2025年03月16日
2025受験世界史悪問・難問・奇問集 その３（国公立大）
１．共通テスト本試験 旧世界史A
＜種別＞出題ミス
＜問題＞２ 問１ 下線部aの国（編註：ソ連）の歴史について述べた次の文あ〜うが年代の古いものから順に正しく配列されているものを，後の� 銑Δ里Δ舛�ら一つ選べ。〔 ７ 〕
あ 日本などによる干渉戦争が始まった。
い 血の日曜日事件が起こった。
う コミンフォルムが結成された。
� ，□�い→う
�◆，□�う→い
�� い→あ→う
�ぁ，あ�う→あ
�ァ，Β�あ→い
�Α，Β�い→あ
＜解答解説＞
細かいことを気にせず解くのであれば，あのシベリア出兵が第一次世界大戦末の1918年の開始，いの血の日曜日事件が日露戦争中の1905年，うのコミンフォルム結成が1947年なので，い→あ→うの��が正解になる。しかし，問われているのはソ連の歴史であり，ソ連の成立は1922年であるから，あといはそもそもソ連の歴史ではない。ソヴィエト＝ロシア政権もソ連に含めてしまうことはあるから，シベリア出兵はよしとしても，血の日曜日事件はどう考えてもロシア帝国史だろう。作問者は「ソ連地域の歴史」または「前史を含めたソ連史」のつもりで作ったと思われるが，恣意的な読ませ方ではないか。
２．共通テスト本試験「歴史総合，世界史探究」
＜種別＞悪問
＜問題＞３ 問７ カニンガム（編註：19世紀のイギリス人インド研究者）と同様に外国人として考古学的な調査を行った人物にスタインがいる。スタインの中央ユーラシアにおける調査実施の許可に関わって残された現地政府の公文書の抜粋（資料４）から読み取れる事柄あ・いと，資料４が書かれた時期の政治的背景に関して述べた文X〜Zとについて，最も適当なものの組合せを，後の� 銑Δ里Δ舛�ら一つ選べ。〔 22 〕
資料４
・スタイン氏が初めて我が国にやって来たのは，８か国連合軍が都を占領した時であり，外国人は国内で好きなように振る舞うことができた。
・今日までの30年にわたるスタイン氏の調査による敦煌文書や仏像の発見は，アジアの古代研究に新時代を開いた。しかし，これらは皆，国家の貴重な宝物である。外国人がこれを研究するのはいいのだが，盗み去ることは不法行為である。
資料４から読み取れる事柄
あ 現地政府は，外国人による学術調査を奨励し，文化財・遺物を国外において保護する必要がある，と考えていた。
い 現地政府は，外国人が学術調査を利用して文化財・遺物を国外に持ち出していることを危惧し，それらを自国において保護する必要がある，と考えていた。
資料４が書かれた時期の政治的背景
X 明治維新に倣って，立憲制を目指した国制改革を進めようとしていた。
Y 国家主導の下で，改革開放政策が進められていた。
Z 全国の統一的支配の実現を目指して，北伐が進められていた。
� ，◆�X �◆，◆�Y �� あ−Z
�ぁ，ぁ�X �ァ，ぁ�Y �Α，ぁ�Z
＜解答解説＞
深いことは考えずに解答を出すなら，資料４から読み取れる内容は「い」，資料４が書かれた時期は義和団戦争の30年後であるから1930年で，これに最も近い年号はZの「北伐が進められていた」の1926〜28年である。Xは戊戌の変法か光緒新政とすると19世紀末〜20世紀初頭，Yは1970年代後半以降なので時期が全く合わない。よって正解は�Δ砲覆襦�
しかし，厳密に考えると資料４が出されたのは1930年，Zは1926〜28年であるから，年代が重なっていない。問題の要求は「書かれた時期の政治的背景」であるから，重なっていなくても因果関係があれば問題は無いと考えることができる。よって「1926〜28年に北伐が進められていた」ことが「1930年に現地政府が外国人研究者に文化財の持ち出しが不法行為であると警告したこと」の背景になっていればよい。……よいのだが，冷静に考えるとこの２つの事象に因果関係が見いだしにくい。第一の大問題として問題文に資料４は「現地政府の公文書」とあるので，資料４が南京政府ではなく敦煌のあった馬家軍または新疆政府が作成したものである可能性がある。仮に資料４が南京政府が作成したものではないとすると，その時点で北伐との関連性は極めて見いだしにくいということになる。これでは話が進まないので，一旦は資料４は南京政府が作成したものと仮定する。
次の問題点はZの「進められていた」という文言である。「北伐が完了した」という文言だったのであれば，中華民国の南京政府が一応の統一権力となったので情勢が安定したため，外国人研究者の無法に対する取締に乗り出すことができたのではないか，と推論するのはさして難しくないと思う。Zの北伐の枕詞的に「全国の統一的支配の実現を目指して」と書かれていることも，作問者の意図がこの推論で正解を導いてほしいというものである可能性が高いことを補強する。このため「進められた」は「完了した」の同義語と見なせば問題は成立するように思える。しかし，これは問題のある推論である。重大な史実誤認が発生する。高校世界史では学習しないが，1930〜31年頃の中国は中原大戦という大規模な内戦が起きていて，むしろ不安定な情勢である。中原大戦が高校世界史に登場しないからといって，史実としても存在しないものとして推論を立ててよいとはならない。したがって「進められていた」を「完了した」と読み替えて推論するのは筋が良くない。
このため，いよいよ1926〜28年に北伐が進行中だったことが1930年の公文書の政治的背景になった要素があるのを見いださなければならないが，そういうものはあるだろうか。考えて思いついたのは「北伐の進行により国内情勢が不安定になっていたので，1926〜28年頃に外国人研究者の無法な振る舞いが悪化していた可能性がある。1930年の公文書はその影響下で作成されたものではないか」という理屈である。しかし，これも問題点がある。北伐による混乱が生じていた地域（華北）と，西域は地域が全く別である。したがって北伐で華北が混乱していたとしても，西域での外国人研究者の無法な振る舞いが悪化する直接的な理由にはならない。
もう一つ，「北伐の進行によってナショナリズムが高まり，文化財の持ち出し規制の気運が高まったのではないか」という推論はどうか。理屈は成り立っているが，問題点が残る。中国のナショナリズムは長い年月をかけて醸成されたものであって，北伐に限定する，ましてや北伐の進行中に急激に高まったとするのは短絡的である。仮に北伐中に急激に高揚したことにするとしても，間にナショナリズムの高揚を挟んでいればよいとするなら，Xも正しいということになりかねない（光緒新政がナショナリズムを高揚するものではなかったという理屈は成り立たないだろう）。Zが良くてXがダメとするには年号の近さを根拠にするしかなく，ナショナリズムの高揚を政治的背景とする推論も結局危ない。
と詰めていくと，どう解釈しても資料４の政治的背景に北伐の進行があるというのは無理があるという結論に至る。論理が宙に浮いている感じが非常に気持ち悪い。なお，１・２番は大学入試センターに問い合わせた方がいて，出題ミスとは認めない旨の返答であったことを確認している。
３．共通テスト追試験「歴史総合，世界史探究」
＜種別＞難問
＜問題＞２ 問３ 下線部bに関連して（編註：百年戦争の過程でイングランドが保持する大陸所領は，大きく変化している），大陸におけるイングランドの主な領土及び勢力下にあった主な領域を示した図�機銑靴砲弔い董� 古いものから年代順に正しく配列したものを，後の� 銑Δ里Δ舛�ら一つ選べ。〔 11 〕
�機 ´�
��
� ´機櫚供櫚掘 ´◆´機櫚掘櫚�
�� �供櫚機櫚掘 ´ぁ´供櫚掘櫚�
�ァ´掘櫚機櫚供 ´Α´掘櫚供櫚�
＜解答解説＞
追試験を解いていて，慶應の問題冊子だったのかなと困惑した問題。共通テストとしては異常な難易度の地図である。通常の受験世界史では百年戦争の経過はあまり学習しない。百年戦争の要点は，
・アキテーヌ地方の領有権問題，フランドル地方の勢力争い，王位継承権の３つを要因に勃発したこと
・ジャンヌ＝ダルクの出現が戦争の最終的な転換点となったこと
・フランスの王権強化（中央集権化）が進み，官僚制と常備軍が整備されて絶対王政への道が開かれたこと
・フランスの勝利に伴って，英仏が完全に分離する契機となったこと
・直後のバラ戦争も含めて，英仏の封建諸侯の多くが戦死または没落し，王権強化の一因となったこと
くらいまで学習できていれば十分である（実際には共通テストレベルだとここまでの理解も不要）。ご覧の通りここに経過は含まれない。GMARCH以上の難関私大受験であっても，これに加えて
・イギリスが長弓兵を運用して重要な会戦で勝利していること。その具体例としてクレシーの戦い，ポワティエの戦い，アジャンクールの戦いがある。
・クレシーの戦い（1346年）とポワティエの戦い（1356年）は百年戦争の初期の出来事であり，アジャンクールの戦い（1415年）は後期の出来事である。
という点がわかっていれば対応できる。なお，クレシーの戦いのみ用語集頻度��，ポワティエの戦いとアジャンクールの戦いは現行課程で範囲外である（ポワティエの戦いは前課程まで範囲内，アジャンクールの戦いは２つ前の課程まで範囲内）。個々の戦いの名称は百年戦争によらず，よほど大きな歴史の転換点となったもの以外は削減される傾向にある。
という前提条件を説明すれば，尚更本問の異様さが理解されると思われる。普通に共通テストレベルの勉強をしてきた受験生には手も足も出なかっただろう。私自身も�気鉢靴料宛紊呂舛腓辰版困鵑澄�正解は�イ任△襦��靴漏�戦時の状況（1337年）で，�気魯櫂錺謄�エの戦いでのイギリスの勝利により，南西部のイギリス領が大きく広がった頃（1360年頃）の状況。その後，休戦を挟んでフランス側が盛り返し，1380年頃に一度は�靴剖瓩ぞ�況まで戻っている。これが本問を極端に難しくしている要因の一つで，�靴�1380年頃の差分はほぼカレーの有無のみである（1380年頃の地図であればイギリスが�靴鵬辰┐謄�レーを領有している）。�兇呂気蕕砲修慮紂ぅぅ�リスがヘンリ５世の指導下で再征服に乗り出し，アジャンクールの戦いで大勝した後，1420年頃の状況である。しかし1422年にヘンリ５世が急死し，ヘンリ６世が幼年で即位すると風向きが変わっていく。1429年にジャンヌ＝ダルクが登場してオルレアンを奪回，以降はフランスの逆襲が進んで1453年，カレーを除く大陸領からイギリス軍が撤退し，後世にこれが百年戦争の終結と見なされている。なお，本問のリード文は百年戦争の終結年についての話題であり，フランスがカレーを奪った1558年説や，休戦に言及した条約が締結された1475年説，イギリス側がヴァロワ家によるフランス王の継承を公的に認めた1492年説，イギリスが完全にフランスの王位継承権を放棄した1801年説などがあることを紹介している。もっとも，これを読んだところで本問のヒントにはならない。
４．北海道大
＜種別＞難問
＜問題＞１ 問７ 下線部(7)について（編註：スラヴ人やノルマン人（ヴァイキング），マジャール人らが様々な土地を移動した），（ア）ノルマン人の一派が現在の南イタリアに移動して建国した国の名前を答えなさい。また（イ）図C はノルマン人のイングランド征服を描いた「バイユー刺繍画」（「バイユー＝タペストリ」とも呼ばれる）である。ここでは海を越えて上陸する場面を左から右へと展開するように描いている。そこに表されるノルマン人の高度な水・陸の技術について説明しなさい。（編註：60字程度）
図C
＜解答解説＞
収録対象とすべきかどうか迷った問題。受験生の発想を試すという意味で悪い問題ではないのだが，高度すぎるかなと思われた。このことは強調しておきたい。（ア）は易しく，両シチリア王国（ノルマン＝シチリア王国）。難問は（イ）である。バイユーのタペストリーは教科書や資料集にはよく掲載されているが，絵の内容までは学習しないので，本問はほぼ完全な図版の読み取り問題である。しかし，忘れがちなことではあるが，特徴を読み取るには，特徴になりえないものについての知識が必要であるので，何を読み取って解答とするかは受験生目線だと困難であると思われる。
海の技術の方がまだ読み取りやすいか。ヴァイキングの船は底が広く喫水が浅い。このことは川への遡行や海岸への接近を容易にし，上陸作戦に役立った。ノルマン＝コンクエストも上陸作戦であるから，このことを書けばよい。これはバイユーのタペストリーの説明としてよく載っているから，見覚えのある受験生もいたかもしれない。世界史が好きな子ほど，こういう戦争にかかわる説明はよく読んでいる気がする。しかし，資料集を読んでいたから知っていたということなら結局は知識問題ということになる。その知識が無いとして，試験時間中にバイユーのタペストリーをじっくりと見て，その場で「古代地中海で出てきたガレー船や，ジャンク船・ダウ船に比べて喫水がすごく浅いな」と気づくのは相当に困難というか，端的に言って無理ではないか。
もう一つは騎兵が鐙を用いている点である。「鐙があることで馬上の行動が容易になり，重い槍を持っての突撃が可能になった」というのが正解だろう。西欧的な重装騎兵である。西欧に鐙が登場した時期は激しい論争があり，私のような軍事史の素人が立ち入れるものではないが，1000年頃に広がったというのが妥当な線のようだ。しかし，この頃はまだ「騎乗した歩兵」の域は出ておらず，鐙で踏ん張ることで槍（ランス）を構えて突撃するという戦法には至っていなかった。この突撃戦法の端緒としばしば言及されるのがこのヘースティングズの戦いである。しかし，描かれている騎兵の槍の構えがばらばらであることと，実際にはノルマン騎兵の突撃がアングロ＝サクソン軍の歩兵陣を突破できなかったことから，戦術として未完成だったという指摘もある。話を戻すに，受験生だと鐙が存在しているのは当然としか思えないので，鐙が特徴とは指摘しづらいだろう。ローマ帝国時代や中世初期には鐙が存在していなかったという知識が無いと着想できないという点で，読み取りが難しすぎて知識問題に帰着した好例になってしまっている。適正に思考力を問いたいならヒントか別の図が必要であったように思われた。
新課程になって「受験生の思考力を問う」ことを強化するという意図からか，2025年は他の旧帝大でも例年になく際どく難しい問題が多く出題された印象である。悪い流れではないことは強調しつつも，あまり限界を突き詰めすぎないことへの注意を促したい。一周回って知識問題に回帰しかねないことは常に念頭に置いておくべきである。
５．一橋大
＜種別＞難問
＜問題＞２ 18世紀のヨーロッパでは人々の社交のあり方が大きく変化し，ウィーン体制期に入ると「市民結社の黄金時代」と呼ばれるほどクラブや協会の活動が活発化した。こうした事情を踏まえ，18世紀後半から19世紀にかけてヨーロッパで「市民結社」が発展した背景を前近代の中間団体との相違に触れつつ説明した上で，その政治文化史的な意義と限界を論じなさい。ただし，下記の語句をすべて必ず使用し，その語句に下線を引きなさい。(400字以内）
植民地物産，メディアの発達，ギルド
＜解答解説＞
今年の一橋大の超難問である。問題の要求は４つ，�〇毀鰻觴劼�発展した背景，��中間団体（社団）との相違点，��政治文化史的な意義，�だ�治文化史的な限界である。レジェンドシリーズかと思いきや，そうとは言い切れない。種本のうちの一つ『ゲーテとその時代』（2021年の第２問と同じ）は一橋大の元教員が書いたものだが，より核心に近い種本と思われる『市民結社と民主主義』（シュテファン＝ルートヴィヒ・ホフマン，山本秀行訳，岩波書店，2009年）は外国人の著書で，訳者も一橋大の教員ではない。作問者は2021年の第２問と同じと思われ，だとすると全く懲りていない。
参考になった書籍という点では，入試の一ヶ月前に出たばかりの『カフェの世界史』（増永菜生，ソフトバンク新書，2025年）も本問に関連して旧称Twitterで話題になっていた。実際に『カフェの世界史』の第１章・第２節と第２章・第２節は本問に関係が深く，部分的にはそのまま解答になる文が載っている。もっとも，『カフェの世界史』にはあとがきに「大学生の皆さんは本書を，大学の授業の課題レポートの参考文献には挙げないで欲しい。本書ではなく，本書の参考文献，さらにはその参考文献の参考文献を，授業の課題では参照して欲しい」と書かれていて笑ってしまった。言いたいことはわかる。
さて，受験生に「市民結社」と「政治文化」についての知識は皆無に近い。市民結社については，用語集頻度��で「クラブ」が立項されていて，一部の教科書は少し長めにクラブについて記述しているので，それらを読んで覚えていれば思考の手がかりになったかもしれない。また，現実のライオンズクラブあたりがそうなのかなと連想できれば，これも大きな手がかりになったと思われるが，いかに一橋大の受験生といえどもあまり現実的ではない。せめて指定語句は「植民地物産」というひねったものではなく，素直に「コーヒーハウス」か「カフェ」にしておいてくれれば，それを手がかりに求められた答案を書けた受験生が少なからずいたのではないか。まあ，コーヒーハウスのような市民社会の成熟を助けた場も，所詮は植民地の犠牲の下で成り立っていた点に思いを馳せてほしいという意図だったと思われるので，意地悪でひねったわけではなさそうである。政治文化については後述する。以下，問題の要求別に解説する。例年通り解説がかなり長くなってしまったが，できればお付き合いいただきたい。
問題要求の�，砲弔い董�クラブは，英仏ではコーヒーハウスやカフェで結成された。そのコーヒーハウスやカフェは，安価にコーヒーを提供しつつ，店内に新聞や雑誌を置いて客に自由に読ませたことから，世論の形成の場になった。また，店内は身分の垣根を超えて議論をする場と考えられていたことから，思想が近い集団や学問的関心が近い人々，趣味が合う同好の士等が固まりやすく，身分にとらわれない結社として「市民結社」の結成が促された。クラブは社交や市民道徳の向上（精神の修養），社会貢献を目的に結成された会員制の市民結社である。なお，ドイツでは都市部での識字率向上を基盤として読書会を定期的に開催する読書クラブの結成が流行し，これがドイツでの市民結社結成の走りになったということが前出の『ゲーテとその時代』に書かれている。『市民結社と民主主義』では合唱クラブや体操クラブ，ボウリングクラブ，園芸愛好協会，慈善団体の例が紹介されていた。市民道徳の向上（精神の修養）という点では，最も国際化した市民結社の事例としてフリーメイソンが有名で，国際化したがゆえに陰謀論の標的になった。『市民結社と民主主義』の著者はフリーメイソンの専門家で，本書も国際化についてかなり紙幅を割いていた。ここで一度問題に戻ると，指定語句のうち「植民地物産」と「メディアの発達」はここで消化できる。「植民地物産」は前述の通り，コーヒーハウスやカフェは安価な植民地物産を前提に成立したこと，「メディアの発達」はコーヒーハウスやカフェに置かれた新聞や雑誌の枕詞に使えば十分である。ネットで「カフェで植民地物産のコーヒーが飲まれたというカスの使い方した」という受験生の愚痴を見かけたが，実はそれほど間違いではなく，加点されていると思われる。
�◆屮�ルド」等の中間団体（社団）と市民結社の相違点は難題であるが，これは一橋大受験生の腕の見せどころで，過去問で何度も社団は出題されているから（2013年など），社団についての知識はあるはずである。また，社団と市民結社は何もかも違うので，相違点は見つけやすい。たとえば社団は王権と結びついて特権を享受した団体であるが，市民結社は名前の通り国家とのつながりはなく，結成目的も多くは社交である。政治的主張を掲げるとしても世論形成というような間接的な動きになり，直接的に国家と交渉するとしても，それは圧力団体としての動きであって，自団体への特権付与を目的としたものは例外的である。また，社団は地域や身分や職業を加入の条件としたが，市民結社の成員は市民であること以外に制限がない。ただし，女性や貧困層を排除した点は共通するので挙げられない（後述するように�い箸靴峠颪�べき事項）。といったように書ける要素はあり，合否だけを考えるなら，�０聞澆鬚舛磴鵑判颪韻深�験生は極わずかであろうから，�△泙任海�書けていれば十分合格点だろう。
��が一番の難題で，そもそも受験生は「政治文化」という概念を知らないから書きようがない。受験生は「政治」と「文化」だと思ったのではないか。大学生や社会人でも，この方面への興味関心がないと聞いたことがない言葉だと思われる。平凡社の世界大百科事典を引くに「政治制度や政治機構の背後にある，社会で暗黙裡に共有されている政治に対する考え方，感じ方，行動のしかたの複合的全体」とある通りで，現代日本であれば民主主義自体は浸透して信頼されているが，デモが嫌われていて民主主義の発露が選挙に偏っているだとか，そういった話である。この政治文化の意味さえ知っていれば，市民結社の意義を考えるのはさして難しくない。高校世界史で，コーヒーハウスやカフェについて学習したことと結びつけて考えればよい。すなわち，市民結社は世論の形成や啓蒙思想の普及に貢献しており，身分を超えた市民間の交流がなされたことで身分社会を否定する風潮を生み出したといえる。これらがいわゆる近代的な市民社会の形成を促し，ひいては民主主義を生み出す政治文化となった。『市民結社と民主主義』ではそれらに加えて，クラブでの組織運営（委員の選出やスピーチ等）が，19世紀前半のヨーロッパの人々にとっては民主主義の学校として機能したと説明されていた。
�い蓮�17世紀のコーヒーハウスやカフェは安価に滞在できる開放的な議論の場であったが，少なくともそこで過ごす余暇を持てたこと，雑誌や新聞を読むことができるだけの教養があったこと，すなわち都市で生活する中流以上の住民，社会の主体としての「（男性）市民」であったことが実質的な参加条件になっている……ということに気づけば，解答の糸口は見えてくる。コーヒーハウスやカフェから発展した市民結社もまた「身分」からは解放されていたが，「階級」による差別は存在し，むしろ閉鎖的な会員制になったことで強まった。多くのクラブは入会金や紹介制度により入会のハードルを上げ，明に暗に一定以上の資産と教養を要求した。前述の通り女性や貧困層が排除されていたことは社団と同じであるし，労働者も実質的に排除されていた。『市民結社と民主主義』では，慈善団体に限って女性の参加が認められていたことが説明されていた。このような性質であるので，当然にして労働運動や女性解放運動との相性は悪い。これを指摘できれば十分に限界を示したと言える。
『市民結社と民主主義』ではこれに加えて，19世紀末になると次第に労働者層にも市民結社の結成が広がり，大衆化により本来の目的であった社交や市民道徳の向上といった面は後退していったことが語られている。そうすると「市民」結社は形骸化し，単なる「団体」と化してしまう。また，別の側面として普通選挙の達成等により政治領域も大衆化したことで，教養ある「市民」が政治について議論して世論を生み出すこと自体があまり意味を持たなくなった。社交や市民道徳の向上といった目的はむしろ，大衆化した民主主義との相性が悪いものになってしまったのである。『市民社会と民主主義』の終章はこうした現象を指して「市民結社のパラドックス」と銘打っている（ちょっとかっこよすぎるのでは）。なお，本問の指定する19世紀の範囲を超えてしまうが，国家と国民の間に市民社会という中間が存在することを認めない全体主義政権は市民結社を嫌う傾向があり，特にナチス＝ドイツは在郷軍人会を除く全ての市民結社を禁止し，市民の自発性が否定された。かくのごとく，良くも悪くも大衆化によって歴史的役割を終えた点をもって市民結社の限界と論じることもできるが，女性や貧困層の排除以上に受験生には無理がある解答だろう。
本問は例年の一橋大の難問と少しだけ性質が異なる。例年の超難問は高校教員や予備校講師といった指導者もかなり苦しむ類のものが多かった。しかし，今年の問題については，指導者層は例年ほど苦しまないと思われる。これは受験生と指導者層の差異が市民結社と政治文化という概念の理解にあるためで，これらの概念さえ把握できていれば解答にたどり着く推論自体は例年よりも易しい。予備校の解答も変な割れ方をしておらず各社でほぼ同じものであるが，それだけ論旨をまとめやすかったということだ。一橋大としては受験生でも市民結社や政治文化という概念くらい身につけておいてほしいということかもしれない。出題の意図はどうあれ，結果的には高校世界史上の用語の暗記よりも，本来であれば大学の学部以降で学ぶはずの概念理解を優先してほしいというメッセージになっている。私は発達段階をちゃんと踏むべきだと思うのだが，どうだろうか。
〔番外編〕名古屋大
＜問題＞１ 下の図は，近代中国などをモデルにした手塚治虫の漫画『一輝まんだら』の一ページである。この状況が描かれる歴史的背景とその後の経過を，漫画の人物たちのセリフも参考にしながら， 以下の語句をすべて用いて，350字以内で述べなさい。（語句の順序は自由に変えてよい，語句には下線を引くこと）
日清戦争 扶清滅洋 アヘン戦争 北京議定書（辛丑和約） 植民地
＜コメント＞
本企画では漫画を用いた出題を全て番外編として収録している。本問もその事例である。名古屋大は珍妙な出題で目立つ年が多いが，本年は問題が易しく，本問も比較的解きやすい。論述の終わりが義和団戦争でよいのか辛亥革命でよいのか新文化運動までいるのかがわかりにくいので，そこは明示してほしかったところ。なお，本問は日本史との共通問題である。ということは歴史総合からの出題ということになるが，歴史総合の問題として見るなら本問は日本史受験生にとって難しすぎるような……そもそも日本史は例年，世界史と違って大論述が出題されてこなかったため，いきなり350字も書かされて面食らっていると思われる。今年の名古屋大で悪い点があるとすればこの点を挙げたい。
名古屋大は他に「マニ教の開祖の生まれた時代と地域」を問う出題をしており，これに厳密に答えると「３世紀（またはパルティア末期）」の「バビロニア」ということになる。仮に「バビロニア」を求めているとすると激烈な難易度であり早慶と見紛う難問であるが，私は今年の名大の全体的な難易度から言って「イラク」か「メソポタミア」でも正解になり，史実としては間違いになるが「イラン」や「ササン朝」でもある程度は点をくれるのではないかと思っている。本件は公式解答待ちとしたい。公式発表が「バビロニア」のみであったら加筆する。
６．大阪大
＜種別＞難問
＜問題＞１ 次の文章は，クリミア・ハン国（クリム・ハン国）の君主シャーヒン・ギライがロドス島（現ギリシア共和国領）において処刑された折に，オスマン帝国の詩人によって詠まれた詩である。これを読み，下の問い（問１〜問２）に答えなさい。
帝王のお慈悲という名の乳で育まれた小鳥のくせに，馬乳酒を煽って乱心してその僥倖を拒んだ
自らを鷹と妄信し，しかし血塗れた鷲のような処刑人たちを見るや怯えて雀さながらに身をこごめ「翼はたたみました，どうかお助け下さい」と言い，カラスのような黒い顔で泣きわめく
ほんの短い間異教徒どもの酒と豚肉を飲み食いしただけで「余はロシア人の慈悲に養われた」と恐れげもなく放言していたくせに
（中略）
偉大なるチンギス・ハンの血族の誉はいまや汚れた，このような過ちを仕出かした者がその末裔であるとは思われない
（スュンビュルザーデ・ヴェフビー作「飛鳥の頌歌」（1787）
問１ シャーヒン・ギライはなぜ処刑されたと考えられるか。当時の黒海北岸と南岸の状況，およびこの詩の内容を踏まえて答えなさい（150字程度）。
＜解答解説＞
これも受験生に課すには高度すぎ，史実を指摘するには思考力というよりも知識が必要になってしまっている事例と思われる。本問の問題点は詩の内容のみから読解できる内容で問題の要求に応えるのは思考の跳躍が必要という点である。妄想的な思考と言ってもいいかもしれない。
「帝王のお慈悲という名の乳で育まれた小鳥のくせに」はクリミア・ハン国がオスマン帝国の属国であったことを想起できる。「血塗れた鷲」は難しい。おそらく鷲の紋章でロシアのことを指しているのだろうが，受験生に双頭の鷲についての知識は無い。３行目でロシアと直接的に明示されるが，かえって「血塗れた鷲」とロシアが同一の存在を指していると気付きにくい。すなわち２・３行目はロシアの軍事的恫喝に屈して傀儡となったことを，このオスマン帝国の詩人が咎めていると思われるが，そもそもはオスマン帝国が露土戦争に敗れてクリミア・ハン国の宗主権を放棄させられたため仕方なくロシアの庇護下に入ったという経緯であるから，クリミア・ハン国はむしろ被害者である。人類は自らの国の歴史を棚に上げがちという理解があると読みやすい文だが，人生経験の薄い受験生にそうした文の読み方を要求するのも酷だろう。一応，受験生にもロシアがクリミア・ハン国を1783年に滅ぼしたという知識はあり，その経緯は知らないが，３行目の内容や，日本が韓国併合の前に第二次日韓協約で保護国化していたこと等の類推から，ロシアも併合の前段階としての保護国化を行ったのだろうと結びつけることは可能だと思われる。ここは本問が思考力を試す問題としてよくできていると思う。
（中略）の後の内容はクリミア・ハン国の君主がキプチャク・ハン国の，ひいてはチンギス・カンの系譜であることを示している。これは受験生にも知識があるところだが，解答には無関係な要素である。最後に詩が読まれた年号も重要で，前述の通り，1783年がクリミア・ハン国の滅亡年であるから，それに近い1787年は受験生にクリミア・ハン国の滅亡を想起させる手がかりになる。この1787年という年号を見て初めてクリミア・ハン国の滅亡にかかわる詩であるということに気付いた受験生も多かったのではないか。
ここまで読解した上で問題の要求に答えてみよう。シャーヒン・ギライはクリミア・ハン国の最後の君主と推測できる（厳密には最後の君主ではないようだが，そこの史実は気にしなくてもよいだろう）。おそらく彼はオスマン帝国の宗主権が否定された後，仕方なくロシアの庇護下に入り，クリミア・ハン国は実質的な保護国となった。その後，何らかの事情でロシアの反感を買って追放され，その折にクリミア・ハン国が滅ぼされてロシアが併合した。追放されたシャーヒン・ギライは何らかのロシアとオスマン帝国の間の取引でオスマン帝国に引き渡されて，強引にロシアへの裏切りの罪を着せられて処刑されたのではないか。この辺りが推測で立てられるストーリーではないかと思う。この推測で高得点が来るなら本問はそこまで悪い問題とは考えられず，大阪大ならその信用をしていいと思われる。
しかしながら，史実は全く異なる。1774年，露土戦争に敗れたオスマン帝国がクリミア・ハン国の宗主権を失い，ロシアの保護国化を図った点まではその通り。だが実は講和条約のキュチュク・カイナルジャ条約では，ロシア帝国側の譲歩により，カリフとしてのオスマン帝国皇帝の権威のみ黒海北岸のムスリムにも及ぶことを認める条項がある。キュチュク・カイナルジャ条約締結時の交渉が，世に名高いオスマン帝国の「カリフ」の史料上の初出であり，スルタン＝カリフ制成立の契機である。このためオスマン帝国の属国であるという立場を失っていないと解釈する余地が生まれ（もちろんロシア側はこれを儀礼上の権利にすぎないと認識していた），クリミア・ハン国ではオスマン帝国への復帰を図る一派と，素直にロシアに服従すべきとする一派に分かれた。シャーヒン・ギライはこのような最中でエカチェリーナ２世によって推戴された，まごうことなき傀儡君主である。しかし，シャーヒン・ギライは単なる傀儡でいるつもりはなく，エカチェリーナ２世の宮廷滞在中に学んだヨーロッパ流の中央集権化政策をクリミア・ハン国で実施し，国家の再建を図った。これが親オスマン帝国派の勢力にはロシアへのさらなる追従に見えたため，1781年に大規模な反乱が発生し，オスマン帝国の介入を呼び込んだ。結局，ロシアはクリミア半島に再び軍を送って反乱軍を鎮圧したが，この段階でシャーヒン・ギライを見限り，1783年にクリミア・ハン国を滅ぼしてシャーヒン・ギライを廃位した。
その後，シャーヒン・ギライはロシア帝国領内で年金生活者となった。しかし，実質的な幽閉生活を嫌ったシャーヒン・ギライがオスマン帝国への亡命を訴え，ロシアがオスマン帝国と交渉して，1787年にオスマン帝国が亡命を認めた。エカチェリーナ２世としてはシャーヒン・ギライがオスマン宮廷の混乱の火種になってくれればという思惑があったようだ。しかし，実際にシャーヒン・ギライがオスマン帝国領内に入ると逮捕され，当初予定されていたエディルネではなくロドス島に送られ，そのままロドス島で処刑された……というのが正確な顛末である。シャーヒン・ギライには悪いが，オスマン帝国の視点ではクリミア・ハン国をロシアに完全に引き渡す最後の後押しをした極悪人であり，なぜオスマン帝国で身柄の安全が保証されると思ったのかがわからない。それまでの行動からはそこまで愚鈍な人物には見えないのだが……
これらをまとめると，以下が推測との差分になるだろうか。
・シャーヒン・ギライはキュチュク・カイナルジャ条約時点ではクリミア・ハン国の君主ではない。
・彼は仕方なくロシアの庇護下に入ったわけではなく，最初から傀儡であり，傀儡の自覚もあった。
・彼が廃位されたのはロシアの反感を買ったためではなく，むしろオスマン帝国側の無理のある介入のせいであり，ひいてはその介入の余地を残したロシア側のキュチュク・カイナルジャ条約での詰めの甘さによるものである。
・彼がオスマン帝国に入ったのはロシアから追放されたからではなく，自ら望んでのことである。
・「強引にロシアへの裏切りの罪を着せられた」のではなく，オスマン帝国視点では合理的な理由による処刑である。
……いや，差分が多すぎないか。もちろん，受験生に推測を立てさせる問題なので，多少の嘘があっても，推測として合理的であれば高得点を与えるというのは入試問題として認められるだろう。しかし，限度というものはあり，受験生に不足気味の情報を与えて，ここまで史実と異なった推測をさせるのはやりすぎである。少なくとも私だったら嘘を書かせる良心の呵責に襲われる。また，ここまで差分が多いと，先生方も採点していて何が史料から成り立つ合理的な推測なのか混乱が生じると思われ，採点の正確性も疑われてしまう。特に問題のある箇所は太字にした３点目で，詩からシャーヒン・ギライが被害者であることを読み取るのは絶対にできない。自然な推測と史実が正反対で，どちらでも加点されるべきということなら，おおよそどんな推測でも加点できてしまう気がする。
大学の先生方は「どうせ学部生のレポートだって，こういう間違った推測だらけなんだし」くらいに思っているのかもしれない。私は大学全体の責任になる入試と，教員個人の責任になるレポートは性質が違うと思う。正確な史実を導けるだけのヒントをちゃんと用意して，正確な史実に近い推測の答案に高得点を与えるようにすべきだ。本問であれば，シャーヒン・ギライが最終的にロシアからオスマン帝国に引き渡された経緯を問題文で提示するだけでも，かなり違ったのではないか。
＜種別＞出題ミス
＜問題＞２ 問１ 下線部aの国（編註：ソ連）の歴史について述べた次の文あ〜うが年代の古いものから順に正しく配列されているものを，後の� 銑Δ里Δ舛�ら一つ選べ。〔 ７ 〕
あ 日本などによる干渉戦争が始まった。
い 血の日曜日事件が起こった。
う コミンフォルムが結成された。
� ，□�い→う
�◆，□�う→い
�� い→あ→う
�ぁ，あ�う→あ
�ァ，Β�あ→い
�Α，Β�い→あ
＜解答解説＞
細かいことを気にせず解くのであれば，あのシベリア出兵が第一次世界大戦末の1918年の開始，いの血の日曜日事件が日露戦争中の1905年，うのコミンフォルム結成が1947年なので，い→あ→うの��が正解になる。しかし，問われているのはソ連の歴史であり，ソ連の成立は1922年であるから，あといはそもそもソ連の歴史ではない。ソヴィエト＝ロシア政権もソ連に含めてしまうことはあるから，シベリア出兵はよしとしても，血の日曜日事件はどう考えてもロシア帝国史だろう。作問者は「ソ連地域の歴史」または「前史を含めたソ連史」のつもりで作ったと思われるが，恣意的な読ませ方ではないか。
２．共通テスト本試験「歴史総合，世界史探究」
＜種別＞悪問
＜問題＞３ 問７ カニンガム（編註：19世紀のイギリス人インド研究者）と同様に外国人として考古学的な調査を行った人物にスタインがいる。スタインの中央ユーラシアにおける調査実施の許可に関わって残された現地政府の公文書の抜粋（資料４）から読み取れる事柄あ・いと，資料４が書かれた時期の政治的背景に関して述べた文X〜Zとについて，最も適当なものの組合せを，後の� 銑Δ里Δ舛�ら一つ選べ。〔 22 〕
資料４
・スタイン氏が初めて我が国にやって来たのは，８か国連合軍が都を占領した時であり，外国人は国内で好きなように振る舞うことができた。
・今日までの30年にわたるスタイン氏の調査による敦煌文書や仏像の発見は，アジアの古代研究に新時代を開いた。しかし，これらは皆，国家の貴重な宝物である。外国人がこれを研究するのはいいのだが，盗み去ることは不法行為である。
資料４から読み取れる事柄
あ 現地政府は，外国人による学術調査を奨励し，文化財・遺物を国外において保護する必要がある，と考えていた。
い 現地政府は，外国人が学術調査を利用して文化財・遺物を国外に持ち出していることを危惧し，それらを自国において保護する必要がある，と考えていた。
資料４が書かれた時期の政治的背景
X 明治維新に倣って，立憲制を目指した国制改革を進めようとしていた。
Y 国家主導の下で，改革開放政策が進められていた。
Z 全国の統一的支配の実現を目指して，北伐が進められていた。
� ，◆�X �◆，◆�Y �� あ−Z
�ぁ，ぁ�X �ァ，ぁ�Y �Α，ぁ�Z
＜解答解説＞
深いことは考えずに解答を出すなら，資料４から読み取れる内容は「い」，資料４が書かれた時期は義和団戦争の30年後であるから1930年で，これに最も近い年号はZの「北伐が進められていた」の1926〜28年である。Xは戊戌の変法か光緒新政とすると19世紀末〜20世紀初頭，Yは1970年代後半以降なので時期が全く合わない。よって正解は�Δ砲覆襦�
しかし，厳密に考えると資料４が出されたのは1930年，Zは1926〜28年であるから，年代が重なっていない。問題の要求は「書かれた時期の政治的背景」であるから，重なっていなくても因果関係があれば問題は無いと考えることができる。よって「1926〜28年に北伐が進められていた」ことが「1930年に現地政府が外国人研究者に文化財の持ち出しが不法行為であると警告したこと」の背景になっていればよい。……よいのだが，冷静に考えるとこの２つの事象に因果関係が見いだしにくい。第一の大問題として問題文に資料４は「現地政府の公文書」とあるので，資料４が南京政府ではなく敦煌のあった馬家軍または新疆政府が作成したものである可能性がある。仮に資料４が南京政府が作成したものではないとすると，その時点で北伐との関連性は極めて見いだしにくいということになる。これでは話が進まないので，一旦は資料４は南京政府が作成したものと仮定する。
次の問題点はZの「進められていた」という文言である。「北伐が完了した」という文言だったのであれば，中華民国の南京政府が一応の統一権力となったので情勢が安定したため，外国人研究者の無法に対する取締に乗り出すことができたのではないか，と推論するのはさして難しくないと思う。Zの北伐の枕詞的に「全国の統一的支配の実現を目指して」と書かれていることも，作問者の意図がこの推論で正解を導いてほしいというものである可能性が高いことを補強する。このため「進められた」は「完了した」の同義語と見なせば問題は成立するように思える。しかし，これは問題のある推論である。重大な史実誤認が発生する。高校世界史では学習しないが，1930〜31年頃の中国は中原大戦という大規模な内戦が起きていて，むしろ不安定な情勢である。中原大戦が高校世界史に登場しないからといって，史実としても存在しないものとして推論を立ててよいとはならない。したがって「進められていた」を「完了した」と読み替えて推論するのは筋が良くない。
このため，いよいよ1926〜28年に北伐が進行中だったことが1930年の公文書の政治的背景になった要素があるのを見いださなければならないが，そういうものはあるだろうか。考えて思いついたのは「北伐の進行により国内情勢が不安定になっていたので，1926〜28年頃に外国人研究者の無法な振る舞いが悪化していた可能性がある。1930年の公文書はその影響下で作成されたものではないか」という理屈である。しかし，これも問題点がある。北伐による混乱が生じていた地域（華北）と，西域は地域が全く別である。したがって北伐で華北が混乱していたとしても，西域での外国人研究者の無法な振る舞いが悪化する直接的な理由にはならない。
もう一つ，「北伐の進行によってナショナリズムが高まり，文化財の持ち出し規制の気運が高まったのではないか」という推論はどうか。理屈は成り立っているが，問題点が残る。中国のナショナリズムは長い年月をかけて醸成されたものであって，北伐に限定する，ましてや北伐の進行中に急激に高まったとするのは短絡的である。仮に北伐中に急激に高揚したことにするとしても，間にナショナリズムの高揚を挟んでいればよいとするなら，Xも正しいということになりかねない（光緒新政がナショナリズムを高揚するものではなかったという理屈は成り立たないだろう）。Zが良くてXがダメとするには年号の近さを根拠にするしかなく，ナショナリズムの高揚を政治的背景とする推論も結局危ない。
と詰めていくと，どう解釈しても資料４の政治的背景に北伐の進行があるというのは無理があるという結論に至る。論理が宙に浮いている感じが非常に気持ち悪い。なお，１・２番は大学入試センターに問い合わせた方がいて，出題ミスとは認めない旨の返答であったことを確認している。
３．共通テスト追試験「歴史総合，世界史探究」
＜種別＞難問
＜問題＞２ 問３ 下線部bに関連して（編註：百年戦争の過程でイングランドが保持する大陸所領は，大きく変化している），大陸におけるイングランドの主な領土及び勢力下にあった主な領域を示した図�機銑靴砲弔い董� 古いものから年代順に正しく配列したものを，後の� 銑Δ里Δ舛�ら一つ選べ。〔 11 〕
�機 ´�
��
� ´機櫚供櫚掘 ´◆´機櫚掘櫚�
�� �供櫚機櫚掘 ´ぁ´供櫚掘櫚�
�ァ´掘櫚機櫚供 ´Α´掘櫚供櫚�
＜解答解説＞
追試験を解いていて，慶應の問題冊子だったのかなと困惑した問題。共通テストとしては異常な難易度の地図である。通常の受験世界史では百年戦争の経過はあまり学習しない。百年戦争の要点は，
・アキテーヌ地方の領有権問題，フランドル地方の勢力争い，王位継承権の３つを要因に勃発したこと
・ジャンヌ＝ダルクの出現が戦争の最終的な転換点となったこと
・フランスの王権強化（中央集権化）が進み，官僚制と常備軍が整備されて絶対王政への道が開かれたこと
・フランスの勝利に伴って，英仏が完全に分離する契機となったこと
・直後のバラ戦争も含めて，英仏の封建諸侯の多くが戦死または没落し，王権強化の一因となったこと
くらいまで学習できていれば十分である（実際には共通テストレベルだとここまでの理解も不要）。ご覧の通りここに経過は含まれない。GMARCH以上の難関私大受験であっても，これに加えて
・イギリスが長弓兵を運用して重要な会戦で勝利していること。その具体例としてクレシーの戦い，ポワティエの戦い，アジャンクールの戦いがある。
・クレシーの戦い（1346年）とポワティエの戦い（1356年）は百年戦争の初期の出来事であり，アジャンクールの戦い（1415年）は後期の出来事である。
という点がわかっていれば対応できる。なお，クレシーの戦いのみ用語集頻度��，ポワティエの戦いとアジャンクールの戦いは現行課程で範囲外である（ポワティエの戦いは前課程まで範囲内，アジャンクールの戦いは２つ前の課程まで範囲内）。個々の戦いの名称は百年戦争によらず，よほど大きな歴史の転換点となったもの以外は削減される傾向にある。
という前提条件を説明すれば，尚更本問の異様さが理解されると思われる。普通に共通テストレベルの勉強をしてきた受験生には手も足も出なかっただろう。私自身も�気鉢靴料宛紊呂舛腓辰版困鵑澄�正解は�イ任△襦��靴漏�戦時の状況（1337年）で，�気魯櫂錺謄�エの戦いでのイギリスの勝利により，南西部のイギリス領が大きく広がった頃（1360年頃）の状況。その後，休戦を挟んでフランス側が盛り返し，1380年頃に一度は�靴剖瓩ぞ�況まで戻っている。これが本問を極端に難しくしている要因の一つで，�靴�1380年頃の差分はほぼカレーの有無のみである（1380年頃の地図であればイギリスが�靴鵬辰┐謄�レーを領有している）。�兇呂気蕕砲修慮紂ぅぅ�リスがヘンリ５世の指導下で再征服に乗り出し，アジャンクールの戦いで大勝した後，1420年頃の状況である。しかし1422年にヘンリ５世が急死し，ヘンリ６世が幼年で即位すると風向きが変わっていく。1429年にジャンヌ＝ダルクが登場してオルレアンを奪回，以降はフランスの逆襲が進んで1453年，カレーを除く大陸領からイギリス軍が撤退し，後世にこれが百年戦争の終結と見なされている。なお，本問のリード文は百年戦争の終結年についての話題であり，フランスがカレーを奪った1558年説や，休戦に言及した条約が締結された1475年説，イギリス側がヴァロワ家によるフランス王の継承を公的に認めた1492年説，イギリスが完全にフランスの王位継承権を放棄した1801年説などがあることを紹介している。もっとも，これを読んだところで本問のヒントにはならない。
４．北海道大
＜種別＞難問
＜問題＞１ 問７ 下線部(7)について（編註：スラヴ人やノルマン人（ヴァイキング），マジャール人らが様々な土地を移動した），（ア）ノルマン人の一派が現在の南イタリアに移動して建国した国の名前を答えなさい。また（イ）図C はノルマン人のイングランド征服を描いた「バイユー刺繍画」（「バイユー＝タペストリ」とも呼ばれる）である。ここでは海を越えて上陸する場面を左から右へと展開するように描いている。そこに表されるノルマン人の高度な水・陸の技術について説明しなさい。（編註：60字程度）
図C
＜解答解説＞
収録対象とすべきかどうか迷った問題。受験生の発想を試すという意味で悪い問題ではないのだが，高度すぎるかなと思われた。このことは強調しておきたい。（ア）は易しく，両シチリア王国（ノルマン＝シチリア王国）。難問は（イ）である。バイユーのタペストリーは教科書や資料集にはよく掲載されているが，絵の内容までは学習しないので，本問はほぼ完全な図版の読み取り問題である。しかし，忘れがちなことではあるが，特徴を読み取るには，特徴になりえないものについての知識が必要であるので，何を読み取って解答とするかは受験生目線だと困難であると思われる。
海の技術の方がまだ読み取りやすいか。ヴァイキングの船は底が広く喫水が浅い。このことは川への遡行や海岸への接近を容易にし，上陸作戦に役立った。ノルマン＝コンクエストも上陸作戦であるから，このことを書けばよい。これはバイユーのタペストリーの説明としてよく載っているから，見覚えのある受験生もいたかもしれない。世界史が好きな子ほど，こういう戦争にかかわる説明はよく読んでいる気がする。しかし，資料集を読んでいたから知っていたということなら結局は知識問題ということになる。その知識が無いとして，試験時間中にバイユーのタペストリーをじっくりと見て，その場で「古代地中海で出てきたガレー船や，ジャンク船・ダウ船に比べて喫水がすごく浅いな」と気づくのは相当に困難というか，端的に言って無理ではないか。
もう一つは騎兵が鐙を用いている点である。「鐙があることで馬上の行動が容易になり，重い槍を持っての突撃が可能になった」というのが正解だろう。西欧的な重装騎兵である。西欧に鐙が登場した時期は激しい論争があり，私のような軍事史の素人が立ち入れるものではないが，1000年頃に広がったというのが妥当な線のようだ。しかし，この頃はまだ「騎乗した歩兵」の域は出ておらず，鐙で踏ん張ることで槍（ランス）を構えて突撃するという戦法には至っていなかった。この突撃戦法の端緒としばしば言及されるのがこのヘースティングズの戦いである。しかし，描かれている騎兵の槍の構えがばらばらであることと，実際にはノルマン騎兵の突撃がアングロ＝サクソン軍の歩兵陣を突破できなかったことから，戦術として未完成だったという指摘もある。話を戻すに，受験生だと鐙が存在しているのは当然としか思えないので，鐙が特徴とは指摘しづらいだろう。ローマ帝国時代や中世初期には鐙が存在していなかったという知識が無いと着想できないという点で，読み取りが難しすぎて知識問題に帰着した好例になってしまっている。適正に思考力を問いたいならヒントか別の図が必要であったように思われた。
新課程になって「受験生の思考力を問う」ことを強化するという意図からか，2025年は他の旧帝大でも例年になく際どく難しい問題が多く出題された印象である。悪い流れではないことは強調しつつも，あまり限界を突き詰めすぎないことへの注意を促したい。一周回って知識問題に回帰しかねないことは常に念頭に置いておくべきである。
５．一橋大
＜種別＞難問
＜問題＞２ 18世紀のヨーロッパでは人々の社交のあり方が大きく変化し，ウィーン体制期に入ると「市民結社の黄金時代」と呼ばれるほどクラブや協会の活動が活発化した。こうした事情を踏まえ，18世紀後半から19世紀にかけてヨーロッパで「市民結社」が発展した背景を前近代の中間団体との相違に触れつつ説明した上で，その政治文化史的な意義と限界を論じなさい。ただし，下記の語句をすべて必ず使用し，その語句に下線を引きなさい。(400字以内）
植民地物産，メディアの発達，ギルド
＜解答解説＞
今年の一橋大の超難問である。問題の要求は４つ，�〇毀鰻觴劼�発展した背景，��中間団体（社団）との相違点，��政治文化史的な意義，�だ�治文化史的な限界である。レジェンドシリーズかと思いきや，そうとは言い切れない。種本のうちの一つ『ゲーテとその時代』（2021年の第２問と同じ）は一橋大の元教員が書いたものだが，より核心に近い種本と思われる『市民結社と民主主義』（シュテファン＝ルートヴィヒ・ホフマン，山本秀行訳，岩波書店，2009年）は外国人の著書で，訳者も一橋大の教員ではない。作問者は2021年の第２問と同じと思われ，だとすると全く懲りていない。
参考になった書籍という点では，入試の一ヶ月前に出たばかりの『カフェの世界史』（増永菜生，ソフトバンク新書，2025年）も本問に関連して旧称Twitterで話題になっていた。実際に『カフェの世界史』の第１章・第２節と第２章・第２節は本問に関係が深く，部分的にはそのまま解答になる文が載っている。もっとも，『カフェの世界史』にはあとがきに「大学生の皆さんは本書を，大学の授業の課題レポートの参考文献には挙げないで欲しい。本書ではなく，本書の参考文献，さらにはその参考文献の参考文献を，授業の課題では参照して欲しい」と書かれていて笑ってしまった。言いたいことはわかる。
さて，受験生に「市民結社」と「政治文化」についての知識は皆無に近い。市民結社については，用語集頻度��で「クラブ」が立項されていて，一部の教科書は少し長めにクラブについて記述しているので，それらを読んで覚えていれば思考の手がかりになったかもしれない。また，現実のライオンズクラブあたりがそうなのかなと連想できれば，これも大きな手がかりになったと思われるが，いかに一橋大の受験生といえどもあまり現実的ではない。せめて指定語句は「植民地物産」というひねったものではなく，素直に「コーヒーハウス」か「カフェ」にしておいてくれれば，それを手がかりに求められた答案を書けた受験生が少なからずいたのではないか。まあ，コーヒーハウスのような市民社会の成熟を助けた場も，所詮は植民地の犠牲の下で成り立っていた点に思いを馳せてほしいという意図だったと思われるので，意地悪でひねったわけではなさそうである。政治文化については後述する。以下，問題の要求別に解説する。例年通り解説がかなり長くなってしまったが，できればお付き合いいただきたい。
問題要求の�，砲弔い董�クラブは，英仏ではコーヒーハウスやカフェで結成された。そのコーヒーハウスやカフェは，安価にコーヒーを提供しつつ，店内に新聞や雑誌を置いて客に自由に読ませたことから，世論の形成の場になった。また，店内は身分の垣根を超えて議論をする場と考えられていたことから，思想が近い集団や学問的関心が近い人々，趣味が合う同好の士等が固まりやすく，身分にとらわれない結社として「市民結社」の結成が促された。クラブは社交や市民道徳の向上（精神の修養），社会貢献を目的に結成された会員制の市民結社である。なお，ドイツでは都市部での識字率向上を基盤として読書会を定期的に開催する読書クラブの結成が流行し，これがドイツでの市民結社結成の走りになったということが前出の『ゲーテとその時代』に書かれている。『市民結社と民主主義』では合唱クラブや体操クラブ，ボウリングクラブ，園芸愛好協会，慈善団体の例が紹介されていた。市民道徳の向上（精神の修養）という点では，最も国際化した市民結社の事例としてフリーメイソンが有名で，国際化したがゆえに陰謀論の標的になった。『市民結社と民主主義』の著者はフリーメイソンの専門家で，本書も国際化についてかなり紙幅を割いていた。ここで一度問題に戻ると，指定語句のうち「植民地物産」と「メディアの発達」はここで消化できる。「植民地物産」は前述の通り，コーヒーハウスやカフェは安価な植民地物産を前提に成立したこと，「メディアの発達」はコーヒーハウスやカフェに置かれた新聞や雑誌の枕詞に使えば十分である。ネットで「カフェで植民地物産のコーヒーが飲まれたというカスの使い方した」という受験生の愚痴を見かけたが，実はそれほど間違いではなく，加点されていると思われる。
�◆屮�ルド」等の中間団体（社団）と市民結社の相違点は難題であるが，これは一橋大受験生の腕の見せどころで，過去問で何度も社団は出題されているから（2013年など），社団についての知識はあるはずである。また，社団と市民結社は何もかも違うので，相違点は見つけやすい。たとえば社団は王権と結びついて特権を享受した団体であるが，市民結社は名前の通り国家とのつながりはなく，結成目的も多くは社交である。政治的主張を掲げるとしても世論形成というような間接的な動きになり，直接的に国家と交渉するとしても，それは圧力団体としての動きであって，自団体への特権付与を目的としたものは例外的である。また，社団は地域や身分や職業を加入の条件としたが，市民結社の成員は市民であること以外に制限がない。ただし，女性や貧困層を排除した点は共通するので挙げられない（後述するように�い箸靴峠颪�べき事項）。といったように書ける要素はあり，合否だけを考えるなら，�０聞澆鬚舛磴鵑判颪韻深�験生は極わずかであろうから，�△泙任海�書けていれば十分合格点だろう。
��が一番の難題で，そもそも受験生は「政治文化」という概念を知らないから書きようがない。受験生は「政治」と「文化」だと思ったのではないか。大学生や社会人でも，この方面への興味関心がないと聞いたことがない言葉だと思われる。平凡社の世界大百科事典を引くに「政治制度や政治機構の背後にある，社会で暗黙裡に共有されている政治に対する考え方，感じ方，行動のしかたの複合的全体」とある通りで，現代日本であれば民主主義自体は浸透して信頼されているが，デモが嫌われていて民主主義の発露が選挙に偏っているだとか，そういった話である。この政治文化の意味さえ知っていれば，市民結社の意義を考えるのはさして難しくない。高校世界史で，コーヒーハウスやカフェについて学習したことと結びつけて考えればよい。すなわち，市民結社は世論の形成や啓蒙思想の普及に貢献しており，身分を超えた市民間の交流がなされたことで身分社会を否定する風潮を生み出したといえる。これらがいわゆる近代的な市民社会の形成を促し，ひいては民主主義を生み出す政治文化となった。『市民結社と民主主義』ではそれらに加えて，クラブでの組織運営（委員の選出やスピーチ等）が，19世紀前半のヨーロッパの人々にとっては民主主義の学校として機能したと説明されていた。
�い蓮�17世紀のコーヒーハウスやカフェは安価に滞在できる開放的な議論の場であったが，少なくともそこで過ごす余暇を持てたこと，雑誌や新聞を読むことができるだけの教養があったこと，すなわち都市で生活する中流以上の住民，社会の主体としての「（男性）市民」であったことが実質的な参加条件になっている……ということに気づけば，解答の糸口は見えてくる。コーヒーハウスやカフェから発展した市民結社もまた「身分」からは解放されていたが，「階級」による差別は存在し，むしろ閉鎖的な会員制になったことで強まった。多くのクラブは入会金や紹介制度により入会のハードルを上げ，明に暗に一定以上の資産と教養を要求した。前述の通り女性や貧困層が排除されていたことは社団と同じであるし，労働者も実質的に排除されていた。『市民結社と民主主義』では，慈善団体に限って女性の参加が認められていたことが説明されていた。このような性質であるので，当然にして労働運動や女性解放運動との相性は悪い。これを指摘できれば十分に限界を示したと言える。
『市民結社と民主主義』ではこれに加えて，19世紀末になると次第に労働者層にも市民結社の結成が広がり，大衆化により本来の目的であった社交や市民道徳の向上といった面は後退していったことが語られている。そうすると「市民」結社は形骸化し，単なる「団体」と化してしまう。また，別の側面として普通選挙の達成等により政治領域も大衆化したことで，教養ある「市民」が政治について議論して世論を生み出すこと自体があまり意味を持たなくなった。社交や市民道徳の向上といった目的はむしろ，大衆化した民主主義との相性が悪いものになってしまったのである。『市民社会と民主主義』の終章はこうした現象を指して「市民結社のパラドックス」と銘打っている
本問は例年の一橋大の難問と少しだけ性質が異なる。例年の超難問は高校教員や予備校講師といった指導者もかなり苦しむ類のものが多かった。しかし，今年の問題については，指導者層は例年ほど苦しまないと思われる。これは受験生と指導者層の差異が市民結社と政治文化という概念の理解にあるためで，これらの概念さえ把握できていれば解答にたどり着く推論自体は例年よりも易しい。予備校の解答も変な割れ方をしておらず各社でほぼ同じものであるが，それだけ論旨をまとめやすかったということだ。一橋大としては受験生でも市民結社や政治文化という概念くらい身につけておいてほしいということかもしれない。出題の意図はどうあれ，結果的には高校世界史上の用語の暗記よりも，本来であれば大学の学部以降で学ぶはずの概念理解を優先してほしいというメッセージになっている。私は発達段階をちゃんと踏むべきだと思うのだが，どうだろうか。
〔番外編〕名古屋大
＜問題＞１ 下の図は，近代中国などをモデルにした手塚治虫の漫画『一輝まんだら』の一ページである。この状況が描かれる歴史的背景とその後の経過を，漫画の人物たちのセリフも参考にしながら， 以下の語句をすべて用いて，350字以内で述べなさい。（語句の順序は自由に変えてよい，語句には下線を引くこと）
日清戦争 扶清滅洋 アヘン戦争 北京議定書（辛丑和約） 植民地
＜コメント＞
本企画では漫画を用いた出題を全て番外編として収録している。本問もその事例である。名古屋大は珍妙な出題で目立つ年が多いが，本年は問題が易しく，本問も比較的解きやすい。論述の終わりが義和団戦争でよいのか辛亥革命でよいのか新文化運動までいるのかがわかりにくいので，そこは明示してほしかったところ。なお，本問は日本史との共通問題である。ということは歴史総合からの出題ということになるが，歴史総合の問題として見るなら本問は日本史受験生にとって難しすぎるような……そもそも日本史は例年，世界史と違って大論述が出題されてこなかったため，いきなり350字も書かされて面食らっていると思われる。今年の名古屋大で悪い点があるとすればこの点を挙げたい。
名古屋大は他に「マニ教の開祖の生まれた時代と地域」を問う出題をしており，これに厳密に答えると「３世紀（またはパルティア末期）」の「バビロニア」ということになる。仮に「バビロニア」を求めているとすると激烈な難易度であり早慶と見紛う難問であるが，私は今年の名大の全体的な難易度から言って「イラク」か「メソポタミア」でも正解になり，史実としては間違いになるが「イラン」や「ササン朝」でもある程度は点をくれるのではないかと思っている。本件は公式解答待ちとしたい。公式発表が「バビロニア」のみであったら加筆する。
６．大阪大
＜種別＞難問
＜問題＞１ 次の文章は，クリミア・ハン国（クリム・ハン国）の君主シャーヒン・ギライがロドス島（現ギリシア共和国領）において処刑された折に，オスマン帝国の詩人によって詠まれた詩である。これを読み，下の問い（問１〜問２）に答えなさい。
帝王のお慈悲という名の乳で育まれた小鳥のくせに，馬乳酒を煽って乱心してその僥倖を拒んだ
自らを鷹と妄信し，しかし血塗れた鷲のような処刑人たちを見るや怯えて雀さながらに身をこごめ「翼はたたみました，どうかお助け下さい」と言い，カラスのような黒い顔で泣きわめく
ほんの短い間異教徒どもの酒と豚肉を飲み食いしただけで「余はロシア人の慈悲に養われた」と恐れげもなく放言していたくせに
（中略）
偉大なるチンギス・ハンの血族の誉はいまや汚れた，このような過ちを仕出かした者がその末裔であるとは思われない
（スュンビュルザーデ・ヴェフビー作「飛鳥の頌歌」（1787）
問１ シャーヒン・ギライはなぜ処刑されたと考えられるか。当時の黒海北岸と南岸の状況，およびこの詩の内容を踏まえて答えなさい（150字程度）。
＜解答解説＞
これも受験生に課すには高度すぎ，史実を指摘するには思考力というよりも知識が必要になってしまっている事例と思われる。本問の問題点は詩の内容のみから読解できる内容で問題の要求に応えるのは思考の跳躍が必要という点である。妄想的な思考と言ってもいいかもしれない。
「帝王のお慈悲という名の乳で育まれた小鳥のくせに」はクリミア・ハン国がオスマン帝国の属国であったことを想起できる。「血塗れた鷲」は難しい。おそらく鷲の紋章でロシアのことを指しているのだろうが，受験生に双頭の鷲についての知識は無い。３行目でロシアと直接的に明示されるが，かえって「血塗れた鷲」とロシアが同一の存在を指していると気付きにくい。すなわち２・３行目はロシアの軍事的恫喝に屈して傀儡となったことを，このオスマン帝国の詩人が咎めていると思われるが，そもそもはオスマン帝国が露土戦争に敗れてクリミア・ハン国の宗主権を放棄させられたため仕方なくロシアの庇護下に入ったという経緯であるから，クリミア・ハン国はむしろ被害者である。人類は自らの国の歴史を棚に上げがちという理解があると読みやすい文だが，人生経験の薄い受験生にそうした文の読み方を要求するのも酷だろう。一応，受験生にもロシアがクリミア・ハン国を1783年に滅ぼしたという知識はあり，その経緯は知らないが，３行目の内容や，日本が韓国併合の前に第二次日韓協約で保護国化していたこと等の類推から，ロシアも併合の前段階としての保護国化を行ったのだろうと結びつけることは可能だと思われる。ここは本問が思考力を試す問題としてよくできていると思う。
（中略）の後の内容はクリミア・ハン国の君主がキプチャク・ハン国の，ひいてはチンギス・カンの系譜であることを示している。これは受験生にも知識があるところだが，解答には無関係な要素である。最後に詩が読まれた年号も重要で，前述の通り，1783年がクリミア・ハン国の滅亡年であるから，それに近い1787年は受験生にクリミア・ハン国の滅亡を想起させる手がかりになる。この1787年という年号を見て初めてクリミア・ハン国の滅亡にかかわる詩であるということに気付いた受験生も多かったのではないか。
ここまで読解した上で問題の要求に答えてみよう。シャーヒン・ギライはクリミア・ハン国の最後の君主と推測できる（厳密には最後の君主ではないようだが，そこの史実は気にしなくてもよいだろう）。おそらく彼はオスマン帝国の宗主権が否定された後，仕方なくロシアの庇護下に入り，クリミア・ハン国は実質的な保護国となった。その後，何らかの事情でロシアの反感を買って追放され，その折にクリミア・ハン国が滅ぼされてロシアが併合した。追放されたシャーヒン・ギライは何らかのロシアとオスマン帝国の間の取引でオスマン帝国に引き渡されて，強引にロシアへの裏切りの罪を着せられて処刑されたのではないか。この辺りが推測で立てられるストーリーではないかと思う。この推測で高得点が来るなら本問はそこまで悪い問題とは考えられず，大阪大ならその信用をしていいと思われる。
しかしながら，史実は全く異なる。1774年，露土戦争に敗れたオスマン帝国がクリミア・ハン国の宗主権を失い，ロシアの保護国化を図った点まではその通り。だが実は講和条約のキュチュク・カイナルジャ条約では，ロシア帝国側の譲歩により，カリフとしてのオスマン帝国皇帝の権威のみ黒海北岸のムスリムにも及ぶことを認める条項がある。キュチュク・カイナルジャ条約締結時の交渉が，世に名高いオスマン帝国の「カリフ」の史料上の初出であり，スルタン＝カリフ制成立の契機である。このためオスマン帝国の属国であるという立場を失っていないと解釈する余地が生まれ（もちろんロシア側はこれを儀礼上の権利にすぎないと認識していた），クリミア・ハン国ではオスマン帝国への復帰を図る一派と，素直にロシアに服従すべきとする一派に分かれた。シャーヒン・ギライはこのような最中でエカチェリーナ２世によって推戴された，まごうことなき傀儡君主である。しかし，シャーヒン・ギライは単なる傀儡でいるつもりはなく，エカチェリーナ２世の宮廷滞在中に学んだヨーロッパ流の中央集権化政策をクリミア・ハン国で実施し，国家の再建を図った。これが親オスマン帝国派の勢力にはロシアへのさらなる追従に見えたため，1781年に大規模な反乱が発生し，オスマン帝国の介入を呼び込んだ。結局，ロシアはクリミア半島に再び軍を送って反乱軍を鎮圧したが，この段階でシャーヒン・ギライを見限り，1783年にクリミア・ハン国を滅ぼしてシャーヒン・ギライを廃位した。
その後，シャーヒン・ギライはロシア帝国領内で年金生活者となった。しかし，実質的な幽閉生活を嫌ったシャーヒン・ギライがオスマン帝国への亡命を訴え，ロシアがオスマン帝国と交渉して，1787年にオスマン帝国が亡命を認めた。エカチェリーナ２世としてはシャーヒン・ギライがオスマン宮廷の混乱の火種になってくれればという思惑があったようだ。しかし，実際にシャーヒン・ギライがオスマン帝国領内に入ると逮捕され，当初予定されていたエディルネではなくロドス島に送られ，そのままロドス島で処刑された……というのが正確な顛末である。シャーヒン・ギライには悪いが，オスマン帝国の視点ではクリミア・ハン国をロシアに完全に引き渡す最後の後押しをした極悪人であり，なぜオスマン帝国で身柄の安全が保証されると思ったのかがわからない。それまでの行動からはそこまで愚鈍な人物には見えないのだが……
これらをまとめると，以下が推測との差分になるだろうか。
・シャーヒン・ギライはキュチュク・カイナルジャ条約時点ではクリミア・ハン国の君主ではない。
・彼は仕方なくロシアの庇護下に入ったわけではなく，最初から傀儡であり，傀儡の自覚もあった。
・彼が廃位されたのはロシアの反感を買ったためではなく，むしろオスマン帝国側の無理のある介入のせいであり，ひいてはその介入の余地を残したロシア側のキュチュク・カイナルジャ条約での詰めの甘さによるものである。
・彼がオスマン帝国に入ったのはロシアから追放されたからではなく，自ら望んでのことである。
・「強引にロシアへの裏切りの罪を着せられた」のではなく，オスマン帝国視点では合理的な理由による処刑である。
……いや，差分が多すぎないか。もちろん，受験生に推測を立てさせる問題なので，多少の嘘があっても，推測として合理的であれば高得点を与えるというのは入試問題として認められるだろう。しかし，限度というものはあり，受験生に不足気味の情報を与えて，ここまで史実と異なった推測をさせるのはやりすぎである。少なくとも私だったら嘘を書かせる良心の呵責に襲われる。また，ここまで差分が多いと，先生方も採点していて何が史料から成り立つ合理的な推測なのか混乱が生じると思われ，採点の正確性も疑われてしまう。特に問題のある箇所は太字にした３点目で，詩からシャーヒン・ギライが被害者であることを読み取るのは絶対にできない。自然な推測と史実が正反対で，どちらでも加点されるべきということなら，おおよそどんな推測でも加点できてしまう気がする。
大学の先生方は「どうせ学部生のレポートだって，こういう間違った推測だらけなんだし」くらいに思っているのかもしれない。私は大学全体の責任になる入試と，教員個人の責任になるレポートは性質が違うと思う。正確な史実を導けるだけのヒントをちゃんと用意して，正確な史実に近い推測の答案に高得点を与えるようにすべきだ。本問であれば，シャーヒン・ギライが最終的にロシアからオスマン帝国に引き渡された経緯を問題文で提示するだけでも，かなり違ったのではないか。
Posted by dg_law at 16:00│Comments(9)
この記事へのコメント
更新ご苦労さまです。
一橋大学の問題は、問題文や語句からよーく考えれば、それなりにかけるのでは無いかとは考えております。問題文をみてみると、「ウィーン体制後に市民結社の活動が活発化した」という旨から、例えばカルボナリやデカブリストなどが主体の自由主義運動のことかと推測でき、これらの活動から語句の「ギルド」の対比ができるのではないかと思いますが、いかがでしょうか。カルボナリもデカブリストも、ブルジョア層の市民によって構成されているので、要件の「限界」についても述べることができますね。残りの語句においては、解説の通りだと存じます。総じて、指定語句がほとんどヒントとして機能しなかった昨年の大問2よりかは取り組みやすかったのではないでしょうか。また、一橋大学の大問3は日本史との共通問題でしたが、問1の「オーストリア＝ハンガリー帝国」を記述させる問題は日本史ではキツいと感じましたが、こちらについてはどうお考えですかね？
名大については、歴総で洋務運動と光緒新政さえやっていれば日本史でも高得点は可能ですが、何せ今までの傾向が350字の形式で書き慣れていないであろう名大受験生については酷なものでしたでしょう。個人的にはマニ教に関する問題で、「基準をどこまで厳格にするか」が気になりますね。特に生まれた時期についても予備校では「3世紀」あるいは「3世紀初頭」、「パルティア末期」と若干の差がみられていました。マニの生年は216年なので後者のほうがより細かいですが、おっしゃる内容含めて得点の差はついてほしいものではありますね。
一橋大学の問題は、問題文や語句からよーく考えれば、それなりにかけるのでは無いかとは考えております。問題文をみてみると、「ウィーン体制後に市民結社の活動が活発化した」という旨から、例えばカルボナリやデカブリストなどが主体の自由主義運動のことかと推測でき、これらの活動から語句の「ギルド」の対比ができるのではないかと思いますが、いかがでしょうか。カルボナリもデカブリストも、ブルジョア層の市民によって構成されているので、要件の「限界」についても述べることができますね。残りの語句においては、解説の通りだと存じます。総じて、指定語句がほとんどヒントとして機能しなかった昨年の大問2よりかは取り組みやすかったのではないでしょうか。また、一橋大学の大問3は日本史との共通問題でしたが、問1の「オーストリア＝ハンガリー帝国」を記述させる問題は日本史ではキツいと感じましたが、こちらについてはどうお考えですかね？
名大については、歴総で洋務運動と光緒新政さえやっていれば日本史でも高得点は可能ですが、何せ今までの傾向が350字の形式で書き慣れていないであろう名大受験生については酷なものでしたでしょう。個人的にはマニ教に関する問題で、「基準をどこまで厳格にするか」が気になりますね。特に生まれた時期についても予備校では「3世紀」あるいは「3世紀初頭」、「パルティア末期」と若干の差がみられていました。マニの生年は216年なので後者のほうがより細かいですが、おっしゃる内容含めて得点の差はついてほしいものではありますね。
Posted by 歴史科目の入試問題が好きな学生 at 2025年03月16日 17:10
今年も更新お疲れさまでした。
毎年のことながら、非常に読み応えのある記事でした。
ここ数年、阪大が新たな常連となった感がありますね。
旧帝の中でも難易度調整の上手な大学のイメージだったのですが…
毎年のことながら、非常に読み応えのある記事でした。
ここ数年、阪大が新たな常連となった感がありますね。
旧帝の中でも難易度調整の上手な大学のイメージだったのですが…
Posted by 名無し at 2025年03月16日 17:54
最後の阪大の問題（元のPDFも確認しました）、詩の引用に訳者の記載がないので出題者自身が訳したものだと思うのですが、常用漢字外の字を多く使っている割にルビが全くないのが気になってしまいました（鷹、鷲、雀と書いてカラスだけカタカナなのが逆に不思議なくらい）。
特に「馬乳酒を煽って」は「飲む」意味の「あおる」なら「呷る」と書くべきで、「わざわざ範囲外の事項を選択肢に入れて誤植」に近いものを感じます。
（まあ常用漢字外とはいえ、今の受験生は「煽る」ならSNSなどで見慣れていそうですし、習わない字を全部墨塗りしたとしても詩の意図はくみ取れるとは思いますが）
特に「馬乳酒を煽って」は「飲む」意味の「あおる」なら「呷る」と書くべきで、「わざわざ範囲外の事項を選択肢に入れて誤植」に近いものを感じます。
（まあ常用漢字外とはいえ、今の受験生は「煽る」ならSNSなどで見慣れていそうですし、習わない字を全部墨塗りしたとしても詩の意図はくみ取れるとは思いますが）
Posted by 砂屋 at 2025年03月16日 18:27
更新ありがとうございます。やはり一橋は入りましたか。
自分でも解いてみたんですが、
・18世紀にイギリスのコーヒーハウスに代表される政治結社が出現
・ギルドの親方や商人が政治を独占した都市と違い幅広く政治の議論に参加できた結社
・結社の隆盛はコーヒーに代表される植民地物産による生活水準向上に支えられた
・フランス革命やナポレオン戦争を経て自由主義や国民国家が敷衍された
・ロイターらによるメディアの発達
・これらによって19世紀に結社の活動に拍車がかかり、フランスでは改革宴会や2月革命につながった
・しかし、こうした活動は女性参政権実現にはつながらず、ブルジョワ民主主義をもたらした
みたいなことを書きました。今年の一橋の世界史ですが、大学の先輩が「第１問、第２問ともにA山教授の作問だろう」って言ってました。一応自分はアジア史が好きなんですが、解いてて一番きつかったのが第三問なのはどうなんだ......今年は韓国の歴史に関する授業を大学で取る予定なので、勉強しなおしましょうかね。
自分でも解いてみたんですが、
・18世紀にイギリスのコーヒーハウスに代表される政治結社が出現
・ギルドの親方や商人が政治を独占した都市と違い幅広く政治の議論に参加できた結社
・結社の隆盛はコーヒーに代表される植民地物産による生活水準向上に支えられた
・フランス革命やナポレオン戦争を経て自由主義や国民国家が敷衍された
・ロイターらによるメディアの発達
・これらによって19世紀に結社の活動に拍車がかかり、フランスでは改革宴会や2月革命につながった
・しかし、こうした活動は女性参政権実現にはつながらず、ブルジョワ民主主義をもたらした
みたいなことを書きました。今年の一橋の世界史ですが、大学の先輩が「第１問、第２問ともにA山教授の作問だろう」って言ってました。一応自分はアジア史が好きなんですが、解いてて一番きつかったのが第三問なのはどうなんだ......今年は韓国の歴史に関する授業を大学で取る予定なので、勉強しなおしましょうかね。
Posted by 笑気ガス at 2025年03月16日 22:13
＞ 歴史科目の入試問題が好きな学生さん
＞カルボナリやデカブリストなどが主体の自由主義運動のことかと推測でき
この辺は政治結社になってしまうので，市民結社とは言いがたいのですよね。なので採点者が「結社には違いない」として甘めに拾ってくれるか，あくまで市民結社しか加点しないかで相当点が変わってきてしまい，かなりのギャンブルになるかと思います。指定語句については同感です。
�靴量筍韻脇�本史選択にはけっこう厳しいですね。〔番外編〕にした名古屋大も，昨日の慶應大のもそうでしたが，歴史総合による共通問題は日本史選択にとって不利なものばかりでした。
名古屋大のマニ教は本当に気になりますね。記事中にも書きましたが，公式解答例次第で追加します。
＞ 名無しさん
阪大は気合入れて作って暴走し，落とし所を見失っている感じがして，常連になってしまいました。ちょっと落ち着いてほしいと思います。
＞ 砂屋さん
私は気にしていなかったのですが，言われてみるとなるほど。国語じゃなくて地歴公民なので，中国史の難読漢字も出てくることだし，これくらいは読んでくれってことなんですかね。
＞笑気ガスさん
「ブルジョワ民主主義をもたらした」というまとめは良いですね。その通りだと思います。
作問者は旧称Twitterを見ていても，同じ人の名前が挙がってました。種本がゼミで使われていたという話も出ていましたので，この人なのでしょう。
＞カルボナリやデカブリストなどが主体の自由主義運動のことかと推測でき
この辺は政治結社になってしまうので，市民結社とは言いがたいのですよね。なので採点者が「結社には違いない」として甘めに拾ってくれるか，あくまで市民結社しか加点しないかで相当点が変わってきてしまい，かなりのギャンブルになるかと思います。指定語句については同感です。
�靴量筍韻脇�本史選択にはけっこう厳しいですね。〔番外編〕にした名古屋大も，昨日の慶應大のもそうでしたが，歴史総合による共通問題は日本史選択にとって不利なものばかりでした。
名古屋大のマニ教は本当に気になりますね。記事中にも書きましたが，公式解答例次第で追加します。
＞ 名無しさん
阪大は気合入れて作って暴走し，落とし所を見失っている感じがして，常連になってしまいました。ちょっと落ち着いてほしいと思います。
＞ 砂屋さん
私は気にしていなかったのですが，言われてみるとなるほど。国語じゃなくて地歴公民なので，中国史の難読漢字も出てくることだし，これくらいは読んでくれってことなんですかね。
＞笑気ガスさん
「ブルジョワ民主主義をもたらした」というまとめは良いですね。その通りだと思います。
作問者は旧称Twitterを見ていても，同じ人の名前が挙がってました。種本がゼミで使われていたという話も出ていましたので，この人なのでしょう。
Posted by DG-Law at 2025年03月18日 01:52
名古屋大学、解答例がバビロニアですね……
https://www.nagoya-u.ac.jp/admissions/exam/data/answer/sub/post_501.html
https://www.nagoya-u.ac.jp/admissions/exam/data/answer/sub/post_501.html
Posted by snowdrop386 at 2025年03月31日 15:05
情報ありがとうございます。流石に無いだろうと思っていたパターン来ましたか。ちょっと動揺しています。まだ採点基準ではもう少し広く取っている可能性がありますが，解答例がバビロニアである以上は収録対象入りですね。
Posted by DG-Law at 2025年03月31日 23:04
阪大の今年の問題は、たぶんM下R先生が作った問題でしょうね。
詩の訳し方とかいかにもだなあ。
最近出た『オスマン帝国全史』を読むと、もっと文章にイラっとできます。
文学者だから仕方がないのかもしれないけど、何だかなあ。
＞世に名高いオスマン帝国の「カリフ」の史料上の初出
最近、もっと古い時代からオスマン帝国のスルタン（や他の王朝の王様）が「カリフ」を名乗っていたという研究が新書レベルでも出ていますよ。「初出」は言いすぎじゃないでしょうか？
「カリフとしてのオスマン帝国皇帝の権威のみ黒海北岸のムスリムにも及ぶ」という条項が盛り込まれて、スルタン＝カリフ制成立の契機となったのは史実通りですが。
詩の訳し方とかいかにもだなあ。
最近出た『オスマン帝国全史』を読むと、もっと文章にイラっとできます。
文学者だから仕方がないのかもしれないけど、何だかなあ。
＞世に名高いオスマン帝国の「カリフ」の史料上の初出
最近、もっと古い時代からオスマン帝国のスルタン（や他の王朝の王様）が「カリフ」を名乗っていたという研究が新書レベルでも出ていますよ。「初出」は言いすぎじゃないでしょうか？
「カリフとしてのオスマン帝国皇帝の権威のみ黒海北岸のムスリムにも及ぶ」という条項が盛り込まれて、スルタン＝カリフ制成立の契機となったのは史実通りですが。
Posted by 宮下先生の授業に出入りしてました at 2025年04月15日 22:52
全く隠す気が無いので潔いと思います。東大や一橋大もモロバレなことが多いですね。
『オスマン帝国全史』は今読んでますが，私は文体好きです。
後段についてはおっしゃる通りです。ちょっと筆が滑りました。
「オスマン皇帝（『オスマン帝国全史』にあわせるなら帝王）が外交上で公的にカリフを名乗った最初」と書くべきでした。
『オスマン帝国全史』は今読んでますが，私は文体好きです。
後段についてはおっしゃる通りです。ちょっと筆が滑りました。
「オスマン皇帝（『オスマン帝国全史』にあわせるなら帝王）が外交上で公的にカリフを名乗った最初」と書くべきでした。
Posted by DG-Law at 2025年04月17日 23:54
