2025年03月25日

引退しても話題が出がちな稀勢の里

土俵が充実していて面白い取組が多かった中,優勝争いは稀勢の里の弟弟子と直弟子に絞られていった。勝ったのは直弟子であった。弟弟子は兄弟子と同じで優勝が絡むと萎縮する精神の脆さがあった。今回はそれがかなり克服されていたように見えたが,対戦相手が会心の相撲を取る等の不運があった。かたや直弟子は取りこぼしもありつつ,強いメンタルで最後まで取りきった。運命とはこういうものであろうか。機会を逃さずすでに3回優勝している者と,9回目の挑戦も跳ね返された者の差とでも言うべきか。

優勝した大の里は当然来場所綱取りになる。すでに優勝3回でまだ豊昇龍が一人横綱という状況を考えるとハードルはかなり低くなる。今場所が12勝優勝であるから,来場所13勝以上での優勝か同点なら議論の余地なく昇進になる可能性が高い。ただし,13勝の場合は裏規定の三場所計36勝以上に届かない(35勝)。12勝優勝や13勝で次点となるとかなり揉めそうで,個人的にはもう1場所様子見にしてほしい。12勝同点か次点は流石にもう1場所ということになるだろう。大の里には議論の余地のない優勝をしてほしいが,どうも取りこぼしが多いので不安である。大関昇進前から立ち合いの当たりで崩せないと戸惑って引きがち,立ち合いで当たった後には左おっつけが機能するとめっぽう強いが,左腕がぶら下がっているだけになりがちとはさんざん指摘されていて,修正の努力は垣間見えるものの,癖として残ってしまっている。一方,引いても何とかしてしまう相撲勘があって,そこは精神面と並んで師匠と違う。


個別評。新横綱の豊昇龍は昇進直後で稽古不足となったか動きが鈍く,多少無理のある取組を続けて右肘を負傷した。来場所はのびのび取ってほしい。大の里は既述の通り。琴櫻は先場所同様に脆い日と,先々場所以前のように守りが硬い日があって相撲ぶりが全く読めなかった。右膝を負傷しているという説も見かけたが,テーピング等もなくよくわからない。したがって評価が難しい。関脇・小結は特に無し。星をつぶしあって誰一人二桁に乗らなかったが,一番被害が大きかったのは大栄翔だろう。今場所こそは大関取りの起点として期するものがあったのではないか。

前頭上位も好調な力士が多く,優勝争いを引っ張った高安に加え,若隆景・若元春,負け越したが翔猿・宇良・一山本も動きが良かった。高安は地力は元大関であるから当然として,今場所は終盤になってもなかなか崩れなかった。十四日目,好調の美ノ海がこの日はさらに覚醒していて会心の相撲を取ったのは,高安にとっては不運だった。十一日目の霧島戦は合口の悪い苦手の力士で敗戦やむなし,優勝決定戦も大の里に力負けしていたことを考えると,12勝優勝同点は妥当な戦績であって,以前に比べると終盤でも相撲の取り口が崩れていなかったように思われる。一山本はこの番付で7勝は自信になるだろう。相変わらず話が上手く,インタビューが面白い。もう一番勝って勝ち越しのインタビューも聞きたかったところ。千秋楽の宇良・翔猿の曲者決戦も良かった。よくあれだけ低い姿勢でさばけるものだ。金峰山は立ち合い諸手突きの後の動きを読まれていて,随分と研究されてしまった印象。

前頭中盤。尊富士は,この地位での9勝は予想通りで,立ち合いの出足は一級品ながら止まると二の矢が出ない。このままだと上位では負け越すと思われる。平戸海が左の前まわしをとる相撲をよく取っていて,取れなくても相手が嫌がって引いてくれるので相撲になっている。もう少し勝ってもおかしくなかったが,上位陣も好調な力士が多かった。玉鷲は脱帽の40歳で10勝,三場所連続の勝ち越し。遠藤は7勝で惜しくも負け越したが,どう見ても身体がボロボロで,心と技だけで相撲を取っている。よく7勝したものだ。いつ引退してもおかしくないのかもしれないが,技の切れが良すぎて勝ててしまうので幕内に残留できてしまい,踏ん切りがつかないのかもしれない。

前頭下位。翠富士は今場所も肩透かしがばしばし決まって,見ていて気持ちが良かった。わかっていても食ってしまう技としてはあまりにも美しい。阿武剋も10勝していて相撲も目立った。パワーがある右四つの本格派で,中盤でもまだ相撲になりそう。来場所にも期待したい。獅司は立ち合いで独特のリズムを刻むようになった。今場所は四つ相撲でも相撲になっていて,相撲の幅を広げる稽古をしているのかなと思う。安青錦が入幕して刺激になっているのかもしれない。美ノ海は沖縄県出身の力士としては史上初の三賞獲得とのことで,歴史に名を刻んだ。今場所も技能が光って,巻き落としの決まり手もあった。新入幕の安青錦も常に前傾姿勢が崩れない相撲で,これは確かに強く,将来の期待が持てる。


最大の焦点は関脇または小結に張り出しを作るかどうかで,私は期待を込めて作ったが,作らない場合は若元春を前頭筆頭に落とすことになる。またこの場合は幕尻が前頭18枚目東になるので,幕尻付近の昇降に影響が出るだろう。その幕尻付近も難しく,錦木と朝紅龍を残して英乃海と草野を十両に留めた。最近の番付は保守的なので,入れ替えない可能性が高いが,入れ替えた方が面白い気はする。十両から幕下に下がるのは北の若,北勝富士,木竜皇,大辻の4人になりそうだが,北の若は残される可能性もあって,これも近年の保守的な傾向を見ると残す可能性の方が高いかもしれない。上がってくる方は宮城,三田,天空海,大奄美の4人で,3人になるなら天空海か大奄美のどちらかが幕下筆頭に留めおかれる。個人的な番付編成の好みなら4人交代か,3人でも天空海を優先して上げるが,最近の入れ替えは幕下5枚目以内の4勝と6〜10枚目の6勝なら前者を優先しがちなので,今回も大奄美が優先されてもおかしくない。

2025年春場所


この記事へのコメント
更新お疲れ様です。

高安は、ここ最近幕内中位でも勝ちきれない場所が目立っていただけに、今場所の活躍は驚きました。技の切れもよく、身体も良く動いていた印象。精神面の脆さを言われることが多いですが、美ノ海戦や決定戦については、むしろ相手方を褒めるべきでしょう。巡り合わせが悪いというべきか。

大の里は、序盤の相撲を見て、かなり大勝ちするのではないかと期待しましたが、中盤は相撲内容が良くなかった印象があります。ただ、14日目以降は会心の相撲でした。
「強いが、負けやすい」というところがあり、負けやすさの克服をどうするかといったところ。日馬富士と貴景勝を足して割ったような感じで、相手にしたら対策方法はわかるが、実践するのが難しいといったところ。

豊昇龍は残念ですが、今場所しっかりと休場したのは吉に出ると信じたいです。琴櫻は離れた相撲になるとダメだった印象。足がついていかないあたり膝の負傷を感じます。捕まえてしまえば強く、11〜13日目でブーストをかけましたが、結果として、それ以降はエンジン切れといった印象。

平幕上位は大波兄弟と高安以外、負け越しですが、多くは6,7勝しており、つぶし合いの様相が強かったのかなと。尊富士は対策が各力士進んでしまった感、平戸海の勝ち越しは嬉しい一方、熱海富士は負け越し。相撲を変えていかないと難しいように思えます。安青錦は来場所も楽しみ、王鵬や尊富士を破った相撲は圧巻でしたね。
Posted by gallery at 2025年03月25日 15:04
- 宝生流の昇進で、(すでに鶴竜以降やや緩和していた)横綱昇進規準が、緩和され、ひとまず双羽黒以前に戻った、といってよかろう
- 私としては昇進は甘くした方がいいと思っていたし、宝生流はがんばってほしい
- 宝生流は、まあこんなもんだよね、というところ。
- そもそも11勝が標準の力士で、強くなって12勝標準、13勝標準の力士になってほしいけれど…
- 大の里は強いし土俵際ジャンプもうますぎ
- このまま大の里が順当に横綱になり、怪我無く維持しつづければ、強すぎて早く勝負が決まる、「つまらない」大力士、スーパー横綱になりそう
- 高安はまあしかたない…
- むしろ高橋由伸とかバランスオブゲーム的なポジションのほうがおいしい、と慰めてみたい
- 平戸海はかなりつよくなると見た
- 玉正鳳、あげて大丈夫なのか?!
Posted by acsusk at 2025年03月25日 19:12
(書き忘れ)
- 大関で連覇なら例え12(優)-11(優)でも横綱昇進だと思う。
 (連覇で見送られたのは千代の山以降ない)
 (11(優)-11(優)ならさすがにもめるかも。それでも昇進させるような気がする)
- 私の趣味では安青錦のような現代ネーム四股名はちょっと…
Posted by acsusk at 2025年03月29日 00:56
新横綱が早々に不調で休場、初優勝が誰になるのか混沌と進み、終わってみれば上位優勝経験者が勝ち残るという場所でした。
高安は、Abemaの若乃花の解説によると、13日目の勝ち方と同じ突っ張りにこだわったのが14日目美ノ海戦の敗因らしく、相手を起こしてまわしを掴んでいたなら、悲願の初優勝だったでしょうけど、果たして次の機会が訪れるかどうか。

インタビューで名を挙げた一山本、7勝8敗か8勝7敗の壁をなかなか乗り越えられません。勢いのあるうちに大勝ちするところを見たいものです。

怪我で番付を落とした炎鵬や朝乃山が星を伸ばし、今年中にも関取復帰を見られるかもしれないのが楽しみです。
Posted by EN at 2025年03月30日 17:10
皆様,コメントありがとうございます。

>galleryさん
やっぱり今場所の高安は本人が固くなっていたというよりも,相手の好調さを褒めるべきですよね。運も実力の内と言われればそうなってしまいますが。
大の里は中盤に取りこぼしますね。集中力が一度切れるんでしょうかね。「日馬富士と貴景勝を足して割ったような感じ」,割とわかります。対策をとりやすいが,対策を超える相撲が出る日もあるというところでしょうか。
>琴櫻は離れた相撲になるとダメだった印象。足がついていかないあたり膝の負傷を感じます。
やっぱり膝ですかね。離れて取った時の方が脆かったというのは言われてみるとそうかも。
>多くは6,7勝しており、つぶし合いの様相が強かったのかなと。
予想番付を作っていて,けっこう難しかったですね。好調の力士が多くて土俵が面白いとそうなりがちで,番付という制度の難しいところですね。

>acsuskさん
豊昇龍は,休場となると驚きましたが,成績は振るわないだろうと思っていた人が多かろうと思います。統計的にも新大関・新横綱は当人にとって難しい場所ですね。
>大の里は強いし土俵際ジャンプもうますぎ
阿炎や遠藤と同じタイプですね。あれだけの巨漢で土俵際でかわすのが上手いのはすごいと思います。
大の里は今24歳で,大横綱になるなら来場所つかんでほしいなと思います。大卒なので年齢的にはそれほど余裕がないのですよね。
>大関で連覇なら例え12(優)-11(優)でも横綱昇進だと思う。
記事中にはああ書きましたが,現実的には上げないわけにいかないということになろうかと思います。
Posted by DG-Law at 2025年03月31日 23:45
>ENさん
高安はなるほど。突きでも四つでも相撲がとれてしまうがゆえの選択ミスですかね。美ノ海なら突きで戦ったほうがいけると見た判断ミスかいずれか。
一山本は大勝ちして,何度もインタビューに呼ばれるところを見たいですね。
そういえば朝乃山の復帰場所でした。幕内まではするすると戻ってくることでしょう。
Posted by DG-Law at 2025年03月31日 23:45