2024年06月24日

登山記録19(岩木山,八甲田山,八幡平)

ここまでの登山記録では『ヤマノススメ』登場済の山を優先して記録してきたが,聖地巡礼済の山が尽きたのでここからは未登場の山が中心になる。ある程度地域ごとに固めて紹介したい。今回は北東北の百名山を三座。

No.48 岩木山
〔標高〕1625m
〔標高差〕約150m(リフト山頂駅から),約1450m(岩木山神社から)
〔百名山認定〕百名山
〔ヤマノススメ〕ー
〔県のグレーディング〕ー
〔私的な難易度と感想〕1B+(2B+)
 この登山行は,旅行計画中はリフト山頂駅と山頂を往復する予定であった。しかし,弘前市や青森市のレンタカーが完売状態で借りられなかったこと,また宿も嶽温泉で取れず,宿泊難民になりかけた挙げ句,出発直前になって岩木山神社付近のホテルに素泊まりの予約がとれたという状況であった。ゆえに弘前駅からリフト山麓駅まではタクシーに乗り,下山は岩木山神社に向かって下山するというルートをとることになった。結果論ではあるが,岩木山神社ルート(百沢登山道)の様子が知れたのは良かった。
 岩木山の面白いところは,リフト山頂駅から山頂までの道のりがけっこう険しい岩場だったことである。ロープウェーやリフトがあるような百名山・二百名山は,万人に開かれることが期待されているため,リフト山頂駅からピークまでは緩い道であることが多い。しかし,岩木山は火山らしい火山で,リフト山麓駅までは樹木の生い茂る普通の山であるのに,リフトの途上で次第に姿を変えていき,山頂駅ではすっかり緑が消え失せてゴツゴツの見た目になる(ロープウェーではなくリフトなので真下が見え,如実に変わっていくのが観察できる)。難易度はB+かC-というところで,初心者を連れていくのは完全に怖い。激しい強風と霧で山頂がホワイトアウトしていたのも少し怖かった。下山は前述の通り岩木山神社に向かって下ったが,大きめの石が転がる沢筋で,斜度の割には疲れる道であった。
 眺望は単独峰らしくさすがに抜群で,西には日本海,南には白神山地,東には弘前市が見える。東側以外の眺望はリフト山麓駅からでも十分見えるので,そこまでドライブするだけでも十分楽しいだろう。山頂は前述の通りホワイトアウトしていたので何も見えなかったが,『日本百名山』を読むと深田も同じ目に遭っており,またYAMAPの活動日記を見ると同じ目に遭っている登山者が多かったので,岩木山の山頂は基本的にガスっていて何も見えないことの方が多いと思っておいた方が良さそうである。
 また,深田も岩木山神社の方向に下っているが,ほとんど弱音を書かない深田にしては珍しく「ガクンガクン膝こぶしの痛くなるような下りが続いて」と書いている。岩木山神社への下山路はほぼ100年間そのままらしい。山頂でも下山路でもほぼ同じ体験と感想で,読んでいて笑ってしまった。最後に深田は下山の最後の方を「スキーで飛ばしたらさぞいいだろうと思いながら」下りていったそうだが,さすがに先見の明がある。こうなると,私は旅行計画を立てるのがぎりぎりだったために嶽温泉に入りそびれたのだが,入って深田の追体験をしておくべきだったと後悔している。



岩木山 / 稲田義智さんの活動データ | YAMAP / ヤマップ



No.49 八甲田山
〔標高〕1585m
〔標高差〕約280m(ロープウェー山頂駅から),約690m(酸ヶ湯から)
〔百名山認定〕百名山
〔ヤマノススメ〕ー
〔県のグレーディング〕ー
〔私的な難易度と感想〕2A(2B-)
 あの恐ろしい事件の印象が強いが,冬に行かなければ普通の山である。登山に詳しくない人だと年がら年中恐ろしい山という印象があるようで,行ったというと大体驚かれる。岩木山に登った翌々日,八甲田ホテルからシャトルバスで出発してロープウェー山麓駅,ロープウェーに乗って山頂駅へ。例によってロープウェーに乗っている最中からもう青森湾が見え,良い眺望であった。
 ロープウェーを降りてまずは赤倉岳に向かう。スタートして早々に美しい湿地帯が続き,赤倉岳の登りは樹林帯,赤倉岳の山頂からは火山らしい風景と疎林となり,風景が目まぐるしく変わって全く飽きない。主峰の大岳を下ると再び樹林帯,そして湿地帯へ。下山路は酸ヶ湯方面に下りたが,非常に強い硫黄の臭いと真っ黄色な岩肌,「火山ガス注意」の看板といかにも酸ヶ湯が近い風景で面白かった。万人に勧められる名山である。友人が「百名山の上位ランカー,十名山まで絞られても多分残る」と言っていたが,完全に同意である。
 難易度は全体として高くなく,非常に登りやすい。高尾山を6号路で登れるなら十分にロープウェー山頂駅と大岳を往復できるだろう。ただし,大岳から酸ヶ湯方面に下るとやや険しくなるので注意が必要。水量豊富の湿地帯を歩くので,木道が腐った泥を歩く羽目になることがあり,ゲイター(スパッツ)が必要かもしれない。それでもA+かB-というところだが。
 以下『日本百名山』から。山の名前の由来は,八つの峰と多くの湿地(田)を有することからとのこと。続いて八甲田雪中行軍遭難事件について言及しているが,これは短く終わった。深田が訪れた当時はまだ十和田八幡平国立公園に指定される前(つまり1936年より前)で,閑散としていたらしい。眺望や湿原の素晴らしさについては同意しかない。深田は登山中に偶然,八甲田の主と呼ぶべき登山者に遭遇していて,「この名物男は,いつも軍装をして……右肩にラッパ……頂上では陸軍のラッパ曲を吹く」とあるから,相当な面白じいさんだったらしい。1930年頃で八十歳とのことだから,1850年頃の生まれか。実は私も八甲田山に登った際,何百回と八甲田山に登っているという地元の方に話しかけられて,山頂で少し話を聞いた。八甲田山にはそういう名物男が存在する伝統でもあるのだろうか。
 深田は「大岳に登ったら,帰りはぜひ反対側の井戸岳を経て毛無岱に下ることをお勧めしたい。これほど美しい高原は滅多にない」と書いている。私はむしろ井戸岳を経て大岳に登り,その後は酸ヶ湯に下りたので毛無岱は経由しなかった。深田の時代は酸ヶ湯から登っていくから井戸岳や毛無岱はむしろ下山で寄る場所であったのだろうが,現代ではロープウェー山頂駅から井戸岳を経て大岳に向かうのが一般的であるから,向きが逆になっている影響はありそうだ。なお,深田はここでも「スキー場としての八甲田山は今後栄える一途であろう」と書いているが,スキー場のためにロープウェーができ,ロープウェーのために登山路が逆向きになることまでは想像がつかなかったか。



赤倉岳・井戸岳・八甲田山(大岳) / 稲田義智さんの活動データ | YAMAP / ヤマップ



No.50 八幡平
〔標高〕1613m
〔標高差〕約80m
〔百名山認定〕百名山
〔ヤマノススメ〕ー
〔県のグレーディング〕ー
〔私的な難易度と感想〕1A-
 藤七温泉のついでに登山。名前の通り真っ平らであり,難所は全く無い。霧ヶ峰と並ぶ百名山で最も易しい山ではないだろうか。標高差を測ってみたら80mもあって驚いた。山頂の展望台からは,確かに頂上付近がほとんど平らになっていて,森林限界も超えていないことから比較的高めの森林がかなり遠方まで続いているのが見えて絶景であった。霧ヶ峰や美ヶ原との違いはこの樹林帯の存在であろう。同行した友人が撮影したドローンの映像があるので,そちらもご覧いただきたい。ピークハントの後は沼と湿原を巡って散歩するのがよい。7月に行くとニッコウキスゲが繁茂していて,高山植物に大して興味がない私でも美しいと感じた。
 以下は『日本百名山』から。冒頭で「十和田湖へ行く人数に比べて,八幡平はずっと少ない」と書かれている。八幡平については先行する紀行文が少ない,とも。そこから八幡平は随分とメジャーな観光地になった。というよりも深田久弥レベルの人がその印象だったのに,八甲田山や十和田湖とくくられて突然1936年に国立公園になったのだから,そちらの方が不思議である。名称の伝承については,八幡太郎義家が由来であることに触れつつ「もちろん信ずるに足りない」とばっさりである(もちろん坂上田村麻呂説も否定している)。深田は割りとドライで,伝承を調べるのが好きな一方,割りと正直にばっさり行く傾向が強い。八幡平が開かれた理由として温泉が挙げられており,地図中には藤七温泉も記載されていた。前述の通り私も泊まっているが,あの温泉は昭和の初期からあったのか……調べてみると開業が昭和5年とのことで,深田が八幡平を訪れた当時は開業してすぐのことだったのだろう。もっとも深田自身は蒸ノ湯と後生掛に入っていったようだ。なお,当然ドラゴンアイについての言及はない。ドラゴンアイは10年ほど前に私が行った時にもまだ話題になっていなかったので,本当に極最近観光名所に変わったのではないか。



八幡平 / 稲田義智さんの活動データ | YAMAP / ヤマップ