2022年07月03日
【2022年版】上智大神学部の〔学部独自試験〕入試問題を解いてみた
昨年に問題が独特すぎて物議を醸した上智大・神学部の入試問題であるが,今年の問題も赤本に掲載されていたので早速解いてみた。結果から言えば,方向性は維持されていたが,随分と簡単になっていた。何よりも大きな違いは問題数である。2021年度には試験時間75分で,記号選択・語句記述問題が60問ほどに加えて,600字の論述問題が2問という分量であったが,2022年は試験時間75分は変わらず,記号選択が6問+語句記述が8問に,論述が40字が1問と200字が1問の計2問だけであった。記号選択・語句記述問題が約1/4に,論述問題が20%に減ったということになる。これだとかえって時間が余るのではないか。
それでも赤本は昨年同様に解答例を省略していた。通常の科目に当てはまらないものは解答を載せないという方針があるらしいことに加えて,解答者が確保できないために省略していると思われる。とはいえ赤本が載せていないということは,受験生が簡単に参照しうる解答例がネットや書籍に存在していないということである。問題数も少ないし,微力ながらここに全問の簡潔な問題文と,解答・解説を掲載しておく(易しい問題は誤答の選択肢を省略した)。Google検索でたどり着いた受験生の参考になれば幸いである。受験生以外の方は,腕試しに解いてもらえると,記事を書いたかいがある。
問1
Q.「主なる神は,土(アダマ)の塵で人(アダム)を形づくり,その鼻に命の息を吹き入れられた。人はこうして生きる者となった。」という章句がある書物の名前。(記号選択)
A.創世記の第2章7節だから,正解はエの創世記。これを落とすようではまずい。
問2
Q.「乳と蜜が流れる地」とも語られる約束の地,現在のパレスチナ地方にあたる地名。(記号選択)
A.ヒント大盛りである。正解はカナン。これも易しい。
問3 (1)
Q.「イエスが言われた『それでは,あなたがたはわたしを何者だと言うのか。』…,『あなたはメシア,生ける神の子です』と答えた」という一節で,イエスの問いかけに応えている人物は誰か。なお,彼は十二人の弟子たちのリーダー的存在であった。(記号選択)
A.1つめのヒントは難しいが,2つめのヒントのおかげで易しい。正解はペテロ。なお,これはマタイによる福音書の第16章第15・16節で,この後に「わたしも言っておく。あなたはペトロ。わたしはこの岩の上にわたしの教会を建てる。陰府の力もこれに対抗できない。わたしはあなたに天の国の鍵を授ける。」という有名な一節が続く。どうせなら「弟子たちのリーダー的存在」というヒントを出すよりも,引用をここまで続けてペテロを答えさせた方が聖書理解としては本質的だったような気はする。
問3 (2)
Q.2019年11月に来日した教皇は誰か。(記号選択)
A.こう聞かれるとちょっと悩むが,要するに現在の教皇であることに気づけば容易。正解はフランシスコ。
問4
Q.「初めに言があった。言は神と共にあった。言は神であった。この言は,初めに神と共にあった。万物は言によって成った。成ったもので,言によらず成ったものは何一つなかった。言の内に命があった。命は人間を照らす光であった。光は暗闇の中で輝いている。暗闇は光を理解しなかった。……。言は肉となって,わたしたちの間に宿られた。わたしたちはその栄光を見た。それは父の独り子としての栄光であって,恵みと真理とに満ち溢れていた。」
下線部を具体的に説明せよ(32〜40字)。
A.引用されているのはヨハネによる福音書の第1章1〜5節と14節。イエスは神が受肉してこの世に現れたことと,神=言葉=イエスであることを示せていればよいだろう。ここでいう言葉とはいわゆるロゴス,真理を示す言葉であるが,やや専門的な用語であるロゴスという語を出す必要はないと思われる。40字が短く,まとめるのが意外と面倒。
問5
Q.聖書に含まれる文書の名前が5つ問われた。4つの福音書の名前を順番に。また初代教会の発展の様子が描かれた言行録。(全て語句記述)
A.4つの福音書はマタイ・マルコ・ルカ・ヨハネ。最後は使徒(言行録)。5つめの問いがやや迂遠だが,言行録とつく文書がそもそも使徒言行録しかないので深く考えない方が解答しやすい。
問6
Q.「三日目に,ガリラヤに( 1 )で婚礼があって,イエスの母がそこにいた。その弟子たちも婚礼に招かれた。( 2 )が足りなくなったので,母がイエスに『( 2 )がなくなりました』と言った。……。イエスは,この最初のしるしをガリラヤの( 1 )で行って,その栄光を現された。それで,弟子たちはイエスを信じた。」
空欄1・2を産めよ。(いずれも記号選択)
(1)エマオ カナ サマリア エルサレム ベツレヘム
(2)ぶどう酒 塩 水 パン お礼
A.知識問題ではこれが一番難しいか。これはヨハネによる福音書の第2章の1〜11節で,イエスが最初に行った奇跡で,婚礼の現場であるから,水をぶどう酒に変える奇跡を起こしたカナの婚礼を指す。したがって(1)はカナ,(2)はぶどう酒が入る。カナの婚礼はルーヴル美術館にあるヴェロネーゼの大作が有名で,私はこの絵のために覚えていたエピソードだった。なお,この章句が面白いのは問題では「……。」と省略されている部分である。マリアに「ぶどう酒がなくなった」とせがまれたイエスは「わたしとどんなかかわりがあるのです。わたしの時はまだ来ていません。」と言って断ってしまうのだ。奇跡を起こそうと思えばいつでも起こせるが,こんなつまらないことで起こすようなものではないとでも言いたげである。しかし,マリアも断られたにもかかわらず,裏で婚礼の裏方として働いている召使いたちに「この人が何か言いつけたら,そのとおりにしてください」と言っていて,この後イエスはこの召使いたちに6つの水甕を水で満たすように指示を出して,この水をぶどう酒に変える奇跡を起こした。この不思議なやりとりは神学的には様々な解釈があるようだが,信徒ではない者が客観的に見るとイエスくんはアラサーにもなって反抗期だったのかなという感想になり,裏で根回しされているあたりマリアの手のひらの上で踊っている様子でほっこりする。『聖☆おにいさん』でもこの解釈でネタにされていた(44話)。
問7
Q.「最も大切なこととしてわたしがあなたがたに伝えたのは,私も受けたものです。すなわち,キリストが,聖書に書いてあるとおりわたしたちの罪のために死んだこと,葬られたこと,また,聖書に書いてあるとおり( )日目に復活したこと,ケファに現れ,その後十二人に現れたことです。次いで五百人以上もの兄弟たちに同時に現れました。そのうちの何人かは既に眠りについたにしろ,大部分は今なお生き残っています。次いで,ヤコブに現れ,その後すべての使徒に現れそして最後に,月足らずで生まれたようなわたしにも現れました。」(コリントの信徒への手紙一 15:3-8)
(1) 下線部の「わたし」とは誰か。(語句記述)
(2) ( )に適切な数字を入れなさい。(語句記述)
A.(1)は文章の意味がとれなくても,親切にも出典を入れてくれているので,コリントの信徒への手紙の著者を知っていれば解答可能である。他の章句は出典を省略しているから,本問は出典で解いてほしいという明確な意図である。正解はパウロ。『新約聖書』に入っている書簡シリーズは,著者がパウロである場合には書名が宛先になり,パウロ以外である(と推測されている)場合は著者の名前が書名に入っているという法則性を知っていれば迷わない。(2)の正解の「3」は易しい。
問8
Q.神は,父と子と聖霊のという三つの位格を持っていると言われる。このことは一般に何と言われるか。漢字で記しなさい。(語句記述)
A.正解は三位一体(説)。これも易しい。本問の意図は三位一体説を採らない教派の信徒を落とすためにあるのでは。
問9
Q.神と人間との関係は,「救いの歴史」と言われるが,それはいったいどのようなことを意味するのか。問題文を参考にしながら160〜200字で述べなさい。
(編註:ここで言う問題文は第二バチカン公会議で採択された「神の啓示に関する教義憲章」の一部。長いので直接の引用は避ける。原文を読みたい人は赤本を買うか,カトリック中央協議会で販売されている書籍を購入してください。)
A.問題文として引用されている文章では,最初に神による天地創造から『旧約聖書』の語る人類の歴史をたどって,旧約の預言者たちが現れ,最終的にイエスが受肉したことが語られている。文章の最後では「受肉した神であるイエスこそが,我々の救済を確証する最大最後の神の啓示である。ゆえに,これを更新する新たな神との契約は無いし,イエスの再臨までは新たな啓示も期待すべきではない。」ということが主張されている。
この教義憲章としては最後のまとめの部分が最も重要そうであるが,本問の要求からすると割とどうでもよさそうである。その前段の説明の,神の救済はアダムの創造から始まること,その堕落を経て,アブラハムの一族すなわち後のヘブライ人が救われる民として選ばれたこと,この際の救済のアプローチは預言者たちを通した啓示であったこと。しかし,最終的にはイエスの受肉によって神自身がこの世に現れて啓示となったこと……というような感じで聖書の記述に沿った神と人間の関係の変遷をまとめるとよいだろう。制限時間が75分で,問1〜8までを解くのに30分もかからないであろうから,時間はたっぷりある。
それでも赤本は昨年同様に解答例を省略していた。通常の科目に当てはまらないものは解答を載せないという方針があるらしいことに加えて,解答者が確保できないために省略していると思われる。とはいえ赤本が載せていないということは,受験生が簡単に参照しうる解答例がネットや書籍に存在していないということである。問題数も少ないし,微力ながらここに全問の簡潔な問題文と,解答・解説を掲載しておく(易しい問題は誤答の選択肢を省略した)。Google検索でたどり着いた受験生の参考になれば幸いである。受験生以外の方は,腕試しに解いてもらえると,記事を書いたかいがある。
問1
Q.「主なる神は,土(アダマ)の塵で人(アダム)を形づくり,その鼻に命の息を吹き入れられた。人はこうして生きる者となった。」という章句がある書物の名前。(記号選択)
A.創世記の第2章7節だから,正解はエの創世記。これを落とすようではまずい。
問2
Q.「乳と蜜が流れる地」とも語られる約束の地,現在のパレスチナ地方にあたる地名。(記号選択)
A.ヒント大盛りである。正解はカナン。これも易しい。
問3 (1)
Q.「イエスが言われた『それでは,あなたがたはわたしを何者だと言うのか。』…,『あなたはメシア,生ける神の子です』と答えた」という一節で,イエスの問いかけに応えている人物は誰か。なお,彼は十二人の弟子たちのリーダー的存在であった。(記号選択)
A.1つめのヒントは難しいが,2つめのヒントのおかげで易しい。正解はペテロ。なお,これはマタイによる福音書の第16章第15・16節で,この後に「わたしも言っておく。あなたはペトロ。わたしはこの岩の上にわたしの教会を建てる。陰府の力もこれに対抗できない。わたしはあなたに天の国の鍵を授ける。」という有名な一節が続く。どうせなら「弟子たちのリーダー的存在」というヒントを出すよりも,引用をここまで続けてペテロを答えさせた方が聖書理解としては本質的だったような気はする。
問3 (2)
Q.2019年11月に来日した教皇は誰か。(記号選択)
A.こう聞かれるとちょっと悩むが,要するに現在の教皇であることに気づけば容易。正解はフランシスコ。
問4
Q.「初めに言があった。言は神と共にあった。言は神であった。この言は,初めに神と共にあった。万物は言によって成った。成ったもので,言によらず成ったものは何一つなかった。言の内に命があった。命は人間を照らす光であった。光は暗闇の中で輝いている。暗闇は光を理解しなかった。……。言は肉となって,わたしたちの間に宿られた。わたしたちはその栄光を見た。それは父の独り子としての栄光であって,恵みと真理とに満ち溢れていた。」
下線部を具体的に説明せよ(32〜40字)。
A.引用されているのはヨハネによる福音書の第1章1〜5節と14節。イエスは神が受肉してこの世に現れたことと,神=言葉=イエスであることを示せていればよいだろう。ここでいう言葉とはいわゆるロゴス,真理を示す言葉であるが,やや専門的な用語であるロゴスという語を出す必要はないと思われる。40字が短く,まとめるのが意外と面倒。
問5
Q.聖書に含まれる文書の名前が5つ問われた。4つの福音書の名前を順番に。また初代教会の発展の様子が描かれた言行録。(全て語句記述)
A.4つの福音書はマタイ・マルコ・ルカ・ヨハネ。最後は使徒(言行録)。5つめの問いがやや迂遠だが,言行録とつく文書がそもそも使徒言行録しかないので深く考えない方が解答しやすい。
問6
Q.「三日目に,ガリラヤに( 1 )で婚礼があって,イエスの母がそこにいた。その弟子たちも婚礼に招かれた。( 2 )が足りなくなったので,母がイエスに『( 2 )がなくなりました』と言った。……。イエスは,この最初のしるしをガリラヤの( 1 )で行って,その栄光を現された。それで,弟子たちはイエスを信じた。」
空欄1・2を産めよ。(いずれも記号選択)
(1)エマオ カナ サマリア エルサレム ベツレヘム
(2)ぶどう酒 塩 水 パン お礼
A.知識問題ではこれが一番難しいか。これはヨハネによる福音書の第2章の1〜11節で,イエスが最初に行った奇跡で,婚礼の現場であるから,水をぶどう酒に変える奇跡を起こしたカナの婚礼を指す。したがって(1)はカナ,(2)はぶどう酒が入る。カナの婚礼はルーヴル美術館にあるヴェロネーゼの大作が有名で,私はこの絵のために覚えていたエピソードだった。なお,この章句が面白いのは問題では「……。」と省略されている部分である。マリアに「ぶどう酒がなくなった」とせがまれたイエスは「わたしとどんなかかわりがあるのです。わたしの時はまだ来ていません。」と言って断ってしまうのだ。奇跡を起こそうと思えばいつでも起こせるが,こんなつまらないことで起こすようなものではないとでも言いたげである。しかし,マリアも断られたにもかかわらず,裏で婚礼の裏方として働いている召使いたちに「この人が何か言いつけたら,そのとおりにしてください」と言っていて,この後イエスはこの召使いたちに6つの水甕を水で満たすように指示を出して,この水をぶどう酒に変える奇跡を起こした。この不思議なやりとりは神学的には様々な解釈があるようだが,信徒ではない者が客観的に見るとイエスくんはアラサーにもなって反抗期だったのかなという感想になり,裏で根回しされているあたりマリアの手のひらの上で踊っている様子でほっこりする。『聖☆おにいさん』でもこの解釈でネタにされていた(44話)。
問7
Q.「最も大切なこととしてわたしがあなたがたに伝えたのは,私も受けたものです。すなわち,キリストが,聖書に書いてあるとおりわたしたちの罪のために死んだこと,葬られたこと,また,聖書に書いてあるとおり( )日目に復活したこと,ケファに現れ,その後十二人に現れたことです。次いで五百人以上もの兄弟たちに同時に現れました。そのうちの何人かは既に眠りについたにしろ,大部分は今なお生き残っています。次いで,ヤコブに現れ,その後すべての使徒に現れそして最後に,月足らずで生まれたようなわたしにも現れました。」(コリントの信徒への手紙一 15:3-8)
(1) 下線部の「わたし」とは誰か。(語句記述)
(2) ( )に適切な数字を入れなさい。(語句記述)
A.(1)は文章の意味がとれなくても,親切にも出典を入れてくれているので,コリントの信徒への手紙の著者を知っていれば解答可能である。他の章句は出典を省略しているから,本問は出典で解いてほしいという明確な意図である。正解はパウロ。『新約聖書』に入っている書簡シリーズは,著者がパウロである場合には書名が宛先になり,パウロ以外である(と推測されている)場合は著者の名前が書名に入っているという法則性を知っていれば迷わない。(2)の正解の「3」は易しい。
問8
Q.神は,父と子と聖霊のという三つの位格を持っていると言われる。このことは一般に何と言われるか。漢字で記しなさい。(語句記述)
A.正解は三位一体(説)。これも易しい。
問9
Q.神と人間との関係は,「救いの歴史」と言われるが,それはいったいどのようなことを意味するのか。問題文を参考にしながら160〜200字で述べなさい。
(編註:ここで言う問題文は第二バチカン公会議で採択された「神の啓示に関する教義憲章」の一部。長いので直接の引用は避ける。原文を読みたい人は赤本を買うか,カトリック中央協議会で販売されている書籍を購入してください。)
A.問題文として引用されている文章では,最初に神による天地創造から『旧約聖書』の語る人類の歴史をたどって,旧約の預言者たちが現れ,最終的にイエスが受肉したことが語られている。文章の最後では「受肉した神であるイエスこそが,我々の救済を確証する最大最後の神の啓示である。ゆえに,これを更新する新たな神との契約は無いし,イエスの再臨までは新たな啓示も期待すべきではない。」ということが主張されている。
この教義憲章としては最後のまとめの部分が最も重要そうであるが,本問の要求からすると割とどうでもよさそうである。その前段の説明の,神の救済はアダムの創造から始まること,その堕落を経て,アブラハムの一族すなわち後のヘブライ人が救われる民として選ばれたこと,この際の救済のアプローチは預言者たちを通した啓示であったこと。しかし,最終的にはイエスの受肉によって神自身がこの世に現れて啓示となったこと……というような感じで聖書の記述に沿った神と人間の関係の変遷をまとめるとよいだろう。制限時間が75分で,問1〜8までを解くのに30分もかからないであろうから,時間はたっぷりある。
Posted by dg_law at 16:05│Comments(2)
この記事へのコメント
>問3(2)
2019年の来日時、フランシスコは上智大学を訪れて講演しましたからねwだからこういった書き方なのかも。
当時は学生がこぞって見に来て、抽選かなんかをしたというのを聞きました。
上智に先輩がいたら、そういったエピソードを聞いてたりとかもあるかもしれないですね。
2019年の来日時、フランシスコは上智大学を訪れて講演しましたからねwだからこういった書き方なのかも。
当時は学生がこぞって見に来て、抽選かなんかをしたというのを聞きました。
上智に先輩がいたら、そういったエピソードを聞いてたりとかもあるかもしれないですね。
Posted by テュルゴー at 2022年07月03日 20:17
ありがとうございます。これは他の方からも多数指摘がありました。
こういう問い方なのに納得です。
こういう問い方なのに納得です。
Posted by DG-Law at 2022年07月04日 23:23