2024年11月28日

2024年大相撲九州場所の感想

理想的な優勝争いの展開に充実した土俵内容で,非常に良い九州場所であった。同体取り直しやそれに近い際どい決着,両者のスタミナが切れるまで続いた取組等が多く,優勝争い意外にも見応えがあった。また,私はあまり番付の重みを重視しないが,それでも最高位の関取同士の相星決戦,それも13勝同士というのは喜ばしい。激闘の果てに初優勝と年間最多勝を勝ち取った琴櫻を祝福したい。

琴櫻は好角家によく知られている通り祖父が横綱,父が関脇という相撲一家のサラブレッドで,良くも悪くも坊っちゃん気質と言われる。今場所の優勝インタビューやサンデースポーツ,一夜明け会見等を見ていてもそれは伝わってきて面白かった。真面目でおおらかな性格なのだろう。「もっと土俵の鬼になれ」と言われて,ルーチンとして仕切りの最後に鬼の形相をするようになったというところにも生真面目さが現れているが,実際にあれで気合が入っているだろうことはその出世が物語っている。本人はいつから始めたのかと問われて「よく覚えていないが三役に上がった頃」と答えていたが,私が気づいたのは大関に昇進してからであった。

取り口はやはり受けに回ると強く,押されてもはたかれてもなかなか崩れず,押し返すか四つに組んで逆転してしまう。隆の勝・大栄翔・阿炎でも押しきれない。右四つ主体だが左四つでも取れるし,まずまず技巧もあるので万能である。足腰が強いのはもちろんのこと,取組の中で攻守の切り替えを支配する(後の先を取りに行く)のが上手いのだろう。近年の上位陣で足腰が強かったのはもちろん白鵬で,柔らかく受け止めるところは似ているかもしれない。千秋楽の豊昇龍との決戦も,豊昇龍に喉輪で攻められ上手投げで投げられと散々攻め込まれたが,豊昇龍の足が流れるまで耐え切って機敏にはたき込んだ。身体が大きく足腰が強い力士は鈍重になりがちだが,当てはまらない琴櫻の反応の良さは大きな武器だろう。


個別評。大関陣。2024年の豊昇龍は,投げを主体に戦えば呼び込むことがありケガも誘発し,寄りや押しを主体に戦うと馬力不足になり,相撲に迷いが生じてどっちつかずの相撲をとって調子自体も狂っていくことが頻繁に見られた。今場所の豊昇龍はやっとその帳尻があって,押し・寄りと投げのバランスが良くなったように見えた。千秋楽で足が滑ったのは不運とも言える。来年は期待が持てそう。大の里は,立ち合いの圧力が削がれた時の対処として,先場所は左からおっつけて何とか右四つに持っていくという新技を出せていたが,今場所はそれができずにまっすぐ引いて呼び込むという2場所前までの隙が多い取り口に戻ってしまっていた。結果として両大関と若隆景以外に,阿炎・隆の勝・大栄翔と見事に押し相撲の力士相手に負けている。再び取り口を修正してほしい。

関脇・小結は霧島だけ。霧島は先場所の評に「根拠はないが来場所も調子が持続しそう。再大関は近いのではないか。」と書いていたのだが,全くの的外れになってしまった。場所ごとの出来が違いすぎる。九月場所が無かったかのような五月・名古屋と同じ出来で,やはり名古屋の時に書いた「ボタンの掛け違いとでも言うような相撲のリズムの狂いが悪化し」のままである。途中で立ち直ったところを見るとケガが原因というわけでは無さそうで(場所中に痛めた左足首等の影響は一部あるにせよ),リズムの狂い方がよくわからない。少し前に豊昇龍も同じような調子の落とし方をしていたが,共通点はあるのだろうか。

前頭上位。小結以上の成績が良かったので大敗した力士が多い。その中で10勝した若隆景はやっと戻ってきたという感じ。阿炎の11勝も立派である。宇良は十一日目の平戸海との大熱戦,二回の取り直しで計三番取ったことを特記しておこう。六日目の王鵬戦の足取りも良かった。相変わらずの名勝負製造機である。星数は5勝にとどまっているので来場所は幕内中盤に下がるか。王鵬は三日目に琴櫻を破った相撲はすごかったが,それで力尽きた感もある6勝であった。勝ち越していれば殊勲賞間違いなしだったので惜しい。

前頭中盤。面白い相撲は多かったが,力士単位で見るとそれほど書くことがない。高安は,彼にしては安い家賃の地位だが,今場所はとうとう押し負ける場面も見られて8勝に終わった。加齢による衰えなら上位は厳しいかもしれない。

前頭下位。玉鷲は40歳以上での幕内勝ち越しが史上4人目とのことで,まだまだ記録が伸びそうである。獅司は完全に家賃が重かった。四つにさせてくれないし,四つになってもあまり勝てない。重量で鍛え直しである。尊富士は高い期待からすると10勝止まりという印象になってしまう。実際にまだ優勝した時のような立ち合いにはなっておらず,相手に研究されて止められているというよりは単純に本調子ではなく,こわごわ取っているようにも見えた。ケガが感知していないのなら来場所に改善するかもしれない。それはそれとして阿炎戦で変化を食って負けていたところを見ると,やはり研究されてもいて,変化には弱そうなところが露呈した感がある。この点にも注目かもしれない。

幕内はそれほど難しくなさそう。幕内と十両の入れ替えは5人で,幕内下位で大敗した人が多かったが,幕尻の錦富士と時疾風は運良く残れそう。金峰山は普通に勝ち星通り計算するともっと上の地位になるが,慣例で十両から上がってくる人はどれだけ星数にあまりが出ても一発で中盤の地位には置かないようにしている節があるので,12枚目かもっと下に据え置かれると思われる。幕下から十両に上がるのはすでに発表があり,羽出山と木竜皇。とすると十両から幕下に下がるのは阿武咲と千代丸のみとなる。最大で4人の入れ替えが予想されただけに,今場所の入れ替えは渋い。

2024年九州場所

この記事へのコメント
* 北の富士は私が子どものころから解説をしていた人で、私の相撲観戦は常にこの人の声とともにあった。
今頃は向こうで玉の海と取っている頃であろうか。千代の山、千代の富士と語り合っている頃であろうか。拳銃は持ち込めたのであろうか。

* やはり千秋楽相星決戦というのは緊張感がいい。琴櫻は本当に安定していて、今場所だけなら大横綱の相撲で、あとは継続できるか。美の海戦の上手ひねりなんかもよかった

* 宝生流はこれこれ、これが見たかったんだよ、という相撲。来場所も継続してほしい。ただ熱海富士には「負け」、大の里にも押し込まれていた。王鵬や豪の山にもやや分が悪い。パワー系の押し相撲力士への対策が必要か

* 宝生流-大の里戦、お互いに仕切り全然合わせないな

* 霧島は後半かなりがんばったが…

* ベストバウトは、位置付けからすると琴櫻-宝生流戦、内容の白熱度からすると宇良-平戸海戦、技のきれいさからすると宝生流-若隆景戦だが、あえて一番挙げると琴櫻-大の里戦で。全然上手投げじゃないけれど
Posted by acsusk at 2024年11月28日 12:38
更新お疲れ様です。
優勝争い、相撲内容共に充実した場所で、年納めにふさわしい九州場所でした。

琴櫻は、攻められると脆かった先場所と打って変わり、相手の攻撃を受け止めてからの引出の多さや、単純な馬力の強さも見せてくれて、かなり安定した相撲内容でした。14勝は立派。綱取りのハードルはそこまで高くないことを含めると、成功可能性は高そう。
豊昇龍は前に出る相撲を多く見ることができて、十分な内容でした。ただ、大型力士に攻められると弱いのは体格負けの哀しい点か。

大の里はあと1勝していれば・・・とも思っちゃいますね。かなり慌てた内容が多く感じるあたり、緊張感もあったのでしょう。その中でのクンロクをどう評価するかにもなりますが。

平戸海は大負けしましたが、後半は盛り返し。宇良との取組は観客・視聴者ともに大喜びの一番でしたね。

来場所の予想三役の「THE実力者」という感じが好きですね。次の大関は誰になるのか。久々に勝ち越せた熱海富士にも期待ですが、しばらくは現三大関が軸でしょうか。下位力士に負けない若元春が今後どうなるか次第に思えます。
今場所の三賞は常連感ありましたね。順当ではありますが、終わってみれば、11勝4敗の豪ノ山にも報いてほしかったなと。

Posted by gallery at 2024年11月29日 08:48
今場所は公式の取り組み動画を見るくらいで、あまり相撲観戦ができませんでした。大の里の不調に関しては、ABEMAで14日目の若乃花解説だったかな、「足首を捻挫してますね」と言われてしまったようなので、怪我が響いたのかもしれません。来場所の活躍に期待です。
Posted by EN at 2024年11月30日 22:41
皆さんありがとうございます。

>acsuskさん
私も記憶の限りほぼ北の富士さんですね。Wikipediaを見たら1998年からだそうで。2023年春場所からの“休場”だったようで,相当病状が悪いのかと心配していたところの訃報でした。拳銃の件は反省しているらしいので,この世に置いていったものかと思われます。
前にも書いたことがありますが,琴櫻は技能ありますよね。確かに美ノ海戦の上手捻りは良かった。
豊昇龍はパワー系の力士に弱いですよね。本人のパワーが弱いというわけではないはずですが,体格差ですかね。本人としてはそのための立ち合いの駆け引きなんでしょうか。

> gallery さん
来場所は綱取りが二人ですが,ハードルの高さは全く別物になりそうですね。琴櫻は相当低そうです。
大の里は新大関ゆえの稽古不足でしょうかね。9勝は及第点かと。
平戸海は大負けの割に内容が良かったですね。これは今場所の前頭上位陣の多くに言えることですが。だから熱戦が多かったとも言える。
来場所の(予想)三役は若元春と若隆景がそろっているのも面白いところだと思います。
豪ノ山はすでに上位に定着していて11勝だと物足りないと思われた可能性がありますが,確かにあげればいいのにと思いました。三賞は以前ほどケチではなくなった感じですが,ちょっと少ないですね。

>ENさん
あらら。そういう時期もありますよね。大の里は捻挫の可能性もありですか。逆に言えば治ればあっさり復調するかもしれません。
Posted by DG-Law at 2024年12月01日 21:01