2025年09月02日

2025年5-7月に行った展覧会

 東博の蔦屋重三郎展。蔦重の事績がわかりやすく整理されている。大河ドラマのここまでの復習とこれからの予習に最適だった。5月当時の復習としては『籬の花』や『雛形若菜』,恋川春町『金々先生栄花夢』の実物が見られたのは嬉しい。予習になったものとして,この展覧会の直後に登場した朋誠堂喜三二『見徳一炊夢』,山東京伝『江戸生艶気樺焼』等。さらに9月頭現在でもまだ未登場なものは朋誠堂喜三二作『文武二道万石通』,恋川春町『鸚鵡返文武二道』,山東京伝『仕懸文庫』,歌麿・写楽の浮世絵作品群辺りか。寛政の改革の影響も受けつつも,蔦重の出版業の手広さに驚く展示となっている。全点で約260点という膨大な量,皆大河で登場した書籍の実物に喜ぶ中,やはり「『金々先生栄花夢』とか受験でやったな」という声も聞かれ,丸暗記とは言われつつも文化史はこういうところで活きるのだよなと意義を再確認するなど。
 大河とのコラボ企画なので,撮影許可ゾーンは撮影に使った小道具や再現セットも展示されていて,ファンとしては嬉しい展示。耕書堂は日本橋仕様であり,5月当時だとまだ吉原店なので若干ネタバレであったが……。オープニングの止め絵は東博ではないどこか,たいとう大河ドラマ館あたりに常設展示してもらえると嬉しい。




 サントリー美術館の酒呑童子絵巻展。酒呑童子絵巻自体は過去に複数の企画展で見ているが,どの本をいつどこで見たか覚えておらず,サントリー本(狩野元信筆)をまとめて見られたのは良い機会だった。修復直後ということもあるが,非常に保存状態が良く色鮮やかで眼福であった。酒呑童子の討伐は一纏めで眺めるとJRPG的な冒険譚であると思われた。ボスまでの道中が長く,お使いイベントがあって,お使いイベントで重要アイテムが手に入ったり,装備品がしっかりあったりと,そのままゲーム化できそうな物語である。
 また,今回のもう一つの目玉展示のライプツィヒ本は「酒呑童子エピソードゼロ」を含むものだが(展覧会の正式名称が「酒呑童子ビギンズ」である所以である),言われてみると酒呑童子はこのエピソードゼロのみならず,茨木童子の羅生門など昔から二次創作の多く,これまた現代日本らしさを感じるコンテンツたるところかもしれない。ライプツィヒ本の制作された経緯が史料で裏付けられたのは意外と近年とのことで,美術史学的にも意義深い展覧会だった。能の「大江山」の表現にも絵巻が影響を与えたという話も面白い。こういうのは独立していてあまりジャンルをまたがない印象だったが,やはり具体的な絵があると身体表現もイメージしやすいのだろう。
 展示の最後は、凄惨な場面の多い酒呑童子絵巻が江戸時代に婚礼品として好まれた理由の説明。最初期の武家の英雄譚であり,かつ家康の娘の督姫が池田家への嫁入りの際に持っていったことで,格式高い武家の婚礼品の代表格になってしまったとのこと。よりによってこれを,という歴史の妙である。総じて非常に面白く,2025年の上半期に行った美術館の展覧会としてはベストであった。また美術史学的にも意義深い展覧会をやってほしいと心から思う。




 山形県立博物館。月山登山の空き時間で山形市内観光をして,その一環で来訪。その周囲の博物館も見て回ったが,展示が似ていたので代表して県立博物館を取り上げて感想を書いておく。真っ先に来る感想が近代史における三島通庸の扱いで,彼は高校日本史では自由民権運動を弾圧した悪名高い県令として学習する。とりわけ福島事件と加波山事件は名高い。これが山形県では三島通庸は山形市の西洋化・都市化,医療の拡充,交通インフラの整備を実施した英雄的能吏の扱いを受けていて,福島県や栃木県での扱いと随分と異なる。三島は山形県でも交通インフラの整備のために民衆を酷使し,随分と恨みを買っていたはずだし,山形でも自由民権運動は弾圧していたと思うのだが,山形では功績の方が大きいのだ。博物館の展示ではそうした三島の負の側面はほぼ全く展示がなく,漂白されていたので笑ってしまった。どうやら山形にさくらんぼとりんごをもたらして殖産興業を成功させたのもまた三島なので,山形県民としてはさくらんぼを裏切れないということなのかもしれない。人に影あれば光ありだ。
 ついでに言うと,山形県は思っていたよりも地方ごとのアイデンティティが強く,ヒョーゴスラヴィアみがあったのは全然知らなかったので驚いた。米沢(置賜)は上杉景勝と鷹山の土地,山形(村山)は最上義光の土地,庄内は山を挟んで海沿いであり北前船(東廻り航路)の影響が強く,これは歴史と文化に頼った県民性は育めない。県のアイデンティティがどうしても果物になってしまうのは仕方がない事情かもしれない。そうそう,さくらんぼがどうしても果実の中心ではあるが,意外と他の果物もちゃんと押していて,りんごもけっこうアピールしていた。辻野あかりさんはちゃんと登場するだけの背景があったのだなと妙に納得した。
 さらについでに,山形県立博物館のマスコットキャラが,きらら系の絵柄で素晴らしく可愛かったので,デザインした「わらびもちきなこ」さんは只者ではないと推測し,調べると本当に山形出身のきらら作家だった。帰宅後にすぐ『しあわせ鳥見んぐ』1巻を購入して読んで,面白かった。思わぬ拾い物を得た。