2024年07月08日

登山記録29(御嶽山,四阿山・根子岳)

No.75 御嶽山
〔標高〕3067m
〔標高差〕約930m(ロープウェー飯森高原駅から)
〔百名山認定〕百名山
〔ヤマノススメ〕ー
〔県のグレーディング〕3B
〔私的な難易度と感想〕3B
 御嶽山が素晴らしいのはその立地であると思う。北アルプスにも中央アルプスにも属さない独立峰であり,かつそのいずれも見える場所に位置している。私が登った日は非常によく晴れていて,六合目のロープウェイ駅ですでに絶景だったが,山頂からは全周の眺めが良かった。乗鞍岳と北アルプスはもちろんのこと,その先の日本海まで視野に入り,中央アルプスの先の南アルプスや富士山,さらに伊勢湾に伊吹山まで見えた。冗談抜きで日本百名山の半分が視界に入っていたのではないかと思う。逆にこの後,中央アルプスや南アルプスのどの山を登っても御嶽山は見える。その目立つ度合いは富士山並かもしれない。
 難易度はB。ロープウェーで標高を稼げるものの,それでも登山道はそれなりに長い。岩場らしい岩場が無いが,そのためにかえって両足だけで休憩スポットも無いまま,延々と続く登山道を登っていくことになる。標高のため空気も薄く,山頂付近は斜度の割に苦しい。樹林帯がほぼ無いので日射との戦いにもなるから,足元の技術が問われない割に難易度は高いと思われる。山小屋は一合おきにあり,トイレと補給には全く困らない。
 同行者が旅行記を書いてくれているのでそちらもお読みいただきたい。多少補足すると,御嶽山の山小屋や泊まったペンション等のいたるところに御嶽海のポスターやら優勝した時の番付が張られており,ちゃんと郷土の英雄として強く応援されていた。しかし,話を聞くと一様に「彼は欲が無さすぎてね……」等のように悲しそうに語られるので面白かった。なお,私が登ったのは2021年の10月頭だが,この後の11月場所で二桁勝利,翌年初場所で三度目の優勝と大関取りを果たす。また,山頂等で少し話をした他の登山客三人が皆「あの日も今日のような晴天でね……」と噴火サバイバーばかりで笑った。変なフラグを立てるのはやめてほしい。その2014年の噴火についてはNHKが良い特設サイトを作っていたので,読んだことがない人はこちらも是非。
 『日本百名山』では,他の霊山が一般登山に飲み込まれたのに対して,御嶽山だけは宗教登山の風俗を濃厚に保っていることを強調しているのは,いかにも深田らしい記述である。これは数十年後の現在では評価が難しい。御嶽も随分と一般登山者が増えていて,深田が言う一般登山者が「疎外感のような感じ」ということは完全に無くなっている。それでも他の山に比べると信仰篤く,宗教色が残っているようにも思われる。深田は御嶽の宗教的モニュメントの多さを指摘していて,これは2014年の噴火も乗り越えて,今なお残っている。というよりも石碑の多さが御嶽山をまだ信仰の山たらしめている最後の砦と言えるかもしれない。あるいは逆に,そうした膨大な石碑が生み出す一種異様な雰囲気自体か観光の対象と化していて,やはり信仰は観光に飲み込まれているとも言えよう。
 深田が登った当時と現在の最大の違いはやはり2014年の噴火である。浅間山や磐梯山など他の火山では噴火に言及があるが,御嶽山のページでは一切言及がない。どころか御嶽が火山であること自体に言及がない。なにせその頃の御嶽山は死火山と思われていて(死火山という概念自体が21世紀には滅んでいる),御嶽山の小規模な活動が見られたのは1979年のことであった。2014年の大噴火は当時の登山家にとって青天の霹靂であり,だからこそ大きな被害が出たのである。死後40年以上も経ってからの出来事であるから言及できるはずがないことはわかっていても,微妙な違和感がぬぐえない。もうこれほど牧歌的に御嶽を語ることができなくなったわけで,『日本百名山』で最も時の流れを感じるのはこの御嶽の部分かもしれない。




御嶽山(剣ヶ峰) / 稲田義智さんの御嶽山の活動データ | YAMAP / ヤマップ



No.76,77 四阿山・根子岳
〔標高〕2354m(四阿山),2207m(根子岳)
〔標高差〕約620m(菅平牧場から根子岳まで),約770m(菅平牧場から四阿山まで)
〔百名山認定〕百名山
〔ヤマノススメ〕ー
〔県のグレーディング〕2A(根子岳),3B(四阿山)
〔私的な難易度と感想〕1A+(根子岳),3B-(四阿山)
 四阿山は東京から行くにアクセスが非常に良く,北陸新幹線が四阿山の麓をぐるりと回り込むように走っているため行きやすい。その割に行く前はあまりイメージがなく,『日本百名山』を読んでも印象に残らず,『ヤマノススメ』でも登られていないので放置していた山であった。長野県や群馬県にしても観光名所として売っていく気があまりないらしく,目立った観光案内がインターネット上にも見当たらなかった。しかし,登ってみると非常に良い山で,百名山にたる格を持つ山であった。登山ルートは菅平牧場から根子岳に登り,そこから四阿山に縦走した後,中四阿・小四阿と別ルートで下山する周回ルートが一般的で,この逆でも良いようだ。出発地点の菅平牧場自体が観光地となっており,駐車料金は300円。私が行ったときには散策やバーベキューを楽しむ人々がいて,牛が放牧されており,ツツジが綺麗に咲いていた。
 そこから根子岳への登山道は,牧場が続く間は眺望があり,登り切ると東屋がある。四阿山の東屋と誰しもがツッコミを入れるスポットである。さらに登っていくと樹林帯に入り,根子岳の山頂付近で一気に開ける。根子岳からの眺望は悪くないが,牧場からのものとそこまで違いはない。根子岳を過ぎると突然山容が変わり,崖を下ると巨岩が道をふさぎ,それを避けるように登山道を進むと横倒しになった柱状節理のような岩が天然のテーブルや椅子を形成している。根子岳山頂で休憩するよりもこちらで休憩した方がよい。巨岩の上からは四阿山が,振り返れば根子岳がよく見える。さらに進むと笹薮の繁茂する疎林になり,これらの巨岩や疎林が美しく,草原歩きが楽しい。登りが始まると同時に樹林帯が始まり,ここからこのルート最大の急登が続く。この周回ルート唯一の欠点はこの急登があまりにも厳しいことである。せめてこの区間の眺望が良ければよいのだが,樹林帯に沈んでいるため全く無い。
 根子岳は九合目にたどり着くと樹林帯が切れ,山頂までは浅間山を横に眺めながら登山になる。山頂では浅間山に加えて志賀高原も見えるが,そこまで山頂の眺望が売りという山ではないように思われた。下山路に入り,こちらは登りとは対象的に山頂からしばらく樹林帯に入らず,菅平高原を見下ろす眺望の良いままの道が続く。途中の中四阿山は根子岳と四阿山を並んで見える良いスポット。特に中四阿山から見る四阿山は美しい。小四阿山を過ぎるととうとう樹林帯に入るが,白樺とツツジが乱れて咲く面白い樹林帯で見飽きない。難易度も高すぎず,一部に岩場がないわけではないのと,根子岳と四阿山の間の急登を考慮して3B-としたが,アクセスの良さも含めて広く勧めやすい。根子岳を通らない,中四阿山を通るピストンならA+とする。
 『日本百名山』では,深田は「しみじみとした情緒を持った日本的な山」と評している。確かに目立った岩稜のない,火山なのに全く火山らしさがない四阿山は,その落ち着いた雰囲気が美点と言えるだろう。スキー好きの深田としては四阿山はバックカントリーのための山であったようで,現在でも四阿山はバックカントリーが盛んであるから,深田はその先駆者と言えよう。菅平から小四阿・中四阿を通って四阿山に登頂している。



根子岳・四阿山・中四阿・小四阿 / 稲田義智さんの活動データ | YAMAP / ヤマップ