2024年07月22日
登山記録35(早池峰,岩手山)
No.89 早池峰(山)
〔標高〕1917m
〔標高差〕約670m
〔百名山認定〕百名山
〔ヤマノススメ〕ー
〔県のグレーディング〕ー
〔私的な難易度と感想〕2B
マイカー等で行けるのは麓の岳集落まで。そこにだだっ広い無料駐車場があるので駐めると,2000円でシャトルバスの往復券が買える。これが実質的な入山料である。近隣に宮沢賢治と早池峰のつながりを紹介する看板や,早池峰神社があり,シャトルバス待ちで少し観光していくとよい。早池峰神社は神仏習合が生き残っていて,主な祭神は瀬織津姫という記紀神話から外れた水神,また早池峰山を御神体とする早池峰権現に,不動明王もいるごちゃごちゃな状況であった。瀬織津姫が水神であるため,また後述するように早池峰が蛇紋岩の産地であることもあってか,白龍信仰も盛んで,神社内の至る所に像がある。「早池峰瀬織津」,東方の6ボスにいそう。そして不動明王が祀られているため,神社の入口には巨大な降魔剣が据えられていて,神社の目立つ目印になっている。神社なのに山門があって阿吽の仁王像が待ち構えている。鳥居からは早池峰山頂が見え,よく考えられた立地であった。
登山道は河原の坊口と小田越口の二つある。河原の坊口の方が歴史が古く,1244年に土砂崩れが起きてこの地にあった宿坊が押し流されたという記録がある。宮沢賢治はこの河原の坊口から登ろうとして幽霊に遭遇したと著述している。さすがは宮沢賢治というエピソードである。とはいえ,そうした土砂崩れが起きやすい道であるがゆえに2016年に崩落し,復旧されていないので2024年現在は封鎖されている。現在登れるのは小田越口のみである。帰りのシャトルバスの時間に気をつけよう。
登山道はよく整備されていて登りやすい。特徴的な岩稜が美しく,遠目で見ると薄茶色ながら,少し削れたところは碧玉の色になる。これは早池峰が橄欖石(蛇紋岩)でできている特殊な山であるがゆえである。宮沢賢治が早池峰を愛し,よく登っていたのはこの地質調査のためだったようだ。コースタイムが短く4時間弱,登り2時間ほどであり,岩を愛でているうちに山頂に着く。山頂付近に一箇所だけはしご場がある。はしごは2本あり,1本目は迂回できるが,特に迂回する意味は無い。
山頂にはステンレスの降魔剣の数々が奉納されていて面白い。前述の通り不動明王が祀られているためだが,この降魔剣の数々,旧国鉄が奉納しているために緑十字が描かれていたり,十字が透かし彫りになっていたりする。しかし,この十字の透かし彫りは,緑十字から緑色が抜いた形になるので意味が変わってしまい,一見すると仏教とキリスト教が習合した謎の魔剣である。よく見ると国鉄や安全第一といった字が彫られていて気が抜けるのもチャームポイントで,古来「錆びず,曲がらず」は名刀の証であったが,ステンレスという近代技術で達成されているというのもまた良い。総じて非常に中二病精神をくすぐるアイテムになっている。奉納された数が多く,無造作に乱立しているため,ますます面白い。この山頂の降魔剣が作り出す風景は早池峰特有で,もっと宣伝されてよい。これを見るためだけに登る価値が十分になる。邪気眼を捨てられていないオタクは皆見に行け。
総合して,珍しい信仰が生き残っていること,岩稜の美しさ,橄欖石の美しさ,コースタイムの短さ,山頂の降魔剣と,立地と知名度のハンデを補って余りある名山である。もっと登られるべきだろう。関連する余談をいくつか。百名山の中ではマイナーな部類に入るが,そのためか山の難易度に比してベテランの登山者が多く,百名山Tシャツを来た登山者が多かった。今度は赤石岳に登りたいという会話をしていた登山者集団もいた。また,早池峰自体のTシャツや登山バッジは登山口から少し離れたところにある道の駅はやちねで販売されている。行きか帰りに寄るとよい(早池峰ダムのダムカードが配布されているのもこの道の駅)。
最後に,深田久弥は何を書いているか。まず「峰」がついているのだから「山」は余計として,名前を「早池峰」で通している。私もこの記録を書く上で基本的にこれに従った。知名度について,やはり深田が『日本百名山』を著した当時としても低く,僻遠の地であるからだろうと指摘している。現在はまだしも交通事情が改善しているのかもしれない。やはり『遠野物語』と宮沢賢治で取り上げられていることには言及があり,『遠野物語』からの引用はなかなか長い。登山道は河原の坊コースを採ったようだ。
No.90 岩手山
〔標高〕2038m
〔標高差〕1430m(馬返し登山口から)
〔百名山認定〕百名山
〔ヤマノススメ〕ー
〔県のグレーディング〕ー
〔私的な難易度と感想〕4A+(新道)/4B(旧道)
岩手県の県名を冠し,小岩井農場の牧場の背景に鎮座する巨大な山塊である。にもかかわらず山としての知名度はそこまで高くなく,岩手県も八幡平に比べて宣伝していない。そのため期待せずに登ったが,良い山であった。宣伝されていないのは単純に登るのに体力が必要なためであろう。最も短い柳沢コース(馬返し登山口)で往復に8時間を要する。ただし,獲得標高差は柳沢コースよりも網張温泉から出ているロープウェーを使った方が短くなる。その他,YAMAPの活動日記にも書いた登った教訓をいくつか書いておく。
・途中で新道と旧道に分岐するが,旧道を通った方がよい。新道は確かに歩きやすいものの,斜度のきつさは旧道と変わらず,しかも眺望も風通しも無いので登山道としてはつまらない。
・柳沢コース自体がお勧めできない。表面的なコースタイムは最も短いものの,道が単調で飽きてしまう。しいて言えば,自衛隊の駐屯地から訓練で撃っている砲撃の音が聞こえるのは少し面白い。獲得標高差から言っても網張温泉から登った方が楽で,登山道も変化に富んで面白いと思われた。岩手県は数少ない観光案内で柳沢コースを勧めているが,やめたほうがいい。
・八合目にある山小屋は非常に設備が整っていて,トイレも綺麗。何より湧き水がすばらしい。人生で飲んだ湧き水で最も美味しかったと断言できる。
・お鉢巡りは反時計回りを推奨する。時計回りだと「三歩進んで二歩下がる」ザレた道を登ることになるので非常につらい。反時計回りだとしっかりした足場の登りになる。
お鉢巡りから天上の国にいて,帰りたくなくなってしまった。お鉢の内側に登山道が引いてあるのは少し珍しく,この道の途上に岩手山神社奥宮がある。下山後に調べてみたところ,麓の岩手山神社は5つあるものの,信仰として生きているのは実質的に雫石にある岩手山神社だけで,他は滅びかかっていた。早池峰神社とは大違いである。一方,ステンレス製の降魔剣がやたらと奉納されていたのは早池峰と同じで,数は早池峰よりやや少なかったが,麓に自衛隊駐屯地があるせいか砲弾らしきものまで奉納されていた。岩手県民は山頂に降魔剣を奉納する風習でもあるのだろうか。
最後に深田久弥の記述について。まず岩手山は元々「岩鷲山」という名前だったようで,これが音読みが同じことから県名と同じ漢字に変わった。岩手県の名前の由来が岩手山だと思っていたので,逆ということに驚いた。岩鷲山の方が格好良くないか。深田は盛岡から見た岩手山の山容が美しいこと,南部富士とも呼ばれるが実は綺麗な単独峰ではないことに触れている。完全な単独峰ではなく,4分の3単独峰くらいの形である点は伯耆大山と似ているかもしれない。文学紹介としては宮沢賢治と石川啄木を引用していた。深田は網張温泉から登って松川温泉に下りており,岩手山の温泉を堪能している。私も松川温泉には入ったが,緑白色のすばらしい温泉であった。
〔標高〕1917m
〔標高差〕約670m
〔百名山認定〕百名山
〔ヤマノススメ〕ー
〔県のグレーディング〕ー
〔私的な難易度と感想〕2B
マイカー等で行けるのは麓の岳集落まで。そこにだだっ広い無料駐車場があるので駐めると,2000円でシャトルバスの往復券が買える。これが実質的な入山料である。近隣に宮沢賢治と早池峰のつながりを紹介する看板や,早池峰神社があり,シャトルバス待ちで少し観光していくとよい。早池峰神社は神仏習合が生き残っていて,主な祭神は瀬織津姫という記紀神話から外れた水神,また早池峰山を御神体とする早池峰権現に,不動明王もいるごちゃごちゃな状況であった。瀬織津姫が水神であるため,また後述するように早池峰が蛇紋岩の産地であることもあってか,白龍信仰も盛んで,神社内の至る所に像がある。
登山道は河原の坊口と小田越口の二つある。河原の坊口の方が歴史が古く,1244年に土砂崩れが起きてこの地にあった宿坊が押し流されたという記録がある。宮沢賢治はこの河原の坊口から登ろうとして幽霊に遭遇したと著述している。さすがは宮沢賢治というエピソードである。とはいえ,そうした土砂崩れが起きやすい道であるがゆえに2016年に崩落し,復旧されていないので2024年現在は封鎖されている。現在登れるのは小田越口のみである。帰りのシャトルバスの時間に気をつけよう。
登山道はよく整備されていて登りやすい。特徴的な岩稜が美しく,遠目で見ると薄茶色ながら,少し削れたところは碧玉の色になる。これは早池峰が橄欖石(蛇紋岩)でできている特殊な山であるがゆえである。宮沢賢治が早池峰を愛し,よく登っていたのはこの地質調査のためだったようだ。コースタイムが短く4時間弱,登り2時間ほどであり,岩を愛でているうちに山頂に着く。山頂付近に一箇所だけはしご場がある。はしごは2本あり,1本目は迂回できるが,特に迂回する意味は無い。
山頂にはステンレスの降魔剣の数々が奉納されていて面白い。前述の通り不動明王が祀られているためだが,この降魔剣の数々,旧国鉄が奉納しているために緑十字が描かれていたり,十字が透かし彫りになっていたりする。しかし,この十字の透かし彫りは,緑十字から緑色が抜いた形になるので意味が変わってしまい,一見すると仏教とキリスト教が習合した謎の魔剣である。よく見ると国鉄や安全第一といった字が彫られていて気が抜けるのもチャームポイントで,古来「錆びず,曲がらず」は名刀の証であったが,ステンレスという近代技術で達成されているというのもまた良い。総じて非常に中二病精神をくすぐるアイテムになっている。奉納された数が多く,無造作に乱立しているため,ますます面白い。この山頂の降魔剣が作り出す風景は早池峰特有で,もっと宣伝されてよい。これを見るためだけに登る価値が十分になる。邪気眼を捨てられていないオタクは皆見に行け。
総合して,珍しい信仰が生き残っていること,岩稜の美しさ,橄欖石の美しさ,コースタイムの短さ,山頂の降魔剣と,立地と知名度のハンデを補って余りある名山である。もっと登られるべきだろう。関連する余談をいくつか。百名山の中ではマイナーな部類に入るが,そのためか山の難易度に比してベテランの登山者が多く,百名山Tシャツを来た登山者が多かった。今度は赤石岳に登りたいという会話をしていた登山者集団もいた。また,早池峰自体のTシャツや登山バッジは登山口から少し離れたところにある道の駅はやちねで販売されている。行きか帰りに寄るとよい(早池峰ダムのダムカードが配布されているのもこの道の駅)。
最後に,深田久弥は何を書いているか。まず「峰」がついているのだから「山」は余計として,名前を「早池峰」で通している。私もこの記録を書く上で基本的にこれに従った。知名度について,やはり深田が『日本百名山』を著した当時としても低く,僻遠の地であるからだろうと指摘している。現在はまだしも交通事情が改善しているのかもしれない。やはり『遠野物語』と宮沢賢治で取り上げられていることには言及があり,『遠野物語』からの引用はなかなか長い。登山道は河原の坊コースを採ったようだ。
早池峰山 / 稲田義智さんの活動データ | YAMAP / ヤマップ
No.90 岩手山
〔標高〕2038m
〔標高差〕1430m(馬返し登山口から)
〔百名山認定〕百名山
〔ヤマノススメ〕ー
〔県のグレーディング〕ー
〔私的な難易度と感想〕4A+(新道)/4B(旧道)
岩手県の県名を冠し,小岩井農場の牧場の背景に鎮座する巨大な山塊である。にもかかわらず山としての知名度はそこまで高くなく,岩手県も八幡平に比べて宣伝していない。そのため期待せずに登ったが,良い山であった。宣伝されていないのは単純に登るのに体力が必要なためであろう。最も短い柳沢コース(馬返し登山口)で往復に8時間を要する。ただし,獲得標高差は柳沢コースよりも網張温泉から出ているロープウェーを使った方が短くなる。その他,YAMAPの活動日記にも書いた登った教訓をいくつか書いておく。
・途中で新道と旧道に分岐するが,旧道を通った方がよい。新道は確かに歩きやすいものの,斜度のきつさは旧道と変わらず,しかも眺望も風通しも無いので登山道としてはつまらない。
・柳沢コース自体がお勧めできない。表面的なコースタイムは最も短いものの,道が単調で飽きてしまう。しいて言えば,自衛隊の駐屯地から訓練で撃っている砲撃の音が聞こえるのは少し面白い。獲得標高差から言っても網張温泉から登った方が楽で,登山道も変化に富んで面白いと思われた。岩手県は数少ない観光案内で柳沢コースを勧めているが,やめたほうがいい。
・八合目にある山小屋は非常に設備が整っていて,トイレも綺麗。何より湧き水がすばらしい。人生で飲んだ湧き水で最も美味しかったと断言できる。
・お鉢巡りは反時計回りを推奨する。時計回りだと「三歩進んで二歩下がる」ザレた道を登ることになるので非常につらい。反時計回りだとしっかりした足場の登りになる。
お鉢巡りから天上の国にいて,帰りたくなくなってしまった。お鉢の内側に登山道が引いてあるのは少し珍しく,この道の途上に岩手山神社奥宮がある。下山後に調べてみたところ,麓の岩手山神社は5つあるものの,信仰として生きているのは実質的に雫石にある岩手山神社だけで,他は滅びかかっていた。早池峰神社とは大違いである。一方,ステンレス製の降魔剣がやたらと奉納されていたのは早池峰と同じで,数は早池峰よりやや少なかったが,麓に自衛隊駐屯地があるせいか砲弾らしきものまで奉納されていた。岩手県民は山頂に降魔剣を奉納する風習でもあるのだろうか。
最後に深田久弥の記述について。まず岩手山は元々「岩鷲山」という名前だったようで,これが音読みが同じことから県名と同じ漢字に変わった。岩手県の名前の由来が岩手山だと思っていたので,逆ということに驚いた。
岩手山 / 稲田義智さんの活動データ | YAMAP / ヤマップ
Posted by dg_law at 12:00│Comments(0)