2023年05月30日

2023年大相撲五月場所の感想

最近は大関をうかがう関脇・小結が多く,また彼らがそろって好調で星を潰し合う展開が多く,今場所もまさにその展開であった。先場所はその潰し合いの中で先場所は潰されなかった霧馬山が優勝したが,今場所は戻ってきた照ノ富士が場所を締めることになった。6場所ぶりで,三場所全休明けでの優勝は平成元年初場所の北勝海以来で,あとは大鵬がいるだけとのことだ。三場所全休自体があまり無いことなので,該当者も少ない。

今場所の照ノ富士は決して状態が良かったとは言えない。特に序盤は無理に振り回す相撲が多く,明らかに相撲勘が鈍っていたし,蹲踞のたびに顔を歪めていたように膝の調子も悪かった。振り回すから余計に膝に負担がかかるという悪循環でもある。それでも優勝したのだから,積み上げてきた心技体に感服するしかない。また一方で,現在の大関・関脇と照ノ富士の間にはまだそれだけの差があるということで,その差が照ノ富士の横綱昇進以降全く縮まっていない。明らかに今の関脇陣は成長著しいにもかかわらず。なお,照ノ富士の優勝は12勝や13勝が多くて12勝が4回で13勝が2回,14勝は今場所のみ,全勝が1回で計8回である。なお,これ以外に14勝で優勝できなかった場所が1回ある(白鵬が引退前最後の全勝優勝を飾った場所で,千秋楽にその白鵬に負けたのが唯一の黒星)。

霧馬山は見事に大関取りを果たした。序盤は変化した白星や下がっての白星があって内容が心配されたが,尻上がりによくなり,必須の10勝より一つ多い11勝,そもそも西の大関が空いている状況では文句なしの昇進である。引く相撲が多かったとはいえ大関取りのプレッシャーがかかる状況であり,逆に言えば引いて残す足腰があるということだから,精神が整えば調子は上向いた。その意味で,大関になってから鍛えるべきは精神力かもしれない。面白いのは他の関脇も続いていることで,来場所の展望としては,
・大栄翔:12+10=22勝
・豊昇龍:10+11=21勝
・若元春:11+10=21勝
と3人同時の大関取りが見どころになる。11勝でよく優勝1回の実績がある大栄翔は大本命だが,押し相撲で成績にムラっけがあり,場所の序盤に話が雲散霧消する可能性もある。豊昇龍は安定しているが,意外にも12勝したことがなく,大関取りには未知の領域の勝ち星が必要。12勝したことがないのは若元春も同じで,しかも若元春は遅咲きすぎてまだ上位に定着したばかりであるため,実績が大きく不足している。年齢の話をすると豊昇龍は若いが,大栄翔と若元春はいずれも29歳で,そろそろラストチャンスの可能性もある。


個別評。優勝した照ノ富士は上述の通り。貴景勝も横綱同様に休場明けで苦しい場所になった。立ち合いの変化も交えてなんとか勝ち越したのはやむを得まいが,来場所は内容を求めたい。

関脇陣。霧馬山は上述の通り。さらに言えば先場所・先々場所に書いた通りで,何をやらせても強い器用な力士に成長したと言えよう。豊昇龍も霧馬山と同系統ではあるが,相変わらず攻め急ぎや無理な投げによる自滅が多い。素早くかっこよく決めることを目指すのはやめて堅実に大関取りをねらってほしい。大栄翔は今場所も冴えた突き押しで止まらず攻め続ける場面が多かったが,先場所に続いて周囲も強かった。とはいえ大関取りは近く,間に霧馬山を挟み,貴景勝と突き押しの大関が並ぶ光景が見られるかどうか。若元春は急成長でありながら安定しているように見えるのがすごい。今場所もうっちゃりが見られてよかった。器用な力士ではないので相手の投げを食うことが多く,突き押しの展開になると厳しいので,その辺が改善点か。

小結。琴ノ若はここ数場所と同様になんとか勝ち越しで,ぎりぎり「次の大関」の地位をつないでいる。パワーも技術もあるのだがあと一歩勝てない。照ノ富士すら追い詰めているのだが,どうもこうなったら勝てるという型が無い。照ノ富士・豊昇龍・霧馬山に合口が悪いので,なんとか打開したいところ。正代は不調には見えなかったが,関脇陣が良すぎて負け越した。また下がると脆かったので,膝を痛めているのかもしれない。前頭上位にはとどまるし,相撲が崩れているわけではないので来場所に期待したい。

前頭上位。ここは関脇陣の活躍によって壊滅している。錦木は往年のパワーを発揮して数少ない勝ち越し。中日から8連勝で,若元春と貴景勝を破り,隠れた台風の目になっていた。宇良は負け越したが,レア決まり手ずぶねりを決める等,印象は良い。金峰山は上位初挑戦で見事に跳ね返された。突き押しの力士ながら組んでもなんとかなるという長所があったが,さすがに上位では組んだらどうにもならないケースが散見された。上位は四つ相撲のレベルが一段階違うし,組む展開に持ち込むのが上手い。

前頭中盤。御嶽海はさすがにこの地位なら勝ち越し。当たりは強いが一度出足が止まるとあとはずるずると引く悪癖があったが,今場所はよく二の矢があった。一応は復調過程なのかもしれない。動きが良かったのは平戸海で,今の幕内では軽量の部類で動きが早く,体重を考えるとパワーもある。今場所は右四つ左前まわしよりも中に入ってもろ差しという展開の方が多かった。

前頭下位。北青鵬は肩越しの上手で棒立ちなのに崩れない強固な足腰を見せて観衆の度肝を抜いた。一方で,あの守りでは足技に弱く簡単に刈り倒される,また肩越しの上手を切られても弱体化する,押し相撲にも耐えられない等の弱点も露見し,徐々に研究されてきての8勝止まりとなった。まだ上位には通じなさそうである。大翔鵬は立ち合いの威力が強いものの二の矢がなく,印象の割には6勝止まりであった。碧山はこの地位で5勝,突いていても効いておらず,さすがに加齢による衰えが隠せないか。朝乃山は12勝で大勝したが,元の地位を考えると平幕優勝してもおかしくなかったところで,大勝は不思議ではない。むしろ先場所十両を好成績で優勝したにも関わらず,平幕一桁の番付まで上がらなかったことがおかしいのである。審判部の判断がわからない。王鵬も11勝で,引き技の決まり手が多いが,押してからの引きなのでそこまで悪いことではなく,北青鵬を外掛けで刈り倒す器用さもあった。次は前頭中盤で勝ち越せるか。


栃ノ心の引退は別記事で。逸ノ城が引退した。照ノ富士と同じ飛行機で来日したのは有名な話で,高校から日本に留学し,すでに無類の強さを誇ったが,幕下付出資格を取るため実業団に進んでから大相撲に入った。2014年初場所デビュー,所要4場所のスピードで九月場所に新入幕となった。新入幕の場所で13勝の優勝次点,鶴竜を撃破しての金星獲得と目覚ましい活躍を見せ,翌場所には関脇に進出して8勝の勝ち越し,いきなり上位定着かと思われたが,ここで成長が止まってしまい,上位挑戦と下位での勝ち越しを繰り返すエレベーター化してしまう。2015年当時の好角家に「逸ノ城は大関に昇進しなかった」と言っても,あまり信用されないだろう。そのくらい当時は期待が持たれていた。原因は様々にあろうが,外国人1部屋1人制であまり大きい部屋に入れず競争相手が不在だったこと,にもかかわらずあまり出稽古に行かなかったこと,師匠との不仲など,環境があまり良くなかったことは指摘される。

せめて外国人力士の入門制限は緩和するのが逸ノ城が残した教訓ではないかと思う。2019年後半に腰を痛めて休場すると十両まで下がり,このまま終わるかという雰囲気も出てきたところ,2021年後半になって復活し,2022年の名古屋場所で初優勝を飾ったが,結果的にこれが最後の花火になってしまった。2023年初場所は新型コロナウィルスガイドライン違反により出場停止,翌場所は十両優勝したが,五月場所が始まる前に引退届を出した。表向きは腰痛の悪化となっているが,どう考えても逸ノ城の中でのやる気が失せてしまったのだろう。

取り口はパワーもあり相撲も上手く,左上手を取れば力を発揮した。左からは小手投げも上手く,ともかく左腕を自由にさせてはならないというのが相手力士の課題になった。一方で巨漢たるがゆえに横の動きに弱く,突き押しにも弱く,苦手なタイプが多数いた。また場所ごと,日ごとのやる気が明確に現れる気分屋であり,やる気のない場所は無気力相撲と指弾されかねないから休場した方がいいと思われる有様であった。引退に至る展開もこれがそのまま出たのではないかと思われ,電撃引退と報道されてはいたが,私を含めてあまり驚かなかった人も多かろう。今後が心配であるが,ひとまずお疲れ様でした。


幕内中盤までは上手く組めたが,幕内下位と十両の入れ替えが渋滞し,熱海富士はあの成績で再入幕無いかもしれないのか……と困ってしまった。熱海富士を入れるなら遠藤が下がるだろう。関脇・小結は昇進と負け越しで計5人まで減らせそう。十両から幕下に下がるのは時疾風・炎鵬・千代の国の3人と見られる。これに逸ノ城と栃ノ心の引退で枠が空くのは5とすると,幕下から十両に上がるのは紫雷,川副,獅司,勇磨,大の里になるだろうか。大の里が上がらず,別の人が上がる可能性もありそう。


2023年五月場所

この記事へのコメント
更新お疲れさまです。
本場所は横綱が復活優勝、大関カド番脱出、新大関昇進に、3人の関脇が来場所大関獲りということで、ハッピーエンド感のある場所といった感じでした。
先場所に引き続き、熱戦も多く、とても楽しめた場所でした。令和に入ってからは1番といってもいいかも。

照ノ富士は、何番か危うい相撲もありましたが、意地を魅せてくれました。
霧馬山は、序盤は相撲を見失っていたとのこと、ただそれでも中日を6−2で折り返したのは、地力あってのことだと思いますし、ある程度不調気味でも星を伸ばせるのはむしろ好材料なのかなと感じます。
若元春は、照ノ富士を土俵際まで追い込んだのは好印象。錦木戦はもったいない感じでした。逆に錦木は自信をつけたのか、そこから8連勝。来場所も期待できるかなと。
阿炎は足首の不調か、精彩はありませんでしたが、3関脇を撃破し、勝ち越し。ポジションが安美錦っぽくなっているような気がします。
大関獲りは、すでに上位で3場所連続2桁の大栄翔は、10勝あげれば上がるかもといったところかなと。十分に可能性はあるかなと思います。
豊昇龍は投げ癖で墓穴を掘るところもあり、やはり寄り切れるような相撲を増やしてほしいなと思うのですが、あんまり12勝以上あげられるイメージが沸かないのも事実。

十両は豪ノ山と落合による14勝1敗同士の決定戦。十両ではもう見られない気がする。
来場所の新入幕が楽しみですね。どれだけ通じるか早く見てみたいです。

横綱が一頭地を抜いている感じですが、役力士陣営とそれ以外の力士の力の差も去年終盤以降から開いている印象もあるので、現関脇が大関にあがれば、同じような様相で場所が展開されていくんだろなという印象は沸いてきました。
Posted by gallery at 2023年05月31日 13:05
朝乃山が大勝ちして割が崩され、照ノ富士対大栄翔が省かれてしまったのが残念でした。明生は横綱を負かしたところで力尽きたかのように8勝止まりなのも惜しかった。北青鵬も朝乃山を負かして弾みをつけるかと思ったのに、やはり8勝。後半はよく転がされてました。

隆の勝は、序盤だったか、解説で錣山親方から左腕を使えてないと指摘があって、注意して見てると確かに右腕だけで相撲を取ってました。かつての遠藤のように、サポーター無しでも怪我をしてる力士は、実は多いのかもしれません。高安と琴勝峰は共に休場復帰からの途中出場で、しっかり休んだ方が良かった気もします。

落合は快進撃とは言え幕内昇進はまだ早い気がしましたが、上が多く空いたようで、見事な出世ぶり。いずれは四つに組んで勝つ三役となって欲しいものです。川副は、足の甲を骨折しながら勝ち越して、やはりそこまでしてでも関取を目指したかったのか。これからは十全な体調で相撲を取れると良いのですが。
Posted by EN at 2023年06月01日 23:45
>galleryさん
ありがとうございます。言われてみるといろいろ丸く収まって,ハッピーエンド感ありますねw。熱い取組が多かったですよね。
霧馬山は序盤不安でしたよね。確かに地力があっての復調だったと思います。
錦木はたまに怪力を発揮して活躍する場所がありますね。
阿炎は本来なら自分が関脇として大関取りレースに参加すべきところなのですが,どちらかというとおっしゃる感じの位置になっちゃってますね。これはこれで重要なポジションではあるのですが。
豊昇龍はそうなんですよねぇ……来場所大丈夫ですかね。

今後は確かに
>現関脇が大関にあがれば、同じような様相で場所が展開されていく
となりそうで,照ノ富士が休場する間隙を突いて誰がいち早く横綱になるか,のレースに変わっていくのかもしれません。


>ENさん
照ノ富士対大栄翔は見たかったところですよね。朝乃山に上位をぶつけるのはいいとして,なぜ大栄翔を省いたのかがわかりません。まあ他の関脇を省くのも判断が難しいところではありましたが。そもそも朝乃山の地位が先場所の大勝からすると低すぎ,そこから間違っていた気がします。
北青鵬は転がされないように腰を割ってほしいですね……
高安と琴勝峰は全休してほしかったですね。まあ当人たちからすれば,再出場後の白星で幕内に残留できたのだから良しということなのでしょうが。
Posted by DG-Law at 2023年06月04日 18:39