2023年03月19日
2023受験世界史悪問・難問・奇問集 その３（国立大）
昨日の続き。本日は国立大をお届けする。集まったのはいつもの面々であった。一番注目されるべき問題が共通テストの日本史Bだったりするのは例年と少し違うところかもしれない。長くなったのでおまけは無し。東京外大は未入手。
１．共通テスト 世界史B
＜種別＞？？？
＜問題＞３ C 中国における書籍分類の歴史について，大学生と教授が話をしている。
内 藤：18世紀の中国で編纂された〔 オ 〕の「四」という数字はどういう意味ですか。高校では用語として覚えただけで，深く考えませんでした。（編註：空欄オの正解は『四庫全書』）
教 授：〔 オ 〕に収められた書籍が，四つに分類されているためです。これを四部分類と言い，経部・史部・子部・集部からなります。
内藤：なるほど，例えば儒学の経典なら経部に，歴史書なら史部に分類されているという具合でしょうか。
教授：そのとおりです。史部について少し具体的に見てみましょう。資料１は，７世紀に編纂された『隋書』経籍志という書籍目録からの抜粋です。
資料１ 『隋書』経籍志で史部に掲載されている書籍の一部
『史記』 『漢書』 『後漢書』 『三国志』
内 藤：挙げられたのはいずれも，紀伝体の歴史書ですね。
教 授：よく知っていますね。このうち，『漢書』は１世紀にできた歴史書ですが，その中にも芸文志という書籍目録があります。そこから，儒学の経典を主に収める分類である六芸略の書籍を抜粋したのが資料２です。
資料２ 『漢書』芸文志で六芸略に掲載されている書籍の一部
『易経』 『尚書（書経）』 『春秋』 『太史公』
内 藤：高校で習った五経が含まれていますね。最後の太史公は，人名ですか。
教 授：これは司馬遷のことで，ここでは彼が編纂した『史記』を指します。
内 藤：『史記』は資料１では史部なのに，資料２では違いますね。分類の名前も違います。もしかして１世紀にはまだ四部分類がなかったのですか。
教 授：そのとおりです。当時は史部という分類自体，存在しませんでした。この分類が独立し，定着していくのは，歴史書の数が増加した３世紀から６世紀にかけてのことです。
内藤：でも， 歴史書の数が増えただけで分類方法まで変わるものでしょうか。『史記』が経典と同じ分類なのも不思議ですし，ちょっと図書館で調べてみます。
問７ 次の書籍あ・いが『漢書』芸文志の六芸略に掲載されているかどうかについて述べた文として最も適当なものを，後の� 銑い里Δ舛�ら一つ選べ。〔 19 〕
あ 『詩経』 い 『資治通鑑』
� ，△里澤悩椶気譴討い襦� �◆，い里澤悩椶気譴討い襦�
�� 両方とも掲載されている。 �ぁ［省�とも掲載されていない。
＜解答解説＞
先に書いておくと，本問は知識や考察力を試す問題としては良問である。しかし，全く別の観点から言えば，ちょっとした問題が生じる。まずは細かいことを気にせずに解いてみよう。即座に判断がつくのは『資治通鑑』の方で，これは北宋代の著作であるから，後漢代の著作である『漢書』に掲載されているわけがない。タイムスリップが起きてしまう。『詩経』の方は少し考察が必要になる。不自然な会話文を参照すると内藤さんが「高校で習った五経が含まれていますね」と言及していることから，『漢書』芸文志で六芸略には五経が全て掲載されているのではないかと推測がつく。常識的に考えても儒学の思想に則って編纂された『漢書』が五経を書籍目録の儒学分類から外すとは考えにくい。よって『詩経』も掲載されていると考えて，�，鯀�ぶことになる。実際に�，�正解である。
ここで問題になるのが正解にたどり着くまでに「推測がつく」，「常識的に考えても」というプロセスが生じている点だ。受験生は『詩経』が『漢書』芸文志の六芸略に掲載されているかどうか，決定的な確信が持てないまま解答を出すことになる。しかも選択肢に「�ぁ［省�とも掲載されていない。」があるせいで，消去法によって確信を得ることができないのが悪質性に輪をかけている。確信をもって解答を出すには『漢書』芸文志の六芸略の記載内容を知っているしかなく，これは範囲外の知識が必要な超難問になる。このように書くと，「いや，常識的な判断で正解を出せるのだから，そこまで目くじらを立てなくてもよいのでは」という反論が出てくるだろう。この反論は一理ある。常識的な判断は市民生活の中で有効な思考であり，現代文の解法でも常識的な判断が挟まることはある。他の考慮すべき事項を全て検討して，あとはそれしか頼れるものがないという場面であれば，常識的な判断に頼るのは特に異常なプロセスとは思われない。一方これには「大学とは学問を修める研究・教育機関であり，本問はその入学試験の一つである。少なくとも歴史学において史実と推測は峻別されるべきであり，また常識は疑ってかかるものである。本問は歴史学の試験にそぐわない」という再反論がありうる。これもまた十分な説得力を持つ。
本企画で繰り返し述べていることではあるが，本問も「掲載されているかどうか」ではなく「掲載されていると考えられるか」という問い方であれば，このような指摘の入る余地がなかった。この一工夫をしないままに推測を問う問題が多い。作問者は本職である歴史家としての感覚に照らし合わせて問題文を練ってほしい。
〔番外編〕共通テスト 日本史B
＜問題＞３ 問３ 下線部bに関連して（編註：室町幕府が京都の経済活動に深くかかわっていた），次の史料１は1500年に室町幕府が京都で発布した撰銭令である。また，後の史料２は1485年に大内氏が山口で発布し，1500年においても有効だった撰銭令である。史料１・２によって分かることに関して述べた後の文a〜dについて，最も適当なものの組合せを，後の� 銑い里Δ舛�ら一つ選べ。〔 14 〕
史料１
商売人等による撰銭の事について
近年，自分勝手に撰銭を行っていることは，まったくもってけしからんことである。日本で偽造された私鋳銭については厳密にこれを選別して排除しなさい。永楽銭・洪武銭・宣徳銭は取引に使用しなさい。
（『建武以来追加』大意）
史料２
利息付きの貸借や売買の際の銭の事について
永楽銭・宣徳銭については選別して排除してはならない。さかい銭（注１）・洪武銭・うちひらめ（注２）の三種類のみを選んで排除しなさい。
（『大内氏掟書』大意）
（注１）さかい銭：私鋳銭の一種。
（注２）うちひらめ：私鋳銭の一種。
a 使用禁止の対象とされた銭の種類が一致していることから，大内氏は室町幕府の規制に従っていたことが分かる。
b 使用禁止の対象とされた銭の種類が一致していないことから，大内氏は室町幕府の規制に従ってはいなかったことが分かる。
c 永楽通宝は京都と山口でともに好んで受け取ってもらえ，市中での需要が高かったことが分かる。
d 永楽通宝は京都と山口でともに好んで受け取ってもらえず，市中での需要が低かったことが分かる。
� �a・c �◆�a・d �� b・c �ぁ�b・d
＜コメント＞
2023年の共通テスト日本史Bで大きく話題になった問題である。まだ解いていない人は，今の自分の日本史知識と史料読解で必ず答えを出してから以下の解説を読んでほしい。
本問の問題点は高校日本史の標準的な知識のみをベースに史料を読むと二通りの解釈が生まれることである。先に高校日本史における標準的な撰銭令の理解を先に述べておこう。日本の貨幣経済の発達に対して市中の銅銭（主には大陸から輸入されていた宋銭）は不足していた。すでに朝廷は独自の銅銭を鋳造する経済力も意欲も失われていたし，室町幕府も意欲が無い点では同様であったからだ。そこで新たに明から明銭が輸入され，また中国や国内で偽造された私鋳銭が出回ることになった。しかし，私鋳銭は宋銭や明銭に比べると質が悪く，宋銭や明銭にも経年劣化等により割れたりしたものが存在したため，それらは悪銭やびた銭・割銭等と呼ばれて嫌われていた（以降併記を避けて悪銭と総称）。悪銭は受け取り拒否や額面よりも低い価値での取引が多発し，これらの行為を撰銭と呼ぶ。しかし，撰銭は市中で自然発生した現象であるから，どの程度の質の悪さから受け取り拒否が正当化されるか，悪銭何枚で精銭（質の良い宋銭や明銭，良銭）１枚分の価値と見なすかといった基準が人によって異なり，経済混乱の要因となっていた。これに公権力が介入したのが撰銭令であり，悪銭と精銭の交換比率を定めて銭の受け取りを強制する，あるいは悪銭の受け取りを禁止するといった取り決めを定めて，撰銭を制限するのがその骨子であった。
この知識を前提に史料を読むと，史料１も史料２も悪銭の受け取りを禁止して，逆に使っていい銭を書き並べている点で共通する。確かに撰銭令である。a・bの選択は，史料１と史料２で使用が命じられている明銭に差異があるから，すでに幕府の権威は衰えていた時代でもあるし，大内氏は幕府の法令に沿って指示を出したわけではなく，独自の法令を下していたことがわかる。よってbが正しい。ここは解釈が割れない。
もう一方のc・dについて。永楽銭（永楽通宝）が好んで受け取ってもらえたかどうかが論点になっているが，ここに二通りの解釈が生じてしまう。一つは，法令には単に使っていい銭貨の例が書き並べられているにすぎないとする解釈である。永楽通宝は市中で問題無く流通していたことになるから，cが正しい。したがって��が正解である。しかし，法令でわざわざ使用が推奨されている，あるいは強制されているということは，永楽通宝が撰銭の対象だった可能性があると読むこともできる。つまり，私鋳銭と同様の悪銭扱いであり，嫌われていたのではないか。こちらの解釈をとるとdが正しい。したがって�い�正解である。このように史料の読み方により解答が分かれてしまうのである。
ここで情報を二つ補足する。一つ目，高校日本史において，明銭は具体例が登場する。共通テストのレベルだと洪武通宝，永楽通宝の二種類で，少しマイナーなのが宣徳通宝になる。一方，宋銭は具体例を大して習わない。つまり，史料２にある宣徳銭が実はけっこうなノイズで，このために共通テストで日本史が終わるような少し学習が浅い受験生だと，史料に登場する銭貨の固有名詞が全て明銭の事例であることに気付かない可能性がある。二つ目，明銭は通常の高校世界史の学習で，宋銭と同様に精銭として扱われて日本全土に広く流通したと学習する。山川の用語集には「大量に輸入された」という情報しかないが，山川の教科書『詳説日本史』だと「従来の宋銭とともに，新たに流入した永楽通宝などの明銭が使用されたが，需要の増大とともに粗悪な私鋳銭も流通するようになり，取り引きに当たって悪銭をきらい，良質の銭（精銭）を選ぶ撰銭がおこなわれて，円滑な流通が阻害された。」とある（pp.137-138）。この教科書本文の記述を根拠にすると，明銭の一種である永楽銭が嫌われていたとは考えにくい。これはcが正文であると見なす強い補足材料になるから，やはり��が正解でよさそうだ。実際の受験生がここまで検討し尽くしたかはわからないが，ほとんどの受験生は概ねこの筋のどこかまでは考えたはずである。先日ベネッセが発表したデータによると，解答に��を選んだ受験生は約70％であった。
しかし，大学入試センターが発表した正解は�ぁい弔泙�dが正文である。同じくベネッセが発表したデータによると正答率は約10.5%であったから極端に低い（大学入試センターの公式発表では約9.1%だったので1.4%ほど見栄を張った受験生がいる）。これは受験生の読解力や思考力が低かったから史料の解釈を一意に絞れなかった結果なのだろうか。そうではあるまい。二通りの解釈が成立してしまうところに，明銭についての山川の教科書本文の知識があると，誤った方の解釈に誘導されてしまうのだから。ついでに言えばベネッセは上位層と中下位層の正答率が逆転していて，上位層ほど正答率が低かったと発表していた。明銭の知識が深いほど間違えやすいから，上位層ほど正答率が下がるのは当然である。
ここで史料の正しい解釈について補足説明をしておこう。まず明銭は宋銭に比べて新参者であったため，同じ精銭であるにもかかわらず，早期に貨幣経済が浸透していて宋銭に慣れた西日本では使用を忌避されていた。結果的に明銭は日本全土で広く流通したといっても，西日本を素通りして東日本で主に流通したとされている。しかし，市場の評価に従って明銭を撰銭の対象として追認すると，やはり銭貨不足に陥ってしまう。このため西日本の公権力は明銭の使用を強制することにした。その代表例が史料１・史料２で，史料２の方がわかりやすい。「選別して排除してはならない」は，かなり強めの強制と読むことになる。これらのことは高校の教員や予備校の講師でも知らない人の方が多いだろう。なお，史料２の省略された部分には「大内氏に段銭を納める際には，永楽銭と宣徳銭は100文のうち20文以内にしなさい」という指示がある（参考）。この部分も問題に掲載されていれば，大内氏自身が明銭を撰銭してダブルスタンダードになっているから，気づきのきっかけになっていた可能性がある。おそらく史料１と平仄を合わせるために削ったと思われるが，悪手である。
結論に入る。本問は範囲外の知識がないと史料を正しく解釈できない可能性が高い，共通テストにふさわしくない超難問である。正答率10％がそれを物語っている。問題がフェアではないのだから，受験生はできなくていい。何かの間違いで共通テストに慶應大の法学部の問題が出てしまったと思ってほしい。また，高校の教員等から「これを解けるように指導しなければならないのか」という反応が多く見られたが，そのような指導は不要だ。むしろ受験生が何気ない史料でもうがった検討をするようになってしまうと害悪である。
本問は明確に正解を出せるから出題ミスにはあたらず，成立している。ただ難しいだけである。しかしここで，いつぞやの地理Bムーミン事件を思い出してほしい。大学入試センターはあのムーミン問題を出題ミスにしないために，「選抜性のある問題は多少の瑕疵があっても問題不成立とはしない」と言い訳をした。つまり，この理屈から言えば本問は不成立級の失態と言えるのではないだろうか。選抜性が皆無どころか，逆の方向に機能しているのだから。まさかムーミンの時に投げたブーメランが５年越しに鋭く返ってきて日本史Bの首を掻き切ることになろうとは，誰が予想できたか。正直に言うとムーミン事件をいまだに納得していない私にとっては痛快である。返す返すもムーミン事件の際に雑な言い訳をしたのが不幸の始まりだった。作問者や大学入試センターがどう頑張っても一定確率で本問のような失敗作が生じるのが共通テストの宿痾であり，我々は今後この宿痾に何度も苦しむことになるという予兆を感じたのが本問であった。
２．北海道大
＜種別＞悪問
＜問題＞３ 問３ (ア)英米資本への従属を進め，この革命（編註：メキシコ革命のこと）で追放されたメキシコ大統領の名前，(イ)この革命を主導し，革命直後に大統領に就任した自由主義者の名前，(ウ)この革命に参加した代表的な農民指導者の名前を，それぞれ答えなさい。
（編註：(ア)の正解はディアス，(ウ)の正解はサパタまたはビリャ。）
＜解答解説＞
作問者の想定する正解はマデロと思われるが，マデロが大統領に就任したのは革命の最中であり革命直後ではない。メキシコ革命は始まったのが1910年で異論がない一方，終結時期は議論がある。最も短いもので憲法制定とカランサ政権成立をもって終結したとする1917年，最も長いものでカルデナス政権が倒れた1940年とする。いずれにせよディアスが打倒されてマデロが大統領に就任した1911年は革命がまだ継続している。ディアスが打倒されたのは革命直後というよりも革命勃発直後と言った方がよい。マデロは自由主義者であったので土地改革に無関心で，これを要求するサパタらの突き上げ，反革命勢力の抵抗もあって政情が安定せず，1913年にマデロが暗殺される。ここからまだまだ革命が続くのである。よって「革命直後に大統領に就任した」ということに重きを置くなら正解はカランサということになるが，カランサは用語集頻度が�，靴�ないので，北大が問うともあまり思えない。また，カランサが保守派であり自由主義者とは言えないため，無理矢理カランサと解答するのも難しい。厳密に考えると正解がない。
３．北海道大（２つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞３ 問５ (ア)1959年に倒された，親米の独裁政権を率いていた大統領の名前，(イ)1961年にキューバとの断交をおこなったアメリカ大統領の名前，(ウ)キューバ革命を率いた指導者のなかで代表的な２人の名前をそれぞれ答えなさい。
（編註：(ウ)の正解はカストロとチェ＝ゲバラ。）
＜解答解説＞
国公立大が難関私大のような問題を出すなシリーズ。先に(イ)から触れる。正解はアイゼンハワーで，1961年１月，退任の17日前に断交した。あまりに難関私大が出すので教科書に載り，山川の用語集が拾うようになってしまい，とうとう用語集頻度が��になってしまった。その意味で範囲内からの出題だが，実態としては難関私大でしか見ない。普通の作問者は17日差のものを問うまいと理性が働くのだろう。それを用語集頻度だけ見て機械的に出題可能と判断してしまったのは，ちょっと思慮が足りていない。そしてこれを見てしまうと同じ作問者と思われる１番の正解がカランサである可能性が浮上してしまい，余計に混乱する。
後回しにした(ア)について。正解と想定されるバティスタが大統領を辞任したのは1958年12月31日なので，厳密に言えば倒されたのは1958年である。年をまたぐ瞬間のキューバの権力は空白状態であり，1959年１月１日にカストロが新政権を樹立した。同様のミスは稀であるが過去に存在する（2014早慶２７番）。これは指摘としては些事であり正誤判定の問題でもないから出題ミスや悪問には分類しなかったが，危ういポイントではあるから気をつけてほしい。
４．名古屋大
＜種別＞リード文に著しい不備がある
＜問題＞１ 長いので問題はリンク
＜解答解説＞
今回の名古屋大は珍しくも問題が全体として良質で，ちゃんと解答できる論述問題であった。特にこの大問１の問７は推測を書かせる問題であったが，文末がちゃんと「自分なりに考えて考察しなさい」となっていて，少し感動した。歴史の入試問題なのだから「史実」と「考察・推測・仮説」は分けろと散々文句を言ってきたかいがある。問３も問７も解答に読解力と思考力を要する。言ってしまえば現代文的な問題ではあるが，思考に華夷思想の理解が必要なので，私は世界史の問題の範疇だと思う。
しかしながら，この大問１は根本的なところで別の問題がある。まず，出典が（壇上寛『天下と天朝の中国史』岩波新書 2016年，一部改）となっているが，この著者の名前は檀上寛である。「壇」ではなく「檀」なので，著者名に誤字がある。なお，檀上寛氏は名古屋大ではなく京都女子大の先生。次に問題文の最初の方に「�� 文化の違い（礼・義の有無）。」とあり，また下線部ウは「礼・儀」に引かれている。このため問２の問題文も「礼・儀」になっている。不自然だと思い，原著に当たってみるとこれは変換ミスで，原著ではどちらも「礼・義」である。問２は「このような「礼・儀」を重視する思想を何と呼ぶか」であるから，結果として解答が儒教（儒学）で変わらないが，一般論で言えば「義」と「儀」では意味が異なるので，それにかかわる問題であったら出題ミスになっていた。誤植自体は事故のようなもので，何人で校正しても見つからないときは見つからないものだ。仕方が無い面もある。しかし，下線部の誤字を見逃すのはさすがに厳しい。一年前にも記号のミスで大規模な出題ミスを出していたのに（2022国公立１番），二年連続で致命的な誤植があるのは擁護しかねる。
原著を入手したのでついでに読んでみると，さらなる驚きが待っていた。このリード文は（中略）の表示なく大胆に原文をカットしていたり，文章の順序が入れ替えられたりしている。たとえば，第二段落の最後の「〜華と夷を区別する基準となる。」の後には本来『論語』を引用した一文と「ここでの夷狄は諸夏とは異なる異民族を指している。つまり，華と夷の違いが諸夏＝華＝華夏族＝（後の）漢人と，周辺諸民族との民族的相違としてとらえられていないことが理解できる。」という文が入っていた。原文にして３行分である。大雑把に数えてみたところ，引用されている元の文章は朱元璋の檄文を除くと原文にして約49行分あり，このうち約13行が削除されていた。文章の入れ替えは６行分で，「ここで想起すべきは，華と夷の違いに関する三つの観点である。」から最後までの文章は本来，檄文の前に置かれている。
先に一般論の話をしよう。入試問題に引用された文献には，多くの場合出典に「一部改」等の文言が付されている。空欄を作ったり下線を付したりするので，原文そのままというわけにはいかないのだ。また，解答そのままになってしまう文があれば削除するのはやむを得ない事情であるし，また受験生への配慮から問題を解く上でノイズになる情報を除去する改変もある。だから原文を改変すること自体はよくあることで，全く悪いことではない。
今回のリード文の改変もまさにこうした理由によるもので，丁寧に，かつ親切に切り刻んでいる。そうだとしても，ここまで多大な改変を施した上に，問題に直接かかわる箇所や著者名に誤植があるのは原文へのリスペクトを欠くだろう。なぜ自分で文章を書かなかったのか理解に苦しむが，ひょっとすると上からのお達しで「必ず文献を引用して問題を作りなさい」と義務づけられていたのかもしれない。だとすると少し同情する。なお，では問題文で唯一（中略）と書かれている部分は何が省略されているのかという疑問にも答えておきたい。これは（中略）の前はp.44，後はp.196であるから約150ページが省略されている。なるほど，これが中略なら他の２〜３行ずつのカットは中略に当たらない。
こうした「一部改」の表示で今回のような大改変がされている入試問題はたまに見かける（文章の順序入れ替えはさすがに稀であるが）。確かに入試問題作成は純粋な学術活動に当たらないかもしれないが，入試問題は当該年度の受験生のみならず，過去問として未来の受験生も解く。当然，高校の教員や予備校の講師も解くし，好事家の社会人も見ることがあるから，名古屋大の入試問題ともなると実際には膨大な人間が見ている。とりわけ未来の受験生は，こうした過去問のリード文を通して歴史に対する知識や関心を養うことが少なからずあるから，入試問題作成は立派な教育活動の一環なのである。どうせ一回きりでろくに読まれていない等とあきらめていないか。優れた一般書籍の紹介として貴重な機会に，このような杜撰な処理であやをつけてしまうのはもったいないことではないだろうか。せっかく問題は良質になったのだから，こうしたところで手抜きをするのは避けてほしい。この願いが入試作成者たちに届くと期待して本問解説の筆を置く。
５．一橋大
＜種別＞難問
＜問題＞２ 次の地図を見て， 問いに答えなさい。
問い 1963年，アフリカ統一機構（OAU）が創設された。しかし，地図中のAとBがOAUに加盟したのは，それぞれ1975年と1980年であった。OAU加盟が10年以上後となった経緯について，AとBの内外の状況に言及しつつ，説明しなさい。その際，AとBそれぞれの宗主国と独立後の国名を明記すること。（400字以内）
＜解答解説＞
一橋のこの問題は，実は評価が難しい。試験日当日からインターネット上で大きく話題になっていたが，多くは過剰反応か，「『周辺史』を問うた良問である」という斜め上から目線による高評価であったが，いずれも正しい評価とは言いがたい。正確に論評するには一橋大の傾向と現代アフリカ史の教科書上の扱いに触れなければならない。したがって，問題自体の解説よりも，論評に必要な情報についての解説の方が重要だろう。
まず，一橋大には極めて強い出題傾向があり，過去問が実質的に出題される地域・時代を指定している。大問１は中世・近世ヨーロッパ史，大問２は近代・現代の欧米史，大問３は近世〜現代の東アジア史である。大問３でインド史が３回ほど出たことがあるが例外はそれくらいで，過去30年以上，ここからほとんどぶれたことがない。代わりに過剰な難易度の出題をすることが許されているところがある。すなわち，教科書をまんべんなく読んでくる必要はないから，『詳説世界史研究』や詳しめの参考書のその部分なり，関係のある分野のジュニア向け新書なりを読んできてほしいというメッセージで，これが大学と受験生の暗黙の了解となっていた。
にもかかわらず，今回は大問２で現代アフリカ史が出たのである（大問１は中世ヨーロッパ，大問３は近代中国史で例年通り）。しかも扱われたのが北アフリカやガーナ，ルワンダ，南アフリカあたりの有名エピソードがある国々ではなく，アフリカ南部のモザンビーク（地図中のA）とジンバブエ（地図中のB）であった。これは受験生からすれば暗黙の了解の一方的な破棄にしか見えない。現代ヨーロッパ史にかかわりがあるとはいえ，基本的には大学側が勉強してこなくていいと暗に言っていた地域である。要するに「だましうち」である。インターネット上の受験生たちが「一橋大には倫理観がない」と嘆いていたのには理由がある。
しかし，大学側はこう反論するだろう。「暗黙の了解はあくまで“暗黙の”了解に過ぎず，明示したことは一度もない」「勝手に期待して過去問を解いてきたのは受験生の都合である」「募集要項のどこにも出題範囲を制限するとは書いてない」「脱西欧中心史観は近年の常識であり，アフリカ史も重要という受験生へのメッセージである」。そう言われてしまうと受験生としては何も再反論できない。暗黙の了解は当然非公式という特徴を大学側は最大限活用した。また，暗黙の了解を知らず，一橋大こそが欧米と東アジアからしか出題してこなかったことすら知らない外野には脱西欧中心史観だけが見え，称賛すべき問題ということになってしまう。つまり世間からの擁護を受けやすい。
次に，本問は難易度が絶妙であった。用語集頻度で言うとサラザールが�◆ぅ皀競鵐咫璽�独立が��，南ローデシアが�ぁぅ献鵐丱屮�独立が�イ函�関連する用語は意外と教科書上に記述がある。マイナー用語と断言できるのはサラザールくらいだ。教科書ごとに記述に濃淡はあるが，教科書知識をかき集めれば200字分くらいにはなるし，山川の用語集にはもう少し情報がある。これを設問要求に合わせて文章を整えたり，やや冗長に引き伸ばしたりすれば300字くらいまではいく。それでも400字には達しないわけだが，過去にあった200字も書けない問題や的外れな答案にしかならない類の問題ではない。この超難問というのには中途半端であるということも本問の論点になる。この中途半端な難しさと信義則違反との相性が悪かった。前述の通り，多くの一橋大受験生は二次試験での出題が想定されていない現代アフリカ史を共通テストレベルでしか押さえていない。結果的に受験生の知識・理解と問題の難易度の乖離は例年の超難問と同等になってしまい，実際には200字も埋まらず，白紙答案や地図中のA・Bをモザンビーク・ジンバブエと特定できていない答案だらけになったものと思われる。作問者は新奇性に鑑みて少し難易度を下げるなり，指定字数を縮めるなりの工夫をとれなかったものか。
これに関連して，入試問題は満点をとる能力だけを見ているものではなく部分点をとって食い下がれる能力を見ているのだという向きの擁護も見かけた。それは必修科目での出題ならまだ理解できる。しかし，地歴が選択科目である以上，マス目を埋めることすらできない問題の存在は他科目に対する圧倒的な不利として作用する。私大は選択科目間の平均点に差があると得点調整を入れるところが多いが，国公立大はなぜか原則調整しない。そのような著しい不公平を発生させてまでその限定的な能力を測るというのは，果たして入試に求められる倫理にかなうものだろうか。
ついでに，現代アフリカ史（サハラ以南）は意外と教科書に記述がある一方で，大学入試で出題されにくいというギャップがある。そのため高得点ねらいの難関私大対策以外では勉強されにくく，その難関私大でも出題は少ない。このギャップが，本問が完全な範囲外から出題された一橋大史上でも最難レベルの難問という誤解の大元になるだろうか。こんな難問だと受験生は１文字も書けないのではという類の反応が，受験から少し離れた人たちからこそよく見られたことは特記しておきたい。なお，こうした事情から早慶対策を真面目にやっていた受験生ほど今回の問題は与しやすかったと思われるが，早慶の多くの学部は地歴に代えて数学を選択できるため，そのような受験生は多くなかっただろう。
というように過剰反応と安直な良問認定の双方を戒めつつ私見を述べるならば，やはり信義則違反である点が重い。来年からは欧米史の過剰な難易度の出題は無いということでよろしいかと大学当局に問い合わせたい気分である。また，本問には手抜きがあり，上述のようにちょっとした工夫でもう少し適正な問題にできたはずということでも大学を責めたい。
ところで，校正者の一人から，作問者自身は信義則に違反していないと思いこんでいる可能性を指摘された。すなわち，西洋人が入植し西洋の言語による史料が豊富で，実際に西洋史の研究室を出た歴史学者によって研究されることもあるアフリカ南部の近現代史は，日本独特のカテゴリー分けであるところの西洋史の範疇に入り得ること。つまり，南部アフリカ近現代史は「欧米史」ではないが「西洋史」たりうるのだ。そして受験生や教育産業界隈は一橋大の大問２を「近現代の欧米史」が出題されるものと認識しているが，一橋大の本問の作問者は「近現代の西洋史」を出題するものと捉えていたかもしれないこと。これらを重ね合わせると，本問の作問者が悪意なくアフリカ南部を出題した可能性が浮かび上がってくる。真相は不明であるが，仮にこの可能性が正しいなら，本問は象牙の塔と実社会のすれ違いが生んだ悲劇だったと言えよう。また，この可能性が正しかった場合，来年以降に危うい地域として同様に欧米史と西洋史の差分である近現代オセアニア史が挙げられる。
本問は多様な意見が出て議論に値する問題であるから，正確な知識に則った議論を期待したい。
なお，今回の悲劇はこれらの要素が重なったゆえのものであるから，条件を変えればモザンビークやジンバブエの論述を適正に出題できる。たとえば，どこの時代・地域から論述を出題してもおかしくないと見られている大学，阪大か東大の第２問あたりで，字数を相当に絞るか，国を片方にする形で出題されていたなら，それでも受験生は大いに苦戦するであろうが，だましうちや度を超えた難問という判定にはならない。特にモザンビークだけで出すなら良問だろう。
最後に一応，問題の具体的な解説もしておく。まず，OAU（アフリカ統一機構）という組織の設立目的，なぜ1963年という時期に設立されたについて簡潔に触れる。第三世界運動の盛り上がりや米ソの反植民地主義的態度を背景に，現地の民族運動が高揚し，もはや植民地帝国は時代遅れになっていた。サハラ以南のアフリカはアジアに比べると遅れたが，ガーナとギニアを皮切りに独立が相次ぎ，「アフリカの年」と呼ばれる1960年に一挙に独立が進んだ。しかし，現在でもなお問題となっているように，アフリカの国境線は旧宗主国たちが恣意的に引いたものが多いため紛争の火種となり，貧困国が多いこともあって，独立国には問題が山積していた。そのため1963年にアフリカ諸国の協力と連帯を目的としたアフリカ統一機構が設立され，当時の独立国の多くが原加盟国となった。逆に加盟が遅れて1970年代以降にずれこんだ代表的な国々がアンゴラ・モザンビーク・ナミビア・ジンバブエ・南アフリカである。そう，いずれもアフリカ南部の国々なのだ。このうちモザンビークとジンバブエの事情を聞いたのが本問ということになる。
このうち，アンゴラとモザンビークは事情が同じである。これらの国々の旧宗主国はポルトガルであり，ポルトガルは独裁者のサラザールが権威主義体制維持のため植民地帝国の維持を強行していた。当然にして現地では独立運動が次第に高揚し，ポルトガルが弾圧すると独立戦争に転化する。サラザールが1968年に事実上失脚した後も独裁政権が続いたが，ポルトガル国内でも膨大な軍事費に対する批判が高まり，1974年，軍部の蜂起を契機に民主化が達成された。これをカーネーション革命という。この翌年に植民地が解放されたので，モザンビークとアンゴラのOAU加盟年は1975年である。地図中のAはモザンビークなので，この段落に書いたような経緯を知りうる範囲で書けばよい。
残った３つは南アフリカの影響力が大きい。南アフリカはご存じの通り，白人少数者が支配を維持するためにアパルトヘイトを実施し，黒人を差別・隔離した。旧宗主国イギリスがこれを非難すると，南アフリカはイギリス連邦を脱退する。これにならったのがBの位置にあった南ローデシアで，現地の白人が1965年にイギリスからの独立を一方的に宣言，ローデシアを名乗り，黒人差別政策を継続した。これはもちろん国際的な非難を浴び，1968年以降は国連主導の経済制裁が実施された。しかし，アフリカ南部の地域覇権国である南アフリカと連帯し，隣接するモザンビークは独裁政権下のポルトガル領で友好関係があったから，近隣に限れば国際環境は悪くなく，黒人組織との内戦を優位に進めていた。冷戦下であるため西側諸国が南アフリカやローデシアに強い態度を示せなかったという事情もある。しかし，モザンビークの独立で近隣の状況に変化が生じる。モザンビークでは1975年の独立直後に社会主義政権が成立したため，すぐに南ア・ローデシアが介入して内戦となった。そのためモザンビークの社会主義政権をソ連が支援し，モザンビーク内戦とローデシア内戦が合流して混沌とした情勢となる（なお同時期はナミビア内戦とアンゴラ内戦も並立している）。これで首が絞まったのは，モザンビークからの物流が滞って国連の経済制裁が有効になったローデシア白人政権の側であった。それゆえに1970年代後半，やっと白人政権と黒人の抵抗組織との対話が徐々に進み， 1980年に選挙が実施されてムガベを大統領とする黒人政権が成立した。これを契機にローデシアはジンバブエに改称し，OAUに加盟した。その後，冷戦が終わりに近づくと西側諸国による南アフリカへの制裁に容赦がなくなっていったため，残ったナミビアも1990年に南ア軍が撤退して独立，すぐにOAUに加盟し，最後に南アフリカがアパルトヘイトを撤廃して1994年に加盟した。解答上は，ローデシアも南アと同様の白人政権であったこと，抵抗運動（内戦）の激化，複雑な国際環境の指摘，モザンビーク独立との関連，黒人政権の成立・改名と加盟という流れで記述していけばよい。
以上を完璧に書ければ確かに400字に達する。しかし，まずジンバブエ側の歴史は範囲外やグレーゾーンに当たる知識が多く，特に肝心の複雑な国際環境とモザンビーク独立との関連の部分は教科書や用語集にほとんど情報が無い。ジンバブエ側はほとんど何も書けなかった受験生が多かったのではないか。それに対してOAU自体やモザンビークの歴史はサラザールを除けば書きやすい。やはり受験生の答案としてはもろもろ合わせて200字埋まっていたら上出来であろう。
なお，一橋大も大問３で引用した『孫文革命文集』を『孫文革命論集』としている出典名の誤字があった。しかも駿台の指摘によると本文中で孫文を指して「孫逸山」と表記していたが，これも「孫逸仙」の誤字とのこと（私は『孫文革命文集』未入手）。入試問題ならば積極的に学者の倫理を忘れてよいという風潮でもあるだろうか。
＜種別＞？？？
＜問題＞３ C 中国における書籍分類の歴史について，大学生と教授が話をしている。
内 藤：18世紀の中国で編纂された〔 オ 〕の「四」という数字はどういう意味ですか。高校では用語として覚えただけで，深く考えませんでした。（編註：空欄オの正解は『四庫全書』）
教 授：〔 オ 〕に収められた書籍が，四つに分類されているためです。これを四部分類と言い，経部・史部・子部・集部からなります。
内藤：なるほど，例えば儒学の経典なら経部に，歴史書なら史部に分類されているという具合でしょうか。
教授：そのとおりです。史部について少し具体的に見てみましょう。資料１は，７世紀に編纂された『隋書』経籍志という書籍目録からの抜粋です。
資料１ 『隋書』経籍志で史部に掲載されている書籍の一部
『史記』 『漢書』 『後漢書』 『三国志』
内 藤：挙げられたのはいずれも，紀伝体の歴史書ですね。
教 授：よく知っていますね。このうち，『漢書』は１世紀にできた歴史書ですが，その中にも芸文志という書籍目録があります。そこから，儒学の経典を主に収める分類である六芸略の書籍を抜粋したのが資料２です。
資料２ 『漢書』芸文志で六芸略に掲載されている書籍の一部
『易経』 『尚書（書経）』 『春秋』 『太史公』
内 藤：高校で習った五経が含まれていますね。最後の太史公は，人名ですか。
教 授：これは司馬遷のことで，ここでは彼が編纂した『史記』を指します。
内 藤：『史記』は資料１では史部なのに，資料２では違いますね。分類の名前も違います。もしかして１世紀にはまだ四部分類がなかったのですか。
教 授：そのとおりです。当時は史部という分類自体，存在しませんでした。この分類が独立し，定着していくのは，歴史書の数が増加した３世紀から６世紀にかけてのことです。
内藤：でも， 歴史書の数が増えただけで分類方法まで変わるものでしょうか。『史記』が経典と同じ分類なのも不思議ですし，ちょっと図書館で調べてみます。
問７ 次の書籍あ・いが『漢書』芸文志の六芸略に掲載されているかどうかについて述べた文として最も適当なものを，後の� 銑い里Δ舛�ら一つ選べ。〔 19 〕
あ 『詩経』 い 『資治通鑑』
� ，△里澤悩椶気譴討い襦� �◆，い里澤悩椶気譴討い襦�
�� 両方とも掲載されている。 �ぁ［省�とも掲載されていない。
＜解答解説＞
先に書いておくと，本問は知識や考察力を試す問題としては良問である。しかし，全く別の観点から言えば，ちょっとした問題が生じる。まずは細かいことを気にせずに解いてみよう。即座に判断がつくのは『資治通鑑』の方で，これは北宋代の著作であるから，後漢代の著作である『漢書』に掲載されているわけがない。タイムスリップが起きてしまう。『詩経』の方は少し考察が必要になる。
ここで問題になるのが正解にたどり着くまでに「推測がつく」，「常識的に考えても」というプロセスが生じている点だ。受験生は『詩経』が『漢書』芸文志の六芸略に掲載されているかどうか，決定的な確信が持てないまま解答を出すことになる。しかも選択肢に「�ぁ［省�とも掲載されていない。」があるせいで，消去法によって確信を得ることができないのが悪質性に輪をかけている。確信をもって解答を出すには『漢書』芸文志の六芸略の記載内容を知っているしかなく，これは範囲外の知識が必要な超難問になる。このように書くと，「いや，常識的な判断で正解を出せるのだから，そこまで目くじらを立てなくてもよいのでは」という反論が出てくるだろう。この反論は一理ある。常識的な判断は市民生活の中で有効な思考であり，現代文の解法でも常識的な判断が挟まることはある。他の考慮すべき事項を全て検討して，あとはそれしか頼れるものがないという場面であれば，常識的な判断に頼るのは特に異常なプロセスとは思われない。一方これには「大学とは学問を修める研究・教育機関であり，本問はその入学試験の一つである。少なくとも歴史学において史実と推測は峻別されるべきであり，また常識は疑ってかかるものである。本問は歴史学の試験にそぐわない」という再反論がありうる。これもまた十分な説得力を持つ。
本企画で繰り返し述べていることではあるが，本問も「掲載されているかどうか」ではなく「掲載されていると考えられるか」という問い方であれば，このような指摘の入る余地がなかった。この一工夫をしないままに推測を問う問題が多い。作問者は本職である歴史家としての感覚に照らし合わせて問題文を練ってほしい。
〔番外編〕共通テスト 日本史B
＜問題＞３ 問３ 下線部bに関連して（編註：室町幕府が京都の経済活動に深くかかわっていた），次の史料１は1500年に室町幕府が京都で発布した撰銭令である。また，後の史料２は1485年に大内氏が山口で発布し，1500年においても有効だった撰銭令である。史料１・２によって分かることに関して述べた後の文a〜dについて，最も適当なものの組合せを，後の� 銑い里Δ舛�ら一つ選べ。〔 14 〕
史料１
商売人等による撰銭の事について
近年，自分勝手に撰銭を行っていることは，まったくもってけしからんことである。日本で偽造された私鋳銭については厳密にこれを選別して排除しなさい。永楽銭・洪武銭・宣徳銭は取引に使用しなさい。
（『建武以来追加』大意）
史料２
利息付きの貸借や売買の際の銭の事について
永楽銭・宣徳銭については選別して排除してはならない。さかい銭（注１）・洪武銭・うちひらめ（注２）の三種類のみを選んで排除しなさい。
（『大内氏掟書』大意）
（注１）さかい銭：私鋳銭の一種。
（注２）うちひらめ：私鋳銭の一種。
a 使用禁止の対象とされた銭の種類が一致していることから，大内氏は室町幕府の規制に従っていたことが分かる。
b 使用禁止の対象とされた銭の種類が一致していないことから，大内氏は室町幕府の規制に従ってはいなかったことが分かる。
c 永楽通宝は京都と山口でともに好んで受け取ってもらえ，市中での需要が高かったことが分かる。
d 永楽通宝は京都と山口でともに好んで受け取ってもらえず，市中での需要が低かったことが分かる。
� �a・c �◆�a・d �� b・c �ぁ�b・d
＜コメント＞
2023年の共通テスト日本史Bで大きく話題になった問題である。まだ解いていない人は，今の自分の日本史知識と史料読解で必ず答えを出してから以下の解説を読んでほしい。
本問の問題点は高校日本史の標準的な知識のみをベースに史料を読むと二通りの解釈が生まれることである。先に高校日本史における標準的な撰銭令の理解を先に述べておこう。日本の貨幣経済の発達に対して市中の銅銭（主には大陸から輸入されていた宋銭）は不足していた。すでに朝廷は独自の銅銭を鋳造する経済力も意欲も失われていたし，室町幕府も意欲が無い点では同様であったからだ。そこで新たに明から明銭が輸入され，また中国や国内で偽造された私鋳銭が出回ることになった。しかし，私鋳銭は宋銭や明銭に比べると質が悪く，宋銭や明銭にも経年劣化等により割れたりしたものが存在したため，それらは悪銭やびた銭・割銭等と呼ばれて嫌われていた（以降併記を避けて悪銭と総称）。悪銭は受け取り拒否や額面よりも低い価値での取引が多発し，これらの行為を撰銭と呼ぶ。しかし，撰銭は市中で自然発生した現象であるから，どの程度の質の悪さから受け取り拒否が正当化されるか，悪銭何枚で精銭（質の良い宋銭や明銭，良銭）１枚分の価値と見なすかといった基準が人によって異なり，経済混乱の要因となっていた。これに公権力が介入したのが撰銭令であり，悪銭と精銭の交換比率を定めて銭の受け取りを強制する，あるいは悪銭の受け取りを禁止するといった取り決めを定めて，撰銭を制限するのがその骨子であった。
この知識を前提に史料を読むと，史料１も史料２も悪銭の受け取りを禁止して，逆に使っていい銭を書き並べている点で共通する。確かに撰銭令である。a・bの選択は，史料１と史料２で使用が命じられている明銭に差異があるから，すでに幕府の権威は衰えていた時代でもあるし，大内氏は幕府の法令に沿って指示を出したわけではなく，独自の法令を下していたことがわかる。よってbが正しい。ここは解釈が割れない。
もう一方のc・dについて。永楽銭（永楽通宝）が好んで受け取ってもらえたかどうかが論点になっているが，ここに二通りの解釈が生じてしまう。一つは，法令には単に使っていい銭貨の例が書き並べられているにすぎないとする解釈である。永楽通宝は市中で問題無く流通していたことになるから，cが正しい。したがって��が正解である。しかし，法令でわざわざ使用が推奨されている，あるいは強制されているということは，永楽通宝が撰銭の対象だった可能性があると読むこともできる。つまり，私鋳銭と同様の悪銭扱いであり，嫌われていたのではないか。こちらの解釈をとるとdが正しい。したがって�い�正解である。このように史料の読み方により解答が分かれてしまうのである。
ここで情報を二つ補足する。一つ目，高校日本史において，明銭は具体例が登場する。共通テストのレベルだと洪武通宝，永楽通宝の二種類で，少しマイナーなのが宣徳通宝になる。一方，宋銭は具体例を大して習わない。つまり，史料２にある宣徳銭が実はけっこうなノイズで，このために共通テストで日本史が終わるような少し学習が浅い受験生だと，史料に登場する銭貨の固有名詞が全て明銭の事例であることに気付かない可能性がある。二つ目，明銭は通常の高校世界史の学習で，宋銭と同様に精銭として扱われて日本全土に広く流通したと学習する。山川の用語集には「大量に輸入された」という情報しかないが，山川の教科書『詳説日本史』だと「従来の宋銭とともに，新たに流入した永楽通宝などの明銭が使用されたが，需要の増大とともに粗悪な私鋳銭も流通するようになり，取り引きに当たって悪銭をきらい，良質の銭（精銭）を選ぶ撰銭がおこなわれて，円滑な流通が阻害された。」とある（pp.137-138）。この教科書本文の記述を根拠にすると，明銭の一種である永楽銭が嫌われていたとは考えにくい。これはcが正文であると見なす強い補足材料になるから，やはり��が正解でよさそうだ。実際の受験生がここまで検討し尽くしたかはわからないが，ほとんどの受験生は概ねこの筋のどこかまでは考えたはずである。先日ベネッセが発表したデータによると，解答に��を選んだ受験生は約70％であった。
しかし，大学入試センターが発表した正解は�ぁい弔泙�dが正文である。同じくベネッセが発表したデータによると正答率は約10.5%であったから極端に低い（大学入試センターの公式発表では約9.1%だったので1.4%ほど見栄を張った受験生がいる）。これは受験生の読解力や思考力が低かったから史料の解釈を一意に絞れなかった結果なのだろうか。そうではあるまい。二通りの解釈が成立してしまうところに，明銭についての山川の教科書本文の知識があると，誤った方の解釈に誘導されてしまうのだから。ついでに言えばベネッセは上位層と中下位層の正答率が逆転していて，上位層ほど正答率が低かったと発表していた。明銭の知識が深いほど間違えやすいから，上位層ほど正答率が下がるのは当然である。
ここで史料の正しい解釈について補足説明をしておこう。まず明銭は宋銭に比べて新参者であったため，同じ精銭であるにもかかわらず，早期に貨幣経済が浸透していて宋銭に慣れた西日本では使用を忌避されていた。結果的に明銭は日本全土で広く流通したといっても，西日本を素通りして東日本で主に流通したとされている。しかし，市場の評価に従って明銭を撰銭の対象として追認すると，やはり銭貨不足に陥ってしまう。このため西日本の公権力は明銭の使用を強制することにした。その代表例が史料１・史料２で，史料２の方がわかりやすい。「選別して排除してはならない」は，かなり強めの強制と読むことになる。これらのことは高校の教員や予備校の講師でも知らない人の方が多いだろう。なお，史料２の省略された部分には「大内氏に段銭を納める際には，永楽銭と宣徳銭は100文のうち20文以内にしなさい」という指示がある（参考）。この部分も問題に掲載されていれば，大内氏自身が明銭を撰銭してダブルスタンダードになっているから，気づきのきっかけになっていた可能性がある。おそらく史料１と平仄を合わせるために削ったと思われるが，悪手である。
結論に入る。本問は範囲外の知識がないと史料を正しく解釈できない可能性が高い，共通テストにふさわしくない超難問である。正答率10％がそれを物語っている。問題がフェアではないのだから，受験生はできなくていい。何かの間違いで共通テストに慶應大の法学部の問題が出てしまったと思ってほしい。また，高校の教員等から「これを解けるように指導しなければならないのか」という反応が多く見られたが，そのような指導は不要だ。むしろ受験生が何気ない史料でもうがった検討をするようになってしまうと害悪である。
本問は明確に正解を出せるから出題ミスにはあたらず，成立している。ただ難しいだけである。しかしここで，いつぞやの地理Bムーミン事件を思い出してほしい。大学入試センターはあのムーミン問題を出題ミスにしないために，「選抜性のある問題は多少の瑕疵があっても問題不成立とはしない」と言い訳をした。つまり，この理屈から言えば本問は不成立級の失態と言えるのではないだろうか。選抜性が皆無どころか，逆の方向に機能しているのだから。まさかムーミンの時に投げたブーメランが５年越しに鋭く返ってきて日本史Bの首を掻き切ることになろうとは，誰が予想できたか。正直に言うとムーミン事件をいまだに納得していない私にとっては痛快である。返す返すもムーミン事件の際に雑な言い訳をしたのが不幸の始まりだった。作問者や大学入試センターがどう頑張っても一定確率で本問のような失敗作が生じるのが共通テストの宿痾であり，我々は今後この宿痾に何度も苦しむことになるという予兆を感じたのが本問であった。
２．北海道大
＜種別＞悪問
＜問題＞３ 問３ (ア)英米資本への従属を進め，この革命（編註：メキシコ革命のこと）で追放されたメキシコ大統領の名前，(イ)この革命を主導し，革命直後に大統領に就任した自由主義者の名前，(ウ)この革命に参加した代表的な農民指導者の名前を，それぞれ答えなさい。
（編註：(ア)の正解はディアス，(ウ)の正解はサパタまたはビリャ。）
＜解答解説＞
作問者の想定する正解はマデロと思われるが，マデロが大統領に就任したのは革命の最中であり革命直後ではない。メキシコ革命は始まったのが1910年で異論がない一方，終結時期は議論がある。最も短いもので憲法制定とカランサ政権成立をもって終結したとする1917年，最も長いものでカルデナス政権が倒れた1940年とする。いずれにせよディアスが打倒されてマデロが大統領に就任した1911年は革命がまだ継続している。ディアスが打倒されたのは革命直後というよりも革命勃発直後と言った方がよい。マデロは自由主義者であったので土地改革に無関心で，これを要求するサパタらの突き上げ，反革命勢力の抵抗もあって政情が安定せず，1913年にマデロが暗殺される。ここからまだまだ革命が続くのである。よって「革命直後に大統領に就任した」ということに重きを置くなら正解はカランサということになるが，カランサは用語集頻度が�，靴�ないので，北大が問うともあまり思えない。また，カランサが保守派であり自由主義者とは言えないため，無理矢理カランサと解答するのも難しい。厳密に考えると正解がない。
３．北海道大（２つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞３ 問５ (ア)1959年に倒された，親米の独裁政権を率いていた大統領の名前，(イ)1961年にキューバとの断交をおこなったアメリカ大統領の名前，(ウ)キューバ革命を率いた指導者のなかで代表的な２人の名前をそれぞれ答えなさい。
（編註：(ウ)の正解はカストロとチェ＝ゲバラ。）
＜解答解説＞
国公立大が難関私大のような問題を出すなシリーズ。先に(イ)から触れる。正解はアイゼンハワーで，1961年１月，退任の17日前に断交した。あまりに難関私大が出すので教科書に載り，山川の用語集が拾うようになってしまい，とうとう用語集頻度が��になってしまった。その意味で範囲内からの出題だが，実態としては難関私大でしか見ない。普通の作問者は17日差のものを問うまいと理性が働くのだろう。それを用語集頻度だけ見て機械的に出題可能と判断してしまったのは，ちょっと思慮が足りていない。そしてこれを見てしまうと同じ作問者と思われる１番の正解がカランサである可能性が浮上してしまい，余計に混乱する。
後回しにした(ア)について。正解と想定されるバティスタが大統領を辞任したのは1958年12月31日なので，厳密に言えば倒されたのは1958年である。年をまたぐ瞬間のキューバの権力は空白状態であり，1959年１月１日にカストロが新政権を樹立した。同様のミスは稀であるが過去に存在する（2014早慶２７番）。これは指摘としては些事であり正誤判定の問題でもないから出題ミスや悪問には分類しなかったが，危ういポイントではあるから気をつけてほしい。
４．名古屋大
＜種別＞リード文に著しい不備がある
＜問題＞１ 長いので問題はリンク
＜解答解説＞
今回の名古屋大は珍しくも問題が全体として良質で，ちゃんと解答できる論述問題であった。特にこの大問１の問７は推測を書かせる問題であったが，文末がちゃんと「自分なりに考えて考察しなさい」となっていて，少し感動した。歴史の入試問題なのだから「史実」と「考察・推測・仮説」は分けろと散々文句を言ってきたかいがある。問３も問７も解答に読解力と思考力を要する。言ってしまえば現代文的な問題ではあるが，思考に華夷思想の理解が必要なので，私は世界史の問題の範疇だと思う。
しかしながら，この大問１は根本的なところで別の問題がある。まず，出典が（壇上寛『天下と天朝の中国史』岩波新書 2016年，一部改）となっているが，この著者の名前は檀上寛である。「壇」ではなく「檀」なので，著者名に誤字がある。なお，檀上寛氏は名古屋大ではなく京都女子大の先生。次に問題文の最初の方に「�� 文化の違い（礼・義の有無）。」とあり，また下線部ウは「礼・儀」に引かれている。このため問２の問題文も「礼・儀」になっている。不自然だと思い，原著に当たってみるとこれは変換ミスで，原著ではどちらも「礼・義」である。問２は「このような「礼・儀」を重視する思想を何と呼ぶか」であるから，結果として解答が儒教（儒学）で変わらないが，一般論で言えば「義」と「儀」では意味が異なるので，それにかかわる問題であったら出題ミスになっていた。誤植自体は事故のようなもので，何人で校正しても見つからないときは見つからないものだ。仕方が無い面もある。しかし，下線部の誤字を見逃すのはさすがに厳しい。一年前にも記号のミスで大規模な出題ミスを出していたのに（2022国公立１番），二年連続で致命的な誤植があるのは擁護しかねる。
原著を入手したのでついでに読んでみると，さらなる驚きが待っていた。このリード文は（中略）の表示なく大胆に原文をカットしていたり，文章の順序が入れ替えられたりしている。たとえば，第二段落の最後の「〜華と夷を区別する基準となる。」の後には本来『論語』を引用した一文と「ここでの夷狄は諸夏とは異なる異民族を指している。つまり，華と夷の違いが諸夏＝華＝華夏族＝（後の）漢人と，周辺諸民族との民族的相違としてとらえられていないことが理解できる。」という文が入っていた。原文にして３行分である。大雑把に数えてみたところ，引用されている元の文章は朱元璋の檄文を除くと原文にして約49行分あり，このうち約13行が削除されていた。文章の入れ替えは６行分で，「ここで想起すべきは，華と夷の違いに関する三つの観点である。」から最後までの文章は本来，檄文の前に置かれている。
先に一般論の話をしよう。入試問題に引用された文献には，多くの場合出典に「一部改」等の文言が付されている。空欄を作ったり下線を付したりするので，原文そのままというわけにはいかないのだ。また，解答そのままになってしまう文があれば削除するのはやむを得ない事情であるし，また受験生への配慮から問題を解く上でノイズになる情報を除去する改変もある。だから原文を改変すること自体はよくあることで，全く悪いことではない。
今回のリード文の改変もまさにこうした理由によるもので，丁寧に，かつ親切に切り刻んでいる。そうだとしても，ここまで多大な改変を施した上に，問題に直接かかわる箇所や著者名に誤植があるのは原文へのリスペクトを欠くだろう。なぜ自分で文章を書かなかったのか理解に苦しむが，ひょっとすると上からのお達しで「必ず文献を引用して問題を作りなさい」と義務づけられていたのかもしれない。だとすると少し同情する。なお，では問題文で唯一（中略）と書かれている部分は何が省略されているのかという疑問にも答えておきたい。これは（中略）の前はp.44，後はp.196であるから約150ページが省略されている。なるほど，これが中略なら他の２〜３行ずつのカットは中略に当たらない。
こうした「一部改」の表示で今回のような大改変がされている入試問題はたまに見かける（文章の順序入れ替えはさすがに稀であるが）。確かに入試問題作成は純粋な学術活動に当たらないかもしれないが，入試問題は当該年度の受験生のみならず，過去問として未来の受験生も解く。当然，高校の教員や予備校の講師も解くし，好事家の社会人も見ることがあるから，名古屋大の入試問題ともなると実際には膨大な人間が見ている。とりわけ未来の受験生は，こうした過去問のリード文を通して歴史に対する知識や関心を養うことが少なからずあるから，入試問題作成は立派な教育活動の一環なのである。どうせ一回きりでろくに読まれていない等とあきらめていないか。優れた一般書籍の紹介として貴重な機会に，このような杜撰な処理であやをつけてしまうのはもったいないことではないだろうか。せっかく問題は良質になったのだから，こうしたところで手抜きをするのは避けてほしい。この願いが入試作成者たちに届くと期待して本問解説の筆を置く。
５．一橋大
＜種別＞難問
＜問題＞２ 次の地図を見て， 問いに答えなさい。
問い 1963年，アフリカ統一機構（OAU）が創設された。しかし，地図中のAとBがOAUに加盟したのは，それぞれ1975年と1980年であった。OAU加盟が10年以上後となった経緯について，AとBの内外の状況に言及しつつ，説明しなさい。その際，AとBそれぞれの宗主国と独立後の国名を明記すること。（400字以内）
＜解答解説＞
一橋のこの問題は，実は評価が難しい。試験日当日からインターネット上で大きく話題になっていたが，多くは過剰反応か，「『周辺史』を問うた良問である」という斜め上から目線による高評価であったが，いずれも正しい評価とは言いがたい。正確に論評するには一橋大の傾向と現代アフリカ史の教科書上の扱いに触れなければならない。したがって，問題自体の解説よりも，論評に必要な情報についての解説の方が重要だろう。
まず，一橋大には極めて強い出題傾向があり，過去問が実質的に出題される地域・時代を指定している。大問１は中世・近世ヨーロッパ史，大問２は近代・現代の欧米史，大問３は近世〜現代の東アジア史である。大問３でインド史が３回ほど出たことがあるが例外はそれくらいで，過去30年以上，ここからほとんどぶれたことがない。代わりに過剰な難易度の出題をすることが許されているところがある。すなわち，教科書をまんべんなく読んでくる必要はないから，『詳説世界史研究』や詳しめの参考書のその部分なり，関係のある分野のジュニア向け新書なりを読んできてほしいというメッセージで，これが大学と受験生の暗黙の了解となっていた。
にもかかわらず，今回は大問２で現代アフリカ史が出たのである（大問１は中世ヨーロッパ，大問３は近代中国史で例年通り）。しかも扱われたのが北アフリカやガーナ，ルワンダ，南アフリカあたりの有名エピソードがある国々ではなく，アフリカ南部のモザンビーク（地図中のA）とジンバブエ（地図中のB）であった。これは受験生からすれば暗黙の了解の一方的な破棄にしか見えない。現代ヨーロッパ史にかかわりがあるとはいえ，基本的には大学側が勉強してこなくていいと暗に言っていた地域である。要するに「だましうち」である。インターネット上の受験生たちが「一橋大には倫理観がない」と嘆いていたのには理由がある。
しかし，大学側はこう反論するだろう。「暗黙の了解はあくまで“暗黙の”了解に過ぎず，明示したことは一度もない」「勝手に期待して過去問を解いてきたのは受験生の都合である」「募集要項のどこにも出題範囲を制限するとは書いてない」「脱西欧中心史観は近年の常識であり，アフリカ史も重要という受験生へのメッセージである」。そう言われてしまうと受験生としては何も再反論できない。暗黙の了解は当然非公式という特徴を大学側は最大限活用した。また，暗黙の了解を知らず，一橋大こそが欧米と東アジアからしか出題してこなかったことすら知らない外野には脱西欧中心史観だけが見え，称賛すべき問題ということになってしまう。つまり世間からの擁護を受けやすい。
次に，本問は難易度が絶妙であった。用語集頻度で言うとサラザールが�◆ぅ皀競鵐咫璽�独立が��，南ローデシアが�ぁぅ献鵐丱屮�独立が�イ函�関連する用語は意外と教科書上に記述がある。マイナー用語と断言できるのはサラザールくらいだ。教科書ごとに記述に濃淡はあるが，教科書知識をかき集めれば200字分くらいにはなるし，山川の用語集にはもう少し情報がある。これを設問要求に合わせて文章を整えたり，やや冗長に引き伸ばしたりすれば300字くらいまではいく。それでも400字には達しないわけだが，過去にあった200字も書けない問題や的外れな答案にしかならない類の問題ではない。この超難問というのには中途半端であるということも本問の論点になる。この中途半端な難しさと信義則違反との相性が悪かった。前述の通り，多くの一橋大受験生は二次試験での出題が想定されていない現代アフリカ史を共通テストレベルでしか押さえていない。結果的に受験生の知識・理解と問題の難易度の乖離は例年の超難問と同等になってしまい，実際には200字も埋まらず，白紙答案や地図中のA・Bをモザンビーク・ジンバブエと特定できていない答案だらけになったものと思われる。作問者は新奇性に鑑みて少し難易度を下げるなり，指定字数を縮めるなりの工夫をとれなかったものか。
これに関連して，入試問題は満点をとる能力だけを見ているものではなく部分点をとって食い下がれる能力を見ているのだという向きの擁護も見かけた。それは必修科目での出題ならまだ理解できる。しかし，地歴が選択科目である以上，マス目を埋めることすらできない問題の存在は他科目に対する圧倒的な不利として作用する。私大は選択科目間の平均点に差があると得点調整を入れるところが多いが，国公立大はなぜか原則調整しない。そのような著しい不公平を発生させてまでその限定的な能力を測るというのは，果たして入試に求められる倫理にかなうものだろうか。
ついでに，現代アフリカ史（サハラ以南）は意外と教科書に記述がある一方で，大学入試で出題されにくいというギャップがある。そのため高得点ねらいの難関私大対策以外では勉強されにくく，その難関私大でも出題は少ない。このギャップが，本問が完全な範囲外から出題された一橋大史上でも最難レベルの難問という誤解の大元になるだろうか。こんな難問だと受験生は１文字も書けないのではという類の反応が，受験から少し離れた人たちからこそよく見られたことは特記しておきたい。なお，こうした事情から早慶対策を真面目にやっていた受験生ほど今回の問題は与しやすかったと思われるが，早慶の多くの学部は地歴に代えて数学を選択できるため，そのような受験生は多くなかっただろう。
というように過剰反応と安直な良問認定の双方を戒めつつ私見を述べるならば，やはり信義則違反である点が重い。来年からは欧米史の過剰な難易度の出題は無いということでよろしいかと大学当局に問い合わせたい気分である。また，本問には手抜きがあり，上述のようにちょっとした工夫でもう少し適正な問題にできたはずということでも大学を責めたい。
ところで，校正者の一人から，作問者自身は信義則に違反していないと思いこんでいる可能性を指摘された。すなわち，西洋人が入植し西洋の言語による史料が豊富で，実際に西洋史の研究室を出た歴史学者によって研究されることもあるアフリカ南部の近現代史は，日本独特のカテゴリー分けであるところの西洋史の範疇に入り得ること。つまり，南部アフリカ近現代史は「欧米史」ではないが「西洋史」たりうるのだ。そして受験生や教育産業界隈は一橋大の大問２を「近現代の欧米史」が出題されるものと認識しているが，一橋大の本問の作問者は「近現代の西洋史」を出題するものと捉えていたかもしれないこと。これらを重ね合わせると，本問の作問者が悪意なくアフリカ南部を出題した可能性が浮かび上がってくる。真相は不明であるが，仮にこの可能性が正しいなら，本問は象牙の塔と実社会のすれ違いが生んだ悲劇だったと言えよう。また，この可能性が正しかった場合，来年以降に危うい地域として同様に欧米史と西洋史の差分である近現代オセアニア史が挙げられる。
本問は多様な意見が出て議論に値する問題であるから，正確な知識に則った議論を期待したい。
なお，今回の悲劇はこれらの要素が重なったゆえのものであるから，条件を変えればモザンビークやジンバブエの論述を適正に出題できる。たとえば，どこの時代・地域から論述を出題してもおかしくないと見られている大学，阪大か東大の第２問あたりで，字数を相当に絞るか，国を片方にする形で出題されていたなら，それでも受験生は大いに苦戦するであろうが，だましうちや度を超えた難問という判定にはならない。特にモザンビークだけで出すなら良問だろう。
最後に一応，問題の具体的な解説もしておく。まず，OAU（アフリカ統一機構）という組織の設立目的，なぜ1963年という時期に設立されたについて簡潔に触れる。第三世界運動の盛り上がりや米ソの反植民地主義的態度を背景に，現地の民族運動が高揚し，もはや植民地帝国は時代遅れになっていた。サハラ以南のアフリカはアジアに比べると遅れたが，ガーナとギニアを皮切りに独立が相次ぎ，「アフリカの年」と呼ばれる1960年に一挙に独立が進んだ。しかし，現在でもなお問題となっているように，アフリカの国境線は旧宗主国たちが恣意的に引いたものが多いため紛争の火種となり，貧困国が多いこともあって，独立国には問題が山積していた。そのため1963年にアフリカ諸国の協力と連帯を目的としたアフリカ統一機構が設立され，当時の独立国の多くが原加盟国となった。逆に加盟が遅れて1970年代以降にずれこんだ代表的な国々がアンゴラ・モザンビーク・ナミビア・ジンバブエ・南アフリカである。そう，いずれもアフリカ南部の国々なのだ。このうちモザンビークとジンバブエの事情を聞いたのが本問ということになる。
このうち，アンゴラとモザンビークは事情が同じである。これらの国々の旧宗主国はポルトガルであり，ポルトガルは独裁者のサラザールが権威主義体制維持のため植民地帝国の維持を強行していた。当然にして現地では独立運動が次第に高揚し，ポルトガルが弾圧すると独立戦争に転化する。サラザールが1968年に事実上失脚した後も独裁政権が続いたが，ポルトガル国内でも膨大な軍事費に対する批判が高まり，1974年，軍部の蜂起を契機に民主化が達成された。これをカーネーション革命という。この翌年に植民地が解放されたので，モザンビークとアンゴラのOAU加盟年は1975年である。地図中のAはモザンビークなので，この段落に書いたような経緯を知りうる範囲で書けばよい。
残った３つは南アフリカの影響力が大きい。南アフリカはご存じの通り，白人少数者が支配を維持するためにアパルトヘイトを実施し，黒人を差別・隔離した。旧宗主国イギリスがこれを非難すると，南アフリカはイギリス連邦を脱退する。これにならったのがBの位置にあった南ローデシアで，現地の白人が1965年にイギリスからの独立を一方的に宣言，ローデシアを名乗り，黒人差別政策を継続した。これはもちろん国際的な非難を浴び，1968年以降は国連主導の経済制裁が実施された。しかし，アフリカ南部の地域覇権国である南アフリカと連帯し，隣接するモザンビークは独裁政権下のポルトガル領で友好関係があったから，近隣に限れば国際環境は悪くなく，黒人組織との内戦を優位に進めていた。冷戦下であるため西側諸国が南アフリカやローデシアに強い態度を示せなかったという事情もある。しかし，モザンビークの独立で近隣の状況に変化が生じる。モザンビークでは1975年の独立直後に社会主義政権が成立したため，すぐに南ア・ローデシアが介入して内戦となった。そのためモザンビークの社会主義政権をソ連が支援し，モザンビーク内戦とローデシア内戦が合流して混沌とした情勢となる（なお同時期はナミビア内戦とアンゴラ内戦も並立している）。これで首が絞まったのは，モザンビークからの物流が滞って国連の経済制裁が有効になったローデシア白人政権の側であった。それゆえに1970年代後半，やっと白人政権と黒人の抵抗組織との対話が徐々に進み， 1980年に選挙が実施されてムガベを大統領とする黒人政権が成立した。これを契機にローデシアはジンバブエに改称し，OAUに加盟した。その後，冷戦が終わりに近づくと西側諸国による南アフリカへの制裁に容赦がなくなっていったため，残ったナミビアも1990年に南ア軍が撤退して独立，すぐにOAUに加盟し，最後に南アフリカがアパルトヘイトを撤廃して1994年に加盟した。解答上は，ローデシアも南アと同様の白人政権であったこと，抵抗運動（内戦）の激化，複雑な国際環境の指摘，モザンビーク独立との関連，黒人政権の成立・改名と加盟という流れで記述していけばよい。
以上を完璧に書ければ確かに400字に達する。しかし，まずジンバブエ側の歴史は範囲外やグレーゾーンに当たる知識が多く，特に肝心の複雑な国際環境とモザンビーク独立との関連の部分は教科書や用語集にほとんど情報が無い。ジンバブエ側はほとんど何も書けなかった受験生が多かったのではないか。それに対してOAU自体やモザンビークの歴史はサラザールを除けば書きやすい。やはり受験生の答案としてはもろもろ合わせて200字埋まっていたら上出来であろう。
なお，一橋大も大問３で引用した『孫文革命文集』を『孫文革命論集』としている出典名の誤字があった。しかも駿台の指摘によると本文中で孫文を指して「孫逸山」と表記していたが，これも「孫逸仙」の誤字とのこと（私は『孫文革命文集』未入手）。入試問題ならば積極的に学者の倫理を忘れてよいという風潮でもあるだろうか。
Posted by dg_law at 17:00│Comments(16)
この記事へのコメント
問題番号が1,1,2,3,4になっているのですが...
Posted by Catd at 2023年03月19日 17:09
おおっと，すみません。直しました。
Posted by DG-Law at 2023年03月19日 17:33
はじめまして、いつも楽しく読ませていただいております。
一橋大の第二問は、問題そのものだけなら、良問という(とうの昔に受験を終えた大人による)評価もあり得ると思いますが、「一橋大の入学者を選抜する問題として適切か？」と考えると私は悪問なのでは？とすら思ってしまいます。
近年大学は入試の出題意図を公表するようになりましたが、このような出題をするなら意図だけでなく採点の講評も載せてほしいところです。この大学は、高校生が学校でどういう勉強をしてきているかという実情をあまり知らずに「これくらい書けるでしょ」的なノリで出題してる気がします。(良問認定してる大人もこの出題者のようなスタンスなのでしょう)
(私事ですが、稲田義智さんのブログにたどり着いたのは、私自身2013年度に一橋大を受験し「フランス革命のアレ」に試験場で出くわし、数週間後に「結局あの問題って何だったの？」と調べていたのがきっかけでした。あの年度以降、一橋は第二問に一番ヤバい問題が来ることが増えた気がします。もう10年経ったのですね。これからも更新を楽しみにさせていただきます。)
一橋大の第二問は、問題そのものだけなら、良問という(とうの昔に受験を終えた大人による)評価もあり得ると思いますが、「一橋大の入学者を選抜する問題として適切か？」と考えると私は悪問なのでは？とすら思ってしまいます。
近年大学は入試の出題意図を公表するようになりましたが、このような出題をするなら意図だけでなく採点の講評も載せてほしいところです。この大学は、高校生が学校でどういう勉強をしてきているかという実情をあまり知らずに「これくらい書けるでしょ」的なノリで出題してる気がします。(良問認定してる大人もこの出題者のようなスタンスなのでしょう)
(私事ですが、稲田義智さんのブログにたどり着いたのは、私自身2013年度に一橋大を受験し「フランス革命のアレ」に試験場で出くわし、数週間後に「結局あの問題って何だったの？」と調べていたのがきっかけでした。あの年度以降、一橋は第二問に一番ヤバい問題が来ることが増えた気がします。もう10年経ったのですね。これからも更新を楽しみにさせていただきます。)
Posted by Lynd at 2023年03月19日 18:03
キューバとの国交断絶ですが学研漫画の「世界の歴史」だとケネディがしていたので、いるかはわかりませんがそれを昔読んでた受験生は間違えて覚えてるかもしれません。
Posted by 名無し at 2023年03月19日 18:05
更新ご苦労さまです。共通テストは日本史世界史どちらも挑戦しましたが日本史のほうは私は３と回答しており、答えが解せなかった記憶がありましたがそういうことだったのですね。
世界史の共通テストはとりあげた問題もそうですが、何より「科挙」を「科拳」とした誤植にすべて持っていかれました。どういうことがあればこんな誤植になるんだ？
世界史の共通テストはとりあげた問題もそうですが、何より「科挙」を「科拳」とした誤植にすべて持っていかれました。どういうことがあればこんな誤植になるんだ？
Posted by 歴史科目の入試問題が好きな学生 at 2023年03月19日 18:25
＞Lyndさん
おっしゃる通りで，一橋大学の発表する出題意図はおそらく記事中に書いた通り「脱西欧中心史観は近年の常識であり〜〜」というようなものになると思いますが，確かにもうちょっとこう，反省的なコメントも欲しいところですね。採点講評は良いところですね。
一橋大は伝統的に大問２がやばいですが，波がある感じはしますね。2009〜11年や2015〜17年は３年連続で収録対象が無かったりします。
＞名無しさん
あらま……そういうの，小学生の時に読んでいると意外と高校生まで覚えてたりしますね。私にも身に覚えがあります。
＞歴史科目の入試問題が好きな学生さん
本企画では本筋ではないので取り上げませんでしたが，「科拳」はめちゃくちゃ話題になってましたね。武科挙かな？ と，私も当日笑いました。
OCRミスにも見えないですし，原因がわからないままですね。
おっしゃる通りで，一橋大学の発表する出題意図はおそらく記事中に書いた通り「脱西欧中心史観は近年の常識であり〜〜」というようなものになると思いますが，確かにもうちょっとこう，反省的なコメントも欲しいところですね。採点講評は良いところですね。
一橋大は伝統的に大問２がやばいですが，波がある感じはしますね。2009〜11年や2015〜17年は３年連続で収録対象が無かったりします。
＞名無しさん
あらま……そういうの，小学生の時に読んでいると意外と高校生まで覚えてたりしますね。私にも身に覚えがあります。
＞歴史科目の入試問題が好きな学生さん
本企画では本筋ではないので取り上げませんでしたが，「科拳」はめちゃくちゃ話題になってましたね。武科挙かな？ と，私も当日笑いました。
OCRミスにも見えないですし，原因がわからないままですね。
Posted by DG-Law at 2023年03月19日 21:02
2014の一橋大学を受験して世界史に絶望した者ですが、まさかモザンビークやジンバブエの近現代史が問われるとは… 地理受験の方が振り回されなくて良さそうですね。
Posted by Nitro at 2023年03月20日 03:04
地理も地理でやばいという話を聞くので，日本史が一番無難ですかね。日本史は小問ごとの字数が自由なので構成を考える難しさがありますが。
Posted by DG-Law at 2023年03月20日 22:04
実教出版あたりの教科書を入手して読み込んでおく下準備と、あと実際に選択する度胸さえあればビジネス基礎はかなり有効だったんですが、その道も塞がれちゃいましたね。
…ビジネス基礎で一橋を受けた者のうち、それを高校で実際に履修した者はどの程度いたのかと考えると、まあ廃止もやむなしかとは思うが、倫理政経はなくさないでほしかったなあ。
…ビジネス基礎で一橋を受けた者のうち、それを高校で実際に履修した者はどの程度いたのかと考えると、まあ廃止もやむなしかとは思うが、倫理政経はなくさないでほしかったなあ。
Posted by ちょっと前の受験生 at 2023年03月23日 04:52
おっしゃる通り，ビジネス基礎は仕方ないかなと思うんですが，倫政は残しておいてほしかったですね。おかげで公民で大論述を課す貴重な大学が減ってしまって悲しいです。
Posted by DG-Law at 2023年03月23日 23:05
お疲れ様です。今年の記事を楽しみに待っていました。待っている間に過去記事を読み直していたので、キューバ断交＝アイゼンハワーは即答できるようになっていました。なんでこんなに問われるんでしょう？
さて、番外編の日本史の問題をといてみたところ(当方日本史Ｂは未履修、撰銭令の存在も知りませんでした)、私も��を選んでしまいました。実は永楽通宝の写真は見たことがあり(落第忍者乱太郎のおかげで笑)、一緒に載っていたビタ銭より明らかに質が良かったので、嫌われてはいなかっただろうと推測しての回答です。完全に予想を裏切られ、そりゃ間違えるよなあと受験生には同情します。
さて、番外編の日本史の問題をといてみたところ(当方日本史Ｂは未履修、撰銭令の存在も知りませんでした)、私も��を選んでしまいました。実は永楽通宝の写真は見たことがあり(落第忍者乱太郎のおかげで笑)、一緒に載っていたビタ銭より明らかに質が良かったので、嫌われてはいなかっただろうと推測しての回答です。完全に予想を裏切られ、そりゃ間違えるよなあと受験生には同情します。
Posted by ガリ at 2023年03月25日 15:50
その３までお疲れ様でした。
共テ日本史Ｂは思いっきり間違えましたorz
一橋は出題傾向が強いからって受験生が楽してたわけではなく、代わりに難易度が異常ですからね…思考以前に要求される教科書外知識が多すぎる（特に中欧絡みの問題）。
一橋の中近世ヨーロッパレベルで全範囲の学習を要求されたら、「この範囲たまたま本で読んだ！」に当たるかの運ゲーになりそうです。
今後は範囲広げるってんなら教科書逸脱するなよって言いたくなりますが、教授陣は教科書の中近世中東欧の記述量知ってるんでしょうかね。
アフリカ出すなら、せめて初回はアルジェリアか南アフリカ辺りで出せよって思いました。
設問２は欧州史でなく西洋史だった、となると帝国主義時代の欧米植民地が全部西洋史に入ってしまいそうで怖いですね。
共テ日本史Ｂは思いっきり間違えましたorz
一橋は出題傾向が強いからって受験生が楽してたわけではなく、代わりに難易度が異常ですからね…思考以前に要求される教科書外知識が多すぎる（特に中欧絡みの問題）。
一橋の中近世ヨーロッパレベルで全範囲の学習を要求されたら、「この範囲たまたま本で読んだ！」に当たるかの運ゲーになりそうです。
今後は範囲広げるってんなら教科書逸脱するなよって言いたくなりますが、教授陣は教科書の中近世中東欧の記述量知ってるんでしょうかね。
アフリカ出すなら、せめて初回はアルジェリアか南アフリカ辺りで出せよって思いました。
設問２は欧州史でなく西洋史だった、となると帝国主義時代の欧米植民地が全部西洋史に入ってしまいそうで怖いですね。
Posted by 法律方面の人 at 2023年03月26日 08:19
こんにちは、最近Twitterで時折絡ませて頂いている者です。
と言っても今年の3月に一橋大を卒業した、倫政受験入学者でたびたびこのサイトでもコメントしてきましたので初絡みと言うことでもありませんが…
ともあれ、改めて講評有り難うございました。改めてですがモザンビーク乃至はジンバブエに関する講評には概ね同意したいです。また、指摘されている「アフリカ史を近現代の西洋史として悪意無く出題した、という仮定ならば来年以降オセアニア史辺り危ないのではないか」という指摘には唸らされましたね。本当に有り得そうだし、当然例によっての鬼畜西欧史が出てくるかもしれない。
さて、弊学もソーシャル・データ・サイエンス学部が誕生しまして入試でも専用問題が出てきたようで、今後うちの入試も良かれ悪しかれ変わるのだろうなあ…と感じております。良い意味で入試問題(世界史日本史)も改革を望みたいんですがまぁ暫くは難しいんですかね、このぶんだと。
と言っても今年の3月に一橋大を卒業した、倫政受験入学者でたびたびこのサイトでもコメントしてきましたので初絡みと言うことでもありませんが…
ともあれ、改めて講評有り難うございました。改めてですがモザンビーク乃至はジンバブエに関する講評には概ね同意したいです。また、指摘されている「アフリカ史を近現代の西洋史として悪意無く出題した、という仮定ならば来年以降オセアニア史辺り危ないのではないか」という指摘には唸らされましたね。本当に有り得そうだし、当然例によっての鬼畜西欧史が出てくるかもしれない。
さて、弊学もソーシャル・データ・サイエンス学部が誕生しまして入試でも専用問題が出てきたようで、今後うちの入試も良かれ悪しかれ変わるのだろうなあ…と感じております。良い意味で入試問題(世界史日本史)も改革を望みたいんですがまぁ暫くは難しいんですかね、このぶんだと。
Posted by 単色 at 2023年03月26日 19:33
＞ ガリさん
キューバ断交の出題頻度は何なのでしょうね。歴史的にアイゼンハワーの退任直前であったことがそこまで重要とも思えないですし。
番外編の日本史はやっぱり永楽通宝を知っていると余計に間違えますね。
＞法律方面の人さん
今後どこまで出題するつもりなんでしょうかね。
大問２は数少ない例外として米西戦争・米比戦争が出題されたことがあったんですが（2008年），主軸がアメリカ外構だったことと，難易度が簡単だったために特に話題になりませんでした。今思うと，これもそういう理屈での「西洋史」の範疇だろうということだったのかもしれません。帝国主義時代以降の欧米植民地は全部西洋史ということになると，とんでもなく広がりますね。
運ゲーでは普通に学生の選抜性に悪影響を及ぼすので，最終的に困るのは自分たちなような気がするのですが，気にしてないんですかね。
＞単色さん
書いておいてなんですが，鬼畜西欧史の方がオセアニア史が来るよりは受験生にとってマシな気はしますね……
ソーシャル・データ・サイエンス学部，本試験の問題は全く見てないのですが，サンプル問題は去年の11月くらいに解きました。あれはあれで非常に難易度が高いように思われ，高校の情報程度だと太刀打ちできないように思えたのですが，やっぱり入門書・新書くらい読んでこいということなのでしょうね。本試験の問題も赤本が出たら見てみようと思います。
それはそれとして，世界史によらず地歴によらず科目試験が減っていく流れはおそらく止められず，一橋大も世界史・日本史という科目の中で改善が図られるより先に地歴での受験枠が減っていきそうな気はしますね。
キューバ断交の出題頻度は何なのでしょうね。歴史的にアイゼンハワーの退任直前であったことがそこまで重要とも思えないですし。
番外編の日本史はやっぱり永楽通宝を知っていると余計に間違えますね。
＞法律方面の人さん
今後どこまで出題するつもりなんでしょうかね。
大問２は数少ない例外として米西戦争・米比戦争が出題されたことがあったんですが（2008年），主軸がアメリカ外構だったことと，難易度が簡単だったために特に話題になりませんでした。今思うと，これもそういう理屈での「西洋史」の範疇だろうということだったのかもしれません。帝国主義時代以降の欧米植民地は全部西洋史ということになると，とんでもなく広がりますね。
運ゲーでは普通に学生の選抜性に悪影響を及ぼすので，最終的に困るのは自分たちなような気がするのですが，気にしてないんですかね。
＞単色さん
書いておいてなんですが，鬼畜西欧史の方がオセアニア史が来るよりは受験生にとってマシな気はしますね……
ソーシャル・データ・サイエンス学部，本試験の問題は全く見てないのですが，サンプル問題は去年の11月くらいに解きました。あれはあれで非常に難易度が高いように思われ，高校の情報程度だと太刀打ちできないように思えたのですが，やっぱり入門書・新書くらい読んでこいということなのでしょうね。本試験の問題も赤本が出たら見てみようと思います。
それはそれとして，世界史によらず地歴によらず科目試験が減っていく流れはおそらく止められず，一橋大も世界史・日本史という科目の中で改善が図られるより先に地歴での受験枠が減っていきそうな気はしますね。
Posted by DG-Law at 2023年03月27日 21:05
レスありがとうございます。
米比戦争は米西戦争の続きですし、「一方が欧米本国の戦争・支配開始」なので一応は西洋史か？という感じもありますが、「植民地内の紛争が大半・独立問題」まで伸びるとだいぶ広いですよね。
植民地を含むと印パやらベトナムやらインドネシアやら入れ放題ですし、委任統治領も含むとさらに広がりそうです。それらの現代史を高レベルで聞く可能性あるとその大問は運ゲーで、おっしゃるように選抜性に問題が出そうですね。
この機会についでにお聞きしたいのですが、昔（2002）の東大の大問３でボローニャ大学の自治的な学生団体の呼称（答：ウニヴェルシタス）が聞かれたことがあったのですが、あれは今でも掲載対象になるんでしょうか？
解答見たとき、知らねーよこんなの！ってなった記憶があるので…
米比戦争は米西戦争の続きですし、「一方が欧米本国の戦争・支配開始」なので一応は西洋史か？という感じもありますが、「植民地内の紛争が大半・独立問題」まで伸びるとだいぶ広いですよね。
植民地を含むと印パやらベトナムやらインドネシアやら入れ放題ですし、委任統治領も含むとさらに広がりそうです。それらの現代史を高レベルで聞く可能性あるとその大問は運ゲーで、おっしゃるように選抜性に問題が出そうですね。
この機会についでにお聞きしたいのですが、昔（2002）の東大の大問３でボローニャ大学の自治的な学生団体の呼称（答：ウニヴェルシタス）が聞かれたことがあったのですが、あれは今でも掲載対象になるんでしょうか？
解答見たとき、知らねーよこんなの！ってなった記憶があるので…
Posted by 法律方面の人 at 2023年04月02日 23:20
返事が遅れてすみません。
一橋大は現時点でも選抜性に支障が出る程度に地歴の難易度に差があるのですが，実際どうなんですかね。学内で統計をとっていたりはしないのでしょうか。
ウニヴェルシタスは難しいですね。当時でも今でも普通に収録対象ですね。念のため当時の用語集も確認しましたが，「大学」としか載ってなかったです。
2002年の東大の第３問は全体的にちょっとよくわからない問題が多かったです。国公立大でも稀にこういう年はありますね。作問者の我が強くて内部での調整が上手くいかなかったのかなと思います。
一橋大は現時点でも選抜性に支障が出る程度に地歴の難易度に差があるのですが，実際どうなんですかね。学内で統計をとっていたりはしないのでしょうか。
ウニヴェルシタスは難しいですね。当時でも今でも普通に収録対象ですね。念のため当時の用語集も確認しましたが，「大学」としか載ってなかったです。
2002年の東大の第３問は全体的にちょっとよくわからない問題が多かったです。国公立大でも稀にこういう年はありますね。作問者の我が強くて内部での調整が上手くいかなかったのかなと思います。
Posted by DG-Law at 2023年04月05日 11:03
