2022年03月08日

布銭の研究には期待したい

・世界最古の貨幣鋳造所が見つかる、2600年前、中国(NATIONAL GEOGRAPHIC)
→ 春秋時代の晋,紀元前600年頃の布銭とのこと。中国では紀元前400年頃からの戦国時代ではこうした青銅貨幣が普及するが,紀元前600年頃というとそこからかなり遡るので古い。しかもその戦国時代の布銭とあまり形が変わらないように見える。記事中にもある通り,現在の金属貨幣で確認できる最古のものは紀元前600年頃の小アジア,リディア王国のエレクトロン貨とされているので,今回の布銭が実証されればそれに並ぶ世界最古の金属貨幣ということになる。しかもあちらは金銀合金で打刻貨幣だが,こちらは青銅貨幣の鋳造なので,材質も製造過程が違うということになって面白い。また記事中にある通り,エレクトロン貨の鋳造は打刻貨幣よりも少し後になるので,鋳造としては中国の方が古いという可能性も出てくる。以上のような理由からこれは世間で思われているよりも大きな発見に発展する可能性があり,高校世界史の教科書が書き換わるレベルのもので,これはぜひとも研究の進展を待ちたい。


・「普通なんですが…」ネットを騒がせる“眼科の愛新覚羅先生”が明かす、やっぱり凄い“わが半生”(文春オンライン)
→ 日本育ちだと思っていたのだけど,留学生だった。ご先祖をたどっていくと順治帝にあたり,一族は八旗の出身とのこと。記事中にもある通り,日本でたとえるなら江戸幕府の家光か家綱くらいのタイミングで生まれた分家の小さな親藩大名の子孫くらいのポジションだろうか。もっとも,徳川家は愛新覚羅家に比べると二代将軍以降からの分家が少なく,けっこう宗家が途絶えて分家から養子を迎えていたりするので比較が難しい。現に徳川家光の次子の綱重は分家(甲府藩)になるはずだったが,綱重の息子の家重が宗家の養子となって6代将軍に就任している。
→ 3ページめに出てくる学会でアメリカに行ったときのエピソードが強すぎるw。「「亡命なのか?」「大使館に伝えなくて大丈夫か?」みたいなことを真顔で尋ねられる」ことがある人は決して普通ではない。


・つい人に話したくなる 聖書考古学 第3回 家は洞穴!? 飼葉おけは石!?(月刊いのちのことば)
→ 半年くらい前のTwitterで「イエス・キリストは馬小屋で生まれたのかどうか」が議論になっていて,調べた時に一番参考になったページ。他の信頼できる書き手のページでも同じ説明があったので,これが現在最も信頼できる学説なのだと思われる。
→ イエスが馬小屋で生まれていないとすると外典にある洞窟が信憑できる説ということになるが,飼い葉桶がなぜ洞窟に? という謎はそもそも住居や家畜小屋(馬が飼われている可能性は低い)が当時は洞窟の中にあった,家畜は人間の近くで飼われていて小屋がそこまできれいに分かれていないという説明で解決する。本家の欧米のキリスト教徒も家畜小屋を描いちゃうことも考えると,日本人が別に家畜小屋で覚えていても別に深刻な問題にはならないのではないか。
→ 家畜小屋と馬小屋を峻別すべきかどうかは難しいところで,たとえば聖徳太子の出生伝説との混同を避けさせたいなら確かに峻別すべきなのだろう。しかしながら,21世紀の日本人には家畜小屋と馬小屋を区別しろと言われてもそもそも違いが全くわからない(馬小屋は家畜小屋の一種でしかないのでは?)わけで,あまり気にしない方が良さそうにも思う。