2024年02月18日

2024年1-2月に行った美術館・博物館(和食展,ウスター美術館展)

都美のウスター美術館展。ウスター美術館はアメリカ,マサチューセッツ州のウスターにある美術館だが,フランスの自然主義・印象派の収集の他に自国アメリカの印象派収集にも注力してきた歴史がある。これを活かし印象派の国際的な広がりが展覧会のテーマになっていて,日本の美術館所蔵の明治期の画家の作品も展示されていた(このため展覧会名に反してウスター美術館所蔵品以外も多かった)。異国から来た画家たちはパリで最先端の文化を学んでフランスの風景を描くが,故郷に錦を飾ると自国の風土を描くようになる。ロマン主義とは別の意味で故郷への愛着・ナショナリズムを否応なく内包してしまう自然主義や印象派を思ったりした。故郷の風景はロマン主義的に選抜したり加工したりしなくても十分に美しいのだ。最初は明治期の画家がノイズに感じたが,見終わってみると納得であり,パリから遠く離れた西洋美術の辺境としての日本とアメリカという共通点がちゃんと明らかになる構成であった。本展のテーマ設定は成功だと思う。ただ,宣伝の段階でもう少しウスター美術館所蔵品以外の展示も多いことは示しておくべきではないか。

また,アメリカのロマン主義風景画というとハドソン・リヴァー派であるが,アメリカ印象派は新たにゼロからフランスから直輸入したもので,ハドソン・リヴァー派とは全く接続していないのが興味深かった。ハドソン・リヴァー派は全く別のトーナリズムという様式に接続するらしい。本展ではそのトーナリズムの作品も展示されていた。ハドソン・リヴァー派は面白さの割に後ろが無いので語りにくいという欠点がありそうで,ドイツ・ロマン主義に近い。実はドイツ・ロマン主義がビーダマイヤーに転じていくのと,ハドソン・リヴァー派がトーナリズムに転じていく流れもよく似ていて,ロマン主義的風景画は若々しさを失うとどうしても感傷主義に陥りがちなのかもしれない。

アメリカの印象派で印象に残ったのは(ダジャレではない),やはりチャイルド・ハッサムで,都市を遠景にとった室内風俗画はエドワード・ホッパーを連想させる寂しさが少しあって,そこにアメリカらしさを感じた。アメリカ特有の都会の侘しさ,あれは一体何なのだろうか。

どうでもいいオチとして,本展はウスターソースとコラボしていた。ウスターソースのウスターはイギリスのウスター市から来ていて、アメリカのマサチューセッツにあるウスター市とは無関係である(しいて言えば両ウスター市は姉妹都市らしい)。しかし,そんなことは織り込み済の上でコラボする精神は割りと嫌いじゃない。買わなかったけど。




科博の「和食」展。和食に用いられてきた食材や日本人の料理法の歴史の展示がメインであった。食材では硬水と軟水の違いや,日本の地域ごとの食材の紹介などが面白かった。日本はヨーロッパに比べると軟水に寄っていて,だからだしの文化が発達したというのは知っていたが,日本の中では南関東が比較的硬水で愛知県が超軟水というのは知らなかった。火山が多い県が硬水というわけでもなく,法則性が見えないのが面白い。野菜がいつ日本に来たかの表もだいたいのところは知っていたが,何度見てもレタスと白菜は詐欺だと思う。地方ごとの食材では大根の地域差が大きくて面白かった。割りと食べたことがあるような気はするが,何個かは見たことすらないものも。出雲おろち大根,概ねマンドラゴラでは。大丈夫? 引き抜いたときに叫んだりしない?

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料理法の歴史では過去の上流階級や庶民の食事の再現模型が展示されていた。卑弥呼や長屋王等の食事はTwitterで何度かバズっていたので見たことがある人も多いのではないか。長屋王や平安貴族の食事は現代の基準でも豪華な食材を使っているが,食材の種類や調理法の少なさのため,現代人が食べると短い日数で飽きそうである。近世初期の織田信長くらいまで来るとやっと和食の片鱗が見え始める。現代人は贅沢というよりも豊食である。明治期の洋食の展示もあり,本展の最終的なオチの一つは現代の和食は様々な要素の積み重ねで成立したものであって境界も曖昧であるというところであるから,明治期の洋食もその源流の一つという解釈なのだろう。

個人的には「日本食」と言われたらラーメンもカレーライスも入れていいが,「和食」と言われたらそれが作られた伝統だろうと純粋な和食だけを指してほしい。「洋食」や「日本式中華」も日本食の一つだと思うが,和食ではない。その意味で本展の結論は受け入れがたいというか,「日本食」という概念を示さずにあえて和食と洋食と日本式中華を混ぜ込んだのは乱暴だったのではないだろうか。もちろん和食にもゆらぎはあって,一番わかりやすい例で言えばカリフォルニアロールを認めるかどうか等は人によって意見が分かれるところだろう。本展でも世界に広がる和食としてカリフォルニアロールも取り上げていたのであるが,ラーメンとカリフォルニアロールを同じ次元で扱って「和食にもゆらぎがあるでしょ」という主張をしたかったようであるが,普通にカテゴリーエラーでは。生物分類や水質の話題に比べると後半の展示は突然雑になったように感じられた。科博とはいえ,もう少し文化史に丁寧な展示を期待したい。