2022年11月03日

だから美術品は来歴が重要なのだよね

・焦点:ウクライナ侵攻による正教会の混乱、孤立するロシア総主教
→ ロシア正教会がコンスタンディヌーポリ総主教庁と断交したことは以前に取り上げているが,その時にジョークで「世界史があまり得意でない高校生にありがちな勘違いに「ロシア正教とギリシア正教は別物」というものがあるが,まさかのそれに信憑性が生まれる可能性が……?」等と書いていたが,組織上は本当に分裂しそう。3年半前にこれを書いた時点では,こんなことが起きようとは思っていなかった。ロシア正教会は以前からウクライナ正教会を承認した他の正教会との断交を進めていたが,今回の戦争支持を巡ってさらに他の正教会との亀裂を深めている。ロシア正教会にプーチン政権と距離をとる選択肢があったのか無かったのかは知らないが,結果的に現状は蜜月関係となっていて,王権神授説を支えるカトリック教会とでも言うような時代錯誤な状況を呈している。とすると教義もミクロなレベルでは,政治とのかかわりという面で差異が生じていくのではないか。
→ 一応はロシア正教会系列の自治正教会で,コンスタンディヌーポリ総主教庁との断交時には特にどうじていなかった日本正教会はどうしているかというと,当初はこういう感じの当たり障りのない声明を出していた。その19日後の3月末に改めてロシア正教会側に和解に尽力すべしと主張する声明を出していた。完全には独立していない正教会組織としてはこの辺が限界なのかもしれないということは理解するが,もっと非難めいた文言でも良かったであろうという気も。


・ロシアがウクライナ住民数万人をシベリアなどへ強制移送か 「収容所」で選別…ソ連時代の抑圧再現?(東京新聞)
→ 今回の戦争は本当に前時代的なものが多くて嫌になってしまう。これをやってしまったら当然,領土が奪還できても住民の送還まで対立が終わらないわけで,休戦はあっても終戦は全く見えなくなってしまった。ちゃんとしたロシア・ウクライナの和解はプーチン政権がクーデタなりで倒れての政権交代まで無いのではないか。


・権力者が毒殺を防ぐために銀食器を使ったのは本当か(最終防衛ライン3)
→ これは確かに,以前から「銀で黒くならない毒は防げないのに意味があるのか」と思っていたやつだったので,調べてくれた人がいて嬉しい。毒見のための銀食器ということ自体,普遍性が無くここまで俗説に近いような話だったとは。筆者自身が書いている通り,これ以上調べるならもう学者の仕事になってしまうし,本が1冊書けそう。最近始まった科博の毒展で,この辺が取り上げられてたりはしないだろうか。


・「仏像2体が行方不明に」創建1300年の古寺から重要文化財が消えた…ドロ沼の盗難事件に“空前絶後のスキャンダル”(文春オンライン)
→ 概ね想像通りの展開だった。空前絶後のスキャンダルという程のものでもあるまいが,程のものでもないから困りものである。重要文化財の扱いに抜け道が多すぎるし,末寺の住職の権限も大きすぎて統制がとれていない。記事中でも触れられているが,日本全国でこういうことは起きていそう。
→ 文春の記事中では名前が伏せられている,最終的な仏像の取得者である美術館は熱海山口美術館で,ホームページを見ると堂々と載せている上に「所蔵していた寺によると、僧行基が諸国行脚に際し、滋賀県甲賀市大岡山の山頂に自彫の十一面千手観音(本像)を安置したとされる。」と解説している。まあ熱海山口美術館としては正規に購入しているので悪びれなければいけない筋は無いとでも思っているのだろうが,そもそも来歴の怪しい美術品は買わないのが収集家の矜持であるはずで,そうでないと盗品や贋作をつかまされることにもなってしまい,コレクション全体が疑われかねない。そういうことまで考えて買ったようには思えない。