2024年01月29日

2024年大相撲初場所の感想

照ノ富士の3場所ぶりの復帰,霧島の綱取り,琴ノ若の大関取りと話題が豊富で,これに引っ張られて上位陣は内容の濃い取組が多く,非常に盛り上がった場所になった。結果は霧島だけが未達となったが,照ノ富士が9度目の優勝,琴ノ若が大関取り成功かつ優勝同点と,多くが達成された。

照ノ富士は休場が多いが出場すれば優勝するという,末期の横綱の過ごし方を全うしている。なんとかあと1回は身体が持ってほしい。序中盤で2敗したことについて不安視されたが,琴ノ若・霧島・豊昇龍に対しては生涯不敗のままであるので,本人は心配していなかったのかもしれない。負けが込んだら休場,体力が持ちそうなら完走という心持ちで,2敗はある程度織り込んでいたのではないだろうか。終盤は膂力や気迫もさることながら,やはり四つ相撲の技能が突出していた。小刻みにたぐって小手投げをうって崩し,右四つになってしまう。最後の優勝決定戦,照ノ富士が巻き替え合いを制してもろ差しに組まれたら琴ノ若でも為す術もない。

琴ノ若は先々場所が9勝,先場所が11勝の計20勝であったから,そもそも13勝は無理であって大関取りの場所とは言えないと言われていた。にもかかわらず13勝するかもしれないという望みがあって審判長が大関取りの場所と明言してしまったのは,審判長が師匠であるがゆえの甘めの裁定だとすら言われていた。それをひっくり返して13勝,しかも優勝決定戦まで残り,何より文句のつけようのない充実した内容であったから,前評判をひっくり返している。なお,私は先場所の評で「年間全て三役で勝ち越している安定感,横綱・大関の数も考えると初場所はかなり下駄を履かされそうであるが,それでも12勝で計32勝はないと話題にならないだろう。仮に初場所12勝以上するようなことになれば優勝争いをしており,霧島の綱取り最大の障害になっている可能性が高い。これも期待して待ちたい。」と書いていて,予想通り,期待通りの展開であった。内容については,従来より恵まれた体格を活かしてどっしりと構え,サラブレットらしい優れた技能で投げるか寄り切ってしまう。今場所はその技能に磨きがかかっていて,2回も肩透かしを見せている。体格から考えると相当に身軽であり,技能賞は納得の受賞である。ただし,それだけに同じように上体の体格と抜群の技能でとっている照ノ富士が完全上位互換と言え,それは苦手だろう。琴ノ若は対照ノ富士に限って別の相撲でいった方が勝機があるかもしれない。


個別評。照ノ富士は上述の通り。大関,霧島は器用貧乏に苦しんだ感があり,序盤は相撲に迷いが見えて上手く取れていなかった。終盤は調子を上げて四つ相撲が光り,豊昇龍戦の二枚蹴り等は見事であったが,結局序中盤の2敗が響いて優勝戦線に残れなかった。ここは2敗が響かなかった照ノ富士との大きな違いだろう。十四日目の琴ノ若戦は琴ノ若の出来が良すぎ,彼が重すぎて攻めきれなかった。しいて言えば押さずに早めに組むべきだったかもしれないが,あの日の琴ノ若は結局寄り切るのも難しかったかもしれない。豊昇龍はどうしても出足の強い相手に負けがちで,五日目の豪ノ山戦は単なる負けで済んだが,六日目の阿炎戦で右足を負傷したのが,まさか十三日目の霧島戦で蹴られて休場に追い込まれることにつながるとは。むしろ,その右足のケガを引きずったまま終盤まで2敗で優勝戦線に残っていたことを褒めるべきかもしれない。重傷では無さそうなので,しっかり直してほしい。貴景勝は場所前は好調そうだっただけに,早々に休場となったのは惜しかった。最後まで残っていたら照ノ富士も琴ノ若もどうなっていたか。

関脇・小結。琴ノ若は前述の通り。そういえば改名はするのだろうか。大栄翔は可も不可もなく。大関取りとなると5人目の大関であるので,ハードルがかなり高くなりそうな。高安は腰の古傷の悪化で一度目の休場,インフルエンザで二度目の休場と不運の極みである。宇良は勝ち星が上がらないなりに身体は動いていて,千秋楽には竜電相手に見事な伝え反りを見せた。

前頭上位。若元春は復調傾向で,左四つの強さが戻ってきた様子。大関取りに再挑戦してほしいが,状況は大栄翔と同じで相当に厳しい。熱海富士は上位挑戦で跳ね返された。体格は十分だが,まだまだ動きが鈍重で,幕内上位の早い展開についていけていない。琴ノ若以上には0−4(照ノ富士とは対戦せず),それ以外には6−5ではあるので,中盤では十分に通用するだろう。豪ノ山は豊昇龍を倒した相撲が会心の出来だったが,それ以外は出足を止められて苦しみ,熱海富士同様に跳ね返された形。翔猿は今場所も動き回って良い相撲を見せた。六日目の照ノ富士戦が少し物議を醸したが,私の感想はこの通り。

前頭中盤。金峰山は首と右膝に故障を抱えての場所となり,非常に痛々しかったので休場してほしかった気はする。その中で,押して一方的に勝てる取組だけ白星を拾い,7−8にまとめた。良いことではあるが,あまり良くない成功体験になってしまう気も。湘南の海も豪快な相撲がなりを潜め,押されると一方的に負け,特に中盤が不出来で大敗した。ケガを公表していないので様子がわからないが,どこか痛めていたのではないか。一山本は突きの威力が通用せず,家賃が重かった。先場所大勝ちして中盤に上がったが,跳ね返された。朝乃山は途中休場を挟んで9勝,本来の実力を考えれば妥当だが,どうも謹慎休場後はケガに弱い。謹慎休場でなまり,身体の作りに影響を与えているように思われる。北青鵬は無茶な相撲でも勝つのが持ち味だったが,とうとう右膝が限界を迎えた。やはり相撲ぶりを変えるしかない。勝った相撲で翌日から休場するのは少し珍しい。御嶽海はこの地位で6勝は意外な出来で,身体がしぼんでいるようにも見える。老け込むのはまだ早い。

前頭下位。剣翔は張り差しで相手の出足を止めるのが得意戦法になっていて,割りと効いている相手が多い印象。止められなくてもぼちぼち相撲になっている。隆の勝は久々に元気で10勝,これで中盤には戻れるだろう。王鵬も10勝したが,もはや登りエレーベーターと評した方がよく,問題は中盤で勝てるかどうかである。一方苦戦したのがベテランで,妙義龍は5−10に終わった。足腰が弱っていて脆い。遠藤も5勝に終わり,ばたついた相撲が多い。宝富士も6勝で,個人的にはこれが最もショックである。左四つになっても完勝できておらず,攻めが鈍っている。碧山は1勝も出来ないまま途中休場となった。彼も突いても相手を崩せなくなっている。

最後に大の里。熱海富士と並ぶ期待のルーキーで,前頭下位・中盤で取る分には十分な体格も技能もあり,出足が鈍いということもなく,現時点では明確な弱点が見当たらない。さすがに琴ノ若・豊昇龍・照ノ富士と当てられて3連敗したが,本割が崩されなかったら14勝で新入幕優勝でも全くおかしくなかった。さすがに来場所は対策されるであろうことと,宇良や翔猿,翠富士のような小兵やトリッキーな力士とは当たっていないので,その辺でどうなるかを楽しみに待ちたい。
小結と前頭上位が相当にスカスカで,特に西小結が目が全く埋まらなかった。無理やり錦木を上げるか,元大関ということで朝乃山を上げるか,大敗はしているが東の小結だった宇良を半枚下げるにとどめるかの3択で苦しい。その関連で明生と王鵬は本来前頭中盤にとどまる星数だが,上位挑戦が確実な地位までジャンプアップする。それに対して中盤・下位はすんなり埋まる印象。幕内からは北青鵬・宝富士・友風・武将山・碧山が下がり,十両からは錦富士・北の若・大奄美・狼雅・尊富士が上がる見込み。尊富士が上がれば十両は1場所突破となる。遠藤は本来落ちる星数であるが,近年の傾向から言って幕尻で残りそう。

十両から幕下に下がるのは千代丸・天照鵬・勇磨・千代栄・栃武蔵と5人と多い。幕下から上がってくるのは若隆景・對馬洋・北はり磨・伯桜鵬・阿武剋で,他に候補もいないのでこれで確定ではないか。

2024年初場所

この記事へのコメント
・終盤まで照霧豊琴の4力士のたたき合いになる面白い場所であった

・今シーズンの照ノ富士はこれまでの「押し相撲に弱い」が見られなかった。
 阿炎や大栄翔の突き押しがいつもほど効かなかったのか、照ノ富士のたぐり戦法がよかったのか

・しかし照ノ富士が押し相撲に相対的に弱いのは不変だと思うので、照ノ富士に全く勝てない霧島朝乃山宝生流琴ノ若は押し(か頭をつける相撲)で挑んでほしい

・朝乃山は他の力士よりも「豪快に」倒れることが多いような気がする
Posted by acsusk at 2024年01月29日 21:23
更新お疲れ様です。

照ノ富士の復活優勝。10勝5敗なら御の字かなと思っていた前半ですが、瞬く間に優勝してしまいました。後半の方に合口の良い相手が固まっていたのもよかったと思います。貴景勝の休場や大栄翔戦が組まれていたらどうなるのかは気になりますが。
今場所の照ノ富士は先手必勝がモットーのようで、手繰りの多さも、押し相撲に真っ向から残す自身はなかったように思えます。
目標の二桁優勝まであと1つなので、意地でも達成してきそうには思えます。

霧島は、精彩を欠いた印象ですね。ただ、一応千秋楽まで興味を繋いだ点は評価していいのかなと。チャンスこそはまだまだあると思うので、頑張ってほしいです。
琴ノ若は、大柄の体躯による馬力と器用な技能を持ち合わせており、13勝2敗と堂々たる成績でした。大関昇進に文句なしでしょう。改名は迷っているようで、果たしてどうなるのかは気になります。

今場所の幕内中位〜下位は勝ち越しそうな人があらかた頑張った感じでした。家賃の安い人が勝った点では、大の里もそうですし、隆の勝・明生・朝乃山もそうでしょう。王鵬、琴勝峰もさすがにこの番付で勝ち越さないと問題。昭和生まれの関取は玉鷲を除いて、大変な場所となりました。

来場所は一横綱四大関体制で、こうなると5人目の大関の扉は固くなりそう。来場所は貴景勝の状態が気がかりにはなってしまいますが、果たして。
Posted by gallery at 2024年01月30日 09:17
すみません、照ノ富士-大栄翔は組まれていませんでした。
Posted by acsusk at 2024年01月31日 07:20
更新お疲れ様です。
霧島は足腰強く、スピードもあり、反応もよく、体も中々強く、相撲も上手いとバランスはいいのですが、バランスだけで勝ってる感があるというか…
親方衆曰く霧島は型をもっとちゃんと持った方がいいよねとのことで、確かにもっと自分の武器、強さで相手をぶん殴るような凄味が欲しいかなと。
今の体格は186cm145kgと大関上がった時前後の鶴竜と身長体重ともほぼ同じくらいで、なんとなく鶴竜と被る部分もあります。
150kgぐらいまで均整を保ったまま増量して力強さも増せばもっと強みも出せそうです。

照ノ富士は「もう限界かな・・・」と思っても毎回しっかり復活してしまうのが流石。
単純な膂力で言えば把瑠都の方が強いようにも思いますが、
怪我と稽古不足のデバフを負ってなお角界最強の怪力と最高クラスの技術を両立してしまっているのはよく考えるとチートというか、とんでもない素質と地力の突出具合を感じます。
怪我の調整が上手くいけば10回目の優勝、更に優勝も望めそうなので、引退後の体調も慮りつつこれからも力を見せて欲しいですね。
Posted by バーサーカー at 2024年02月01日 01:08
優勝争いが盛り上がったものの、大関2人が休場なので、貴景勝と豊昇龍が欠けなければもっと盛り上がっただろうという思いのが残る惜しい場所でした。徳勝龍が幕尻優勝だったときは、下位や十両に勝ちまくって最後に慌てて貴景勝と取り組みが用意されたそうですから、大の里が割を崩して割りを食ってしまったのは、優勝から遠ざけられたのも事実ですが、やむを得ない面もあったかなと。怪我さえなければ遠からず賜杯に手が届くことでしょう

怪我で幕下からやり直していた若隆景、相撲が荒っぽくなった気がしますが、まずは十両再昇進。先に幕内まで戻っていた友風は、やはり片足がどうにもならぬようで、十両に陥落。大丈夫でしょうか。炎鵬が3月場所から復帰するかもというニュースも見かけましたが、宮城野親方の弟子たちはどうも怪我がちで心配です。
Posted by EN at 2024年02月01日 19:15
皆様コメントありがとうございます。いつのタイミングでコメント返しするか悩んでいたら遅れました。

>acsuskさん
照ノ富士はたぐり戦法が良かったのでしょうね。阿炎は突きがすっぽ抜けて負けた感じで,ちゃんと突いて攻められていたら阿炎が勝っていたかもしれません。あとは単純に貴景勝が休場で大栄翔に当たっていないので,単純に押し相撲の力士と当たる回数が少なかった感もあります。
上位陣は確かに,頭をつける相撲でチャレンジしてほしいですね。

>galleryさん
照ノ富士は,たぐりの多さは押し相撲を耐えきる膝が残っていない自覚があったからかもしれませんね。四つに組むのも早かったですし,全体的に相撲を短く終わらせる努力があったように思われます。やはり状態自体は良くなかったのでしょうか。
琴ノ若は改名迷ってるんですね。とりあえず襲名までは琴ノ若で通しましたが,となると本場所まで改名しなさそうですかね。
幕内中位〜下位はかなり順当な結果で,ベテラン受難の感はありますね。
来場所はなんだかんだで勝ち越しそうと予想しています。
Posted by DG-Law at 2024年02月03日 12:36

>バーサーカーさん
霧島はやっぱりそうですよね。バランスだけで勝ってる感があります。しいて必殺技を挙げると投げ技なんでしょうが,それで決める型の相撲にはなっていないので。鶴竜にかぶるところはあるんですが,鶴竜ほど計算高い相撲にはなっておらず,出たとこ勝負になっているところは豪栄道にも近そうです。
照ノ富士は見るたびに四つの技能すごいなと感動します。あの体格であの巻き替えの速さ。10回目の優勝見たいですね。

>ENさん
豊昇龍の休場は驚きました。もちろん仕方がないですが。
最近は本割をすぐに崩しますね。平幕優勝が多すぎた反省がありそうです。大の里はちょっと当てるのが早すぎたかなと思わないでもなく,消えた照ノ富士・大栄翔戦がやはり惜しい。
若隆景はすぐに幕内に戻ってきそうですね。逆に友風は幕内で2場所,久々に見ましたが,やはり膝が厳しそうで……最近は大ケガでも治せるようになってきたとはいえ,大ケガはしないことに越したことはないですね。
Posted by DG-Law at 2024年02月03日 12:36