2024年07月03日

登山記録24(天城山,荒島岳,茅ヶ岳)

疑問符のある百名山,二百名山の追試シリーズ。

No.64 天城山(万二郎岳,万三郎岳)
〔標高〕1405m
〔標高差〕約360m(天城高原ゴルフ場から)
〔百名山認定〕百名山
〔ヤマノススメ〕ー
〔県のグレーディング〕2B
〔私的な難易度と感想〕2B-
 2020年3月,コロナが流行して登山に行けなくなる前に手軽な百名山を一つ倒しておこうということで旅程が立ち上がった。この頃の私は百名山がまだ11座目で,初めて百名山にしては微妙だなと感じ,同行者とともに百名山という概念について考え直す良い機会となった。YAMAP等の活動記録を調べても「なぜこれが百名山」という感想を書いている人は多い。
 天城山は水量が非常に豊富な山で,百名山ということで通行量も多いことから,おそらく整備も間に合わず,登山道が水没しがちなことで有名である。我々が行ったときも道中の大半がぬかるんでいて難儀した。また,立地的には富士山と相模湾・太平洋が両方見えるはずだが,その豊富な水量と暖かさゆえに樹木が生い茂り,万二郎岳・万三郎岳の山頂ですら樹木の切れ目を探してやっと眺望があるかどうかという状況である。これで名物のアセビ(4月)やシャクナゲ(5月)ならまだそれが楽しめたかもしれないが,3月では単なる生えかけの新緑であったから,正直に言って楽しみが非常に薄い登山であった。
 とはいえ天城山と言えば天城越えであって『伊豆の踊子』である。文学性や歴史性も加点ポイントではないだろうか,という話は当然あるのだが,実のところ演歌「天城越え」の歌詞を読めばわかる通り,歴史的に旅人が通った道は万二郎岳や万三郎岳ではない。もっと西の天城峠の方である。加えて言えば眺望が良くて有名なのも十国峠等,伊豆半島の別の名所であって,やはりアセビの咲く登山道ではないのだ。したがって,伊豆半島中央部の山塊をすべて「天城山」と見なし,その魅力を総合すれば確かに百名山と言いうるだろうが,万二郎岳・万三郎岳の二座のみを指して百名山とするのは詐欺に近い。そして霧島連山や吾妻山のような形態ならともかく,天城山の形態で山域を広くとるのはちょっと虫が良すぎるというのが私見である。難易度は,純粋な技術的難易度だけで言えばA-でもよいが,ぬかるみとの戦いがあることからB-とした。
 とはいえ,アセビやシャクナゲの時期を外していき,天城峠まで縦走せずに万二郎岳・万三郎岳のピークハントだけして帰って文句を言っているという負い目はあるので,今度はちゃんとぬかるみ対策をしつつ,天城峠観光も兼ねて,花の時期にもう一度登ってみようかなという気はしている。
 深田久弥は『日本百名山』で天城山について,戦前は要塞地帯だったために地図が無かったことや,信州や甲州の山に比べて惹かれなかったことから,長らく興味が持てなかったことを吐露している。しかも,終戦後に地図が出るや否や世俗に染まっていきそうなことを危惧している。それで最初の1ページが終わり,2ページ目で伊豆半島が活発な火山活動で形成されたことに触れ,3ページで早々に山行記録に入ってしまう。……あれ,『伊豆の踊り子』や『天城越え』(松本清張)は? 下田街道は? 歴史や文学にほとんど触れていない点で他の山と一線を画している。
 山行記録も山に入るまでが長く,3ページ目は概ね伊豆半島や大室山の感想であるから,実質的に4ページ目だけである。しかも深田が登ったのは12月下旬,ひたすら寒かったようで,早々に下山して温泉に入ったことで終わっている。また,「天城のいいことの一つは,見晴らしである」としているが,現在の天城山は樹林帯に埋没していて,万二郎岳や万三郎岳はあまり眺望が良くない。
 実は私自身も天城山を登って百名山にたる良さが無いという感想を持ったのだが,読んでみると深田もそこまで思い入れがあって百名山に入れたようには全く思われず,いわゆる当落線上の三十座の一つに違いなかろう。百名山からクビでいいのでは。




No.65 荒島岳
〔標高〕1523m
〔標高差〕約1280m(勝原登山口から)
〔百名山認定〕百名山
〔ヤマノススメ〕ー
〔県のグレーディング〕ー
〔私的な難易度と感想〕3B
 天城山・恵那山と並んで「百名山から外してもいいのでは」と言われがちな荒島岳。また深田久弥が幼少期に育った地から近いことから「幼馴染枠」とも言われ,ある意味散々な評価である。百名山の追試をしようということで登りに行った。結論から言えば,正直幼馴染説が正しいかなと思う。トータルで言って悪い山ではなく,二百名山の上位と言われたら納得する。序中盤は低木層またはブナの原生林が続いて眺望がなく,飽きる。稜線に出ると眺望があるが,ひたすらに雄大な白山が美しいだけでバリエーションに欠く。これでコースタイム6時間は少し厳しい。山頂はさすがにもう少し開けて北アルプス・乗鞍・御嶽・日本海と見える。しかし,別の百名山がひたすらに美しく見えるというだけでは,自身が百名山にたる格が足りない。もう一つ何か特有の美点が欲しい。天城山と合わせて世評の正しさを確認することとなった。なお,荒島岳が美しいのは雪山という意見も見るが,肝心の深田が冬に登っていない。登る前日に勝山市の秋吉で飲んでいたら,隣の席の地元民に「そんなところに行くな,恐竜博物館に行け」と諭されたのも記憶に残っており,地元民にもそういう扱いなのかと思うと少し悲しい。流石にそう言われてしまうほどの悪い山ではない。繰り返すが二百名山なら違和感がない程度には良い山である。
 難易度は3B。後半に「もちがかべ」という名の岩場があるが,それでもBレベル程度である。そこ以外はA。ただし,登山道の大半が北側斜面であるため,足元は越前焼の素材になりそうな粘土になっていて,滑りやすく汚れやすい。「生命の危険は無いが,転ばないための難易度はC並」とは同行者の弁で,同意である。我々は勝原ルートで登ったが,中出ルートも同様に北側だから同じだろう。



荒島岳 / 稲田義智さんの活動データ | YAMAP / ヤマップ



No.66 茅ヶ岳
〔標高〕1704m
〔標高差〕約760m(深田公園登山口から)
〔百名山認定〕二百名山
〔ヤマノススメ〕ー
〔県のグレーディング〕2B
〔私的な難易度と感想〕2B/2A
 これだけ深田久弥リスペクトで百名山を登っているのだから,深田久弥自身の聖地にも巡礼しておこうかという話になって登った。深田久弥終焉の地として有名で,山頂付近で脳溢血で倒れた。滑落したわけではない。倒れているのが発見された場所に石碑が立っているということでそれを見に行くことにした。
 登ってみた感想としては,深田久弥終焉の地でなければ二百名山には入ってないと思われる,平凡な山である。鬱蒼とした樹林帯が登山道の大半を占め,山頂以外は全く眺望がない。登山道は二種類に分かれ,稜線歩きの道はやや険しくてグレーディングBに該当するが,谷筋の道は階段になっていてAである。特に理由がなければ稜線の道が楽しいわけでもないので谷筋の道をお勧めする。整備した山梨県としても稜線は登山道,谷筋は遊歩道と呼称していた。山頂は流石に展望があり,特に近隣の百名山である金峰山がよく見える。金峰山の山頂の五丈岩まで見えた時は少し感動した。なお,肝心の深田久弥終焉の地の石碑であるが,予想していたよりもかなり小さく,やや残念であった。功績を考えるともっと巨大でもよい。総合して,深田久弥の聖地巡礼目的でなければ,あまり推薦しない。