2021年03月29日

2021年三月場所:大阪でやらない三月場所

昨年は大阪で実施したものの無観客,今年は観客は数を制限して入場させたが東京開催と,二年連続でイレギュラーな開催となった。昨年は五月は開催中止となったが,今年はさすがに実施できるだろうか……

今場所こそはカムバックした2横綱が中心に展開するかと思いきや,直前になって鶴竜が休場を発表,白鵬も二日目までとって三日目前に休場を発表した。鶴竜の引退については後日に1記事立てて書きたい。白鵬は名古屋場所に進退をかけると言っているのなら,現時点では余計なプレッシャーをかけない方がよいと思う。今場所に出場した二日間が連勝だったのは大きい。

そうなると優勝争いは朝乃山・貴景勝・照ノ富士辺りが中心になるのは序盤から明白であった。そこに割って入ってきた高安には期待がかかり,一時は単独首位となったが,優勝へのプレッシャーがかかった途端に弱くなるという兄弟子譲りのメンタルの弱さが見えて敗退,最終的に3大関全員を撃破した照ノ富士が優勝した。3場所で33勝規定で生涯に二度大関に昇進したのは魁傑以来2人目で44年ぶり,間が22場所あいたのは当然ながら史上最大,再大関を優勝で決めたのは史上初,序二段まで下がった力士による大関昇進も史上初,関脇以下の地位で優勝3度も史上初と記録ラッシュである。個人的には高安も照ノ富士もどちらも応援していたので終盤は心中複雑であった。照ノ富士については称賛するしかないが,高安の初優勝も見てみたかった。その他の力士も含めた全体的な雰囲気はどことなく低調で,土俵が充実しているここ2・3年では最も平凡な内容の場所だったという印象が残った。

こうなると照ノ富士は綱取りの期待がかかるが,そうなるとやはり膝が心配で,特に今場所は以前の悪癖である引っ張り込む相撲がよく見られたので負担が大きかったと思われる。これに関連するが立ち合いでとにかく脇が甘く,「最悪もろ差しで中に入られても,自分には極め出しか小手投げがある」という甘えがまだどこかにあるのだと思う。千秋楽の貴景勝戦を見ていてもそうだが,照ノ富士は突き押しでもけっこう取れるので,四つに組めなかったら突き放すくらいの対応でよいのではないかという気はした。四つに組んでさえしまえば,天下無双の膂力と,現在の大相撲では最高レベルのテクニックがあり,おそらく全盛期の白鵬を持ってこないと太刀打ちできる力士がいない。実は白鵬・照ノ富士戦は照ノ富士が前に大関だった時代にしかなく,直近4年ほどは取組が無い。白鵬はおそらく突き放して組まないように持っていくと思われ,今の白鵬でいいから,白鵬の引退前に取組を見てみたいところ。


個別評。大関陣。朝乃山は不調そうに見えても10勝5敗にまとめてしまうところに,四つ相撲の安定性を感じる。その四つ相撲で照ノ富士に全く勝てないのはちょっと残念だが,照ノ富士が完璧すぎるので,ここを改善するよりも照ノ富士以外に取りこぼさないことを考えた方が綱が近くなりそう。貴景勝は無難な出来。正代は大関取りの時の防御力が無く,伸び悩んでいる。来場所カド番。

三役。(正代以外)全員勝ち越したために枠が空かず,渋滞が置きている。本来であれば2横綱が全員なぎ倒して2敗ずつするはずなので負け越しが出るのだが,横綱不在が長引くとどうしてもこういうことになる。照ノ富士は上述したのでパス。隆の勝は可も不可もなく。御嶽海はいつもにも増して日毎の出来の差が激しかった。私の観察力が足りていないだけかもしれないが,立ち合いまで「今日はどちらか」わからないのは極端である。大栄翔は,関脇以下で優勝した力士は来場所負け越す可能性が高いというジンクスを破っての勝ち越しで価値が高い。突き押しの力士は多いが,あれだけ圧力が立ち合いの出足に偏っている力士は珍しい。最後に高安は,立ち合いの圧力そのままで押し相撲もとれるし,左四つを作っての四つ相撲も上手いし,時間をかけて長期戦に持ち込みスタミナで勝つという変則相撲もとれ,隙がかなり少なくなってきたのだが,プレッシャーがかかる場面になると途端に脆くなるのは本当に……まあ,再大関は可能性が高いと思う。来場所・再来場所も二桁勝てるだろう。

前頭上位。宝富士と阿武咲は思った以上に大敗であった。宝富士は他の伊勢ケ浜勢が好調だっただけに肩身が狭そう。全く左四つにさせてもらえず,差し負けるか押し負ける場面が目立った。阿武咲はやっと家賃が払えるだけの地力がついてきたのかなと思ったら,そうでもなかったという。若隆景は技能賞に値する見事な技巧相撲で10勝した。やっぱり今場所も離れて取る相撲が多く,土俵際の逆転劇も多かった。明生も10勝で敢闘賞。組んでも押し相撲でも取れるというのはやっぱり有利である。志摩の海は照ノ富士を破っている割に,いつの間にか11敗と大敗していた。低い姿勢で押していくのが持ち味だが,相手も低かったり突き起こされたりしてけっこう押し負ける場面が多かったかなと思う。

前頭中盤。10勝した翔猿は技能賞をあげてもよかったと思う。機敏な身のこなしで白星を量産したものの,動きすぎて自滅するパターンもあった。それも含めてやはり嘉風の相撲に似ていると思う。豊昇龍も技能賞レベルの技能を見せていて,特に投げ技・足技の切れ味は素晴らしい。足技は時天空レベルだと思う。しかしパワーで押し負ける場面が多く,8勝にとどまったのが三賞に届かなかった理由だろう。あとエンジンのかかりが遅くて序盤の5日間に弱い傾向があるのは何故なのか。逸ノ城はやる気がある場所に見えたが普通に負け越していた。中に入られて負けるという巨体力士の典型的なパターンが多く,もうちょっと対策をとってほしい。琴ノ若はパワーが強く,それを活かした四つ相撲は良いのだが,相撲が単調でもうちょっと工夫が欲しい。翠富士は肩透かしのタイミングが読まれていて大敗した。

前頭下位。碧山が11勝で敢闘賞,家賃が安かったための大勝だが,千秋楽は高安を破って展開を面白くする活躍を見せた。最後は英乃海は翔猿の兄で,兄弟幕内を達成した。翔猿に引きずられてか好調で(まあ部屋が違うのだが),右四つの典型的なあんこ型の力士である。けっこう差し勝って右四つになるのが得意で,前頭中盤でも家賃を払えそうな雰囲気がした。
今場所から予想番付にアップダウンの際の損得を入れてみた。プラス数字は本来の上げ下げよりも得した数,マイナス数字は損した数を示す。今場所は全体として得した力士の方が多い。5・6枚も得している力士が何人かいて,特に豊昇龍は何場所か連続してすごいジャンプアップをしている。来場所は上位初挑戦になるだろう。宝富士・阿武咲は本来であればかなり下がるはずのところ,下げようがないので5・6枚分得して来場所まだ上位に残れる様相。十両に下がるのは豊山と琴勝峰,来場所入幕するのは3人になるが,全員再入幕。十両と幕下の入れ替えも少なそうで,十両から落ちる候補が矢後と武将山の2人しかいない。上がってくるのは王鵬と大翔鵬か。

2021年三月場所

この記事へのコメント
ブログ更新おつかれさまです。

10日目頃までは高安のための場所かと思われた今場所ですが、結果優勝したのは再浮上した照ノ富士でした。
高安に稀勢の里を重ねる声が大きいですが、私としては、照ノ富士に日馬富士を重ねた感じがします。

高安については、朝乃山戦や照ノ富士戦、貴景勝戦など、あそこまで緻密な相撲をとっていたときは優勝するんだろうなぁと思ってはいましたが、まさかの暗転。若隆景や翔猿に敗れました。
ただ、彼については、過去の星取表をみると、序盤に白星が並ぶ一方、後半は黒星が多いという印象があるので、実は安心なんてできるものではなかった・・・

照ノ富士は、志摩の海に敗れたあたりで優勝戦線から脱落かと思っていましたが、よもやの再浮上。膝も無事に持ったようです。正代や朝乃山のときのような相撲であれば、膝への負担も減らせるでしょうし。ターニングポイント、実は玉鷲戦だった気もします。
記録づくめの優勝、おめでとうございます。

若隆景や明生が上位で存在感を出したことは嬉しいですね。
三役にあがれそうにないのが残念ですが・・・三役から平幕上位のレベルは結構いいと思うのですが、いまいちそれより上を目指していける感が不足しているのが、昨今の悩みの種でしょうか。

贔屓の朝乃山は10勝5敗で終了。北の富士氏から盛り上がっていないと散々に言われた千秋楽結びの一番は結構な熱戦だったと思います。
転落する伊之助氏にすべて持っていかれ、肝心の内容がほとんど振り返られていないのがなんともですが。

Posted by gallery at 2021年03月30日 12:49
高安については皆同じことを考えていたと思います。連敗中は相手の動きも良かったですが,明らかに動きも固くて両方の理由からの配線続きでしたね。彼の再起に期待しましょう。
照ノ富士はさすがに過去に二度優勝しているだけあって,志摩の海に敗れても崩れませんでしたね。優勝という経験は大きい。

若隆景は期待の星ですね。三役詰まってますねー。記事中の予想番付では小結を4人にしてみましたが,現実的には彼らが前頭筆頭,以下1枚ずつ全員下がりそうですね。

朝乃山,私も言われるほど悪くなかったと思うんですけどね。横綱不在とはいえ10勝でいじられる筋合いは無いというか。千秋楽との正代戦は,7−7の正代を容赦なく右四つで攻めていってよかったと思います。
Posted by DG-Law at 2021年03月30日 23:49
序盤はあるいは妙義龍か、中盤は高安で万全と見せて、終わってみれば照ノ富士が優勝で大関再昇進を決めた場所でした。白鵬が休場して上位陣との対戦が無かったのは残念。途中休場から再出場して二桁勝った宇良は見ごたえがあったものの、千秋楽でまた足を痛めた様子だったのが気がかりです。

足指を怪我した剣翔にまた追突事故があったらしい天空海が大勝する不思議。大負けした力士たちは、怪我でなければ良いのですが。

連勝記録で常幸龍の記録を更新するか注目された北青鳳、初日から腰と背中にテープがべったり。連敗したので今場所は駄目かと思ったものの、そこから5連勝したのは驚き。幕下15だったので、全勝優勝すれば一気に十両でしたが、怪我さえなければ勝ち星はこれからも稼げるでしょう。

響龍の怪我で、土俵への対応や用心の手配が変わりそうな場所もありました。手をつくな、顔から落ちろ、が良い指導とされてきましたが、重大事故を思うとさっさと手をつく相撲のほうがいいのかも。
Posted by EN at 2021年03月31日 19:31
ブログ更新お疲れ様です。
高安は本当に「持ってない」ですね・・・
今までも地力的に考えれば優勝できた場所は何回かあって、今場所こそは高安かな、と思ったら今場所も高安は高安でした。
照ノ富士や貴景勝あたりはケイスケホンダ的な決定力というか、「持ってる」感じがあるんですが・・・
それでも照ノ富士、朝乃山、貴景勝には勝っており、地力自体は取り戻しつつあるので良い傾向かと思います。
照ノ富士は序盤の時点では後手に回ることが多く、鋭い出足からの四つ相撲で持っていく理詰めの怪力相撲があまり見られず、イマイチ相撲内容が良くないと思ったんですが、膝を痛めた終盤でしっかり勝ち切る所は流石というか。
おっしゃる通り照ノ富士は突き押しの力もかなり強いように思います。(豊山にも稽古場では突き押しで勝つとか)腕も長く、ベンチプレスも220kgと角界でも貴景勝、宝富士に次ぐ重量を上げる筋力があり、仮に突き押しをメインの戦術にしてもそこそこ勝てる気もしますね。
欠点というか弱点としては、立合での手付きが甘く、待ったをかけられてリズムを崩して負けたように思う取組もあります。(今場所の阿武咲戦など)
伊勢ケ浜部屋での稽古動画を見ても、照ノ富士は稽古の時から手を付かない立合をしているようで、膝の状態もあり手を付く立合がキツイのかもしれませんが・・・。
怪我の状態もあり行司によっては多目に見てくれている部分もあるかもしれませんが、星を落とさないためにはしっかり手を付く立合も練習した方がいいのかも。
Posted by バーサーカー at 2021年03月31日 22:37
>ENさん
今場所もお疲れさまでした。
宇良もケガが多いですね。小兵の宿命とはいえ……やはり無茶な軌道が多いせいでしょうか。
天空海はそんなことあったんですか。剣翔は腰が重くてなかなか良かったのですが,足指にケガがあったんですね。
北青鵬は先場所出場できていたらどうなっていたんでしょうね。今場所直前のケガだったらしいので,関取になっていきなりケガというよりはマシだったのかもしれませんが……
響龍の事件は衝撃でしたね。いまだに角界はあの種の事件に対する危険性の認識が甘いですね。


>バーサーカーさん
ありがとうございます。
オカルトなことはあまり言いたくないですが,人生を眺めていると「持っている」「持ってない」は何かありますね。鶴竜も「持っている」人でした。
日馬富士や白鵬が「横綱は宿命(運命)」と言っていましたが,優勝自体が運命的なものではありますね。
照ノ富士はそうなんですよね。引っ張り込む相撲の見ていて怖いこと。
ああ,立ち合いで脇が甘いなと思っていましたが,なるほど手付きが甘い。それはありそうです。
Posted by DG-Law at 2021年04月01日 00:41