2025年01月26日

2024年大相撲初場所の感想

熱戦が多く,見応えがある取組が多かった。一方で優勝争いは最後の最後までわからなかった。照ノ富士が出場するからには彼が優勝候補の筆頭であった。しかし,早々に2敗したところまでは驚かなかったが,そのまま休場・引退を発表したことには驚いた。これで優勝争いは3人の大関に移ったが,琴櫻も大の里も序盤で大敗し,豊昇龍しか残らず,その豊昇龍もじりじりと3敗まで下がって何もわからなくなった。大勝ちしていた平幕は多かったが,そこで残ったのが王鵬と金峰山とあっては,初場所は初優勝が多いというジンクスを思い起こさない者はいなかっただろう。音羽山親方(元鶴竜)さえこのジンクスを口にしていた。最終的にはこれをひっくり返して豊昇龍が優勝した。

この優勝自体は文句なしであるが,だからこそ面倒な話になっているのが綱取りである。参考になるサイトは以下の通り。
・横綱昇進のボーダーラインを超えての昇進見送り(大相撲 綱取り研究所)
・琴櫻・豊昇龍のダブル綱取り(大相撲 綱取り研究所)
・横綱昇進直前の成績(大相撲≒おつかれマツェラート)
これらを踏まえた上で私がツイートした文章を打ち直しておく。
豊昇龍の綱取りは,
・二場所計25勝,優勝・優勝次点の組合せ以下での昇進は過去にある。ただし直近事例が大乃国で,3場所前が全勝優勝だった。その前はもう現理事長で双羽黒事件による厳格化の直前なので当てにならない。
・3敗が全て平幕なのが懸念材料。
・裏規定の三場所計36勝以上には計33勝なので足りない。双羽黒以降で36勝未満で昇進したのは武蔵丸のみだが(8・13・13で34勝),これは二場所連続優勝だったので異論が出る余地がなかった。
逆に早く上げる材料としては,照ノ富士の引退で横綱不在になってしまうことと,三場所前の8勝は例外的な不調でその前はコンスタントに10-11勝している。大関としての通算勝率は9場所で.689と十分に高い。とすると3場所前が8勝だったことをもって不安定とするのはシビアかもしれない。トータルで考えてやはり四分六分で際どく昇進見送りが妥当というのが私の結論である。すでに審判部は横審に審議を依頼した。通例なら素通りになるが,横審の判断はどうか。


個別評。大関,優勝した豊昇龍は千場所にも書いた通り投げと押し・寄りのバランスがよく,昨年より無理な投げが減って安定感が増した。一方で当たり負けや足が滑っての負けが多く,これからも体格の良い力士には苦戦しそうである。琴櫻はまさかの大敗で,最初は動きが固かったのでメンタル面の問題かと思ったが,次第に本当に調子が崩れていった。テーピングが分厚かったことから右膝が故障していた可能性もある。本当に右膝が原因なら来場所も危ないかもしれない。大の里は立ち合いの当たりが強いものの,当たり勝つとそのまま突っ込んでいって案外無防備になる,または当たれないと冷静さを失って相撲がばらばらになるという悪癖があり,当たり勝つとそのまま相手が吹っ飛んでいって勝てていたから今まではあまり顕在化していなかったが,今場所の序盤の3敗は全部これである。以前には右からの攻めが強いが左ががら空きと指摘され,左おっつけを師匠から伝授されて克服した大の里であるから,これも直してほしい。

関脇・小結……は特にコメントがない。前頭上位。霧島は初日から3連敗したのが非常に惜しく,四日目からの調子が最初から出ていれば彼が優勝していても全くおかしくなかった。前から序盤に星を落とすスロースターターなところがあり,日馬富士に似ているかもしれない。それにしても霧島の調子は読めない。翔猿は大の里・照ノ富士・琴桜に勝っておきながら負け越すという。策士策に溺れるところがあり,低すぎて上からつぶされたり立ち合いの変化で失敗したりという負けが多かったのが残念。熱海富士は特に不調というわけでもなかったが5勝に終わった。巨漢力士の弱点を突かれてそのまま負けている印象。鈍重さを感じるので,もう少し機敏さが欲しい。王鵬は覚醒したとよく言われる通り,また技能賞獲得にふさわしい技能を示した。基本は突き押しながら組んでも相撲になり,玉鷲には最初から組みに行く取り口で,まだ伸びしろがありそう。

前頭中盤。あまり書くことがないが,御嶽海が大敗していた。明らかに膝か足首かのケガだろう。あとは玉鷲が40歳にして二場所連続の勝ち越しで,旭天鵬以来の2例目だそうで。来場所も勝ち越してあっさり新記録を作っても不思議ではない。

前頭下位。尊富士は10勝したが,地力から言えば当然だろう。やはり筋肉が上体に偏っていて,特に足首が細いのはいつ見ても不安になる。それでもあの上体をぶつける立ち合いの破壊力と,そこからの素早い動きによる崩しは強い武器で,ケガが無ければ今年中に上位に定着するだろう。優勝同点の金峰山は,長く痛めていた首が回復傾向にあるのと,首を痛めないように頭から当たらない諸手突きの立ち合いに変えて爆発的な成長を見せた。王鵬もそうだったが,組んでも右四つなら相撲になる点は武器だろう。ただし,上位に定着できるかは未知数で,そこまでの安定感が無い気はする。将来的には優勝者の出身国として日本,アメリカ,モンゴル,ブルガリア,エストニア,ジョージアの並びにカザフスタンが加わるところを見たい。伯桜鵬も左肩のケガが治って相撲が戻ってきた。


照ノ富士の引退記事は別に書く。阿武咲が引退した。2017年の5月に新入幕となり,そこから7・9月と三場所連続で二桁の白星を挙げ,史上初の記録を作った。突き押しが強く貴景勝と並ぶ逸材として注目を浴びていた。貴景勝とは同年齢で,中学・高校と切磋琢磨していた仲であり,事実,阿武咲の方が少し入門が早いとはいえ,2016年頃までは阿武咲の方が出世が早く,阿武咲が十両で昇進ペースが遅くなった一方で貴景勝が4場所で突破したところで初めて逆転した。その阿武咲も2017年にやっと開花したかに思われたが,2018年の初場所に右膝のケガを負ってから暗転した。当時の記事を読むと私は「休場は残念だが,重傷には見えなかったので,すぐに戻ってくるのではないか」と書いていたが,後から振り返るととんだ見当違いで,引退までこの時のケガを引きずることになる。その後は幕内下位では大勝するが上位挑戦では惨敗するということを繰り返す典型的なエレベーター力士になった。なぜ三役に手がかからなかったかといえば,土俵際までは調子よく押し込んでいくが,最後の一歩のための馬力が足りず,逆転の突き落としを食らう負けパターンが多く,右膝のケガのための馬力不足が明らかだった。加えて引き技が上手いわけではなく,一方的に押し続けるタイプの突き押し力士であったから,馬力不足が致命傷となってしまう。この点では,むしろいなしが生命線だった貴景勝とは対照的であった。ついでに言うと番付運が悪く,2022年の初場所では前頭5枚目で10勝していながら春場所の地位は3枚目であった。最後は2024年7月に右膝を再び負傷し,これで競技人生が絶たれた。協会には残らず,一般企業に就職するという珍しい引退である。お疲れ様でした。


比較的予想しやすい予想番付だったように思う。とりあえず横綱は空位としたが,豊昇龍を横綱としても大関以下の番付にはほぼ影響がない。十両に下がるのは輝,北の若,狼雅,北勝富士の4人で,照ノ富士の引退と合わせて5枠空く。幕内に上がるのは獅司,安青錦,竜電,佐田の海,朝紅龍でほぼ確実だろう。新入幕の第二のウクライナ人の安青錦に期待。十両から幕下に下がるのは武将山,島津海,大奄美,羽出山,大翔鵬。幕下から上がってくるのは若ノ勝,風賢央,日翔志,大辻,石崎か。石崎を上げずに誰かを残す判断があるかもしれない。

2025年初場所

この記事へのコメント
* 巴戦の末、2差逆転という面白い場所であった

* 宝生流は私の贔屓力士で、上がってほしいと思うのだが、だったら魁皇と栃東も今からでも上げろよ!貴乃花も白鵬ももっと早く上げろよ!という話になるのはしかたない

* (私は横綱も大関も、「上げやすくして落ちやすく」(横綱も陥落を設ける)が長期的理想としてはいいと思うのだが、まあそれはよいとして…。)

* いずれにしても横綱も大関も、なるかならないかで当人の人生が大きく変わってしまうところで、きちんとした基準を設けるべきで、チャンスをものにするかしないかがそのときの気分によってきまってしまうのは非常によくない

* さて、宝生流危なっかしい。千秋楽の琴櫻戦ですらひやひやした。ただ、今場所は熱海富士以外のパワー系押し相撲力士に負けず、王鵬と金峰山にもかなり苦戦すると思ったが、あっさり勝った

* 王鵬はしばらく前までかなり鈍重であったのだが、ずいぶん速くなった

* 金峰山は失礼ながら「確変」+「番付ハンディ」があったとは思うが、俺のような声を見返してやれ

* 唐突だが平戸海はかなり強くなると思う。実は大関までいくんじゃないか

* 今場所のベストバウトは王鵬-金峰山、金峰山-霧島あたりかな

* 阿武咲はあのヤンチャっぽい風貌が好きだった
Posted by acsusk at 2025年01月27日 19:00
更新お疲れ様です。

豊昇龍はめでたく横綱昇進。決定戦の王鵬戦もそうですが、尊富士を一蹴した相撲が見事。悪癖の投げも減り、安定した相撲を見せてくれました。
熱海富士は克服できなかったことと、中盤で息が抜けがちなところが克服できなかったことが不安ではあります。
私としては、「上げてから考えればいいさ」的なところはあるのですが。豊昇龍が今後優勝回数を伸ばせば、大甘昇進とは言われなくなるので、彼の頑張り次第なのかなと。

大の里は平常運転、攻略法が各力士に浸透してきている感じですね。
琴櫻は相撲を見失い大崩壊。古傷の膝を稽古のし過ぎで壊してしまったのが要因なのでしょうか。守勢に回った時の脆さが異常でした。
三役陣は大栄翔が気を吐いたぐらい。負けた4敗は最終的に2桁あげた力士ばかりなので、順当なところに負けてしまったというべきか。惜しかった王鵬戦が天王山だった気が。
次の大関となると、霧島再昇進の可能性もありますが、来場所負け越ししても驚かないのが、霧島。3連敗スタートですが、琴櫻戦を落ち着いてとれたのが良かったのかも。4日目が隆の勝だったらズルズルいってた可能性もありそう。
王鵬。12勝は見事。三役で勝ち越せれば、大関候補に上げてもいいのかなと。器用貧乏なところが今までありましたが、押しに徹する相撲で猛威を振るいました。幕下以降は各地位で少し停滞しつつも着実に番付を上げていく傾向があり、このまま上位定着もしていきそうだなと。

尊富士は先場所同様上位陣に当てられ、10勝5敗。来場所も上位総当たりに届かないところでしょうが、むしろそれぐらいじっくり上がっていった方がいいのかもと。
金峰山は先場所の十両優勝の勢いそのままに土俵を盛り上げてくれました。首の負担が少ない取り口に変えたのはいい傾向ですが、上位陣には攻略されていきそう。もうひと踏ん張り必要になってくるでしょうか。
Posted by gallery at 2025年01月28日 16:16
共に横綱昇進の掛かった大関2人、あまりにもクッキリと明暗が分かれて唖然とした場所でした。横綱照ノ富士の引退は、時間の問題だったので、今場所まで引っ張ったのはさておき、お疲れさまでした。

豊昇龍は、いささか緩い条件での横綱昇進となりましたが、白鵬以前のように5年で引退のサイクルが再びやってくるのだろうか、などと想像もします。横綱の誰もが大横綱になるわけでなく、そこそこの成績の横綱が出てきたり、続いたりするのも、仕方がないとも思います。

今場所も、先場所ほどではありませんが、じっくり観戦といきませんでした。金峰山と王鵬の活躍はワクワクするものがあり、早く出世して欲しいものです。霧島も、序盤の様子からは信じられない復調ぶりで、終盤まで優勝争いを盛り上げてくれました。一方、遠藤は技のキレなどが振るわず、いつにも増して消極的な言動が気になり、なんとなく引退の影がちらつく気もして、また勝ち上がってきてくれると良いのですが……。
Posted by EN at 2025年01月31日 21:01
>acsusk さん
つくづく「大関までは実力だけで上がれるが,横綱は運も絡む」という格言の通りではありますね。神だからこそ神に愛されている必要があると言いますか。豊昇龍は運を持っていたということではあるのかも。
取り口は危なっかしかったですね。とってつけたような昇進理由では平幕相手の敗戦でも前に出ていての負けだから良いということだったので,危なっかしさが評価されたようなところもあり,変な感じはします。パワーは以前よりついてきましたが,まだ完全にパワー系力士を払拭した感じでもなさそうで,横綱になってからも熱海富士や琴櫻には苦戦しそうです。
王鵬はともかく,金峰山の活躍を予想できていた人は少ないでしょう。私はマイナーな外国出身の力士が好きなので,金峰山の活躍は嬉しかったです。
阿武咲は確かにそういう風貌でしたね。

>galleryさん
豊昇龍は終盤の集中力がさすがでしたね。これからも序盤で平幕相手に取りこぼすが尻上がりに完成度が上がっていくなら,近いところで日馬富士と似たタイプなのかもしれません。
あー,琴櫻はその可能性がありますか。とすると古傷の再発を見せないようにがんばっていただけ偉いのかもしれません。
霧島はおっしゃる通りで,毎場所結果が全く読めないんですよね。今場所も3連敗スタートで絶対にダメだと思いましたし。連勝癖・連敗癖があるとすると根は突き押し相撲なのかもしれません。
尊富士は確かにじわじわ上がっていった方がいいでしょうね。一気に番付が上がると,彼のタイプ的にケガをしそうです。
金峰山は来場所も首を痛めない相撲を維持したまま上位と戦えるかに注目ですね。

Posted by DG-Law at 2025年01月31日 22:52
>ENさん
豊昇龍はこれからどこまで伸びるのか未知数ですが,あくまで現時点での実力で判断すると大横綱と呼ばれる優勝回数には到達しなさそうですね。
前に大横綱世代の支配について調べて記事にしたことがありますが,これだけ大横綱が君臨しないまま優勝者がばらける戦国時代が長く続いているのは珍しく,このまま豊昇龍も時代を築かないとなると,大相撲史上最も長い戦国時代になるかもしれません。
先場所のコメント欄でもご多忙と書かれていましたね。ご自愛ください。

Posted by DG-Law at 2025年01月31日 23:28