジーに置き換え，エキゾチックな雰囲気を醸し出すことに成功している。
Posted by dg_law at 19:30│Comments(20)
この記事へのコメント
二日間にわたる更新、お疲れさまでした。今年も今年でなかなか大変だったようで……
私が入学した年の一橋は過去10年見て最も易しいといって過言でなかった年だったので、今年度の世界史受験生には勝手ながら同情しました。今年度は大問1が(例年と傾向が違うとはいえ)比較的易問だったので、これと大問3でどれだけ稼げたかといったところでしょうか……さすがに大問2は自分が今年度の受験生だったらオランダ側だけ考えてあとは適当に書いてしまうと思います。
ともかく、来年度も(今年度ほどではないにしろ)COVID-19に伴う社会変化に影響を受けた受験生が多くなるでしょうから、(そうでなかったとしても)彼等彼女等がやってきた努力が水泡に帰さないような入試が来年度行われることを祈るばかりです。
私が入学した年の一橋は過去10年見て最も易しいといって過言でなかった年だったので、今年度の世界史受験生には勝手ながら同情しました。今年度は大問1が(例年と傾向が違うとはいえ)比較的易問だったので、これと大問3でどれだけ稼げたかといったところでしょうか……さすがに大問2は自分が今年度の受験生だったらオランダ側だけ考えてあとは適当に書いてしまうと思います。
ともかく、来年度も(今年度ほどではないにしろ)COVID-19に伴う社会変化に影響を受けた受験生が多くなるでしょうから、(そうでなかったとしても)彼等彼女等がやってきた努力が水泡に帰さないような入試が来年度行われることを祈るばかりです。
Posted by saranade at 2021年03月20日 20:03
いつもありがとうございます。
＞グローバル規模での人と人の交流に翻弄される動物をめぐる問題は，現在も形をかえて多くの論議を巻き起こしつつある。
阪大はまさかSDGsの発想が出来ないとだめなんてことになったら阿鼻叫喚
それはほんとの冗談なのでさておき、
阪大史学（高大連携）側はこんなことをいってシンポジウムしているのはなにかのジョークなのでしょうかね。
「これからの入試の話をしよう；手間をかけずに良問を作って採点できる『コロンブスの卵』を探して」
＞グローバル規模での人と人の交流に翻弄される動物をめぐる問題は，現在も形をかえて多くの論議を巻き起こしつつある。
阪大はまさかSDGsの発想が出来ないとだめなんてことになったら阿鼻叫喚
それはほんとの冗談なのでさておき、
阪大史学（高大連携）側はこんなことをいってシンポジウムしているのはなにかのジョークなのでしょうかね。
「これからの入試の話をしよう；手間をかけずに良問を作って採点できる『コロンブスの卵』を探して」
Posted by おおおんづけ at 2021年03月20日 23:34
２日間の更新お疲れさまでした。とある方がご指摘してましたが、一橋の問題の資料1は2019北海道大学の大問3の問8に出ていましたが，それだけでは易しすぎるので後半のあの文も引っ張ったのかなと過去に他の大学が使ってるやつだから手加減になるという見方もできますね。後半の資料からはなんとかゲーテがフランスからの文化に対して批判的であることを読み取れるのでそこから広げていくことを要求したいのでしょうが、なかなか思考力を問いたいとしてもハイレベルかつ手加減とはといわれても仕方ない形になりましたね。一橋の大問1もある種昨年の時事に繋がりそうなところですね。世界遺産のアヤソフィアをモスク化するエルドアン大統領の話題から着想を得たのかもしれません。
Posted by かっつん at 2021年03月20日 23:50
ブコメ書いた後で調べたんですが、麒麟は誤出題というか阪大の中の人の勘違いに思えます。
http://painting.npm.gov.tw/Painting_Page.aspx?dep=P&PaintingId=6015
「主題技法」を見ると、
主要主題 人物 圉人
主要主題 祥瑞 麒麟
主要主題 走獸 鹿 長頸鹿
と書いてて、圉人というのはどう考えても外交使節じゃなくて飼育係。
国立故宮博物院が飼育係とキリンさんの絵ですよ、と言ってるのを否定する論拠がそうそうあるようにも思えない。
常識的に考えても、権力者に献上品があるときは『諸国の大使の表敬を受けるロレンツォ』みたいに使節を大勢描いて権力者の威信を示す方が普通に思えるます。
また、「題跋資料」で瑞応麒麟頌の全文を読んでも、皇帝の威徳マジパネエ、だからキリンも出ましたワッショイ、としか書いてない感じです。
問題文にあるような意図があるなら「榜葛剌国はこれこれこういう素晴らしい国で、n万里も離れた遠方の国なのに、天子の徳を称えるために、x人の大使節団とともに献上してくれました」ぐらい書いててもよさそうな気がするのですが。
この絵は単に「麒麟てのはこのぐらいの大きさの生物ですよ」と示すため、画家がスケッチの時に一緒に飼育係も描き込んだ、と解釈する方が無難に思えます。
http://painting.npm.gov.tw/Painting_Page.aspx?dep=P&PaintingId=6015
「主題技法」を見ると、
主要主題 人物 圉人
主要主題 祥瑞 麒麟
主要主題 走獸 鹿 長頸鹿
と書いてて、圉人というのはどう考えても外交使節じゃなくて飼育係。
国立故宮博物院が飼育係とキリンさんの絵ですよ、と言ってるのを否定する論拠がそうそうあるようにも思えない。
常識的に考えても、権力者に献上品があるときは『諸国の大使の表敬を受けるロレンツォ』みたいに使節を大勢描いて権力者の威信を示す方が普通に思えるます。
また、「題跋資料」で瑞応麒麟頌の全文を読んでも、皇帝の威徳マジパネエ、だからキリンも出ましたワッショイ、としか書いてない感じです。
問題文にあるような意図があるなら「榜葛剌国はこれこれこういう素晴らしい国で、n万里も離れた遠方の国なのに、天子の徳を称えるために、x人の大使節団とともに献上してくれました」ぐらい書いててもよさそうな気がするのですが。
この絵は単に「麒麟てのはこのぐらいの大きさの生物ですよ」と示すため、画家がスケッチの時に一緒に飼育係も描き込んだ、と解釈する方が無難に思えます。
Posted by シダー近藤 at 2021年03月21日 05:15
お疲れ様です。重厚な分析とツッコミにいつもながら恐れ入ります。
謎の「関西ジョーク」には私の中の木村幹先生が「これだから東国は」と言いだし私の中の板東武者が「東急に羽田行のイメージしかない奴は黙ってろ」と喧嘩を始めそうな。
東外大→京大の「教科書にないことを出しても受験マニアはガタガタ抜かすな」という作題者の本音リレーが見えて面白いですね（皮肉）
高大連携の「坂本龍馬が教科書から消える！」騒ぎの時にあまりに叩かれたせいか「消された用語も入試に出してええんやで」とか言ってましたね。あれは方向性は正しいのにうまくいかない改革の典型例になってしまい皮肉な限りで。
阪大って美術史やってる人いなかったっけ？と思うツッコミ具合ですね。
「絵のタイトルも参考にしつつ，使節の服装"がこのように描かれたこと"やキリンが示す象徴的意味」とでもしておけば……それでも苦しいでしょうか。
謎の「関西ジョーク」には私の中の木村幹先生が「これだから東国は」と言いだし私の中の板東武者が「東急に羽田行のイメージしかない奴は黙ってろ」と喧嘩を始めそうな。
東外大→京大の「教科書にないことを出しても受験マニアはガタガタ抜かすな」という作題者の本音リレーが見えて面白いですね（皮肉）
高大連携の「坂本龍馬が教科書から消える！」騒ぎの時にあまりに叩かれたせいか「消された用語も入試に出してええんやで」とか言ってましたね。あれは方向性は正しいのにうまくいかない改革の典型例になってしまい皮肉な限りで。
阪大って美術史やってる人いなかったっけ？と思うツッコミ具合ですね。
「絵のタイトルも参考にしつつ，使節の服装"がこのように描かれたこと"やキリンが示す象徴的意味」とでもしておけば……それでも苦しいでしょうか。
Posted by 右崎ちゃん at 2021年03月21日 06:38
今年も読みごたえのある分析、お疲れ様でした。堪能させていただきました。
阪大の先生が「レパント戦闘図はレパントじゃない」との研究を発表して賞をとったとの報
ttps://digital.asahi.com/articles/DA3S14674002.html
を聞き、改めて14年度千葉大の作題者を小一時間問い詰めたい気分にかられていたところに、今度はその阪大が絵画を材に無理難題をぶつけてきたということで、奇縁（奇問の縁？）を感じたことでありました。
阪大の先生が「レパント戦闘図はレパントじゃない」との研究を発表して賞をとったとの報
ttps://digital.asahi.com/articles/DA3S14674002.html
を聞き、改めて14年度千葉大の作題者を小一時間問い詰めたい気分にかられていたところに、今度はその阪大が絵画を材に無理難題をぶつけてきたということで、奇縁（奇問の縁？）を感じたことでありました。
Posted by 砂屋 at 2021年03月21日 14:11
みなさんコメントありがとうございます。
＞saranadeさん
一橋大は難易度が安定しませんね。年ごとにどころか大問ごとに安定しないので困ったものです。今年も大問１・３は普通で，大問１は良問でした。大問２は本文にも書いていますが，そのようにオランダだけは適当に仕上げて後は気にしないのが正しかろうと思います。
来年こそは大人しくなると祈りたいです。
＞かっつんさん
あー，あの北大の。覚えています。もし一橋大の作問者があれをイメージソースにしたのかは疑わしいですし，普通の受験対策では一橋大受験生が２年前の北大の過去問を見ていないと思いますので，双方知らないかなと。
大問１はおっしゃる通り半ば時事ネタでしょうね。解答上そこまで入れるかどうかは判断が割れるところですが。
＞シダー近藤さん
この問題の指している使節は正式な使節，朝貢使を差しているのではなく，船団に乗ってきた朝貢使の下僕や付随する商人団等も含めた広い言い方ではないかと思います。もちろん，正確を期せば誤りなのでここは「使節」ではなく「使節に付随した馬丁or飼育係」と表現してほしかったところですけど。
ただし，最悪の場合の想定として，この人は朝貢使が連れてきた飼育係ではなくて受け取った中国側の用意した飼育係ということもありうるのですよね。今書いてて気づいたんですが。確かに，どう考えても「画家がスケッチの時に一緒に飼育係も描き込んだ」レベルなんですよね。
＞「題跋資料」で瑞応麒麟頌の全文を読んでも〜〜
ですよね。漢文わからないながら眺めてみても何の手がかりにもならずにがっくりした覚えが。
＞問題文にあるような意図があるなら〜〜
そういう情報は史書の方に書いているから賛文には書かなかったということなのかなと。無論，賛文に入れておいてくれた方が後世の我々には親切でした。
＞saranadeさん
一橋大は難易度が安定しませんね。年ごとにどころか大問ごとに安定しないので困ったものです。今年も大問１・３は普通で，大問１は良問でした。大問２は本文にも書いていますが，そのようにオランダだけは適当に仕上げて後は気にしないのが正しかろうと思います。
来年こそは大人しくなると祈りたいです。
＞かっつんさん
あー，あの北大の。覚えています。もし一橋大の作問者があれをイメージソースにしたのかは疑わしいですし，普通の受験対策では一橋大受験生が２年前の北大の過去問を見ていないと思いますので，双方知らないかなと。
大問１はおっしゃる通り半ば時事ネタでしょうね。解答上そこまで入れるかどうかは判断が割れるところですが。
＞シダー近藤さん
この問題の指している使節は正式な使節，朝貢使を差しているのではなく，船団に乗ってきた朝貢使の下僕や付随する商人団等も含めた広い言い方ではないかと思います。もちろん，正確を期せば誤りなのでここは「使節」ではなく「使節に付随した馬丁or飼育係」と表現してほしかったところですけど。
ただし，最悪の場合の想定として，この人は朝貢使が連れてきた飼育係ではなくて受け取った中国側の用意した飼育係ということもありうるのですよね。今書いてて気づいたんですが。確かに，どう考えても「画家がスケッチの時に一緒に飼育係も描き込んだ」レベルなんですよね。
＞「題跋資料」で瑞応麒麟頌の全文を読んでも〜〜
ですよね。漢文わからないながら眺めてみても何の手がかりにもならずにがっくりした覚えが。
＞問題文にあるような意図があるなら〜〜
そういう情報は史書の方に書いているから賛文には書かなかったということなのかなと。無論，賛文に入れておいてくれた方が後世の我々には親切でした。
Posted by DG-Law at 2021年03月21日 18:31
＞おおおんづけさん
SDGsはここ２年ほどで急速に社会での知名度が高まってきた感じはしますね。それをリード文にして入試問題を作るのはありで，むしろ良いことだと思うのでそこには反対しないです。
＞阪大史学（高大連携）側はこんなことをいって〜〜
この発表をしている方は今年に定年退職して阪大の史学科から一歩引いているので，今年の入試の作問などの実務にはかかわっていないと信じたいところです……。
＞右崎ちゃん
メルヴィルはアメリカ文学者からの「『白鯨』ぐらい教科書に載せろ」という主張説も浮上しています。その主張を入試でやるのはやめてほしい。
＞高大連携の「坂本龍馬が教科書から消える！」騒ぎの時にあまりに叩かれたせいか〜〜
京大も東京外大も，そもそもあの団体の主張に賛同してなさそうな雰囲気はしますね。
まあ，高大接続システム改革会議にあれだけコミットしておいて自分のところの入試は全く改める気が無さそうな慶應大よりは潔い態度だと思います。
それはそれとして「消された用語も入試に出してええんやで」は悪手でしたね。あれは目的を見失うことになる手でした。
＞「絵のタイトルも参考にしつつ，使節の服装"がこのように描かれたこと"やキリンが示す象徴的意味」とでもしておけば
そうなんですよ。それでもここに書いた指摘の大半は受けたと思うんですけど，最低限，本文の最後に指摘した美術史学のディシプリンへの抵触はかなり薄まったと思います。問題文が不用意すぎます。
＞砂屋さん
＞阪大の先生が「レパント戦闘図はレパントじゃない」との研究を発表して賞をとったとの報
今回の企画で一番笑いました。情報ありがとうございます。論文そのものも（大学図書館に自由に入れるようになったら）読んでみます。
おっしゃる通り，驚くべき「奇縁（奇問の縁？）」ですね。
SDGsはここ２年ほどで急速に社会での知名度が高まってきた感じはしますね。それをリード文にして入試問題を作るのはありで，むしろ良いことだと思うのでそこには反対しないです。
＞阪大史学（高大連携）側はこんなことをいって〜〜
この発表をしている方は今年に定年退職して阪大の史学科から一歩引いているので，今年の入試の作問などの実務にはかかわっていないと信じたいところです……。
＞右崎ちゃん
メルヴィルはアメリカ文学者からの「『白鯨』ぐらい教科書に載せろ」という主張説も浮上しています。その主張を入試でやるのはやめてほしい。
＞高大連携の「坂本龍馬が教科書から消える！」騒ぎの時にあまりに叩かれたせいか〜〜
京大も東京外大も，そもそもあの団体の主張に賛同してなさそうな雰囲気はしますね。
まあ，高大接続システム改革会議にあれだけコミットしておいて自分のところの入試は全く改める気が無さそうな慶應大よりは潔い態度だと思います。
それはそれとして「消された用語も入試に出してええんやで」は悪手でしたね。あれは目的を見失うことになる手でした。
＞「絵のタイトルも参考にしつつ，使節の服装"がこのように描かれたこと"やキリンが示す象徴的意味」とでもしておけば
そうなんですよ。それでもここに書いた指摘の大半は受けたと思うんですけど，最低限，本文の最後に指摘した美術史学のディシプリンへの抵触はかなり薄まったと思います。問題文が不用意すぎます。
＞砂屋さん
＞阪大の先生が「レパント戦闘図はレパントじゃない」との研究を発表して賞をとったとの報
今回の企画で一番笑いました。情報ありがとうございます。論文そのものも（大学図書館に自由に入れるようになったら）読んでみます。
おっしゃる通り，驚くべき「奇縁（奇問の縁？）」ですね。
Posted by DG-Law at 2021年03月21日 18:36
コメントを書いた当人が非表示でよいと書かれていたので，とりあえずそれを非表示にしたまま応答します。
阪大が本気でAのような意図で出題しているとは“当然ながら”全く考えられません。大河ドラマを見ていたら有利ではあったにせよ，解法の本命はあくまでB・Cであって，大河ドラマを見ていなかった受験生が著しく不利になるということは現実的に起こり得ません。しかしながら，ユーモアとして意図的に大河ドラマのテーマに重ねてきた可能性は高いと思います。
本企画の随所で書いていますが（ひょっとしたら書籍版にしか書いてないかも），受験生の有利不利が小さい範囲で，かつ入試問題としての適正さが失われないなら，私はこの種のユーモアは大好きです。もっと入試問題で笑わせてほしい。問題文の会話文がギャグ調になっていたり，歴史漫画を用いた入試問題はそういう理由で〔番外編〕として書籍版には収録しています。
以上の内容を関西人と思われる作問者のユーモアを忘れない心にかけて一言でまとめたのが「Aはまあ関西ジョークとして」という文言です。あと明智光秀なので，どちらかというと今回の大河は上方での流行の方が熱かったイメージはありますね。本問は出題の仕方に問題がありすぎただけで，麒麟を題材に持ってきたこと自体は私は好意的です。
実はこの文言は校正段階では「Aがジョークなのは自明すぎるやろ」と私は思っていたので存在してなかったのですが，ある校正者から「DGさんが，阪大の出題意図にAがあると本気で思い込んでいると勘違いされる可能性があるのでは？」との指摘を受けたため，その勘違いは私の本意ではないし，最悪の場合阪大に迷惑がかかるなと思って足したものです。
なお，そのコメントを理由にブロックすることはありません。
本ブログは黒木ルールに近い基準は持っていますが，本コメントはそれに当たりません。
阪大が本気でAのような意図で出題しているとは“当然ながら”全く考えられません。大河ドラマを見ていたら有利ではあったにせよ，解法の本命はあくまでB・Cであって，大河ドラマを見ていなかった受験生が著しく不利になるということは現実的に起こり得ません。しかしながら，ユーモアとして意図的に大河ドラマのテーマに重ねてきた可能性は高いと思います。
本企画の随所で書いていますが（ひょっとしたら書籍版にしか書いてないかも），受験生の有利不利が小さい範囲で，かつ入試問題としての適正さが失われないなら，私はこの種のユーモアは大好きです。もっと入試問題で笑わせてほしい。問題文の会話文がギャグ調になっていたり，歴史漫画を用いた入試問題はそういう理由で〔番外編〕として書籍版には収録しています。
以上の内容を関西人と思われる作問者のユーモアを忘れない心にかけて一言でまとめたのが「Aはまあ関西ジョークとして」という文言です。あと明智光秀なので，どちらかというと今回の大河は上方での流行の方が熱かったイメージはありますね。本問は出題の仕方に問題がありすぎただけで，麒麟を題材に持ってきたこと自体は私は好意的です。
実はこの文言は校正段階では「Aがジョークなのは自明すぎるやろ」と私は思っていたので存在してなかったのですが，ある校正者から「DGさんが，阪大の出題意図にAがあると本気で思い込んでいると勘違いされる可能性があるのでは？」との指摘を受けたため，その勘違いは私の本意ではないし，最悪の場合阪大に迷惑がかかるなと思って足したものです。
なお，そのコメントを理由にブロックすることはありません。
本ブログは黒木ルールに近い基準は持っていますが，本コメントはそれに当たりません。
Posted by DG-Law at 2021年03月21日 19:58
更新お疲れ様でした。専門家をもってしても「解答不明」が出てきてしまうとは…一受験生に一橋や阪大の今年度の問題の解答を求めるのは酷なように感じますね。一橋は去年の反動なのではという感想でした。
Posted by あきら at 2021年03月26日 11:52
今年も更新お疲れ様です。
京大は10年ほど前にもホーソンを書き取らせる問題が出ていたので19cアメリカ文学をやたら出したい人がいる可能性がありますね。ただ、範囲外とはいえ、『白鯨』は読んでおきたい文学作品〇選なんかによく選ばれてる印象なので、ホーソンよりは書けた受験生は多そうな気がします。
それで思ったのですが、前にやっていた君主ごとの出題頻度グレーディングを作家や芸術家でやってみると面白いかもしれません。本/絵画好きと文学/美術史、高校世界史と受験世界史でそれぞれ少しずつ違ってくるでしょうし。
京大は10年ほど前にもホーソンを書き取らせる問題が出ていたので19cアメリカ文学をやたら出したい人がいる可能性がありますね。ただ、範囲外とはいえ、『白鯨』は読んでおきたい文学作品〇選なんかによく選ばれてる印象なので、ホーソンよりは書けた受験生は多そうな気がします。
それで思ったのですが、前にやっていた君主ごとの出題頻度グレーディングを作家や芸術家でやってみると面白いかもしれません。本/絵画好きと文学/美術史、高校世界史と受験世界史でそれぞれ少しずつ違ってくるでしょうし。
Posted by あちそん at 2021年03月26日 20:56
＞あきらさん
私も受験世界史の専門家ではありますが，各分野の専門家というわけではないので，あまり深入りされると調べようがなくなって詰んでしまうんですよね。
今年の一橋の問題は，いかなる分野の専門家を連れてきても「問題作った人以外は正解がわかりません」と返事されてしまう気はします。
実際，今回近代ドイツ文学の専門家に根掘り葉掘り聞いて作った解説がこの記事なので……
言われて気づいたのですが，確かに一橋は去年の反動の可能性ありますね。そんな反動要らないんですが。
＞あちそんさん
あー，ホーソンも出てましたね。2012年でした。同年にはサハロフも出題されてましたし，京大はたまに早慶方向に振れることがありますね。
一応，当時はどちらも用語集頻度�，妊�リギリセーフだったようです。
私も受験世界史の専門家ではありますが，各分野の専門家というわけではないので，あまり深入りされると調べようがなくなって詰んでしまうんですよね。
今年の一橋の問題は，いかなる分野の専門家を連れてきても「問題作った人以外は正解がわかりません」と返事されてしまう気はします。
実際，今回近代ドイツ文学の専門家に根掘り葉掘り聞いて作った解説がこの記事なので……
言われて気づいたのですが，確かに一橋は去年の反動の可能性ありますね。そんな反動要らないんですが。
＞あちそんさん
あー，ホーソンも出てましたね。2012年でした。同年にはサハロフも出題されてましたし，京大はたまに早慶方向に振れることがありますね。
一応，当時はどちらも用語集頻度�，妊�リギリセーフだったようです。
Posted by DG-Law at 2021年03月26日 22:17
こんにちは、初めてコメントします。毎年拝見しておりますが、私自身は世界史は高校時代は途中まで（ルネサンスあたりまで）しかやっておらず、受験でも使わなかったため、眺める程度にとどまってしまっておりますが。
今回の本題と少し外れますが受験世界史にも関係する話題なのでコメントしたいと思います。
数日前に共通テストの実施要項が発表されました。
https://www.dnc.ac.jp/kyotsu/shiken_jouhou/r7ikou.html
数学だと数学��Bが数学��BCに変更される（といっても私の頃はベクトルも複素数平面も数学Bにありましたが）ことや情報が追加されること（どれだけ活用されるのかは不明）も話題ですが、地歴公民の受験方法も大きく変わるようです。
理系の場合、旧帝大でも理科に倣って「地理総合＋歴史総合＋公共」の選択でよいということになれば、地理総合＋探求の選択者は今の半分以下になるかもしれませんね。実際に理科では現行課程になってから生物（基礎なし）の受験者が半分以下になりました。
あと公民に関しては公共の問題案を見た限りだと「公共＋政治経済」については両科目で重複する内容が多く、一番負担が少なそうに感じます。
歴史総合の問題案を見た限りだと近現代史の内容が日本史世界史の両方から出ています。難易度自体は高くなさそうですが、資料を読み返すのが面倒でした。歴史の科目設定も「歴史総合＋日本史探求」、「歴史総合＋世界史探求」という形なので近現代史は世界史の試験でも日本史（中学内容含む）からの出題もありそうですね。国公立二次試験や私大の世界史（と日本史）の試験にもこの共通テストの変更は影響を与えそうな気がします。
今回の本題と少し外れますが受験世界史にも関係する話題なのでコメントしたいと思います。
数日前に共通テストの実施要項が発表されました。
https://www.dnc.ac.jp/kyotsu/shiken_jouhou/r7ikou.html
数学だと数学��Bが数学��BCに変更される（といっても私の頃はベクトルも複素数平面も数学Bにありましたが）ことや情報が追加されること（どれだけ活用されるのかは不明）も話題ですが、地歴公民の受験方法も大きく変わるようです。
理系の場合、旧帝大でも理科に倣って「地理総合＋歴史総合＋公共」の選択でよいということになれば、地理総合＋探求の選択者は今の半分以下になるかもしれませんね。実際に理科では現行課程になってから生物（基礎なし）の受験者が半分以下になりました。
あと公民に関しては公共の問題案を見た限りだと「公共＋政治経済」については両科目で重複する内容が多く、一番負担が少なそうに感じます。
歴史総合の問題案を見た限りだと近現代史の内容が日本史世界史の両方から出ています。難易度自体は高くなさそうですが、資料を読み返すのが面倒でした。歴史の科目設定も「歴史総合＋日本史探求」、「歴史総合＋世界史探求」という形なので近現代史は世界史の試験でも日本史（中学内容含む）からの出題もありそうですね。国公立二次試験や私大の世界史（と日本史）の試験にもこの共通テストの変更は影響を与えそうな気がします。
Posted by ぴこにゃん at 2021年03月27日 07:59
新課程のサンプル問題は公開された日に４つとも解いています。
理系の選択はけっこう判断に悩むところで，「地理総合＋歴史総合＋公共」（受験選択上はこのうち２つ）は学校のカリキュラム上全部必修なので無駄にならなくてよい一方，方向性が異なる２つの科目を50点分ずつ勉強するのは面倒そうです。しかし，現在の理科基礎２つが文系に受容されているのを見ると，問題ないのかも。とすると，おっしゃる通り「地理総合＋探究」の選択者は減るでしょうね。同様の理屈で「公共＋政経」も現在の「倫政」との比較で言えば減りそう。「公共＋政経」は，重なっているようで「公共」の問題に経済分野がほぼ全く出ていなかったので，むしろ重なっている分野が少ないと思いました。
それで思い出したのですが，「倫政」が消えたのはけっこう大きな変化だと思います。一橋大の二次試験からも「倫政」無くなりますし。
「歴史総合」はぱっと見だとおっしゃる通りなのですが，実際に解いてみると実は世界史探究または日本史探究片方の知識だけで12問中11問解答を出せてしまうという，妙に凝った設計になっています。文系で国公立二次・私大に世界史・日本史を使う人はかえって「歴史総合」を勉強せずに済んじゃいそうな雰囲気がしますね。
理系の選択はけっこう判断に悩むところで，「地理総合＋歴史総合＋公共」（受験選択上はこのうち２つ）は学校のカリキュラム上全部必修なので無駄にならなくてよい一方，方向性が異なる２つの科目を50点分ずつ勉強するのは面倒そうです。しかし，現在の理科基礎２つが文系に受容されているのを見ると，問題ないのかも。とすると，おっしゃる通り「地理総合＋探究」の選択者は減るでしょうね。同様の理屈で「公共＋政経」も現在の「倫政」との比較で言えば減りそう。「公共＋政経」は，重なっているようで「公共」の問題に経済分野がほぼ全く出ていなかったので，むしろ重なっている分野が少ないと思いました。
それで思い出したのですが，「倫政」が消えたのはけっこう大きな変化だと思います。一橋大の二次試験からも「倫政」無くなりますし。
「歴史総合」はぱっと見だとおっしゃる通りなのですが，実際に解いてみると実は世界史探究または日本史探究片方の知識だけで12問中11問解答を出せてしまうという，妙に凝った設計になっています。文系で国公立二次・私大に世界史・日本史を使う人はかえって「歴史総合」を勉強せずに済んじゃいそうな雰囲気がしますね。
Posted by DG-Law at 2021年03月27日 15:58
今更ながら質問コメントを...
２０年度入試では、設問や問題文にコロナに関連して感染症分野が増える〜みたいな記事をコロナ初期とかに散々見た気がします。
DG-Lawさんから見て実際の私立・国公立の入試でコロナに関連させたであろうものはどれぐらいありましたでしょうか。
２０年度入試では、設問や問題文にコロナに関連して感染症分野が増える〜みたいな記事をコロナ初期とかに散々見た気がします。
DG-Lawさんから見て実際の私立・国公立の入試でコロナに関連させたであろうものはどれぐらいありましたでしょうか。
Posted by あ at 2021年04月26日 04:10
私も増えると思ってたんですが，そこまで多くなかった印象です。
大学入試の世界史は割と時事ネタが好きなところがあるのですが，さすがにあからさますぎたのか，感染症の歴史だとネタが偏ってしまって似たような出題だらけになることを懸念したのか。
そういうわけで，悪い予測では無かったけど，そんなに当たらなかったというところですかね。
大学入試の世界史は割と時事ネタが好きなところがあるのですが，さすがにあからさますぎたのか，感染症の歴史だとネタが偏ってしまって似たような出題だらけになることを懸念したのか。
そういうわけで，悪い予測では無かったけど，そんなに当たらなかったというところですかね。
Posted by DG-Law at 2021年04月27日 00:30
度々拝見させて頂いてます。
一橋大生で某予備校のスタッフをしている者です。
私自身一橋に倫政で入学した身なので抑々倫政の消滅に解せない(理由は察せなくも無いのですが)ですが、DG-Lawさんの仰る通り日本史or世界史or地理になったら明らかに日本史に人が集まりそうなのを弊学の入試担当の人々は予想しているんだかしていないんだか。
まさか「うちの入試が各科目どんな難易度か知っているだろうからその上でそれ相応の科目を選んだ者は難易度云々に文句を垂れてはならない」と
開き直って今後も世界史の問題はこんなのばっかり出すんでしょうか…今年の第二問が良知力氏の例の文章やリスト・ランケを思い起こさせる難問だっただけに来年どうなるのやらと戦々恐々しています。
こんなこと聞くのはお門違いなんでしょうが、経済学部を受けたい子を担当していまして、世界史受験になるんですが二次試験の配点を考えると数学である程度できれば世界史とか国語とか大して出来なくともどうにかなるんですよね。そういう場合って、今回の第二問みたいなのが出題されたらどこまで書けたら及第点なんでしょう？
一橋大生で某予備校のスタッフをしている者です。
私自身一橋に倫政で入学した身なので抑々倫政の消滅に解せない(理由は察せなくも無いのですが)ですが、DG-Lawさんの仰る通り日本史or世界史or地理になったら明らかに日本史に人が集まりそうなのを弊学の入試担当の人々は予想しているんだかしていないんだか。
まさか「うちの入試が各科目どんな難易度か知っているだろうからその上でそれ相応の科目を選んだ者は難易度云々に文句を垂れてはならない」と
開き直って今後も世界史の問題はこんなのばっかり出すんでしょうか…今年の第二問が良知力氏の例の文章やリスト・ランケを思い起こさせる難問だっただけに来年どうなるのやらと戦々恐々しています。
こんなこと聞くのはお門違いなんでしょうが、経済学部を受けたい子を担当していまして、世界史受験になるんですが二次試験の配点を考えると数学である程度できれば世界史とか国語とか大して出来なくともどうにかなるんですよね。そういう場合って、今回の第二問みたいなのが出題されたらどこまで書けたら及第点なんでしょう？
Posted by iii at 2021年06月21日 00:50
コメント返しがちょっと遅れました。すみません。
倫政で入学した方からすると倫政が消えるのは悲しいところですね。
「うちの入試が各科目〜〜」と考えている節はありますね。あとは，こう言ってはなんですが，地歴の平均点調整は採点基準でかなりどうとでもなってしまうところはあります。東大は科目別に点数を開示してくれるので各社にデータがあって参照できますが，地歴３科目は毎年の平均点にあまり違いがないので，あれは採点基準をいじって意図的にそうしているとしか思えません。一橋大も，世界史や地理でひどい問題の年は採点基準を甘くしている可能性はありますね。逆に「採点基準を甘くすればいいんでしょ」という発想で，めちゃくちゃな出題を許している可能性もあります。
最後の質問についても，超難問は解答の内容がズタズタでもほぼ全員そうなので差がつかず，合否だけ考えるなら気にしないほうがいいです。ただ，400字は埋まっていた方がいい。白紙だと，採点基準が甘くなっても加点されないからです。
倫政で入学した方からすると倫政が消えるのは悲しいところですね。
「うちの入試が各科目〜〜」と考えている節はありますね。あとは，こう言ってはなんですが，地歴の平均点調整は採点基準でかなりどうとでもなってしまうところはあります。東大は科目別に点数を開示してくれるので各社にデータがあって参照できますが，地歴３科目は毎年の平均点にあまり違いがないので，あれは採点基準をいじって意図的にそうしているとしか思えません。一橋大も，世界史や地理でひどい問題の年は採点基準を甘くしている可能性はありますね。逆に「採点基準を甘くすればいいんでしょ」という発想で，めちゃくちゃな出題を許している可能性もあります。
最後の質問についても，超難問は解答の内容がズタズタでもほぼ全員そうなので差がつかず，合否だけ考えるなら気にしないほうがいいです。ただ，400字は埋まっていた方がいい。白紙だと，採点基準が甘くなっても加点されないからです。
Posted by DG-Law at 2021年06月24日 19:58
麒麟の問題に関しまして
�ず醋篌圓�十二国記と占いに傾倒していた というジョークも付け加えたい
というのはさておき、使者の服装、私は胡服と考えてました。ベンガルの民族衣装とも漢服とも異なっております。おそらく北方の衣服と考えると……という単純なものです。麒麟は陸路を渡って明にわたると考えられますので……やっぱ無理ですね。寒いところには生息しない（orできない）ので。
しかし他コメントさんの仰るようにまさか飼育係とはorz
もうありとあらゆる地域をちゃんぽんした絵を描くことによって各国を制覇しましたチャンチャンでいい気がする
�ず醋篌圓�十二国記と占いに傾倒していた というジョークも付け加えたい
というのはさておき、使者の服装、私は胡服と考えてました。ベンガルの民族衣装とも漢服とも異なっております。おそらく北方の衣服と考えると……という単純なものです。麒麟は陸路を渡って明にわたると考えられますので……やっぱ無理ですね。寒いところには生息しない（orできない）ので。
しかし他コメントさんの仰るようにまさか飼育係とはorz
もうありとあらゆる地域をちゃんぽんした絵を描くことによって各国を制覇しましたチャンチャンでいい気がする
Posted by 投げやりシロートン at 2021年11月28日 20:59
すみません，反応してあげたいのですが私『十二国記』読んでないんですよ。でも３月当時の反応で見かけた気もします。
この服装問題は結局真相（というか出題者の想定する正解）がわからずじまいですね。本当に，まさか飼育係とはですよ。
この服装問題は結局真相（というか出題者の想定する正解）がわからずじまいですね。本当に，まさか飼育係とはですよ。
Posted by DG-Law at 2021年11月29日 00:21
