2022年03月19日
2022受験世界史悪問・難問・奇問集 その２（早稲田大）
〔番外編４・５〕早稲田大 文学部
＜問題＞３ 設問４ 下線部dに関連して（編註：ノルマン人はドニエプル中流域のスラヴ人地域にまで進出し，先住民と同化しながら公国を形成した），この国の王でギリシア正教に改宗し，これを国教とした君主の名を記しなさい。
設問５ 下線部eに関して（編註：ノルマン人にはシチリアと両シチリアを征服する者も出て，彼らは同地で王国を建国した），最も適切なものを選びなさい。
イ この王国ではムスリムがキリスト教への改宗を強制され，彼らはモスリコと呼ばれて迫害を受けながら生活した。
ロ この王国はビザンツ帝国の一部となり，ギリシア正教世界の一員として地中海世界で繁栄した。
ハ この王国の王都パレルモでは，アラビア語の文献がラテン語に訳され翻訳活動の中心になっていた。とくにイブン＝ルシュドがアリストテレスの翻訳を行ったことで有名である。
ニ この王国では13世紀に「シチリアの晩鐘」事件が起こると，シチリア島に関してはアラゴン王国が支配するようになった。
＜コメント＞
設問４は下線部に「公国」とあるのに問われているのは「この国の王」という不思議なねじれがある。君主一般を「王」と呼んでしまうことはあるのでまあいいか，と思って後を読むと「君主の名を記しなさい」とあり，手前では「王」としていた理由がわからないので混乱する。解答上の混乱はないが，言葉があまりに適当すぎる。
設問５，選択肢イのモスリコはモリスコの誤植。シチリア島について問われていてこのイはスペインのことであるからいずれにせよ誤文なのだが，万が一スペインについての問いだったら正解が消滅していた。なお，ロはよくわからないがクレタ島か何かか。ハはイブン＝ルシュドがシチリアで活動していないので誤り。残ったニが正文＝正解で，問題は難しくない。
１５．早稲田大 文学部
＜種別＞難問
＜問題＞９ 設問３ 下線部(3)の作品を以下から一つ選びなさい（編註：パルテノン神殿の彫刻は，19世紀初頭，イギリスの外交官であったエルギン伯によって大英博物館にもたらされた。）。
＜解答解説＞
文化構想学部・文学部名物の美術作品問題。大抵は易しいのだが，2022年は範囲外から図版が持ってこられた。アの「ラオコーン」以外は用語集に項目がなく，資料集にも「ラオコーン」以外の図版が載っていることはめったにない。正解はイ。いわゆるエルギン＝マーブルのことで，その大半は破風彫刻であるから壁面に浮き彫りの形で彫られていた彫刻であることを知っていたらすぐに解けるが，これは範囲外の知識と言っていいだろう。
消去法で解くのも苦しい。ギリシア彫刻は古典期とヘレニズム・ローマ期で技術レベルが異なり，当然時代が下る後者の方が高い。その後者の代表例がアのラオコーンであり，パルテノン神殿は古典期の建築物であるから，ラオコーンよりも目立って技術的に稚拙なものが正解……という絞り方でイにたどり着けるものの，このアプローチで正解できた受験生は是非とも美術史学を専攻してほしいと思ってしまう程度に受験生にはハードルが高い解法だろう。なお，ウは「カピトリーノのウェヌス」と呼ばれるローマ期の作品。エは一品だけ隔絶して技術水準が高いので時代が全然違うわけだが，バロック期は史上名高いベルニーニの作品「アポロンとダフネ」である。
１６．早稲田大 人間科学部
＜種別＞出題ミス
＜問題＞４ Y �ァ＾焚爾諒犬里Δ繊�1972年までに起こった，ドイツ連邦共和国（西ドイツ）に関わるできごとの説明として誤りを含むものを選びなさい。
a 1949年５月，ボンを暫定的な首都としてドイツ連邦共和国が成立した。
b 1952年，フランス・西ドイツ・イタリア・ベネルクス３国はヨーロッパ石炭鉄鋼共同体を結成した。
c キリスト教民主同盟のアデナウアー首相の下，経済復興を果たした西ドイツは，1955年，米・英・仏・ソと国家条約を結んで主権を回復した。
d 1969年，西ドイツ首相となった社会民主党のブラントは，ソ連や東欧の社会主義国との関係改善をはかる東方外交を始めた。
＜解答解説＞
b・dは正文。cは「1955年，米・英・仏・ソと〜〜」の下りはオーストリアのこと。西ドイツの主権回復は経緯が少し複雑だが，最終的に1954年のパリ協定で認められた。これは西ドイツのNATO加盟を条件とした条約であったため，ソ連は参加しておらず，西ドイツとソ連は個別に1955年に国交を回復した。作問者の想定解はこれだろう。審議の対象はaで，西ドイツの成立は1949年５月だが，ボンが暫定首都に決まったのは９月であるから，aは誤文とも解釈できる。大学当局からお詫びと全員正解にした旨の発表があった。受験生を無駄に惑わせようとして月なんて書くからこういうことになる。早稲田予備校から同様の指摘あり。私も初見では気づかなかった。鋭い指摘。
１７．早稲田大 教育学部
＜種別＞誤植・難問・出題ミス
＜問題＞２ 問１ 次の(A)〜(C)の文中の空欄に当てはまる地名を第1群の選択肢a〜eから，また，その地名の説明として適当なものを第２群の選択肢f〜jから，それぞれ１つ選べ。
(A) 〔 〕条約により，ドイツ西部国境の現状維持のほか，ラインラントの非武装化が確認された。
(B) 東アジア・太平洋地域をめぐる国際秩序について，合衆国・イギリス・フランス・日本などによる条約が結ばれ，〔 〕体制と呼ばれた。
(C) フランスとアメリカ合衆国が提唱し，〔 〕で調印された不戦条約は，戦争違法化の先例となった。
＜第１群＞
a パリ b ロカルノ c ローザンヌ d ロンドン e ワシントン
＜第２群＞
f 首都とするために新たに建設され，1800年に政府所在地が移転した。
g ローマ時代に建設されたロンディニウムを起源とする。
h スイス南部に位置するイタリア語圏のティチアーノ州の都市である。
i スイス西部の都市で，国際オリンピック委員会の本部が置かれている。
j 第３回万国博覧会が開催された。
＜解答解説＞
(B)・(C)は易しい。(B)はワシントンなのでeとf。(C)はパリなのでaとjが正解である。(A)も，ロカルノ条約の内容なので＜第１群＞の正解はbとわかるのだが，その場所についての情報は普通は覚えてこないものなので，＜第２群＞はhとiの２択から絞るのが難しい。なんとなく国際オリンピック委員会の本部がありそうなのはローザンヌかなと当てをつければ正解のhにたどり着ける。しかし，それはそれとしてロカルノがあるのはティチーノ州であってティチアーノ州ではないのでhも該当しない。出題ミスである。ティチアーノ州という行政区分は存在しない。ティツィアーノという画家なら存在するので，そういう変換ミスかもしれない。
なお，ティツィアーノがTizianoとつづり，ティチーノはTicinoなのでつづりは全く違う。イタリア語のzはツァ行で表すのが一般的であって，小さいア行を使いたくない主義の人かイタリア語の表記に慣れていない人でなければティチアーノという表現を用いないはずである。その意味で非常に不可解な誤植で，責任の所在とは別に単純な興味から事故の真相を知りたいところ。代ゼミから同様の指摘あり。河合塾・駿台は誤植に気づかず。早稲田予備校は分析で「｢ティッツィアーノ州｣に関しては下手に疑わない方がいい。」と書いていたが，問題の表記はティッツィアーノではなくティチアーノである。この違いはすでに説明した通りで元のつづりにかかわってくるので意外と重要なのだが，ティチアーノという表記があまりにも見慣れなさすぎて，手が勝手に「ツィ」と書いてしまった気持ちはわかる。もっとも，早稲田予備校の表記も「ッ」が余分で，これも謎。これだけ明白かつ重篤な誤植で，まともに指摘しているのが代ゼミのみというのはちょっと意外。その代ゼミからの指摘を受けてのものと思われるが，大学当局から出題ミスを認めて謝罪するが，大勢に影響ないため特別な措置は講じない旨の発表があった。事実誤認の重みよりも，ローザンヌとロカルノの区別ができた受験生とそうでない受験生を選別する方に重きを置いたということだと思われるので，特別な措置を講じなかったことは責めなくていいだろう。
なお，この他に「1258年バグダードはモンゴル軍に征服され，以後，イル＝ハン国，セルジューク朝，ティムール朝などの支配を受けた。」という時間の歪みが生じていたり（セルジューク朝がバグダードを支配したのは1258年よりも前），「ニハーヴァンド」が「ニハーヴァント」になっていたりという誤字があったが，いずれも解答上問題ないとして特別な措置は講じないという発表があった。いくらなんでも誤植が多すぎるでしょ。
〔番外編６〕早稲田大 教育学部
＜問題＞４ （４） 李氏朝鮮について誤っている説明はどれか。
a 漢城（現ソウル）を都とした。
b 豊臣秀吉が朝鮮に侵攻した際，明の援軍を受けた。
c 仏教が栄え大蔵経が出版された。
d 李成桂は倭寇を破って名声を得た。
＜コメント＞
さすがに入試問題で李氏朝鮮はもう厳しい。用語として完全な誤りではないので出題ミスとは言わないが，「オスマン＝トルコ」並に表現として古いので勘弁してほしい。問題自体は易しく，cが高麗の出来事なのでこれが正解。代ゼミと早稲田予備校から同様の指摘あり。河合塾と駿台はおもねって本問の分析で「李氏朝鮮」と表記していた。そういう甘やかしはかえって良くないと思う。
１８．早稲田大 教育学部（２つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞４ （６） 琉球について正しい説明はどれか。
a 18世紀に薩摩の島津氏に服属した。
b 清代の琉球国王印は満洲語と漢語で刻まれていた。
c 今帰仁城を拠点とした中山王が琉球を統一した。
d 琉球の貢物をのせた船は春に中国に向い秋に帰港した。
＜解答解説＞
普通にわかるのはaが17世紀の誤りということだけだろう。cは沖縄県民か，高校日本史を勉強しているか，沖縄旅行で観光していたりしたらわかるかもしれない。今帰仁城は中山ではなく北山の城なのでcも誤り。bとdの２択からは日本史で出題されたとしても難問である。清朝は多くの公文書を満洲語と漢語の二通りで作成したという知識があれば金印もそうだろうと推測がつくかもしれないが，その知識自体が範囲外なので，この解法も現実的ではないだろう。あるいは，季節風からなんとか解けないかというアプローチがありうるが，沖縄の季節風が日本本島と変わらないとしても，ご存じの通り夏は南東季節風，冬は北西季節風と特徴があるが春・秋は安定しない。なお，沖縄では秋は北東からの季節風が卓越するとのことだが，それは九州に向かいにくいという理由にしかならず，北西方向が重要な中国への渡航の判断材料にしにくい。
こういうものは意外なところに記述があるもので，慶應大・法学部の手法を学んだか，山川の『詳説世界史』の「琉球貿易図屏風」のキャプションに小さな文字で「琉球の進貢船は，秋に向かい，春に帰港した」とあるので，dは逆，誤文＝誤文になる。bは上述の推測で正しく，清朝が琉球王国に与えた金印は漢語と満洲語の二言語で刻まれている。よって正解はb。
参考画像にリンクを張っておく。
『中山伝信録 二』伊波普猷文庫IH018-02（琉球大学附属図書館所蔵），31画像目（DOI: 10.24564/ih01802）。
季節風からの推測は，実は正しくなく，翌年の元旦の朝賀に間に合うために逆算して，秋頃に出航するということでこの時期になったらしい。しかし，実際には天候不順や上陸後の福建から北京までの陸路でのアクシデントにより，けっこう元旦に遅刻していたという。以下の論文が面白い。道光12年（1832年）になってもまだ３日遅刻していて中国側の伴走官が処罰されているのだが，出発時期を早めるなりの対策はなかったのだろうか。
王徴，（翻訳）野村直美「清代琉球使節の入京途中の遅延についての一考察」『沖縄史料編集紀要』40号，2017年，167-177頁。
１９．早稲田大 教育学部（３つめ）
＜種別＞出題ミス
＜問題＞４ （７） 永楽帝から日本国王号を冊封された将軍は誰か。
a 足利尊氏 b 足利義教 c 足利義満 d 足利義持
＜解答解説＞
頻出の出題ミス。日本国王号を与えられた時点で足利義満は退任している。したがって正解が無い。河合塾・駿台・代ゼミ・早稲田予備校と解答速報をやっているほぼ全ての予備校から同様の指摘があった。それにしては意外と時間が空いたが，入試日からしばらく経ってから，大学当局から謝罪と全員正解とした旨の発表があった。
２０．早稲田大 教育学部（４つめ）
＜種別＞出題ミス
＜問題＞４ （８） 大航海時代の航海者について述べた次の文�，鉢△寮妓蹐料箸濆腓錣擦箸靴得気靴い發里呂匹譴�。
� ．�ックはオーストラリアの領有宜言を行った。
�◆．丱襯椒△蓮崑席人痢廖弊鼎�な海）の命名者である。
a � 歙機´◆歙機 �b � 歙機´◆欷�
c � 欷蹇´◆歙機 �d � 欷蹇´◆欷�
＜解答解説＞
�△蓮崑席人痢廚量震昭圓�マゼランなので誤文。バルボアはヨーロッパ人として初めて東太平洋に到達した人物だが，彼はこれを「南の海」と呼んだ。審議の対象は�，如せ�実だけ考えれば正文になるが，クックが18世紀の探検家なので大航海時代の探検家ではないと考えると一転して誤文になる。大航海時代がいつまでかというのは曖昧な部分であるが，たとえば用語集の大航海時代の項目では「15〜17世紀」となっている。そのように17世紀前半のタスマンのオセアニア探検あたりまでを大航海時代とするのが一般的であろうと思う。
困りどころなのは，作問者がクックも大航海時代の探検家と思い込んでいて正文のつもりで作ったのか，そうでないとして誤文のつもりで作ったのか判断がつかないところで，この2022年の教育学部の作問の雑さを考えると前者の可能性が高いかと思う。しかしそうだとするとクックは大航海時代に活動していないと真っ当に判断した受験生は救われない。�，�正文なら正解はb，誤文なら正解はdになる。予備校の解答も割れており，代ゼミは出題ミスと指摘してb・dを併記。増田塾はdのみを正解とし，「クックは18世紀」と指摘。河合塾・駿台・早稲田予備校はbのみを正解とし，分析で触れていなかった。bのみとした予備校はおそらく出題不備に気づいていない。これも大学当局から発表があり，謝罪と全員正解とした旨の発表があった。代ゼミは教育学部については指摘した３箇所を全て当局に認めさせた形になり，お手柄（？）である。
２１．早稲田大 教育学部（５つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞４ 中国の史書である〔 A 〕には，紀元57年に「倭の奴の国王が〔 B 〕に朝貢使節を派遣してきたので，国王の印綬を与えた」という記載がある。これに対応すると思われる金印が18世紀末に福岡県から出土した。この金印のつまみは〔 C 〕の形をしていることから中国は奴国を南海諸国の一つとみなしていたのではないかと言われている。
問１ 空欄〔 A 〕にあてはまるのはどれか。
a 『漢書』 b 『後漢書』 c 『史記』 d 『春秋』
問２ 空欄〔 B 〕にあてはまるのは誰か。
a 王莽 b 光武帝 c 武帝 d 文帝
問３ 空欄〔 C 〕にあてはまるのはどれか。
a 魚 b 虎 c 羊 d 蛇
＜解答解説＞
用語集に記載はあるが，普通は覚えないものとして収録した。問１は後漢の時代についての記述だからbの『後漢書』，問２はその初代皇帝だからbの光武帝までは易しい。問３は難問。「南海諸国の一つとみなしていたのではないか」というから魚か蛇だろうと推測して２択が限界だろう。ここで用語集を引くとまさかの展開で記載がある。正解はdの蛇。虎は皇帝の玉璽のつまみ，羊は北方民族や西域諸国に与えられたつまみの形状。なお，こうした法則性は時代を下ると崩れていくようで，１８番で登場する琉球国王印のつまみはラクダである。
以上，教育学部はめずらしく激しくやらかしており，特に〔番外編６〕以降は全て同じ大問４であった。この大問４は全13問であり，うち４問が収録されたので，この大問に限れば入試問題として機能していない。もうちょっと丁寧に作問してほしい。
２２．早稲田大 商学部
＜種別＞難問
＜問題＞１ 問A 下線部Aに関連して（編註：アテネのアクロポリス），アクロポリスの遺跡群は1987年に世界遺産の文化遺産として登録された。この登録を行う国際連合の専門機関の本部はどの都市にあるか選べ。
1．ブリュッセル ２．ジュネーヴ ３．パリ ４．ニューヨーク
＜解答解説＞
国際組織の本拠地は国際連盟とILOのジュネーヴ，国際連合のニューヨーク，EUのブリュッセル等が問われることがあるが，ユネスコは通常学習しない。正解は３のパリ。
２３．早稲田大 商学部（２つめ）
＜種別＞難問・奇問
＜問題＞１ 問F 下線部Fに関連して（編註：パルテノン神殿内部の本尊），パルテノン神殿内部の主室に安置された祭神像の説明として最も適切なものを選べ。
１．アテナ女神像は黄金板や象牙等を用いて制作されたが現存しない。
２．黄金板や象牙等で制作されたアテナ女神像は現存し，黄金板が取り外し可能で，その大部分が軍資金に転用された。
３．パルテノン神殿の装飾部分と同様に現存しない大理石製のアテナ女神像にも彩色が施されなかった。
４．オリンポス12神のうち主神ゼウスと太陽神アポロンの黄金板や象牙製の像が，現存するアテナ女神像の両脇に安置されていた。
＜解答解説＞
奇問といって差し支えなかろう。アテネ女神像は現存していないことは用語集に記載があるが，１と３から絞るのは厳しい。正解は１で，古代ギリシアの彫刻なので大理石のイメージがあるが，史料に残っている限りアテナ女神像は象牙と黄金で制作されたらしい。嫌らしいのは各社の世界史資料集に載っているアテナ女神像はローマ時代の模倣品で，大理石製であるということだ。受験生は当時のものも大理石製だと推測するだろうから，１を誤文と見なすだろう。３は，一般的なイメージと異なり，古典古代の彫刻は彩色されていたものが多い。しかし，後世のヨーロッパ人は「白亜の古典古代」を理想化したため長らくこれを否認してきた。そのため，大英博物館はエルギン＝マーブルに残っていた彩色の痕跡を1920年代に洗浄してしまい，後に世紀の文化財破壊事件と非難されることになる。文学部でエルギン＝マーブルを出題したのは（１５番），本問への伏線だったのだろうか（早稲田大は学部縦割りで入試を作っているのでまずありえないと思うが）。
２４．早稲田大 商学部（３つめ）
＜種別＞悪問・難問
＜問題＞２ 問G 下線部Gにつき（編註：モンゴルの支配者たち），チンギス＝ハンの子孫により建てられたウルスのうち，最も早く君主の血統が途絶えたものを次から一つ選べ。
１．キプチャク＝ハン国 ２．イル＝ハン国
３．大元ウルス（元朝） ４．チャガタイ＝ハン国
＜解答解説＞
「君主の血統」の定義が曖昧なので，どこで区切ればよいのかがわからないが，おそらくハン国の建国者の直系の断絶を指していると思われる。しかし，教科書や用語集にはそれぞれのハン国が滅亡した年号しか記載が無いので解答しようがない。一応それらの年号で判断するとして，キプチャクハン国は1502年，イル＝ハン国は1353年，元朝は1388年，チャガタイ＝ハン国は14世紀後半なので，14世紀後半が曖昧ではあるものの，イル＝ハン国を解答に選ぶことになる。偶然の一致ながらこれが正解と思われる。
実際にはそれぞれの血統断絶のタイミングはこれらよりも早く，元朝以外は全く違う。たとえば建国者の直系の断絶とするとキプチャク＝ハン国は1359年，イル＝ハン国は1335年のようだ。チャガタイ＝ハン国は君主の血統より先に国家が分裂したり消滅したりしているので難しいが，東チャガタイ＝ハン国を経てモグーリスタン＝ハン国まで追えば，少なくとも16世紀まで続いている。ということで前述の通り偶然の一致となる。
２５．早稲田大 商学部（４つめ）
＜種別＞悪問・難問
＜問題＞２ 問K 下線部Kについて（編註：北魏におけるいわゆる「漢化政策」の前提は，鮮卑・漢のそれぞれが独自の制度・言語で統治されていたことである），北魏の指導者層を形成した中核集団である拓跋氏が華北に移動してから，その居住地であるシラ＝ムレン流域（現在の中国内モンゴル自治区東部）の草原地帯を占拠し，そののち華北の政治情勢に様々に介入する集団を次から一つ選べ。
１．柔然 ２．契丹 ３．鉄勒 ４．回紇
＜解答解説＞
北魏の指導者層の拓跋氏を中心とする鮮卑が華北に移動した後，モンゴル高原の覇権を握ったのは柔然である。華北の政治情勢に介入したのも確かだろう。しかし，５世紀頃のシラ＝ムレンを含む遼河流域は北魏・柔然・高句麗の係争地帯であって，柔然が占拠していたとは言いがたい。ここにかすかな違和感を覚えて別の選択肢を見ると，契丹がいる。契丹は遼河流域が根拠地であって，後にここに王朝を建てる。ただし，その王朝を建てる時期は10世紀初頭であるから，北魏の時代から約500年離れていて，「そののち」というにしては遠い。決め手に欠けるものの，柔然を問うなら「シラ＝ムレン流域」とは書くまいというところから，作問者の想定する正解は契丹であると思われる。
ところで，本問の問題文が史実としてどうか気になったので調べてみたところ，契丹は元からシラ＝ムレン流域にいたらしい。そもそも史書でさかのぼれるのが４世紀であるから，契丹のそれ以前の足跡を追うのは難しい。そして５世紀頃から南下して合流後の遼河流域（現在の遼寧省）に移住したらしいので，やはり本問の作問者は何かの勘違いをしている可能性がある。その後は北魏や北斉に朝貢して柔然や高句麗に対抗していた。696年に唐に対して反乱を起こしたが，武則天の派遣した遠征軍に討伐された。その後は北上して原住地に近い地域に戻っている。それからさらに約200年後，ここを拠点に耶律阿保機が契丹帝国を建てる。このような歴史であるなら，受験世界史で契丹の移住を追う必要はないだろう。
本問はよく勉強していてモンゴル高原の覇権交代をちゃんと覚えてきた受験生ほど柔然を選び，鉛筆を転がした受験生は25％の確率で正答することになる。選抜性という入試問題の本旨をかなぐり捨てて，何がやりたかったのだろうか。予備校の解答も割れていて，河合塾・駿台・代ゼミは２（契丹）。早稲田予備校・増田塾は１（柔然）。公式解答は２であった。
２６．早稲田大 商学部（５つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞２ 問L 下線部Lについて（編註：契丹の遼朝も女真の金朝も，支配下の人々を識別・区分して統治した），遼朝と金朝の統治制度について，正しいものを次から一つ選べ。
１．金朝は100戸を１謀克，10謀克を１猛安として編成した。
２．遼朝は支配地域を二分し，北半は北面官，南半は南面官がそれぞれ軍政・民政を掌握する二重統治体制をしいた。
３．金朝においては女真人も科挙を受験した。
４．遼朝がつくった契丹文字は， ウイグル文字の創造に大きな影響を与えた。
＜解答解説＞
細かい数字が間違っているシリーズ。２は，遼の二重統治体制は支配領域を遊牧地域と農耕地域に分けたもので，それぞれの担当官を北面官・南面官と呼んだのは確かだが，北半と南半で二分したわけではない。常識的に考えればわかるが，遊牧地域の方が圧倒的に広いので「半」はおかしい。また，北面官は遊牧民の民政と軍政が担当，南面官は農耕民の民政を担ったものなので，南面官が軍政を掌握したという部分も誤りである。４は因果関係が逆でウイグル文字が契丹文字の一部の字母となった。
残った１と３の判別が難しい。１は用語集に記載があり，１謀克は300戸なので誤文である。用語集に細かい数字の記載があるのは辞書的機能ゆえであって覚えさせる意図ではないのだから，こういうものの暗記を未来の受験生に強いるような問題はやめてほしい。商学部はしばしばこういう教科書や用語集に載っている普通は覚えさせないはずの数字を出してくる。最後に残った３が正文。金は漢民族とは分けて，女真文字を用いた女真人のための科挙を実施している。女真人の漢化を避けるための政策だったらしい。
〔番外編７〕早稲田大 商学部
＜問題＞３ 問H 下線部Hに関連して（編註：15世紀後半）， 15世紀後半ヨーロッパについて正しい説明はどれか。
１．カスティラ王子フェルナンドとアラゴン王女イサベルの結婚によりスペイン（イスパニア）王国が成立した。
２．イギリスではヘンリ７世が即位し，バラ戦争が終結した。
３．1498年，フランス国王シャルル８世はイタリアから撤兵しイタリア戦争が終結した。
４．神聖ローマ帝国皇帝カール５世軍により「ローマの劫略」とよばれる略奪が行われた。
＜コメント＞
難易度は低い。２が正文。３はイタリア戦争が1559年まで続くので誤文，４は1527年なので15世紀後半ではない。１はカスティリャとアラゴンが逆なのだが，カスティラと誤植している。これも１が誤文だから助かった事例で，紙一重で出題ミスを避けている。お腹が減っていてカステラを食べたかったのかな。語源だし。自明な誤植だが，どうでもよすぎるためか各社の解答速報で指摘なし。
２７．早稲田大 商学部（６つめ）
＜種別＞出題ミスに近い
＜問題＞３ 問K 下線部Kに関連して（編註：イギリス），以下のイギリスにおける思想，文芸についての説明で誤っているものはどれか。
１．シェークスピアはしばしば歴史に題材をとり，世界的な劇作家として認められている。
２．チョーサーは14世紀に活躍した詩人であり，代表作『カンタベリ物語』は以後の英詩に非常に大きな影響を与えた。
３．ネーデルラントの思想家エラスムスは『愚神礼賛』を著した。
４．トマス＝モアは『ユートピア』を著し社会批判を行ったが，終生官職には就かなかった。
＜解答解説＞
１・２は正文。４はトマス＝モアは大法官まで上り詰めた高級官僚であるから誤文＝正解。審議の対象は３で，内容自体は正しいが，３はネーデルラントの思想家なので「イギリスにおける思想，文芸」という問題の要件を満たしていない。調べてみるとエラスムスは長期間にトマス＝モア邸に滞在していて『愚神礼賛』もそこで執筆しているから，イギリスに全く関連がない選択肢ではない。しかし，それを根拠に『愚神礼賛』をイギリスの思想・文芸史に並べる人はまずいないことを考えると，やはりこれは「イギリスにおける思想，文芸の説明」として誤文だろう。せめて著述言語が英語なら話が違うだろうが，『愚神礼賛』はラテン語である。「『愚神礼賛』はイギリス国内で書かれているから実質イギリス文学」とネットスラングの「実質○○」並のこじつけをしない限りは複数正解の出題ミスと言わざるを得ない。代ゼミから同様の指摘あり。駿台は言及なし。河合塾は逆に上述のこじつけの通りの無理な擁護をしていた。この問題にそんな擁護をするような価値ある？？？ おそらくこの謎擁護の影響もあって，当局発表なし。
２８．早稲田大 商学部（７つめ）
＜種別＞奇問
＜問題＞４ 例えば，2019年5月には安全保障上の懸念がある企業からの調達を禁止する大統領令の署名がなされた。また商務省は，安全保障や外交上の利益に反する企業などを列挙したエンティティリスト（Entity List）に中国の代表的な通信機器企業〔 13 〕とその関連企業を追加した。同年5月16日発効となったこの措置は，同企業に対する事実上の禁輸措置の一環であった。
＜解答解説＞
完全な時事問題。いくらなんでもファーウェイはまだ世界史に名を残してないでしょ。とはいえ若者はスマホに詳しいので（偏見），受験生の正答率はそこまで低くなさそう。去年はBlack Lives Matterを出題していたので，商学部は毎年１つは時事ネタを入れるという内部の決まりがあるのかもしれない。なお，この大問４では他にアメリカの初代財務長官（ハミルトン），イギリス穀物法廃止時の首相（ピール），1964年に始まったGATTの交渉の名前（ケネディ＝ラウンド）といった範囲内というにはグレーゾーンな経済関連の用語が乱発されていた。戦後史・アメリカ史・経済史ではグレーゾーンないし範囲外から容赦なく出すという早稲田大・商学部の特徴が2022年もよく現れている。
２９．早稲田大 商学部（８つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞４ 下線部14に関して（編註：1980年代），1982年にメキシコで起こった経済的に重要な出来事とその背景について，アメリカとの関係を踏まえて記述解答用紙の所定欄に100字以内で説明せよ。なお，句読点・算用数字も１字とする。
＜解答解説＞
この事件は用語集頻度�，世�ら範囲内，というには用語集の説明自体が100字も無いので無理だろう。頻度�，世�ら載っている教科書があるはずだと探すと，山川の『詳説世界史』がそうなのだが，こちらの説明は用語集よりもさらに短い。学習した他の知識を用いて補完するのも難しい。これは完全な範囲外とみなすほかない。
メキシコは1979年の第二次石油危機に乗じて石油輸出を増やして空前の好景気を迎えていたが，当時のメキシコ政府は脱石油依存を目指し，アメリカの要求もあって資本の自由化を進め，外資の導入による工業化を図った。しかし，石油価格は1980年代に入ってすぐに戻った上に，過剰な外資が国内に流入した。アメリカがそれまでゼロ金利に近かった国内金利を，インフレ昂進抑制のためにカーター政権末期から引き上げていったために，アメリカ資本は余計に国外に流出した。結果的にメキシコの経常収支は大幅な赤字となった。数字で見ると1979年から1981年の間に経常収支の赤字幅が３倍に拡大していて，1981年の経常収支はGDP比で-6.5%に達していた。そもそもメキシコはそれ以前から政府も企業も外資に依存していたために累積債務を抱えていた。同年の財政赤字もGDP比で-14.1%とのことなので確かに厳しい数字が出ている。
悪いことに，膨大な外資流入に伴って悪性のインフレが生じ，1982年のインフレ率は98.8%に達し，あわせて外国為替市場における通貨のペソも暴落した。こうして1982年８月にとうとう利払いすら不可能となり，1982年にデフォルトを宣言し，あわせて外国為替市場を閉鎖，外国への送金禁止に踏み切った。こうした経済混乱により，翌1983年の経済成長率は-4.2%となる等，経済が大きく落ち込んでIMFの管理下で経済再建を図ることになったが，経済混乱は約10年続くことになった（そして1994年に再び通貨危機が起きている）。これが1982年のメキシコ債務危機の内容である。100字にまとめるなら，石油依存と価格暴落・アメリカの資本流入と累積債務・これらを理由としたデフォルトくらいの要素でアメリカとの関係を踏まえる副題も満たしつつ埋まるのではないだろうか。実際には１文字も書けなかったか，累積債務の一言で終わった受験生がほとんどであっただろう。
例年，早稲田大の商学部は割とひどいのだが，大問４つのうちの１・２つにひどい問題が固まっていて，残りはまずまずまともというパターンが多かった。2022年は収録総数で言えば例年より少し多いかなという程度だが，全大問に収録対象問題があって，易しさや悪質性の低さに鑑みて収録しなかった問題も含めて日本語が雑であり，解いていてイライラした。あとまあ，ファーウェイとかBLMとか聞きたいならもう世界史の看板を取り下げて「時事教養」みたいな試験科目名に変えればいいんじゃないですかね。
３０．早稲田大 社会科学部
＜種別＞出題ミス・難問・沖縄と小笠原の人に謝った方がいい
＜問題＞３ 問10 下線部（J）に関連する次の記述のうち（編註：朝鮮戦争が起き，アメリカの対日政策にも影響を与えた），最も適切なものを１つ選べ。
a．アメリカ軍を中心に，国際連合憲章に則った初めての国連軍が派遣された。
b．国連軍・北朝鮮人民軍・韓国軍・中国人民義勇軍の間で休戦協定が結ばれた。
c．日本では，朝鮮戦争中に，マッカーサーの指令で自衛隊が創設された。
d．サンフランシスコ平和条約で，沖縄と小笠原諸島はアメリカの信託統治領とされた。
＜解答解説＞
bは，朝鮮戦争休戦協定に韓国軍が参加していないので誤文。cは朝鮮戦争中に創設されたのは警察予備隊なので誤文。これが1952年に保安隊，1954年に自衛隊へと改組されていく。審議の対象はaとdである。
aは頻出のネタなのでこちらからいこう。朝鮮戦争時の国連軍は，ソ連が安保理欠席中になされた決議を根拠としている。それもあって国連憲章の第７章に定められた正規の手続きを経ないまま組織されたため，正式な国連軍とはみなさない見解が存在する。aの選択肢文中に「国際連合憲章に則った初めての」という言葉があることを考えると，少なくともこの作問者は朝鮮戦争時の国連軍は国連憲章に則っていないと考えていると推測できよう。なお，用語集の「国連軍出動」の項目にも「国連憲章に照らすと，厳密には多国籍軍出動である」という記述がある。ただし，実際の入試問題での朝鮮戦争での国連軍の扱いはケースバイケースで，これも１４番と同様に「深さ」の問題になってくる。
一方でdだが，沖縄と小笠原諸島は信託統治領になっていない。サンフランシスコ平和条約では，これらの領域はアメリカが国連に信託統治とするように提案し，国連が改めてアメリカに信託統治を依頼するという手続きを経て統治するという取り決めがなされていた。結局はアメリカが施政権を握ることに違いはないわけだが，アメリカとしては小笠原と沖縄の統治は一方的な占領統治ではなく，国際社会の承認の下で統治しているという名目を立てたかったようである。しかし，信託統治は国連の査察を伴うために冷戦下では面倒なことになると判断し，結局アメリカはその「手続き」を一向に進めず，日本への返還まで施政権の正当性や沖縄・小笠原の法的地位を宙に放り投げたままの占領統治を続けた。なお，この誤解については琉球新報や沖縄タイムスが折に触れてブチ切れ記事を書いている。一例として以下の記事を挙げておく。
・直木賞作品にも誤った記述「復帰前の沖縄は米国の信託統治だった」書籍に散見（琉球新報）
しかし困ったことに，山川の用語集がこの誤解をしていて，サンフランシスコ平和条約の説明に「沖縄・小笠原諸島はアメリカの信託統治とされた」と書いてしまっている。琉球新報さんは山川出版社に今すぐ猛抗議した方がいいよ。というか看過できないので，いろいろ落ち着いたら少なくとも私は問い合わせます。本記事を読んだ諸氏のどなたかがやってくれてもいい（山川さんから回答が来た人がいたら報告してくれると助かる）。
まとめると，aかdはいずれかを正文・いずれかを誤文としないと正解が出ない。aは山川の用語集に従えば誤文扱いにできるが，正文扱いにしないと過去の無数の入試問題との齟齬が生じる。dは逆に山川の用語集に従えば正文になるが，完全な事実誤認であるし，これを正文とみなしてしまうのは著しく沖縄県民の心情を害するだろう。受験世界史でも稀な究極の選択である。本企画で何度か書いているが，山川の用語集は金科玉条として扱うにはこういうミスが含まれているので危うい。専門外のことならコピペする前に必ず裏を取ってほしい。河合塾・駿台・代ゼミ・増田塾から同様の指摘あり。早稲田予備校のみ指摘なし。当然のこととして，大学当局から謝罪と全員正解とした旨の発表があった。しかし，謝罪文が定型で「受験生の皆様にはご迷惑をおかけしましたことを深くお詫び申し上げます。」となっていた。他にお詫びすべき向きがあるのではないか。
３１．早稲田大 社会科学部（２つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞４ 問４ 下線部（D）について（編註：グローバル化），グローバル化に関する次の記述のうち，最も適切なものを１つ選べ。
a．1973年に始まった「関税と貿易に関する一般協定」（GATT）ウルグアイ＝ラウンドでは，農産物やサービス貿易の自由化を巡って先進国間でも利害が対立し，交渉はしばしば暗礁に乗り上げた。
b．資本市場の自由化により，とくに投機的資金の動きによって金融や株式市場に混乱をきたし，1990年代に中南米，アジア，ロシアなどで通貨危機が発生した。
c．1995年，通商紛争の調停機能を持つ世界貿易機関（WTO）が発足するが，21世紀に入ると貿易自由化交渉の舞台は二国間ないし地域レベルの関税同盟にシフトしていった。
d．2017年に登場した米国オバマ政権下での「アメリカ＝ファースト」の主張に見られるように，先進国においても，グローバル化による格差拡大への反発から反グローバリズムやネオナショナリズムの動きが現れている。
＜解答解説＞
aはウルグアイ＝ラウンドが始まったのが1986年なので誤り。1973年に始まったのは東京ラウンド。商学部でケネディ＝ラウンドが出ていたし，2022年はGATTの当たり年であった。ウルグアイ＝ラウンドは用語集頻度�，任�りぎり範囲内。dはオバマがトランプの誤りで容易。bとcは受験生には判断ができなかっただろう。bは東京書籍の教科書の本文からのコピペであり，したがって正文＝正解。なお，２７番で触れた通りメキシコは1994年に通貨危機を起こしており，また1997年にアジア通貨危機，1998年にロシア通貨危機が起きている。cは『詳説世界史研究』からのコピペを一部変えて誤文にしたもので，関税同盟が自由貿易協定の誤り。言われてみると理解・納得できた人も多かろう。FTAやEPA，地域統合も関税同盟の一種と言えるのではないか？ という疑問を抱いた人は鋭い。私もちらっとそう思ったのだが，調べてみると域外への共通関税を設定していないものは関税同盟とは呼ばないという定義があるらしく，であれば確かに関税同盟と呼べるそれらは少ないから，21世紀のトレンドとは呼べまい。しかし，そこまで細かい定義を持ってこないと解けないなら本問は世界史ではなく政経の入試問題である。
2022年の早稲田大は７学部の全日程で収録対象を出した。多くの読者にとっては意外かもしれないがこれは2012年以来10年ぶりの珍事である。2020年以来２年ぶりのこと。
＜問題＞３ 設問４ 下線部dに関連して（編註：ノルマン人はドニエプル中流域のスラヴ人地域にまで進出し，先住民と同化しながら公国を形成した），この国の王でギリシア正教に改宗し，これを国教とした君主の名を記しなさい。
設問５ 下線部eに関して（編註：ノルマン人にはシチリアと両シチリアを征服する者も出て，彼らは同地で王国を建国した），最も適切なものを選びなさい。
イ この王国ではムスリムがキリスト教への改宗を強制され，彼らはモスリコと呼ばれて迫害を受けながら生活した。
ロ この王国はビザンツ帝国の一部となり，ギリシア正教世界の一員として地中海世界で繁栄した。
ハ この王国の王都パレルモでは，アラビア語の文献がラテン語に訳され翻訳活動の中心になっていた。とくにイブン＝ルシュドがアリストテレスの翻訳を行ったことで有名である。
ニ この王国では13世紀に「シチリアの晩鐘」事件が起こると，シチリア島に関してはアラゴン王国が支配するようになった。
＜コメント＞
設問４は下線部に「公国」とあるのに問われているのは「この国の王」という不思議なねじれがある。君主一般を「王」と呼んでしまうことはあるのでまあいいか，と思って後を読むと「君主の名を記しなさい」とあり，手前では「王」としていた理由がわからないので混乱する。解答上の混乱はないが，言葉があまりに適当すぎる。
設問５，選択肢イのモスリコはモリスコの誤植。シチリア島について問われていてこのイはスペインのことであるからいずれにせよ誤文なのだが，万が一スペインについての問いだったら正解が消滅していた。なお，ロはよくわからないがクレタ島か何かか。ハはイブン＝ルシュドがシチリアで活動していないので誤り。残ったニが正文＝正解で，問題は難しくない。
１５．早稲田大 文学部
＜種別＞難問
＜問題＞９ 設問３ 下線部(3)の作品を以下から一つ選びなさい（編註：パルテノン神殿の彫刻は，19世紀初頭，イギリスの外交官であったエルギン伯によって大英博物館にもたらされた。）。
＜解答解説＞
文化構想学部・文学部名物の美術作品問題。大抵は易しいのだが，2022年は範囲外から図版が持ってこられた。アの「ラオコーン」以外は用語集に項目がなく，資料集にも「ラオコーン」以外の図版が載っていることはめったにない。正解はイ。いわゆるエルギン＝マーブルのことで，その大半は破風彫刻であるから壁面に浮き彫りの形で彫られていた彫刻であることを知っていたらすぐに解けるが，これは範囲外の知識と言っていいだろう。
消去法で解くのも苦しい。ギリシア彫刻は古典期とヘレニズム・ローマ期で技術レベルが異なり，当然時代が下る後者の方が高い。その後者の代表例がアのラオコーンであり，パルテノン神殿は古典期の建築物であるから，ラオコーンよりも目立って技術的に稚拙なものが正解……という絞り方でイにたどり着けるものの，このアプローチで正解できた受験生は是非とも美術史学を専攻してほしいと思ってしまう程度に受験生にはハードルが高い解法だろう。なお，ウは「カピトリーノのウェヌス」と呼ばれるローマ期の作品。エは一品だけ隔絶して技術水準が高いので時代が全然違うわけだが，バロック期は史上名高いベルニーニの作品「アポロンとダフネ」である。
１６．早稲田大 人間科学部
＜種別＞出題ミス
＜問題＞４ Y �ァ＾焚爾諒犬里Δ繊�1972年までに起こった，ドイツ連邦共和国（西ドイツ）に関わるできごとの説明として誤りを含むものを選びなさい。
a 1949年５月，ボンを暫定的な首都としてドイツ連邦共和国が成立した。
b 1952年，フランス・西ドイツ・イタリア・ベネルクス３国はヨーロッパ石炭鉄鋼共同体を結成した。
c キリスト教民主同盟のアデナウアー首相の下，経済復興を果たした西ドイツは，1955年，米・英・仏・ソと国家条約を結んで主権を回復した。
d 1969年，西ドイツ首相となった社会民主党のブラントは，ソ連や東欧の社会主義国との関係改善をはかる東方外交を始めた。
＜解答解説＞
b・dは正文。cは「1955年，米・英・仏・ソと〜〜」の下りはオーストリアのこと。西ドイツの主権回復は経緯が少し複雑だが，最終的に1954年のパリ協定で認められた。これは西ドイツのNATO加盟を条件とした条約であったため，ソ連は参加しておらず，西ドイツとソ連は個別に1955年に国交を回復した。作問者の想定解はこれだろう。審議の対象はaで，西ドイツの成立は1949年５月だが，ボンが暫定首都に決まったのは９月であるから，aは誤文とも解釈できる。大学当局からお詫びと全員正解にした旨の発表があった。受験生を無駄に惑わせようとして月なんて書くからこういうことになる。早稲田予備校から同様の指摘あり。私も初見では気づかなかった。鋭い指摘。
１７．早稲田大 教育学部
＜種別＞誤植・難問・出題ミス
＜問題＞２ 問１ 次の(A)〜(C)の文中の空欄に当てはまる地名を第1群の選択肢a〜eから，また，その地名の説明として適当なものを第２群の選択肢f〜jから，それぞれ１つ選べ。
(A) 〔 〕条約により，ドイツ西部国境の現状維持のほか，ラインラントの非武装化が確認された。
(B) 東アジア・太平洋地域をめぐる国際秩序について，合衆国・イギリス・フランス・日本などによる条約が結ばれ，〔 〕体制と呼ばれた。
(C) フランスとアメリカ合衆国が提唱し，〔 〕で調印された不戦条約は，戦争違法化の先例となった。
＜第１群＞
a パリ b ロカルノ c ローザンヌ d ロンドン e ワシントン
＜第２群＞
f 首都とするために新たに建設され，1800年に政府所在地が移転した。
g ローマ時代に建設されたロンディニウムを起源とする。
h スイス南部に位置するイタリア語圏のティチアーノ州の都市である。
i スイス西部の都市で，国際オリンピック委員会の本部が置かれている。
j 第３回万国博覧会が開催された。
＜解答解説＞
(B)・(C)は易しい。(B)はワシントンなのでeとf。(C)はパリなのでaとjが正解である。(A)も，ロカルノ条約の内容なので＜第１群＞の正解はbとわかるのだが，その場所についての情報は普通は覚えてこないものなので，＜第２群＞はhとiの２択から絞るのが難しい。なんとなく国際オリンピック委員会の本部がありそうなのはローザンヌかなと当てをつければ正解のhにたどり着ける。しかし，それはそれとしてロカルノがあるのはティチーノ州であってティチアーノ州ではないのでhも該当しない。出題ミスである。ティチアーノ州という行政区分は存在しない。ティツィアーノという画家なら存在するので，そういう変換ミスかもしれない。
なお，ティツィアーノがTizianoとつづり，ティチーノはTicinoなのでつづりは全く違う。イタリア語のzはツァ行で表すのが一般的であって，小さいア行を使いたくない主義の人かイタリア語の表記に慣れていない人でなければティチアーノという表現を用いないはずである。その意味で非常に不可解な誤植で，責任の所在とは別に単純な興味から事故の真相を知りたいところ。代ゼミから同様の指摘あり。河合塾・駿台は誤植に気づかず。早稲田予備校は分析で「｢ティッツィアーノ州｣に関しては下手に疑わない方がいい。」と書いていたが，問題の表記はティッツィアーノではなくティチアーノである。この違いはすでに説明した通りで元のつづりにかかわってくるので意外と重要なのだが，ティチアーノという表記があまりにも見慣れなさすぎて，手が勝手に「ツィ」と書いてしまった気持ちはわかる。もっとも，早稲田予備校の表記も「ッ」が余分で，これも謎。これだけ明白かつ重篤な誤植で，まともに指摘しているのが代ゼミのみというのはちょっと意外。その代ゼミからの指摘を受けてのものと思われるが，大学当局から出題ミスを認めて謝罪するが，大勢に影響ないため特別な措置は講じない旨の発表があった。事実誤認の重みよりも，ローザンヌとロカルノの区別ができた受験生とそうでない受験生を選別する方に重きを置いたということだと思われるので，特別な措置を講じなかったことは責めなくていいだろう。
なお，この他に「1258年バグダードはモンゴル軍に征服され，以後，イル＝ハン国，セルジューク朝，ティムール朝などの支配を受けた。」という時間の歪みが生じていたり（セルジューク朝がバグダードを支配したのは1258年よりも前），「ニハーヴァンド」が「ニハーヴァント」になっていたりという誤字があったが，いずれも解答上問題ないとして特別な措置は講じないという発表があった。いくらなんでも誤植が多すぎるでしょ。
〔番外編６〕早稲田大 教育学部
＜問題＞４ （４） 李氏朝鮮について誤っている説明はどれか。
a 漢城（現ソウル）を都とした。
b 豊臣秀吉が朝鮮に侵攻した際，明の援軍を受けた。
c 仏教が栄え大蔵経が出版された。
d 李成桂は倭寇を破って名声を得た。
＜コメント＞
さすがに入試問題で李氏朝鮮はもう厳しい。用語として完全な誤りではないので出題ミスとは言わないが，「オスマン＝トルコ」並に表現として古いので勘弁してほしい。問題自体は易しく，cが高麗の出来事なのでこれが正解。代ゼミと早稲田予備校から同様の指摘あり。河合塾と駿台はおもねって本問の分析で「李氏朝鮮」と表記していた。そういう甘やかしはかえって良くないと思う。
１８．早稲田大 教育学部（２つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞４ （６） 琉球について正しい説明はどれか。
a 18世紀に薩摩の島津氏に服属した。
b 清代の琉球国王印は満洲語と漢語で刻まれていた。
c 今帰仁城を拠点とした中山王が琉球を統一した。
d 琉球の貢物をのせた船は春に中国に向い秋に帰港した。
＜解答解説＞
普通にわかるのはaが17世紀の誤りということだけだろう。cは沖縄県民か，高校日本史を勉強しているか，沖縄旅行で観光していたりしたらわかるかもしれない。今帰仁城は中山ではなく北山の城なのでcも誤り。bとdの２択からは日本史で出題されたとしても難問である。清朝は多くの公文書を満洲語と漢語の二通りで作成したという知識があれば金印もそうだろうと推測がつくかもしれないが，その知識自体が範囲外なので，この解法も現実的ではないだろう。あるいは，季節風からなんとか解けないかというアプローチがありうるが，沖縄の季節風が日本本島と変わらないとしても，ご存じの通り夏は南東季節風，冬は北西季節風と特徴があるが春・秋は安定しない。なお，沖縄では秋は北東からの季節風が卓越するとのことだが，それは九州に向かいにくいという理由にしかならず，北西方向が重要な中国への渡航の判断材料にしにくい。
こういうものは意外なところに記述があるもので，慶應大・法学部の手法を学んだか，山川の『詳説世界史』の「琉球貿易図屏風」のキャプションに小さな文字で「琉球の進貢船は，秋に向かい，春に帰港した」とあるので，dは逆，誤文＝誤文になる。bは上述の推測で正しく，清朝が琉球王国に与えた金印は漢語と満洲語の二言語で刻まれている。よって正解はb。
参考画像にリンクを張っておく。
『中山伝信録 二』伊波普猷文庫IH018-02（琉球大学附属図書館所蔵），31画像目（DOI: 10.24564/ih01802）。
季節風からの推測は，実は正しくなく，翌年の元旦の朝賀に間に合うために逆算して，秋頃に出航するということでこの時期になったらしい。しかし，実際には天候不順や上陸後の福建から北京までの陸路でのアクシデントにより，けっこう元旦に遅刻していたという。以下の論文が面白い。道光12年（1832年）になってもまだ３日遅刻していて中国側の伴走官が処罰されているのだが，出発時期を早めるなりの対策はなかったのだろうか。
王徴，（翻訳）野村直美「清代琉球使節の入京途中の遅延についての一考察」『沖縄史料編集紀要』40号，2017年，167-177頁。
１９．早稲田大 教育学部（３つめ）
＜種別＞出題ミス
＜問題＞４ （７） 永楽帝から日本国王号を冊封された将軍は誰か。
a 足利尊氏 b 足利義教 c 足利義満 d 足利義持
＜解答解説＞
頻出の出題ミス。日本国王号を与えられた時点で足利義満は退任している。したがって正解が無い。河合塾・駿台・代ゼミ・早稲田予備校と解答速報をやっているほぼ全ての予備校から同様の指摘があった。それにしては意外と時間が空いたが，入試日からしばらく経ってから，大学当局から謝罪と全員正解とした旨の発表があった。
２０．早稲田大 教育学部（４つめ）
＜種別＞出題ミス
＜問題＞４ （８） 大航海時代の航海者について述べた次の文�，鉢△寮妓蹐料箸濆腓錣擦箸靴得気靴い發里呂匹譴�。
� ．�ックはオーストラリアの領有宜言を行った。
�◆．丱襯椒△蓮崑席人痢廖弊鼎�な海）の命名者である。
a � 歙機´◆歙機 �b � 歙機´◆欷�
c � 欷蹇´◆歙機 �d � 欷蹇´◆欷�
＜解答解説＞
�△蓮崑席人痢廚量震昭圓�マゼランなので誤文。バルボアはヨーロッパ人として初めて東太平洋に到達した人物だが，彼はこれを「南の海」と呼んだ。審議の対象は�，如せ�実だけ考えれば正文になるが，クックが18世紀の探検家なので大航海時代の探検家ではないと考えると一転して誤文になる。大航海時代がいつまでかというのは曖昧な部分であるが，たとえば用語集の大航海時代の項目では「15〜17世紀」となっている。そのように17世紀前半のタスマンのオセアニア探検あたりまでを大航海時代とするのが一般的であろうと思う。
困りどころなのは，作問者がクックも大航海時代の探検家と思い込んでいて正文のつもりで作ったのか，そうでないとして誤文のつもりで作ったのか判断がつかないところで，この2022年の教育学部の作問の雑さを考えると前者の可能性が高いかと思う。しかしそうだとするとクックは大航海時代に活動していないと真っ当に判断した受験生は救われない。�，�正文なら正解はb，誤文なら正解はdになる。予備校の解答も割れており，代ゼミは出題ミスと指摘してb・dを併記。増田塾はdのみを正解とし，「クックは18世紀」と指摘。河合塾・駿台・早稲田予備校はbのみを正解とし，分析で触れていなかった。bのみとした予備校はおそらく出題不備に気づいていない。これも大学当局から発表があり，謝罪と全員正解とした旨の発表があった。代ゼミは教育学部については指摘した３箇所を全て当局に認めさせた形になり，お手柄（？）である。
２１．早稲田大 教育学部（５つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞４ 中国の史書である〔 A 〕には，紀元57年に「倭の奴の国王が〔 B 〕に朝貢使節を派遣してきたので，国王の印綬を与えた」という記載がある。これに対応すると思われる金印が18世紀末に福岡県から出土した。この金印のつまみは〔 C 〕の形をしていることから中国は奴国を南海諸国の一つとみなしていたのではないかと言われている。
問１ 空欄〔 A 〕にあてはまるのはどれか。
a 『漢書』 b 『後漢書』 c 『史記』 d 『春秋』
問２ 空欄〔 B 〕にあてはまるのは誰か。
a 王莽 b 光武帝 c 武帝 d 文帝
問３ 空欄〔 C 〕にあてはまるのはどれか。
a 魚 b 虎 c 羊 d 蛇
＜解答解説＞
用語集に記載はあるが，普通は覚えないものとして収録した。問１は後漢の時代についての記述だからbの『後漢書』，問２はその初代皇帝だからbの光武帝までは易しい。問３は難問。「南海諸国の一つとみなしていたのではないか」というから魚か蛇だろうと推測して２択が限界だろう。ここで用語集を引くとまさかの展開で記載がある。正解はdの蛇。虎は皇帝の玉璽のつまみ，羊は北方民族や西域諸国に与えられたつまみの形状。なお，こうした法則性は時代を下ると崩れていくようで，１８番で登場する琉球国王印のつまみはラクダである。
以上，教育学部はめずらしく激しくやらかしており，特に〔番外編６〕以降は全て同じ大問４であった。この大問４は全13問であり，うち４問が収録されたので，この大問に限れば入試問題として機能していない。もうちょっと丁寧に作問してほしい。
２２．早稲田大 商学部
＜種別＞難問
＜問題＞１ 問A 下線部Aに関連して（編註：アテネのアクロポリス），アクロポリスの遺跡群は1987年に世界遺産の文化遺産として登録された。この登録を行う国際連合の専門機関の本部はどの都市にあるか選べ。
1．ブリュッセル ２．ジュネーヴ ３．パリ ４．ニューヨーク
＜解答解説＞
国際組織の本拠地は国際連盟とILOのジュネーヴ，国際連合のニューヨーク，EUのブリュッセル等が問われることがあるが，ユネスコは通常学習しない。正解は３のパリ。
２３．早稲田大 商学部（２つめ）
＜種別＞難問・奇問
＜問題＞１ 問F 下線部Fに関連して（編註：パルテノン神殿内部の本尊），パルテノン神殿内部の主室に安置された祭神像の説明として最も適切なものを選べ。
１．アテナ女神像は黄金板や象牙等を用いて制作されたが現存しない。
２．黄金板や象牙等で制作されたアテナ女神像は現存し，黄金板が取り外し可能で，その大部分が軍資金に転用された。
３．パルテノン神殿の装飾部分と同様に現存しない大理石製のアテナ女神像にも彩色が施されなかった。
４．オリンポス12神のうち主神ゼウスと太陽神アポロンの黄金板や象牙製の像が，現存するアテナ女神像の両脇に安置されていた。
＜解答解説＞
奇問といって差し支えなかろう。アテネ女神像は現存していないことは用語集に記載があるが，１と３から絞るのは厳しい。正解は１で，古代ギリシアの彫刻なので大理石のイメージがあるが，史料に残っている限りアテナ女神像は象牙と黄金で制作されたらしい。嫌らしいのは各社の世界史資料集に載っているアテナ女神像はローマ時代の模倣品で，大理石製であるということだ。受験生は当時のものも大理石製だと推測するだろうから，１を誤文と見なすだろう。３は，一般的なイメージと異なり，古典古代の彫刻は彩色されていたものが多い。しかし，後世のヨーロッパ人は「白亜の古典古代」を理想化したため長らくこれを否認してきた。そのため，大英博物館はエルギン＝マーブルに残っていた彩色の痕跡を1920年代に洗浄してしまい，後に世紀の文化財破壊事件と非難されることになる。文学部でエルギン＝マーブルを出題したのは（１５番），本問への伏線だったのだろうか（早稲田大は学部縦割りで入試を作っているのでまずありえないと思うが）。
２４．早稲田大 商学部（３つめ）
＜種別＞悪問・難問
＜問題＞２ 問G 下線部Gにつき（編註：モンゴルの支配者たち），チンギス＝ハンの子孫により建てられたウルスのうち，最も早く君主の血統が途絶えたものを次から一つ選べ。
１．キプチャク＝ハン国 ２．イル＝ハン国
３．大元ウルス（元朝） ４．チャガタイ＝ハン国
＜解答解説＞
「君主の血統」の定義が曖昧なので，どこで区切ればよいのかがわからないが，おそらくハン国の建国者の直系の断絶を指していると思われる。しかし，教科書や用語集にはそれぞれのハン国が滅亡した年号しか記載が無いので解答しようがない。一応それらの年号で判断するとして，キプチャクハン国は1502年，イル＝ハン国は1353年，元朝は1388年，チャガタイ＝ハン国は14世紀後半なので，14世紀後半が曖昧ではあるものの，イル＝ハン国を解答に選ぶことになる。偶然の一致ながらこれが正解と思われる。
実際にはそれぞれの血統断絶のタイミングはこれらよりも早く，元朝以外は全く違う。たとえば建国者の直系の断絶とするとキプチャク＝ハン国は1359年，イル＝ハン国は1335年のようだ。チャガタイ＝ハン国は君主の血統より先に国家が分裂したり消滅したりしているので難しいが，東チャガタイ＝ハン国を経てモグーリスタン＝ハン国まで追えば，少なくとも16世紀まで続いている。ということで前述の通り偶然の一致となる。
２５．早稲田大 商学部（４つめ）
＜種別＞悪問・難問
＜問題＞２ 問K 下線部Kについて（編註：北魏におけるいわゆる「漢化政策」の前提は，鮮卑・漢のそれぞれが独自の制度・言語で統治されていたことである），北魏の指導者層を形成した中核集団である拓跋氏が華北に移動してから，その居住地であるシラ＝ムレン流域（現在の中国内モンゴル自治区東部）の草原地帯を占拠し，そののち華北の政治情勢に様々に介入する集団を次から一つ選べ。
１．柔然 ２．契丹 ３．鉄勒 ４．回紇
＜解答解説＞
北魏の指導者層の拓跋氏を中心とする鮮卑が華北に移動した後，モンゴル高原の覇権を握ったのは柔然である。華北の政治情勢に介入したのも確かだろう。しかし，５世紀頃のシラ＝ムレンを含む遼河流域は北魏・柔然・高句麗の係争地帯であって，柔然が占拠していたとは言いがたい。ここにかすかな違和感を覚えて別の選択肢を見ると，契丹がいる。契丹は遼河流域が根拠地であって，後にここに王朝を建てる。ただし，その王朝を建てる時期は10世紀初頭であるから，北魏の時代から約500年離れていて，「そののち」というにしては遠い。決め手に欠けるものの，柔然を問うなら「シラ＝ムレン流域」とは書くまいというところから，作問者の想定する正解は契丹であると思われる。
ところで，本問の問題文が史実としてどうか気になったので調べてみたところ，契丹は元からシラ＝ムレン流域にいたらしい。そもそも史書でさかのぼれるのが４世紀であるから，契丹のそれ以前の足跡を追うのは難しい。そして５世紀頃から南下して合流後の遼河流域（現在の遼寧省）に移住したらしいので，やはり本問の作問者は何かの勘違いをしている可能性がある。その後は北魏や北斉に朝貢して柔然や高句麗に対抗していた。696年に唐に対して反乱を起こしたが，武則天の派遣した遠征軍に討伐された。その後は北上して原住地に近い地域に戻っている。それからさらに約200年後，ここを拠点に耶律阿保機が契丹帝国を建てる。このような歴史であるなら，受験世界史で契丹の移住を追う必要はないだろう。
本問はよく勉強していてモンゴル高原の覇権交代をちゃんと覚えてきた受験生ほど柔然を選び，鉛筆を転がした受験生は25％の確率で正答することになる。選抜性という入試問題の本旨をかなぐり捨てて，何がやりたかったのだろうか。予備校の解答も割れていて，河合塾・駿台・代ゼミは２（契丹）。早稲田予備校・増田塾は１（柔然）。公式解答は２であった。
２６．早稲田大 商学部（５つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞２ 問L 下線部Lについて（編註：契丹の遼朝も女真の金朝も，支配下の人々を識別・区分して統治した），遼朝と金朝の統治制度について，正しいものを次から一つ選べ。
１．金朝は100戸を１謀克，10謀克を１猛安として編成した。
２．遼朝は支配地域を二分し，北半は北面官，南半は南面官がそれぞれ軍政・民政を掌握する二重統治体制をしいた。
３．金朝においては女真人も科挙を受験した。
４．遼朝がつくった契丹文字は， ウイグル文字の創造に大きな影響を与えた。
＜解答解説＞
細かい数字が間違っているシリーズ。２は，遼の二重統治体制は支配領域を遊牧地域と農耕地域に分けたもので，それぞれの担当官を北面官・南面官と呼んだのは確かだが，北半と南半で二分したわけではない。常識的に考えればわかるが，遊牧地域の方が圧倒的に広いので「半」はおかしい。また，北面官は遊牧民の民政と軍政が担当，南面官は農耕民の民政を担ったものなので，南面官が軍政を掌握したという部分も誤りである。４は因果関係が逆でウイグル文字が契丹文字の一部の字母となった。
残った１と３の判別が難しい。１は用語集に記載があり，１謀克は300戸なので誤文である。用語集に細かい数字の記載があるのは辞書的機能ゆえであって覚えさせる意図ではないのだから，こういうものの暗記を未来の受験生に強いるような問題はやめてほしい。商学部はしばしばこういう教科書や用語集に載っている普通は覚えさせないはずの数字を出してくる。最後に残った３が正文。金は漢民族とは分けて，女真文字を用いた女真人のための科挙を実施している。女真人の漢化を避けるための政策だったらしい。
〔番外編７〕早稲田大 商学部
＜問題＞３ 問H 下線部Hに関連して（編註：15世紀後半）， 15世紀後半ヨーロッパについて正しい説明はどれか。
１．カスティラ王子フェルナンドとアラゴン王女イサベルの結婚によりスペイン（イスパニア）王国が成立した。
２．イギリスではヘンリ７世が即位し，バラ戦争が終結した。
３．1498年，フランス国王シャルル８世はイタリアから撤兵しイタリア戦争が終結した。
４．神聖ローマ帝国皇帝カール５世軍により「ローマの劫略」とよばれる略奪が行われた。
＜コメント＞
難易度は低い。２が正文。３はイタリア戦争が1559年まで続くので誤文，４は1527年なので15世紀後半ではない。１はカスティリャとアラゴンが逆なのだが，カスティラと誤植している。これも１が誤文だから助かった事例で，紙一重で出題ミスを避けている。お腹が減っていてカステラを食べたかったのかな。語源だし。自明な誤植だが，どうでもよすぎるためか各社の解答速報で指摘なし。
２７．早稲田大 商学部（６つめ）
＜種別＞出題ミスに近い
＜問題＞３ 問K 下線部Kに関連して（編註：イギリス），以下のイギリスにおける思想，文芸についての説明で誤っているものはどれか。
１．シェークスピアはしばしば歴史に題材をとり，世界的な劇作家として認められている。
２．チョーサーは14世紀に活躍した詩人であり，代表作『カンタベリ物語』は以後の英詩に非常に大きな影響を与えた。
３．ネーデルラントの思想家エラスムスは『愚神礼賛』を著した。
４．トマス＝モアは『ユートピア』を著し社会批判を行ったが，終生官職には就かなかった。
＜解答解説＞
１・２は正文。４はトマス＝モアは大法官まで上り詰めた高級官僚であるから誤文＝正解。審議の対象は３で，内容自体は正しいが，３はネーデルラントの思想家なので「イギリスにおける思想，文芸」という問題の要件を満たしていない。調べてみるとエラスムスは長期間にトマス＝モア邸に滞在していて『愚神礼賛』もそこで執筆しているから，イギリスに全く関連がない選択肢ではない。しかし，それを根拠に『愚神礼賛』をイギリスの思想・文芸史に並べる人はまずいないことを考えると，やはりこれは「イギリスにおける思想，文芸の説明」として誤文だろう。せめて著述言語が英語なら話が違うだろうが，『愚神礼賛』はラテン語である。「『愚神礼賛』はイギリス国内で書かれているから実質イギリス文学」とネットスラングの「実質○○」並のこじつけをしない限りは複数正解の出題ミスと言わざるを得ない。代ゼミから同様の指摘あり。駿台は言及なし。河合塾は逆に上述のこじつけの通りの無理な擁護をしていた。この問題にそんな擁護をするような価値ある？？？ おそらくこの謎擁護の影響もあって，当局発表なし。
２８．早稲田大 商学部（７つめ）
＜種別＞奇問
＜問題＞４ 例えば，2019年5月には安全保障上の懸念がある企業からの調達を禁止する大統領令の署名がなされた。また商務省は，安全保障や外交上の利益に反する企業などを列挙したエンティティリスト（Entity List）に中国の代表的な通信機器企業〔 13 〕とその関連企業を追加した。同年5月16日発効となったこの措置は，同企業に対する事実上の禁輸措置の一環であった。
＜解答解説＞
完全な時事問題。いくらなんでもファーウェイはまだ世界史に名を残してないでしょ。とはいえ若者はスマホに詳しいので（偏見），受験生の正答率はそこまで低くなさそう。去年はBlack Lives Matterを出題していたので，商学部は毎年１つは時事ネタを入れるという内部の決まりがあるのかもしれない。なお，この大問４では他にアメリカの初代財務長官（ハミルトン），イギリス穀物法廃止時の首相（ピール），1964年に始まったGATTの交渉の名前（ケネディ＝ラウンド）といった範囲内というにはグレーゾーンな経済関連の用語が乱発されていた。戦後史・アメリカ史・経済史ではグレーゾーンないし範囲外から容赦なく出すという早稲田大・商学部の特徴が2022年もよく現れている。
２９．早稲田大 商学部（８つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞４ 下線部14に関して（編註：1980年代），1982年にメキシコで起こった経済的に重要な出来事とその背景について，アメリカとの関係を踏まえて記述解答用紙の所定欄に100字以内で説明せよ。なお，句読点・算用数字も１字とする。
＜解答解説＞
この事件は用語集頻度�，世�ら範囲内，というには用語集の説明自体が100字も無いので無理だろう。頻度�，世�ら載っている教科書があるはずだと探すと，山川の『詳説世界史』がそうなのだが，こちらの説明は用語集よりもさらに短い。学習した他の知識を用いて補完するのも難しい。これは完全な範囲外とみなすほかない。
メキシコは1979年の第二次石油危機に乗じて石油輸出を増やして空前の好景気を迎えていたが，当時のメキシコ政府は脱石油依存を目指し，アメリカの要求もあって資本の自由化を進め，外資の導入による工業化を図った。しかし，石油価格は1980年代に入ってすぐに戻った上に，過剰な外資が国内に流入した。アメリカがそれまでゼロ金利に近かった国内金利を，インフレ昂進抑制のためにカーター政権末期から引き上げていったために，アメリカ資本は余計に国外に流出した。結果的にメキシコの経常収支は大幅な赤字となった。数字で見ると1979年から1981年の間に経常収支の赤字幅が３倍に拡大していて，1981年の経常収支はGDP比で-6.5%に達していた。そもそもメキシコはそれ以前から政府も企業も外資に依存していたために累積債務を抱えていた。同年の財政赤字もGDP比で-14.1%とのことなので確かに厳しい数字が出ている。
悪いことに，膨大な外資流入に伴って悪性のインフレが生じ，1982年のインフレ率は98.8%に達し，あわせて外国為替市場における通貨のペソも暴落した。こうして1982年８月にとうとう利払いすら不可能となり，1982年にデフォルトを宣言し，あわせて外国為替市場を閉鎖，外国への送金禁止に踏み切った。こうした経済混乱により，翌1983年の経済成長率は-4.2%となる等，経済が大きく落ち込んでIMFの管理下で経済再建を図ることになったが，経済混乱は約10年続くことになった（そして1994年に再び通貨危機が起きている）。これが1982年のメキシコ債務危機の内容である。100字にまとめるなら，石油依存と価格暴落・アメリカの資本流入と累積債務・これらを理由としたデフォルトくらいの要素でアメリカとの関係を踏まえる副題も満たしつつ埋まるのではないだろうか。実際には１文字も書けなかったか，累積債務の一言で終わった受験生がほとんどであっただろう。
例年，早稲田大の商学部は割とひどいのだが，大問４つのうちの１・２つにひどい問題が固まっていて，残りはまずまずまともというパターンが多かった。2022年は収録総数で言えば例年より少し多いかなという程度だが，全大問に収録対象問題があって，易しさや悪質性の低さに鑑みて収録しなかった問題も含めて日本語が雑であり，解いていてイライラした。あとまあ，ファーウェイとかBLMとか聞きたいならもう世界史の看板を取り下げて「時事教養」みたいな試験科目名に変えればいいんじゃないですかね。
３０．早稲田大 社会科学部
＜種別＞出題ミス・難問・沖縄と小笠原の人に謝った方がいい
＜問題＞３ 問10 下線部（J）に関連する次の記述のうち（編註：朝鮮戦争が起き，アメリカの対日政策にも影響を与えた），最も適切なものを１つ選べ。
a．アメリカ軍を中心に，国際連合憲章に則った初めての国連軍が派遣された。
b．国連軍・北朝鮮人民軍・韓国軍・中国人民義勇軍の間で休戦協定が結ばれた。
c．日本では，朝鮮戦争中に，マッカーサーの指令で自衛隊が創設された。
d．サンフランシスコ平和条約で，沖縄と小笠原諸島はアメリカの信託統治領とされた。
＜解答解説＞
bは，朝鮮戦争休戦協定に韓国軍が参加していないので誤文。cは朝鮮戦争中に創設されたのは警察予備隊なので誤文。これが1952年に保安隊，1954年に自衛隊へと改組されていく。審議の対象はaとdである。
aは頻出のネタなのでこちらからいこう。朝鮮戦争時の国連軍は，ソ連が安保理欠席中になされた決議を根拠としている。それもあって国連憲章の第７章に定められた正規の手続きを経ないまま組織されたため，正式な国連軍とはみなさない見解が存在する。aの選択肢文中に「国際連合憲章に則った初めての」という言葉があることを考えると，少なくともこの作問者は朝鮮戦争時の国連軍は国連憲章に則っていないと考えていると推測できよう。なお，用語集の「国連軍出動」の項目にも「国連憲章に照らすと，厳密には多国籍軍出動である」という記述がある。ただし，実際の入試問題での朝鮮戦争での国連軍の扱いはケースバイケースで，これも１４番と同様に「深さ」の問題になってくる。
一方でdだが，沖縄と小笠原諸島は信託統治領になっていない。サンフランシスコ平和条約では，これらの領域はアメリカが国連に信託統治とするように提案し，国連が改めてアメリカに信託統治を依頼するという手続きを経て統治するという取り決めがなされていた。結局はアメリカが施政権を握ることに違いはないわけだが，アメリカとしては小笠原と沖縄の統治は一方的な占領統治ではなく，国際社会の承認の下で統治しているという名目を立てたかったようである。しかし，信託統治は国連の査察を伴うために冷戦下では面倒なことになると判断し，結局アメリカはその「手続き」を一向に進めず，日本への返還まで施政権の正当性や沖縄・小笠原の法的地位を宙に放り投げたままの占領統治を続けた。なお，この誤解については琉球新報や沖縄タイムスが折に触れてブチ切れ記事を書いている。一例として以下の記事を挙げておく。
・直木賞作品にも誤った記述「復帰前の沖縄は米国の信託統治だった」書籍に散見（琉球新報）
しかし困ったことに，山川の用語集がこの誤解をしていて，サンフランシスコ平和条約の説明に「沖縄・小笠原諸島はアメリカの信託統治とされた」と書いてしまっている。琉球新報さんは山川出版社に今すぐ猛抗議した方がいいよ。というか看過できないので，いろいろ落ち着いたら少なくとも私は問い合わせます。本記事を読んだ諸氏のどなたかがやってくれてもいい（山川さんから回答が来た人がいたら報告してくれると助かる）。
まとめると，aかdはいずれかを正文・いずれかを誤文としないと正解が出ない。aは山川の用語集に従えば誤文扱いにできるが，正文扱いにしないと過去の無数の入試問題との齟齬が生じる。dは逆に山川の用語集に従えば正文になるが，完全な事実誤認であるし，これを正文とみなしてしまうのは著しく沖縄県民の心情を害するだろう。受験世界史でも稀な究極の選択である。本企画で何度か書いているが，山川の用語集は金科玉条として扱うにはこういうミスが含まれているので危うい。専門外のことならコピペする前に必ず裏を取ってほしい。河合塾・駿台・代ゼミ・増田塾から同様の指摘あり。早稲田予備校のみ指摘なし。当然のこととして，大学当局から謝罪と全員正解とした旨の発表があった。しかし，謝罪文が定型で「受験生の皆様にはご迷惑をおかけしましたことを深くお詫び申し上げます。」となっていた。他にお詫びすべき向きがあるのではないか。
３１．早稲田大 社会科学部（２つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞４ 問４ 下線部（D）について（編註：グローバル化），グローバル化に関する次の記述のうち，最も適切なものを１つ選べ。
a．1973年に始まった「関税と貿易に関する一般協定」（GATT）ウルグアイ＝ラウンドでは，農産物やサービス貿易の自由化を巡って先進国間でも利害が対立し，交渉はしばしば暗礁に乗り上げた。
b．資本市場の自由化により，とくに投機的資金の動きによって金融や株式市場に混乱をきたし，1990年代に中南米，アジア，ロシアなどで通貨危機が発生した。
c．1995年，通商紛争の調停機能を持つ世界貿易機関（WTO）が発足するが，21世紀に入ると貿易自由化交渉の舞台は二国間ないし地域レベルの関税同盟にシフトしていった。
d．2017年に登場した米国オバマ政権下での「アメリカ＝ファースト」の主張に見られるように，先進国においても，グローバル化による格差拡大への反発から反グローバリズムやネオナショナリズムの動きが現れている。
＜解答解説＞
aはウルグアイ＝ラウンドが始まったのが1986年なので誤り。1973年に始まったのは東京ラウンド。商学部でケネディ＝ラウンドが出ていたし，2022年はGATTの当たり年であった。ウルグアイ＝ラウンドは用語集頻度�，任�りぎり範囲内。dはオバマがトランプの誤りで容易。bとcは受験生には判断ができなかっただろう。bは東京書籍の教科書の本文からのコピペであり，したがって正文＝正解。なお，２７番で触れた通りメキシコは1994年に通貨危機を起こしており，また1997年にアジア通貨危機，1998年にロシア通貨危機が起きている。cは『詳説世界史研究』からのコピペを一部変えて誤文にしたもので，関税同盟が自由貿易協定の誤り。言われてみると理解・納得できた人も多かろう。FTAやEPA，地域統合も関税同盟の一種と言えるのではないか？ という疑問を抱いた人は鋭い。私もちらっとそう思ったのだが，調べてみると域外への共通関税を設定していないものは関税同盟とは呼ばないという定義があるらしく，であれば確かに関税同盟と呼べるそれらは少ないから，21世紀のトレンドとは呼べまい。しかし，そこまで細かい定義を持ってこないと解けないなら本問は世界史ではなく政経の入試問題である。
2022年の早稲田大は７学部の全日程で収録対象を出した。
Posted by dg_law at 18:00│Comments(19)
この記事へのコメント
27の問題文については「イギリスにおける思想，文芸についての説明で誤っているものはどれか。」イギリス国内における思想、文芸の出版等に関する動向についての説明で誤っているものはどれかと 実は作成者の意図と読み方がディスコミュニケーションして、作者はその読みから離れられないため意味が分かってないと言う説を投げてみます
Posted by かっつん at 2022年03月19日 19:04
あー，そういう解釈ですか。そういう意図なのであれば，該当選択肢を「ネーデルラントの思想家エラスムスが著した『愚神礼賛』は，イギリスでも流行した。」という文にしてほしかったですね……
Posted by DG-Law at 2022年03月19日 21:53
金印のつまみは蛇というのが難問なのがちょっと驚きました。
多分この問題福岡や九州出身の受験生だったら正解率ある程度高いのでは。
中学の社会科で教えられた覚えがあります
多分この問題福岡や九州出身の受験生だったら正解率ある程度高いのでは。
中学の社会科で教えられた覚えがあります
Posted by koshimax at 2022年03月19日 22:12
東京オリンピックが開催しただけあってギリシャの難問も見受けられますね。
Posted by 名無し at 2022年03月20日 00:02
山川の日本史用語集の方では、「沖縄小笠原諸島は信託統治が予定されていたが、アメリカの施政権下に置かれた。」となっています。参考までに
Posted by ふみつき at 2022年03月20日 10:27
更新お疲れさまです。
20.の早稲田大学教育学部の問題の解説に「早稲田予備校はdのみを正解とし」とありますが、その後に続いて「河合塾・駿台・早稲田予備校はbのみを正解とし」と、早稲田予備校の解答が2つになっています。
誤植かな？と思ったので一応…
20.の早稲田大学教育学部の問題の解説に「早稲田予備校はdのみを正解とし」とありますが、その後に続いて「河合塾・駿台・早稲田予備校はbのみを正解とし」と、早稲田予備校の解答が2つになっています。
誤植かな？と思ったので一応…
Posted by 名無し at 2022年03月20日 10:28
＞koshimaxさん
地域性の出る問題だったのですね。確かに，そういう地元の観光資源は小学・中学で教えられるイメージがあります。
＞名無しさん
ギリシアはオリンピック関係なく頻出かなとは思います。
オリンピック自体も問題がつくりやすく，冬季を含めると（ほぼ）２年に１回やっているために話題にもしやすいところはありますね。もっとも，IOCの本部というところからローザンヌを聞くとは思わなかったですが。
＞ふみつきさん
解説を書く時に確認したのですが，そうなんですよね。だから余計に食い違いが気になりますね。
他の事例でもそうなんですが，山川さんは世界史と日本史の用語集の間での整合性を全く気にしていない様子ですね。
＞もう一人の名無しさん
ご指摘ありがとうございます。前者は増田塾の誤植でした（増田塾はもう消しちゃってますが）。修正しました。
地域性の出る問題だったのですね。確かに，そういう地元の観光資源は小学・中学で教えられるイメージがあります。
＞名無しさん
ギリシアはオリンピック関係なく頻出かなとは思います。
オリンピック自体も問題がつくりやすく，冬季を含めると（ほぼ）２年に１回やっているために話題にもしやすいところはありますね。もっとも，IOCの本部というところからローザンヌを聞くとは思わなかったですが。
＞ふみつきさん
解説を書く時に確認したのですが，そうなんですよね。だから余計に食い違いが気になりますね。
他の事例でもそうなんですが，山川さんは世界史と日本史の用語集の間での整合性を全く気にしていない様子ですね。
＞もう一人の名無しさん
ご指摘ありがとうございます。前者は増田塾の誤植でした（増田塾はもう消しちゃってますが）。修正しました。
Posted by DG-Law at 2022年03月20日 11:17
日本史と世界史の教科書の整合性は、縦割りで担当者が違うので擦り合わせもないのかなと歴史総合のスタートとはいえ、細かいものはないとなるとすれ違いも棚上げされそうですね
Posted by かっつん at 2022年03月20日 20:16
そうなんですよね。歴史総合は内容を深掘りしない分，いろいろと棚上げされそうな気がします。
それを気にして甲申政変を調べたのがこの記事です。
http://blog.livedoor.jp/dg_law/archives/52466720.html
歴史総合の教科書を読んでいて気づいたものは，今後も調べてみようと思っています。
それを気にして甲申政変を調べたのがこの記事です。
http://blog.livedoor.jp/dg_law/archives/52466720.html
歴史総合の教科書を読んでいて気づいたものは，今後も調べてみようと思っています。
Posted by DG-Law at 2022年03月21日 17:17
ご無沙汰しております。
金印は中学山川７０８に写真つきで蛇鈕金印として紹介ありますね。
中学山川７０８のシェアが高くないことから難問には変わりませんが。
そのページ他にも難問になりえそうな語句が出てますので金印で次狙われるとしたら危ないですね。
作問陣に見つからないことを祈るばかりです。
金印は中学山川７０８に写真つきで蛇鈕金印として紹介ありますね。
中学山川７０８のシェアが高くないことから難問には変わりませんが。
そのページ他にも難問になりえそうな語句が出てますので金印で次狙われるとしたら危ないですね。
作問陣に見つからないことを祈るばかりです。
Posted by おおおおんづけ at 2022年04月19日 00:40
2012年に全学部収録対象を出したとしていますが、ブログを拝見させて頂きましたところ、文学部は収録対象がありませんでしたね。
Posted by 名無し at 2022年04月22日 07:41
＞おおおおんづけさん
中学山川，持ってはいますけどこの企画の資料としては使ってませんわ……
おっしゃる通り，作問陣に見つかってほしくないですね。
＞名無しさん
ブログ版は（特に古い年度は）速報版なので。書籍版だと文学部も１問収録しています。
中学山川，持ってはいますけどこの企画の資料としては使ってませんわ……
おっしゃる通り，作問陣に見つかってほしくないですね。
＞名無しさん
ブログ版は（特に古い年度は）速報版なので。書籍版だと文学部も１問収録しています。
Posted by DG-Law at 2022年04月22日 20:30
金印ですが帝国３１４世界史Aにそのものずばりの図版が掲載されてました。
作問陣はここから出題の着想を得たのではないだろうか・・・
作問陣はここから出題の着想を得たのではないだろうか・・・
Posted by おおおおんづけ at 2022年07月13日 22:33
金印ネタでもう一個
そのリード文とほぼ同意の文章が東書３１１世界史Bに載ってました・・・
作問陣はここから着想を得たかもしれないですね。
そのリード文とほぼ同意の文章が東書３１１世界史Bに載ってました・・・
作問陣はここから着想を得たかもしれないですね。
Posted by おおおおんづけ at 2022年07月13日 22:38
載ってることはあるんですよね。記事中の通り，用語集に答えも載ってるし。
普通はそこは聞かないだけで……
普通はそこは聞かないだけで……
Posted by DG-Law at 2022年07月30日 23:24
今更ですが書籍版を含めますと2020年も早稲田は全学部収録されてませんかね？
Posted by 名無し at 2022年09月10日 14:39
ご指摘の通りです。気づいてませんでした。
本文を修正しておきます。ありがとうございます。
本文を修正しておきます。ありがとうございます。
Posted by DG-Law at 2022年09月10日 15:43
27番以降の商学部の問題の通算のカウントが1つずれているのですが...
Posted by 一閲覧者 at 2023年02月07日 18:00
あれ，ほんとだ。直しました。ありがとうございます。
Posted by DG-Law at 2023年02月07日 18:06
