2025年09月30日

横綱二人が優勝争いを引っ張ったのは何年ぶりだろうか

横綱二人が優勝争いを引っ張り,千秋楽に優勝決定戦で雌雄を決するという王道の展開となった。相撲内容も濃かった日が多く,満足感は高い。上位陣の潰し合いが激しかっただけに,そこでするっと抜け出た横綱二人はやはり別格に強く,新小結という不利な番付ながらついていった安青錦の活躍もまた輝いていた。特に絶不調というわけでもなさそうだった霧島や若隆景が6勝の負け越しで終わったところに今場所の上位陣の厳しさを感じる。NHKの解説は琴風さんがメインでトークが安定しているが,貴景勝や照ノ富士はやはり技術論が精密で,現役から離れて時間が経っていないというだけではないクレバーさがある。Abemaの解説も悪くないが,Abemaに人が流れがちだからこそNHKが対抗してちゃんと評判が良い人に解説をさせようと考えているのかもしれない。

個別評。優勝した大の里は引く癖が封印されていて,よく相撲が取れていた。千秋楽の本割では豊昇龍に完敗したように,豊昇龍には苦手意識がありそうなのが今後の課題か。それだけによく優勝決定戦は勝てたものだ。豊昇龍はこのまま全勝優勝するかと思われたが,安青錦に不覚を取り,その翌日に精神を立て直せないまま琴櫻にも負けて2敗したのがいただけない。琴櫻戦は負け方がよくなく,あんなあからさまに心が折れたのがわかるような取組では横綱とは言えない。1敗維持で千秋楽まで来ていれば本割で終わっていたわけで,今場所は琴櫻戦の敗戦が原因で優勝を逃したようなものだ。九州場所こそは文句なしの優勝が見たい。その琴櫻は大関取りの時のような守りの強さが戻ってきていた。解説の親方たちにはもっと攻めろと言われることが多いが,私はあれで良いと思う。一度受け止めてからの逆襲が琴櫻の持ち味で,押し返してからが強いのだ。それだけに14日目から休場したのは惜しい。万全なら14日目に当たるはずだった大の里も危なかったのではないか。右膝のケガとのことで,来場所にまた脆くなっていないかが心配である。

関脇・小結。関脇二人は前述の通り,今場所はちょっと周囲の調子が良すぎた。若隆景はともかく,霧島は妙なメンタルの揺れがあって突然不調になったり好調に戻ったりするのが非常に気になる。高安は序盤絶不調,中盤から急速に復調して7勝。結果的に場所をかき乱した。最初から後半のような馬力が出ていれば高安こそが大関取り継続であったのに。さて,今年生まれた超新星の安青錦は今場所も低い姿勢で押してからの左下手,そこからの崩しが絶品であった。投げも捻りもいなしも足技もあって手が付けられない。弱点は上体が上がって胸が合うと体格負けすることだが,まず上体をまともに上げさせるのが難しく,今場所で成功したのはパワーで押し切った大の里,立ち合いのかち上げで上手くいった若元春,右四つで組むことに成功して右の腕を返せた正代の3人で,例外は王鵬が右からの小手投げで勝ったことくらいである。来場所は皆死に物狂いで安青錦の上体を上げさせにくると思われるが,それをかいくぐって二桁勝てるか注目が集まる。大関取りについては,今場所が起点で前頭筆頭だった先場所は考慮しないという審判部の発表があったが,往々にしてこういう時の審判部の発表は当てにならず,いざ来場所になったらあっさり判断をひっくり返す。西大関が空いていることを加味すると来場所11勝で計33勝なら大関昇進を認めるのではないか。まあ,起点の場所が前頭でも昇進した栃ノ心・照ノ富士(1回目)の事例を見ると,その3場所に優勝が含まれているので,そういう裏規定があるのかもしれないが。そうだとすると来場所の昇進は優勝か同点が求められることになり,流石に無理かもしれない。

前頭上位。玉鷲は本当に衰えない。もうすぐ41歳の人が筆頭で6勝はすごすぎてもうよくわからない。ただ,攻撃力はともかく,さすがに踏ん張りが効かずに足が滑るシーンは増えてきたように思われる。伯桜鵬は七日目に霧島に腕を極められて見るからに右腕の筋肉が変形していたが,耐えて8勝の勝ち越しとなった。実は場所前から右腕は肉離れのような状態で不調だったらしい。余計によく勝ち越せたものだ。地力の割にケガが多くて小規模な勝ち越しが続いていた人ではあり,上位で通用したのはあまり驚かない。左四つになると強く大の里も倒せるが,他の左四つの力士にはなぜか勝てず,安青錦にも若元春にも敗れている。今場所はもろ差しもよく見られ,新たな武器になるか。王鵬も10勝で来場所は再関脇が濃厚。安青錦と琴櫻を倒しており,パワーと相撲勘があるので思わぬ逆転があるのは強み。琴勝峰は3勝の大敗で,優勝した翌場所の平幕は難しいという格言通りの結果となった。相撲ぶりが2場所前に戻っていた。

前頭中盤。このあたりも調子が良いもの同士で潰しあった様相で,7−8の僅差の負け越しが多い。後述するが番付編成が大変そう。勝ち越した力士から何人か取り上げると,草野は順当に勝ち上がってきて来場所は上位初挑戦になりそう。技術も力もあるが,幕内の相撲にはまだこなれていない印象もある。上位はまだ難しいと思う。隆の勝は上りエレベーターだが,それにしても12勝は立派。宇良も概ね同様ながら,今場所も押し引きの見極めが巧みで面白い技能相撲を見させてもらった。技能賞をあげてもよかっただろうと思う。負け越した力士では,金峰山は突き押しだけでなく四つ相撲も磨いているのはわかるのだが,結果的に器用貧乏に陥っている様子もある。もっと突きで攻めていいと思う。藤ノ川は負け越しながら気風の良い相撲で見応えはあるのだが,肘あたりをケガしそうで怖い。小兵だからケガを怖がっていてはいけない,等と思わずそこは気をつけてほしい。

前頭下位。正代は上りエレベーターながら,久々の上りのような。すくい投げ・小手投げの調子がよく,寄りではまわしを取らずに差し手の腕を返す相撲が光った。安青錦を右四つで破ったのが今場所の最大の見どころだった。友風はカムバック賞をあげたいところ。大ケガの原因となったとはいえ,引き技は非常に上手く,本当に良いタイミングではたく。しかも今度の友風はケガになるようなところでの引き技は少なかったように見えた。新入幕の日翔志は7勝止まりの負け越しで,序盤は見るからに緊張で固まっていてもったいなかった。最初から実力が出ていれば勝ち越せていたのでは。ちゃんと当たりに圧力があって右四つになるのも早い。しいてケチをつけると,変化は下手なのでやらないほうがいいと思う。


水戸龍が引退した。バーサンスレン・トゥルボルドと言えば学生相撲にうとい私でも知っていたくらいの期待の新星であったが,プロの現場では今一つ芽が出なかった。身体は大きく右四つの形も良かったが相撲が鈍重で,特に幕内ではスピードに全くついていけていなかった。マイペースな性格と稽古相手に欠く小規模な部屋という点が重なってこうなったという説があり,もったいなさを感じる。現在の大相撲は部屋の数が多すぎるように思われる。一方で2018年から引退直前までの約8年に渡って十両の地位を守り続け,不思議な安定感があった。十両と幕内の違いは立ち合いのスピード感とよく言われるが,まさにそこが水戸龍にとっての不幸であったということだろうか。

(10月1日追記)
宝富士が引退した。左四つになったら無類の強さを誇るがそれ以外の展開は全て負け,というわかりやすい取り口で,怪力で鳴らし,意外に土俵際での逆転も多かったが,それも左四つでならという話であった。それがゆえに三役まで上ったとも言えるし,エレベーター力士にとどまったとも言える。2013年に幕内に定着してから長く前頭中盤の番人となっていたが,2024年頃から左四つになっても勝てない場面が現れ始めてとうとう衰えた。なお,玉鷲という偉大な力士がいるために影に隠れているが,実は38歳での引退まで連続出場1398回で史上6位の記録を残した鉄人でもある。マツコ・デラックスに似ている容貌でちょっと話題になった。両者ともお疲れ様でした。


西小結は伯桜鵬を置いたが,高安が残る可能性も高い。前頭中盤は前述の通りスカスカで,今場所7−8だった人が多いため,彼らは据え置きにせざるを得ない。隙間を誰で埋めるかも難しく,番付運が非常に良かったという人が何人か出てきそうである。幕尻もややこしく,明生を残して日翔志を落とし,朝白龍を上げないという判断をしたが,全然違う可能性もある。十両から上がるのは錦富士,欧勝海,千代翔馬。十両に下がるのは尊富士,錦木,日翔志とした。幕下から十両に上がるのは多くて4名,北の若,長村,若ノ勝,五島になる。五島が上がるなら注目を浴びるだろう。幕下に下がるのは宮乃風,宝富士,遠藤,紫雷になると思われるが,紫雷を残して五島を上げないという判断もありうると思う。

2025年秋場所

この記事へのコメント
更新お疲れ様です。

両横綱が先場所の雪辱を果たした場所でした。
私としては、中盤まではテンション高く見てはいたのですが、終盤以降に微妙に乗り切れないまま終わっていったような場所のような気もします。
大の里、14勝あげた夏場所以来の好内容。千秋楽本割以外はかなり良かったんじゃないかと思います。彼の恐ろしさは単純なパワーよりも、そのスピード。後は合口悪い相手に決定戦で勝てるという「引きの強さ」というべきか。
豊昇龍は、序盤に難敵を退け、波に乗れたかと思いましたが、後半は大失速。腰の不調が響いた感もあります(千秋楽本割は大の里の失策による面が大きいでしょう)13日目の敗戦は私のテンションを下げる重大要因だった気が。ただ、自身初の中日勝ち越しを果たし、十分に横綱として力を魅せることができることは示せたので、来場所以降の楽しみも増えたかなと思います。

安青錦は11勝と大健闘。負ける相手は固定されていっている感じがします。今場所は捻りや無双ではない、押しによる力も増していたのが印象的。対策が浸透する前にぬるっと大関に上がる可能性はあるかも(一大関なのも追い風)
郄安は、本当にダメな時は休場しますが、皆勤する以上は、上振れ12・下振れ6で推移するんですかね。序盤から波に乗れれば、まさかの大関とりになってたかも。

怪我もある中、朝乃山は十両で12勝と健闘。膝の調子のせいか、防御力は落ちてしまっている印象。大栄翔は調子を取り戻すのが遅かったのが残念。しかし、来場所は優勝争いに顔を出すかもしれないなと思いました。
Posted by gallery at 2025年10月02日 10:55
* なんとなく熱戦が多い中、両横綱の本割・優勝決定戦となる、熱い場所であった
* 解説も土俵の充実を語ることが多く、素人目でも白鵬末期〜照ノ富士時代よりもレベルが上がった感がある
  (決して当時のトップ力士をdisっているわけではない)
* 宝生流は、大型パワー系押し相撲力士から、小兵敏捷力士まで、
 「全タイプの力士のことが苦手」
 なのによく頑張った
 * ほんとに琴櫻戦が残念
 * しかし上手取っても勢いがついた大の里勝てないんであればどうすればいいんだ…
* その宝生流を切り返しで破った安青錦は見事
 * 俺、「大きめの力士が低い姿勢で取ったら最強」ってずっと思ってた
 * 大の里相手には完敗しているが、合口が悪いのかもしれない
 * 協会は「上げない」とか言わなきゃいい。
  可能性が薄いとはいえ、全勝優勝だったらたぶん上げるんだから
* 霧島&若隆景は…
* 近代大相撲100周年なのに回顧ものがまだまだ少ないので、NHKとBBM社は歴史に関する番組や記事をどんどん作ってほしい
Posted by acsusk at 2025年10月02日 18:20
* そういえば旭富士はもう解説してくれないのだろうか
Posted by acsusk at 2025年10月02日 20:02
大関琴櫻の大の里戦休場と、14日め豊昇龍変化と、両横綱の千秋楽決戦になっちゃったという感じの場所でした。隆の勝か安青錦が千秋楽まで優勝争いに残っていたら、もっと盛り上がったでしょう。

先場所優勝の琴勝峰を含めて、調子の悪い力士がいつもより多かった気がします。豪ノ山は空回ししたとして、阿炎は休場しても良かったような。御嶽海は大崩れしても仕方ない場所でしたが、後半につれて相撲が良くなったかも。

朝なんとか龍という力士が増えて混乱することもしばしばでした。高砂部屋がこれほど躍進するとは、師匠が優秀なのでしょうか。
Posted by EN at 2025年10月02日 23:31
コメントありがとうございます。
けっこう評価が割れてますね。

>galleryさん
>彼の恐ろしさは単純なパワーよりも、そのスピード。
大の里はパワーだけではないから強いですね。横綱になる人は誰でもそうかもしれませんが,相撲勘も優れているように感じます。意外と土俵際で切れ味があるというか。そこも含めてスピードもありますね。
豊昇龍は後からケガがあったと発表してましたね。なかなか万全で千秋楽までたどり着かない。
高安は読めないですね。どの地位でもあまり変わらない成績で,おっしゃる通り「上振れ12・下振れ6」という様子ですが,好調かと思えば突然腰痛で休場したりもしますし……年齢的にも上位で3場所上振れになるのは厳しそう。
全然気づいていなかったですが,大栄翔は番付がさらに下がりますし,波に乗れば平幕優勝ありそうですね。ちょっとした楽しみにしておこうと思います。

>acsusk さん
>* 解説も土俵の充実を語ることが多く、
言いたいことはわかります。ここ2,3年の方が単純に面白い取組が多い気はします。
豊昇龍は,大の里対策を虎視眈々と練っていると思います。素人の我々には想像もつかないですが,諦める彼ではないでしょう。

>協会は「上げない」とか言わなきゃいい。
>  可能性が薄いとはいえ、全勝優勝だったらたぶん上げるんだから
往々にしてあるパターンですねw。
少なくない好角家が「大関取り,綱取りは事前に予告されていて然るべき」というでしょうが。

>* 近代大相撲100周年なのに……
言われてみるとそうですね。協会は催事をやりますがメディアは案外動いていない。何かしら動いてはいるのでしょうか。あるいは売れないという目算なのかも。

Posted by DG-Law at 2025年10月05日 17:58
>ENさん
隆の勝と安青錦は惜しかったですね。横綱決戦はそれはそれで需要があるので,今場所はあれで良かったのだと思いたいです。
琴勝峰のほか,霧島や若隆景等,調子の良し悪しは明暗に出た場所でしたね。
阿炎は私も休場で良かったと思います。それだけに豪ノ山の空回りは見ていて気の毒でした……
言われてみると,高砂部屋は躍進著しいですね。元朝赤龍の指導のおかげなのだとしたら,新たな名伯楽ですね。

Posted by DG-Law at 2025年10月05日 18:00