2025年11月29日

2025年大相撲九州場所の感想

 優勝争いも相撲の内容もまずまず面白い場所であった。安青錦は急成長しているところは誰しもが認めるところで,今場所後の大関昇進も多くの人が予想していたところではないか。それでも優勝は想定外だったと思われる。13日目の大の里戦は限りなく誤審に近いことを考えると実際には13勝2敗であるから堂々たる優勝と言えるし,13日目の敗戦を潔く認めたとしても豊昇龍をニ度倒しての優勝であるから文句のつけようがない。安青錦の優勝は記録ずくめである。優勝まで所要14場所は付出の力士を除くと史上2位の早さ(1位は尊富士の10場所)。21歳8ヶ月での優勝は史上4位の若さ(上は貴乃花・北の湖・白鵬)である。また,大関昇進まで所要14場所は年六場所制以降で,付出の力士を除くと史上最速。新入幕から5場所も大の里と並んで史上最速タイ記録。もちろんウクライナ出身者の優勝も大関も史上初。
 安青錦の相撲は誰しもがそう言うように低い姿勢がなかなか崩れないことで,押しても強いし組んでも強い。先場所の評に「弱点は上体が上がって胸が合うと体格負けすることだが……来場所は皆死に物狂いで安青錦の上体を上げさせにくると思われるが,それをかいくぐって二桁勝てるか注目が集まる」と書いていたが,今場所の敗戦の3つのうち1つは若隆景の変化であるから,実質的に当たり勝って上体を上げさせられたのは大の里と義ノ富士の二人だけで,どちらも立ち合いで当たり勝った勢いでなんとかした形である(しかも大の里は前述の通り実質的に負けている)。名古屋場所の評に「身体が大きいわけではないので,パワー系の力士に立ち合い負けすると低さが保てないことが露呈し,大の里と草野にはそこを突かれて負けた」と書いていたが,裏を返せば当たった瞬間以外で上体を上げさせるのは非常に難しくなってきたようにも思える。とすると来場所はさらに立ち合いが厳しくなるか,変化をねらう力士が増えてきそうで,安青錦は立ち合いで意外と苦戦するかもしれない。

 力士個別評。両横綱は及第点であるが,大の里はケガが心配で,13日目の安青錦戦で左肩を痛めたとのことだが,10日目の義ノ富士戦の敗戦時点ですでに様子がおかしかったので,実際には9日目までの相撲か10日目の相撲で痛めていたのではないか。決定的に痛めたのが13日目だったとしても14日目で休場しておくべきで,千秋楽だけ休むというのは判断が遅かったように思う。琴櫻はその大の里のケガに救われて勝ち越した形である。良い相撲と悪い相撲が交互に出る場所で,どちらかというと悪い相撲の方が多かったか。守りが良い力士なのに膝の踏ん張りが効かないのでは持ち味が出ない。豊昇龍は二場所連続で優勝決定戦敗退とのことで,決して勝負弱いわけではないが,めぐり合わせは悪い。二場所連続の優勝決定戦敗退は史上3回しかなく,残りの2回のうち1回は昭和53年の3・5月の若三杉(若乃花�◆砲脳,辰燭里藁省�とも北の湖。もう1回は平成7年11月と平成8年1月の貴乃花で勝ったのは若乃花��と貴ノ浪である。

 関脇・小結。安青錦は既述なので省略。王鵬と高安は平常通り,隆の勝は日毎に立ち合いの当たりの威力が全く違い,霧島と大の里に勝って場所を荒らした割には当人は5勝にとどまった。おかげで場所の優勝争いは面白くなったが,当人が勝ち越さねば報われない。
 前頭上位陣。霧島は強いときの霧島がかなり戻ってきた。というよりも霧島は基本的に非常に強いのだが,たまに土俵上での動きが挙動不審になって弱体化する。あれはケガのせいなのだろうが,形容が難しい。このまま大関復帰まで持つとよいのだが。伯桜鵬は上位挑戦で初めて負け越した。出足を意識しすぎて足が流れる場面が多かったように思われ,とはいえ当たり負けると相撲にならず,塩梅がなかなか難しい。平戸海も左前まわしを取りに行く立ち合いが読まれていて対策されている。別パターンを作らないと厳しいかもしれない。草野改め義ノ富士は堂々たる上位初挑戦で勝ち越し。パワーもテクニックもある本格派で今後への期待が大きい。ここまで安青錦戦は2戦全勝で,安青錦にとっては真っ先に攻略すべき相手だろう。

 前頭中盤。あまり言及すべき力士がいないが,一山本は敢闘賞受賞で,実際に面白い相撲が多かった。突きよりは押しの力士だが,押してからの選択肢がけっこう多くて相手はやりづらいと思われる。一山本は何よりインタビューが明るくて楽しい。どんどん勝ち越してインタビュールームに来てほしい。阿炎は今場所,明らかに突きの威力に欠き,大敗もやむなしの調子であった。ケガであってもなくても心配である。翠富士は正攻法だとどうしても力負けするので,もっと肩透かしを打っていった方がよいと思う。大栄翔はこの地位なら12勝くらいするかと思ったが10勝止まりで,彼も以前より突き押しの威力が落ちている。特に立ち合いのぶちかましの威力があれだと上位で通用しないのではないか。
 前頭下位。藤ノ川は熱戦が多くて,スピードで撹乱する相撲はやはり見ていて楽しい。無茶苦茶な動きが多いのでケガだけが心配である。あとは時疾風・朝紅龍・錦富士あたりの動きがよく,今場所は下位同士の相撲がけっこう面白かった。錦富士は今場所勝ち越して青森県出身幕内力士の命脈をつなぐという大仕事を成し遂げた。何か三賞をあげてもよかったのでは。友風は負け越したが,あれだけはたき込みが決まるなら楽しいだろうな。獅司は相変わらず突いて攻めたいのか組みたいのかよくわからない相撲で,もちろん両方できるに越したことはないのだが,今のままだと単なるどっちつかずになりそう。豪ノ山は大栄翔と同じ評価で,押しの威力が落ちていて要改善である。


遠藤が引退した。言わずとしれた人気力士で,2013年に大学相撲のスターとして幕下付け出しデビュー,幕下2場所・十両1場所で通過して2013年のうちに新入幕となった。イケメン力士で花があり,技巧派の相撲で初心者から玄人まで満遍なく好かれた力士となり,いろいろあって不調に陥っていた大相撲の救世主となる。純粋な人気だけで言えば,2018年頃までは角界最高だったのではないだろうか。一方で,技巧頼りでパワー不足であり,大関までは出世しないのではないかとは早いうちから言及されており,果たしてその通りになった。しかもそれを覆そうと当人が必死に筋トレしたものの,開花する前に膝の大ケガがあって,やはり最高位は小結となってしまった。したがって相撲を中途半端にしか知らない人からすると,割と「あんなに話題になったのに大成しなかったね」と言われてしまいがちな力士でもあり,その度に「遠藤の素晴らしさは星数ではなく技巧自体にあるんだよ」と説明するものの,あまり通じず閉口した人は私以外にもいるだろう。取り口は何でも取れるが,基本は突き押しで崩してから右四つに組み,低い重心を保ったまま寄り切るのが基本形であった。相撲の技術は絶品で,まわしを取る技術とまわしを切る技術は特に光っていた。お疲れ様でした。


ありがちなことではあるが,普通に組むと前頭中盤がすかすかになり,番付運が良い人と悪い人が極端に発生しそうである。幕尻はかなり渋滞していて,十両西筆頭で8勝だった藤青雲は際どく入幕できない情勢。幕内と十両の入れ替えは結果的に3人になり,朝乃山・朝白龍・羽出山が入り,佐田の海・明生・湘南乃海が下がると思われる。幕下から十両に上がるのはすでに発表されていて,上がるのは一意と出羽ノ龍,旭海雄の3人。とすると下がるのも3人になるが,三田・白鷹山・日向丸・紫雷の4人のうち1人は助かる計算。三田か白鷹山のどちらかが助かるか。

2025年九州場所

この記事へのコメント
* 両横綱と大関になる関脇が最後まで優勝を争う面白い場所であった
* 大の里-安青錦戦は誤審
* 物言いはつけるべきだし、付けたら最低でも取り直しになってた。迷ったら物言いつけるべきなのに審判何してんの
* あと審判部は
「11月場所後には大関には上げない」
みたいなこと言ってなかったか?ああん?
* 安青錦について
「パワーがある力士が頭つける相撲取ったら最強」
とは昔から思ってた(二度目)。
つまり相撲の完成形
* 不満は名前がキラキラネームであることぐらいだな。
これは安美錦のせい
* https://nix-in-desertis.blog.jp/archives/52503604.html#comments
で、
「白鵬までの大相撲史はスピード出世の力士によって作られてきた。いま一気にそのときが来た」
と書いた(このときは大の里や尊富士が念頭)
* やはり、晩年の白鵬、大怪我後の照ノ富士が引っ張り、平幕優勝が多かった時期が、レヴェル的には少し、時期的にはかなり長い停滞期だったのかもしれない
* さて、宝生流は安青錦に弱すぎる
* 立ち合いで、ある種の同型機対決みたいになって、ここで安青錦の方が強いので宝生流の形になれない、という感じか
* むしろ宝生流が問題なのは伯桜鵬に負けてしまうことで…
* 宝生流は「全力士のことが苦手」なので、もちろん先場所や今場所のように勝つことはできるわけだけれど、一番一番必死な消耗戦感がある。
体力・精神力が終盤に持たない
* 大の里は怪我もあって優勝争い脱落したが、しかし強いと手が付けられない、というのは変わらない
* おれは大の里関係なく「土俵を広げるべき」論者だが、大の里がいつもあれほど強いんだったら本気で検討すべきだよ
* これは言っても実証しようがないけど、朝青龍や白鵬が全盛期であっても安青錦には苦戦すると思う
* 一方、朝青龍や白鵬は大の里のことは苦にしないと思う…
(これは、大の里より安青錦の方が強い、ということを意味しない)
Posted by acsusk at 2025年11月29日 03:34
いずれは優勝するだろうと思われていた安青錦が、大関昇進を決めると同時に優勝。豊昇龍は苦手な相手にとことん勝てないタイプなのか。大の里は、隆の勝に敗れたのが不思議な一番でしたが、大事なところで怪我による休場という間の悪さでした。

隆の勝は膝の怪我という話で本調子ではなく、若隆景も怪我でずるずる下がるかと思いきや、持ち直したかに見えたものの、やはり負け越し。休場力士自体は少なかったものの、怪我を抱えて実力を発揮できなかった力士が多いような気がします。

引退した遠藤、あの白鵬が四つに組みたがらなかった相手という印象があります。がっぷり四つで白鵬を下した一番もあったような。それから、八百長問題で相撲人気が低下した時期に、高見盛の次にやってきた人気力士と覚えています。度重なる膝の怪我が不幸できた。遠藤ばかり話題になると思ったら、11月場所は引退力士の情報が少なかったかな、花道で花束を受け取る姿をあまり見なかったような。

炎鵬がようやく幕下15枚目以内に上がってきたようで、流石に全勝優勝十両復帰は無理でしょうが、関取復帰が待ち遠しいです。
Posted by EN at 2025年11月30日 23:46
更新お疲れ様です。

安青錦は、頭を上げない辛抱強い相撲が多くみられ、内容も十分。優勝まで引っ提げての大関昇進となりました。上体をあげられるのが苦手なわけで、対処方法はわかるけれども実践しづらいという点では、貴景勝っぽさもあります。それゆえ、強いけれども落としやすい面もあるので、横綱昇進はそこをどうするかにかかっているでしょう。大の里の状態は気がかりですが、今後は大の里を頂点とし、次に豊昇龍と安青錦が食らいつけるかという時代に突入していくのかなと。

大の里は、中日勝ち越しをしたあたりは、独走優勝かなと思いましたが、まさかの失速。宇良や玉鷲に少々危うかった時から、異変はあったのかもと。
豊昇龍は2場所連続の決定戦敗退。中盤から13日目にかけては、ブーストを上げ、内容も上々でしたが、安青錦に及ばず。霧島もそうですが、安青錦は細身の四つ相撲の力士にはめっぽう強い。
その霧島は両横綱、安青錦、苦手・隆の勝以外には勝っての11勝。来場所は関脇復帰もあるので、優勝同点ぐらい取れれば、春場所にはもしやもあります。ただ、どうも好調が持続しないのが不安。王鵬は着実に強くはなっているのですが、関脇だと気負ってしまうのか。


Posted by gallery at 2025年12月01日 14:02
皆さんコメントありがとうございます。

acsusk さん
>* あと審判部は「11月場所後には大関には上げない」みたいなこと言ってなかったか?ああん?
これは往々にしてあるパターンですよねw。安青錦の成績が良かったら自らでひっくり返すんだろうなぁと場所前から思ってました。
安青錦というしこ名は,出身を考えるとどこかに「青」か「黄」は入れたくなるところで,ちょっと読みにくいのはまあ許容範囲かなと思います。

豊昇龍と大の里と安青錦で三すくみのような状況になっていますね。
> 立ち合いで、ある種の同型機対決みたいになって、ここで安青錦の方が強いので宝生流の形になれない、という感じか
豊昇龍としては組めないと同型機には勝ちにくいというところでしょうか。
伯桜鵬に弱いのも同じ感じですかね。

大の里のケガはどちらかというとファンよりも親方衆に心配されていますね。相撲取りからすると何かひどく心配になることがあるんでしょうか。
冬巡業は休んでいますが,快癒を期待して待ちましょう。


ENさん
隆の勝も若隆景もケガのせいなのか,日毎に出来が違う力士が多かったですね。結果的に優勝争いが混沌として,安青錦が優勝する芽が出てきたのが面白かったところかもしれません。
遠藤の登場はおっしゃる通りの雰囲気で,横綱が引退したわけでもないのに,一つの時代が終わったような感覚もあります。また,よく遠藤の登場から大相撲ブームが約15年も続いているなと,気づいて驚きました。
Posted by DG-Law at 2025年12月03日 00:18
galleryさん
安青錦はそうですね。まだ最高で12勝ですし,適度に落としているので,すぐに綱取りというわけには行かなさそう。まだまだ大の里が場所を引っ張るでしょう。
>霧島もそうですが、安青錦は細身の四つ相撲の力士にはめっぽう強い。
あー,なるほど。上のコメントでも出ていましたが,低いまま組ませずに押しこめるとそういうタイプには強そうです。霧島にとっても厄介な力士が出てきたということかもしれません。
王鵬は気負ってと言われるとそうかも。なんでもできるのでやや迷走しているのかもしれません。
Posted by DG-Law at 2025年12月03日 00:18