2021年05月31日

サントリー美術館:ミネアポリス美術館展

サントリー美術館のミネアポリス美術館展に行ってきた。アメリカの大規模美術館にはよくある江戸時代の絵画を大量に収集している美術館の一つである。出品物は室町〜桃山の水墨画・狩野派の作品,大和絵,琳派,浮世絵,南画,江戸後期の画家たち,幕末・明治と中世末から近代初期の日本美術史を一通り追っていけるようになっている。サントリー美術館のキャパシティの問題もあって全90点ほど,展示替えを考えると実際に見られるのは80点ほどであったが,質は十分に高かった。また,ほぼ全作品が写真撮影可で,Twitterやブログをやっている身としてはありがたい。スマホで撮って印象に残ったものはその場でつぶやいておくと,宣伝にもなるし後からブログにまとめる際にも楽である。こういう機会は積極的に活かしていきたいところ。

そうそう,サントリー美術館というと,そういうのが好きな学芸員の方がいるのか,機会があるごとに笑えるネタの絵巻物を展示の中にぶっこんでくる傾向があり,今回もその例外ではなかった。なんだこのめちゃくちゃな話は。


その他に気になったものを挙げておく。狩野派はミネアポリス美術館の収集物の都合か,サントリー美術館側の選択の妙か,京狩野に淡幽と清原雪信という不思議な組み合わせ。やはり狩野山雪の「群仙図襖」が良かった。やっぱり京狩野はきらびやかな作風を保っていてほしい。

大和絵は前述の「きりぎりす絵巻」で静かに笑いを噛み締めていた。でも大概の人は同じ反応になると思う。ところでこの作品,こんなんだけど伝住吉如慶なのだな。「伝」のついていない同作品を細見美術館が所蔵している(参考動画)ので,信憑性はありそうだし,少なくとも住吉如慶がどうかしていたタイミングが一度はあったのは間違いないようだ。なお,「伝」は西洋画のattributed toと同じ意味ではなく,「そう伝わっている」という意味であって必ずしも「帰属する可能性が高い」という意味ではないのだが,キャプションが「繊細で鮮やかな如慶らしい逸品」となっているのでちょっと気になった。ミネアポリス美術館またはサントリー美術館側でattributed toとしうるだけの論拠があるということなのだろう。

琳派は特にあまり。ここで前半が終わり。サントリー美術館は前半半分が4階,後半半分が3階という展示スペースとなっていて,階段で降りるのだが,その階段にあった演出がこれ。



これは,たとえば左から2・3・4列目の上から2行目は「狩野派」になるのでそこが消えて,真ん中4列の上から6行目は「江戸時代」になるので消えて……という感じにテトリス式に文字を消していくパズルになっていて,最終的に左列から「東洲斎写楽」「葛飾北斎」「曽我蕭白」「伊藤若冲」「狩野山雪」「雪村周継」という画家の名前が残るという。現場では自動でさくさくと消えていくのだが(動画で撮っておけばよかった),自力で解こうと思ったらかなり難しいだろう。

3階に降りて浮世絵,三畠上龍の肉筆浮世絵「舞妓覗き見図」はかなりインパクトがあった。

確かにこの写実性は四条派由来だろう。版画の方はパズルの答えになっているだけあって東洲斎写楽と葛飾北斎が多かった。大首絵の「市川鰕蔵」と富嶽三十六景のうちの「凱風快晴」と有名所が並ぶが,そう珍しいものでもないか。広重の東海道五十三次は箱根と蒲原。南画はこの調子で来るなら池大雅と与謝蕪村が並ぶかと思いきや,大半が細川林谷だったので肩透かしという感じはした。江戸後期はパズルでの予告通り曽我蕭白の大作が見られたので満足。最後に渡辺省亭がいて,不思議と別の展覧会に話題がつながった。総花的で作品数が多くもないが,すぱっと楽しめる展覧会にはなっていたと思う。会期の大半が緊急事態宣言で轢き潰された感じなのがちょっとかわいそう。