2023年03月17日
2023受験世界史悪問・難問・奇問集 その１（慶應大）
今年も無事に公開に至ることができた。３巻が好評発売中なので，過去の年度，特に早慶・国公立以外を見たい方はぜひお買い求めください（初手宣伝）。
＜収録の基準と分類＞
基準は例年と同じである。
出題ミス：どこをどうあがいても言い訳できない問題。解答不能，もしくは複数正解が認められるもの。
悪問：厳格に言えば出題ミスとみなしうる，国語的にしか解答が出せない問題。
→ 歴史的知識及び一般常識から「明確に」判断を下せず，作問者の心情を読み取らせるものは，世界史の問題ではない上に現代文の試験としても悪問である。
奇問：出題の意図が見えない，ないし意図は見えるが空回りしている問題。主に，歴史的知識及び一般常識から解答が導き出せないもの。
難問：一応歴史の問題ではあるが，受験世界史の範囲を大きく逸脱し，一般の受験生には根拠ある解答がまったく不可能な問題。本記事で言及する「受験世界史の範囲」は，「山川の『用語集』に頻度�，任發いい�らとりあえず記載があるもの」とした。
＜総評＞
昨年は早慶で30個で，今年は28個であるからほぼ同数である。内容はやや異なり，あからさまな校正ミスや意味不明な日本語による悪問・出題ミスが減った。一方で，調べの足りない単純な知識的なミスが増えた。ちょっと面白いのは，早慶で知識的なミスをやらかす時の傾向が異なっていて，それが強まった印象があることだ。慶應大は教科書に依拠しすぎていて，私でもすぐには典拠がわからず教科書５冊をじっくり読み返さないと見つからないようなところから作問している。特定の教科書１冊にしか無いような記述から出題しようとして教科書マニアになっているのだが，結果として教科書執筆者の筆が滑ったような部分，教科書の記述自体が怪しい部分から作問してやらかしていることが多い。これに対し，早稲田大は教科書を雑にしか読んでおらず，結果として作問者の史実誤認がストレートに出てしまい出題ミスや悪問になっていることが多い。どちらの大学も，もう少し中庸な態度で作問できないものだろうか。
なお，早稲田大は2024年を最後に人間科学部と社会科学部の入試科目から地歴公民を外すと発表した。早稲田大は往時には世界史で９学部受験できたが，2025年にはとうとう５学部しか受験できなくなる。寂しい限りであるが，一方で悪問を量産して改善できないくらいなら廃止が検討されるだろうと考えると納得もする。世界史の観点から言えば，あの社会科学部が廃止されるのはやはり感慨深い。
以下，本編。本日は慶應大のみ。二日目が早稲田大，三日目が国立大である。
＜収録の基準と分類＞
基準は例年と同じである。
出題ミス：どこをどうあがいても言い訳できない問題。解答不能，もしくは複数正解が認められるもの。
悪問：厳格に言えば出題ミスとみなしうる，国語的にしか解答が出せない問題。
→ 歴史的知識及び一般常識から「明確に」判断を下せず，作問者の心情を読み取らせるものは，世界史の問題ではない上に現代文の試験としても悪問である。
奇問：出題の意図が見えない，ないし意図は見えるが空回りしている問題。主に，歴史的知識及び一般常識から解答が導き出せないもの。
難問：一応歴史の問題ではあるが，受験世界史の範囲を大きく逸脱し，一般の受験生には根拠ある解答がまったく不可能な問題。本記事で言及する「受験世界史の範囲」は，「山川の『用語集』に頻度�，任發いい�らとりあえず記載があるもの」とした。
＜総評＞
昨年は早慶で30個で，今年は28個であるからほぼ同数である。内容はやや異なり，あからさまな校正ミスや意味不明な日本語による悪問・出題ミスが減った。一方で，調べの足りない単純な知識的なミスが増えた。ちょっと面白いのは，早慶で知識的なミスをやらかす時の傾向が異なっていて，それが強まった印象があることだ。慶應大は教科書に依拠しすぎていて，私でもすぐには典拠がわからず教科書５冊をじっくり読み返さないと見つからないようなところから作問している。特定の教科書１冊にしか無いような記述から出題しようとして教科書マニアになっているのだが，結果として教科書執筆者の筆が滑ったような部分，教科書の記述自体が怪しい部分から作問してやらかしていることが多い。これに対し，早稲田大は教科書を雑にしか読んでおらず，結果として作問者の史実誤認がストレートに出てしまい出題ミスや悪問になっていることが多い。どちらの大学も，もう少し中庸な態度で作問できないものだろうか。
なお，早稲田大は2024年を最後に人間科学部と社会科学部の入試科目から地歴公民を外すと発表した。早稲田大は往時には世界史で９学部受験できたが，2025年にはとうとう５学部しか受験できなくなる。寂しい限りであるが，一方で悪問を量産して改善できないくらいなら廃止が検討されるだろうと考えると納得もする。世界史の観点から言えば，あの社会科学部が廃止されるのはやはり感慨深い。
以下，本編。本日は慶應大のみ。二日目が早稲田大，三日目が国立大である。
１．慶應義塾大 経済学部
＜種別＞難問・奇問
＜問題＞１ 問５ 下線部Eに関連して（編註：日本はドイツに対して宣戦布告した），日本の動向に関する次の１〜５の出来事を，年代の古い順に並べ替え，その番号を左から解答用紙Bの所定の欄に記入しなさい。
１．加藤友三郎内閣がシベリア本土からの撤兵を決定した。
２．米騒動が起き，寺内正毅内閣が総辞職した。
３．ドイツ領であった赤道以北の南洋諸島が日本の委任統治領となった。
４．日本がドイツの膠州湾租借地を占領した。
５．ワシントン会議で海軍軍備制限条約が締結された。
＜解答解説＞
どう見ても日本史の問題。歴史総合は2025年からである。年度を間違えてはいないだろうか。とはいえ，４は第一次世界大戦開戦直後（1914年），２はシベリア出兵の開始に関連する事件だから大戦末（1918年），３はヴェルサイユ条約の内容（1919年）まではわかるだろう。困ったのは残りの２つで，１のシベリア出兵撤兵が1922年であるからおそらく決定も同年，５の海軍軍備制限条約は1922年締結であるところまではそれほど難しくないのだが，同年ということは月単位問題ということになる。１と５の月は日本史の早慶対策でも普通は覚えない。
おそらく作問者の想定する解法は「加藤友三郎内閣」がヒントなのであろう。ワシントン会議の開催が日本に通達されると，首相の原敬は海軍の重鎮であった加藤友三郎，駐米大使の幣原喜重郎，貴族院議長の徳川家達の３人を全権大使に任命し，英米との協調を命じて送り出した。しかしその直後の1921年11月に原敬が東京駅で暗殺されると，高橋是清が代わって首相に就任した。その際，全権大使３名は帰国していない。1922年2月，当初の方針通りに英米との協調を優先し，ワシントン海軍軍備制限条約を締結し，その際に加藤友三郎はシベリアからの撤兵を約束して，ワシントン会議は閉会した。帰国後の1922年6月，高橋是清内閣が閣内不一致で倒れると，加藤友三郎に組閣の大命が下り，加藤友三郎内閣は即座にシベリア撤兵を閣議決定，10月に撤兵が完了した。したがって，シベリア撤兵が決定された時期を知らなくても，原敬→高橋是清→加藤友三郎という内閣の順番を知っていれば一応１と５の順番はわかる。正解は４→２→３→５→１。しかし，この内閣の順番にしても完全に高校日本史の内容であり，世界史で学習する内容ではない。
慶應大の経済学部は良問の作成を標榜しており，実際に良質な問題が多いが，日本史的・地理的・政経的な問題については少し容赦が無い印象である。2023年は本問以外にGATTとWTOの違いとその時代的背景を問う出題や，ビキニ環礁の位置を問う地図問題があった。これらは世界史と地理・政経の重複領域であって範囲内と見なせるし，良いところを聞いているという意味では良問でもあるが，解答に細かい知識が必要で受験生の正答率は低いと推測される。より質の良い問題作成を目指すのであればもう少し知識的な難易度を下げてほしいとは思うが，現状の難易度でも慶應大の他学部や他の大学の問題よりも際だって良質なので，あまりわがままを言わないことにしたい。受験生は，本問のような日本史としても難問になるものまで学習するのはやりすぎにせよ，他科目との重複領域に注意するとよいだろう（本企画では珍しい実践的なアドバイスを書いてしまった……）。
２．慶應義塾大 商学部
＜種別＞出題ミスに近い・難問
＜問題＞１ (1)(2) を中心に遊牧勢力が台頭し，モンゴル高原西部のナイマンを征服した。その指導者はチンギス＝ハンとして即位後，大遠征をくりひろげた。
15 アイグン 17 アルタン＝ハン 20 エセン＝ハン 22 外興安嶺 24 キャフタ
30 小興安嶺 37 大興安嶺 41 ダヤン＝ハン 43 中央アジア 50 西アジア
（編註：関係のある選択肢のみ抜粋。17のアルタン＝ハンは別の問題の正解。）
＜解答解説＞
慶應大の商学部は例年，慶應大の４学部では最も易しく，経済学部に次いで良質であるが，2023年はかなり乱調であった。難化しているが，難化したというよりもなんだか調子のネジが狂っていて上手くはまっていない様子であった。特に大問１がひどい。この最初の空欄からして問題が胡乱である。まず思いつくのはチンギス＝ハンだが，問題文に登場するので違う。では改名前のテムジンかと思うと，選択肢にいない。となると地名か？ と疑って選択肢を見るが，選択肢にモンゴル高原がない。中央アジアと西アジアは絶対に違うと削っていくと，外興安嶺・大興安嶺・小興安嶺の３つが残る（ただし，選択肢は全部で51もあるので削る作業だけでかなり時間を食う）。なるほど，入れさせたいのは山脈名とここまで来てやっとわかるのだ。
しかし，高校世界史で登場するのは外興安嶺のみなので，ほとんどの受験生は大興安嶺と小興安嶺の位置がわからない。外興安嶺はネルチンスク条約で露清国境となった山脈であり，アムール川の北に位置しているから，モンゴル高原からはかなり遠く，明らかに違う。残った大興安嶺と小興安嶺の２択で手詰まりである。正解は大興安嶺の方で，内モンゴルの東部で北東から南西にかけて連なっている山脈である。一応，実教出版の教科書の本文にこの記載があるが（p.165），この部分を丸暗記していた受験生はいないと思われる。
ところで，テムジンが大興安嶺を根拠地としていたというのは正しいだろうか。テムジンのモンゴル部族はケルレン川とオノン川の流域で遊牧生活を営んでおり，当時大興安嶺付近にいたのはタタル部のはずである。実教出版の表現自体があやしい。テムジンの祖先は10世紀頃まで大興安嶺で遊牧をしており，その後ケルレン川・オノン川流域に移動したとされるので，その勘違いではないかと思われる。何度も書いていることだが，自分の専門領域外のことはよく裏をとってから出題してほしい。
３．慶應義塾大 商学部（２つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞１ その後の皇帝も貿易を外国人に対する恩恵とみなす立場を崩さず，18世紀後半には貿易港を１つに限定し，外国人商人や家族を (31)(32) に居住させるなど，厳しい管理を行なった。
39 台湾 53 北京 56 香港 57 マカオ
（編註：関係のある選択肢のみ抜粋）
＜解答解説＞
広州かなと思いきや選択肢にないから，消去法で対処するしかない。台湾はいかにも違う。首都の北京に参勤交代の大名の家族のように居住させたか，にしては遠すぎる。香港は英領になっていないが，ひょっとして割譲前には商人の居留地だったのだろうか……と妄想してしまうとかえって正解から遠のく。香港島はイギリスが開拓するまで小さな漁村しかなかったというエピソードを知っていると消しやすいかもしれない。残ったマカオが正解で，すでにポルトガルが居住権を認められた土地であったから，ヨーロッパ人はまとめてそこに居住させようというのが清朝側の意図であった。一応，正解にたどり着けるような推測の働かせ方をここに書いたが，実際の受験会場は北京や香港を切りにくく，受験生は苦しんだだろう。正答率が気になるところ。
４．慶應義塾大 商学部（３つめ）
＜種別＞悪問・難問
＜問題＞１ 自由貿易を求める国々の不満が高まるなかで， (33)(34) 年に広州に派遣された林則徐によるアヘンの取締りがきっかけとなり，イギリスに開戦の口実を与えた。
13 1838 14 1839
（編註：関係のある選択肢のみ抜粋）
＜解答解説＞
林則徐は1838年11月に欽差大臣に任命され，1839年1月に広州に赴任してアヘンの取締りを開始した。さて，「派遣された年」はどちらになるだろうか。彼が辞令を受けたタイミングとして1838年11月か，到着した1839年1月か，あるいは北京を発った日か。あれこれ調べてみたが，北京を発った日はわからなかったし，それをとことん調べる気力は持てなかった。その過程で，案の定，書籍ごとに派遣された年が異なり，1838年としているものも1839年としているものも見つかった。
種明かしをすると，山川の『詳説世界史』の本文に「1839年，林則徐を広州に派遣して取締りにあたらせた」という記述があるので（p.295），本問はこれをそのまま採っていて，正解は1839年である。「派遣された年」という表記だけでは年号が一義に定まらないことに作問者が気付かず，ともすれば出題ミスと言える本問はまぎれもなくゴミである。林則徐閣下にあたっては本問もアヘンと一緒に焼却してしまってほしい。
５．慶應義塾大 商学部（４つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞１ 問３ 下線部（b）に関連して（編註：フビライ），遷都前にフビライが大ハン位の継承をめぐって争った人物は誰か。
＜解答解説＞
思わずハイドゥと答えそうになるが，ハイドゥの乱はフビライの大ハン位即位後に起きたものであるから誤りである。正解はフビライの弟のアリクブケ（アリクブカ）。大学生や社会人の方で，これは普通の問題ではと思った方は，受験生時代に真面目に世界史を勉強していたのではないか。古い課程なら早慶レベルではあるが範囲内である。近年は用語集で立項されておらず，かろうじてフビライの項目内の説明文に登場する。また東京書籍の教科書にも記載があるので（p.180），これは教科書に記載があるが用語集が拾っていない用語の一つということになる。何度も繰り返し書いているが，これをグレーゾーンと見なして出題するのは受験生に全ての教科書を買いそろえて丸暗記させるのを強いることになり，金銭的・時間的負担が重すぎる。歴史は暗記科目ではないと主張したいのであればやめてほしい。とはいえ，そうした事情から早慶対策として教える予備校講師が多かろうから，正答率は低くなさそう。
６．慶應義塾大 商学部（５つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞１ 問６ 下線部（e）に関連して（編註：満州人の政権），満州人による中国統治の正当性を主張するために，第五代皇帝の勅命によって刊行された書物は何か。
＜解答解説＞
正解は『大義覚迷録』。問題文の「第五代皇帝」は雍正帝である。これも古い課程では早慶レベルながら用語集に項目があって範囲内であったので，その時代の受験生の方ができるかもしれない。また，これも実教出版の教科書には記載があり（p.234），早慶は古い課程の用語集に記載があれば出題することがあるということで早慶対策ではしばしば出てくる書名ではある。受験生の正答率が極端に低いということはなさそう（迷の字が書ければ）。
７．慶應義塾大 商学部（６つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞２ (65)(66) 派が主導する北部７州は，南部10州が戦線から離脱したあと，1579年にユトレヒト同盟で結束を固めて独立戦争を続行し，17世紀に国際的に独立が承認された。この連邦共和国の主権は (67)(68) にあった。こうして，国土の狭いスイスとオランダは， 近隣の大国フランスがとった絶対王政と対極の国制で対抗した。
16 オランダ総督 29 州議会 61 連邦議会
（編註：関係のある選択肢のみ抜粋。また (65)(66) の正解はカルヴァン。）
＜解答解説＞
思わず16のオランダ総督と答えてしまいそうになるが，ここにオランダ総督を入れてしまうと「近隣の大国フランスがとった絶対王政と対極の国制で対抗した」という文脈と矛盾が生じてしまう。実際にオラニエ家が世襲したオランダ総督は国家元首の地位で，大きな権力はなかった。さらに言えば，独立から18世紀半ばまで，つまりネーデルラント連邦共和国の存続期間の大半には７州のそれぞれに州総督がいて，形式的にはオランダ総督（ホラント州総督）が特権的な地位にいたわけではない。アムステルダムを抱えるホラント州の経済力が他の州を圧倒していたため，オランダ総督が実質的な国家元首と見なされていたに過ぎない。18世紀半ばにホラント州総督が他の州総督も兼任することが決まってから，やっと国家元首の地位が安定するのである。
これだけでもわかる通り，近世のオランダは特殊な国制をとっていて，中央集権化が進むフランスや，後に覇権国家の地位を継承する英米と比べると圧倒的な分権型の国家であった。形式的には各州がそれぞれ主権を持ち，州の最高機関は州議会であった。連邦議会は存在したが，権限は全州にかかわる外交と軍事に限定され，しかも実権を連邦財政の大半を負担していたホラント州の州議会が握っていた。
ということで，正解は29の州議会を入れるべきか61の連邦議会を入れるべきか迷うのだが，おそらく作問者は「（主にはホラント州の）州議会」を正解とする意図で作問したのではないかと思われる。当然ながらここまで細かい近世オランダ史は通常の受験勉強で学習しない。ほとんどの受験生がオランダ総督か連邦議会と解答して間違えたのではないか。しいて言うと，用語集の「ネーデルラント連邦共和国」の項目に「各州が主権と議会を持ち，外交や軍事などは７州による連邦議会で決定され」という説明があるので，これを丸暗記していた受験生なら州議会が正解になる可能性を多少考慮できたかもしれない。
８．慶応義塾大 商学部（７つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞３ オスマン帝国支配下のバルカン半島では，1815年に (77)(78) が制限つきながらも自治権を認められ独立への一歩を踏み出したほか，1829年には (79)(80) が独立を果たした。
25 ギリシア 27 クロアチア 34 セルビア 44 ブルガリア 51 モンテネグロ
（編註：関係のある選択肢のみ抜粋。(79)(80)の正解はギリシア。）
＜解答解説＞
別の問題の正解だからギリシアではない，クロアチアは当時ハプスブルク家の領土だから消して３択がスタートラインだろう。ブルガリアは1878年のベルリン条約で自治権を認められているから，1815年ではなさそうと当てをつけて，セルビアとモンテネグロの２択までたどり着けたら受験生の知識としては十分である。あとは純粋な運試しになる。一応，用語集のセルビアの項目に記載があり，「1815年にオスマン帝国宗主権下の自治公国として，近代セルビア国家が出発した」とあり，この通りにセルビアが正解であるが，この年号を覚えていた受験生は皆無に近いだろう。しかもモンテネグロの項目にも「15世紀以降，オスマン帝国の影響下に置かれながらも自治を保った」という説明があるので，用語集を舐めるように読み込んできた受験生ほど「どっちの項目にも自治って言葉が書かれていたような……」となって混乱してしまう可能性もある。せめて首都の名前を出すなり「中世に王国が栄えた」なりのヒントが欲しかった。
慶應大の商学部ではこの他に，立憲王政のベルギー王国が成立した年を1830年と1831年から選ばせる問題もなかなかひどかった。独立が宣言されたのは1830年だが，憲法制定とレオポルト１世の即位は1831年であるから，後者が正解である。ただ，両年号とも教科書や用語集で明記されていることが多いので，意外と区別がついている受験生が多かったかもしれない。また，古い用語集では立項されていたシリーズとして，七月王政末期の首相ギゾーも問われていた。機械的に判断するならこれも収録対象であるが，唯一記載のある教科書の実教出版では太字の記載であり，これは拾っていない用語集の側の方が問題であると思われること，早慶対策としてはアリクブケや『大義覚迷録』よりもさらによく見る人物名であることを考慮して，白寄りの灰色という判断を下した。
以上，慶應大の商学部は７つ収録となった。うち５つは，用語集に立項されていないが教科書どれか１冊のみに記載がある用語または年号からの出題である……どう考えてもこれは同大学の法学部の作問手法で，悪い癖が移ってしまった。せっかく商学部は経済学部に次いでまともな出題が多かったのに，これから法学部化していくのだろうか……そんな地獄は見たくないのだが。この手法は法学部でもそうだが，今回の商学部の大問１だけを見ても大興安嶺や林則徐の問題がそうであるように，実際には解釈が割れて悪問が生じやすい。教科書の記述だけが真実ではないのである。法学部の作問手法をまねてよいかどうかを，商学部は自立心をもって判断すべきではないか。総じて2023年の商学部はよほど法学部への憧れがあるのか，難易度の面でも作りの荒さの面でも前年までとのギャップが激しい。
９．慶應義塾大 文学部
＜種別＞難問
＜問題＞２ 設問（４）オスマン帝国の第30代スルタンであるマフムト２世がイェニチェリ軍団を廃止したのは何年か，アラビア数字（算用数字） で記しなさい。
＜解答解説＞
普通は覚えない年号を問うのはやめろシリーズ。正解は1826年で，他のメジャーな年号とのかかわりも特になく，推測しようにも1800年くらいから1830年くらいまでの幅でしか見当が付かないから，あまりにも分の悪い運ゲーである。2023年の慶應大・文学部はこれ以外にカール４世が金印勅書を発布した年として1356年も出題していた。こちらもそれを聞いてどうするんだ感があるものの，金印勅書が頻出の用語であるし，大空位時代とハプスブルク家の世襲開始のちょうど中間点の14世紀半ばであるという知識を問うという意図は伝わる（それでも下一桁を問う意味はなかろうと思う）。イェニチェリ軍団の廃止年はそういう意図もわからない。作問者に見解を聞いてみたい。
ともあれ，2023年の慶應大の文学部はこの２つの年号以外は極端に難しい問題がなく，用語集頻度が低かったり近年出題頻度が低かったりしてちょっと難しいかなと思われるのがドレスデン空襲，アポロ11号，ジャコバン派右派のダントン，デリー＝スルタン朝３番目のトゥグルク朝，「知恵の館」を設立したマームーン，政治協商会議くらいか。例年なら商学部の方が易しいが，2023年はあちらの難化もあって逆転し，慶應大４学部の中で文学部が最も易しかったように思われる。平均点はそれなりに高そう。それだけに，この異様な年号をぶっ込んできたことが余計に解せない。
１０．慶應義塾大 法学部
＜種別＞出題ミスに近い
＜問題＞１ 設問２ 下線部（イ）に関連して（編註：アメリカ合衆国），20世紀半ばの同国に関する記述として誤っているものを下から選び，その番号を (11)(12) にマークしなさい。
［01］ アイゼンハワー大統領は，退任に際して「軍産複合体」について警告した。
［02］ 連邦最高裁判所は，1954年のブラウン判決により公立学校での人種隔離を違憲とした。
［03］ 共和党上院議員マッカーシーらは，共産主義者や左翼運動を攻撃する，いわゆる「赤狩り」を行った。
［04］ 1947年の国家安全保障法により，国家安全保障会議，国防総省などが設立された。
＜解答解説＞
2023年の慶應大の法学部は2022・21年と比べると易しく，悪問も少なかった。しかし，あくまで同学部の他年度との比較での話であって，他の難関私大の平均的な難易度・質と比べるとやはりひどいものはひどい。
閑話休題，［01］・［02］・［03］は正文である。軍産複合体の用語集頻度は�◆ぅ屮薀Ε麋酬茲廊 ぅ泪奪�ーシズムは�い覆里如ぁ�01］・［02］は判定が難しかっただろう。よって消去法で正解は［04］に絞られることになり，1947年の国家安全保障法で設立されたのは国家安全保障会議と中央情報局（CIA），国家軍事機構等である。国防総省の設立は1949年のことで，用語集頻度はこれも�，任△襪�ら，範囲内の難問だったね……で終わることができるなら本問はここに掲載されていない。国家軍事機構は国防総省の前身であって1949年は改名しただけであるから，国防総省の設立年は1947年と見なすことが可能である。単に山川の用語集がその説明を欠いているだけだ。たとえばコトバンクにある平凡社百科事典では「1947年の国家安全保障法National Security Actにより創設された」となっていて，改名の件は説明がない。英語版Wikipediaも設立を1947年としている。これだけで十分だろうと思って英語圏のソースはしっかりと調べていないが，おそらく1947年・1949年のどちらも出てくるだろう。また，百歩譲って国防総省の設立年を1949年と見なしたとしても，根拠法は1947年の国家安全保障法であるから，「1947年の国家安全保障法により，国防総省が設立された」は説明文として誤りではない。以上のような論拠から，［04］を誤文と見なせるのは改名を設立と見なした場合のみであり，かなり苦しい。河合塾・駿台・代ゼミから同様の指摘あり。しかし，大学当局は出題ミスと認めずに突っぱねた。
なお，頻度�，任△襪�らどれかの教科書１冊には載っているはずと思って探してみたら，山川の『詳説世界史』であった（p.381）。そこには「1947年には国家安全保障法が成立し，国家安全保障会議や国家軍事機構（のちの国防総省），中央情報局（CIA）などが設置された。」とある。この文だけでは国家軍事機構から国防総省への変化が再編なのか改名なのかの区別はつかない。これを別組織への再編であると断定的に読む読み方があるなら教えてもらいたい。設立の根拠法の扱いがぞんざいな法学部とはいったい。
１１．慶應義塾大 法学部（２つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞１ 設問６ 下線部（カ）に関連して（編註：再び緊張緩和の方向に向かった），安全保障に関する米ソの交渉についての記述として誤っているものを下から選び，その番号を (19)(20) にマークしなさい。
［01］ 1963年，アメリカ合衆国とソ連は，両国首脳間で直接通話できる回線を設ける直通通信（ホットライン）協定を結んだ。
［02］ 米ソ間の第１次戦略兵器制限交渉の結果，1972年に核兵器現状凍結協定と弾道弾迎撃ミサイル制限条約が結ばれた。
［03］ 1973年には，米ソ間で核戦争防止協定が結ばれた。
［04］ 米ソ間の第２次戦略兵器制限交渉は、1979年のソ連によるアフガニスタン侵攻のため，調印に至らなかった。
＜解答解説＞
本問も，［01］・［02］・［03］がいずれも正文で，それぞれの用語集頻度はホットライン協定が�◆こ吠軸鏝従�凍結協定が� っ篤暫瞳涎皀潺汽ぅ訐�限条約は項目なし（核兵器現状凍結協定の説明文内に登場），核戦争防止協定が�，蛤櫃匹い箸海蹐鯑佑い討い襦�［04］も一見すると正文に見えるのだが，第２次戦略兵器制限交渉は調印された後にソ連のアフガニスタン侵攻があり，アメリカ議会上院が批准を拒否したために発効しなかった。このため［04］が誤文である。正誤判断のポイントとしてはあまりにも細かいが，2015年に上智大で類題がある（2015上智１２番）。難関私大の作問者が出したくなるようなポイントということなのだろう。そういえば，本問と前問は慶應大・法学部ミリオタ問題の一環かも。
１２．慶應義塾大 法学部（３つめ）
＜種別＞出題ミスに近い
＜問題＞２ 設問９ 下線部（ケ）に関連して（編註：その正統教義をめぐる論争），キリスト教では，三位一体説の正統教義化への反発から (49)(50) 教会が成立し，そこからエチオピア教会がわかれた。 (49)(50) に入る最も適切な語句を語群より選び，その番号を解答用紙の所定の欄にマークしなさい。
05 アルメニア 17 コプト 19 コンスタンティノープル 22 シリア 42 ローマ
（編註：関係のある選択肢のみ抜粋）
＜解答解説＞
適当に解答を出すなら17のコプトになるが，コプト教会は三位一体説を規定したニケーア・コンスタンティノープル信条を受け入れている。高校世界史で登場する異端で三位一体説を採用していないのはアリウス派だけである。エフェソス公会議やカルケドン公会議の論点はそこではなく，父なる神と子なるイエス・聖霊の神性が同質不可分であることを確認した上で，子なるイエスの中にある神性と人性に関する議論であった。いわゆるアタナシウス派，後のカトリックや東方正教会の正統教義では，イエスの神性は父なる神と同質であり，人性は我々と同質である，かつイエスのうちの神性と人性は融合しておらず，分離もしていないとする。神性と人性は分離していると見なしたのがネストリウス派で，神性と人性は融合して一つの本性となったと見なしたのが非カルケドン派（いわゆる単性論派）になる。参考文献として，久松英二『ギリシア正教 東方の智』（講談社選書メチエ，2012年）を挙げておく。ちょっと古くなってきたが，いまだに本書が古代のキリスト教および東方正教の教義について最も簡潔にまとまっていてわかりやすい。
根本的にキリスト教の神学的理解が誤っているので本来ならば問題不成立の出題ミスになるのだが，困ったことに高校世界史の教科書は全体的に同様の誤りを犯している。主要５冊のうち，たとえば東京書籍の教科書は「カルケドン公会議は，これ（編註：単性論派のこと）を異端とするとともに，正統のアタナシウスの説を整え，神とイエスと聖霊との三者を不可分なものとする三位一体説を確立した。このため単性論派は，６世紀以降，独自にコプト教会やシリア教会，アルメニア教会などをつくっていった」と書いていて，帝国書院の教科書もほぼ同様の記述である。実際には三位一体説が確立したのは381年のコンスタンティノープル公会議であり，451年のカルケドン公会議では主要な議論の対象ではない。実教出版の教科書はよりまずく，「451年のカルケドン公会議では，シリアやエジプトで根強かったイエスに神性のみ認める単性論派が異端とされ，アタナシウスの説の父なる神と子なるイエスに聖霊を加えた三位一体説が正統教義として確立された。しかし，シリアやエジプトの諸教会はこの決定に反発し，こののちのシリア教会やコプト教会として独自に発展をとげた。」と書いている。上述の通り，シリア教会もコプト教会も三位一体説には反発していない。こうした事情から，大学当局に指摘したところで出題ミスとは認めてくれないだろう。とはいえ，このミスは現役のコプト教会の信徒に対して非常に失礼であり，高校世界史全体として改めてほしい。また，何度も書いているが，このような教科書執筆者も出題者も大して理解できていない古代キリスト教の神学論争が高校世界史上で必須の理解とは思えず，出題ミス頻発地帯になっている現状であることから，各教科書会社は三位一体説以外の神学的な説明を思い切って削除してほしい。
１３．慶應義塾大 法学部（４つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞３ ［資料B］大統領就任演説
私は人民の意思によって大統領になった。（…）二か月前，このマイダンに，［ イ ］中の広場や通りに数百万の人々が出た。（…）勝利者は，全ての［ イ ］市民である。我々は公正な選挙を勝ち取り，12月26日に我々は運命と行き違うことはなかった。（…）私は，全［ イ ］の大統領である。ドンバスや沿ドニエプルの鉱山，黒海の港湾，ガリツィアの通商路が稼働することに責任がある。（…）ヨーロッパヘの一歩一歩――これは，数百万の［ イ ］人にとっての新しい可能性である。
設問２ 資料Bに関連した以下の記述を読んで， (55)(56) および (57) (58) に入る最も適切な語句を語群より選び，その番号を解答用紙の所定の欄にマークしなさい。
この［ イ ］の (55)(56) 革命に前後して，他の国でも類似した政治変動が生じた。たとえば、キルギスの (57)(58) 革命が知られている。
05 オリーブ 06 オレンジ 07 カーネーション 11 黄色 12 銀色
21 チューリップ 25 バラ 29 ひまわり 30 ビロード 34 ブルドーザー
37 ユリ 39 緑色
（編註：関係のある選択肢のみ抜粋）
＜解答解説＞
半ば時事問題。マイダン，ドンバス，ドニエプルの組合せで空欄イに入るのがウクライナとわかる。なお，空欄イ自体は別の問題で問われており，誤答用の選択肢はグルジア（ジョージア）とセルビアであった。しかし，いかに時事問題とはいえ，2004年のオレンジ革命となるとけっこう深くニュースを聞いていないと厳しそうだ。正解できた受験生はよく現代史に対応していると言っていい。より厳しいのがもう一方で，キルギスで革命が起きていたこと自体知らない受験生の方が多かっただろう。正解は21のチューリップ革命。誤答にあるバラ革命がグルジア（ジョージア）で起きた革命である。本問も慶應大・法学部お得意の「用語集にはないけど教科書１冊には載っている」シリーズの１つで，オレンジ革命・チューリップ革命・バラ革命という一連のカラー革命を載せていたのは山川の『新世界史』であった。
その他の選択肢について。比較的メジャーなものはまずカーネーション革命で，これは1974年のポルトガルの民主化の契機である。ひまわりは台湾のひまわり学生運動のことか。ビロード革命はチェコスロヴァキアの1989年の民主化。ブルドーザー革命は2000年にユーゴスラヴィアで発生し，ミロシェヴィチ大統領が退陣した。その他は私も知らなかったので，一通り調べてみた。
・オリーブ革命：存在しない。静岡県でオリーブの生産量が増加しているというネット記事が見つかっただけ。
・黄色革命：1986年のマルコスを退陣させたフィリピン革命（エドゥサ革命）をこう呼ぶことがあるらしい。古参の百合オタクなので黄薔薇革命なら知ってる。
・銀色革命：存在しない。1990年に日本の作家が出版した詩集が出てきた。
・ユリ革命：存在しない。そうなる気はしていたが，2023年2月という時期柄，Google検索では『転生王女と天才令嬢の魔法革命』に関連するページが多く出てきた（作問者が視聴している……？）。それとは別の妄想をするなら，フランスが第二復古王政の政体に変化する革命が起きたらこう命名されそう。
・緑色革命：1970年にアメリカで出版された書籍。1960年代のカウンターカルチャーを賛美したもので，当時ベストセラーになった。ただし，原著のタイトルはThe Greening of Americaとのことなので，革命要素は無い。ところで，慶應大の選択肢語群は原則として五十音順なので，ユリの後に緑色が来ることに違和感があったのだが，この書籍名は「りょくしょくかくめい」と読むらしい。納得はしたが，由来を知らないと「りょくしょく」とは読めない。緑色を選択肢に入れたのは作問した教員の趣味と思われ，これと銀色革命から戦犯もとい作問者を絞れないかなと疑っている。
１４．慶應義塾大 法学部（５つめ）
＜種別＞出題ミス（複数正解）・難問
＜問題＞３ ［資料E］［ ウ ］農村協同組合大会における国王の演説
今ここで，私は国王としての責任において，そして［ ウ ］国民の権利と尊厳を守ると誓った誓約を順守するべく，善神と悪神の闘いの最中にあってどっちつかずの傍観者であることはできないのである。（…）私が［ ウ ］の国王として，そしてまた，三軍の長として，国民投票にかけ，その確認のために，媒介なしの直接的な形で，［ ウ ］国民の肯定的判断を期待する諸原則とは，以下の通りである。
一．（…）土地改革を以て，地主・小作体制を廃止すること
二．［ ウ ］全土にわたる森林の国有化法案の承認
（編註：空欄ウをこの資料Eのみで特定するのは困難だが，別に引用されている資料Cがどう見てもイラン＝イスラーム共和国憲法であることや，他の設問の問題文から空欄ウは容易にイランと特定可能。資料Eは白色革命の開始を宣言する演説の一環で1963年に発表された。）
設問５ 資料E の国［ ウ ］に関連した以下の記述のうち，正しいものを下から選び，その番号を (65)(66) にマークしなさい。
［01］ この国は，第二次世界大戦中，連合国側の一員としてドイツと戦い，イギリス軍とソ連軍の駐留も認めた。
［02］ 第二次世界大戦後もアメリカ合衆国系企業に石油を独占管理される状況などをめぐり，民族主義者が反発を強め，この国の首相は1951年に石油国有化を実行した。
［03］ 石油国有化を実施した政権が倒れたのち，この国は，アメリカ合衆国系資本の後押しも受け，アメリカ合衆国に軍事基地を提供した。
［04］ この国とアメリカ合衆国は，この国の化学兵器開発をめぐって緊張関係にあったが，2015年にいったん妥協が成立した。
＜解答解説＞
［02］はアングロ＝イラニアン石油（現在のBP）がイギリス系なので「アメリカ合衆国系」ではなく誤文。［04］は「化学兵器」が「核兵器」の誤りで，山川の『新世界史』にしか記載が無いが，一般常識の範囲で誤文とわかるだろう。審議の対象が［01］と［03］である。［01］から検討しよう。イランは1941年当時に第二次世界大戦における中立を宣言していた一方で，国王パフレヴィー１世が枢軸国に接近する動きを見せていた。しかし，大規模な油田があってソ連の横っ腹を突ける地政学的位置のイランの枢軸国入りは連合国にとって悪夢であったので，同年の８月にイギリスとソ連の連合軍が南北からイランに進駐し，翌月にパフレヴィー１世が退位（実質的に配流されて南アフリカで死去），パフレヴィー２世が即位する。パフレヴィー２世は連合軍との協定に同意し，以後のイランはレンドリースの通り道となった。そういうわけで終戦までイギリス軍とソ連軍どころかアメリカ軍も駐留している。1943年には正式にドイツに宣戦布告しているが，実際にはドイツ軍がイランに到達したことはない。調べがつかなかったが，イラン軍がヨーロッパ戦線に派遣されたということもなさそうである。以上の情報を基に判断するに，宣戦布告を重視するか交戦の有無を重視するかにより，［01］は「連合国側の一員としてドイツと戦い」は正しいとも誤っているとも言えてしまうので，正誤判定が不可能である。とすると一度飛ばして［03］を検討するしかない。なお，そもそも［01］の情報はほぼ完全に受験世界史範囲外である。
その［03］も難しい。前半は正しいが，パフレヴィー２世時代のイラン国内に米軍基地があったかどうかは極めて細かい知識になる。こういう時は慶應大・法学部お決まりの作問手法であろうと思ってしらみつぶしに探してみたところ，やはり実教出版の教科書にそのままの記載があった（p.393）。慶應大・法学部の論拠はこれだろうから，［03］は正文＝正解，したがって［01］は誤文ということになる。宣戦布告は交戦を意味しないのが慶應大・法学部の公式見解ということが確定したので，入試問題以外の場面でもこれに反する場面を見つけたら積極的に擦っていきたい。
ところで，実教出版の教科書にある「イランは親米政策を強め，アメリカに軍事基地を提供し」という記述は事実なのだろうか。どうにも無為そうなのでそれほどがんばっていないが，手元にある範囲の書籍と，英語圏のネット記事を探してみたが，基地があったとする記述は全く見当たらなかった。なぜこれを疑っているかというと，米軍基地があったならなぜ1979年のイラン革命を防げなかったのか，アメリカ大使館１つ守れなかったのかという大きな疑問が浮上してしまうからである。大学当局から［01］と［03］の複数正解を認める旨の発表があった（謝罪無し）。謝罪がなかったのは別にいいとしても，イランに米軍基地があったのかどうかについての見解を発表してほしかったところ。
この他に法学部の大問３ではハンガリー革命の主導者クン＝ベラが問われていた。クン＝ベラは用語集に項目が立っていないがハンガリー革命の項目内に説明があり，また語群から消去法で解答可能なので収録対象外としたが，クン＝ベラの出題自体を数年ぶりに目にして驚いたので記録のために付記しておく。
以上，慶應大・法学部は50問中で収録対象が５問，際どく範囲内と見なしたグレーゾーンの難問がクン＝ベラを含めて４〜５問というところで，合わせて10問あるかどうかである。2018〜22年の５年間はずっとこれが50問中15問程度であったから，2023年は出題ミス・悪問・難問が減少したと言っていい。問題の出題方法の観点から言っても，マニアックな用語を直接問う無味乾燥とした問題が減って，少なくとも４択正誤判定にしたり，消去法でなら解答可能だったり，最も凝っている問題では史料読解を挟んで思考力を必要としたりと工夫が見られた。ちょっとだけ更生した不良を褒めるようで気が進まないが，難易度も質も改善したと断言できる。2023年に限れば商学部の方が悪質で，むしろ昨年までの法学部に成り代わったかのような出題が見られた。教員が学部間で異動したわけでもなかろうに，不思議な現象である。法学部はこのまま自力更生路線を進むのか，今年は反省した振りだったというオチなのか，来年の動向に注目したい。
＜種別＞難問・奇問
＜問題＞１ 問５ 下線部Eに関連して（編註：日本はドイツに対して宣戦布告した），日本の動向に関する次の１〜５の出来事を，年代の古い順に並べ替え，その番号を左から解答用紙Bの所定の欄に記入しなさい。
１．加藤友三郎内閣がシベリア本土からの撤兵を決定した。
２．米騒動が起き，寺内正毅内閣が総辞職した。
３．ドイツ領であった赤道以北の南洋諸島が日本の委任統治領となった。
４．日本がドイツの膠州湾租借地を占領した。
５．ワシントン会議で海軍軍備制限条約が締結された。
＜解答解説＞
どう見ても日本史の問題。歴史総合は2025年からである。年度を間違えてはいないだろうか。とはいえ，４は第一次世界大戦開戦直後（1914年），２はシベリア出兵の開始に関連する事件だから大戦末（1918年），３はヴェルサイユ条約の内容（1919年）まではわかるだろう。困ったのは残りの２つで，１のシベリア出兵撤兵が1922年であるからおそらく決定も同年，５の海軍軍備制限条約は1922年締結であるところまではそれほど難しくないのだが，同年ということは月単位問題ということになる。１と５の月は日本史の早慶対策でも普通は覚えない。
おそらく作問者の想定する解法は「加藤友三郎内閣」がヒントなのであろう。ワシントン会議の開催が日本に通達されると，首相の原敬は海軍の重鎮であった加藤友三郎，駐米大使の幣原喜重郎，貴族院議長の徳川家達の３人を全権大使に任命し，英米との協調を命じて送り出した。しかしその直後の1921年11月に原敬が東京駅で暗殺されると，高橋是清が代わって首相に就任した。その際，全権大使３名は帰国していない。1922年2月，当初の方針通りに英米との協調を優先し，ワシントン海軍軍備制限条約を締結し，その際に加藤友三郎はシベリアからの撤兵を約束して，ワシントン会議は閉会した。帰国後の1922年6月，高橋是清内閣が閣内不一致で倒れると，加藤友三郎に組閣の大命が下り，加藤友三郎内閣は即座にシベリア撤兵を閣議決定，10月に撤兵が完了した。したがって，シベリア撤兵が決定された時期を知らなくても，原敬→高橋是清→加藤友三郎という内閣の順番を知っていれば一応１と５の順番はわかる。正解は４→２→３→５→１。しかし，この内閣の順番にしても完全に高校日本史の内容であり，世界史で学習する内容ではない。
慶應大の経済学部は良問の作成を標榜しており，実際に良質な問題が多いが，日本史的・地理的・政経的な問題については少し容赦が無い印象である。2023年は本問以外にGATTとWTOの違いとその時代的背景を問う出題や，ビキニ環礁の位置を問う地図問題があった。これらは世界史と地理・政経の重複領域であって範囲内と見なせるし，良いところを聞いているという意味では良問でもあるが，解答に細かい知識が必要で受験生の正答率は低いと推測される。より質の良い問題作成を目指すのであればもう少し知識的な難易度を下げてほしいとは思うが，現状の難易度でも慶應大の他学部や他の大学の問題よりも際だって良質なので，あまりわがままを言わないことにしたい。受験生は，本問のような日本史としても難問になるものまで学習するのはやりすぎにせよ，他科目との重複領域に注意するとよいだろう（本企画では珍しい実践的なアドバイスを書いてしまった……）。
２．慶應義塾大 商学部
＜種別＞出題ミスに近い・難問
＜問題＞１ (1)(2) を中心に遊牧勢力が台頭し，モンゴル高原西部のナイマンを征服した。その指導者はチンギス＝ハンとして即位後，大遠征をくりひろげた。
15 アイグン 17 アルタン＝ハン 20 エセン＝ハン 22 外興安嶺 24 キャフタ
30 小興安嶺 37 大興安嶺 41 ダヤン＝ハン 43 中央アジア 50 西アジア
（編註：関係のある選択肢のみ抜粋。17のアルタン＝ハンは別の問題の正解。）
＜解答解説＞
慶應大の商学部は例年，慶應大の４学部では最も易しく，経済学部に次いで良質であるが，2023年はかなり乱調であった。難化しているが，難化したというよりもなんだか調子のネジが狂っていて上手くはまっていない様子であった。特に大問１がひどい。この最初の空欄からして問題が胡乱である。まず思いつくのはチンギス＝ハンだが，問題文に登場するので違う。では改名前のテムジンかと思うと，選択肢にいない。となると地名か？ と疑って選択肢を見るが，選択肢にモンゴル高原がない。中央アジアと西アジアは絶対に違うと削っていくと，外興安嶺・大興安嶺・小興安嶺の３つが残る（ただし，選択肢は全部で51もあるので削る作業だけでかなり時間を食う）。なるほど，入れさせたいのは山脈名とここまで来てやっとわかるのだ。
しかし，高校世界史で登場するのは外興安嶺のみなので，ほとんどの受験生は大興安嶺と小興安嶺の位置がわからない。外興安嶺はネルチンスク条約で露清国境となった山脈であり，アムール川の北に位置しているから，モンゴル高原からはかなり遠く，明らかに違う。残った大興安嶺と小興安嶺の２択で手詰まりである。正解は大興安嶺の方で，内モンゴルの東部で北東から南西にかけて連なっている山脈である。一応，実教出版の教科書の本文にこの記載があるが（p.165），この部分を丸暗記していた受験生はいないと思われる。
ところで，テムジンが大興安嶺を根拠地としていたというのは正しいだろうか。テムジンのモンゴル部族はケルレン川とオノン川の流域で遊牧生活を営んでおり，当時大興安嶺付近にいたのはタタル部のはずである。実教出版の表現自体があやしい。テムジンの祖先は10世紀頃まで大興安嶺で遊牧をしており，その後ケルレン川・オノン川流域に移動したとされるので，その勘違いではないかと思われる。何度も書いていることだが，自分の専門領域外のことはよく裏をとってから出題してほしい。
３．慶應義塾大 商学部（２つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞１ その後の皇帝も貿易を外国人に対する恩恵とみなす立場を崩さず，18世紀後半には貿易港を１つに限定し，外国人商人や家族を (31)(32) に居住させるなど，厳しい管理を行なった。
39 台湾 53 北京 56 香港 57 マカオ
（編註：関係のある選択肢のみ抜粋）
＜解答解説＞
広州かなと思いきや選択肢にないから，消去法で対処するしかない。台湾はいかにも違う。首都の北京に参勤交代の大名の家族のように居住させたか，にしては遠すぎる。香港は英領になっていないが，ひょっとして割譲前には商人の居留地だったのだろうか……と妄想してしまうとかえって正解から遠のく。香港島はイギリスが開拓するまで小さな漁村しかなかったというエピソードを知っていると消しやすいかもしれない。残ったマカオが正解で，すでにポルトガルが居住権を認められた土地であったから，ヨーロッパ人はまとめてそこに居住させようというのが清朝側の意図であった。一応，正解にたどり着けるような推測の働かせ方をここに書いたが，実際の受験会場は北京や香港を切りにくく，受験生は苦しんだだろう。正答率が気になるところ。
４．慶應義塾大 商学部（３つめ）
＜種別＞悪問・難問
＜問題＞１ 自由貿易を求める国々の不満が高まるなかで， (33)(34) 年に広州に派遣された林則徐によるアヘンの取締りがきっかけとなり，イギリスに開戦の口実を与えた。
13 1838 14 1839
（編註：関係のある選択肢のみ抜粋）
＜解答解説＞
林則徐は1838年11月に欽差大臣に任命され，1839年1月に広州に赴任してアヘンの取締りを開始した。さて，「派遣された年」はどちらになるだろうか。彼が辞令を受けたタイミングとして1838年11月か，到着した1839年1月か，あるいは北京を発った日か。あれこれ調べてみたが，北京を発った日はわからなかったし，それをとことん調べる気力は持てなかった。その過程で，案の定，書籍ごとに派遣された年が異なり，1838年としているものも1839年としているものも見つかった。
種明かしをすると，山川の『詳説世界史』の本文に「1839年，林則徐を広州に派遣して取締りにあたらせた」という記述があるので（p.295），本問はこれをそのまま採っていて，正解は1839年である。「派遣された年」という表記だけでは年号が一義に定まらないことに作問者が気付かず，ともすれば出題ミスと言える本問はまぎれもなくゴミである。林則徐閣下にあたっては本問もアヘンと一緒に焼却してしまってほしい。
５．慶應義塾大 商学部（４つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞１ 問３ 下線部（b）に関連して（編註：フビライ），遷都前にフビライが大ハン位の継承をめぐって争った人物は誰か。
＜解答解説＞
思わずハイドゥと答えそうになるが，ハイドゥの乱はフビライの大ハン位即位後に起きたものであるから誤りである。正解はフビライの弟のアリクブケ（アリクブカ）。大学生や社会人の方で，これは普通の問題ではと思った方は，受験生時代に真面目に世界史を勉強していたのではないか。古い課程なら早慶レベルではあるが範囲内である。近年は用語集で立項されておらず，かろうじてフビライの項目内の説明文に登場する。また東京書籍の教科書にも記載があるので（p.180），これは教科書に記載があるが用語集が拾っていない用語の一つということになる。何度も繰り返し書いているが，これをグレーゾーンと見なして出題するのは受験生に全ての教科書を買いそろえて丸暗記させるのを強いることになり，金銭的・時間的負担が重すぎる。歴史は暗記科目ではないと主張したいのであればやめてほしい。とはいえ，そうした事情から早慶対策として教える予備校講師が多かろうから，正答率は低くなさそう。
６．慶應義塾大 商学部（５つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞１ 問６ 下線部（e）に関連して（編註：満州人の政権），満州人による中国統治の正当性を主張するために，第五代皇帝の勅命によって刊行された書物は何か。
＜解答解説＞
正解は『大義覚迷録』。問題文の「第五代皇帝」は雍正帝である。これも古い課程では早慶レベルながら用語集に項目があって範囲内であったので，その時代の受験生の方ができるかもしれない。また，これも実教出版の教科書には記載があり（p.234），早慶は古い課程の用語集に記載があれば出題することがあるということで早慶対策ではしばしば出てくる書名ではある。受験生の正答率が極端に低いということはなさそう（迷の字が書ければ）。
７．慶應義塾大 商学部（６つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞２ (65)(66) 派が主導する北部７州は，南部10州が戦線から離脱したあと，1579年にユトレヒト同盟で結束を固めて独立戦争を続行し，17世紀に国際的に独立が承認された。この連邦共和国の主権は (67)(68) にあった。こうして，国土の狭いスイスとオランダは， 近隣の大国フランスがとった絶対王政と対極の国制で対抗した。
16 オランダ総督 29 州議会 61 連邦議会
（編註：関係のある選択肢のみ抜粋。また (65)(66) の正解はカルヴァン。）
＜解答解説＞
思わず16のオランダ総督と答えてしまいそうになるが，ここにオランダ総督を入れてしまうと「近隣の大国フランスがとった絶対王政と対極の国制で対抗した」という文脈と矛盾が生じてしまう。実際にオラニエ家が世襲したオランダ総督は国家元首の地位で，大きな権力はなかった。さらに言えば，独立から18世紀半ばまで，つまりネーデルラント連邦共和国の存続期間の大半には７州のそれぞれに州総督がいて，形式的にはオランダ総督（ホラント州総督）が特権的な地位にいたわけではない。アムステルダムを抱えるホラント州の経済力が他の州を圧倒していたため，オランダ総督が実質的な国家元首と見なされていたに過ぎない。18世紀半ばにホラント州総督が他の州総督も兼任することが決まってから，やっと国家元首の地位が安定するのである。
これだけでもわかる通り，近世のオランダは特殊な国制をとっていて，中央集権化が進むフランスや，後に覇権国家の地位を継承する英米と比べると圧倒的な分権型の国家であった。形式的には各州がそれぞれ主権を持ち，州の最高機関は州議会であった。連邦議会は存在したが，権限は全州にかかわる外交と軍事に限定され，しかも実権を連邦財政の大半を負担していたホラント州の州議会が握っていた。
ということで，正解は29の州議会を入れるべきか61の連邦議会を入れるべきか迷うのだが，おそらく作問者は「（主にはホラント州の）州議会」を正解とする意図で作問したのではないかと思われる。当然ながらここまで細かい近世オランダ史は通常の受験勉強で学習しない。ほとんどの受験生がオランダ総督か連邦議会と解答して間違えたのではないか。しいて言うと，用語集の「ネーデルラント連邦共和国」の項目に「各州が主権と議会を持ち，外交や軍事などは７州による連邦議会で決定され」という説明があるので，これを丸暗記していた受験生なら州議会が正解になる可能性を多少考慮できたかもしれない。
８．慶応義塾大 商学部（７つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞３ オスマン帝国支配下のバルカン半島では，1815年に (77)(78) が制限つきながらも自治権を認められ独立への一歩を踏み出したほか，1829年には (79)(80) が独立を果たした。
25 ギリシア 27 クロアチア 34 セルビア 44 ブルガリア 51 モンテネグロ
（編註：関係のある選択肢のみ抜粋。(79)(80)の正解はギリシア。）
＜解答解説＞
別の問題の正解だからギリシアではない，クロアチアは当時ハプスブルク家の領土だから消して３択がスタートラインだろう。ブルガリアは1878年のベルリン条約で自治権を認められているから，1815年ではなさそうと当てをつけて，セルビアとモンテネグロの２択までたどり着けたら受験生の知識としては十分である。あとは純粋な運試しになる。一応，用語集のセルビアの項目に記載があり，「1815年にオスマン帝国宗主権下の自治公国として，近代セルビア国家が出発した」とあり，この通りにセルビアが正解であるが，この年号を覚えていた受験生は皆無に近いだろう。しかもモンテネグロの項目にも「15世紀以降，オスマン帝国の影響下に置かれながらも自治を保った」という説明があるので，用語集を舐めるように読み込んできた受験生ほど「どっちの項目にも自治って言葉が書かれていたような……」となって混乱してしまう可能性もある。せめて首都の名前を出すなり「中世に王国が栄えた」なりのヒントが欲しかった。
慶應大の商学部ではこの他に，立憲王政のベルギー王国が成立した年を1830年と1831年から選ばせる問題もなかなかひどかった。独立が宣言されたのは1830年だが，憲法制定とレオポルト１世の即位は1831年であるから，後者が正解である。ただ，両年号とも教科書や用語集で明記されていることが多いので，意外と区別がついている受験生が多かったかもしれない。また，古い用語集では立項されていたシリーズとして，七月王政末期の首相ギゾーも問われていた。機械的に判断するならこれも収録対象であるが，唯一記載のある教科書の実教出版では太字の記載であり，これは拾っていない用語集の側の方が問題であると思われること，早慶対策としてはアリクブケや『大義覚迷録』よりもさらによく見る人物名であることを考慮して，白寄りの灰色という判断を下した。
以上，慶應大の商学部は７つ収録となった。うち５つは，用語集に立項されていないが教科書どれか１冊のみに記載がある用語または年号からの出題である……どう考えてもこれは同大学の法学部の作問手法で，悪い癖が移ってしまった。せっかく商学部は経済学部に次いでまともな出題が多かったのに，これから法学部化していくのだろうか……そんな地獄は見たくないのだが。この手法は法学部でもそうだが，今回の商学部の大問１だけを見ても大興安嶺や林則徐の問題がそうであるように，実際には解釈が割れて悪問が生じやすい。教科書の記述だけが真実ではないのである。法学部の作問手法をまねてよいかどうかを，商学部は自立心をもって判断すべきではないか。総じて2023年の商学部はよほど法学部への憧れがあるのか，難易度の面でも作りの荒さの面でも前年までとのギャップが激しい。
９．慶應義塾大 文学部
＜種別＞難問
＜問題＞２ 設問（４）オスマン帝国の第30代スルタンであるマフムト２世がイェニチェリ軍団を廃止したのは何年か，アラビア数字（算用数字） で記しなさい。
＜解答解説＞
普通は覚えない年号を問うのはやめろシリーズ。正解は1826年で，他のメジャーな年号とのかかわりも特になく，推測しようにも1800年くらいから1830年くらいまでの幅でしか見当が付かないから，あまりにも分の悪い運ゲーである。2023年の慶應大・文学部はこれ以外にカール４世が金印勅書を発布した年として1356年も出題していた。こちらもそれを聞いてどうするんだ感があるものの，金印勅書が頻出の用語であるし，大空位時代とハプスブルク家の世襲開始のちょうど中間点の14世紀半ばであるという知識を問うという意図は伝わる（それでも下一桁を問う意味はなかろうと思う）。イェニチェリ軍団の廃止年はそういう意図もわからない。作問者に見解を聞いてみたい。
ともあれ，2023年の慶應大の文学部はこの２つの年号以外は極端に難しい問題がなく，用語集頻度が低かったり近年出題頻度が低かったりしてちょっと難しいかなと思われるのがドレスデン空襲，アポロ11号，ジャコバン派右派のダントン，デリー＝スルタン朝３番目のトゥグルク朝，「知恵の館」を設立したマームーン，政治協商会議くらいか。例年なら商学部の方が易しいが，2023年はあちらの難化もあって逆転し，慶應大４学部の中で文学部が最も易しかったように思われる。平均点はそれなりに高そう。それだけに，この異様な年号をぶっ込んできたことが余計に解せない。
１０．慶應義塾大 法学部
＜種別＞出題ミスに近い
＜問題＞１ 設問２ 下線部（イ）に関連して（編註：アメリカ合衆国），20世紀半ばの同国に関する記述として誤っているものを下から選び，その番号を (11)(12) にマークしなさい。
［01］ アイゼンハワー大統領は，退任に際して「軍産複合体」について警告した。
［02］ 連邦最高裁判所は，1954年のブラウン判決により公立学校での人種隔離を違憲とした。
［03］ 共和党上院議員マッカーシーらは，共産主義者や左翼運動を攻撃する，いわゆる「赤狩り」を行った。
［04］ 1947年の国家安全保障法により，国家安全保障会議，国防総省などが設立された。
＜解答解説＞
2023年の慶應大の法学部は2022・21年と比べると易しく，悪問も少なかった。しかし，あくまで同学部の他年度との比較での話であって，他の難関私大の平均的な難易度・質と比べるとやはりひどいものはひどい。
閑話休題，［01］・［02］・［03］は正文である。軍産複合体の用語集頻度は�◆ぅ屮薀Ε麋酬茲廊 ぅ泪奪�ーシズムは�い覆里如ぁ�01］・［02］は判定が難しかっただろう。よって消去法で正解は［04］に絞られることになり，1947年の国家安全保障法で設立されたのは国家安全保障会議と中央情報局（CIA），国家軍事機構等である。国防総省の設立は1949年のことで，用語集頻度はこれも�，任△襪�ら，範囲内の難問だったね……で終わることができるなら本問はここに掲載されていない。国家軍事機構は国防総省の前身であって1949年は改名しただけであるから，国防総省の設立年は1947年と見なすことが可能である。単に山川の用語集がその説明を欠いているだけだ。たとえばコトバンクにある平凡社百科事典では「1947年の国家安全保障法National Security Actにより創設された」となっていて，改名の件は説明がない。英語版Wikipediaも設立を1947年としている。これだけで十分だろうと思って英語圏のソースはしっかりと調べていないが，おそらく1947年・1949年のどちらも出てくるだろう。また，百歩譲って国防総省の設立年を1949年と見なしたとしても，根拠法は1947年の国家安全保障法であるから，「1947年の国家安全保障法により，国防総省が設立された」は説明文として誤りではない。以上のような論拠から，［04］を誤文と見なせるのは改名を設立と見なした場合のみであり，かなり苦しい。河合塾・駿台・代ゼミから同様の指摘あり。しかし，大学当局は出題ミスと認めずに突っぱねた。
なお，頻度�，任△襪�らどれかの教科書１冊には載っているはずと思って探してみたら，山川の『詳説世界史』であった（p.381）。そこには「1947年には国家安全保障法が成立し，国家安全保障会議や国家軍事機構（のちの国防総省），中央情報局（CIA）などが設置された。」とある。この文だけでは国家軍事機構から国防総省への変化が再編なのか改名なのかの区別はつかない。これを別組織への再編であると断定的に読む読み方があるなら教えてもらいたい。設立の根拠法の扱いがぞんざいな法学部とはいったい。
１１．慶應義塾大 法学部（２つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞１ 設問６ 下線部（カ）に関連して（編註：再び緊張緩和の方向に向かった），安全保障に関する米ソの交渉についての記述として誤っているものを下から選び，その番号を (19)(20) にマークしなさい。
［01］ 1963年，アメリカ合衆国とソ連は，両国首脳間で直接通話できる回線を設ける直通通信（ホットライン）協定を結んだ。
［02］ 米ソ間の第１次戦略兵器制限交渉の結果，1972年に核兵器現状凍結協定と弾道弾迎撃ミサイル制限条約が結ばれた。
［03］ 1973年には，米ソ間で核戦争防止協定が結ばれた。
［04］ 米ソ間の第２次戦略兵器制限交渉は、1979年のソ連によるアフガニスタン侵攻のため，調印に至らなかった。
＜解答解説＞
本問も，［01］・［02］・［03］がいずれも正文で，それぞれの用語集頻度はホットライン協定が�◆こ吠軸鏝従�凍結協定が� っ篤暫瞳涎皀潺汽ぅ訐�限条約は項目なし（核兵器現状凍結協定の説明文内に登場），核戦争防止協定が�，蛤櫃匹い箸海蹐鯑佑い討い襦�［04］も一見すると正文に見えるのだが，第２次戦略兵器制限交渉は調印された後にソ連のアフガニスタン侵攻があり，アメリカ議会上院が批准を拒否したために発効しなかった。このため［04］が誤文である。正誤判断のポイントとしてはあまりにも細かいが，2015年に上智大で類題がある（2015上智１２番）。難関私大の作問者が出したくなるようなポイントということなのだろう。そういえば，本問と前問は慶應大・法学部ミリオタ問題の一環かも。
１２．慶應義塾大 法学部（３つめ）
＜種別＞出題ミスに近い
＜問題＞２ 設問９ 下線部（ケ）に関連して（編註：その正統教義をめぐる論争），キリスト教では，三位一体説の正統教義化への反発から (49)(50) 教会が成立し，そこからエチオピア教会がわかれた。 (49)(50) に入る最も適切な語句を語群より選び，その番号を解答用紙の所定の欄にマークしなさい。
05 アルメニア 17 コプト 19 コンスタンティノープル 22 シリア 42 ローマ
（編註：関係のある選択肢のみ抜粋）
＜解答解説＞
適当に解答を出すなら17のコプトになるが，コプト教会は三位一体説を規定したニケーア・コンスタンティノープル信条を受け入れている。高校世界史で登場する異端で三位一体説を採用していないのはアリウス派だけである。エフェソス公会議やカルケドン公会議の論点はそこではなく，父なる神と子なるイエス・聖霊の神性が同質不可分であることを確認した上で，子なるイエスの中にある神性と人性に関する議論であった。いわゆるアタナシウス派，後のカトリックや東方正教会の正統教義では，イエスの神性は父なる神と同質であり，人性は我々と同質である，かつイエスのうちの神性と人性は融合しておらず，分離もしていないとする。神性と人性は分離していると見なしたのがネストリウス派で，神性と人性は融合して一つの本性となったと見なしたのが非カルケドン派（いわゆる単性論派）になる。参考文献として，久松英二『ギリシア正教 東方の智』（講談社選書メチエ，2012年）を挙げておく。ちょっと古くなってきたが，いまだに本書が古代のキリスト教および東方正教の教義について最も簡潔にまとまっていてわかりやすい。
根本的にキリスト教の神学的理解が誤っているので本来ならば問題不成立の出題ミスになるのだが，困ったことに高校世界史の教科書は全体的に同様の誤りを犯している。主要５冊のうち，たとえば東京書籍の教科書は「カルケドン公会議は，これ（編註：単性論派のこと）を異端とするとともに，正統のアタナシウスの説を整え，神とイエスと聖霊との三者を不可分なものとする三位一体説を確立した。このため単性論派は，６世紀以降，独自にコプト教会やシリア教会，アルメニア教会などをつくっていった」と書いていて，帝国書院の教科書もほぼ同様の記述である。実際には三位一体説が確立したのは381年のコンスタンティノープル公会議であり，451年のカルケドン公会議では主要な議論の対象ではない。実教出版の教科書はよりまずく，「451年のカルケドン公会議では，シリアやエジプトで根強かったイエスに神性のみ認める単性論派が異端とされ，アタナシウスの説の父なる神と子なるイエスに聖霊を加えた三位一体説が正統教義として確立された。しかし，シリアやエジプトの諸教会はこの決定に反発し，こののちのシリア教会やコプト教会として独自に発展をとげた。」と書いている。上述の通り，シリア教会もコプト教会も三位一体説には反発していない。こうした事情から，大学当局に指摘したところで出題ミスとは認めてくれないだろう。とはいえ，このミスは現役のコプト教会の信徒に対して非常に失礼であり，高校世界史全体として改めてほしい。また，何度も書いているが，このような教科書執筆者も出題者も大して理解できていない古代キリスト教の神学論争が高校世界史上で必須の理解とは思えず，出題ミス頻発地帯になっている現状であることから，各教科書会社は三位一体説以外の神学的な説明を思い切って削除してほしい。
１３．慶應義塾大 法学部（４つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞３ ［資料B］大統領就任演説
私は人民の意思によって大統領になった。（…）二か月前，このマイダンに，［ イ ］中の広場や通りに数百万の人々が出た。（…）勝利者は，全ての［ イ ］市民である。我々は公正な選挙を勝ち取り，12月26日に我々は運命と行き違うことはなかった。（…）私は，全［ イ ］の大統領である。ドンバスや沿ドニエプルの鉱山，黒海の港湾，ガリツィアの通商路が稼働することに責任がある。（…）ヨーロッパヘの一歩一歩――これは，数百万の［ イ ］人にとっての新しい可能性である。
設問２ 資料Bに関連した以下の記述を読んで， (55)(56) および (57) (58) に入る最も適切な語句を語群より選び，その番号を解答用紙の所定の欄にマークしなさい。
この［ イ ］の (55)(56) 革命に前後して，他の国でも類似した政治変動が生じた。たとえば、キルギスの (57)(58) 革命が知られている。
05 オリーブ 06 オレンジ 07 カーネーション 11 黄色 12 銀色
21 チューリップ 25 バラ 29 ひまわり 30 ビロード 34 ブルドーザー
37 ユリ 39 緑色
（編註：関係のある選択肢のみ抜粋）
＜解答解説＞
半ば時事問題。マイダン，ドンバス，ドニエプルの組合せで空欄イに入るのがウクライナとわかる。なお，空欄イ自体は別の問題で問われており，誤答用の選択肢はグルジア（ジョージア）とセルビアであった。しかし，いかに時事問題とはいえ，2004年のオレンジ革命となるとけっこう深くニュースを聞いていないと厳しそうだ。正解できた受験生はよく現代史に対応していると言っていい。より厳しいのがもう一方で，キルギスで革命が起きていたこと自体知らない受験生の方が多かっただろう。正解は21のチューリップ革命。誤答にあるバラ革命がグルジア（ジョージア）で起きた革命である。本問も慶應大・法学部お得意の「用語集にはないけど教科書１冊には載っている」シリーズの１つで，オレンジ革命・チューリップ革命・バラ革命という一連のカラー革命を載せていたのは山川の『新世界史』であった。
その他の選択肢について。比較的メジャーなものはまずカーネーション革命で，これは1974年のポルトガルの民主化の契機である。ひまわりは台湾のひまわり学生運動のことか。ビロード革命はチェコスロヴァキアの1989年の民主化。ブルドーザー革命は2000年にユーゴスラヴィアで発生し，ミロシェヴィチ大統領が退陣した。その他は私も知らなかったので，一通り調べてみた。
・オリーブ革命：存在しない。静岡県でオリーブの生産量が増加しているというネット記事が見つかっただけ。
・黄色革命：1986年のマルコスを退陣させたフィリピン革命（エドゥサ革命）をこう呼ぶことがあるらしい。
・銀色革命：存在しない。1990年に日本の作家が出版した詩集が出てきた。
・ユリ革命：存在しない。そうなる気はしていたが，2023年2月という時期柄，Google検索では『転生王女と天才令嬢の魔法革命』に関連するページが多く出てきた
・緑色革命：1970年にアメリカで出版された書籍。1960年代のカウンターカルチャーを賛美したもので，当時ベストセラーになった。ただし，原著のタイトルはThe Greening of Americaとのことなので，革命要素は無い。ところで，慶應大の選択肢語群は原則として五十音順なので，ユリの後に緑色が来ることに違和感があったのだが，この書籍名は「りょくしょくかくめい」と読むらしい。納得はしたが，由来を知らないと「りょくしょく」とは読めない。緑色を選択肢に入れたのは作問した教員の趣味と思われ，これと銀色革命から戦犯もとい作問者を絞れないかなと疑っている。
１４．慶應義塾大 法学部（５つめ）
＜種別＞出題ミス（複数正解）・難問
＜問題＞３ ［資料E］［ ウ ］農村協同組合大会における国王の演説
今ここで，私は国王としての責任において，そして［ ウ ］国民の権利と尊厳を守ると誓った誓約を順守するべく，善神と悪神の闘いの最中にあってどっちつかずの傍観者であることはできないのである。（…）私が［ ウ ］の国王として，そしてまた，三軍の長として，国民投票にかけ，その確認のために，媒介なしの直接的な形で，［ ウ ］国民の肯定的判断を期待する諸原則とは，以下の通りである。
一．（…）土地改革を以て，地主・小作体制を廃止すること
二．［ ウ ］全土にわたる森林の国有化法案の承認
（編註：空欄ウをこの資料Eのみで特定するのは困難だが，別に引用されている資料Cがどう見てもイラン＝イスラーム共和国憲法であることや，他の設問の問題文から空欄ウは容易にイランと特定可能。資料Eは白色革命の開始を宣言する演説の一環で1963年に発表された。）
設問５ 資料E の国［ ウ ］に関連した以下の記述のうち，正しいものを下から選び，その番号を (65)(66) にマークしなさい。
［01］ この国は，第二次世界大戦中，連合国側の一員としてドイツと戦い，イギリス軍とソ連軍の駐留も認めた。
［02］ 第二次世界大戦後もアメリカ合衆国系企業に石油を独占管理される状況などをめぐり，民族主義者が反発を強め，この国の首相は1951年に石油国有化を実行した。
［03］ 石油国有化を実施した政権が倒れたのち，この国は，アメリカ合衆国系資本の後押しも受け，アメリカ合衆国に軍事基地を提供した。
［04］ この国とアメリカ合衆国は，この国の化学兵器開発をめぐって緊張関係にあったが，2015年にいったん妥協が成立した。
＜解答解説＞
［02］はアングロ＝イラニアン石油（現在のBP）がイギリス系なので「アメリカ合衆国系」ではなく誤文。［04］は「化学兵器」が「核兵器」の誤りで，山川の『新世界史』にしか記載が無いが，一般常識の範囲で誤文とわかるだろう。審議の対象が［01］と［03］である。［01］から検討しよう。イランは1941年当時に第二次世界大戦における中立を宣言していた一方で，国王パフレヴィー１世が枢軸国に接近する動きを見せていた。しかし，大規模な油田があってソ連の横っ腹を突ける地政学的位置のイランの枢軸国入りは連合国にとって悪夢であったので，同年の８月にイギリスとソ連の連合軍が南北からイランに進駐し，翌月にパフレヴィー１世が退位（実質的に配流されて南アフリカで死去），パフレヴィー２世が即位する。パフレヴィー２世は連合軍との協定に同意し，以後のイランはレンドリースの通り道となった。そういうわけで終戦までイギリス軍とソ連軍どころかアメリカ軍も駐留している。1943年には正式にドイツに宣戦布告しているが，実際にはドイツ軍がイランに到達したことはない。調べがつかなかったが，イラン軍がヨーロッパ戦線に派遣されたということもなさそうである。以上の情報を基に判断するに，宣戦布告を重視するか交戦の有無を重視するかにより，［01］は「連合国側の一員としてドイツと戦い」は正しいとも誤っているとも言えてしまうので，正誤判定が不可能である。とすると一度飛ばして［03］を検討するしかない。なお，そもそも［01］の情報はほぼ完全に受験世界史範囲外である。
その［03］も難しい。前半は正しいが，パフレヴィー２世時代のイラン国内に米軍基地があったかどうかは極めて細かい知識になる。こういう時は慶應大・法学部お決まりの作問手法であろうと思ってしらみつぶしに探してみたところ，やはり実教出版の教科書にそのままの記載があった（p.393）。慶應大・法学部の論拠はこれだろうから，［03］は正文＝正解，したがって［01］は誤文ということになる。宣戦布告は交戦を意味しないのが慶應大・法学部の公式見解ということが確定したので，入試問題以外の場面でもこれに反する場面を見つけたら積極的に擦っていきたい。
ところで，実教出版の教科書にある「イランは親米政策を強め，アメリカに軍事基地を提供し」という記述は事実なのだろうか。どうにも無為そうなのでそれほどがんばっていないが，手元にある範囲の書籍と，英語圏のネット記事を探してみたが，基地があったとする記述は全く見当たらなかった。なぜこれを疑っているかというと，米軍基地があったならなぜ1979年のイラン革命を防げなかったのか，アメリカ大使館１つ守れなかったのかという大きな疑問が浮上してしまうからである。大学当局から［01］と［03］の複数正解を認める旨の発表があった（謝罪無し）。謝罪がなかったのは別にいいとしても，イランに米軍基地があったのかどうかについての見解を発表してほしかったところ。
この他に法学部の大問３ではハンガリー革命の主導者クン＝ベラが問われていた。クン＝ベラは用語集に項目が立っていないがハンガリー革命の項目内に説明があり，また語群から消去法で解答可能なので収録対象外としたが，クン＝ベラの出題自体を数年ぶりに目にして驚いたので記録のために付記しておく。
以上，慶應大・法学部は50問中で収録対象が５問，際どく範囲内と見なしたグレーゾーンの難問がクン＝ベラを含めて４〜５問というところで，合わせて10問あるかどうかである。2018〜22年の５年間はずっとこれが50問中15問程度であったから，2023年は出題ミス・悪問・難問が減少したと言っていい。問題の出題方法の観点から言っても，マニアックな用語を直接問う無味乾燥とした問題が減って，少なくとも４択正誤判定にしたり，消去法でなら解答可能だったり，最も凝っている問題では史料読解を挟んで思考力を必要としたりと工夫が見られた。ちょっとだけ更生した不良を褒めるようで気が進まないが，難易度も質も改善したと断言できる。2023年に限れば商学部の方が悪質で，むしろ昨年までの法学部に成り代わったかのような出題が見られた。教員が学部間で異動したわけでもなかろうに，不思議な現象である。法学部はこのまま自力更生路線を進むのか，今年は反省した振りだったというオチなのか，来年の動向に注目したい。
Posted by dg_law at 18:00│Comments(13)
この記事へのコメント
今年も待っておりました（受験生には悪いですが…）。
最終日の現代アフリカ史（とはいえ半分ヨーロッパ史）まで、じっくり読ませていただきます。
最終日の現代アフリカ史（とはいえ半分ヨーロッパ史）まで、じっくり読ませていただきます。
Posted by 法律方面の人 at 2023年03月17日 19:03
１４番についてなのですが、
＞宣戦布告は交戦を意味しないのが慶應大・法学部の公式見解ということが確定した
とあるのですが、
＞大学当局から［01］と［03］の複数正解を認める旨の発表があった（謝罪無し）。
ということから、宣戦布告も（ドイツと）「戦い」を意味するという公式見解とみなした方がいいんでしょうかね？
あるいは、公式解答例の「解釈によっては01も正答となり得る」という謝罪なしの言い草からして、宣戦布告だけでは「戦い」を意味しないという見解を公式見解としては維持したいんでしょうかね（邪推）
＞宣戦布告は交戦を意味しないのが慶應大・法学部の公式見解ということが確定した
とあるのですが、
＞大学当局から［01］と［03］の複数正解を認める旨の発表があった（謝罪無し）。
ということから、宣戦布告も（ドイツと）「戦い」を意味するという公式見解とみなした方がいいんでしょうかね？
あるいは、公式解答例の「解釈によっては01も正答となり得る」という謝罪なしの言い草からして、宣戦布告だけでは「戦い」を意味しないという見解を公式見解としては維持したいんでしょうかね（邪推）
Posted by 法律方面の人 at 2023年03月17日 20:35
10年来のROM専ファンです．今年も更新いただき本当にありがとうございます．
あまり本題と関係がない話なので恐縮ですが，２点ほどコメントさせていただきます．
まず，今年は多少マシになったとされる慶應大法学部ですが，2025年度より世界史・日本史の試験時間が伸び，論述問題が出題されるようになるようですね．なので，この形での出題は次年度で一旦終わりになりそうです．
やはりこのままだとまずいということになったのでしょうかね・・・．今年度の問題の工夫や易化の傾向なんかもそういう潮流の中でのことなのかもしれないですね．
https://www.keio.ac.jp/ja/admissions/docs/230307_generaladmissions2025.pdf
２点目として，これは今年度に限った話ではないのですが，慶應大法学部（年によっては一橋大も）の世界史では，教科書では扱っていないものの，社会科学の研究や勉強をする上では知っておいてほしいことを「難問」としてよく出題している印象があります．社会科学系の古典なんかを見るとよく見かける名前が直接・間接的に問われていたりする感じです．しかも，その一部は高校倫理や政治・経済でも取り扱うような内容だったりするので，割と確信犯的なのかもと思ったりしてました．出題者が人文系の教員でなく社会科学系の教員であれば，そういう禁じられた欲望を持っていてもおかしくはないかなと．
無論，本当にそんな背景で出題していたのであれば，間違いなく非難されるべきです．そんなのエゴ以外の何者でもないです．いっそのこと，倫理や政治・経済との融合問題とかにしてしまえばいいのにとか思ってしまいます・・・．
あまり本題と関係がない話なので恐縮ですが，２点ほどコメントさせていただきます．
まず，今年は多少マシになったとされる慶應大法学部ですが，2025年度より世界史・日本史の試験時間が伸び，論述問題が出題されるようになるようですね．なので，この形での出題は次年度で一旦終わりになりそうです．
やはりこのままだとまずいということになったのでしょうかね・・・．今年度の問題の工夫や易化の傾向なんかもそういう潮流の中でのことなのかもしれないですね．
https://www.keio.ac.jp/ja/admissions/docs/230307_generaladmissions2025.pdf
２点目として，これは今年度に限った話ではないのですが，慶應大法学部（年によっては一橋大も）の世界史では，教科書では扱っていないものの，社会科学の研究や勉強をする上では知っておいてほしいことを「難問」としてよく出題している印象があります．社会科学系の古典なんかを見るとよく見かける名前が直接・間接的に問われていたりする感じです．しかも，その一部は高校倫理や政治・経済でも取り扱うような内容だったりするので，割と確信犯的なのかもと思ったりしてました．出題者が人文系の教員でなく社会科学系の教員であれば，そういう禁じられた欲望を持っていてもおかしくはないかなと．
無論，本当にそんな背景で出題していたのであれば，間違いなく非難されるべきです．そんなのエゴ以外の何者でもないです．いっそのこと，倫理や政治・経済との融合問題とかにしてしまえばいいのにとか思ってしまいます・・・．
Posted by 教員A at 2023年03月17日 21:57
今年も楽しみにしてました。慶應が全学部収録対象って結構久しぶりですね。2016年以来かもしれません。
Posted by 名無し at 2023年03月17日 23:23
＞法律方面の人さん
お察しの通り，ラストはその現代アフリカ史の問題です。
１４番については，おっしゃる通りで異論ありません。［01］と［03］を平等に正解とするような公式解答例だったなら，こういう揶揄をしなくても済んだんですよね。
受験生への謝罪はしないとしても，潔い態度をとってほしかったですね。
＞教員A さん
１点目，そうなんですよね。2025年度の入試に戦々恐々としています。ふたを開けてみたら論述問題部分が意外にまともという展開を期待しています。早稲田大の法学部も論述はすごくまともですから，あれくらいの感じで。
今年の問題の工夫がその予兆ということなら非常に喜ばしいですね。考えてなかったですが，言われてみるとその可能性はあります。
２点目，確かにその傾向はあると思います。私は社会科学は専門外ですが，高校政経で出るようなところを聞いている印象。日本史や地理分野からの出題もたまに見られることも含めて，本当は大学教員は地歴公民の垣根を越えて入試問題を作りたいのかなと思うことがありますね。昨今の地歴公民科目の入試をやめて総合問題にしてしまう動きもその一環かもしれません。
＞名無しさん
気づいてなかったですが，確かに2016年以来でした。けっこう経済学部と文学部は収録がない年があるので，そろうのは珍しいですね。
お察しの通り，ラストはその現代アフリカ史の問題です。
１４番については，おっしゃる通りで異論ありません。［01］と［03］を平等に正解とするような公式解答例だったなら，こういう揶揄をしなくても済んだんですよね。
受験生への謝罪はしないとしても，潔い態度をとってほしかったですね。
＞教員A さん
１点目，そうなんですよね。2025年度の入試に戦々恐々としています。ふたを開けてみたら論述問題部分が意外にまともという展開を期待しています。早稲田大の法学部も論述はすごくまともですから，あれくらいの感じで。
今年の問題の工夫がその予兆ということなら非常に喜ばしいですね。考えてなかったですが，言われてみるとその可能性はあります。
２点目，確かにその傾向はあると思います。私は社会科学は専門外ですが，高校政経で出るようなところを聞いている印象。日本史や地理分野からの出題もたまに見られることも含めて，本当は大学教員は地歴公民の垣根を越えて入試問題を作りたいのかなと思うことがありますね。昨今の地歴公民科目の入試をやめて総合問題にしてしまう動きもその一環かもしれません。
＞名無しさん
気づいてなかったですが，確かに2016年以来でした。けっこう経済学部と文学部は収録がない年があるので，そろうのは珍しいですね。
Posted by DG-Law at 2023年03月18日 00:01
アポロ11号ですがポルノグラフィティの歌もありますし難問でない気が…と思いましたが今の受験生は世代じゃないですね。
Posted by 名無し at 2023年03月18日 22:46
アポロ11号は意外と入試で問われないんですよね。用語集頻度は��でした。��と言われて連想するような出題頻度ではない印象です。
私は完全に世代ですがｗ，今の受験生は歌を知らなさそうです。
私は完全に世代ですがｗ，今の受験生は歌を知らなさそうです。
Posted by DG-Law at 2023年03月18日 22:53
初めてのコメントをさせていただきます。今年の慶應義塾大学法学部の世界史は私も初見でみたときは「これ、易しい問題では？」と思いましたがこれで改善してくれればいいですね。ただ、日本史の方では相変わらずクソみたいな問題が多かったのでまだ表面的にしか現れてないとは感じられます。
Posted by 歴史科目の入試問題が好きな学生 at 2023年03月19日 12:37
日本史のことは聞いていました。傾向を変えるなら日本史も歩調を合わせるのかなと考えると，今年は気まぐれで来年以降にまた以前のようなひどい難易度に戻る可能性も考えられます。
一方，科目で歩調を合わせる気がなくて，世界史では改善する気力がある可能性もありますし，少なくとも2024年の入試を見てみるまで全く読めませんね。
一方，科目で歩調を合わせる気がなくて，世界史では改善する気力がある可能性もありますし，少なくとも2024年の入試を見てみるまで全く読めませんね。
Posted by DG-Law at 2023年03月19日 14:36
慶應文は大問1でアポロ11号だけでなくドレスデン大空襲やICBMとか一部の人が好きそうなの出してましたね。イェニチェリの廃止の年号は満点阻止のためにポンと思い付いたんですかね。
Posted by 名無し at 2023年03月19日 21:24
大問１はそういう意味では法学部っぽい問題だったと言えるかもしれませんね。
1826年は満点阻止でしょうが，そもそも満点阻止しなくてもいいだろうと毎年思います。科目間の点数調整に支障があるんでしょうかね。
1826年は満点阻止でしょうが，そもそも満点阻止しなくてもいいだろうと毎年思います。科目間の点数調整に支障があるんでしょうかね。
Posted by DG-Law at 2023年03月20日 00:15
今更ですが...文学部は受験した当時ポルノグラフィティのアポロの歌がしばらく頭から離れなくなったのが懐かしいです。世代じゃないけど知っていた受験生は多分結構いると思います。ICBMとかドレスデン空襲とか世界史の用語として覚えたものでないものが色々出てきて楽しく解いた覚えがあります。
Posted by 名無し at 2023年12月03日 18:15
試験時間中に関連する音楽が脳内で流れ始めて止まらなくなるのはありがちですねｗ。過去記事を探すと出てきますが，以前に慶應大の商学部が世界史の問題文で『デスパシート』を挙げたために脳内で流れ始めて止まらなくなったという受験生がいたようです。
一つ上のコメントでも言われてますが，趣味的に覚えたものが入試に出ると嬉しいですね。私は三国志で身に覚えがあります。
一つ上のコメントでも言われてますが，趣味的に覚えたものが入試に出ると嬉しいですね。私は三国志で身に覚えがあります。
Posted by DG-Law at 2023年12月06日 00:13
