2024年07月19日

国公立大・世界史の入試問題の論述字数の不安定性について(1)総字数編

 大学入試問題は,基本的に昨年の傾向・形式が維持されると予期される。大学入試は選抜であるともに,その大学の講義についていけるだけの学力があるかどうかを測ることが目的であるから,大学の特色に沿った入試問題が課されるのである。結果として蓄積された過去問は「欲しい学生像」を伝えるメッセージとなっている。
 ところが,受験世界史において意外と不安定なものがある。国公立大学の論述字数である。一回の試験で課される論述字数の多寡は,試験の傾向を決める大きな要素である。試験時間あたりの総論述字数が多ければ,制限時間の中で急いで知識を整理して文章をまとめる処理能力を測っているということになる。この場合,問題の要求自体は易しいことが多い。逆に,試験時間あたりの総論述字数が少なければ,比較的ゆとりのある試験時間の中で熟考する能力があるかを測る設定になっている。たとえば,字数が安定している大学を選んで言及すれば,筑波大と一橋大はどちらも試験時間が120分であるが,筑波大は400字が4問で1600字,一橋大は400字が3問1200字である。すなわち筑波大は知識整理型志向で,一橋大は熟考型志向である。また,論述の対策は時間がかかるものであり,受験生の負担は大きい。配点に対する論述のウェイトが高い大学は,それだけ受験生に世界史の学習を強いている(他教科の学習時間を減らすことを強いている)ことになる。論述字数の多寡は個人の受験戦略全体にも影響を及ぼすのだ。
 したがって,冒頭の繰り返しになるが,論述字数が極端に不安定ということは,大学が受験生に求める能力,欲しい学生像が固まっていないということである。学年ごとに学生の性質を帰ることで多様性を生み出したいとか,過去問研究に頼らない学生が欲しいとか,校風を変革する最中であるとか,そういった可能性も無くはないが,ほとんどの場合は単純に校風が不安定なのだろう。もちろん,毎年字数が完全に固定されている必要は無く,多少の自由度がなければ作問に不都合が生じる。そうした作問上必要な自由度と,受験生を驚かせない範囲のバランスを考えるに,直近5年の平均字数の±20%ほどが許容値ではないかと思う。以上を踏まえて作成したのが以下の表である。最大値・最小値をそれぞれ5年平均字数と比較し,±20%を超えたセルを赤字とした。例によってライブドアブログの仕様上で表を直接貼れないので画像化する(要望が多ければコピペしやすい表をはてなブログの方に置く)。

スクリーンショット 2024-07-18 192853


備考に補足するが,少し煩雑である上に本質的ではないので,興味がなければこの段落は読み飛ばしてもらってかまわない。「行」とは,解答欄がマス目ではなく横罫線となっている問題があることを指す。この場合,解答の字数が明確ではないが,多くの大学入試の解答用紙はB4縦型であり,横罫線は15cm前後である。このため予備校の解答速報・赤本・入試問題正解のいずれも1行を30〜35字に換算していることが多い(名古屋大学のみ罫線がやや短く25字換算)。ここでも1行は25字または30字に換算して集計した。「全問行」は全論述問題の解答欄が横罫線である。「一部行」は,マス目の解答欄と横罫線の解答欄が混在している。「小問は行」は,200字を超える大論述の問題はマス目,それ未満の論述は横罫線という切り分けをしている大学である。「無制限」は解答欄が横罫線である上に,問題の要求に比して明らかに過剰な行数が用意されている場合を指す。たとえば京都府立大の論述問題は,まともに解答を作成すると300〜400字程度で収まるが,解答欄自体は1000字くらい書けるものである。このため実質的に無制限である。
 閑話休題。表を見ると,旧帝大とそれに準ずる大学は安定していることがわかる。東京外大だけ少しはみ出ているが,これは2019年も540字,2018年が630字であるから傾向の変化といえる範疇で,むしろ2021年以降は400〜440字で極めて安定している。問題では荒れ球が多い名古屋大や大阪大も字数は安定している。この点では受験生への配慮が行き届いている。
 一方,その他の国公立大はなかなかひどい。特に高崎経済大と愛知教育大は情緒不安定と言われても仕方が無い。高崎経済大は論述問題のつくりが上手くなく,『絶対に解けない受験世界史』シリーズの隠れた常連校である。愛知教育大は論述問題の質自体はしっかりしているが,2020年から2023年にかけての1015字・455字・940字・1370字という並びを見ると,字数の変動が激しすぎてジェットコースターかなと思ってしまう。ナガシマスパーランドリスペクトかな。一応擁護すると,2021年の字数が少なかったのは,COVID-19の社会混乱による学習の遅れに配慮するように文科省から指示が出ていたので,それに従った可能性がある。他の大多数の大学は一切配慮しなかったので,真面目に対応した愛教大が馬鹿を見た形かもしれない。ただし,愛教大は2018年以前にさかのぼっていってもやはり700字から1000字くらいでジェットコースターしているので,そもそも情緒が不安定な大学と言って過言ではない。
 信州大は2020年の字数が長かったので,基準に引っかかってしまったが,2021年以降は500字前後で安定している。2019年以前は900〜1000字で安定していたので,2020年と2021年の間で大きく傾向を変えたと言った方が正しい。それでもこの変更を予告なしでやっているので,2021年度の受験生は面食らったのではないか。なお,信州大の論述問題は良問が多かったが,2024年を最後に地歴での二次試験が廃止となった。残念である。神戸市外大も2021年に世界史を二次試験に採用したばかりでノウハウの蓄積がないという擁護は可能だろう。
 最後に東京学芸大について触れておく。この大学は%だけで言えば振れ幅が大きくないが,字数そのものが非常に多い。受験世界史での最長字数は一般に筑波大の1600字と言われているが,平均値で見ると東京学芸大の方が長い。試験時間は筑波大と同じ120分であるが,東京学芸大には2000字超の年もあった。筑波大の1600字でも腱鞘炎との戦いとしばしば指摘されるところ,学芸大の受験生の肘は大丈夫だろうか……。ただし,問題の難易度は筑波大の方が難しく,学芸大の方が易しい。また,東京学芸大の二次試験は地歴公民が300点,小論文が30点の330点満点で,英語や国語が課されない。実質的に地歴公民の一発勝負である。であればこれくらいの無理をさせてもよいのかなと思えた。

明日の(2)に続く。