2024年07月20日
国公立大・世界史の入試問題の論述字数の不安定性について(2)小問編
昨日の続き。大学入試問題の論述字数を考える際,もう一つ論点になるものがある。1小問の字数である。小問別で考えた場合,大論述問題の有無は影響が大きい。150字程度までの字数で問われる論述問題は,一部の例外を除くと辞書的な説明や,教科書の1ページに収まる範囲の叙述が求められるものが多い。これに対して200字を超える問題は,散らばった複数の時代や地域を叙述させたり,比較させたり,歴史的意義を解答させたりするものが多い。後者を受験業界で一般に大論述と呼ぶ。
大論述と小論述の違いは長距離走と短距離走のようなもので,鍛え方も異なってくる。たとえば,東京大学の世界史の入試問題は,600字程度の大論述1問,60〜120字程度の小論述が5・6問,一問一答の語句記述問題が約10問という構成で,総論述字数は1000字前後である。それぞれで大論述では大風呂敷の文章構成力,小論述では端的にまとめる能力,語句記述では単純な知識を測っており,役割分担がされている。したがって,論述能力も別々に鍛えることが肝要なのである。もちろん,募集要項にはそこまでの細かい記載は無いので,突然全く違う傾向・形式が採用されても受験生は文句を言えない。しかし,総論述字数についての議論と同様,最大で何字の論述問題が課されるか,とりわけ大論述が存在するかどうかは受験生の負担の違いに加えて,大学からの「欲しい学生像」にかかわるため,不安定であっては困るのである。
というわけで,これも統計をとってみた。以下は各年度の入試問題のうち,最も字数の大きい小問の字数である。総論述字数よりは揺らぎが大きくても許されるだろうと思われるため,直近5年の平均字数の±30%を許容範囲とし,最大値・最小値がそれをはみ出したセルを赤字とした。また,前述の事情から最大値と最小値が200字をまたいでいるものと,激変が見られた箇所を赤字とした。

補足と分析を記す。旧帝大とそれに準ずる大学はやはり安定しているところが多い。その中で東大の最小値が基準を下回っているが,これは2024年の大論述が例年の600字1問から360字と150字の2問に分裂したためである。伝統ある東大の第1問が600字ではなかったということで当時大きな話題になった。ただし,これで東大が伝統を捨てたと慌てるのは早計で,解いてみると実際には510字の1問が形式の都合で2問に分裂したに過ぎないとわかる。2問に分裂して簡単になったわけではなく,次年度は600字1問に戻ると思われる。
次に大阪大について。文学部と外国語学部で多少異なるので分けている。ここは大論述があったりなかったりしているので,一見すると不安定に見える。しかし,大阪大学は「受験生にいたずらに大論述を書かせなくても,作問の工夫次第で論述力を測ることは可能である」というイデオロギーで作問している節がある。実際に150字程度の小論述なのに解法上は大論述の訓練が必要というパターンの問題が多く,問題の作りは上手い。このため例外的な存在で,実は難易度や必要な学習水準の点で安定している大学なのである。
一方,その他の国公立大はやはり不安定なところがいくつかある。新潟大は2022年に何かあったのだろうか。試しに大論述を出題してみたくなったか。問いはピレンヌ・テーゼで,大論述では定番のテーマである(京大300字や一橋大400字でも頻出)。おそらく受験生の出来が悪く2023年には再び課さなかったのだと思われるが,予告なしに大論述を課されても受験生は対応できないのは当然である。ただ,前言撤回気味の発言をすると,こういう挑戦心は嫌いじゃない。無茶になりすぎない範囲であれば,受験生は買いかぶっていい。逆パターンが千葉大で,2024年の千葉大受験生の食らった「肩透かし」はちょっとかわいそうである。千葉大は旧帝大並に難解な大論述を課す大学であり,年度によっては小問3問が全て大論述という構成もあった。まさか1問も大論述が出ないとは思うまい。では2024年度の小論述が大阪大並に難しかったかというとそうでもなく,単に易化しただけであった。世界史が苦手な受験生は安心し,世界史で他科目の出来を挽回しようと思っていた受験生は絶望したのではないだろうか。2025年は揺り戻しで大論述が出るか,それとも小論述しか出題しない大学になっていくのか,業界の関心を集めている。
高崎経済大は2022-23年の間に前期と中期の字数が逆転している。作問者を交換したのだろうか。いずれにせよ小論述しか課していないので,受験生への影響は%ほどには大きくなかっただろうと思われる。東京都立大は2023年だけ400字論述が出て,前年の倍になった。大論述の範疇での増加とはいえ,受験生は驚いただろう。2024年は200字まで戻りきらず,270字となったのは興味深い。2023年にそれなりに対応できた受験生が多かったということだろうか。これから270字や300字の論述になっていくのか,2023-24年だけが例外で200字に戻るのか,要注目である。
愛知教育大は総論述字数と同様に,大論述の字数も情緒が安定していない。大論述の範疇での揺らぎだからマシではあるが,当日まで大論述の字数がわからないのは受験生にとってストレスである。せめて260字で固定してあげてほしい。神戸市外大は総論述字数と同様に開始して4年しか経っていないので,まだ模索中なのだろう。隔年現象という雰囲気もするので,2025年は大論述が課されるかもしれない。
かくのごとく,論述の字数一つとっても大学の個性は現れる。世界史以外の科目でも調査してみると面白いと思われるので(日本史・現代文は特に個性が出そうである),知見のある方は調べてみてほしい。
大論述と小論述の違いは長距離走と短距離走のようなもので,鍛え方も異なってくる。たとえば,東京大学の世界史の入試問題は,600字程度の大論述1問,60〜120字程度の小論述が5・6問,一問一答の語句記述問題が約10問という構成で,総論述字数は1000字前後である。それぞれで大論述では大風呂敷の文章構成力,小論述では端的にまとめる能力,語句記述では単純な知識を測っており,役割分担がされている。したがって,論述能力も別々に鍛えることが肝要なのである。もちろん,募集要項にはそこまでの細かい記載は無いので,突然全く違う傾向・形式が採用されても受験生は文句を言えない。しかし,総論述字数についての議論と同様,最大で何字の論述問題が課されるか,とりわけ大論述が存在するかどうかは受験生の負担の違いに加えて,大学からの「欲しい学生像」にかかわるため,不安定であっては困るのである。
というわけで,これも統計をとってみた。以下は各年度の入試問題のうち,最も字数の大きい小問の字数である。総論述字数よりは揺らぎが大きくても許されるだろうと思われるため,直近5年の平均字数の±30%を許容範囲とし,最大値・最小値がそれをはみ出したセルを赤字とした。また,前述の事情から最大値と最小値が200字をまたいでいるものと,激変が見られた箇所を赤字とした。

補足と分析を記す。旧帝大とそれに準ずる大学はやはり安定しているところが多い。その中で東大の最小値が基準を下回っているが,これは2024年の大論述が例年の600字1問から360字と150字の2問に分裂したためである。伝統ある東大の第1問が600字ではなかったということで当時大きな話題になった。ただし,これで東大が伝統を捨てたと慌てるのは早計で,解いてみると実際には510字の1問が形式の都合で2問に分裂したに過ぎないとわかる。2問に分裂して簡単になったわけではなく,次年度は600字1問に戻ると思われる。
次に大阪大について。文学部と外国語学部で多少異なるので分けている。ここは大論述があったりなかったりしているので,一見すると不安定に見える。しかし,大阪大学は「受験生にいたずらに大論述を書かせなくても,作問の工夫次第で論述力を測ることは可能である」というイデオロギーで作問している節がある。実際に150字程度の小論述なのに解法上は大論述の訓練が必要というパターンの問題が多く,問題の作りは上手い。このため例外的な存在で,実は難易度や必要な学習水準の点で安定している大学なのである。
一方,その他の国公立大はやはり不安定なところがいくつかある。新潟大は2022年に何かあったのだろうか。試しに大論述を出題してみたくなったか。問いはピレンヌ・テーゼで,大論述では定番のテーマである(京大300字や一橋大400字でも頻出)。おそらく受験生の出来が悪く2023年には再び課さなかったのだと思われるが,予告なしに大論述を課されても受験生は対応できないのは当然である。ただ,前言撤回気味の発言をすると,こういう挑戦心は嫌いじゃない。無茶になりすぎない範囲であれば,受験生は買いかぶっていい。逆パターンが千葉大で,2024年の千葉大受験生の食らった「肩透かし」はちょっとかわいそうである。千葉大は旧帝大並に難解な大論述を課す大学であり,年度によっては小問3問が全て大論述という構成もあった。まさか1問も大論述が出ないとは思うまい。では2024年度の小論述が大阪大並に難しかったかというとそうでもなく,単に易化しただけであった。世界史が苦手な受験生は安心し,世界史で他科目の出来を挽回しようと思っていた受験生は絶望したのではないだろうか。2025年は揺り戻しで大論述が出るか,それとも小論述しか出題しない大学になっていくのか,業界の関心を集めている。
高崎経済大は2022-23年の間に前期と中期の字数が逆転している。作問者を交換したのだろうか。いずれにせよ小論述しか課していないので,受験生への影響は%ほどには大きくなかっただろうと思われる。東京都立大は2023年だけ400字論述が出て,前年の倍になった。大論述の範疇での増加とはいえ,受験生は驚いただろう。2024年は200字まで戻りきらず,270字となったのは興味深い。2023年にそれなりに対応できた受験生が多かったということだろうか。これから270字や300字の論述になっていくのか,2023-24年だけが例外で200字に戻るのか,要注目である。
愛知教育大は総論述字数と同様に,大論述の字数も情緒が安定していない。大論述の範疇での揺らぎだからマシではあるが,当日まで大論述の字数がわからないのは受験生にとってストレスである。せめて260字で固定してあげてほしい。神戸市外大は総論述字数と同様に開始して4年しか経っていないので,まだ模索中なのだろう。隔年現象という雰囲気もするので,2025年は大論述が課されるかもしれない。
かくのごとく,論述の字数一つとっても大学の個性は現れる。世界史以外の科目でも調査してみると面白いと思われるので(日本史・現代文は特に個性が出そうである),知見のある方は調べてみてほしい。
Posted by dg_law at 19:00│Comments(0)