2023年12月02日

2023年大相撲九州場所の感想

先場所のような展開になるかと思われたが,星のつぶしあいとはならず,霧島が実力を発揮して頭一つ分抜け出し,2敗を維持して優勝した。横綱照ノ富士の優勝を除くと,つまり大関以下での2敗での優勝は7場所ぶり,去年の九月の玉鷲以来である。というよりも直近3年で照ノ富士を除いて2敗以内で優勝したのはその玉鷲と御嶽海と大栄翔が1回ずつという状況である(いずれも関脇以下)。照ノ富士にしても3敗での優勝が少なくなく,優勝ラインが3敗・4敗まで下がらなかったのは,令和の時代としては珍しい現象と言えよう。

優勝した霧島は,序盤はそこまで調子が良いようには見えず,実際に6日目までに2敗している。しかし,周囲もぽろぽろと取りこぼしていき,結果,優勝争いで優位な位置を占めると尻上がりに調子を上げていった。苦手な型がこれといってなく,どういう相撲になっても取れるが,立ち合いに当たり負けることが意外と多いのと,押し相撲になると本職に対しては流石に劣勢で危ない場面が増えるという弱点はある。今場所の2敗はいずれもまさにこれらのパターンで,綱取りに向けて成績を安定させるならこの課題と向き合わなければならない。逆に言ってその霧島を一歩も押せなかった貴景勝は,やはり状態がかなり悪かったのであろう。来場所こそ熱戦を期待したい。

優勝争いを千秋楽まで引っ張った功労者,熱海富士は二場所連続の活躍で,先場所の成績がフロックではないことを証明してみせた。単純に巨漢でパワーがあるが,それを無駄なく存分に生かした相撲ぶりである。巨漢力士にありがちな中に入られると脆い弱点はあるが,抱えて極める対抗策があり,照ノ富士に比べると不格好であるが,平幕力士にには十分な脅威であろう。上位戦にも少し慣れ,高安と豊昇龍を撃破したのは見事であったが,優勝争いのプレッシャーの前では流石に固くなった。次はとうとう上位挑戦であるが,流石に対策されそうである。

他のトピックでは琴ノ若が11ー9ー11の直近3場所が計31勝で,今場所の昇進には2勝足りない。年間全て三役で勝ち越している安定感,横綱・大関の数も考えると初場所はかなり下駄を履かされそうであるが,それでも12勝で計32勝はないと話題にならないだろう。仮に初場所12勝以上するようなことになれば優勝争いをしており,霧島の綱取り最大の障害になっている可能性が高い。これも期待して待ちたい。


個別評。大関はすでに二人語ってしまったのであとは豊昇龍だけだが,こちらは10勝しつつも貴景勝に負けているのが一つ象徴的で,そこでむきになって貴景勝の押し合いに応じてしまうところが霧島に差をつけられた原因である。熱海富士に対しても,決してなめてかかったわけではないのだろうが,重さを見誤っての拙攻で負けている。勝った相撲も技巧に頼りすぎて自滅寸前だった相撲があり,そろそろ負けん気の強さだけで相撲を取るのをやめてほしい。

三役。大栄翔は中終盤に失速して9勝で終戦した。11勝していれば霧島と並んで年間最多勝となったが,その2勝が遠かった。押し相撲力士の性質とはいえ,あまりに一度の連敗が長い。大栄翔の場合,不思議なのは不調に陥っても同じ押し相撲の力士には相撲になることで,終盤に一山本と貴景勝には勝っている。他の押し相撲力士よりも立ち合いの当たり偏重であるのが良いのだろうか。若元春は大関取りに向けての緊張感が一度切れたか,動きが鈍重で以前に戻ってしまった様子であった。平幕から出直しもやむなし。琴ノ若はすでに書いた通り。阿炎と北勝富士はある種順当な負け越しで特にコメントはない。

前頭上位。朝乃山は途中からの出場で不安視されたが,蓋を開けてみると普通にとっていた。その結果が4−4−7というのはコメントに窮する。最初から普通に出ていても8−7くらいで終わっていそう。やはり右四つになるまでが課題で,浅いまま寄っていこうとして振りほどかれる負けパターンはちょっと見飽きたかなと。宇良はらしい相撲が多く,見ていて面白かった。7−7からの千秋楽,動き回って北青鵬を良いように崩し,勝ち越しを決めた取組が白眉である。高安は立ち合いのかち上げの威力が戻ってきて10勝。問題は来場所も続くかどうか。翠富士は技能賞受賞ならなかったのが不思議な出来で,9勝ではあるが,立ち合いの変化を含めて上手い相撲が多かった。特筆すべきは七日目の北青鵬戦,水入りを挟んで計6分40秒超の大熱戦が繰り広げられた。それには報いなければなるまい。先場所ももらえなかったし,三賞選考委員会の目はどうなっているのか。

前頭中盤。北青鵬は大型力士の倒し方実践の場になってしまっていて,もう少し対抗策を練ってほしい。このままではどんどん対策が進んでいくだけである。先場所の評に「肩越しの上手をとってからの動きがスムーズになって負けにくくなった」と書いたが,全く続かずに今場所は元に戻ってしまった。熱海富士はすでに語った通り。

前頭下位。剣翔は後半に突如として調子が上向き,右四つかもろ差しに組んで腹に乗せて寄り切ってしまう取組が多かった。特につって崩した相撲が2番あり,好調ならそれもできるということなのだろう。友風は4年ぶりの幕内となった。大ケガの原因ともなった引く癖はまだ残っていて,その意味でこわごわと取っている感じもしたが,まずは戻ってきたことを祝いたい。復帰の場所で7−8であるから,下位では十分にとれるのだろう。一山本は相撲ぶりは変わっていないが,当たったら早々に頭をつける形の押し相撲は特徴的で,対策が立てづらい。今場所は当たりが強く,頭をつけてからの攻めも早かった。以前は序盤が好調だとスタミナが切れて息切れする傾向があったが,今場所はそれもなく完走した。しゃべりが面白いのだが,最近はあまり話す場面を見ないので寂しい。


前頭10枚目付近で渋滞した。審判部はどう並べるか。十両との入れ替えは5人で,幕内から下がるのは錦富士,東白龍,狼雅,琴恵光,北の若。十両から上がるのは琴勝峰,大の里,武将山,島津海,碧山だろう。

十両昇進はすでに発表されている。尊富士と欧勝海が新十両,白鷹山と栃武蔵が再十両で計4人。嘉陽は幕下6枚目で6−1なのに上がれなかったか。逆に下がるのはまだ確定していないが,おそらく東龍,日翔志,貴健斗,伯桜鵬だろう。十両で落ちても仕方がない成績の力士が多く,もっと入れ替わってもおかしくなかったが,4人でとどまった。

2023年九州場所

この記事へのコメント
終わってみれば、大関の中で一番安定度の高い霧島の優勝でした。今年もいろいろあった気がしますが、幕内優勝を見ると横綱か大関か大関昇進を決めた関脇だったようで、上位陣安泰にも見えてしまうのが不思議です。

どうにか勝ち越した大関2人より、琴ノ若や熱海富士の方が強そうな気もして、番付交代は遠くないかも? 豊昇龍には安定感を求めたいのですが、力が足りないのか、動揺しやすいタイプなのか。霧島が飛び抜けて強いわけでもないので、これからも優勝争いは混迷すると思われると言うか、それを期待したくもなるような。

十両では、大器で優勝確実かに見えた大の里が2場所連続で優勝を逃し、末は三役と思うものの、どうして取りこぼしてしまうのでしょう。朝乃山の途中出場にはヒヤヒヤしましたが、脚の怪我がひどくはないようで一安心。幕内も十両も途中休場力士が目立ち、九州場所の土俵は滑りやすく見えました。

取り組み前に力水を付けるようになって、これで何もかも元通りになったようです。力士がみんな健康で取り続けられるのが一番です。炎鵬が3月場所からの復帰を目指しているとニュースで見ましたが、本当に大丈夫なのかどうか…。

Posted by EN at 2023年12月03日 15:27
更新お疲れ様です。
優勝は霧島。途中2敗したときは、今場所も混迷するかとは思いましたが、終わってみれば、7日目から9連勝、見事な優勝を決めてくれました。
終盤に向けて尻上がりに内容も良くなり、優勝。来場所は綱取りになりますが、成功できるかは五分五分かなと。苦手なのは圧力のある力士に前に出てこられることなので、そこの対策が重要かなと思っています。現代相撲においては霧島は小さめの力士に分類されてしまうので、如何ともしがたいところはあるのですが・・・

豊昇龍は、苦手な相手に順当に負けながらも10勝。先場所の雪辱は一応果たせたのかなと。「相手がこうくるだろうから、自分はこうしよう」というのがハマった時は強いのですが、うまくいかないと無駄に動いたり、攻め急いで、自分自身を不利にしてしまう悪癖があるように思えます。
貴景勝は、3敗して以降は精彩ないながらも一応9勝。不調でもそれなりにまとめてくるのが、すごい。

琴ノ若は11勝。竜電に敗れたのが痛かった。ともあれ、大関昇進は見えてきました。「琴櫻」復活に期待します。

ともあれ今年は2017年以来の平幕優勝なし。出場者の実質最高位が優勝し続ける順当な年になりました。(今年はなぜか途中まで平幕が優勝争いのトップに立ちながらも役力士陣営が意地を魅せるパターンが多かった)
来年も概ねこういう形で進んでいきそうではあります。初場所は幕内中位にいそうな朝乃山や新入幕・大の里が気になります。

Posted by gallery at 2023年12月05日 08:37
>ENさん
言われてみると令和4年は平幕優勝が多かったので,今年は急速に上位陣安泰の風潮が強まったと言えます。1年で変わるもんですねぇ。
琴ノ若は大関が本当に近いと思います。変なところで取りこぼさなければ来場所も11勝以上で固い。熱海富士はまだ上位総当りだと勝ち越せるかあやしいなと思っています。その意味で来場所はしっかり相撲ぶりを観察したいです。
豊昇龍は案外メンタル的に弱いところがあって脆い場面がありますね。そこが霧島との最大の違いかも。

大の里はそんな変なところで師匠に似なくても,というやつかもしれません……
朝乃山は休場明けで意外と動けていて驚きました。本人なりに行けるという判断は正しかったようで安心しました。
九州場所の土俵が滑りやすい説はたまに言われますね。土の質の問題だとは思いますが,直す気はなさそうです。


>galleryさん
ありがとうございます。
そうなんですよね。今場所も優勝争いが激しくなるかと思いきや,霧島が安定感を見せたという。言われて気づきましたが,今年の優勝は大関か将来の大関で,むしろ上位が安定した一年だったのかもしれません。
>成功できるかは五分五分かなと
私もそのくらいだろうと思います。実力的にそこまで飛び抜けているわけではないですし。

>豊昇龍
>「相手がこうくるだろうから、自分はこうしよう」というのがハマった時は強いのですが、うまくいかないと無駄に動いたり、攻め急いで、自分自身を不利にしてしまう悪癖があるように思えます。
なるほど。そういう意味では鶴竜に近いですかね。来場所は注意して見てみます。
あとまあ今場所は立ち合いで全然立たなかった豪ノ山で,かえって自分の調子が狂った感じもしました。

>貴景勝
それはそうなんですよね。不思議な安定感というか,場所のまとめ方がある。

来場所は何はなくとも大の里ですかね。期待して待ちましょう。
Posted by DG-Law at 2023年12月06日 00:33