2025年12月21日
学力試験のみの年内入試のことと,生成AIが入試問題を解くことについて
・倍率35倍の人気、東洋大の新入試が物議 「ルール違反」と文科省(朝日新聞)
「大学受験地図が一変する…」東洋大学の「常識を覆す」新しい学校推薦選抜に教育現場が揺れるワケ(ダイヤモンド教育ラボ)
→ 2024年の12月に東洋大学が新しい学校推薦型選抜を導入した件について。朝日新聞の方は舌足らず,ダイヤモンドの方は長いので,少し要約する。大学入試では,学力試験中心の一般選抜は2月(1月末)以降に,小論文・面接中心の総合型選抜・学校推薦型選抜は12月までに実施するのが文科省の定めたルールであった。このため後者はまとめて年内入試と呼ばれている。ところで,「年内入試では学力が担保されない」という世間的な批判は以前から存在していた。このため文科省が年内入試で受験生の学力を測ること"も"実施するよう大学に指示した。これを逆手に取ったのが東洋大学で,学校推薦型の試験を堂々と学力試験のみとしたのだ。
→ この東洋大学の学校推薦型の何が問題かと言えば,一般選抜は2月以降というルールが形骸化してしまう点にある。学力試験の受験日程が前倒しになると学事の日程に融通が効く私立や中高一貫の方が有利になる。多くの公立高校からすると授業が全範囲終わっていないうちに学力入試の日程が来ることになってしまうし,間に合わせようとすれば体育大会や文化祭にも影響が出る。都会・地方や公立・私立の格差是正が社会的な問題になっている中でそれに逆行する政策を実施するのはいかがなものかというのは当然問われることになる。
→ すでに近畿大学や京都産業大等の関西圏の私立大学では学力試験のみの年内入試が実施されているので東洋大学はそれに倣っただけであるという反論を見かけるが,当然,関西圏の私大も批判されて然るべきである。文科省が今まで関西圏の私大を放置してきた方がおかしい。
→ なお,このことは共通テストが当初は年に複数回(すなわち年内にも)受験できるようにしようと計画されていた際に,すでに激しく批判されていた。詳しくは『絶対に解けない受験世界史3』のコラム2で論じているので,そちらも参照してほしい。ともあれ,東洋大にせよ関西圏の私大にせよ,共通テストの年複数回化の際の議論を知らないはずがないので,負の影響を知っていて導入した形であるから余計に罪深い。
→ 結局本件はお咎めなしで終わり,東洋大学は2025年も11月末に年内入試の学力試験を普通に実施した……どころか区分が学校推薦型から総合選抜型に変わったので,学校からの推薦状すら不要になった。紛いなりにも存在した「人間性は高校が保証しているから学力だけ測る」という建前すら消滅したので,いっそのこと清々しい。
・共通テスト、AIの得点率91% 東大文1のボーダー超える(時事通信)
・OpenAI o1が2025年東大文系入試を余裕で突破、理三合格レベルにも到達(日経クロステック)
→ かたやその学力入試であるが,もう普通に生成AIが人間の受験生を凌駕している。上掲記事が2025年1・2月頃の生成AIの実力であるが,現在の生成AIはそこから10ヶ月経過していてさらに向上している。試しにChatGPT-o3やGeminiに解かせてみたところ,共テの世界史探究は満点(ただ解答を自力で出力しているというよりも検索している雰囲気があった)。東大の二次試験の世界史も何ヵ年かやらせてコンスタントに45点前後はとれていそうな解答が出力された。知識的なミスや文章の論理構造のミスはあまりなく,論述の失点は概ね「用語が少なくて冗長である等,大学入試らしい解答になっていない(自分の知識や文章力を測られているという前提の解答になっていない)」「高校世界史の範囲を理解していないので過剰に抽象的・衒学的な内容を出力する」という点に絞られていて,それらを汎用型の生成AIに要求するのは無理というものであるから,得点はそろそろ頭打ちかもしれない。一応「これは東京大学の入試問題ですので,日本の高校課程の世界史が問われていることを意識して解答を再出力してください」と頼んでみたが,どの生成AIも解答は変わらなかった。また,Copilotは35点前後の点数となり,なるほどChatGPT-o1と同程度の性能である。
→ ということはそこに商機があるということで,大学入試の問題を解くことに特化した生成AIをつくることができれば,受験指導上,一定の意味がありそうである。私が思いつくくらいなので,すでに動いているEdTechベンチャーは存在していそう(この場合はゴールが不明瞭なのでスタートアップか?)。
→ なお,ついでに慶應大の法学部のマーク式部分を何年か分解かせてみたところ,やや意外なことに,純粋な知識問題なのに満点とならず9割前後の出来であった。典型的なミスとしてはたとえば,2025年の入試問題なら,この13番の問題を「カラジッチ」と誤答していた。これも「高校世界史の範囲を理解していない」がゆえのミスであるから,論述と失点ポイントは同じと言えるかもしれない。チャットで「カラジッチは2025年2月現在で生存しているのは」と指摘するとChatGPTは素直に間違いを認めて解答をミロシェヴィッチに修正していた。素直なことは美点である。
→ ところで,入試の時期が終わると生成AIにその年の共テや難関大学の入試問題を解かせる(そしてその得点がニュースになる)のはもはや風物詩になっているが,生成AIの能力伸長を大学入試問題の得点で測るのは日本独特の風土なのだろうか。諸外国でもありそうなものだが,私は全く調べていないので知らない。
「大学受験地図が一変する…」東洋大学の「常識を覆す」新しい学校推薦選抜に教育現場が揺れるワケ(ダイヤモンド教育ラボ)
→ 2024年の12月に東洋大学が新しい学校推薦型選抜を導入した件について。朝日新聞の方は舌足らず,ダイヤモンドの方は長いので,少し要約する。大学入試では,学力試験中心の一般選抜は2月(1月末)以降に,小論文・面接中心の総合型選抜・学校推薦型選抜は12月までに実施するのが文科省の定めたルールであった。このため後者はまとめて年内入試と呼ばれている。ところで,「年内入試では学力が担保されない」という世間的な批判は以前から存在していた。このため文科省が年内入試で受験生の学力を測ること"も"実施するよう大学に指示した。これを逆手に取ったのが東洋大学で,学校推薦型の試験を堂々と学力試験のみとしたのだ。
→ この東洋大学の学校推薦型の何が問題かと言えば,一般選抜は2月以降というルールが形骸化してしまう点にある。学力試験の受験日程が前倒しになると学事の日程に融通が効く私立や中高一貫の方が有利になる。多くの公立高校からすると授業が全範囲終わっていないうちに学力入試の日程が来ることになってしまうし,間に合わせようとすれば体育大会や文化祭にも影響が出る。都会・地方や公立・私立の格差是正が社会的な問題になっている中でそれに逆行する政策を実施するのはいかがなものかというのは当然問われることになる。
→ すでに近畿大学や京都産業大等の関西圏の私立大学では学力試験のみの年内入試が実施されているので東洋大学はそれに倣っただけであるという反論を見かけるが,当然,関西圏の私大も批判されて然るべきである。文科省が今まで関西圏の私大を放置してきた方がおかしい。
→ なお,このことは共通テストが当初は年に複数回(すなわち年内にも)受験できるようにしようと計画されていた際に,すでに激しく批判されていた。詳しくは『絶対に解けない受験世界史3』のコラム2で論じているので,そちらも参照してほしい。ともあれ,東洋大にせよ関西圏の私大にせよ,共通テストの年複数回化の際の議論を知らないはずがないので,負の影響を知っていて導入した形であるから余計に罪深い。
→ 結局本件はお咎めなしで終わり,東洋大学は2025年も11月末に年内入試の学力試験を普通に実施した……どころか区分が学校推薦型から総合選抜型に変わったので,学校からの推薦状すら不要になった。紛いなりにも存在した「人間性は高校が保証しているから学力だけ測る」という建前すら消滅したので,いっそのこと清々しい。
・共通テスト、AIの得点率91% 東大文1のボーダー超える(時事通信)
・OpenAI o1が2025年東大文系入試を余裕で突破、理三合格レベルにも到達(日経クロステック)
→ かたやその学力入試であるが,もう普通に生成AIが人間の受験生を凌駕している。上掲記事が2025年1・2月頃の生成AIの実力であるが,現在の生成AIはそこから10ヶ月経過していてさらに向上している。試しにChatGPT-o3やGeminiに解かせてみたところ,共テの世界史探究は満点(ただ解答を自力で出力しているというよりも検索している雰囲気があった)。東大の二次試験の世界史も何ヵ年かやらせてコンスタントに45点前後はとれていそうな解答が出力された。知識的なミスや文章の論理構造のミスはあまりなく,論述の失点は概ね「用語が少なくて冗長である等,大学入試らしい解答になっていない(自分の知識や文章力を測られているという前提の解答になっていない)」「高校世界史の範囲を理解していないので過剰に抽象的・衒学的な内容を出力する」という点に絞られていて,それらを汎用型の生成AIに要求するのは無理というものであるから,得点はそろそろ頭打ちかもしれない。一応「これは東京大学の入試問題ですので,日本の高校課程の世界史が問われていることを意識して解答を再出力してください」と頼んでみたが,どの生成AIも解答は変わらなかった。また,Copilotは35点前後の点数となり,なるほどChatGPT-o1と同程度の性能である。
→ ということはそこに商機があるということで,大学入試の問題を解くことに特化した生成AIをつくることができれば,受験指導上,一定の意味がありそうである。私が思いつくくらいなので,すでに動いているEdTechベンチャーは存在していそう(この場合はゴールが不明瞭なのでスタートアップか?)。
→ なお,ついでに慶應大の法学部のマーク式部分を何年か分解かせてみたところ,やや意外なことに,純粋な知識問題なのに満点とならず9割前後の出来であった。典型的なミスとしてはたとえば,2025年の入試問題なら,この13番の問題を「カラジッチ」と誤答していた。これも「高校世界史の範囲を理解していない」がゆえのミスであるから,論述と失点ポイントは同じと言えるかもしれない。チャットで「カラジッチは2025年2月現在で生存しているのは」と指摘するとChatGPTは素直に間違いを認めて解答をミロシェヴィッチに修正していた。素直なことは美点である。
→ ところで,入試の時期が終わると生成AIにその年の共テや難関大学の入試問題を解かせる(そしてその得点がニュースになる)のはもはや風物詩になっているが,生成AIの能力伸長を大学入試問題の得点で測るのは日本独特の風土なのだろうか。諸外国でもありそうなものだが,私は全く調べていないので知らない。
Posted by dg_law at 18:03│Comments(3)
この記事へのコメント
ご無沙汰しております。
AIでも慶應法の選択問題を誤ることなんてあるんですねw 興味深く拝読しました。
私は生成AIについてはGeminiしか使っていませんでしたが、使うキッカケとんあったのは悪名高い「一橋大世界史2021 大問2」を解かせたら、荒削りではありましたが、以外としっくりくる解答だったことがはじまりでしたね。当時の解答について以下で抜粋したので、よろしければ評価をお願い致します。
【Geminiの解答】
レンブラントとゲーテの時代では、個と社会の関係性が大きく異なる。レンブラントの時代、オランダは商業都市として栄え、市民階級が力をつけた。個人の尊厳が重視され、肖像画が盛んに制作された。一方、ゲーテの時代は、啓蒙思想とロマン主義が対立する中で、個人の内面世界が重視された。フランス革命の影響を受け、社会変革を求める声が高まり、個人の自由が叫ばれた。
レンブラントの時代は、個人が社会の一員としての役割を果たすことが重視され、芸術表現も写実的で客観的なものが求められた。ゲーテの時代は、個人の自由や自己実現が重視され、芸術表現もより自由で主客観的なものが求められるようになった。つまり、レンブラントの時代は、個が社会に組み込まれることで意味を持つのに対し、ゲーテの時代は、個が社会から自立し、自己実現を目指すという点が異なる。
AIでも慶應法の選択問題を誤ることなんてあるんですねw 興味深く拝読しました。
私は生成AIについてはGeminiしか使っていませんでしたが、使うキッカケとんあったのは悪名高い「一橋大世界史2021 大問2」を解かせたら、荒削りではありましたが、以外としっくりくる解答だったことがはじまりでしたね。当時の解答について以下で抜粋したので、よろしければ評価をお願い致します。
【Geminiの解答】
レンブラントとゲーテの時代では、個と社会の関係性が大きく異なる。レンブラントの時代、オランダは商業都市として栄え、市民階級が力をつけた。個人の尊厳が重視され、肖像画が盛んに制作された。一方、ゲーテの時代は、啓蒙思想とロマン主義が対立する中で、個人の内面世界が重視された。フランス革命の影響を受け、社会変革を求める声が高まり、個人の自由が叫ばれた。
レンブラントの時代は、個人が社会の一員としての役割を果たすことが重視され、芸術表現も写実的で客観的なものが求められた。ゲーテの時代は、個人の自由や自己実現が重視され、芸術表現もより自由で主客観的なものが求められるようになった。つまり、レンブラントの時代は、個が社会に組み込まれることで意味を持つのに対し、ゲーテの時代は、個が社会から自立し、自己実現を目指すという点が異なる。
Posted by 絶対に解けない受験日本史をだしたい某教員 at 2025年12月22日 11:29
慶應法の選択問題を間違えるの,面白いですよね。難関私大のマーク式は,慶應法よりも易しいものということで早稲田の法学部も解かせてみたんですが,やっぱり微妙に知識ミスやケアレスミスがあって満点にはならないのですよね。ChatGPTよりもGeminiの方がその種のミスが少なく,マーク式の出来が良い印象です。
Geminiの一橋大2021大問2の解答は,あまり成り立っていない気がします。前半部は「尊厳」と「内面世界」「個人の自由」では比較になっていないと思われます。後半部の「レンブラントの時代は、個が社会に組み込まれることで意味を持つのに対し、ゲーテの時代は、個が社会から自立し、自己実現を目指すという点が異なる。」も本当にそうかなと思ってしまいますね。
Geminiでもよくわからない解答しか出力できない,本問はやはり無理問なのではないかと思います……
Geminiの一橋大2021大問2の解答は,あまり成り立っていない気がします。前半部は「尊厳」と「内面世界」「個人の自由」では比較になっていないと思われます。後半部の「レンブラントの時代は、個が社会に組み込まれることで意味を持つのに対し、ゲーテの時代は、個が社会から自立し、自己実現を目指すという点が異なる。」も本当にそうかなと思ってしまいますね。
Geminiでもよくわからない解答しか出力できない,本問はやはり無理問なのではないかと思います……
Posted by DG-Law at 2025年12月22日 17:34
4年前のGeminiの能力を批評するのはかわいそうに思われたので,今のGemini-3に,かつ思考モードで解かせてみました。解答は以下の通りです。これは非常に良い解答で,少なくとも私の考える正答に近いです。字数も389字で使い切っています。
「レンブラント時代」の17世紀オランダは、スペインからの独立を経て、海外貿易により繁栄した商工業者主導の市民社会であった。史料1が示すように、その文化は世俗的・写実的であり、自律的な市民の共同体意識や経済的活力を反映した点に特徴がある。一方、「ゲーテの時代」の18世紀末ドイツは、神聖ローマ帝国の下で政治的に分裂し、フランスの文化的覇権に服していた。史料2にある通り、知的な青年層は形式化したフランス流の模倣を拒絶し、内面的な自由や生の躍動、国民的アイデンティティの確立を追求した。 両者の差異は、前者が確立された市民社会の自信に基づく現実主義的な文化であるのに対し、後者は政治的後進性の中で、外来文化への反発を契機として精神的な内面性や指導価値を模索した点にある。オランダは商人の団結と富を謳歌し、ドイツは文化による伝統の刷新と「青春の活力」による国民形成を目指したといえる。
「レンブラント時代」の17世紀オランダは、スペインからの独立を経て、海外貿易により繁栄した商工業者主導の市民社会であった。史料1が示すように、その文化は世俗的・写実的であり、自律的な市民の共同体意識や経済的活力を反映した点に特徴がある。一方、「ゲーテの時代」の18世紀末ドイツは、神聖ローマ帝国の下で政治的に分裂し、フランスの文化的覇権に服していた。史料2にある通り、知的な青年層は形式化したフランス流の模倣を拒絶し、内面的な自由や生の躍動、国民的アイデンティティの確立を追求した。 両者の差異は、前者が確立された市民社会の自信に基づく現実主義的な文化であるのに対し、後者は政治的後進性の中で、外来文化への反発を契機として精神的な内面性や指導価値を模索した点にある。オランダは商人の団結と富を謳歌し、ドイツは文化による伝統の刷新と「青春の活力」による国民形成を目指したといえる。
Posted by DG-Law at 2025年12月22日 17:46