2022年06月06日
2022年1〜3月に行った美術館・博物館
溜まりに溜まってしまったので消化していく。
三菱一号館美術館のイスラエル博物館展。フランスの自然主義や印象派・ポスト印象派・ナビ派中心の展覧会であったが,世間の話題をさらったのはドイツの印象派の画家レッサー・ユリィ(ウリィ)であった。実際に私も見終わった後にツイートしたのはレッサー・ユリィについてであった。完全に印象派の画風であるのに描かれているのがにぎやかなパリやフランスの田園風景ではなく,寒々しく物寂しいベルリンの市街であるというギャップに心が惹かれた。印象派とハンマースホイが合体したらこうなるのだろうか。レッサー・ユリィが注目を浴びたのは美術館側も想定外だったようで,話題になっていた。
・印象派展でモネの『睡蓮』を抑えてポストカードの売上枚数1位を記録したのが無名の画家の作品だったという話(Togetter)
・【探訪】一躍人気のレッサー・ユリィ 独特の作風がコロナ禍の人々の心に響いた? 「イスラエル博物館所蔵 印象派・光の系譜」展(三菱一号館美術館)で注目(美術展ナビ)
帰宅後に調べてユダヤ人だったということがわかってイスラエル博物館側が推す理由を納得していたところ,山田五郎氏がけっこう深く調べていて参考になった。
マックス・リーバーマンやケーテ・コルヴィッツと並び称されていたくらいには20世紀前半のベルリン画壇では重鎮だったようだ。ユダヤ人として強い自覚があり『旧約聖書』を題材とした宗教画を描き,シオニズム運動に強く参画していたという側面があったのは面白い。ユダヤ人画家は出自とどう向き合うかというのがどうしても課題になるが,ここまで正面から向き合った画家は珍しいと思われる。しかし,そうした宗教画が売れずに美術史に名を残したのはやはり独特の印象主義的都市景観画だった。多作すぎて値崩れしている(2000万円くらいで買えちゃう)そうだが,であれば国立西洋美術館辺りに買ってもらって常設展で定期的に見たいところ。床に写っている光が日本人の好みにあっているという動画の指摘は意外と慧眼かも。
国立新美術館のメトロポリタン美術館展。大美術館から来るよくある総花的展覧会ではあるのだが,美術史オタクが見たいところの作品がある,力の入った展覧会で大変に良かった。特にバロック・ロココが好きな西洋美術史オタクに対する回答としては満点なのではないか。17世紀(バロックと古典主義)では展覧会の目玉になっていたフェルメールの《信仰の寓意》はもちろんのこと(これで私のフェルメールスタンプラリーがまた一つ埋まって24/37(23/35)点),カラヴァッジョやジョルジュ・ド・ラ・トゥールやプッサンにサルヴァトール・ローザ,ライスダールにホッベマもいた。ロココの方もまさかヴァトー・ブーシェ・フラゴナールが揃い踏みしてるとは思わなかった。それもいずれもかなり大きい大作だった。ブーシェの《ヴィーナスの化粧》は展覧会サイトの説明等には「官能的な」云々と上手いこと表現しているが,あけすけなエロでこれが許されたロココの時代は面白い。19世紀のゾーンではジェロームの《ピュグマリオンとガラテア》があったのが地味に嬉しかった。西洋美術史の概説書にたまに載っている割に本物を見たことがなかった。
こちらの展覧会でも,事前にはそれほど注目を浴びていなかったが開けてみると鑑賞客の間で話題になっていた作品があり,マリー・ヴィレールの《マリー・ジョセフィーヌ・シャルロット・デュ・ヴァルドーニュ》の肖像である。本作,それほど似てないのに20世紀なかばまでダヴィドの作品だと勘違いされていた辺りに,西洋美術史における女性画家蔑視の根深さを感じるのだが,本展覧会ではヴィジェ・ルブランの作品の隣に展示されていて,その対照もまた面白い。描かれているシャルロット・デュ・ヴァルドーニュもまた女性画家であり,二人は同業者として切磋琢磨する関係性だったのだろうか(百合的に盛り上がる関係性である)。
サントリー美術館の正倉院宝物再現模造展。正倉院宝物の修復・再現模造の歴史は他の国宝よりも長く,明治の初期にはすでに始まっていて,その意味で特別な存在であったらしい。現在でも最先端の科学技術と人間国宝たちの職人芸と貴重な原材料が惜しみなく注ぎ込まれている。より困難なのは絶滅危惧種だらけの原材料の確保で,たとえば象牙は明らかに21世紀現在よりも前世紀以前の方が入手しやすい(もちろん入手困難になっているのは良いことなのだが)。本展でクローズアップされていた「螺鈿紫檀五絃琵琶」は,特に紫檀・象牙・玳瑁等の難度の高い原材料の壁があった。その中でも,独特の色合いを出すヤマトアカネ(茜の在来種)がなかなか生えておらず職員が困っていると,ヤマトアカネが千代田区千代田一番地の邸宅の広いお庭で発見される展開はかなり熱かった。再現模造の展示の脇では上皇陛下(当時はまだ在位)がヤマトアカネを御自ら掘り出している映像が流されていて,演出であるにしても意義深さがある。それにしても皇居は本当に自然豊かなのだな。これ,めちゃくちゃ面白いエピソードだと思うのだけど,私以外につぶやいている人が全くいなかったのはちょっと不思議。
三菱一号館美術館のイスラエル博物館展。フランスの自然主義や印象派・ポスト印象派・ナビ派中心の展覧会であったが,世間の話題をさらったのはドイツの印象派の画家レッサー・ユリィ(ウリィ)であった。実際に私も見終わった後にツイートしたのはレッサー・ユリィについてであった。完全に印象派の画風であるのに描かれているのがにぎやかなパリやフランスの田園風景ではなく,寒々しく物寂しいベルリンの市街であるというギャップに心が惹かれた。印象派とハンマースホイが合体したらこうなるのだろうか。レッサー・ユリィが注目を浴びたのは美術館側も想定外だったようで,話題になっていた。
・印象派展でモネの『睡蓮』を抑えてポストカードの売上枚数1位を記録したのが無名の画家の作品だったという話(Togetter)
・【探訪】一躍人気のレッサー・ユリィ 独特の作風がコロナ禍の人々の心に響いた? 「イスラエル博物館所蔵 印象派・光の系譜」展(三菱一号館美術館)で注目(美術展ナビ)
帰宅後に調べてユダヤ人だったということがわかってイスラエル博物館側が推す理由を納得していたところ,山田五郎氏がけっこう深く調べていて参考になった。
マックス・リーバーマンやケーテ・コルヴィッツと並び称されていたくらいには20世紀前半のベルリン画壇では重鎮だったようだ。ユダヤ人として強い自覚があり『旧約聖書』を題材とした宗教画を描き,シオニズム運動に強く参画していたという側面があったのは面白い。ユダヤ人画家は出自とどう向き合うかというのがどうしても課題になるが,ここまで正面から向き合った画家は珍しいと思われる。しかし,そうした宗教画が売れずに美術史に名を残したのはやはり独特の印象主義的都市景観画だった。多作すぎて値崩れしている(2000万円くらいで買えちゃう)そうだが,であれば国立西洋美術館辺りに買ってもらって常設展で定期的に見たいところ。床に写っている光が日本人の好みにあっているという動画の指摘は意外と慧眼かも。
国立新美術館のメトロポリタン美術館展。大美術館から来るよくある総花的展覧会ではあるのだが,美術史オタクが見たいところの作品がある,力の入った展覧会で大変に良かった。特にバロック・ロココが好きな西洋美術史オタクに対する回答としては満点なのではないか。17世紀(バロックと古典主義)では展覧会の目玉になっていたフェルメールの《信仰の寓意》はもちろんのこと(これで私のフェルメールスタンプラリーがまた一つ埋まって24/37(23/35)点),カラヴァッジョやジョルジュ・ド・ラ・トゥールやプッサンにサルヴァトール・ローザ,ライスダールにホッベマもいた。ロココの方もまさかヴァトー・ブーシェ・フラゴナールが揃い踏みしてるとは思わなかった。それもいずれもかなり大きい大作だった。ブーシェの《ヴィーナスの化粧》は展覧会サイトの説明等には「官能的な」云々と上手いこと表現しているが,あけすけなエロでこれが許されたロココの時代は面白い。19世紀のゾーンではジェロームの《ピュグマリオンとガラテア》があったのが地味に嬉しかった。西洋美術史の概説書にたまに載っている割に本物を見たことがなかった。
こちらの展覧会でも,事前にはそれほど注目を浴びていなかったが開けてみると鑑賞客の間で話題になっていた作品があり,マリー・ヴィレールの《マリー・ジョセフィーヌ・シャルロット・デュ・ヴァルドーニュ》の肖像である。本作,それほど似てないのに20世紀なかばまでダヴィドの作品だと勘違いされていた辺りに,西洋美術史における女性画家蔑視の根深さを感じるのだが,本展覧会ではヴィジェ・ルブランの作品の隣に展示されていて,その対照もまた面白い。描かれているシャルロット・デュ・ヴァルドーニュもまた女性画家であり,二人は同業者として切磋琢磨する関係性だったのだろうか
サントリー美術館の正倉院宝物再現模造展。正倉院宝物の修復・再現模造の歴史は他の国宝よりも長く,明治の初期にはすでに始まっていて,その意味で特別な存在であったらしい。現在でも最先端の科学技術と人間国宝たちの職人芸と貴重な原材料が惜しみなく注ぎ込まれている。より困難なのは絶滅危惧種だらけの原材料の確保で,たとえば象牙は明らかに21世紀現在よりも前世紀以前の方が入手しやすい(もちろん入手困難になっているのは良いことなのだが)。本展でクローズアップされていた「螺鈿紫檀五絃琵琶」は,特に紫檀・象牙・玳瑁等の難度の高い原材料の壁があった。その中でも,独特の色合いを出すヤマトアカネ(茜の在来種)がなかなか生えておらず職員が困っていると,ヤマトアカネが千代田区千代田一番地の邸宅の広いお庭で発見される展開はかなり熱かった。再現模造の展示の脇では上皇陛下(当時はまだ在位)がヤマトアカネを御自ら掘り出している映像が流されていて,演出であるにしても意義深さがある。それにしても皇居は本当に自然豊かなのだな。これ,めちゃくちゃ面白いエピソードだと思うのだけど,私以外につぶやいている人が全くいなかったのはちょっと不思議。
Posted by dg_law at 12:00│Comments(0)