2024年07月10日

登山記録31(西吾妻山,磐梯山,安達太良山)

No.80 西吾妻山
〔標高〕2035m
〔標高差〕約220m(天元台リフト山頂駅から)
〔百名山認定〕百名山
〔ヤマノススメ〕ー
〔県のグレーディング〕2B
〔私的な難易度と感想〕2B
 山域の広い吾妻山のうち,観光名所になっているのは東側である。西側はただの最高峰だろうとあまり期待をせずに行ったら,真っ当に百名山の風格がある良い山だった。私は時短のためロープウェーとリフトに乗ったが,ロープウェーは省略できるのは80分程度,沢筋の道で途中に温泉もあるから,時間があるなら下山だけでも普通に下りてもよいかもしれない。一方でリフトはスキー場の真上を進むもので,1時間半ほど省略できるから乗った方が無難だろう。リフト山頂駅を出てからしばらくは普通の登山道の樹林帯だが,30分ほど歩いて標高を100m上げると展望が開ける。そこからは長く雰囲気の良い湿原が続く。点在する池塘を横目に,穏やかな表情の西吾妻山を目指して歩いていくのは気持ちが良い。湿原は基本的に木道が引いてあるが,何分水量が多いために腐り落ちているものも少なくなかった。これを未整備と言ってしまうのは高望みだろうと思う。
 見飽きない湿原を歩き続けると,標高が2000mに達した辺りで突然地形が変わり,岩石が敷き詰められた台地状の場所に出る。その中でひときわ巨大な岩石があり,天狗岩と名付けられている。この天狗岩の付近からは眺望がさらに開けて米沢市を一望できる。ここまで言うことのない名山っぷりを見せてくれているが,天狗岩を過ぎると途端に単なる樹林帯となり,暗い道は雨水が蒸発せずぬかるんでいた。その先にある山頂は侘しく標識が立っているのみである。最後の15分だけが締まらない。東吾妻山に比べると人気がなく地味な印象の西吾妻山ながら実際には十分な名山である……のだが,その山頂のみは印象通り極めて地味であるというのはあまりにも話が出来すぎている。この侘しい標識の出す味の良さは行ってみなければわかるまい。難易度は2B。初心者を連れて行くと天狗岩の周囲の岩場で難儀するかもしれない。
 西吾妻山がこれだけ良い山だったので,いつかは東吾妻山も登らねばなるまい。なお,若かりし頃の天皇陛下は東西の吾妻山を縦走していたが,さすがにこれは追わなくていいかなと思う。また,深田久弥は『日本百名山』で,西吾妻山について「稜線というより広大な高原」としつつ,いたく感動していた。また「一人の登山者とも出会わなかった」「まだリフトなど全くなかった頃である」としているが,リフトができたところで,西吾妻山はメジャーにはならなかった。喧騒を嫌う深田にとっては良かったことかもしれない。



西吾妻山 / 稲田義智さんの活動データ | YAMAP / ヤマップ




No.81 磐梯山
〔標高〕1816m
〔標高差〕約630m(八方台登山口から)
〔百名山認定〕百名山
〔ヤマノススメ〕ー
〔県のグレーディング〕ー
〔私的な難易度と感想〕2A+
 福島県を代表する山。思っていたよりも難易度が低くて登りやすかった。体力さえあれば,割と初心者でも登れてしまうのではないだろうか。八方台登山口から出発してしばらくは緩やかな斜度の樹林帯が続く。水量豊富でキノコが多く生えていたが,誰もとっていかなかったあたりは関東と違うなと思った。切れたところにあるのが中の湯温泉跡で,硫黄の匂いが強く,水も温泉らしい青白いものであったが,少し触った感触だと野湯として使うには湯が冷えていた。中の湯を過ぎると再び樹林帯になるが,少しずつ切れ目が生じて眺望の良いスポットが登場するようになる。この辺りから巨大な磐梯山のカルデラの残骸や,桧原湖等の周囲の湖沼群が見えるようになってくる。この湖沼群は1888年の大爆発の際に成立した堰止湖で,この噴火では数百人単位の人が亡くなっている。冬に登頂したことがあった同行者たちは,冬は樹林帯が全て雪の下に埋まっていたため,森林限界が山頂付近であったことに驚いていた。
 八合目と呼べるような辺りまで登ると,弘法清水小屋という茶屋が見え,ここで多くの人が休憩している。この茶屋は天皇陛下が登られた際にお立ち寄りになったとのことで,当時の話を聞くことができたのも面白かった。同行者は天皇陛下も食べたというなめこ汁を食べていた。私は山小屋Tシャツを買った。なお,弘法清水小屋から30分ほどで山頂に着く。全周にわたって眺望が良く,やはり南側の雄大な猪苗代湖が最も映える。東側には安達太良山,北側には吾妻連峰が見えるが,ここでも西吾妻山は埋もれてしまってどれがそのピークかわからない。この目立たなさが愛らしい。総合して良い山ではあったが,登山の体験や眺望で比較して西吾妻山や安達太良山よりも良い山だったかと問われると難しい。個人的には西吾妻山や安達太良山の方が好き。
 『日本百名山』では,深田は裏磐梯よりも表磐梯の方が山容が美しいという評している。その山容の紹介が含まれていることから,磐梯山は例外的に6ページに渡っている(他のほとんどの山は4ページ)。深田にとって磐梯山の山容はそれだけ重要であった。山名は「岩」と「梯(はし)」から,噴火口の岩壁に由来しているのではないかとしている。登山記録も表から登っていて,とすると当然のようにスキーにも言及がある。弘法清水で裏磐梯からの登山道と合流して人が増え,登山者のゴミが散らばっていることに苦言を呈していた。当時の登山者のマナーよ……。帰りはその裏磐梯に下っていているが,やはり観光客の多さが気に食わないらしい。最後は「シムメトリーよりもデフォルメを好む傾向を近代的とすれば,たしかに磐梯の(磐梯山と猪苗代湖しかない)表よりも(変化に富む)裏にそれがある」と詩的な表現で締めている。この評価は当たっていて,裏磐梯の方が栄えているのだから,現代人の好みは60年経っても変わっていない。



磐梯山 / 稲田義智さんの活動データ | YAMAP / ヤマップ



No.82 安達太良山
〔標高〕1699m
〔標高差〕約350m(ロープウェー山頂駅から)
〔百名山認定〕百名山
〔ヤマノススメ〕ー
〔県のグレーディング〕ー
〔私的な難易度と感想〕1A+/B-
 磐梯山の東側にそびえる火山。ロープウェー山頂駅からしばらくはまだ樹林やハイマツが続き,すぐに見えてくるのが『智恵子抄』に由来する「この上がほんとの空です」という二本松市が立てた標柱である。東京都民としては東京にもほんとの空はあるわいと反論したくなるが,標柱から真上を眺めるのが観光の作法というものだろう。ところで,『智恵子抄』でいうほんとの空とは二本松市から眺める安達太良山の上空であるので,安達太良山から眺める上空は何か違うと思う。
 登山道の四分の三を過ぎ,山頂に近づくととたんに荒涼とした風景に変わる。同じ火山でも明治の大噴火の後はおとなしくなったために樹林帯に覆われた磐梯山と異なり,安達太良山はまだ火山活動が活発なのだろう。このあたりから眺望が良くなり,山頂からの眺望としては,東側に南から順に郡山市・二本松市・福島市と3つの都市が見える。比較してみると郡山市は大きく,二本松市は小さい。北側には蔵王山が,西側には磐梯山が見える。そして眼下には巨大な噴火口である沼ノ平の端が見え,なかなか素晴らしい。なお,山頂自体には「皇紀二千六百年記念」「八紘一宇」云々と彫られた石柱が倒れている。登山者に見向きもされていないことも含めて歴史を感じさせる。調べてみるとこの「八紘一宇」石柱が倒れたのは令和3年とのことなので,意外と最近まで直立していた。
 難易度はA+で易しい。ただし注意点が2つある。まず,登山者が多いためか整備がおいついておらず,しばしば崩壊した階段に出くわす。避けながら登るのには少し難儀するかもしれない。次に山頂のみ岩場があり,はしごを登る場面がある(これを加味するならB-)。短いので初心者は慎重に登ろう。ロープウェーで標高を稼げることも含めて初心者にも勧めやすい。
 安達太良山はロープウェーで登るコース以外に,反対側(磐梯山側)の沼尻高原から登っていくルートもメジャーであり,こちらには野湯がある。この野湯がすばらしいようなので,安達太良山はこちらのルートからもう一度登ってみたい。



薬師岳・安達太良山 / 稲田義智さんの活動データ | YAMAP / ヤマップ