2022年03月20日
2022受験世界史悪問・難問・奇問集 その３（国立大）
１．名古屋大
＜種別＞出題ミス
＜問題＞１ 中国史上しばしばあらわれた「乱」には，乱徒が身につけたシンボルや反乱首謀者の名をとって命名される場合が多い。（編者により中略）〔 �А 佑陵陝陛癲法ぁ漫´─ 佑陵陝陛睨�），〔 �� 〕の乱（明末）などは後者である。
（編者により中略）事実，隋末の乱は中国史上で最大規模の乱であり，四川を除く中国のほぼ全域を巻き込んだ。その特徴は極めて土着性の強いことにあり，典型的な群雄割拠の情勢をつくりあげた。この点は，唐末の〔 �А 佑陵陲�〔 �� 〕の商業経路を利用して非常に流動的な動きを示したことと対照的である。つまり， 隋末と唐末の反乱の動きの違いは，〔 �� 〕ことを物語っているのである。
（石見清裕『唐代の国際関係』山川出版社2009年，pp.10-12 一部改）
問３ 〔 �� 〕〜〔 �� 〕について。
a）〔 �� 〕〜〔 �� 〕の「乱」の名を答えなさい。
（編註：��の正解は李自成。またbは問題無く成立しているので省略）
問４ 〔 �� 〕・〔 �� 〕について。
a）〔 �� 〕に当てはまる語句を答えなさい。
b）〔 �� 〕に入るべき，隋末と唐末の反乱の動きの違いの背景となった社会情勢の変化について簡潔に答えなさい。
（編註：20〜30字程度）
＜解答解説＞
１字の誤植だが，大規模な玉突き事故が起きた。最初に出てくる〔 �А 佑蓮陛癲砲砲覆辰討い襪里法じ紊能个討�る〔 �А 佑蓮陛睨�）になっている。ここからわかる通り，二度目の�Г��┐慮躾�である。二度目の�Г鬮┐膨召靴疹紊農飢鬚鮟个垢覆蕁きГ楼損法き┐浪�巣，��は塩，��は「唐代の間に中国の商業網が著しく広がっていた」でよいだろう。大学当局から即日で発表があり，�АΝ┐賄�然として，��・��も正解が出ないとして４問とも全員正解となった。お詫びで「公平かつ公正に実施されなければならない入学者選抜において出題ミスが発生しましたことは、誠に遺憾であり、受験生の皆様に深くお詫び申し上げます。」とあったが，例年の惨状を見るに，何を白々しいと思った人も多かろう。配点は推定になるが，４問合わせて200点満点のうちの10点分ほどが吹き飛んだと思われる。
２．名古屋大（２つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞１ 問１ 下線部�，砲弔い董癖埣陝Л�北周と北斉の東西対峙の形勢は，577年に東の北斉が滅び，華北は西の北周の統治下にはいった。）。
a）「東西対峙の形勢」とあるが，このような形勢に至る以前，５世紀の前半に華北を統一した政権（王朝）の名，この政権を建てた民族の名，創建者の氏族名を答えなさい。
（編註：正解はそれぞれ北魏，鮮卑，拓跋氏）
b）上記の政権が統一した華北地方が「東西対峙の形勢」に至る過程を簡潔に説明しなさい。
（編註：70〜80字程度）
＜解答解説＞
ほとんどの受験生がこれについて知っていることは「北魏が東西に分裂した後，西魏が北周に，東魏が北斉に代わった」までで全てな上に，それらは問題文及びaにあり，そもそも問題の要求は北魏が東西分裂するまでの過程であるから，解答に書けることが無い。詰んでしまった。大問１の問１からこれではやる気がなくなる。一応，一番詳しく書いてある帝国書院の教科書の説明を引用すると，「孝文帝は（中略）平城から洛陽に都を遷すなど，積極的な漢化政策をとった。しかし，鮮卑本来の言語・服装の禁止や洛陽中心の政治は，北方に残った同族の反発を買い，長城地帯での軍隊の反乱をきっかけに北魏は東西に分裂した。」とあって，これで100字程度になるから，これを完コピして少し削れば解答できる。しかし，ここを覚えていた受験生は極めて少なかろう。北魏の東西分裂は漢化政策を背景とするが，これはこの帝国書院の教科書にしか載っておらず，通常は学習しない。帝国書院の本文で説明されているからセーフという発想は慶應大・法学部と何ら変わらない。論述で配点が大きい分，たちが悪いかもしれない。問題文の引き写しや空想の歴史を採点していて虚無感はなかったのだろうか。なお，河合塾と駿台の解答はいずれもその問題文の引き写しであった。
もう少し補足すると，帝国書院の教科書の説明にある「長城地帯での軍隊の反乱」を六鎮の乱と呼ぶ。六鎮の乱鎮圧の過程で活躍した将軍と皇族の間で対立が生じ，六鎮の乱後の北魏は実質的な無政府状態に陥った。その混乱の中で有力軍人の高歓が台頭したが，これを嫌った時の皇帝が出奔し，六鎮の乱の残党で長安付近に割拠していた宇文泰に匿われた。そのため高歓は傀儡の新皇帝を擁立し，北魏が東西分裂した。この高歓と宇文泰の死後，それぞれの一族が北魏由来の皇帝から簒奪……形式的な禅譲を受けて東魏から北斉（高氏）が，西魏から北周（宇文氏）が成立した。最終的には北周が北斉を滅ぼし，北周の功臣の楊堅が隋を建て，隋が南朝を滅ぼして南北朝を統一した。
３．名古屋大（３つめ）
＜種別＞悪問
＜問題＞１ 問５ 〔 �� 〕・〔 �� 〕について。
a）これらの空欄に当てはまる語句を答えなさい。
（編註：隋の滅亡要因２つが問われている。正解は��が高句麗遠征，��が大運河の開削。）
b）〔 �� 〕が最終的に解決したのはいつのことか。王朝名と支配者（皇帝）の名で答えなさい。
（編註：高句麗を滅亡させたのは唐の高宗。）
c）〔 �� 〕との関わりが深い中国歴代王朝の首都を３つあげなさい。またこれの完成がその後の中国史に与えた影響について簡潔に説明しなさい。（編註：70〜80字程度）
＜解答解説＞
a・bは普通に解けるし，cも論述は難しくない。「大運河の開削」（原文は「大運河の開鑿工事」）が完成したことで，政治・軍事の中心である華北と穀倉地帯の長江流域が結合し，中国の政治・経済の一体性が高まった，というようなことをつらつら書いていけば解答欄が埋まるだろう。問題は「大運河の開削との関わりが深い中国歴代の王朝の首都３つ」である。本問のポイントは「大運河」ではなく「大運河の開削」であることだ。歴代の王朝はいずれも大運河の浚渫工事を行っているが，開削と呼べるほどの大規模な土木工事に着手したのは，初代の大運河を完成させた隋，隋代のものが金と南宋の対立で埋没したためにより海側に新設した元，そして元の大運河を改修・拡張した永楽帝以降の明である。とすると素直な解答は長安（大興城）・大都・北京になるが，大都と北京は同一の都市なので非常に間抜けな解答になってしまう。いかに名古屋大の中国史担当がひねくれていると言っても，さすがにこの解答は求めていないと思いたい。ハンロンの剃刀で考えて，おそらく「大運河の開削」で空欄を作ったことを忘れて，「大運河」だと思い込んで問５のcを作ってしまったのではないかと思われる。もっとも，それでも問題は発生する。「大運河」と関わりが薄い統一王朝なんて無いので，どの王朝の首都を３つ並べても概ね正解になってしまうから，これはこれで易しすぎて問う意味がなく，問題が崩壊する。少なくとも隋・唐の長安，北宋の開封，南宋の杭州（臨安），元・明・清の北京のいずれでも可だろう。後唐の洛陽，洪武帝時代の明の南京がやっと誤答になるかどうかではないか。結局のところ正答がわからない。
なお，河合塾はそもそも��を「大運河の開削」ではなく「大運河」としていたから，この時点で誤答である。それゆえにこのcは「長安・開封・臨安」としていた。ただし，分析で本問について「引用文どおり の文章で答えるのは難しい。」と書いており，暗に「原文が大運河の開鑿工事であることは確認済だが，ここを��を大運河にしないとcの解答が出せないから仕方なくこうしました」と言っている様子がある。河合塾の解答にはお膝元ゆえの真実と忖度の葛藤がある（河合塾は名古屋発祥）。駿台は同様で「大運河」と「北京・開封・杭州」として分析でのコメントは無し。ついでに駿台は名大の全体的な印象について「今年は出題ミスがあって４問が正解不能となったが，全体的に良問であり，問題�気里茲Δ縫蝓璽品犬鯑匹鵑嚢佑┐気擦觸仟蠅發△辰拭廚般椶魑燭Δ茲Δ覆海箸鮟颪い討い拭２鯏�例も本問は70〜80字程度のところ40字で出していて字数が解答欄と一致していないし，上述の通り２番の解答もひどかった。駿台の担当者さん，問題ちゃんと解いた？ 東進も駿台と同じで「大運河」と「開封・臨安・北京」で，分析コメント無し。代ゼミは唯一まともに問題と向き合っていて，折衷案的に「長安・開封・北京」とした上で，分析で「本来の解答は長安（大興城）・大都・北京になるが，大都と北京は同じ都市であるので不自然」とした上で「大学には明瞭に正解を導き出せるような出題をお願いしたい。」とけっこうな勢いで切れていた。
４．京都大
＜種別＞難問
＜問題＞２ (23) 1644年，清は中国本土に入ると北京に遷都した。その直前まで，清が都を置いていた東北地方の都市はどこか。その当時の名称を答えよ。
＜解答解説＞
京大は２・３年に１問程度，難関私大らしさのある語句記述を課す。2022年は本問がそれだった。北京遷都前の清（後金）の首都が瀋陽（後には奉天とも呼ばれる）だったということ自体がすでにやや細かい（用語集頻度��）のだが，さらに当時の名前を聞くという。正解は盛京。なぜ問いを瀋陽でとどめなかったのかが不可解。なお，駿台は解答を「瀋陽」にしていた。名古屋大に続いてやる気が感じられない。東大にあらずんば旧帝大にあらずとでもいいたげなやる気のなさである。
〔番外編〕一橋大
＜問題＞１ 次の文章は，神聖ローマ帝国の皇帝フリードリヒ１世（バルバロッサ）が1158年にイタリア北部のロンカリアで発した勅法「ハビタ」の全文である。この文章を読んで，問いに答えなさい。
史料は長いので省略，全文読みたい方はこちらへ。
（勝田有恒「最古の大学特許状 Authenticum Habita」『一橋論叢』第69巻第１号より引用。但し，一部改変）
問い この勅法が発せられた文化的・政治的状況を説明しなさい。その際，下記の語句を必ず使用し，その語句に下線を引きなさい。（400字以内）
ボローニャ大学 自治都市
＜コメント＞
難しいのは確かだが，受験生が全く書けないものではないので番外編とした。しかし，いわゆるレジェンドシリーズなので，その観点で記録する意義があろう。本問で挙げられている史料は出典の通り，1973年に『一橋論叢』に掲載された研究ノート上の翻訳である。著者の勝田有恒氏は一橋大の法学部の名誉教授で，西洋法制史が専門，2005年に亡くなられている。該当の研究ノートはネット上で閲覧可能。
本問は，この研究ノートを読むとより完璧な解答を書けるのは間違いないが，これを読まなくても高校世界史上の知識だけでも何とか400字埋められる……というよりも研究ノートの情報の引き写しだとむしろ問題の要求に答えきれないところがポイントである。これは私から世の指導者に対する警句になるが，いつもの無茶ぶりだろうと思って該当資料に依拠しすぎると，かえって見当違いの解答例になるだろう。
その上で一応解法を書いておくと，文化的状況はこの12世紀半ばが西欧の大学の創設期にあたることと，大学は教員と学生のギルド的自治組織として成立したこと，それらの背景に12世紀ルネサンスという文化現象があることを想起できれば書けたも同然で，それぞれの情報を肉付けしてやればよい。ボローニャ大学はローマ法（教会法ではない世俗法）の研究が盛んであったことは山川の用語集と山川『新世界史』に記載があり，資料文の３行目にも「市民法」とあるから解答に入れてもよく，良い加点になるだろう。ここまでの情報でも十分ながら，当時の学生は留学・遍歴が通常であったので（ラテン語が学術言語として共有されていたためにそれらが容易だった），外国出身の教員や学生が多かった。これは史料から読み取れる内容であるので，わずかであろうが書けた受験生もいただろう。ここにあえて研究ノートからの情報を足すなら，前述の通りボローニャ大学の学生はローマ法の学生が多かったため，必然的に学生は俗人が多く，教会の保護も無い中で，在地の自治都市の権力と争う必要があった。これらが自治都市の上位にいる皇帝の庇護を必要とした学生側の事情であるが，本問はここまで書くとむしろ400字を超過してしまうし，勅令が出された「状況」が要求であって勅令が出された「理由」は直接的には要求されていない。書いてあれば加点はされるだろうが，過剰解答だろう。
政治的状況は，イタリア自治都市（コムーネ）の成立と，フリードリヒ１世のイタリア政策が書ければよい。まず東方貿易の隆盛と内陸都市の毛織物・金属加工業などの産業発展，これを背景にした自治権の獲得を書き，ゲルフとギベリンの争いで統一的権力が不在であったために自治権が成長しやすかったことまで言及できればより良い。またフリードリヒ１世はドイツとイタリアの支配者たる神聖ローマ皇帝の義務としてイタリア政策をとっていたが，そのため北イタリアに友好的な勢力を築く必要があったことまで書けていれば十分な解答だろう。あとは教科書『新世界史』にのみ記述がある内容になるが，フリードリヒ１世はローマ法を皇帝権力の正当化に用いることを構想してイタリア政策に活用していたから，ボローニャ大学を優先的に支援する十分な理由があった。この知識は『新世界史』のシェアを考えると範囲内とは言いがたいが，一応史料をよく読むと「法学を修める者は臣民を啓発して皇帝への恭順を説くものである」という主旨が書いてあるので，読み取って書いてほしいということかもしれない。仮にここまで要求されているとするなら本問も無理な超難問に足を一歩踏み入れているが，そうであってもこの部分の配点は微少と思われるので，本問全般を悪性の難問と評するほどの瑕疵とは思われない。総じて，「レジェンドシリーズにしては」という留保付ではあれ，高校生が書ける範囲で何とかまとまっている問題と判断しうると思うのだが，読者諸氏としてはいかがだろうか。
＜種別＞出題ミス
＜問題＞１ 中国史上しばしばあらわれた「乱」には，乱徒が身につけたシンボルや反乱首謀者の名をとって命名される場合が多い。（編者により中略）〔 �А 佑陵陝陛癲法ぁ漫´─ 佑陵陝陛睨�），〔 �� 〕の乱（明末）などは後者である。
（編者により中略）事実，隋末の乱は中国史上で最大規模の乱であり，四川を除く中国のほぼ全域を巻き込んだ。その特徴は極めて土着性の強いことにあり，典型的な群雄割拠の情勢をつくりあげた。この点は，唐末の〔 �А 佑陵陲�〔 �� 〕の商業経路を利用して非常に流動的な動きを示したことと対照的である。つまり， 隋末と唐末の反乱の動きの違いは，〔 �� 〕ことを物語っているのである。
（石見清裕『唐代の国際関係』山川出版社2009年，pp.10-12 一部改）
問３ 〔 �� 〕〜〔 �� 〕について。
a）〔 �� 〕〜〔 �� 〕の「乱」の名を答えなさい。
（編註：��の正解は李自成。またbは問題無く成立しているので省略）
問４ 〔 �� 〕・〔 �� 〕について。
a）〔 �� 〕に当てはまる語句を答えなさい。
b）〔 �� 〕に入るべき，隋末と唐末の反乱の動きの違いの背景となった社会情勢の変化について簡潔に答えなさい。
（編註：20〜30字程度）
＜解答解説＞
１字の誤植だが，大規模な玉突き事故が起きた。最初に出てくる〔 �А 佑蓮陛癲砲砲覆辰討い襪里法じ紊能个討�る〔 �А 佑蓮陛睨�）になっている。ここからわかる通り，二度目の�Г��┐慮躾�である。二度目の�Г鬮┐膨召靴疹紊農飢鬚鮟个垢覆蕁きГ楼損法き┐浪�巣，��は塩，��は「唐代の間に中国の商業網が著しく広がっていた」でよいだろう。大学当局から即日で発表があり，�АΝ┐賄�然として，��・��も正解が出ないとして４問とも全員正解となった。お詫びで「公平かつ公正に実施されなければならない入学者選抜において出題ミスが発生しましたことは、誠に遺憾であり、受験生の皆様に深くお詫び申し上げます。」とあったが，例年の惨状を見るに，何を白々しいと思った人も多かろう。配点は推定になるが，４問合わせて200点満点のうちの10点分ほどが吹き飛んだと思われる。
２．名古屋大（２つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞１ 問１ 下線部�，砲弔い董癖埣陝Л�北周と北斉の東西対峙の形勢は，577年に東の北斉が滅び，華北は西の北周の統治下にはいった。）。
a）「東西対峙の形勢」とあるが，このような形勢に至る以前，５世紀の前半に華北を統一した政権（王朝）の名，この政権を建てた民族の名，創建者の氏族名を答えなさい。
（編註：正解はそれぞれ北魏，鮮卑，拓跋氏）
b）上記の政権が統一した華北地方が「東西対峙の形勢」に至る過程を簡潔に説明しなさい。
（編註：70〜80字程度）
＜解答解説＞
ほとんどの受験生がこれについて知っていることは「北魏が東西に分裂した後，西魏が北周に，東魏が北斉に代わった」までで全てな上に，それらは問題文及びaにあり，そもそも問題の要求は北魏が東西分裂するまでの過程であるから，解答に書けることが無い。詰んでしまった。大問１の問１からこれではやる気がなくなる。一応，一番詳しく書いてある帝国書院の教科書の説明を引用すると，「孝文帝は（中略）平城から洛陽に都を遷すなど，積極的な漢化政策をとった。しかし，鮮卑本来の言語・服装の禁止や洛陽中心の政治は，北方に残った同族の反発を買い，長城地帯での軍隊の反乱をきっかけに北魏は東西に分裂した。」とあって，これで100字程度になるから，これを完コピして少し削れば解答できる。しかし，ここを覚えていた受験生は極めて少なかろう。北魏の東西分裂は漢化政策を背景とするが，これはこの帝国書院の教科書にしか載っておらず，通常は学習しない。帝国書院の本文で説明されているからセーフという発想は慶應大・法学部と何ら変わらない。論述で配点が大きい分，たちが悪いかもしれない。問題文の引き写しや空想の歴史を採点していて虚無感はなかったのだろうか。なお，河合塾と駿台の解答はいずれもその問題文の引き写しであった。
もう少し補足すると，帝国書院の教科書の説明にある「長城地帯での軍隊の反乱」を六鎮の乱と呼ぶ。六鎮の乱鎮圧の過程で活躍した将軍と皇族の間で対立が生じ，六鎮の乱後の北魏は実質的な無政府状態に陥った。その混乱の中で有力軍人の高歓が台頭したが，これを嫌った時の皇帝が出奔し，六鎮の乱の残党で長安付近に割拠していた宇文泰に匿われた。そのため高歓は傀儡の新皇帝を擁立し，北魏が東西分裂した。この高歓と宇文泰の死後，それぞれの一族が北魏由来の皇帝から簒奪……形式的な禅譲を受けて東魏から北斉（高氏）が，西魏から北周（宇文氏）が成立した。最終的には北周が北斉を滅ぼし，北周の功臣の楊堅が隋を建て，隋が南朝を滅ぼして南北朝を統一した。
３．名古屋大（３つめ）
＜種別＞悪問
＜問題＞１ 問５ 〔 �� 〕・〔 �� 〕について。
a）これらの空欄に当てはまる語句を答えなさい。
（編註：隋の滅亡要因２つが問われている。正解は��が高句麗遠征，��が大運河の開削。）
b）〔 �� 〕が最終的に解決したのはいつのことか。王朝名と支配者（皇帝）の名で答えなさい。
（編註：高句麗を滅亡させたのは唐の高宗。）
c）〔 �� 〕との関わりが深い中国歴代王朝の首都を３つあげなさい。またこれの完成がその後の中国史に与えた影響について簡潔に説明しなさい。（編註：70〜80字程度）
＜解答解説＞
a・bは普通に解けるし，cも論述は難しくない。「大運河の開削」（原文は「大運河の開鑿工事」）が完成したことで，政治・軍事の中心である華北と穀倉地帯の長江流域が結合し，中国の政治・経済の一体性が高まった，というようなことをつらつら書いていけば解答欄が埋まるだろう。問題は「大運河の開削との関わりが深い中国歴代の王朝の首都３つ」である。本問のポイントは「大運河」ではなく「大運河の開削」であることだ。歴代の王朝はいずれも大運河の浚渫工事を行っているが，開削と呼べるほどの大規模な土木工事に着手したのは，初代の大運河を完成させた隋，隋代のものが金と南宋の対立で埋没したためにより海側に新設した元，そして元の大運河を改修・拡張した永楽帝以降の明である。とすると素直な解答は長安（大興城）・大都・北京になるが，大都と北京は同一の都市なので非常に間抜けな解答になってしまう。いかに名古屋大の中国史担当がひねくれていると言っても，さすがにこの解答は求めていないと思いたい。ハンロンの剃刀で考えて，おそらく「大運河の開削」で空欄を作ったことを忘れて，「大運河」だと思い込んで問５のcを作ってしまったのではないかと思われる。もっとも，それでも問題は発生する。「大運河」と関わりが薄い統一王朝なんて無いので，どの王朝の首都を３つ並べても概ね正解になってしまうから，これはこれで易しすぎて問う意味がなく，問題が崩壊する。少なくとも隋・唐の長安，北宋の開封，南宋の杭州（臨安），元・明・清の北京のいずれでも可だろう。後唐の洛陽，洪武帝時代の明の南京がやっと誤答になるかどうかではないか。結局のところ正答がわからない。
なお，河合塾はそもそも��を「大運河の開削」ではなく「大運河」としていたから，この時点で誤答である。それゆえにこのcは「長安・開封・臨安」としていた。ただし，分析で本問について「引用文どおり の文章で答えるのは難しい。」と書いており，暗に「原文が大運河の開鑿工事であることは確認済だが，ここを��を大運河にしないとcの解答が出せないから仕方なくこうしました」と言っている様子がある。河合塾の解答にはお膝元ゆえの真実と忖度の葛藤がある（河合塾は名古屋発祥）。駿台は同様で「大運河」と「北京・開封・杭州」として分析でのコメントは無し。ついでに駿台は名大の全体的な印象について「今年は出題ミスがあって４問が正解不能となったが，全体的に良問であり，問題�気里茲Δ縫蝓璽品犬鯑匹鵑嚢佑┐気擦觸仟蠅發△辰拭廚般椶魑燭Δ茲Δ覆海箸鮟颪い討い拭２鯏�例も本問は70〜80字程度のところ40字で出していて字数が解答欄と一致していないし，上述の通り２番の解答もひどかった。駿台の担当者さん，問題ちゃんと解いた？ 東進も駿台と同じで「大運河」と「開封・臨安・北京」で，分析コメント無し。代ゼミは唯一まともに問題と向き合っていて，折衷案的に「長安・開封・北京」とした上で，分析で「本来の解答は長安（大興城）・大都・北京になるが，大都と北京は同じ都市であるので不自然」とした上で「大学には明瞭に正解を導き出せるような出題をお願いしたい。」とけっこうな勢いで切れていた。
４．京都大
＜種別＞難問
＜問題＞２ (23) 1644年，清は中国本土に入ると北京に遷都した。その直前まで，清が都を置いていた東北地方の都市はどこか。その当時の名称を答えよ。
＜解答解説＞
京大は２・３年に１問程度，難関私大らしさのある語句記述を課す。2022年は本問がそれだった。北京遷都前の清（後金）の首都が瀋陽（後には奉天とも呼ばれる）だったということ自体がすでにやや細かい（用語集頻度��）のだが，さらに当時の名前を聞くという。正解は盛京。なぜ問いを瀋陽でとどめなかったのかが不可解。なお，駿台は解答を「瀋陽」にしていた。名古屋大に続いてやる気が感じられない。東大にあらずんば旧帝大にあらずとでもいいたげなやる気のなさである。
〔番外編〕一橋大
＜問題＞１ 次の文章は，神聖ローマ帝国の皇帝フリードリヒ１世（バルバロッサ）が1158年にイタリア北部のロンカリアで発した勅法「ハビタ」の全文である。この文章を読んで，問いに答えなさい。
史料は長いので省略，全文読みたい方はこちらへ。
（勝田有恒「最古の大学特許状 Authenticum Habita」『一橋論叢』第69巻第１号より引用。但し，一部改変）
問い この勅法が発せられた文化的・政治的状況を説明しなさい。その際，下記の語句を必ず使用し，その語句に下線を引きなさい。（400字以内）
ボローニャ大学 自治都市
＜コメント＞
難しいのは確かだが，受験生が全く書けないものではないので番外編とした。しかし，いわゆるレジェンドシリーズなので，その観点で記録する意義があろう。本問で挙げられている史料は出典の通り，1973年に『一橋論叢』に掲載された研究ノート上の翻訳である。著者の勝田有恒氏は一橋大の法学部の名誉教授で，西洋法制史が専門，2005年に亡くなられている。該当の研究ノートはネット上で閲覧可能。
本問は，この研究ノートを読むとより完璧な解答を書けるのは間違いないが，これを読まなくても高校世界史上の知識だけでも何とか400字埋められる……というよりも研究ノートの情報の引き写しだとむしろ問題の要求に答えきれないところがポイントである。これは私から世の指導者に対する警句になるが，いつもの無茶ぶりだろうと思って該当資料に依拠しすぎると，かえって見当違いの解答例になるだろう。
その上で一応解法を書いておくと，文化的状況はこの12世紀半ばが西欧の大学の創設期にあたることと，大学は教員と学生のギルド的自治組織として成立したこと，それらの背景に12世紀ルネサンスという文化現象があることを想起できれば書けたも同然で，それぞれの情報を肉付けしてやればよい。ボローニャ大学はローマ法（教会法ではない世俗法）の研究が盛んであったことは山川の用語集と山川『新世界史』に記載があり，資料文の３行目にも「市民法」とあるから解答に入れてもよく，良い加点になるだろう。ここまでの情報でも十分ながら，当時の学生は留学・遍歴が通常であったので（ラテン語が学術言語として共有されていたためにそれらが容易だった），外国出身の教員や学生が多かった。これは史料から読み取れる内容であるので，わずかであろうが書けた受験生もいただろう。ここにあえて研究ノートからの情報を足すなら，前述の通りボローニャ大学の学生はローマ法の学生が多かったため，必然的に学生は俗人が多く，教会の保護も無い中で，在地の自治都市の権力と争う必要があった。これらが自治都市の上位にいる皇帝の庇護を必要とした学生側の事情であるが，本問はここまで書くとむしろ400字を超過してしまうし，勅令が出された「状況」が要求であって勅令が出された「理由」は直接的には要求されていない。書いてあれば加点はされるだろうが，過剰解答だろう。
政治的状況は，イタリア自治都市（コムーネ）の成立と，フリードリヒ１世のイタリア政策が書ければよい。まず東方貿易の隆盛と内陸都市の毛織物・金属加工業などの産業発展，これを背景にした自治権の獲得を書き，ゲルフとギベリンの争いで統一的権力が不在であったために自治権が成長しやすかったことまで言及できればより良い。またフリードリヒ１世はドイツとイタリアの支配者たる神聖ローマ皇帝の義務としてイタリア政策をとっていたが，そのため北イタリアに友好的な勢力を築く必要があったことまで書けていれば十分な解答だろう。あとは教科書『新世界史』にのみ記述がある内容になるが，フリードリヒ１世はローマ法を皇帝権力の正当化に用いることを構想してイタリア政策に活用していたから，ボローニャ大学を優先的に支援する十分な理由があった。この知識は『新世界史』のシェアを考えると範囲内とは言いがたいが，一応史料をよく読むと「法学を修める者は臣民を啓発して皇帝への恭順を説くものである」という主旨が書いてあるので，読み取って書いてほしいということかもしれない。仮にここまで要求されているとするなら本問も無理な超難問に足を一歩踏み入れているが，そうであってもこの部分の配点は微少と思われるので，本問全般を悪性の難問と評するほどの瑕疵とは思われない。総じて，「レジェンドシリーズにしては」という留保付ではあれ，高校生が書ける範囲で何とかまとまっている問題と判断しうると思うのだが，読者諸氏としてはいかがだろうか。
Posted by dg_law at 16:00│Comments(16)
この記事へのコメント
名古屋大の中国の反乱名ですが、時代と反乱者の名前が着くだけだと該当するのが多そうですね。唐だと裘甫の乱とかもありますし。
Posted by 名無し at 2022年03月20日 19:16
名古屋大の特定の教科書にのみあるパターンは次年度以降も、暴れるまたは次年度以降も早慶上智や京都を見習って出しますの予告なのか不穏ですね。そもそも記号の問題は解くとか見直しの問題もある気もしますが…
京都大のはあえて、あそこまで難しくしないと点数の差がつかないとふんでですかね、京都大だとあの辺りは書けてしまうから機能しないと
一橋レジェンドシリーズは、原典を読んでなくても、高校世界史の範囲内に落としこみ、資料読解の技能とそれをもとに考察する思考力まで問い出そうとした意欲作かもしれませんね。瑕疵まではいえませんし、難易度を高めに維持しつつも、資料と知識で解ける工夫をした意地を見ましたね
京都大のはあえて、あそこまで難しくしないと点数の差がつかないとふんでですかね、京都大だとあの辺りは書けてしまうから機能しないと
一橋レジェンドシリーズは、原典を読んでなくても、高校世界史の範囲内に落としこみ、資料読解の技能とそれをもとに考察する思考力まで問い出そうとした意欲作かもしれませんね。瑕疵まではいえませんし、難易度を高めに維持しつつも、資料と知識で解ける工夫をした意地を見ましたね
Posted by かっつん at 2022年03月20日 20:24
国立大の場合、世界史の悪問は中国史が多い印象があるのですが気のせいでしょうか。(一橋は例外として)やはり知識が細かくなりやすいですし
Posted by ふみつき at 2022年03月20日 20:30
＞名無しさん
おっしゃる通りで，それを指摘する報道もありましたね。
https://www.tokai-tv.com/tokainews/feature/article_20220315_16739
その意味で，本問自体が「高校世界史範囲」に守られていて，範囲内で考えればこの反乱名しか想起できないはずという理屈になっています。
その割に同じ大問で難問も出しているので，余計にちぐはぐなんですよね。
＞かっつんさん
記事本文にはこう書いたのですが，名古屋大はおそらく，偶然帝国書院の教科書に記述があっただけで，いずれかの教科書に記載があるかどうかは気にしてなさそうな感じがします。真相は作った人にしかわからないですが。
一橋大のレジェンドシリーズは，本当にこの感じで毎回作ってほしいですね。ちゃんと難易度調整がなされていれば文句はないので。
＞ふみつきさん
国立大に限定した統計をとったことがないのでわからないのですが，少なくとも名古屋大という圧倒的な存在がいる一方で，国立大は次第に比べると大学の数自体が少なく，一つ一つの大学の出題ミスの数も少ないですから，結果的に中国史が多く見えるということはあろうかと思います。
おっしゃる通りで，それを指摘する報道もありましたね。
https://www.tokai-tv.com/tokainews/feature/article_20220315_16739
その意味で，本問自体が「高校世界史範囲」に守られていて，範囲内で考えればこの反乱名しか想起できないはずという理屈になっています。
その割に同じ大問で難問も出しているので，余計にちぐはぐなんですよね。
＞かっつんさん
記事本文にはこう書いたのですが，名古屋大はおそらく，偶然帝国書院の教科書に記述があっただけで，いずれかの教科書に記載があるかどうかは気にしてなさそうな感じがします。真相は作った人にしかわからないですが。
一橋大のレジェンドシリーズは，本当にこの感じで毎回作ってほしいですね。ちゃんと難易度調整がなされていれば文句はないので。
＞ふみつきさん
国立大に限定した統計をとったことがないのでわからないのですが，少なくとも名古屋大という圧倒的な存在がいる一方で，国立大は次第に比べると大学の数自体が少なく，一つ一つの大学の出題ミスの数も少ないですから，結果的に中国史が多く見えるということはあろうかと思います。
Posted by DG-Law at 2022年03月21日 17:29
まさかとは思いますが、大運河の開削を運河の開削として、咸陽(秦)、長安、大都が答えでしたってことはないと信じます。
Posted by 名無し at 2022年03月22日 09:42
王仙芝／黄巣の乱→末期
安史の乱→中期ぐらい
安史の乱→中期ぐらい
Posted by hatoyamaseiichi at 2022年03月23日 11:01
＞名無しさん
秦の鄭国渠をカウントするのはさすがに考えてないと思いますが，そうでもしないと３つの都市をひねり出しにくいのは確かですね。
＞hatoyamaseiichiさん
普通に考えると�АΝ┐呂修Δ任垢諭�
秦の鄭国渠をカウントするのはさすがに考えてないと思いますが，そうでもしないと３つの都市をひねり出しにくいのは確かですね。
＞hatoyamaseiichiさん
普通に考えると�АΝ┐呂修Δ任垢諭�
Posted by DG-Law at 2022年03月23日 23:21
今年もお疲れ様です
一連の記事を見て個人的に駿台の株が下がりました←
口が悪いと言われるのはしっかり取り組んでいる事の
裏返しと思っていたんですが
反面代ゼミは強いですね
4.の東海テレビの報道を見て
慶應はそんなに精査してたのかと驚きました
それであの問題が出てくるとはどんな精査なのかと
一連の記事を見て個人的に駿台の株が下がりました←
口が悪いと言われるのはしっかり取り組んでいる事の
裏返しと思っていたんですが
反面代ゼミは強いですね
4.の東海テレビの報道を見て
慶應はそんなに精査してたのかと驚きました
それであの問題が出てくるとはどんな精査なのかと
Posted by 11pm at 2022年04月04日 13:21
駿台さんは他の予備校と比べて質の均質化を目指さず，解答者のやる気と能力をダイレクトに速報として公開しているのだと思います。
なので，やる気のある解答者の時はちゃんとした解答が出てきてコメントが辛口になり，やる気のない解答者の時は今回の名大のようなことになると。
本記事中で「問題ちゃんと解いた？」と非難しているのは解答者のやる気もさることながら，それで満足している人選に対する非難でもあります。
慶應大学は完全な学部縦割りですね。テレビの報道で出てきた方は経済学部の元教授ですが，実際に経済学部の問題は，たまにタガが外れて範囲外の用語を使った難問を出すことはあれど，出題ミス・悪問が非常に少なく，論述問題は良問が多いので，間違いなく精査しているのだろうと感じます。
一方，法学部は精査どころか…………ということなのでしょう。
なので，やる気のある解答者の時はちゃんとした解答が出てきてコメントが辛口になり，やる気のない解答者の時は今回の名大のようなことになると。
本記事中で「問題ちゃんと解いた？」と非難しているのは解答者のやる気もさることながら，それで満足している人選に対する非難でもあります。
慶應大学は完全な学部縦割りですね。テレビの報道で出てきた方は経済学部の元教授ですが，実際に経済学部の問題は，たまにタガが外れて範囲外の用語を使った難問を出すことはあれど，出題ミス・悪問が非常に少なく，論述問題は良問が多いので，間違いなく精査しているのだろうと感じます。
一方，法学部は精査どころか…………ということなのでしょう。
Posted by DG-Law at 2022年04月05日 00:48
名古屋大学の公式回答を見ると，「大運河の開削」との関わりが深い中首都名は長安・開封・杭州・北京から3つを記入，とのことでした．作問が荒いですね．
Posted by 名無し at 2022年05月01日 14:53
返事が遅れてすみません。名古屋大の公式解答は見てました。おっしゃる通りで，予想通りの荒っぽい作問でしたね。
Posted by DG-Law at 2022年05月12日 00:11
一橋の第一問について
https://juken.hit-u.ac.jp/admission/info/ito_22.html
ご存じかも知れませんが、ここから各科目の出題意図を見ることができます。で、世界史の第一問だと以下のような記述があります。
「なお、史料からは皇帝が特に『神聖なる市民法』を重視している様子も読み取れるが、これが6世紀の皇帝ユスティニアヌスによる市民法大全(ローマ法大全)を指すことを予備知識なしに特定するのは不可能であるから、出題者も当然そのようなことは求めておらず、解答で示す必要もない。」
仰る通りとしか言えないんですが、わざわざこの言及がされているということは物知りの受験生がこれを解答に書いていたんですかね？でもそんな些末な知識ひけらかしても点数はあげないよ、という予備校受験生界隈に向けた警告なんでしょうか。
あと、これを額面通り受け取れば「ボローニャ大学はローマ法（教会法ではない世俗法）の研究が盛んであったことは山川の用語集と山川『新世界史』に記載があり，資料文の３行目にも「市民法」とあるから解答に入れてもよく，良い加点になるだろう」というのは妥当な指摘にならないのでしょうか？
https://juken.hit-u.ac.jp/admission/info/ito_22.html
ご存じかも知れませんが、ここから各科目の出題意図を見ることができます。で、世界史の第一問だと以下のような記述があります。
「なお、史料からは皇帝が特に『神聖なる市民法』を重視している様子も読み取れるが、これが6世紀の皇帝ユスティニアヌスによる市民法大全(ローマ法大全)を指すことを予備知識なしに特定するのは不可能であるから、出題者も当然そのようなことは求めておらず、解答で示す必要もない。」
仰る通りとしか言えないんですが、わざわざこの言及がされているということは物知りの受験生がこれを解答に書いていたんですかね？でもそんな些末な知識ひけらかしても点数はあげないよ、という予備校受験生界隈に向けた警告なんでしょうか。
あと、これを額面通り受け取れば「ボローニャ大学はローマ法（教会法ではない世俗法）の研究が盛んであったことは山川の用語集と山川『新世界史』に記載があり，資料文の３行目にも「市民法」とあるから解答に入れてもよく，良い加点になるだろう」というのは妥当な指摘にならないのでしょうか？
Posted by そこら辺の人 at 2022年05月21日 21:13
コメントありがとうございます。出題意図は公開直後に読んでいます。こちらが思っていたよりも優しい採点基準だったのは喜ばしいですし，やはり弊記事の示す通り，本問が例年のレジェンドシリーズと異なって真っ当に解答可能な問題であったことを裏付けてもらえたのも嬉しいところです。
しかしその反面，
１．そこまで優しいと他年度の一橋大の要求する知識水準との統一がとれていない。たとえば前年の第２問は極めて高度な知識を要求されていたわけであるが，2022年だけ「そのような知識は不要」と言われても受験生が混乱するだけである。
２．弊記事の記載の通り，山川の用語集と山川『新世界史』に記載があるわけなので，「これが6世紀の皇帝ユスティニアヌスによる市民法大全(ローマ法大全)を指すこと」が予備知識には当たらないという判断も可能である。これはこれで作問者が高校世界史の教科書・参考書を参照していないということにはなりはしないか。
という２点において，今回の出題にも瑕疵はあると思います。
おっしゃる通り，今回の出題意図にわざわざそのような文言を入れたのは，
＞でもそんな些末な知識ひけらかしても点数はあげないよ、という予備校受験生界隈に向けた警告
だと読み取れますし，私もその主張に賛同します。しかしながら，その警告は学内の他の作問者に先に出しなさいよという感情が先行してしまい，私は素直に受け取れません……
以上の理由から，確かに「ボローニャ大学はローマ法（教会法ではない世俗法）の研究が盛んであったこと〜〜良い加点になるだろう」というのは出題意図と照らし合わせると妥当な指摘とは言いがたいですが，受験世界史的な解答解説としてはこれで適正であろうと思います。なんか文学批評上の「作者の死」みたいな話になってきました。
この辺は４巻が出せるなら，書籍版では補足説明したいところです。
しかしその反面，
１．そこまで優しいと他年度の一橋大の要求する知識水準との統一がとれていない。たとえば前年の第２問は極めて高度な知識を要求されていたわけであるが，2022年だけ「そのような知識は不要」と言われても受験生が混乱するだけである。
２．弊記事の記載の通り，山川の用語集と山川『新世界史』に記載があるわけなので，「これが6世紀の皇帝ユスティニアヌスによる市民法大全(ローマ法大全)を指すこと」が予備知識には当たらないという判断も可能である。これはこれで作問者が高校世界史の教科書・参考書を参照していないということにはなりはしないか。
という２点において，今回の出題にも瑕疵はあると思います。
おっしゃる通り，今回の出題意図にわざわざそのような文言を入れたのは，
＞でもそんな些末な知識ひけらかしても点数はあげないよ、という予備校受験生界隈に向けた警告
だと読み取れますし，私もその主張に賛同します。しかしながら，その警告は学内の他の作問者に先に出しなさいよという感情が先行してしまい，私は素直に受け取れません……
以上の理由から，確かに「ボローニャ大学はローマ法（教会法ではない世俗法）の研究が盛んであったこと〜〜良い加点になるだろう」というのは出題意図と照らし合わせると妥当な指摘とは言いがたいですが，受験世界史的な解答解説としてはこれで適正であろうと思います。なんか文学批評上の「作者の死」みたいな話になってきました。
この辺は４巻が出せるなら，書籍版では補足説明したいところです。
Posted by DG-Law at 2022年05月24日 10:25
ありがとうございます。
瑕疵があるとしている一点目については首肯せざるを得ませんね。何も昨年の第二問に限った話ではなく、リストとランケの話やら歴史なき民論やら…今までの恐ろしい問題達も実は大した回答を期待してはいなかったのではないかとなると、幻滅してしまいますからね。
二点目はどうなんでしょうね…まさか山川の用語集の類に限って世界史作問者がその存在を知らない筈もないので参考にしていないなら手抜かりと言われても言い逃れは出来ないのでしょう。
＞しかしながら、その警告は学内の他の作問者に先に出しなさいよ〈以下略〉
これは本当に仰る通りで。学内の世界史作問者にもそうですが、たまに日本史でも何だそれはという早慶上智並みの難問用語聞いてくることがあったり、日本資本主義論争聞いてきたり(野呂栄太郎聞くのはまあ良いとして猪俣津南雄なる人物が高校日本史の範囲内とは思えない)と世界史の陰に隠れて中々な悪行を働くことがあるので…
「世界史がぶっ飛んだ問題出しているし毎度注目はそこにしか当たらんだろうから、裏で自分の研究分野の類で問題作ってしまえ」という日本史作問者を生むという二次的連鎖を防ぐためにも世界史作問者集団からしっかりして欲しいんですがね(という現役一橋生の自分の大学への嘆願)。
瑕疵があるとしている一点目については首肯せざるを得ませんね。何も昨年の第二問に限った話ではなく、リストとランケの話やら歴史なき民論やら…今までの恐ろしい問題達も実は大した回答を期待してはいなかったのではないかとなると、幻滅してしまいますからね。
二点目はどうなんでしょうね…まさか山川の用語集の類に限って世界史作問者がその存在を知らない筈もないので参考にしていないなら手抜かりと言われても言い逃れは出来ないのでしょう。
＞しかしながら、その警告は学内の他の作問者に先に出しなさいよ〈以下略〉
これは本当に仰る通りで。学内の世界史作問者にもそうですが、たまに日本史でも何だそれはという早慶上智並みの難問用語聞いてくることがあったり、日本資本主義論争聞いてきたり(野呂栄太郎聞くのはまあ良いとして猪俣津南雄なる人物が高校日本史の範囲内とは思えない)と世界史の陰に隠れて中々な悪行を働くことがあるので…
「世界史がぶっ飛んだ問題出しているし毎度注目はそこにしか当たらんだろうから、裏で自分の研究分野の類で問題作ってしまえ」という日本史作問者を生むという二次的連鎖を防ぐためにも世界史作問者集団からしっかりして欲しいんですがね(という現役一橋生の自分の大学への嘆願)。
Posted by そこら辺の人 at 2022年05月25日 14:13
なるほど。一応，一橋大の日本史は世界史や地理よりはマシとは言われていますが，そうは言っても……というところですよね。（手元の山川の用語集で引いたところ，猪俣津南雄は頻度�△任靴拭Ｈ楼脇發任呂△襪茲Δ任垢�，細かいですね）
「世界史がぶっ飛んだ問題出しているし〜〜」という危惧はごもっともで，世界史が悪目立ちする影響も考えて世界史の作問に当たってほしいですね。
「世界史がぶっ飛んだ問題出しているし〜〜」という危惧はごもっともで，世界史が悪目立ちする影響も考えて世界史の作問に当たってほしいですね。
Posted by DG-Law at 2022年05月27日 10:11
京都で盛京なら盛京亭ですかね…
Posted by 名前無し at 2022年10月16日 00:16
