2025年03月15日
2025受験世界史悪問・難問・奇問集 その２（早稲田大）
１６．早稲田大 文化構想学部
＜種別＞悪問・難問
＜問題＞１ 設問１ 資料Aに代表される女性裸像とその製作された時代について説明した以下の文章ア〜エの中から正しいものを一つ選び，マーク解答用紙の所定欄にマークしなさい。
資料A
ア 食料生産段階に入っていた当時の社会では，豊かな乳房や臀部を表現した像は多産と豊穣を祈願する呪術的要素を備えたものであった。
イ 最終氷期を終え，気候が温暖湿潤化し，植物相や動物相に変化が現れ，次第にマンモスなどの大型哺乳類が絶滅していった。
ウ この時代の女性裸像で現存するものは岩石や象牙などで作られており，ヨーロッパを中心に北アフリカの一部やメソポタミア方面にまで分布している。
エ アルタミラなどの洞穴絵画遺跡は同じ時代の所産である。
＜解答解説＞
資料Aは「ヴィレンドルフのヴィーナス」と呼ばれるオーストリアで発見された石像で，約２万年前，旧石器時代の末期に制作されたと考えられている。教科書の挿絵では比較的よく見るもので，東京書籍のp.13，帝国書院のp.8等にあるが，通常の高校世界史で暗記するものとはほとんど考えられていない。このため，まず問われている時代が旧石器時代とわからなかった受験生も多かろう。アは食料生産段階とは農業・牧畜の開始を指すので誤文，イも最終氷期の終わりは約１万年前で新石器時代の始まりと軌を一にするから誤文。しかし，ウとエはどちらも旧石器時代についての言及であり，時代では判断できない。エは直感で正文に見えるので，それを信じてこちらを選びたいところ。実際にエが正文で正解である。ウは，女性裸像はメソポタミアで発見されていないので誤文らしいのだが，私自身知らない知識であったし，調べても明確にはわからなかった。発掘されていないことを論証する論文や書籍は，発見されていないことに明確な研究上の意義がない限りは書かれないだろうから仕方がない。なお，用語集には「ユーラシア大陸各地に分布する」とあり，事実はともかく用語集記述を信用するならウも正文になりうる。用語集の記述を確認せずにウの文を作ったなら手抜きだし，確認して作ったなら性格が悪い。早稲田大の傾向から言って確認していない可能性の方が高い。
１７．早稲田大 文化構想学部（２つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞１ 設問２ 資料Bはメソポタミア南部に最初の都市文明を築いた人びとによって作られた祈りを捧げる参拝者の像である。19世紀，この都市文明の遺物，遺跡は外国調査隊によって発掘されたが，フランス隊によって発掘された都市遺跡をア〜エの中から一つ選び，マーク解答用紙の所定欄にマークしなさい。
ア ニネヴェ イ ウル ウ ラガシュ エ ハットゥシャ
＜解答解説＞
単純な難問。フランス隊が発掘したのはラガシュであり，ウが正解。ウルを発掘したのはイギリス隊で，これを率いた考古学者の名前がウーリーであることから日本語ではダジャレになる（英語だとUrとWoolleyなので特に面白くはない）。稀に予備校講師が話のネタにするので，これを知っていたら消去法で正解できたかもしれない。文化構想学部は大問１の設問１・２がこの難易度だったので絶望感が強い。
１８．早稲田大 文化構想学部（３つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞２ 設問３ 下線部Cについて述べた下記の文aとbの正誤の組み合わせとして正しいものを次のア〜エの中から一つ選び（編註：悲劇と喜劇），マーク解答用紙の所定欄にマークしなさい。
a アイスキュロスは，ソフォクレスらとともに三大悲劇詩人の一人とされ，トロイアの王家の不幸を主題とした『アガメムノン』を作った。
b 『女の平和』を作ったアリストファネスは，ペルシア戦争中のアテネで活動し，ペルシアの専制主義を風刺した。
ア a−正 b−正
イ a−正 b−誤
ウ a−誤 b−正
工 a−誤 b−誤
＜解答解説＞
bはアリストファネスの活動期がペロポネソス戦争期なので誤文と判断できる。aは難問で，『アガメムノン』の内容を知っていなければならないのは酷ではないか。アガメムノンはミケーネ王家の物語であるので誤文，したがって正解はエ。ミケーネで発掘された黄金のマスクがアガメムノンのマスクとも呼ばれるのはこうした事情による。こちらを手がかりにミケーネと結びつけてトロイアではないと推測した受験生もいたかもしれないが，最近の受験世界史では黄金のマスクが覚える対象ではないので極わずかだろう。
法学部は収録無し。日本語がやや怪しい問題が１問あったが（大問１の設問９），解答上の支障はあまりないと判断した。また，大問２の設問９のドーラヴィーラーが属する地方を問う問題は難易度が高いが，ドーラヴィーラーの用語集頻度が�い塙發�，多くの教科書の挿絵の地図に場所の記載があることから範囲内と見なした。
１９．早稲田大 文学部
＜種別＞出題ミス
＜問題＞１ 設問９ 下線部Kの事績について（編註：��小平），適切でないものをア〜エの中から一つ選び，マーク解答用紙の所定欄にマークしなさい。
ア 日中平和友好条約を締結した。
イ 四人組の失脚後に復権した。
ウ 改革開放路線を推進した。
エ 大躍進の失敗後に経済再建を図った。
＜解答解説＞
いずれも正文なので正解が無い。強引に正解を出す方法はいくつかあるのだが，いくつかあるのも困る話である。最有力候補はアで，1978年当時の最高指導者は華国鋒であるから��小平の事績ではないと見なす。しかし，実際には��小平は副首相として来日しており，天皇とも会談していて，実務者としては間違いなく��小平の事績である。イは，��小平は1973年に復権，76年の周恩来の死去に伴って失脚，同年中に毛沢東の死去と「四人組」の逮捕により再復権している。したがって「復権」ではなく「再復権」だから誤りという主張も一応ありうる（私自身はこの指摘を支持しない）。ウは疑いない正文。エは「大躍進の失敗後に」の主語も��小平だと解釈して，��小平が大躍進の失敗も経済再建も両方やったという意味だとすると誤文と解釈できる。河合塾と代ゼミから同様の指摘あり。駿台は勝手に最高指導者としての事績と読み替えてアを正解としていた。流石に逃げ道が無いと判断されたようで，大学当局からお詫びと全員正解とした旨の発表があった。
〔番外編２〕早稲田大 文学部
＜問題＞１ 亡国の危機をむかえた清朝でも，〔 L 〕の治世において康有為や梁啓超が変法を試みた時期には，M任侠待望論が出てきた。（編注：空欄Lの正解は光緒帝）
設問11 下線部Mの議論において，任侠として称賛された人物でないものをア〜エの中から一つ選び，マーク解答用紙の所定欄にマークしなさい。
ア 田中角栄 イ 吉田松陰 ウ 西郷隆盛 エ 大久保利通
＜コメント＞
時代が全く異なるのでアの田中角栄が正解と解くのは容易だが，任侠待望論という話題が面白すぎたので番外編に採用した。大久保利通も任侠として称賛されていたというのは意外である。簡単に調べたところでは全く情報が出てこなかったので，有志の有識者のコメントを待ちたい。
（追記）
旧称Twitterから有識者のコメントがあった。紹介された論文を読むと，この頃の保皇派は「少数精鋭で革命・改革を担った者」という点に重点を置いて任侠を解釈しており，であれば大久保利通も任侠に入るのは納得できる。
２０．早稲田大 文学部（２つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞３ 設問３ 空欄〔 C 〕は翻訳学校が作られたことで有名であるが（編註：空欄Cはトレドのこと），それに関連して，次のア〜エの中から，誤りを含むものを一つ選び，マーク解答用紙の所定欄にマークしなさい。
ア アリストテレスの論理学の著作がアラビア語からラテン語に訳された。
イ コーランの最初のラテン語訳が作られたことで有名である。
ウ アベラールは，この地でアラビア語とギリシア語を学んだ後，パリに移り，代表作「然りと否」を書いた。（編注：「然りと否」は原文ママ）
エ 翻訳者にはアラビア語，ギリシア語，ラテン語に通じていたユダヤ人がいた。
＜解答解説＞
いずれも難しい選択肢だが，受験生でもアとエはなんとなく正文に見えるだろうし，実際に正文である。残ったイとウはどうにもならない難易度で，運を天に任せるしかあるまい。イは正文で（文学部なのだからちゃんとクルアーンと書いてほしい），尊者ピエール（ペトルス＝ウェネラビリス）なるクリュニー修道院の修道院長が，1142年に自らトレドを訪れてムスリムへの神学上の反駁のための研究と執筆を行った。その過程で現地の二人の翻訳者チェスターのロバートとカリンティアのヘルマンに『クルアーン』のラテン語訳を依頼している。これが初めてのラテン語訳である。したがって残ったウが誤文で正解になる。アベラールは奇しくも同1142年に亡くなっており，それまでに遍歴を重ねているが，フランスから出ていない。
なお，イスラーム教の教義では『クルアーン』はアラビア語で書かれたもののみを指す。つまり翻訳された『クルアーン』は厳密に言えば『クルアーン』と認められず，『クルアーン』の解説書という扱いになる。ネット上の言及を探すと，これを知っていたため「『クルアーン』のラテン語訳等というものは存在しない」と考えてイを誤文と判断した受験生もいたようだ。問題文の立場が中世のキリスト教徒であるし，イの文をどの宗教の信徒の立場から見ても正文になるようにするのは難しく，便宜上「コーランの最初の翻訳」という表現は認められるべきだろう。ゆえに，これを理由に本問を複数正解と糾弾するのは無理筋であるが，受験生に厳格な立場のムスリムがいたとしたら戸惑わせたかもしれない。
２１．早稲田大 文学部（３つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞３ 設問７ 下線部Gの時代（編註：フェリペ２世）に生じた出来事ではないものを一つ選び，マーク解答用紙の所定欄にマークしなさい。
ア ローマ教皇，ヴェネツィアと同盟し，レパントの海戦でオスマン帝国軍を破った。
イ イタリア戦争の講和条約としてカトー＝カンブレジ条約を結んだ。
ウ セルバンテスがスペイン文学史上の傑作『ドン＝キホーテ』を刊行した。
エ スペイン領となったネーデルラントでユトレヒト同盟が結成された。
＜解答解説＞
受験生がフェリペ２世の在位中の出来事とはっきり覚えているのはアとエで，イとウは判断が難しい。イは，イタリア戦争を戦っていたのが父親のカール５世であるから講和もカール５世というように思える。ウのセルバンテスはレパントの海戦に参加して左腕を撃たれて失っているというエピソードが有名であり，高校や塾・予備校の授業ではしばしば言及されているため，少なくともセルバンテスがフェリペ２世の同時代人であるのは間違いない。ここからイを選んだ受験生は少なくなさそうだが，これは見事な引っかけである。カール５世はイタリア戦争終結前に気力を失って1556年に退位し，58年に亡くなっているが，カトー＝カンブレジ条約の締結は1559年である。したがってフェリペ２世の治世である。逆にセルバンテスが『ドン＝キホーテ』を著したのは晩年のことで，1605年に前編を，1615年に後編を発表した。フェリペ２世は1598年に亡くなっているため，このウが正解である。カール５世がカトー＝カンブレジ条約前に引退しているというのは早慶対策なら触れるポイントなので，他の難問に比べると正答率が高かった可能性がある。しかし，細かい知識を要する嫌な引っかけ問題には違いなく，正確な知識で回避した受験生を褒めることはできるが，適正な出題であるとは思わない。
２２．早稲田大 教育学部
＜種別＞難問
＜問題＞１ （２） 古代ギリシアの民主政について，誤っている説明はどれか。
a アテネの政治家ソロンが導入した財産政治は，一部の平民の政治参加に道を開く一方で，貴族中心の政体を維持するものであった。
b クレイステネスは，それまでの血縁的な部族に代わって，地縁共同体であるデーモスを新たな行政単位とした。
c ペリクレスにより，18歳以上のアテネの男性市民に民会への参加が認められた。
d 民衆裁判所は，20歳以上の市民から抽選で選ばれた陪審員によって構成された。
＜解答解説＞
いずれも正文に見えて，誤りが見つからない。こういうときは細かな数字があやしいと思った読者がいたら勘が良い。正解はdで，20歳が30歳の誤りである。なお，bのデーモスは行政単位であると同時に選挙区でもあり，デーモスを基盤にする政治ということからこの種の政体をデモクラティア，英語でいうところのデモクラシーと称するようになった。
２３．早稲田大 教育学部（２つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞２ （11） アフリカ諸国の歴史について述べた次の文を古いほうから時代順にならべた場合，３番目にくるのはどれか。
a エチオピアでアフリカ諸国首脳会議が開催され，アフリカ統一機構（OAU）が発足した。
b マンデラがアフリカ民族会議（ANC）に参加した。
c 南ローデシアがジンバブエと改称した。
d チュニジアがフランスから独立した。
＜解答解説＞
aは年号を直接知らなくても「アフリカの年」の後なのは明白なので1960年よりも後，dはアルジェリアを除く北アフリカ諸国が1960年以前に独立済であることを知っていればaより前とわかる。なお，チュニジアの独立は1956年，OAUの結成は1963年。ジンバブエへの改称は隣国モザンビークとアンゴラのポルトガルからの独立の後，白人政権が倒れてムガベ政権が成立してからだから，1970年代後半よりも後とわかる。実際に1980年である。ここまででd→a→cとわかるのだが，bの年号が異常に難しい。マンデラの釈放は1990年のことでアパルトヘイトの廃止とほぼ同時期，収監期間が約30年というのは早慶対策で触れることもあるが，それらから導けるのは逮捕されたのが1960年前後というところまでである。ANC参加の直後に逮捕されたのか，入党してからしばらく経ってから逮捕されたのかによってdより前からaの後まであり得てしまうから，勘の良い推測のように見えてaとbの二択までしか絞れないのだ。この推測で解けるなら難問ではあるにせよ工夫のある問題になっていた。そういう仕掛けをせず年号の知識問題にしてしまうのは作問のセンスが無い。問うならマンデラ釈放の年号にしておいてほしかった。
さて，マンデラがANCに参加したのは1944年で，実はかなり古い。したがってb→d→a→cの順となり，正解はa。
２４．早稲田大 教育学部（３つめ）
＜種別＞出題ミス（複数正解）
＜問題＞３ （11） ソヴィエト政権を最も早く承認した国はどれか。
a アメリカ b イギリス c ドイツ d 日本
＜解答速報＞
アメリカは1933年で最も遅れ，フランクリン＝ローズヴェルト政権による。日本は1925年の日ソ基本条約による。同年にソ連からの思想流入と男性普通選挙の実施を警戒して治安維持法が制定された。cのドイツは1922年のラパロ条約による。国際的に孤立していた敗戦国と社会主義国が接近したことは世界に衝撃を与えた。基本的にはこのヴァイマル共和国による国家承認が主要国では最速と見なされており，作問者の想定する正解もドイツだろう。審議の対象はbのイギリスで，ソ連の正式な国家承認は1924年のマクドナルド労働党内閣によるが，1921年の英ソ通商協定で実質的に国家承認しているという解釈がある。このため，英ソ通商協定での実質的な国家承認でも承認したことには違いないという説をとると，西欧諸国でイギリスが最も早い承認国となり，本問の正解もイギリスになりうる。
とはいえ実質的に過ぎないし，最近の受験世界史では英ソ通商協定をあまり教えないので混乱する受験生もほぼいないと思われた。しかし大学当局からお詫びとb・cの複数正解を認める旨の発表があったので少し意外であった。なお，全く同じミスが2016年の法政大で出ており，２巻に収録している（2016私大その他２８番，p.173）。やはり作問者の皆さんにあたっては，『絶対に解けない受験世界史』シリーズの通読を勧めたい。（もちろん現実的な話ではないので冗談です）
２５．早稲田大 教育学部（４つめ）
＜種別＞出題ミスに近い・悪問・難問
＜問題＞４ （12） こうした貴族（編註：中国の南朝の門閥貴族）が中心となって栄えた文化について述べた次の文�，鉢△寮妓蹐料箸濆腓錣擦箸靴董だ気靴い發里呂匹譴�。
� （�教が盛んになり多くの仏典の翻訳が行われた。
�◆‖亢腓鯊人僂靴撞珊�をこらした四六駢儷体という文体が主流となった。
a � 歙機´◆柔機 �b � 歙機´◆集�
c � 欷蹇´◆歙機 �d � 欷蹇´◆欷�
＜解答解説＞
�△論喫犬念柤世�無い。�，浪鮗瓩砲茲辰得妓蹐�変わる。南北朝はいずれでも仏教が盛んであったが，北朝では民衆まで含めて広まったのに対し，南朝は比較的貴族文化としての受容であった。また仏典漢訳も五胡十六国時代に鳩摩羅什が現れたように北朝の方が盛んであった。しかし，問題文に「北朝との比較で」とは入っていない以上，絶対評価で正誤を判断していいということになり，であれば南朝も十分に仏教は盛んであったし，仏典の漢訳は梁の武帝の命で進められていた。したがって北朝と比べて盛んではなかったと考えれば�，聾輅犬箸覆蝓と羈咾量簑蠅任呂覆い塙佑┐譴仞喫犬箸覆襦�これにより正解はaともcとも判断でき，無理やり正解を出すなら作問者の脳をエスパーするしかない。受験生は梁の武帝の事績を詳しく知らないので，南朝で仏典漢訳が進んだとは思わず，�，鮓蹐蠅犯獣任垢訖佑諒�が多いだろう。また，仏典の漢訳を正誤のポイントとして考えないとしても，南北朝ともに仏教が盛んだったのは早大の正誤判定としては自明すぎるので，わざわざ出題するということは北朝と比較してほしい問題だと推測し，相対評価で�，鮓輅犬犯獣任靴真佑發い襪世蹐ΑＬ簑蠅�成立しているとしても受験生心理から言ってあまりに紛らわしい。代ゼミから同様の指摘あり。駿台はaを正解とした上で，絶対評価で判断してよい旨のコメントを出している。東進はaを正解としていたがコメントなし。河合塾は教育学部の解答速報無し。大学当局が発表した公式解答例はaであったから，結果的に駿台のコメントが最も的確であった。しかし，上述のような思考でcを選び，誤答にされてしまった受験生は無念であろう。
２６．早稲田大 商学部
＜種別＞難問
＜問題＞２ 問E 下線部Eについて（編註：モンゴル帝国），その支配下での地理的知見を反映した「混一疆理歴代国都之図」が作成されたとされる国家を一つ選べ。
１．朝鮮 ２．明 ３．大越 ４．日本
＜解答解説＞
2025年の早稲田大・商学部は例年よりもかなり易しく，毎年このくらいの難易度でお願いしたいというものだった。その中で１問だけ難問をピックアップしておく。当該地図は教科書の挿絵で掲載があり，たとえば山川の『詳説』ではp.147にある。しかし，多くの教科書に載っているというほどメジャーなものではなく，通常の受験世界史で覚えるものでもないので収録対象とした。正解は朝鮮である。当該地図はこれ。
アフリカ大陸が喜望峰に至るまで掲載されている一方で，朝鮮半島が巨大，次いで中国も大きいが，日本列島は小さく向きもおかしい。それに比してインドは小さくアラビア半島との区別があやしく，地中海とヨーロッパは存在しない。アフリカ大陸の真ん中に謎の巨大な湖がある。個人的にはこれでモンゴル帝国時代の知見がふまえられていると言われても説得力がないと思うのだが，調べてみると，中央アジアや西アジアの地名が正確である点で「モンゴル帝国時代の地理的知見」が活かされているとのことである。また，1402年に完成したと伝わる一方，地名の変化等を根拠に16世紀の作例ではないかと主張する研究もあり，高校世界史で扱うには慎重を要する物体かもしれない。
〔番外編３〕早稲田大 商学部
＜問題＞２ 問F 下線部Fについて（編註：交易に参入），モンゴル王侯から特権の付与や出資を受け，利益を分配した商人集団の呼び名を一つ選べ。
１．ケシクテン ２．オルトク ３．シバウチ ４．ビチクチ
＜コメント＞
正解は２のオルトク商人。難問だが，用語集頻度�，念豈�範囲内である。ただし，オルトク商人は新課程になって登場した新用語で，自主的に新課程の教科書または用語集を入手して読んでいるのでもなければ浪人生には知り得ない用語である。総評にも書いた通り，2025年の入試は課程の切り替わりの年であったので，各大学ともに「新旧両課程に配慮する」という声明を何かしら発表していたが，ふたを開けてみると新課程への配慮はあっても旧課程への配慮がない大学ばかりであった。世間の風は浪人生に余りにも冷たい。これならせめて前もって「出題は新課程を中心とする」と発表しておいてほしかったものだ。本問はその代表例として番外編収録とした。それはそれとして，各大学が旧課程ではなく新課程に寄せてきたのは面白い。逆に旧課程にしかない用語を出題した問題は，早慶に限ると１問も無かった。皆，世界史Bはもう飽きているのかもしれない。
なお，ケシクテンは遊牧民に特有の，貴族や部族長の子弟を君主の近衛隊・宿直として用いる制度やその近衛隊を指す。これは私も知っていたが，残りの二つは知らなかった。シバウチは鷹狩りを指すモンゴル語，ビチクチも書記官僚を指すモンゴル語とのこと。
＜種別＞悪問・難問
＜問題＞１ 設問１ 資料Aに代表される女性裸像とその製作された時代について説明した以下の文章ア〜エの中から正しいものを一つ選び，マーク解答用紙の所定欄にマークしなさい。
資料A
ア 食料生産段階に入っていた当時の社会では，豊かな乳房や臀部を表現した像は多産と豊穣を祈願する呪術的要素を備えたものであった。
イ 最終氷期を終え，気候が温暖湿潤化し，植物相や動物相に変化が現れ，次第にマンモスなどの大型哺乳類が絶滅していった。
ウ この時代の女性裸像で現存するものは岩石や象牙などで作られており，ヨーロッパを中心に北アフリカの一部やメソポタミア方面にまで分布している。
エ アルタミラなどの洞穴絵画遺跡は同じ時代の所産である。
＜解答解説＞
資料Aは「ヴィレンドルフのヴィーナス」と呼ばれるオーストリアで発見された石像で，約２万年前，旧石器時代の末期に制作されたと考えられている。教科書の挿絵では比較的よく見るもので，東京書籍のp.13，帝国書院のp.8等にあるが，通常の高校世界史で暗記するものとはほとんど考えられていない。このため，まず問われている時代が旧石器時代とわからなかった受験生も多かろう。アは食料生産段階とは農業・牧畜の開始を指すので誤文，イも最終氷期の終わりは約１万年前で新石器時代の始まりと軌を一にするから誤文。しかし，ウとエはどちらも旧石器時代についての言及であり，時代では判断できない。エは直感で正文に見えるので，それを信じてこちらを選びたいところ。実際にエが正文で正解である。ウは，女性裸像はメソポタミアで発見されていないので誤文らしいのだが，私自身知らない知識であったし，調べても明確にはわからなかった。発掘されていないことを論証する論文や書籍は，発見されていないことに明確な研究上の意義がない限りは書かれないだろうから仕方がない。なお，用語集には「ユーラシア大陸各地に分布する」とあり，事実はともかく用語集記述を信用するならウも正文になりうる。用語集の記述を確認せずにウの文を作ったなら手抜きだし，確認して作ったなら性格が悪い。早稲田大の傾向から言って確認していない可能性の方が高い。
１７．早稲田大 文化構想学部（２つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞１ 設問２ 資料Bはメソポタミア南部に最初の都市文明を築いた人びとによって作られた祈りを捧げる参拝者の像である。19世紀，この都市文明の遺物，遺跡は外国調査隊によって発掘されたが，フランス隊によって発掘された都市遺跡をア〜エの中から一つ選び，マーク解答用紙の所定欄にマークしなさい。
ア ニネヴェ イ ウル ウ ラガシュ エ ハットゥシャ
＜解答解説＞
単純な難問。フランス隊が発掘したのはラガシュであり，ウが正解。ウルを発掘したのはイギリス隊で，これを率いた考古学者の名前がウーリーであることから日本語ではダジャレになる（英語だとUrとWoolleyなので特に面白くはない）。稀に予備校講師が話のネタにするので，これを知っていたら消去法で正解できたかもしれない。文化構想学部は大問１の設問１・２がこの難易度だったので絶望感が強い。
１８．早稲田大 文化構想学部（３つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞２ 設問３ 下線部Cについて述べた下記の文aとbの正誤の組み合わせとして正しいものを次のア〜エの中から一つ選び（編註：悲劇と喜劇），マーク解答用紙の所定欄にマークしなさい。
a アイスキュロスは，ソフォクレスらとともに三大悲劇詩人の一人とされ，トロイアの王家の不幸を主題とした『アガメムノン』を作った。
b 『女の平和』を作ったアリストファネスは，ペルシア戦争中のアテネで活動し，ペルシアの専制主義を風刺した。
ア a−正 b−正
イ a−正 b−誤
ウ a−誤 b−正
工 a−誤 b−誤
＜解答解説＞
bはアリストファネスの活動期がペロポネソス戦争期なので誤文と判断できる。aは難問で，『アガメムノン』の内容を知っていなければならないのは酷ではないか。アガメムノンはミケーネ王家の物語であるので誤文，したがって正解はエ。ミケーネで発掘された黄金のマスクがアガメムノンのマスクとも呼ばれるのはこうした事情による。こちらを手がかりにミケーネと結びつけてトロイアではないと推測した受験生もいたかもしれないが，最近の受験世界史では黄金のマスクが覚える対象ではないので極わずかだろう。
法学部は収録無し。日本語がやや怪しい問題が１問あったが（大問１の設問９），解答上の支障はあまりないと判断した。また，大問２の設問９のドーラヴィーラーが属する地方を問う問題は難易度が高いが，ドーラヴィーラーの用語集頻度が�い塙發�，多くの教科書の挿絵の地図に場所の記載があることから範囲内と見なした。
１９．早稲田大 文学部
＜種別＞出題ミス
＜問題＞１ 設問９ 下線部Kの事績について（編註：��小平），適切でないものをア〜エの中から一つ選び，マーク解答用紙の所定欄にマークしなさい。
ア 日中平和友好条約を締結した。
イ 四人組の失脚後に復権した。
ウ 改革開放路線を推進した。
エ 大躍進の失敗後に経済再建を図った。
＜解答解説＞
いずれも正文なので正解が無い。強引に正解を出す方法はいくつかあるのだが，いくつかあるのも困る話である。最有力候補はアで，1978年当時の最高指導者は華国鋒であるから��小平の事績ではないと見なす。しかし，実際には��小平は副首相として来日しており，天皇とも会談していて，実務者としては間違いなく��小平の事績である。イは，��小平は1973年に復権，76年の周恩来の死去に伴って失脚，同年中に毛沢東の死去と「四人組」の逮捕により再復権している。したがって「復権」ではなく「再復権」だから誤りという主張も一応ありうる（私自身はこの指摘を支持しない）。ウは疑いない正文。エは「大躍進の失敗後に」の主語も��小平だと解釈して，��小平が大躍進の失敗も経済再建も両方やったという意味だとすると誤文と解釈できる。河合塾と代ゼミから同様の指摘あり。駿台は勝手に最高指導者としての事績と読み替えてアを正解としていた。流石に逃げ道が無いと判断されたようで，大学当局からお詫びと全員正解とした旨の発表があった。
〔番外編２〕早稲田大 文学部
＜問題＞１ 亡国の危機をむかえた清朝でも，〔 L 〕の治世において康有為や梁啓超が変法を試みた時期には，M任侠待望論が出てきた。（編注：空欄Lの正解は光緒帝）
設問11 下線部Mの議論において，任侠として称賛された人物でないものをア〜エの中から一つ選び，マーク解答用紙の所定欄にマークしなさい。
ア 田中角栄 イ 吉田松陰 ウ 西郷隆盛 エ 大久保利通
＜コメント＞
時代が全く異なるのでアの田中角栄が正解と解くのは容易だが，任侠待望論という話題が面白すぎたので番外編に採用した。大久保利通も任侠として称賛されていたというのは意外である。簡単に調べたところでは全く情報が出てこなかったので，有志の有識者のコメントを待ちたい。
（追記）
旧称Twitterから有識者のコメントがあった。紹介された論文を読むと，この頃の保皇派は「少数精鋭で革命・改革を担った者」という点に重点を置いて任侠を解釈しており，であれば大久保利通も任侠に入るのは納得できる。
興味深く拝読しました。戊戌変法期の任侠待望論(?)については、当方、1900年代の日中留学生交流史を一時期アカデミアでの専門にしていました。世界史の設問としての適不適は別にして(笑)、「Japanese任侠」媒介の筆頭は黄遵憲でしょう。https://t.co/LhgYXIZtpw
— ほうとう (@copperpan47385) March 16, 2025
２０．早稲田大 文学部（２つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞３ 設問３ 空欄〔 C 〕は翻訳学校が作られたことで有名であるが（編註：空欄Cはトレドのこと），それに関連して，次のア〜エの中から，誤りを含むものを一つ選び，マーク解答用紙の所定欄にマークしなさい。
ア アリストテレスの論理学の著作がアラビア語からラテン語に訳された。
イ コーランの最初のラテン語訳が作られたことで有名である。
ウ アベラールは，この地でアラビア語とギリシア語を学んだ後，パリに移り，代表作「然りと否」を書いた。（編注：「然りと否」は原文ママ）
エ 翻訳者にはアラビア語，ギリシア語，ラテン語に通じていたユダヤ人がいた。
＜解答解説＞
いずれも難しい選択肢だが，受験生でもアとエはなんとなく正文に見えるだろうし，実際に正文である。残ったイとウはどうにもならない難易度で，運を天に任せるしかあるまい。イは正文で（文学部なのだからちゃんとクルアーンと書いてほしい），尊者ピエール（ペトルス＝ウェネラビリス）なるクリュニー修道院の修道院長が，1142年に自らトレドを訪れてムスリムへの神学上の反駁のための研究と執筆を行った。その過程で現地の二人の翻訳者チェスターのロバートとカリンティアのヘルマンに『クルアーン』のラテン語訳を依頼している。これが初めてのラテン語訳である。したがって残ったウが誤文で正解になる。アベラールは奇しくも同1142年に亡くなっており，それまでに遍歴を重ねているが，フランスから出ていない。
なお，イスラーム教の教義では『クルアーン』はアラビア語で書かれたもののみを指す。つまり翻訳された『クルアーン』は厳密に言えば『クルアーン』と認められず，『クルアーン』の解説書という扱いになる。ネット上の言及を探すと，これを知っていたため「『クルアーン』のラテン語訳等というものは存在しない」と考えてイを誤文と判断した受験生もいたようだ。問題文の立場が中世のキリスト教徒であるし，イの文をどの宗教の信徒の立場から見ても正文になるようにするのは難しく，便宜上「コーランの最初の翻訳」という表現は認められるべきだろう。ゆえに，これを理由に本問を複数正解と糾弾するのは無理筋であるが，受験生に厳格な立場のムスリムがいたとしたら戸惑わせたかもしれない。
２１．早稲田大 文学部（３つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞３ 設問７ 下線部Gの時代（編註：フェリペ２世）に生じた出来事ではないものを一つ選び，マーク解答用紙の所定欄にマークしなさい。
ア ローマ教皇，ヴェネツィアと同盟し，レパントの海戦でオスマン帝国軍を破った。
イ イタリア戦争の講和条約としてカトー＝カンブレジ条約を結んだ。
ウ セルバンテスがスペイン文学史上の傑作『ドン＝キホーテ』を刊行した。
エ スペイン領となったネーデルラントでユトレヒト同盟が結成された。
＜解答解説＞
受験生がフェリペ２世の在位中の出来事とはっきり覚えているのはアとエで，イとウは判断が難しい。イは，イタリア戦争を戦っていたのが父親のカール５世であるから講和もカール５世というように思える。ウのセルバンテスはレパントの海戦に参加して左腕を撃たれて失っているというエピソードが有名であり，高校や塾・予備校の授業ではしばしば言及されているため，少なくともセルバンテスがフェリペ２世の同時代人であるのは間違いない。ここからイを選んだ受験生は少なくなさそうだが，これは見事な引っかけである。カール５世はイタリア戦争終結前に気力を失って1556年に退位し，58年に亡くなっているが，カトー＝カンブレジ条約の締結は1559年である。したがってフェリペ２世の治世である。逆にセルバンテスが『ドン＝キホーテ』を著したのは晩年のことで，1605年に前編を，1615年に後編を発表した。フェリペ２世は1598年に亡くなっているため，このウが正解である。カール５世がカトー＝カンブレジ条約前に引退しているというのは早慶対策なら触れるポイントなので，他の難問に比べると正答率が高かった可能性がある。しかし，細かい知識を要する嫌な引っかけ問題には違いなく，正確な知識で回避した受験生を褒めることはできるが，適正な出題であるとは思わない。
２２．早稲田大 教育学部
＜種別＞難問
＜問題＞１ （２） 古代ギリシアの民主政について，誤っている説明はどれか。
a アテネの政治家ソロンが導入した財産政治は，一部の平民の政治参加に道を開く一方で，貴族中心の政体を維持するものであった。
b クレイステネスは，それまでの血縁的な部族に代わって，地縁共同体であるデーモスを新たな行政単位とした。
c ペリクレスにより，18歳以上のアテネの男性市民に民会への参加が認められた。
d 民衆裁判所は，20歳以上の市民から抽選で選ばれた陪審員によって構成された。
＜解答解説＞
いずれも正文に見えて，誤りが見つからない。こういうときは細かな数字があやしいと思った読者がいたら勘が良い。正解はdで，20歳が30歳の誤りである。なお，bのデーモスは行政単位であると同時に選挙区でもあり，デーモスを基盤にする政治ということからこの種の政体をデモクラティア，英語でいうところのデモクラシーと称するようになった。
２３．早稲田大 教育学部（２つめ）
＜種別＞難問
＜問題＞２ （11） アフリカ諸国の歴史について述べた次の文を古いほうから時代順にならべた場合，３番目にくるのはどれか。
a エチオピアでアフリカ諸国首脳会議が開催され，アフリカ統一機構（OAU）が発足した。
b マンデラがアフリカ民族会議（ANC）に参加した。
c 南ローデシアがジンバブエと改称した。
d チュニジアがフランスから独立した。
＜解答解説＞
aは年号を直接知らなくても「アフリカの年」の後なのは明白なので1960年よりも後，dはアルジェリアを除く北アフリカ諸国が1960年以前に独立済であることを知っていればaより前とわかる。なお，チュニジアの独立は1956年，OAUの結成は1963年。ジンバブエへの改称は隣国モザンビークとアンゴラのポルトガルからの独立の後，白人政権が倒れてムガベ政権が成立してからだから，1970年代後半よりも後とわかる。実際に1980年である。ここまででd→a→cとわかるのだが，bの年号が異常に難しい。マンデラの釈放は1990年のことでアパルトヘイトの廃止とほぼ同時期，収監期間が約30年というのは早慶対策で触れることもあるが，それらから導けるのは逮捕されたのが1960年前後というところまでである。ANC参加の直後に逮捕されたのか，入党してからしばらく経ってから逮捕されたのかによってdより前からaの後まであり得てしまうから，勘の良い推測のように見えてaとbの二択までしか絞れないのだ。この推測で解けるなら難問ではあるにせよ工夫のある問題になっていた。そういう仕掛けをせず年号の知識問題にしてしまうのは作問のセンスが無い。問うならマンデラ釈放の年号にしておいてほしかった。
さて，マンデラがANCに参加したのは1944年で，実はかなり古い。したがってb→d→a→cの順となり，正解はa。
２４．早稲田大 教育学部（３つめ）
＜種別＞出題ミス（複数正解）
＜問題＞３ （11） ソヴィエト政権を最も早く承認した国はどれか。
a アメリカ b イギリス c ドイツ d 日本
＜解答速報＞
アメリカは1933年で最も遅れ，フランクリン＝ローズヴェルト政権による。日本は1925年の日ソ基本条約による。同年にソ連からの思想流入と男性普通選挙の実施を警戒して治安維持法が制定された。cのドイツは1922年のラパロ条約による。国際的に孤立していた敗戦国と社会主義国が接近したことは世界に衝撃を与えた。基本的にはこのヴァイマル共和国による国家承認が主要国では最速と見なされており，作問者の想定する正解もドイツだろう。審議の対象はbのイギリスで，ソ連の正式な国家承認は1924年のマクドナルド労働党内閣によるが，1921年の英ソ通商協定で実質的に国家承認しているという解釈がある。このため，英ソ通商協定での実質的な国家承認でも承認したことには違いないという説をとると，西欧諸国でイギリスが最も早い承認国となり，本問の正解もイギリスになりうる。
とはいえ実質的に過ぎないし，最近の受験世界史では英ソ通商協定をあまり教えないので混乱する受験生もほぼいないと思われた。しかし大学当局からお詫びとb・cの複数正解を認める旨の発表があったので少し意外であった。なお，全く同じミスが2016年の法政大で出ており，２巻に収録している（2016私大その他２８番，p.173）。やはり作問者の皆さんにあたっては，『絶対に解けない受験世界史』シリーズの通読を勧めたい。（もちろん現実的な話ではないので冗談です）
２５．早稲田大 教育学部（４つめ）
＜種別＞出題ミスに近い・悪問・難問
＜問題＞４ （12） こうした貴族（編註：中国の南朝の門閥貴族）が中心となって栄えた文化について述べた次の文�，鉢△寮妓蹐料箸濆腓錣擦箸靴董だ気靴い發里呂匹譴�。
� （�教が盛んになり多くの仏典の翻訳が行われた。
�◆‖亢腓鯊人僂靴撞珊�をこらした四六駢儷体という文体が主流となった。
a � 歙機´◆柔機 �b � 歙機´◆集�
c � 欷蹇´◆歙機 �d � 欷蹇´◆欷�
＜解答解説＞
�△論喫犬念柤世�無い。�，浪鮗瓩砲茲辰得妓蹐�変わる。南北朝はいずれでも仏教が盛んであったが，北朝では民衆まで含めて広まったのに対し，南朝は比較的貴族文化としての受容であった。また仏典漢訳も五胡十六国時代に鳩摩羅什が現れたように北朝の方が盛んであった。しかし，問題文に「北朝との比較で」とは入っていない以上，絶対評価で正誤を判断していいということになり，であれば南朝も十分に仏教は盛んであったし，仏典の漢訳は梁の武帝の命で進められていた。したがって北朝と比べて盛んではなかったと考えれば�，聾輅犬箸覆蝓と羈咾量簑蠅任呂覆い塙佑┐譴仞喫犬箸覆襦�これにより正解はaともcとも判断でき，無理やり正解を出すなら作問者の脳をエスパーするしかない。受験生は梁の武帝の事績を詳しく知らないので，南朝で仏典漢訳が進んだとは思わず，�，鮓蹐蠅犯獣任垢訖佑諒�が多いだろう。また，仏典の漢訳を正誤のポイントとして考えないとしても，南北朝ともに仏教が盛んだったのは早大の正誤判定としては自明すぎるので，わざわざ出題するということは北朝と比較してほしい問題だと推測し，相対評価で�，鮓輅犬犯獣任靴真佑發い襪世蹐ΑＬ簑蠅�成立しているとしても受験生心理から言ってあまりに紛らわしい。代ゼミから同様の指摘あり。駿台はaを正解とした上で，絶対評価で判断してよい旨のコメントを出している。東進はaを正解としていたがコメントなし。河合塾は教育学部の解答速報無し。大学当局が発表した公式解答例はaであったから，結果的に駿台のコメントが最も的確であった。しかし，上述のような思考でcを選び，誤答にされてしまった受験生は無念であろう。
２６．早稲田大 商学部
＜種別＞難問
＜問題＞２ 問E 下線部Eについて（編註：モンゴル帝国），その支配下での地理的知見を反映した「混一疆理歴代国都之図」が作成されたとされる国家を一つ選べ。
１．朝鮮 ２．明 ３．大越 ４．日本
＜解答解説＞
2025年の早稲田大・商学部は例年よりもかなり易しく，毎年このくらいの難易度でお願いしたいというものだった。その中で１問だけ難問をピックアップしておく。当該地図は教科書の挿絵で掲載があり，たとえば山川の『詳説』ではp.147にある。しかし，多くの教科書に載っているというほどメジャーなものではなく，通常の受験世界史で覚えるものでもないので収録対象とした。正解は朝鮮である。当該地図はこれ。
アフリカ大陸が喜望峰に至るまで掲載されている一方で，朝鮮半島が巨大，次いで中国も大きいが，日本列島は小さく向きもおかしい。それに比してインドは小さくアラビア半島との区別があやしく，地中海とヨーロッパは存在しない。アフリカ大陸の真ん中に謎の巨大な湖がある。個人的にはこれでモンゴル帝国時代の知見がふまえられていると言われても説得力がないと思うのだが，調べてみると，中央アジアや西アジアの地名が正確である点で「モンゴル帝国時代の地理的知見」が活かされているとのことである。また，1402年に完成したと伝わる一方，地名の変化等を根拠に16世紀の作例ではないかと主張する研究もあり，高校世界史で扱うには慎重を要する物体かもしれない。
〔番外編３〕早稲田大 商学部
＜問題＞２ 問F 下線部Fについて（編註：交易に参入），モンゴル王侯から特権の付与や出資を受け，利益を分配した商人集団の呼び名を一つ選べ。
１．ケシクテン ２．オルトク ３．シバウチ ４．ビチクチ
＜コメント＞
正解は２のオルトク商人。難問だが，用語集頻度�，念豈�範囲内である。ただし，オルトク商人は新課程になって登場した新用語で，自主的に新課程の教科書または用語集を入手して読んでいるのでもなければ浪人生には知り得ない用語である。総評にも書いた通り，2025年の入試は課程の切り替わりの年であったので，各大学ともに「新旧両課程に配慮する」という声明を何かしら発表していたが，ふたを開けてみると新課程への配慮はあっても旧課程への配慮がない大学ばかりであった。世間の風は浪人生に余りにも冷たい。これならせめて前もって「出題は新課程を中心とする」と発表しておいてほしかったものだ。本問はその代表例として番外編収録とした。それはそれとして，各大学が旧課程ではなく新課程に寄せてきたのは面白い。逆に旧課程にしかない用語を出題した問題は，早慶に限ると１問も無かった。皆，世界史Bはもう飽きているのかもしれない。
なお，ケシクテンは遊牧民に特有の，貴族や部族長の子弟を君主の近衛隊・宿直として用いる制度やその近衛隊を指す。これは私も知っていたが，残りの二つは知らなかった。シバウチは鷹狩りを指すモンゴル語，ビチクチも書記官僚を指すモンゴル語とのこと。
Posted by dg_law at 17:00│Comments(11)
この記事へのコメント
先日に引き続き、更新ご苦労さまです。
本年度の早大は日本史含めて（日本史は全体的に易化でした）、慎重に作っているのかなとは感じられました。そのためか、厄介であった商学部でも易化傾向なのも様子見といったものではないでしょうか。なお、商学部に関しては記述問題の大問ではウォール街の由来から「壁」と書かせるキモい記述問題はどのように感じられましたか？ こういう問題などから今年の早稲商の易化は単に偶然であり、来年には反発するのではないでしょうか。
それはそれとして教育学部の収録が最多だったということで、私も問いていましたが、今年はすごくつまらなかったのは気の所為ですかね？ 思い返せば現状の早稲教はマーク問題50問と、出題においては以前の慶應法と全く同じで事務作業感が強いですね。教育学部の問題は教員養成の学部として適正であるとは思えないですね。
ここからは余談かつ私情になりますが、うちの従兄弟が今年早大文学部志望で日本史指導もしていたのですが、類聚三代格を教え、ついでに飛鳥浄御原令がこの史料に載っていないということも教えていました。そうしたらなんと今年の早大文学部大問2で類聚三代格で出題され、この史料で載っていない法令（解答：飛鳥浄御原令）を記述させるというドンピシャで的中しましたｗ 奇しくもその問題は別に載っていないことを知らなくとも解答できるものでしたが、こういったことがあったので印象深いものとなりました。
本年度の早大は日本史含めて（日本史は全体的に易化でした）、慎重に作っているのかなとは感じられました。そのためか、厄介であった商学部でも易化傾向なのも様子見といったものではないでしょうか。なお、商学部に関しては記述問題の大問ではウォール街の由来から「壁」と書かせるキモい記述問題はどのように感じられましたか？ こういう問題などから今年の早稲商の易化は単に偶然であり、来年には反発するのではないでしょうか。
それはそれとして教育学部の収録が最多だったということで、私も問いていましたが、今年はすごくつまらなかったのは気の所為ですかね？ 思い返せば現状の早稲教はマーク問題50問と、出題においては以前の慶應法と全く同じで事務作業感が強いですね。教育学部の問題は教員養成の学部として適正であるとは思えないですね。
ここからは余談かつ私情になりますが、うちの従兄弟が今年早大文学部志望で日本史指導もしていたのですが、類聚三代格を教え、ついでに飛鳥浄御原令がこの史料に載っていないということも教えていました。そうしたらなんと今年の早大文学部大問2で類聚三代格で出題され、この史料で載っていない法令（解答：飛鳥浄御原令）を記述させるというドンピシャで的中しましたｗ 奇しくもその問題は別に載っていないことを知らなくとも解答できるものでしたが、こういったことがあったので印象深いものとなりました。
Posted by 歴史科目の入試問題が好きな学生 at 2025年03月15日 19:32
なるほど。早稲田大は入試科目に歴史総合を採用しない方針をとっていましたが，それも含めて作問が慎重だったという推測は当たっていそうですね。とすると来年に反発があるかもしれないのもおっしゃるとおりだと思います。
「壁」は解いていて笑いました。駿台は「ウォール」を解答にしていましたが，それでも正解になるでしょうし，せめてもの抵抗で「城壁」と書いても正解にしてくれる気はします。出題ミスでも難問でも無かったので収録しませんでしたが，〔番外編〕で入れてもよかったかも。
教育学部は，他の大学も含めて，名前に反して入試問題に気合を入れているところが少ないなという印象です。なぜなんでしょうね。
余談は良いエピソードですね。その子も類聚三代格だけは生涯忘れなさそう。
「壁」は解いていて笑いました。駿台は「ウォール」を解答にしていましたが，それでも正解になるでしょうし，せめてもの抵抗で「城壁」と書いても正解にしてくれる気はします。出題ミスでも難問でも無かったので収録しませんでしたが，〔番外編〕で入れてもよかったかも。
教育学部は，他の大学も含めて，名前に反して入試問題に気合を入れているところが少ないなという印象です。なぜなんでしょうね。
余談は良いエピソードですね。その子も類聚三代格だけは生涯忘れなさそう。
Posted by DG-Law at 2025年03月15日 20:26
こんにちは。今年早稲田教育を受験し合格した者です（進学は社学）。昨年の9月ごろにこちらのサイトを見つけて以来大変参考にさせていただき、結果として教育の世界史9割取れました。本当にありがとうございました。今年の教育世界史は過去年度からかなり難化してる事が解いてる最中から感じとれました。特にアフリカの並べ替えは、慶応法や経済に受かるような友人たちもジンバブエ改称年とマンデラの参加年がわからず軒並み間違えていました。私自身は、ジンバブエ改称年を知識として知っていたことと、「アフリカ民族会議は1912年成立」「マンデラは議長として勾留された」という知識からおおよそのマンデラ参加年を推測して正答できたのですが、半分くらい勘のつもりで答えたのでやはり相当な悪問だったと思います。また珍しく大問二と三が問題数や構成が全く同じであったことからニのマーク欄と三のマーク欄を取り違えて回答してしまうマークミスも掲示板でよく見かけ、「問題以外の場所でも性格が悪いな」と思いました。
Posted by もうすぐ大学生 at 2025年03月15日 23:35
更新お待ちしてました。ドン=キホーテが17世紀の文学というのは有名なのでそれを知ってれば消去法で解答できたでしょうね。
Posted by ななな at 2025年03月16日 09:30
＞もうすぐ大学生さん
参考になったなら何よりです。また，合格おめでとうございます。教育で９割はかなり勉強された成果だと思います。あのアフリカ史の問題は，記事本文中にも書いた通りですが，そういう絞り方をしてあとは運というのが正着（？）だと思います。
＞また珍しく大問二と三が問題数や構成が全く同じであったことから〜〜
わざと仕掛けた罠ではないと思いますがｗ，普段の素行が悪いので疑われてしまうのもやむを得ませんね。
そういえば大問のマークの並び，早稲田大は学部ごとに違っていて，大問１の横に２があるパターンもあれば，１の下に２があるパターンもあるんですよね。あれは統一してほしいです。
＞なななさん
17世紀の文学として有名かはちょっとわからないですが，なるほど，著作を世紀別で覚えていると易しかったと思います。
参考になったなら何よりです。また，合格おめでとうございます。教育で９割はかなり勉強された成果だと思います。あのアフリカ史の問題は，記事本文中にも書いた通りですが，そういう絞り方をしてあとは運というのが正着（？）だと思います。
＞また珍しく大問二と三が問題数や構成が全く同じであったことから〜〜
わざと仕掛けた罠ではないと思いますがｗ，普段の素行が悪いので疑われてしまうのもやむを得ませんね。
そういえば大問のマークの並び，早稲田大は学部ごとに違っていて，大問１の横に２があるパターンもあれば，１の下に２があるパターンもあるんですよね。あれは統一してほしいです。
＞なななさん
17世紀の文学として有名かはちょっとわからないですが，なるほど，著作を世紀別で覚えていると易しかったと思います。
Posted by DG-Law at 2025年03月16日 13:05
今年もお疲れさまです。
18番のアガメムノン、小学校の図書館に学研ひみつシリーズなどとともに並んでいた『まんが世界のふしぎ物語』（理論社）を思い出しました。
トロイアとミケーネの巻は半ばシュリーマンの伝記だったので、読んでいた受験生が「アガメムノンのマスクが出てきたのはトロイアの後に発掘していた遺跡」と覚えていれば正答できたかもしれません（なまなかな覚え方だと「トロイア戦争の話に出てきた」とだけ思い出してかえってミスリードかも……）
余談ですが、この漫画のシリーズタイトルを調べるためにググっていたら、ピクシブ百科事典に記事が作られていて驚きましたｗ
18番のアガメムノン、小学校の図書館に学研ひみつシリーズなどとともに並んでいた『まんが世界のふしぎ物語』（理論社）を思い出しました。
トロイアとミケーネの巻は半ばシュリーマンの伝記だったので、読んでいた受験生が「アガメムノンのマスクが出てきたのはトロイアの後に発掘していた遺跡」と覚えていれば正答できたかもしれません（なまなかな覚え方だと「トロイア戦争の話に出てきた」とだけ思い出してかえってミスリードかも……）
余談ですが、この漫画のシリーズタイトルを調べるためにググっていたら、ピクシブ百科事典に記事が作られていて驚きましたｗ
Posted by 砂屋 at 2025年03月16日 16:06
そういうエピソード的なものは，けっこう小学生の時に読んでいた漫画で覚えていることが多いんですよね。
私はその後継シリーズの『まんが世界なぞのなぞ』を読んでいたのを思い出しました。
＞余談ですが、この漫画のシリーズタイトルを調べるためにググっていたら、ピクシブ百科事典に記事が作られていて驚きましたｗ
『まんが世界なぞのなぞ』の方もありますね。登場人物の吸血鬼の絵があるのか……
私はその後継シリーズの『まんが世界なぞのなぞ』を読んでいたのを思い出しました。
＞余談ですが、この漫画のシリーズタイトルを調べるためにググっていたら、ピクシブ百科事典に記事が作られていて驚きましたｗ
『まんが世界なぞのなぞ』の方もありますね。登場人物の吸血鬼の絵があるのか……
Posted by DG-Law at 2025年03月18日 01:37
今年もお疲れ様です。
商学部の難問には毎度キレ散らかしながら過去問を解いていたので、実際に受験してみたら今年は随分大人しくなったなと拍子抜けでした。
ずっとこんな感じであって欲しいというのは全くもって同感です。
あと、やはり早稲田法は問題に安定感があっていいですね。今年の論述も内容の取捨選択には苦労しましたが、書いてて楽しかったです。
商学部の難問には毎度キレ散らかしながら過去問を解いていたので、実際に受験してみたら今年は随分大人しくなったなと拍子抜けでした。
ずっとこんな感じであって欲しいというのは全くもって同感です。
あと、やはり早稲田法は問題に安定感があっていいですね。今年の論述も内容の取捨選択には苦労しましたが、書いてて楽しかったです。
Posted by RIZE at 2025年03月21日 12:53
法学部は早稲田大の中では正誤判定も論述も易しくて解きやすいですね。逆にこれで差がつくのかと不安になりますが。
論述はツボを押さえた良い問題が多いと思います。配点がめちゃくちゃ低いのが惜しい。
論述はツボを押さえた良い問題が多いと思います。配点がめちゃくちゃ低いのが惜しい。
Posted by DG-Law at 2025年03月21日 22:47
毎年拝見し勉強させていただいております（本も全部買っております）。
さて、教育学部の〈問題〉３の（４）、韓国併合前後の日韓関係についての誤文選択ですが、正答はbの「第１次日韓協約によって韓国の保護国化が実行された。」が誤文であることは異論はないのですが、aの「韓国統監伊藤博文はハルビン駅のホームで安重根に暗殺された。」という文、伊藤が暗殺されたのは韓国統監を辞したあとなので「前韓国統監」とすべきなので、aも誤文になるのではないかと思うのですがいかがでしょうか。
さて、教育学部の〈問題〉３の（４）、韓国併合前後の日韓関係についての誤文選択ですが、正答はbの「第１次日韓協約によって韓国の保護国化が実行された。」が誤文であることは異論はないのですが、aの「韓国統監伊藤博文はハルビン駅のホームで安重根に暗殺された。」という文、伊藤が暗殺されたのは韓国統監を辞したあとなので「前韓国統監」とすべきなので、aも誤文になるのではないかと思うのですがいかがでしょうか。
Posted by のーすまん at 2025年03月22日 13:40
ご購入ありがとうございます。
全然気付いていなかったですが，言われてみるとおっしゃる通りでaも誤文ですね。大学当局発表も無いので，おそらく誰も気付いていないものかと思われます。この記事上でも足すか，書籍版の時に書き足すかは後で考えます。
全然気付いていなかったですが，言われてみるとおっしゃる通りでaも誤文ですね。大学当局発表も無いので，おそらく誰も気付いていないものかと思われます。この記事上でも足すか，書籍版の時に書き足すかは後で考えます。
Posted by DG-Law at 2025年03月25日 12:59
