2022年12月20日

2022年8-11月に行った美術館・博物館(VR故宮博物院展,毒展)

書きそびれているものを年内のうちに消化。

東博の特別デジタル展「故宮の世界」。日中国交正常化50周年記念の企画展で,VRで紫禁城を再現するという触れ込みであった。日中国交正常化40周年記念の際にはなんと企画展を2回もやっていて,初回が2012年の1・2月,あの「清明上河図」が来た時である。2回目はブログで記事化するのを忘れていたのだが10〜12月に開催されていた。いずれも豪華である。ということで今回も期待できるだろうと思って行ってみたのだが,豪華な展示物を何も持ってこれないのをごまかすためのVRというのが真実で,まず実物の展示品が少なかった。出品目録が公開されているが,こういう特別な企画展に行ったことがある人はまずペラ1枚ということに驚くだろう。しかもよく見ると1枚めに並んでいるリストはVRによる再現映像の目録で出品物ではない。つまり,実物が来ていたのは2枚めに載っている23品だけで,しかも前期・後期で展示替えまである。

それでもVR紫禁城が豪華ならまあ……という話になるのだが,このVR紫禁城の映像の画素が粗かったのがこの展覧会のハイライトであった。どのくらい粗いかは公式HPのつくりで大体察しがつくだろう。この映像が作られたのは10年以上前なのではないか。40周年記念の展覧会でこれが放映されていたならまだわかる(が,当時としても粗い)。中国政府が国家の威信をかけて作ったVR映像で,こんなにジャギーが出ているというのは考えづらく,逆説的にこのVR映像は国家的威信がかかっていないということなのだろう。こんな映像で日本人が満足すると考えているとも思われず,更新できないほど中国の文化政策や北京故宮博物院が予算不足とも思われず,単純にVR故宮博物院は放映する機会に意外と恵まれていないことに加えて,これを契機に更新しようと考えられない程度には本展覧会が軽視されているということだったのではないかと思う。2012年と2022年の間でそこまで日中関係の冷え込みに差があったっけか,あるいはそういうこととは関係なしに軽視されたのか。日中関係全体からすると些事も些事であるが,寂しいことであるなという話を同行者としていた。

この次の東博150周年記念「国宝展」は,混雑が予想された上に,リストを見ると過去約20年ほどの東博通いの結果としてほぼ全て見たことがあったのでスルーした。


サントリー美術館の大阪市立美術館コレクション展。サブタイトルが「美をつくし」で,言うまでもなく「澪標」との掛詞である。何か関係があるのかと思ったら,公式HPに説明がある通り,澪標は大阪市章に使われていた。さらに展覧会の標語のごとく使われている「なにコレ」はなにわコレクションと「何これ」の掛詞で,掛詞というよりはダジャレか。大阪市立美術館は過去に行ったことがあって常設展も見ているが,そこで見なかったものがちょうど持ってこられるようだったので展覧会に行くことがした。展示物は中国美術,古代の日本の仏像,中世・近世の日本美術と,近世・近代の工芸品(印籠・根付・能面・笄)。いずれもなかなか良いコレクションであったが,印籠と根付が多くて見応えがあった。あれだけまとめて見る機会は東博の常設展以外では初めてかも。


国立科学博物館の毒展。動物・植物・鉱物由来の毒や,人間が製造した毒,身近な毒など様々な観点から見た毒の展覧会。かの有名なトリカブトやベニテングダケ,ヒ素から聞いたことがない毒物まで広く展示されていて勉強になった。見方によってはマイクロプラスチックも毒というのはなるほど。人間と毒の歴史の展示ではチェーザレ・ボルジアやフリッツ・ハーバー等が紹介されていたほか,アイヌの毒矢と仕掛け弓の説明もあった。


ついでにランチは科博の中の食堂でとった。まあフグよね。こういう遊びは好き。



この記事へのコメント
有機化学専攻(歴史は趣味)としては毒展は大変興味深い内容でした(特に構造決定・全合成の歴史等)。
他、公式図録限定コンテンツですが「物語の中の毒」というかなりオタク受けの良さそうな読み物(神話や推理小説、ゲームや漫画における毒の扱い)もあり、負のイメージを持たれがちな毒をあらゆる方向から一般向けに掘り下げたという点では本当に構成が秀逸だったと感じております。
Posted by 歴史好きP at 2022年12月27日 22:05
>「物語の中の毒」というかなりオタク受けの良さそうな読み物(神話や推理小説、ゲームや漫画における毒の扱い)もあり
あー,それ面白そうですね。図書館に図録が入っていることが多いので,見かけたらちらっと読んでみます。

>負のイメージを持たれがちな毒をあらゆる方向から一般向けに掘り下げた
そういう側面は大きいですね。毒の取り上げられ方は本当に多面的で,毒の多様性を示したものだったと思います。
Posted by DG-Law at 2022年12月30日 02:32